【看板風挿絵】 御めしるし 【本文】 あばら家(や)ふり出(だ)し薬(ぐすり)  棟梁軒(とうりやうけん)大九郎製              御作料(おんさくりよう)一口(いつく)三匁 あばら屋(や)ふり出(だ)しぐすり の儀(ぎ)は予(よ)が先祖(せんそ)飛騨(ひだ)の 番匠(ばんじやう)聖徳太子(せうとくたいし)の御 告(つげ) によつてはじめて製(せい) するところの良材(りやうざい)に して規矩準縄(きくじゆんじやう)の工(く) 夫(ふう)をもつてふたゝび 製法(せいほう)しあるひは挽(ひき) わりあるひはけづり おがくずの散薬(さんやく)と なしすべつちのねり 薬(やく)ともなす第一 天上(てんじやう)のものをとめ てたる木(き)のくされ を愈(いや)し土蔵(どさう)の艶(つや) を出(いだ)してしつくい のいろを白(しろ)くす 夫(それ)ねだ板(いた)のがた〳〵 するは大引(おほひき)のおとろへ より出るところ屋(や) 根(ね)のあたまのかたむくは どだいの不順(ふじゆん)より 発(おこ)るなり蓋(けだし)雨(あま) もりは家(いへ)のやまひの はじめにして早く是 をなをさゞればその くされ柱(はしら)につたひ 土台(どだい)におよび終(つい)に 修覆(しゆふく)とゞきがたし これらの症(しやう)に用て 甚(はなは)だ妙(めう)なり調法(ちやうほう)一たび やとひてしるべし 【挿絵内・右ページ】 ○こゝのうちは  あめがふると  そとにいる  よりたんと  ぬれる ちつと おもて   へ 出て あめを しの がう    ○なにを     いふやら      もる     お■【「と」ヵ文脈から「音」ヵ】で     ねつから       きこへねへ 【挿絵内・左ページ】 ○大工さんころはねへ  やうにかつてへきて  おめしをあがれ  ざしきはいつそ  ぬかるか■■【「らな」ヵ】ん   なる【「る」に見えるが文脈からは「ら」ではと思われる】つえを かして    あげやう 【看板風の挿絵あり】 八分地蔵丸(はちぶぢざうぐわん)  再(さい)仝(〳〵)庵(あん)无心老人(むしんらうじん)製法(せいほう) 借金(しやくきん) わきはらの証文(しやうもん)に とゞこほりてつねに利足(りそく)に せめられものまへくびの まはらぬ事ありて難儀(なんぎ) する人つねに此(この)くすりを 用(もち)ゆればくらしかたの不足(ふそく)を おぎなひ家内(かない)の元気(げんき)を 益(ます)こと妙(めう)なりそも〳〵八分(はちぶ) ぢぞう丸(くわん)と名(な)づくることは むかしさい〳〵庵(あん)無心老人(むしんらうじん) 地蔵(ぢぞう)のかほを三ン度(ど)なでゝ はちぶされたるより 此(この)くすりせいほうして 銭箱(ぜにばこ)はらをくだして米(こめ)の めしのくわれぬ症(しやう)にほとこし こゝろみるに倹薬(けんやく)のしるし 立所(たちところ)にみへて大にしんだいを ますのきとくあり故(あるかゆへ)に あまねく薬 弘(ひろ)めて 首(くび)のまはらぬうれ ひをすくふものなり 但(たゞ)しくすり用ゆる うちしやつ金(きん)無心(むしん) しち屋の間をつゝしむべし 質屋(しちや)の内(うち)まけもの【質種】を もちゆればさらに けん薬の  しるしなしと  しるべし 【挿絵内・右ページ】 ○みそ屋の  はらひが  とゞこほり   まして  いつかう   大べんの   つうじが   ござり   ませぬ 【挿絵内・左ページ】 ○よくものをかんがへてみさつしやれ  ぢぞうのかほもさんどゝいふでは   ないかかしてあいそをつかさて   よりかさずにあいそをつかす   ほうがきさまのためになり          ますてや ○くちくひものにおこるから  ながしもとの水がへつてかま  どの火がたかぶりたがるけん  みやく【見脈=外見から見て推察すること】を見れはうちの   ようたいがいはすとしれ申す 【看板?家紋?の挿絵あり・青龍刀に関の字】 八十二斤(はちぢうにきん)青龍湯(せいりうとう)  関雲町(くわんうんてう)              寿亭小路(じゆていこうぢ)          本家 三国子調合(さんごくしてうごう) 三国相伝(さんごくさうでん)美髯香(びせんこう)青龍湯(せいりうとう)は はなはだおもき秘方(ひはう)なりと いへども此度(このたび)諸人(しよにん)のすゝめ によつて五月 節句(せつく)まへ 十 軒店(けんだな)にて売(うり)ひろめ 申候 抑(そも〳〵)青龍湯(せいりうとう)に三ツ の不思議あり第(だい)一に ちからをつよくし第二に 顔の色なつめ【棗の実】のことくし 第三に髭をなかくす是(これ)を のぼりのわきだてに用ゆれば 節句(せつく)をにぎやかにする事 妙(めう)にしてよく人きやうの景(けい) 気(き)満しのぼりの いきほひをます のぞみの御方は定日(じやうじつ)の うち御出なさるへく候 のぼりのようだい くはしくうけ給り 候うへかつこう  かけんいたし     進(しん)じ可申候 【挿絵内・右ページ】 ○コレ〳〵どうめいつたの   孔明(こうめい)たのとけんくわを  すると曹操(さう〳〵)おとつさん     へ仲達(ちうだつ)する         によ ○おいらは関羽(くわんう)だ   からつよい〳〵  つよひ関羽(くわんう)すりや    正月とおもふてか 【挿絵内・左ページ】 ○おいらは張飛(ちやうひ)  だから丈八(じやうはち)の   蛇棒(じやぼうん)を   ひつさけて   出るところ   だが丈八の   じつぼうは    ねへから    十八の    たぼ【若い女性】を    ひつさげ      て    ねよう     とは   たがおしえ 【誰が教えたか】   たかとんだ   こしやくを 【小癪=生意気なこと】   いふ子供た 【家紋風挿絵あり】 本家        御目じるし大極上々吉の    神仙路考油(しんせんろこうゆ) 一枚看版(いちまいかんばん)出し置(おき)申候 瀬川        十包(とつゝみ)入 一箱(ひとはこ)に付 給金(きうきん)千両 一第一かほのいろを白くし  こうせきをさわやかにす 一あいきやうをつけ身  ほねをやはらかにし  身のきくこと至(いたつ)て  妙(めう)なり所作(しよさ)おどり  などならふ人つねに  ふり付(つけ)てはなはだ  しるしあり 右(みぎ)路考油(ろこうゆ)の儀(ぎ)は王子(わうじ) の社(やしろ)御むさう【無双】の妙薬(めうやく) にしてつねに用ゆる 人は年よらずして かんしよくおとろへず ゆゑに神仙(しんせん)の名(な)あり 先(まづ)第一 鷺(さぎ)むすめの ゆきの夜(よ)も 寒気(かんき)をうけ ず女なる神(かみ)の 雨(あめ)の日もしつけを うけずむけん道成寺(どうしやうじ) 汁(る)にあたる時(とき)はわる口(くち)の どくをけしてむねの ひらく事 石橋(しやつきやう)の ぼたん【注】のごとしねむり をさましたいくつを しりぞくる其功(そのこう)その 妙(めう)うしろ面々(めん〳〵)    用ひて後(のち)       しるべし 【注 石橋の牡丹=能楽の曲名。僧寂昭が唐土巡礼中、清涼山で石橋を渡ろうとした時、文殊菩薩に仕える獅子が現れ、咲き乱れる牡丹の花に戯れていたという故事が謡曲化されたもの】 【挿絵内・右ページ】 ○たのまれた   扇面(せんめん)も  けふはかゝずは   なるまい   かずが   おほいから   印(いん)をおす   ばかりも   大ことだよ 【挿絵内・左ページ】 ○にしのさじきにゐる  けんぶつはどうかみた  やうなかほだがどうも  おもひだされん       わいの ○太夫どんの  おいでなさる   しばゐはよこ   ほりのちやふねときていつでも   あたらねへといふことはござりやせん 【菅笠に太の字の図】        日本一社(につほんいつしや)勢州山田氏製(せいしうやまだうぢせいす) 唯一太太香(ゆいちだい〳〵こう) 取次諸国(とりつぎしよこく)に有之候 講中(こうちう)もより        よろしき方にて御 信心(しん〴〵)可被成候 夫(それ)太々香(だい〳〵こう)は神秘不思議(しんぴふしぎ) の良法(りやうほう)にして世(よ)もつて しるところの寄特(きとく)あり 一ヶ月二百 粒(りう)三百粒 づゝ用ゆればわざはひを はらひて幸(さいはひ)をむかえ 愁(うれ)ひを転(てん)じて悦(よろこ)びに かへす家内(かない)つねに すこやかにして無病(むびやう)也 能(よく)〳〵信心(しん〴〵)して用(もち)ゆべし 奉納(ほうなう)あげてかぞへ       がたし 【挿絵内セリフ】 〇これぢゃァ  ちやうど   たかなわで   よが    あける    だらう 〇としのくれにだい〳〵にたつていつちやァ   だい〳〵ごくらうほんだはらといふもんだ 【左ページ】 () 【白紙】 【左ページに朱印・静岡上石町 二丁目翠庵 松井敬一】 【家紋風の図あり】 一子(いつし)  あんぽん丹(たん)  本家(ほんけ)惣領(さうりやう)甚六 惣領(そうりやう)         代料(だいりやう)百の口(くち)十六文 抜(ぬけ) 一めじりさかりたるによし 一はなのしたなかきによし 一ものわすれをするによし 一 団子(たんご)さへくへばひがんと思(おも)ふによし 一ほた餅(もち)を見れば■【ゐ】のこと  おもふによし 一つかひにやつてもしれずに  かへるによし 右あんほん丹はこれまで何(なに)を させてもらちのあかぬ症(しやう)と いへども此くすりながく用れば 御くらうなしにて長命(ちやうめい)也 此御くすりおや子の中にても 一切(いつさい)さしあひなし 〇かゝさんなかずにかみをゆふから もつとたんごをかつてくんねへ 十五になつておとなしくかみを              いふ              ものは              おそ              らく              ひろい              江戸              にも              ある              めへ               のう             かゝ             さん 〇十五 十六になり ながらだん ごばかり くひたがると せけんでおやが あまひからだ といふさとう だんこはもう  よう【しヵ】やれ〳〵 【家紋風の図あり・梅の枝? かば焼きの串?に一心の文字】              本家  大盡空児(だいじんくうに)うわき薬(ぐすり)   不了軒(ふりようけん)                阿法(あほう) 此くすり用ひやうは 能(よく)うは気(き)ののらくら をあらひすて大きに あぶらをとつて青(あを) 菜(な)にしほをかけ たることくにして 常(つね)に食(しよく)すれば 第一のぼせを引(ひくき) さげせきこみを しづめてりやう けんを出しのひた はな毛(け)をちゞめ 出たかるあしを とをくす此くすり は五かんのめう やくなるがゆへに たへず用ゆれは 親達(おやたち)の五かん たうの首尾(しゆび) をおぎなひ いんしん不通(ふつう) の不食(ふしよく)を治(ぢ)す べしもつとも らうそくを 忌(いむ)なり 【挿絵内・右ページ】 テンツル   〳〵 テンツル   ツン〳〵 【挿絵内・左ページ】 ○しのだの   もりの   きつねを  つろな〳〵  テンツル〳〵   テンツルツン   こいつは   なるほど   おもしろ   たぬきだ ○けいせいに  つられるよりは  きがはらねへで      めうだ ○ヲホヽヽ    ヲホヽヽ  此女はしやれでも   なんでもなく      こくうに【虚空に=やたらに】   わらふやつさ    ホヽヽ      ハヽヽ     アハヽヽ       アハヽ 【家紋風の図あり・山にもみじ葉】 ヲイランタ    弘所(ひろめどころ)北州三浦(ほくしうみうら)   内股膏薬(うちまたごうやく)      高尾氏(たかおうぢ) 前々(まへ〳〵)より御 披露(ひろう) 仕候おいらんだうち 股(また)こう薬(やく)の儀(ぎ)は ヲガミンスと申す おいらんだ人(じん)より 薬方(やくほう)授受(しゆ〳〵)いたし きせうせいもん一紙(いつし) 【起請誓文ヵ】 相伝(さうでん)の妙薬(めうやく)なり膏(こう) 薬(やく)はみす紙(かみ)へのへて そのいろらうそくの ごとくあつちへへつたり こつちへへつたりつく やうにみへ候えともいきちに 御は■こみなされ 候へば身あがりの じばらを おぎなひ もん日の いたみ骨(ほね)をりを いやしつき出しの 新造(しんざう)をのかれてかたの は■ふさぎをひらき日々 朝(あさ)がへりの霜やけに妙 にして尻(しり)のすはらぬねぶと 客(きやく)の根をきり種ものにさはる かんしやくもちをやはらぐるなり こうやく御のそみの御かたへは 九貝(くかい)の中へねんいつはいつめて さし上 ̄ケ申候 【挿絵内・右ページ】 ○ぬしやアあたま  からのほせて  きなんすから  かみをきつて   あげい  しよう ○なるほといろをとこは  とう〳〵おれに      とゞめを      さした 【挿絵内・左ページ】 ○ぬしはかき  たがりなんすから   ゆびをきつて   あげまうしいす ○たかおにゆびをきらせた    おとこはおれより    ほかにはあるめい      きついもの〳〵 【家紋風の図あり・山に金銀出入帳】 ぼんぜん盆後(ぼんご)づつう妙薬(めうやく)  物前出入町(ものまへでいりてう)               鎗栗屋(やりくりや)辛(ひど)ゑもん 凡(およそ)ぼんぜんぼん後(ご)は づつう八百のふさぎ つよくあたまのかけを 取(とら)んとするに其掛(そのかけ) とれず問屋(とひや)の古(こ) 積(しやく)をおさめんと するにそのかけ おさまらず此時(このとき) 目(め)はさかづりて ぬかばらをたち 常(つね)に呑(のま)ぬむり酒(さけ) をこのみ内外(うちそと)の者(もの) をしかりちらし さま〴〵ねつを吹(ふき)身(み)の うち破(やぶ)れかぶれ出来(でき) てはては欠出(かけだ)して遊(あそ)び に行(ゆき)古積(こしやく)のうへに しんしやくをおこす これらの症(しやう)に此薬(このくすり) 出入一張(でいりいつてう)をもちゆれば 帳(てう)じりのしまり おのづからとゝのひて 古しやくをふせぎ しんしやくをはらひ しんだいゆつたりと なりてづつう 八百のねを  きる事妙(めう)也 【挿絵内・右ページ】 これはとうだ 【挿絵内・左ページ】 これば どうだ ものまへ【節季の間際】二十両といふ ふさ【無沙=借金を返さないこと】をうたれ【借りたままにされ】た うへに又十両といふ ものふまれては うたれたりふまれ たりこしのぬけるも      むり      じやア      ある       めへ ○あきれかへつても   ばんとうへいひ  わけかねへといつて  けへらねへても   ゐられめへ 【右頁】 【庵に木瓜の紋の図案 曽我兄弟に関連】 胃(ゐ)保(ほ)痢(り)に 木(もつ)瓜(こう)丸(ぐわん)《割書:兄包(あにづゝみ)曽我(そがの)十粒(じうりう)入(いり)|弟包(おとづゝみ)同(おなじ)く五粒(ごりう)入(いり)》 【本文】 右(みぎ)いほりに木瓜(もくこうぐわん)は 曽我(そが)大明神の 神託(しんたく)によつて 毎年(まいねん)春(はる)の門 三 芝居(しばゐ)にて 弘《割書:メ》申候 御 望(のぞみ)の 御 方(かた)は御出 なさるべく候 尤御こゝろみ一《割書:ド》切(きり) 十六文より箱(はこ)入 御 桟敷(さじき)三十五玉まで 【右中段】 ばいやくとうせんのそが 兄弟すけつねどのに あはふとはどくのこゝろみ ならぬ〳〵 【右下段】 十〽︎おとゝが古方(こほう)を   おぎなふて兄は   はたちの後世家(こうせいか) 五〽︎傷寒(しやうかん)金匱(きんき)   よくつらのたわ   こと補剤(ほざい)でな   まのろひ素問(そもん)   霊櫃内経(れいようたいきやう)を 【左頁】 【本文】 これあり候此 方(ほう)へ 御 出(いで)なされがたき 御方(おんかた)は御つかひにても 相すみ候やうに ばん附(づけ)狂言(きやうげん)絵(ゑ) 本(ほん)しん上仕候 此くすりしんせう にも奉公(ほうこう)にも さゝはりなく見物(けんぶつ) 一《割書:チ》日にて相すみ 申候 此度(このたび)きやう げんがへ仕候 ̄ニ付 弘(ひろ)めのため 名題(なだい)かんばん 相あらため あまねく世上(せじやう)へ ひろむる   ものなり  【中段】 ●わたがさん薬 小ばやしの おじいがひけへて いるさし合 なしに くぜれ〳〵 【下段】 さかさにしたる 兄弟がねらふは まさしく 十〽︎《割書:コリヤ》とかくたんきは 孫思邈(そんしばく)たゞ 仲景(ちうけい)に ひかへ て ゐや 【数珠と「西」の図案】精(せい)性(しよう)朝(あさ)間(ま)看(かん)経(きん)丹(たん)《割書:壹劑(いちさい)|煩惱(ほんのう)百八 銅(とう)》 【本文】 朝間(あさま)かんきん丹(たん)は 釈迦佛(しやかぶつ)薬艸(やくさう) 諭品(ゆほん)にとき給ふ所(ところ)の めう薬(やく)にして大《割書:サ》 じゆずの玉のごとく 紅(あか)きころもをかけて  これを製法(せいほう)す第一 娵(よめ)しうとめの 中をやはらげがや〳〵とやかましき こゞとを止(とめ)る外(ほか)に 念仏香(ねんぶつこう)と申付薬 しん上いたし候 談義(だんぎ) 一《割書:ト》まはり用ひて 邪見(しやけん)のつのをもぐ こうのうあり 【中段嫗の会話】 おかゝさん御ちやができましたそして  おこたつへも 火が はいりました 【下段姑のことば‘】 なまいだ〳〵〳〵〳〵 〳〵〳〵ねんぶつで 口をすくして おかねへと ぢきに こゞとが いひたく なる なん まい だ 〳〵 【左頁】 【右下に蔵書印】  静岡上石町 二丁目翠濤 松井敬一 【上段】 視(みるが)藥(くすり) 霞(かすみの)報(ひき) 條(ふだ)下【㊦】    通油町    鶴喜板 【下段】 馬琴作 【鶴丸紋】 乗掛の   娵も うつむく  椿かな    晋如 【左頁】 【紋(牡丹)ヵ】旡(む)小児(せうに)きほふ丸(くわん)《割書:古人(こじん)市川三舛 通(とをり)| 藝(げい)の上(あが)ル町(まち)|弘所(ひろめどころ)萬屋介六》 【本文】 抑(そも〳〵)きほふ丸(くわん)の功能(こうのう)は 第一あたまの血(ち)のけを とり両(りやう)うでのちから瘤(こぶ)を おとしほりもののあざをぬく けんくわのこしををりて 出入引(でいりひき)のもつれを おきなひ腹内(ふくない)の よはきものを たすけてあく 體(たい)をすこやかにす かんにん五両目ほど もちゆれば俠客(きやうかく)の あいだをやはらぐる 事(こと)神(しん)のごとし 【右下会話】 《割書:コウ》 こまたを くゞつては ずいふん まうかる はづだが ◯きよねん古人(こじん)になつた からゆうれいのきほひ だとおもふとあてが ちがふぞ《割書:コレ》 あしをみな〳〵 【右頁】 【尺八と編笠の図】《割書:天蓋散(てんがいさん)》こむさうの妙薬(めうやく)《割書:忠臣蔵通(ちうしんぐらとをり)|九段目(くだんめ)語(かた)ル町|竹田(たけだ)出雲掾(いづものぜう)製(せいす)》 【本文】 てんがい散(さん)こむ さうの藥(くすり)は 加古川(かこがは)本草(ほんざう)に のする處(ところ)の 薬品(やくひん)を撰(ゑら)み 九たんめ雪(ゆき)の ふるをまつて これを製(せい)す 第一 尺(しやく)八のね を出しとな背(せ) よりむねの いたみを おさめお石(いし) が 【中央会話】 いはゞそなたは 本剤(ほんざい)【(本妻)】の子わし とはなさぬ中じや ゆゑ余薬(よやく)にしたかと おもはれてどう《割書:マア》 さじがあてら      りやう 【左頁】 【本文続き】 のぼせを引下るたとへいかなる 即症(そくしやう)たり共くすり見物(けんぶつ)の胸(むな)へ おつるとひとしく脉(みやく)のあかつた 小なみの恋(こひ)やみをすくひこん れい【(婚礼)】のもつれをとゝのふ こゝをもつて芝居(しばゐ)の 元氣(げんき)をます事 速(すみやか) なるがゆへに三ヶの津は 申におよばす諸國(しよこく)へ 相弘(あひひろま)り今(いま)もつて繁昌(はんじやう) いたし候 猶(なを)此度(このたび)役衆(やくしゆ) ぎんみいたし名人(めいじん)の かげんをくはへ藝方(げいほう) ねん入相つとめ申候 其(その)ための功能(こうのう)さやう 【会話文】 かこ川本ざうがいのちしん上 まうさう《割書:コウ》かくごをきはめ ねへけりやアやぶゐしやにはかゝられねへ 【右頁】 【料紙中央に】 百韻 《割書:正風(しやうふう)【(蕉風)】体(てい)万評(まんひやう)【(万病)】によし》 俳諧(はいかい)ばせを膏薬(こうやく)弘所(ひろめどころ)《割書:本家(ほんけ)|荒木田(あらきだ)守武(もりたけ)製(せいす)|芭蕉庵(ばせをあん)桃青(とうせい)調合(てうごう)》 【本文】 ばせをこう薬(やく)の儀(ぎ)は一巻(いちくわん) 百 韻(いん)より御こゝろみ哥仙 三十六句まで調合(てうごう)いたし 進(しんじ)申上候御 附(つけ)なされ候 節(せつ)三 句のわたり第一《割書:ニ》御つけなさる べく候御 巻(まき)のようだいにより 此方にて高点(こうてん)おろししんじ候 ◯此(この)藥(くすり)さし合(あひ)甚(はなはだ)多(おほ)し有増(あらまし)を               しるす 一 同季(どうき)五句 去(さり)てよし 一 居所(きよしよ)水辺(すいへん)山類(さんるい)う【そヵ】へもの  三句さりてよし 一 生類(しやうるい)三句 恋(こひ)五句の間(あいだ) 【中段会話文】 此さんはきめう によくできた きよ年さる所 で見たもこの さんであつた などゝおさき まつくらて ほめてゐる此をとこ さくしやのまはし ものかもしれす 【左端会話文】 此をりは月花 をむすびに いたしてすぐに べんとうに いたさう 【左頁】 【本文続き】  いむべし 一 書体(しよてい)火体(くわたい)一句  にて捨(すて)てよし 此外さしあひ あまたあり 【中段会話文】 しろうとで 羅文子(らぶんし)ぐら ひする人は 《割書:モウ》てきま せぬおしゐこと には古人(こじん)に なられ ました 【掛軸】 かたちは■■の円きにやつれて 実相無満の古地を愛しこゝろは 竹杖のほそきをたどりて遠縁 真如の新月に嘯く願ふところ 僧にして僅にあらす吟ずる所 哥に脈【「似」では】てるに異なり懼魔(??)生か なら茶三斛をくらはすんば いかでか俳諧の味ひをしらん         曲亭主人題【落款】 【右頁】 【筆と硯の図】千金(せんきん)字(じ)筆(ひつ)の薬(くすり)《割書:五節句(ごせつく)一廻(ひとまは)り|     二百 銅(とう)|附薬(つけくすり)天神香(てんじんかう)一會(ひとくわい)拾六文》 【「附薬」はタイトルの一部か?】 【本文】 小児(せうに)七八歳より 二月はつ午(うま)に はじめてこの くすりを用ひ 三五年があいだ たへず服用(ふくよう)すれば おのづからまなこ あきらかになり て四かくな文字(もじ) を見(み)わけ 生涯(しやうぐわい)あき めくらとなる うれひなし 【下段会話文】 梅さんみやうにち         よ かけていつたり さはいでかへる と おし しやう さんがお しかりな さるのう おふぢさん 【左頁】 此くすりもち ゆるときはかほ のいろすみの ごとくあるひは 口(くち)のはたおはぐろ をつけたるごとくに なるべしかならずおど ろくべからずつくえ にしりがおちつくと ひとしくはしり書(がき)の はしりぢもとまり水(みづ) いれのでぢもやみて しりのきやうぎよく なるにしたがひかほの いろも又たん〴〵に しろくなるなり    【左下会話文】 てならひの 字願(ぢぎやう)に ふでの みちぶ しん あとへもどるは くるまどめなりといふ うたもあるからおいらは とめられぬように せいだしましやう 【右頁】 【櫛と煙管(簪)ヵの図案】   眠(みん)參(じん)新(しん)造(ぞう)圓(ゑん)《割書:壹劑(いちざい)金一歩 《割書:但(たゞ)し一じばんに|もちゆべし》 取次所(とりつぎどころ)何(いづ)れも茶屋(ちやや)有_レ之(これあり)》 【本文】 夫(それ)心臓(しんざう)の一経(いつけい)は 複心(ふくしん)の伴候(ばんこう)にして よく客腎(きやくじん)の足(あし)を とめ肺肝(はいかん)二階(にかい)の 手くだをめぐらす しんぞう一《割書:ト》たび うはつけば大ぞう たちまちふわと のり大町傾(だいてうけい)の ふさがりできて 内所(ないしよ)のあんばい はなはだわるし 【中段会話】 しんぞうたかぶりて うへにいたればたちまち ざしきもちとへんじ客腎(きやくじん) 水がへつて ふところ かはけば ついに せんき もちと なるは このとをり で ご ざい ま す 【左頁】 【本文】 抑この新造内(しんぞうない)は しんそうをとゝ のふる事(こと)を第一 とするがゆゑに もん日のいたみ おとらずして 廿五あき【注】の天年(てんねん) を全ふす仙傳(せんでん) 不老(ふらう)の神薬(しんやく)なり 功験(こうげん)ひとばん もとめて しるべし 【中段台詞】 〽︎おたちあひ のおかたさまに おゐしやがたも ござりましやうが しんさうのおとろへより ねむりをもよほし ものにたいくつしておもしろく ないよをあかすもまつたく しんぞうよりおこりますれば しんぞうの心?【しんぞうけい(経)ヵ】ほどむつかしい ものはござりませぬ 【「しんぞう」「新艘」とも書く)近世後期、遊里で、「おいらん」と呼ばれる姉女郎に付属する若い遊女の称。出世して座敷持・部屋持となるものもあり、新造のまま終わるものもあった。この店先には「新造」の浮世絵なども飾り、心臓と新造を関連付けている】 【注 二十五あき。二十五歳で年季が明ける事。ちなみに江戸、吉原の遊女は二十七歳で年季があけ、遊郭を出る事を二十七あけ(明)という】 【右頁】 【上段】 養生(ようじやう)は長寿(ちやうじゆ)の良法(りやうほう)なりたとへば ゆきは春きへべきはづの物なれども これを氷室(ひむろ)にたくはへおげば六月の ゑんてんにもそのゆききへずこれ ゆきのようじやうよきゆへなり人 間五十年のじゆめうかきりありと いへどもようじやうをよくもちゆれば 百年二百年のじゆめうもうたがふ べからず此 理(り)をもつて世上(せじやう)をつとめは 検約(けんやく)はせたいのようじやうなり 忠孝(ちうこう)は臣子(しんし)の養生(ようじやう)也 惻隠(そくいん) は主人(しゆじん)のよう生(じやう)也 恩愛(おんあい)は妻(さい) 子(し)のようじやうなり聖人(せいじん)五常(ごじやう)の 薬法(やくほう)を立給ふことみなかくのごとし こればつかりは まじめて止(とめ)て おくも又け作者(さくしや) のようじやう  かもしらず 【下段】 曲𠅘 馬琴作【落款】馬琴 〽︎元旦から引札を くばつたりおくれ ばせのかきだしだと おもはねへけり《割書:ヤア》 いゝが 〽︎めでたし〳〵 ▲戯子(しばゐ)名所(めいしよ)圖會(づゑ)と申本  出板仕候これは三しばゐの   やくしやをめいしよに見  たておかしくつゞりなし候  ゑ入よみ本に御座候御   求め御覧可被下候 【左下の蔵書印】 羽州神山 増戸藏書 【蔵書印二個】 松井 文庫 【石橋湛山に関連ヵ?】