抑此伊香保温泉は人皇十一代 垂仁(すいにん)天皇の御宇 始て湧(わき)出しより連綿(れんめん)として今に至れり廼(すなは)ち万葉集に載(の) する処 従来(よりきたること)既(すで)に尚(ひさ)し蓋(けだし)其功萬物を生育(せいいく)するを以本とす故 に凡草木 蔬菜(やさい)の将(まさ)に死(かれ)んとするもの暫(しばら)く是を湯 槽(ふろ)の 側(かたはら)に置(おく)則(とき)【刻?】は必(かならず)ず其始生して地に在ときのことし又 鳥獣昆虫(てうじうこんちう)の 或は傷(きずつく)もの且(また)は疾者(やめるもの)此湯に浴(よく)する則(とき)は乍(たちま)ち其功を奏(そう)す又 是(こ)の湯を耕作(こうさく)の地に漑(そゝぐ)に其土田を肥(こや)し禾穀(くはこく)を長する と滋糞(よきこやし)も及ばず又其下流 鮒(ふな)䱌(かぢか)の類(たぐい)これあり是皆他温 泉のなき所にして此温泉 独(ひとり)これあるものは亦奇(またき)ならずや実 に和漢無双(わかんぶさう)の名湯と謂(いふ)べきのみ夫 鳥獣(てうじう)草木蔬菜の たぐひ皆然り況(いはんや)生民においてをや其諸病に功あること【口?】 授(じゆ)を待ずとも推(おし)てしるべし第一 精(せい)を益し経絡(けいらく)を還(めぐら)し 皮膚(ひふ)を潤(うるほ)し五色を美(よく)し気力を強くし壅滞(ようたい)を通し 鬱労(うつらう)を散(さん)し労咳(らうがい)を愈(いや)し中風を治す又婦人血の方 一切に奇効(きかう)あり今其 顕證(しやうこ)をいはんに此地の婦人産する 則は時を移(うつさ)ず直(すぐ)に母子(ぼし)をして浴(よく)せしむるに其功神のごとし 【「故」カ】此地婦人に限て月経(やく)不順(ふじゆん)血積(けつしやく)血塊(けつくわい)枯血(こけつ)崩漏(ぼうろう)赤血(ながち) 滞下等(???ちとう)の病絶(やまひたえ)てこれなし又 年過(としすぎ)て子なき婦人も屡(しば〳〵) 此湯に浴する則は月 経(やく)いまだ終(をはら)ざる人は懐妊(くわいにん)し給ふ事 疑(うたがひ)なし又 懐妊(くわいにん)中此湯に浴する則は決して難産(なんざん)の患(うれひ)なし 其佗(そのた)頭痛(づつう)上衝(じやうしやう)仙気(せんき)脚気(かつけ)痳病(りんびやう)痔疾(じしつ)金瘡(きんさう)打傷(うちみ)諸 瘡腫物(さうしゆもつ)の類(たぐひ)各(おの〳〵)其症(そのしやう)に応(おう)じて治せずと云ふ事なし又湯の 毒(どく)にて皮膚爛(ひふたゝれ)歩行(ほかう)しがたきも此湯に浴する刻は即功ありて 健歩(けんほ)常のごとし豈(あに)外(ほか)温泉の屡(しば〳〵)浴(よく)する則(とき)は愈(いよ〳〵)膏(あぶら)血(ち)を減(へら)し 皮膚(ひふ)をかわかし気力おとろへ或は手足 麻木(しび)れ厳冬(げんとう)凌(しのぎ)がたき 害(がい)を為(な)すの比(たぐひ)ならんや是皆四方 浴客(よくかく)の親(したし)く見て能く知り 給ふ処なれば何ぞ□【辞ことばヵ】を費(ついや)さんや然りと雖(いへ)ども辺境(へんきやう)遠国(えんこく)の 其身 自試(みつからこゝろみ)給はざる人の雷同(らいどう)耳食(じしよく)のうたがひあらんことを恐 れて今其功の一二を挙(あぐ)るのみ其餘は温泉功能記に □【詳つまびらかにヵ】す     浴(ゆ)室(との)假(た)瀑(き)通計(つうけい)五十 有(ゆう)八