《題:年寄之冷水曽我 完》 【参照資料 国会図書館デジタルコレクション>続帝国文庫>第34編・黄表紙百種>年寄冷水曽我 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1882644/417】 ●模範解答付きコレクションは、国会図書館が公開する翻刻本を参照資料として、自分で答え合わせをしながら翻刻を進めることができるコレクションです。 ●参照する翻刻本では、かなを漢字にしたり、濁点や句読点を付加するなど、読みやすさのために原書と異なる表記をしている場合があります。入力にあたっては、「みんなで翻刻」ガイドラインの規則に従い、原書の表記を優先し、見たままに翻刻して下さい。 ●参照する翻刻本と原書の間で、版の違いなどにより文章や構成が相違する場合があります。この場合も原書の状況を優先して翻刻して下さい。 【右丁】 寛政五 【左丁】   序 古(ふる)きを以(もつ)て新玉(あらたま)の春(はる)狂言(きやうげん)曽我(そか)の趣向(しゆかう)も。 亦(また)久(ひさ)しい文選(もんぜん)の鴬(うくひす)は。做(なら)はぬ戯作(けさく)を仕(し)ならひ。 智者(ちしや)の辺(ほとり)の童(わらんべ)の。翫(もてあそひ)とせん事(こと)。其(その)頬(つら)の皮(かは)の厚(あつさ)は。 千牧張(せんまいばり)の凧(たこ)に等(ひと)しく其(その)圧(おし)の強(つよ)きは。破魔弓(はまゆみ)の 弦(つる)に似(に)たり。されど引(ひく)にひかれぬ。矢先(やさき)の光陰(くはうゐん) 甘泉堂(かんせんだう)が楯催足(たてざいそく)。需(もとめ)に応(をう)して与之(これをあたふる)は。是(これ)を的(まとう)の 秀句(ぢぐち)にして。あたる不中(あたらざる)は。旹(とき)の運(うん)か希(こひねがわく)は《割書:アタリ引|》                     題 芝 全 交 【右丁】 【上段】 さても 曽我 兄弟(けうたい)の 父(ちゝ)のあだを むくいしは 建久(けんきう)四年 五月下じゆ んそれより せいそうつ もりて去ル 寛政四年 子年迄に 凡六百年 にぞ相あた りけるその ついぜんの きやうげんと いつぱそが 兄弟 をはしめ そのときにくわゝりし 人々はのこらすとしは 六百なにかしといふごく らうじんの人々なれば 【左丁】 【上段】 中〳〵かたきをうつのすべつたの ころんだのどうめいつたかう めいつたのというやうなげんきは なしめがわるくなるやらこしが かゞむやらはがぬけるやうみづ ばながでるやらびらうなからしゝ ばゝいびたれをせぬばかりがめつけ ものなれ共されど六百年この かたつとめきたりしことなれば今 さらほかの事もならずあり きたりののりより公つるがおか さんけいかたきやくじつ事しの 六七人もすをふだいもんで おる所をとしがよつてかみしも をきるもふじゆうなくらい くたれたかたぎぬはかりいゝわけの ためかたへひつかけつへをつい たりじゆずをもつたり ひよろ〳〵してやう〳〵 いでしはさいこくじゆん れいのやどにまごつくが ごとしとしよりの事なれば はのない人もおゝければ物いゝ せりふもわかつたりわからなんだりする 【右丁】 【中段】  おれかみゝの ことをいのりお身たちの  物いゝのわからぬのか  むにや〳〵というなのりが   だいぶあるたゞし 【下段】 のりかり ばゝアは  あつたる  のりより  ぢゝいは  めづら  しい さくしやが  しらないのか     あやしいわい  ナ二  かんぬしかたにて いつこんくまんとは むかしの事  むめぼしでちやを   のまんかた〳〵     まいれ しんがいの    あら二郎 【左丁】 【中段】 御所の黒弥五  むにや〳〵 どふか  お十ねんでも    でるよふだ 【下段】 むにや〳〵 いつの次郎  すけかぬ かぢはら  平次かげ    たか あん ざいの 弥七郎  む   にや  〳〵 ちばのすけつねたね  によこらずあいちめ    ましてごさる     むにや〳〵 【右丁】 【上段】 のりより公つるがおかへさん けいにつきくどうさへもんすけ つねもしゆつしのところ これも六百いくつという らうじんなればでるが きぶしやうになりて ころり〳〵とねてばつかり いけるゆへしよらうといゝ たてゝみやうだいとして せがれ犬ぼう丸きれいな わかしゆというところが 六百十七八たかさごの ぢさまからひだらをとる ほどのぢゝいわかしゆお やのいゝつけた口上も 物おぼへがなければみんな わすれてしまひあふみ やわたもそれよりとし うへなればこいつはなをお ぼへずなんの事でこゝへ きたのかねつからわからす のりよりほんぎやくにて よりともをなきもの にし工藤さへもんを 【左丁】 【上段】 いちみさせんという所 なれどそんな事は三 百年はかりもあとに たかひにわすれてし まい今はたゞたいきだの こしがいたいのやれめん どうだのとそんな事 ばつかりいつてなんの おちやとうにも      ならす  ときにいぬほう  てめへはもふ六百  十七になるか  はやいもんだこの  ごろまでちゝをのんで  いたつけそれじやア  小藤太も六百五十二三で  あらうやはたも六百三  四十であらうおいらも  六百三十二だかぢはら  六百二十六つねたね  六百四十三なんのこつた  弐朱がぜにをかうよふだ  イヤハヤとほうもねへ 【右丁】 【中段】 むすこなんの 事でこゝへきた おいらア   わすれて   しまつた  なんだ    か  しらぬが  めんとう     だ なんまみ  だぶ〳〵 【下段】 さへもんすけ     つね   しよろうが     ぬけた        と      もつとも       〳〵 ちゝ  すけつね しよらうに つきそれから   なんとか    いふの    だつけ     サア      口上を      わすれ        た      それから       なにさ 【左丁】 【中段】 にやむ  〳〵で   こさり   ますから   にやむ〳〵で   ござります あふみ やはたともに はがぬけけるゆへ  ものいゝたなぎやうを     よむごとし 【下段】 ア〳〵 なんとか いつた   つけ これは まあ きかねへ ぶんに なさつ   て  下  さり  ませ 【右丁】 【上段】 三浦のかたかいは工藤さへもんに たよらんと今やうはるごまの やくにんにてあれ〳〵はるこまが みゆるばくにてこの鶴がおかへ いりこむところなれどこれも 六百十八九のむすめなれば 大は ̄アへはるごまのとんだり はねたりのしよさ所ではなし かさいねんぶつにておたすけ おどりもいゝやつとの事にて ひよろ〳〵しながらよう〳〵 いでしがふところよりかり ばのゑづをおとしてかぢ はら黒弥五にみあらはされ どつこいとみへになりて たてになるところをそんな 事はむかしの事くはいちう からおとしたはたけの かはにつゝんたにぎり めしきんざんしみそに むめほしを ひかるくるみに したやつを おとしければ 【左丁】 【上段】 なるほど としがよる ほどいぢが きたなく なる さふで たが いに たけの かはの つゝみ をめが けて たてに なりしが みんな ひよろ〳〵 してねつ からやくに    たゝす 【右丁】 【下段】 おのやれ今としが 三百だにわかくはその にぎりめしくはずに         おこふ            か      アヽ       こし        いたや イヤどつこいこいつは  よつばいにはい     ねばならぬ むに〳〵じや ̄ア     ねへが     ぢゝいと     ばゝ ̄アが     はつた      とさ このぢゝい殿たちは よからしねへ それは    はこねの   きやう   しつへの 【左丁】 【下段】 おだんぎを  きゝにゆく   べんとうで    ごぎるよ ナニ  はこねのべん  とうだ      さすれば    はこねの   べつとうと いう  ぢづちであらふ    サア〳〵     べんとうは      なつとうと      むめ     ぼしでは       ねへか アヽ  せつなやにぎりめしはきが  あれどたてなものをよこにも  ならぬおれがなりはもんぜきさまの   かへりにどぶへおちたよふだ ̄アヽ             こしいたや 【右丁】 【上段】 扨も和田の一もん 九十三ぎの大さかもりありしが いつれも六百からうへのとし よりなれば酒をのんでいさ もふなぞといふいきなこ ともできずそのうへ肴も はにあはぬものばかりで くはれずいつその事に 九十三人のねん仏かうが よからうとやわらかな だんごぼた餅あま酒 なぞをたんとしこんで 六字づめのせめねん仏 ときむねあまざけに酔(よい) けるや何思ひだしたか かたきすけつねが事を へつついへくべておいた さつまいもの事を思ひ だしたよふにいつさんに かけだす所をさうわか いものゝやふにはかけださ れずひよろり〳〵と はいずりだすを めさひなもとめるのは いきがきれてめんどう うつちやらかして 【左丁】 【上段】 おきけるがおさたまり のやくまはりしやう 事なしのふしやう〴〵 さかをもだかの よろひをかたてゞ さしあげたのは わかいときの事やう〳〵からだをもつて でるがいゝ   ひきほんの てぶらでか   けだせばつう まへてひくと  こもなくふん どしのさがりを つらまへ うんと ひつぱる ひやうし ぶうと なつたる その おとは なんの おとかは しらね共 きんたまを ひつはれよこにず とんところびしはきせん上下 おしなべておもしろくもなん共な いとかんぜぬものこそなかりけれ 【右丁】 【下段】 こへさあへいなふんどしを せうへつはつちや ̄ア  けんたまがついあぎやら ̄ア      ヱテへ〳〵 きんたまがつりあがつたから  そこでもつてからに  せんきめがぐう〳〵        いう  これをひつたと   おもつち ̄ア    きのどくたと ときむねへの  まけおしみを        いう 【左丁】 【下段】 ひつたな〳〵 こいつはくさい ずり びき だ あさいな くさ いな かさ い なに こや しを かけたにほひだ それではかないあん せんへくさい ゑんめい へこく   じやう     じゆう        だ ぢゝい一 ̄チばん  とまつてくんさるなら   かたじけなすびの    かうのものこまかく     きつたらくはれそふな            もんだ   【右丁】 【上段】 おにわう新左衛門はこよひ八 ̄つ の かねをあいつに三百両という金か なけれはさかおもだかのよろひも うけかへされず又とうとのゝ お身うけの金も八 ̄ツのかねが あいすさすれは六百両という 金がなければ御兄弟の大 もうも水のあは新左衛門か 身のなんきしんたいこゝに きはまつたかはてなんとした ものであらふ ̄ナアとかうらいや のおやぢという身でうでを くんでにらんだきり六百 年があいだひかたまつたよふ にしていけつゆへそんなむづ かしいでいりは四五百年あ とにわすれてしまひう つりひよんとしていたりけるが 女郎やのほうでもおなじく わすれてしまひしか どふしておもひたし たかきうにおもひ だして両ほうから しりがくる 【中段】 いかにとしが よつたとて あまりせはしい 六百年が間 ̄ニ どうできる もん  た はて そんな   事も  あつたか     の サア〳〵  八 ̄ツのかねを    六百ねん       まつた    金をだした〳〵 【下段】 しちといふ    ものは 八つききりで ながすはづだ 六百年か   あいた   利あげも   せす    どふ  またれる   ものか 利はかり 一万  二千両  くつ    た     二 ̄タ月     ばかりは  まけてやらう ちよつと入 ̄ルがへにして  かせなとはけつして   ならぬよ 【左丁】 【上段】 鬼王新左衛門は六白年めで 六百両のしりがきたれども ぜにで六百のくめんもできず 女ぼう月さよとそふだん すればこれも六百ねんが間 むちうでとしをとりければ やつぱりそのしぶんの 廿四五のきどり大いそへ 身をうりおしゆうの なんぎをすくひたいと めだかじや ̄アあるめへし てがるくすくふきに      なつてゐる とんだ事をいふばゝ ̄アどんだ  六百廿四五になるものが  どふしてつとめが       なるものか  たなうけさへ    いやがつて引        とらねへ 【下段】     六百年があいだ     はだをぬいでうで            を     くんでいて     よく風をひか     なんだ二百年    ばかりあとに くしやみをふたつし     たとおもつゝ          が     あのときに     すこしひいた     きみだわへ 酒ごもたるの よろひはたく あんじぶんで なければ二百 ぐらいでは かわふそふ     な  もんだと  らうも   して  むちやを    いふ 【右丁】 【上段】 鬼王ぢゝいむかで小ばんか なんだかしれすどふしたか 三百日両くめんしてさつそく 大いそへゆきとうにあいて此 事をよろこばせんと思ひの ほかとうも六百年たつ事 なればいつかすぽんとわす れてしまひすけなりと いふいろ男がたしかあつ たよふにもあり又 なかつたよふにもありと さかやのかりをちやら まかすよふな事を        いふ おや〳〵すけなりさんと やらがわたしか身受を するとかへすれば六百年 めでぼんのうのおこし なんしたそふさばから しいどふせふのふわつちや ̄ア ほんにいまじや ̄アそんな きはおさんせんのらいへ ̄ン ばつかりおたのみ申て      いんすものを 【下段】  それじや ̄ア  三百両か むだになつ     た そんならさか おもだかのよろ   ひをうけ  やふか たゞし  梅がへにかして   利を    とろうか  それでも  むかしが おゐらんしたたる〳〵  くびをふつていふ所 大いそのとら はりこのとらの   ごとし 【左丁】 【上段】 そがのどう三郎は時宗が かたゟるけはい坂のせう〳〵ら 所へ文づかひにゆきしが 折ふしせう〳〵もきやくが あつてあふ事ならず どふぞしていゝまをみて 文をわたしたいものと くるは中をいつたりき たりあつちへぶら〳〵 こつちへぶら〳〵百年 ばかりつい立しが それでもたれにか 文をとゞけるはづだ くらいはうす〳〵おぼへて いたりしがせう〳〵に やる事はとふにわす れてそれから又あつ ちいぶら〳〵こつちへ ぶら〳〵あつちいぶら〳〵 こつちへぶら〳〵あつちい うろ〳〵こつちへうろ〳〵 あつちへぶら〳〵こつちへ ぶら〳〵こんな事ばつかり して六百年ぶらついてゐる 【下段】 おら ̄アなんで ふみをもつてぶら〳〵  してゐるかしらん  おれがきのせいか たいぶ としが よつた よふだ 内へかへりたい もんだが内も  どこだつけか   わすれて    しまつた 【右丁】 【上段】 そがきやうだいの ものどもは六百 年もたつ事 なればかたき 工藤か事も わすれて しまい のかりんとして いたりしがこ としきうに おもひだし すけつねにたよ らんとあさひなを たのみ 今やう おんあぼきやの こんりうに 身をやつし入こみ しがくどうが ほうはかりかたの 事なればなを わすれてしまい あさいなもご しやうのために 【左丁】 【上段】 おんあぼきや ̄アの せはをやくごらごらふと ぶつしやうふく ろにふくろと まげものに米を いつはいせんぞ 代々の名百人ばかり かきつけいまや おそしとまつてゐる かたきやくじつ 事しともにごじやう いつさんまいのぢゝい たちみんな壱文ツヽ やるきになる  たいめんのまゝ  万人かうの   ごとし 【右丁】 【下段】 かわずの子だといふから あかがいるなら妹が かんの薬に しやうと おもつたら 人で こざる アハゝ〳〵 なにさ 小べん  ぢゝいはたがいの      事かくいふ      すけつねも      たいめんのさかづき               へ      みつぱなを      おとすまい      ものでもない   ハテめつらしいたい    めんじや ̄ナア   なんとしうくは〳〵と      きこへよふ 【左丁】 【下段】 なにすけつね兄弟の ものはあのとをりの  としよりながひせりふの  あいだちよろ〳〵と小べんに  たちますがそこはりやう         けんして         やつて         くんされ 【右丁】    《割書:かけ|あい》対画(たいめん)のせりふ 〽(十郎) 夫(それ)建立(こんりう)の御詠歌(こゑいか)に曰(いわく)ぢゝばゝの恵(めぐみ)も深(ふか)き厠器(おかい)から 膀瓶(しびん)へたれる小便(せうへん)を〽(五郎)こらへ〳〵て十八町(しうはつちう)丑(うし)の年(とし)迄(まで)だら〳〵と 〽(十郎)待(まち)に待(まつ)たる泪汁(なみだちる)眼汁(めしる)鼻汁(はなしる)《振り仮名:水■|みつぱな》【氵+肺】〽(五郎)《割書:サアそれからなん|とかいふのだつけ》 《割書:わすれた ̄アヽなにさ ̄アヽなんとかいつたマアちよつと小べんにいつて|こやふ ̄ムウヽとそれから ̄アヽとなにさ ̄ヲヽおもひだしたそれ〳〵》 こらへじやうなき年寄(としより)の寒(さむ)さに一倍(いちはい)うぢくさと 〽(十郎)うづみくるみ紙蒲団(てんとくじ)炭(すみ)もかはずのしやう 事(こと)なし〽(五郎)合(あはせ)て三 ̄ケの三 百店(ひやくたな)くしやみ二間(にけん)の 奥行(おくゆき)から〽(十郎) 風(かせ)を引(ひき)まどへつついへ にや ̄アがばゝしたしらぬ面(つら)〽(五郎)よくも おゐらが御親父(ごしんふ)を浅草様(あさくささま)のかへる さに〽(十郎) 椎実(しいのみ)三匁(さんもん)一袋(ひとふくろ)孫(まご)にも暮(くれ)の 十七日〽(五郎) 市(いち)のみやげは大隠居(おゝゐんきよ)〽(十郎)二の 【左丁】 やかましい婆(ばわ)への念仏構(ねんぶつかう)の銭(せに)までも 〽(五郎)取(とつ)たり飲(のん)だりをんあぼきや ̄アべらぼう 工藤(くどう)の蛇(へび)ぢいぬらりくらりと鱣屋(うなぎや)の 百万遍(ひやくまんべん)をくるやふに珠数(しゆず)がねつから まはらぬは《割書:サアこんどはおれかがわすれてしまつた|それからなにさなんとかいふのだつけ》《割書:としがよつてさつぱり物をぼへがね ̄エおれも小べんがしたくなつた|ちよつとひよぐつてこよふそれからなにさ ̄アヽめんどうだいゝ》 《割書:かげんにまん八を|やらかそふ》珠数(しゆず)がねつからまはらぬはそこらで ぢいさんたのみやすなんまいだんぶつなんまいだ ̄ソリヤ なんまめだんぶつなんまめだ《割書:こいつはおもし|ろくなつた》〽《割書:ソレ|》なんまい だんぶつなんまいだ〽《割書:ハア|》 なんまめだんぶつなんまめだ  ̄ハアなんまいだ ̄ア〳〵《割書:ハア|》なんまいだ ̄ア〳〵〳〵〳〵〳〵  ̄ハなんまい〳〵〳〵〳〵しやん〳〵〳〵〳〵〳〵みだぐはんに しくどくびやうどうせいいつさいどうほつぼたいしん  ̄ホヽうやまつてもふす〽《割書:なんのこつたまた小べんか|もるよふになつた》 【右丁】 【上段】 お十夜のゑかうのすんだやうに せりふもしまい ̄サアおやの かたきなのれ〳〵といわれて 工藤はいつかわすれていつ かうおほへず大晦日の ばんにおもひがけにいふるい かりをとられるよふに          おもつてゐる マアまたつたへそんな事も あつたかのはてなそん ならあのぢゝいたちの おやをわしかころして しよりやうをとつたのたの はてわかいじふんといふものは てんこちもないわるいたづらを するもんだきのどくな事を したどふするもんだわしも 六日四五十だあろう いのちのをしい事も ないうたれて やりませふが いまきうでは すこしこまりの すじだ 【左丁】 【上段】 五月下じゆん ふじのかかやて うたれよふ それまでは わすれぬよふに あかぎつくりの たんとうとかり ばのきつてを 身がはりにあづ けておかふと しちやをくどく よふな事を     いふ この時むね  そこかかんにんだ   おつこさへか いかにとしかよつて せはしいとてなぜ    三ぼうを     こはした そりや ̄アまだ 正月のくいつみに   つかうのた 【右丁】 【下段】 それはさぞざねん びんしけん  まちかね山の  ほとゝぎすた      らふと 六百年あとの あたらしい  しやれを      いふ 【左丁】 【下段】 めり〳〵〳〵 みしや   〳〵〳〵 右 さんぼうの こはれる  おとなり  なにさしびれがきれたから とつつらまつてたとふとおもつてつい こはした ̄ヲヽこはすんでにのめらふと                した 【右丁】 【上段】 鬼王新左衛門は いかにとしか よつて物を わすれるとて 此ごろ いろ〳〵な くろうをした 事はさつばりとわすれまた まじり〳〵としていたりけるかある さむきばんに月さよばゝ ̄アとふたり ぞうすいをくしらへかつぶしを入て くふとて兄弟のものからあづかりし あかぎつくりのたんとうをわすれて しまひたなへほうりあげて おきしがいゝかつぶし小刀と おもひあかぎづくり にてかつふしをかきかり ばの切手は付木のあつ いのだと思ひ火うち ばこへさじいこんでうつ ちやらかしてをくとしが よるととんだ事を するもん だ 【左丁】 【上段】 そがのどう三郎は きつねにばかされた やうにうろ〳〵して ゐるところをだれか とんだ物おぼへの いゝ人がきへは せう〳〵が所へ ときむねが 文のつかいに行 のだはやくいか つしやいときを つけられ六百 年めでけは いざかの仲 の丁でいゝやつとめぐりあひ 文をわたしてためいきをつくスウ〳〵〳〵                  〳〵 しやう〳〵も六百十七八の しんぞうたゞ口のうちで  むぐ〳〵むぐ〳〵と   くりをぬすんで     くうよふなよみ      よふをする ついのかむろかた〳〵が六百十二 ̄ツヽ   どふかせなかへきうをすへるよふだ 【右丁】 【下段】 どつからだしたか そのかつふし小刀は よさそふたふるかね かいにうつてかい   かへるがよひ 月さよも かつぶしをかくは  下手とみへて   めつたむしやうに    あらがきにする 【左丁】 【下段】   わつちや ̄ア   六百年すぎ   たまつくろな   お文だから  しんらんまの  おふみだと   思つてよつ  ほどおありがた     かつた せう〳〵しうし ごもんとゝ みへたり 【右丁】 【上段】 京の須郎すけとしは 友切丸の刀せんぎのため あげまきの介六となり くるはへ入くみひげの 伊久がもちし事をしりて とりかへさんとけんくはを しかけそれぎりで六百年 たつたからこれもなんの 事だかたがひにわすれ うぢついてばつかり ゐてなんのおちや    とうにも    ならず そのかはりに  けんくはをしかけて  六百ねんたつたは  小べんをしかけて  六百年たつぼと   せつなくなし 《割書:|伊久》 としより二かいへ あからずにはへ おりるになんぞ ぶら〳〵とへを ひらんや介六 【左丁】 【上段】 のちにめをふと いつたところが 六百年こふして ゐる事もね ̄エ 《割書:|介六》 おれが此くるはへ くるとば ̄アへ たちのつへで やらいをいわせ はなのあなへ せがき舟を けこむ   はへ 《割書:|あけまき》  ̄アイぢゝいの 女房にや ̄ア ばゝ ̄アがなりやんす 信久さん ̄ニア そふ思つて  下さんせ てん〳〵むき〳〵 思ひおして    いゝたひ事 ばつかりいつて  ねつからおもしろくなし 【右丁】 【下段】 かんてら門とみへとしがよつて 御てら門ばんにもならず あさがを   せんべい 六百年が   あいだ  しめり   かへつて  うまくも   なん  とも   なし  介六なぜおら ̄ア  あたまへげたを  あげてこふして いるだらふどふも  思ひだされ       ねへ 【左丁】 【下段】 さればなぜだか そがの十郎  白ざけうりと      なり   くるはへ    入こみしが     あんまり      たわけ         で     あきれて      こまつて       ゐる 【右丁】 【上段】 たらないさん 用のぜにを思ひ だすやふにみん ながあたまを わりしておもひ だしたところが 友切丸せんぎの ためいきうが さしたる一 ̄トこし こそ友切丸に さうゐないと せんぎしけるが 伊久もかたき やくなぞといふ 事はいつの事六 百六七十のらう しんなればねこの やふになりてうつ かりとしていける ゆへいつか友切丸は 人にとられはり ぬきのほん〳〵となる わきざしととりかへ られた事は夢にも 【左丁】 【上段】 しらずこんな めんどうな事は としがよつては こんがうすく なつていやた〳〵と たかひにむちやに してしまう 此ときあげまき こふまきに あてられ はちまきを してしらん かをゝして     ゐる 松まきで しアヽをおしなから ミゝたらいへ あげまきを    する 【右丁】 【下段】 かんへら門とへみゝが とをくなつてこんなでいりは めんどうがりしらんかを〳〵してゐる  さし   こんでぬく  ̄ソレぼん またさす それほん それさす    ほん なか〳〵  おもし    ろい    もんた 【左丁】 【下段】 友切丸と おもつたら  松谷   どんの  とも   さし    丸た あさかをせんべい あけまきかまきつつに  むねかわるくなり  かたまきせんへいと          なり   かたくなつて  これもしらぬ   かを〳〵して        ゐる 【右丁】 【上段】 そのむかしは やのね五郎と いつてときむねも やのねをみかき しかいまはとしか よつてそんなけん きはなしこしやう たいしや金ほしや おちぶつさまの りんとうを こゝをせんとゝ とのこをにけて みかいてこそは いゝにける 上留理  大薩摩  下ぼん三又   した   らふん 三味線  岡﨑  わら衆は 【左丁】   よいじよろ    しゆの   はし    まつた     とき 上るり 太夫これも 六百いくつと いふとしより はもぬけて くへもたゝず なにいふか ねつから  わからず 〽さゆほぢよに《割書:引|》 しよがの五よふ ちにきむねは《割書:引|》 ぺつちやくちや ぺつちや〳〵くちや〳〵〳〵 ぐにや〳〵ばく〳〵 にやむ〳〵〳〵てゝんてん〳〵〳〵〳〵 上るりいつまでもこんなことば つかりいつてとめどなし 【右丁】 【下段】  のとからたんか  せりたしにてくつた  ものをあけしやうじ 一本もはのねい五郎  きたならし     くつて       とふも       なら        す 【左丁の看板】 《割書:上歯も|下歯も》歯之無五郎(はのねいごらう) 【右丁】 【上段】 さてもそか 兄弟のかたき うちは五月 下しゆんの やくそくなれと としよりの事 なれはそれも わすれて しまいその うへとしか よるとあにも かもせはしく なればまた 四月の上 しゆんほとし きにもかつほも でぬうちに もふかたきうちの はしりをやらかさんと きやうたいすけつねが ねところへおしよせしは 【左丁】 【上段】 なんの事はない ねんぶつかうの かへりにびやう人 みまい ̄ニゆく   よふなり 御所の五郎丸 六百四五十の よたかのすか たとなり時むね       を    つらまへる とんだ所に よたかゞゐる こゝ ̄ニおさいせんの あまりか八文あり それぎりだよたか 小やうをこのみと今川 にもあるからあのしびんの 小へんでものまつし       わしらはみゝはとをし       なんだかしれぬがにげよふ 【右丁】 【下段】 すけつね〳〵 おきろ〳〵 おきるかいや ならねて  いさつし なんなら こんとの    事 しやう めん  とうた それはいゝが しびんをひつくる かへしてあたまを 小へんたらけに       した 此あたま 小べん無用と  いふふだを  たてぬのが  こつちも    ぶねん〳〵 【左丁】 【下段】 大藤内としかよつて 犬のやふにはつてにける これてたくかんでもすると きやんぬし〳〵となくせんきた 【右丁】 草ぞうしのしまひの はてのつかぬを夢に するといふはさりとは つまらぬ事と思ひ しがこれなき事に あらずすでに此そがの しゞうゆめなりさすれば ある事なり人は六のすう をもつて賀(か)をしゆくす 六白年をすぎし春 きやうげんも夢の うちといへとそかの 賀なり荘子(さうし)の夢も 蝶(てう)鳥(とり)と化(か)さはくちの夢を さまさんため仙家(せんか)の狂言 ゆめが賀か賀か夢かむちう もんもう夢作者なんにも芝の いもつ ̄つ ほりこれも二日のはつ夢の さむるとおもへはいつみやははんもと つきせぬはるこそめでたけれ       兄第のぢい屋たちどふして        こんなにワク〳〵なりましたか         これはおつて申上へり候 【左丁】 【見返し】 【裏表紙】