ばけもの     二日替 つわもの 寛政二年 三才の小児 不 俏 (われ)に問(とふ)ていふ金時が強(つよ)いか弁慶(べんけい)が強かと 日(いわく)金時より金平はつよく弁慶より弁かいはつよし 其つよいにも品定(しなさだ)めありて張(はり)のつよき姉女郎(おいらん)なれば 押のつよき客人(きやくじん)あり猶酒(なをさけ)につよき牽頭(たいこもち)カンの つよき盲人(ざとう)いづれもつはものゝまじはりながら茶のみ ある中の酒宴(しゆゑん)は御子様方の御口に合ず爰(こゝ)に慈悲(しひ) なり椎(しい)の実(み)筆を走(はし)りこくらの走りかきして此ばけ ものを書(かい)たり〳〵頭は申の年(とし)籠(こもり)尾(を)は酉(とり)の年(とし)の 新板(しんはん)もとより文盲(もんもう)慈悲(しひ)なれば大の眼(まなこ)を ひつくりかへしておゝめに御 覧(らん)候へかし            桜川杜芳述 【右頁】 さるほどに 源のらいくはう 四天王のもの どもにをふせ あるはひさしく ばけものゝさた なくそのほうどもの ちからこぶもねかして おかばねちからとな らんことのほいなく ふとおもひつき 此たびゑちごの くにの大にうだう をいけとりまいれ とをふせにあるにさか田の きんときわたなべの 源次つな 両人申上る はきんときが せがれ時太郎 つながせがれつな 次郎いまだきみへ 【左頁上段】 御ほうも つかまつらず  よきをりから なれば両人の せがれへをふせ つけられ候よう にとねがふ  をふせつけ    られた   御ようを     ほかに   してまた    なかつへ      でも     いくなよし 【左頁下段】 かしこまりました  まつおうけは申 あげましよう 【右頁上段】 時太郎綱次郎 きみの をふせを こふむり ばけもの たいぢの そうだん するにかへ るの子は かへるにな らずおや におとりし をくびやう ものにて しよせんばけものを たいぢはならずどふ ぞしてばけものに うしろさへみせねば よしそれにつけても みこしにうだうや ろくろくびをみる とすぐにめをま わすはしれて 【左頁上段】 あると 両人ばけ ものゝつらうを みぬくほう     する  なんでも    つらを      みぬ   くふうには    めんても  かぶるが    いゝトやァ       ねへか 【右頁下段】 ばけものもねェ  とんだ事を   いゝつかつた 【左頁下段】 あて事も ねまとり てとり   にくい 【右頁上段】 さて両人はゑちごの国へきたり ものすごき 古いへありしを みたてゝ あしをとどめ まづその夜は綱次郎一人 にて此所を あづかりし にひごろ ちやばん しろと【素人】しばい のこゝろがけあれば あつがみにて団十郎の 目をこしらへばけものをみぬ ように しつかりと わが目にはり きみわるくり きんでいるところへ まづ御ぞんし【御曹司】のみこし にうどうみならい【見習い】 のためせがれ一つ目小 ぞうを つれて 【左頁上段】 きたりもんぢァ でももんぐわァ でもおどろかずみこしも いろ〳〵手をつくせ どもおそれぬゆへ 大てれほうにて うすどろにて すご〳〵かへる  をれはよいから   ■■みとふしぎだは あゝつ  かもねへ 【右頁下段】   あたまから  しほをつけ てかもふソ  なんとこ   わいか 【左頁下段】 とつさん  にんげんが  こわいかほ  している  からきみ  がわるい 【右頁上段】 よくばんは時太郎がばん にてこれもおなじくはり この大あたまをかぶりま ちうけしにこよいはみこし にうどうが女ぼうお六 でいりのたいこいしや【幇間医者】ぶか りひよんお六がおいの河 太郎とうせいのばけ もの二三人ひきつれ きたりしがとき太郎は なにがきても 大あたまで かほをかくして いるゆへおそれ もせず大 きせるを いのちから〴〵 にぎり つめてしや つちくばつ ているをみ てばけもの これはたまら ぬとみな〳〵にけかへる 【右頁下段】 はやくなくなれひさしく いるとをれもきみが わるくなるぜ 【左頁】 さても こわい かほ  じや 今時 あの  よふ   な にんげん はない はづ  じや   が こちの人の むかしかたぎ ではおそれぬ  はづ    じや 【右頁上段】 みこし入道 いろ〳〵あら手を いれかへ〳〵はたら けども両人の よはものびつ くりともせぬ ゆへせんかた つきかし らの大 にうどうが かたへきたり そふだん   する さくばんは さい【妻】をつか わしましたが あなたのおつ むりほどのにん げんがでました   そふでござります せんせいの御くふうを  おかりもふさねはなりませぬ 【右頁下段】 おやきみの  わるいのふ 【左頁上段】 さて二三日はばけもの どもそふだんあるゆへ とき太郎つな次郎も すこしほねやすめ しているところへ時 太郎めしつかいのやつこ はや介ちゝきんとき よりのつかいにきたる きうよふあつてのむかい でこざりますとふたりを せきたてゝつれてゆく きうよふとは こゝろゑぬ はやく 着かへる はやすけ かごの よう いせ  い 【左頁下安】 此御じやうを 御らんなさつた なら一ときも はやくおし    たく なされ  まし