庚申年富士山参詣群衆之図 冨士山略記 抑(そもそも)/当(とう)御山(おんやま)ハ三国(さんこく)/第(たい)一 万国(はんこく)/無双(ぶさう)の霊山(れいさん)にて 諸神(しょしん)/出世(しゆつせ)の仙元境(せんけんきやう)たり 故(かるかゆへ)に冨士仙元大神(ふじせんけんたいしん)と称(しやう)ず 祭(まつ)る所(ところ)/三座(さんさ)にして中央(じうわう)ハ 天照太神(てんしやうたいしん)の神孫(かんまこ)/地神(ちじん)/第(だい)三/代(だい) 瓊瓊杵尊(にゝきのみこと)と申(まふし)/奉(たてまつ)る 嘗(かつ)て大神(おおかみ)の神勅(みことのり)を 奉(ほう)じて高天(たかあま)ケ原(かはら)より豊(と□) 芦原中国(あしはらなかつくに)《割書:日本国|をいふ》に 天降(あまくだ)り天(あめ)が 下(した)を知(しら)し 召(め)〼 大山 祇(すみ) 命(みこと)の女(むすめ)木花 開耶姫命(さくやひめのみこと)を娶(めと)りて 同四代 彦火々(ひこほほ)出見/尊(みこと)を生(うま)しめ 玉(たま)ふ故(ゆへ)に大山/祇(つみ)/木花開耶姫(このはなさくやひめ)の二神 左右として以上/三柱(みはしら)の神(かみ)を合せ崇(あかめ)て仙元 大神と祭(まつ)る是(これ) 本/朝(てう)/守護(しゅこ)の霊神(れいしん)にて 安産(あんさん)を守(まも)り又ハ蚕繭(さんけん)の道(みち)を護(まも)るの御神 なれハ別して婦人(ふしん)ハ尊(そん)/信(□ん)做(な)し奉(たてまつ)るへき 也扨又此御山/往昔(そのかみ)天地/開闢(かいひやく)の時/自然(しぜん) 湧出(ゆしつ)の霊峰(れいほう)たれとも  人皇五代 孝照天皇(かうせうてんわう)の御宇(おんとき)/迄(まて)ハ雲霧(うんむ)繁(しけ)く未(いま)た天地の 気滞(きたい)清(きよ)からさる故(ゆへ)に世人(せしん)/拝(はい)する□(こと)を得(え)す然(しか)るに 同六代 孝安天皇(こうあんてんわう)九十二年 庚申(かのへさる)の夏(なつ)/漸(やうやう)雲(くも) 霧(きり)/始(はちめ)て晴(はれ)万国の貴賤(きせん)これを 奉拝(ほうはい)すと云(いふ)/或(あるひ)ハ同七代 孝霊(かうれい)天/皇(わう)五年近江 国に忽地(たちまち)一夜に湖(こ)水/涌(ゆ) 出(しゆつ)し同日(とうしつ)駿(する)河国に冨士山 出現(しゆつけん)せしとも亦(また)ハ麓(ふもと)にある八海(はつかい)ハ則(すなはち) 御山(おんやま)/涌出(ゆしゆつ)の跡(あと)なる共(とも)/云(いへ)り夫(それ)より同十二代 景行天皇(けいこうてんわう)五十二年/日本武尊(やまとたけのみこと) 東夷(とうい)/御征伐(こせいはつ)の御時(おんとき)/則(すなはち)/三神垂(さんしんすい) 跡(しやく)の御山(おんやま)なれバとて是(これ)を勧請(くはんしやう)あり けるが此(この)御山ハ南景(なんけい)に出現(しゆつけん) たれば北方(ほつほう)子(ね)の方(かた)より詣人(けいしん) 拝仰(はいこう)すべしと仮(かり)に華表(とりゐ)を 御建立(ここんりう)あり茲(こゝ)に始(はしめ)て神威(しんゐ)を 示(しめ)し三国(さんこく)第一(たいいち)山の額(かく)を掛(かけ)給ふ 是(これ)や蓬莱(ほうらい)の仙境(せんきやう)にて塵外(ちんくはい)の 霊場(れいしやう)祈(いの)るに利益(りやく)潔然(けつせん)として神徳(しんとく) 耿々(くはう〳〵)たれバ誰(たれ)かこの御神(おんかみ)を信(しん)ぜ ざらんや仰(あをか)ざらんや   応需 藤村秀賀謹誌