【表紙】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全三.巻中ノ一 《割書:民家|日用》広益秘事大全 三 【右丁 白紙】 【左丁頭書】 【挿絵】 【左丁本文】 《題:《割書:民家(みんか)|日用(にちよう)》広益秘事大全(くわうえきひじだいぜん)巻中(まきのちゅう)》 即効妙薬類第二  ○難産(なんざん)せざる方(はう) 一 婦人(をんな)の子(こ)を産(うむ)は天地(てんち)自然(しぜん)の常道(じやうだう)なれば 養生(やうじやう)の方(みち)を知(し)る時は絶(たえ)て難産(なんざん)といふ事は あるまじき理(ことわり)なりされば今(いま)これを薬方(やくはう)の 部(ぶ)に入るべきにはあらねど世間(せけん)たま〳〵難産(なんざん) の人あるに依(よつ)て医家(いか)にも亦(また)産科(さんくわ)を別(べつ)に論(ろん) ずる故に其 意得(こゝろえ)を二ッ三ッ書記(かきしる)して辺土(へんど) 医(い)に乏(とも)しき民家(みんか)の一助(いちぢよ)とす凡(およそ)世(よ)に難産(なんざん)あ 【枠外】 広益秘事大全    五十一   中の上 【角印】帝国図書館蔵 【角印】白井光 【丸印】帝国 昭和十五・一一・二八・購入 【右丁頭書】 萬染物之法(よろづそめもののほう) 古(いにしへ)の代(よ)には紺屋(こんや)といふもの乏(とぼ) しかりしかば常(つね)に着(き)る衣服(いふく)な どをも皆(みな)銘々(めいめい)の家(いへ)にて手染(てぞめ) にしたりし也今かく太平(たいへい)久(ひさし)く して有難(ありがた)く辱(かたしけな)き世(よ)に生(むま)れた る人はさやうの事を心得(こゝろえ)ん物 ともおもはねど片田舎(かたいなか)の婦人(ふじん) などは心得(こゝろえ)おきて益(えき)ある事 多(おほ)かるべし依(よつ)てそのあらまし を左(さ)に記(しる)す ○黒染(くろぞめ)は下地(したぢ)を楊梅皮(やまもゝのかは)に て七八へんほど返(かへ)しそめ其上 に泥(どろ)をぬりて日にほすべし 下地(したぢ)の濃(こ)きほど色(いろ)くろし 布(ぬの)壱反(いつたん)に山もゝの皮(かは)一斤半(いつきんはん)ば 【左丁頭書】 かり用ひてよし 又方 下地(したぢ)を紺色(こんいろ)によくそめ 乾(かわか)し好(よき)墨(すみ)をほどよく薄(うす)く すりてたらひに入れ布(ぬの)をひたし 巻染(まきぞめ)にししいしを以(もつ)てよく 張(は)り日にほしてかねて濃(こ)く摺(すり) 置たる好(よき)墨(すみ)に葛(くず)のりをよき ほどに煉(ね)りかたまりのなきやう にして墨(すみ)にまぜ刷毛(はけ)にて 布(ぬの)のおもてにひきかわきたる時 その上に酌(しやく)にて水を多(おほ)くそゝ ぐべし色(いろ)甚(はなは)だうるはしく 黒(くろ)くなりて他(た)の物へ墨(すみ)うつら ず是いにしへの墨染(すみぞめ)の法なり 墨(すみ)よからねば色わろし惣(すべ)て くろき物の糊(のり)は葛(くず)を用ゆべし のりのあと少(すこ)しも見えず 【右丁本文】 るは世(よ)の難産(なんざん)の沙汰(さた)を聞て産婦(さんふ)みづから 心遺(こゝろづか)ひして惑(まど)へると其(その)父母(ちゝはゝ)夫(をつと)なども殊(こと)なる 一大事(いちだいじ)ぞと思ひてさま〳〵のわざくれをして いよ〳〵産婦(さんふ)を恐(おそ)れしむるが第一(だいいち)にて次(つぎ)には 産(さん)する時 看病(かんびやう)に付たる人 或(あるひ)はとりあげ婆々(ばゝ) などの不功者(ふこうしや)なる誤(あやまり)より難産(なんざん)にいたる事 多(おほ)し よく〳〵意得(こゝろえ)おきて少(すこ)しも驚(おどろ)くべからずまた 少しも驚(おどろ)かすべからず懐妊(くわいにん)せし最初(はじめ)より 聊(いさゝか)もその事を心にかけず平生(へいせい)のなすべき業(わざ) をつとめて身(み)をはたらかし心を屈(くつ)せずして臨(りん) 月(げつ)にいたるべし仮令(たとひ)一月二月 延(のぶ)る事ありとも 更(さら)に心にかけず自然(しぜん)にまかせて捨(すて)おくべし かくのごとくする時は決(けつ)して難産(なんさん)はあるまじき也 【左丁本文】 【挿絵】 【欄外】 特1 206 【枠外】 広益秘事大全 【枠外】広益秘事大全 【右丁頭書】 ○檳榔子染(びんらうじぞめ)はどろ染(ぞめ)に粗(ほゞ)同 じくしてどろ染よりはつよく 久しくやぶれず其方 檳榔子(びんらうじ)《割書:六匁》石榴皮(ざくろがは)《割書:六匁五分》 五倍子(ふし)《割書:十八匁》 下地(したぢ)を藍(あゐ)にて空色(そらいろ)にそめ右の 三 種(しゆ)をきざみ水七升五合ほど 入れ五六升ばかりにせんじ四五 へんそめて染あげを砥水(とみづ)に一 夜ひたし明朝(あけのあさ)取(とり)あげよく〳〵 すゝきてほす也 ○黒茶染(くろちやぞめ)は下地(したぢ)を藍(あゐ)にて こくそめ其上をあたらしき山 もゝの皮をせんじて六七へんそめ その上に泥(どろ)を水にてとき右の 染物(そめもの)を小半時ほど浸(ひた)しおき取 あげほして又 泥水(どろみづ)にひたすべし 【左丁頭書】 【挿絵】 二へんひたせば色(いろ)濃(こ)くなるなり 泥(どろ)につけ巻(まき)てそむべし或は楊梅(やまもゝもの) 皮(かは)を用ひずなしの木のかうを 用ゆるはまされり寒(さむ)き時は泥(どろ)を 熱湯(あつゆ)にてときてそむべし  世(よ)に大師染(だいしぞめ)などいひて地を  ほりて其 泥水(どろみづ)にて布(ぬの)を染るに 【右丁本文】 その証拠(しやうこ)は犬(いぬ)猫(ねこ)鶏(にはとり)鼠(ねずみ)の類(るい)つひに難産(なんさん)して 死(しに)たる事なきは無智(むち)なる故に死(し)を畏(おそ)れず唯(ただ) 天然(てんねん)にまかせて気遣(きづか)ひせぬが故(ゆゑ)なりさればと て見持(みもち)も心持(こゝろもち)も放埓(はうらつ)にして禁忌(きんき)の食物(しよくもつ)をも いとはず分(ぶん)に過(すぎ)たる力業(ちからわざ)をし手のとゞかぬ物 を及(およ)びごしに強(しひ)てとるなどは態(わざ)と難産(なんざん)を もとむるが如き物なれば尤(もつとも)慎(つゝし)むべし中にも 懐妊(くわいにん)の後(のち)は夫婦(ふうふ)交合(まじはり)をもかたく戒(いまし)むべし 五月(いつつき)を越(こえ)ては殊更(ことさら)に慎(つゝし)むべしこれに背(そむ)きて 難産(なんさん)となる事 世間(せけん)十にして七八なるべし そのうへに懐妊(くわいにん)をば病(やまひ)のごとく心得て養生(やうじやう)と 号(がう)して身(み)をつかはず安逸(あんいつ)にして居(を)るゆゑに 食物(しよくもつ)こなれず且(かつ)何ともなきに薬(くすり)をもとめて 【左丁本文】 飲(のみ)などするより胎(たい)をさまたげて却(かへつ)て病(やまひ)を おこす事あり薬(くすり)は加病(かびやう)なければ決(けつ)してのむ べからず如此(かくのごとく)してあらば世(よ)に難産(なんざん)といふ事は あるまじき理(り)を能々(よく〳〵)考(かんが)へおくべきなり  ○産(さん)をする時の心得(こゝろえ) 一 産(さん)すべき時に臨(のぞ)みて腹(はら)つよくいたむとも 少しも驚(おどろ)くべからず又 立騒(たちさわ)ぎて驚(おどろ)かすばか らず只(たゞ)生(うま)るべき時に生(うま)るべしと心を安(やす)らかに もちてあるべきなり時(とき)に至(いた)らざる内はいか程 急(いそ)ぎても生(うま)るゝ物にあらず時(とき)至(いた)らざる内に しひていきむ故に横子(よこご)逆子(さかご)などの難産(なんざん)と なる事 多(おほ)し慎(つゝし)むべし生るべき時 来(きた)れば内 よりおのづからいきみを催(もよほ)すもの也その時(とき)みづ 【右丁頭書】  下地(したぢ)を花色(はないろ)にしてそむれば  黒(くろ)くなる是(これ)鉄気水(かなけみづ)の泥(どろ)に  しむものにて珍(めづ)らしき事なし  これを弘法大師(こうぼうだいし)の利益(りやく)など  いひふらしておろかなる民(たみ)を  まどはす類 度々(たび〳〵)見聞せり決(けつ)  してだまさるべからず ○江戸茶染(えどちやぞめ)はやまもゝの皮と はいの木の葉(は)とをせんじ五六 へんほど染(そめ)てあげさまに布(ぬの)一反(いつたん)に 明礬(みやうばん)の粉(こ)を茶一ふくほどかき まぜ染るときは茶(ちや)の色少し 黄(き)ばみこげ色となる ○こび茶染(ちやぞめ)は下地は右に同じ 染あぐる時 緑礬(ろくばん)を茶一ふく ほど入るゝ也又 泥(どろ)にひたしても 同じ事なれど少しよわし 【左丁頭書】 ○兼房染(けんばうぞめ)はした地を濃(こ)きは ないろにしてその上を山もゝの皮 にて三べんそめ又 藍(あゐ)にて一へん そめ又山もゝにてそむるなり ○びろうど染は下地をこき花(はな) いろにそめ其上をかりやすを せんじてそむべし藍(あゐ)びろうど ともいふ色なり ○梔子(くちなし)ぞめはくちなしの皮(かは)も 実(み)もこまかにきざみ一夜(ひとよ)水に ひたしよくもみて後 布袋(ぬのぶくろ)に てこし滓(かす)をさりてそめ物を つけ一夜おきてあくる日 絞(しぼ)り あげ糊(のり)をつけきぬのうらを日 おもてにしてほす也日によく〳〵 ほさゞれば梅雨(つゆ)のうちに色(いろ)変(へん) じてあしくなるもの也 【右丁本分】 からもいきみて力(ちから)を添(そふ)べし介抱(かいはう)する人も 日比(ひごろ)よく〳〵心得おきて次第(しだい)を誤(あやま)るべからず たとひ横子(よこご)逆子(さかご)等(とう)の難産に及(およ)ぶともその 法(ほう)を以(もつ)て心(こゝろ)静(しづか)に直(なほ)すときは事(こと)もなきもの なり然るを笑止(しやうし)がほに驚(おどろ)き騒(さわ)ぎて産婦(さんふ) をおどろかせば竟(つひ)に大事となること多(おほ)し たゞ世上(せじやう)のいさぎよき物語(ものがたり)などして産婦(さんふ)の心 を引たて勇(いさ)め励(はげま)し其 療法(れうほう)を盡(つく)すときは 死(し)すべき命(いのち)も全(まつた)かるべし是(これ)産(さん)は病(やまひ)にあらざる ものなれば生(いき)る方(かた)が常道(つねのみち)にして死(しす)るは変(へん)なり この理(り)をよく〳〵思ふべしされども産(さん)の時水 まづ下(くだ)り子がへりしても隙(ひま)どるは気 血(けつ)の弱(よわ)き ゆゑなればさやうの時は薬(くすり)を用(もちひ)て気血(きけつ)を助(たす)く 【左丁本文】 べしまた平生(へいぜい)気力(きりよく)よわき人は産(さん)の前後(ぜんご)共々 獨参湯(どくじんたう)の類を少し用ひて補(おぎな)ひ助(たす)くるもよし 生質(うまれつき)つよき人は薬(くすり)をのむべからず若(もし)医者(いしや) を招(まね)かばかねて良医(りやうい)を撰(えら)びて特(たの)みおくべし 拙(つたな)き医者(いしや)は妄(みだり)に無益(むやく)の薬(くすり)を與(あた)へて害(がい)を なす事などもあるべし  ○難産(なんざん)にて久しく生(うま)れざる時の薬 一 難産(なんざん)にて久しく子の生れぬ時は雲母(うんも)の 粉を温酒(あたゝめざけ)にときまぜて口に入るべし忽(たちま)ちに 生(うま)るゝ事妙なり又方(またはう)  当帰(たうき)《割書:三匁》 川芎(せんきう)《割書:一匁》煎(せん)じ用ゆ胞衣(ゑな)おり ざるには冬葵子(とうきし)をくはへあと腹(はら)痛(いた)むには延(えん) 胡索(ごさく)を加(くは)へ気(き)のぼりふる血(ち)下(おり)ず気(き)を失(うしな)ふには 【右丁頭書】 ○七りやう染 赤(あか)きい色なり 木綿(もめん)壱反そむるに蘓枋(すはう)五十匁 黄蘗(きわだ)十五匁山もゝの皮十五匁 こえ松十五匁くれ竹(たけ)の葉(は)十三匁 明礬(みやうばん)七匁右六色を飯椀(めしわん)に水 六はい入れ三ばいにせんじさて 二 番(ばん)せんじには七はい入れ三 盃(ばい) にせんじ三 番(ばん)には水八はい入れ 三はいにせんじさて一番二番三 ばんともひとつにあはせ明(みやう)ばんを 粉(こ)にして入れ三へんそむる也 ○かしは染(ぞめ)は黒色(くろいろ)也久しく なりても色(いろ)変(へん)ぜず又よわくも あらず其方 柏(かしは)の葉(は)を多(おほ)く とりて濃(こ)くせんじ布帛(ぬのきぬ)を簇(しい) 子(し)にてはりて右のせんじ汁を 数十 遍(へん)はけにて引 其後(そのゝち)泥(どろ)にて 【左丁頭書】 一時(ひとゝき)あまりひたしおきてあらひ おとすなり ○正平(しやうへい)小紋(こもん)ぞめの法 荏油(えのあぶら)壱升 密陀僧(みつだそう)十匁 滑石(くわつせき)一匁 明礬(みやうばん)一匁《割書:各粉|にして》 軽粉(けいふん)一匁 右 荏(え)の油にいれ かきまぜいかにもぬるき火にて 一日も煎ずへし若(もし)火(ひ)つよければ こげつくゆゑ油断(ゆだん)なく底(そこ)を かきまぜてねるべしよき時分(じぶん)に 藁(わら)のくきを油(あぶら)の中にたてゝ 見しばらく立(たち)てあるほどの時を よき時とす又 泡(あわ)きえて後(のち)油 を紙(かみ)に付てこゝろみるに多く ちらぬほどをよしとすさて此油(このあぶら) をせんじて後 陶(とくり)にいれおきて 入用の時出しつかふべし久しく 【右丁本文】 益母草(やくもさう)を加(くは)ふべし又 胞衣(ゑな)おりざるには萆麻(ひま) 子(し)の皮(かは)を去(さり)すりくだきて足(あし)のうらに付べし 下(くだ)れば洗(あら)ひ去(さる)なり  ○同 横逆産(よこゞさかご)手足(てあし)先(まづ)出るまじなひ 一 横逆産(よこゞさかご)にて児(こ)の手足(てあし)先(まづ)出る時は其 父(ちゝ)の名(な) を出したる手足(てあし)にかくべし忽(たちまち)順(じゆん)に生(うま)るゝ也 【挿絵】 【左丁本文】  ○懐妊(くわいにん)したるを試(こゝろむ)る法 一 芥(もぐさ)を酢(す)にひたし火にかけてかわかし服(ふく)す べし腹(はら)いためば孕(はら)みたるなりいたまざるは 懐妊(くわいにん)にはあらず  ○子(こ)腹中(ふくちう)にて死(し)したる時の薬 一 竈(かまど)の下の灰(はひ)のしたのやけ土(つち)を粉(こ)にして三 匁 酒(さけ)にて飲(のむ)べし此方 横子(よこゞ)逆子(さかご)にもよろし また大豆(まめ)を酢(す)にてせんじてのむもよし  ○産後(さんご)血上(ちあが)り眩(めまひ)する時の方 一 黒漆(くろうるし)にてぬりたる物を何にても火(ひ)に焼(やき)て 産婦(さんふ)の鼻(はな)へそのけふりを入るべし又 竈(かまど)の下 の土を酒にてのむもよろし  ○産後(さんご)陰門(いんもん)のひろがりて閉(とぢ)ざる方 【枠外】 広益秘事大全         五十五 【右丁頭書】 【挿絵】 もつもの也この油に絵(ゑ)の具(ぐ)を まぜて衣服(いふく)にかたをつけて染る なりかたをつけ絵具(ゑのぐ)をぬる には小き刷毛(はけ)にてかたによく押(おし) こみてよし ○同 絵具(ゑのぐ)の用ひやう 赤(あか)は辰砂(しんしや) 黄(き)は雌黄(しわう) 【左丁頭書】 黒(くろ)は油煙墨(ゆえんずみ) 紫(むらさき)は臙脂(ゑんじ) かきは丹土(につち)青黛(せいたい) 紺(こん)はせいたい 花色(はないろ)はあゐらう桃色(もゝいろ)は白粉(おしろい)辰砂(しんしや) 萌黄(もえぎ)はしわうあゐらう 右いづれも件(くだん)の油(あぶら)にてときて 用ゆ絵具(ゑのぐ)を久しくこしらへ おくはわろし又 衣服(いふく)の紋(もん)を付る にもよし洗(あら)ひてもおつる事なし ○梅染(むめぞめ)は梅の木をこまかに 打わりて水にせんじ早稲藁(わせわら)を 黒焼(くろやき)にして右のせんじ汁を 三四へんそゝぎ其 灰汁(あく)にて三 へんそむる也 布(ぬの)一反(いつたん)に水三升 ほど入れ二升二 合(がふ)ほどにせんず もし渋染(しぶそめ)にする時は右のあく にて数(す)へんそめて色よくなりし 時うすしぶにて二三べんそむべし 【右丁本文】 一 石灰(いしばひ)壱匁 黄色(きいろ)にいり常(つね)のごとくせんじて その湯気(ゆげ)にてむしてよし  ○乳(ちゝ)のやぶれて痛(いた)む方 一 茄子(なすび)のひねたるを焼(やき)てたび〳〵ぬるべし 又 丁子(てうじ)を粉(こ)にして水にて呑(のむ)へし  ○小児(せうに)乳(ちゝ)を呑(のま)ざる時の妙方 一 小児(せうに)舌(した)をいためて乳(ちゝ)を飲(のま)ざるには天南星(てんなんしやう) の粉を酢(す)にてとき足(あし)の土ふまずにつけ其上を 紙(かみ)にてはりおくべし忽(たちまち)にのみつくものなり  ○乳(ちゝ)足(たら)ざる時の方 一 赤小豆(あづき)を水にせんじてのみ又くひてもよし また胡麻(ごま)に炒塩(いりしほ)少しいれ五七日 食(しよく)すれば 乳(ちゝ)の出る事 泉(いづみ)のごとし 【左丁本文】  ○小児(せうに)乳(ちゝ)を吐(は)く薬 一 地骨皮(ぢこつひ)一味(いちみ)水にせんじ用ゆべし  ○孕婦(はらみをんな)の胎(たい)動(うご)きてたへがたき薬 一 懐妊(くわいにん)の婦人(をんな)誤(あやま)ちて交合(かう〴〵)などしたる時 腹(はら)の内うごきて絶入(たえいら)んとする事あり 急(きふ)に砂糖(さたう)を白湯(さゆ)にかきたてゝ飲(のま)すべし 又 葱(ねぎ)の白根(しろね)を濃(こ)く煎(せん)じ汁(しる)をのむべし また竹瀝(ちくれき)《割書:竹のあ|ぶら也》もよろし  ○胎漏(たいろう)の薬 一 懐妊(くわいにん)の婦人 産門(さんもん)より血(ち)の下る事あり 房事(ばうじ)をおかして血(ち)下(くだ)るを真(しん)の胎漏(たいろう)と名(な)づく 腹(はら)に痛(いたみ)なけれど捨(すて)おけば堕胎(だたい)にいたるなり 生地黄(しやうぢわう)一味 粉(こ)にして一匁ほど酒(さけ)にて用ゆ 【枠外】 広益秘事大全           五十六 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 ○桑(くは)ぞめは桑(くは)の木(き)をよき ほどに濃(こ)くせんじその汁に きぬをつけまきてしぼらず そのまゝに干すべし ○野胡桃染(のくるみぞめ)は野くるみの葉(は) 楢(なら)の木の毬(いが)等分にしあるひは 多少(たせう)あるも又よし野くるみを 加(くは)ふれば色よし楢(なら)ばかりにて は色(いろ)赤(あか)ばしる也何べんも引 て後 泥(どろ)に二へんつけるなり 但(たゞ)し泥(どろ)一へん付ておとし 又右の汁を引て後どろを 付るもよし下地(したぢ)を藍(あゐ)にて 染るをよしとす ○鼠色(ねずみいろ)にそむるには胡桃(くるみ)の 霜(しも)を用ひてそむるをよし とす霜(しも)は黒(くろ)やきの粉(こ)也 【左丁頭書】 又方/茄子(なすび)の木をやきて炭(すみ)と なしよくすりて水にてのべ 色あひは切 ̄レにつけこゝろみて染 べし但(たゞし)酢(す)にてとき染ればつや ありていろよし ○うこん染はうこんの粉を絹(きぬ) 一反(いつたん)に八両ほど水にいれ茶碗(ちやわん) に酢(す)を半分ほど入れそむる也 但し二時ばかりつけ置たるが よし冬(ふゆ)は湯(ゆ)にてそむる ○すす竹(たけ)色は黄土(わうど)をやきて 火になるをうかゞひよくすりて 大豆(まめ)をすりその汁にあはせ石(いし) 灰(ばひ)少し加へ刷毛(はけ)にてひきて そむべし黒(くろ)みをかくるは墨(すみ)を 少し加ふべし又 阿仙薬(あせんやく)を大豆(まめ) の汁に合せそむるもよし 【右丁本文】 【挿絵】 また蒲黄(ほわう)を白湯(さゆ)にて飲もよし ○孕婦(はらみをんな)の腹痛(ふくつう)する時の薬 一 塩(しほ)一つまみ紙(かみ)につゝみぬらして炭火(すみび)の中 に入れ焼(やき)て赤(あか)くなりたるを酒(さけ)にかきまぜ 用ゆ黄(き)なる汁(しる)を下すには黄芪(わうぎ)六匁 粳米(うるごめ)五 合水にせんじ用ゆべしまた腰(こし)いたみ引つけ 【左丁本文】 てくるしむ時は艾(よもぎ)を酒(さけ)又は水にてせんじ用ゆ べし又方 百草霜(ひやくさう〳〵)《割書:なべの|すみ》二匁 椶櫚灰(しゆろのはひ)《割書:箒(はうき)に作(つく)り|たるをやく》伏龍肝(ふくりうかん) 《割書:竈(かまど)の下の|やけ土也》三匁づゝ粉(こ)となし一二匁づゝ白湯(さゆ)に酒 と童便(どうべん)《割書:小供(こども)のせう|べんなり》をさして薬(くすり)をかきたて飲す べし此方 産前(さんぜん)諸証(しよしやう)に妙なり  ○はやめ薬 一 滑石(くわつせき)《割書:一匁》 枳穀(きこく)《割書:一匁五分》 甘草(かんざう)《割書:五分》 右三味水にてせんじ用ゆ  ○崩漏(ほうろう)の薬 一婦人の陰門(まへ)より血(ち)多(おほ)く出るを崩漏(ほうろう)と云 産後(さんご)にまゝある事也 陰門(まへ)をきびしく 閉(とぢ)させおきて騏驎血(きりんけつ)《割書:茶の名|なり》の黒焼(くろやき)をさゆ 【枠外】          五十七 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 ○かはらけ色は右すゝたけ染 をうすくしてそむる也 ○柳(やなぎ)すゝ竹は下地を薄浅黄(うすあさぎ) にそめ其上をかりやすのせんじ 汁にて一へんそめその上を同 し汁に明(みやう)ばん少し加へてとむる ○蘓枋(すはう)染はよきすはうを能(よく) せんじ唐(から)の明礬(みやうばん)を合せそむ べし染しるのさめざる内にそめ よき天気(てんき)にほせば色よし若(もし) 冷(ひえ)たる時は銅鍋(あかゞねなべ)又は土鍋(つちなべ)にて あたゝめてそむべし鉄鍋(てつなべ)にては 色わろし ○黒とび色は蘓木(すはう)の煎汁(せんじしる) にて二へんそめその上を楊梅皮(やまもゝかは) の汁にて二へんそめ又すはう にて三へんそめ椿(つばき)の灰汁(あく)にて 【左丁頭書】 とめ鉄漿(かね)をかくる也ろうはを かくるもよろし ○黄茶(きちや)は山もゝの皮にて二返(にへん) そめその上を椿(つばき)のあくにて とむるなり ○からちやは下地をすはうの 汁にて一へんそめ其上を山もゝ の皮にて二へんそめ椿(つばき)の灰汁(あく) 【挿絵】 【右丁本文】 にて飲(のま)すべし又 髪毛(かみのけ)の油(あぶら)をおとして一にぎり 火(ひ)に焼(やき)て灰(はい)とし百草霜(なべずみ)一匁 木綿(きわた)一匁 焼(やき)て灰(はい) とし酒(さけ)にて飲(のむ)べし  ○赤子(あかご)の生(うま)れてやがて死(し)するを救(すく)ふ薬 一 初生子(むまれご)速(すぐ)に死(し)するものあり急(きふ)に小児(せうに)の口(こう) 中(ちう)を見るべしひこの前(まへ)上(うは)あごにふくれたる物 石榴子(ざくろのみ)の如きあらば指(ゆび)にてつまみ破(やぶ)り悪(わる) 血(ち)を出し布(ぬの)を以てぬぐひ其後(そのあと)へ髪毛(かみのけ)の 黒焼(くろやき)をふりかくべしわる血(ち)小児(せうに)の喉(のど)へ入れば たちまち死(し)する也  ○陰門(まへ)はれたる時の薬 一 唯(ただ)何(なに)となく陰門(まへ)のはれたるには馬鞭(ばべん)桃仁(とうにん) 等分(とうぶん)にしてすりあはせ付べし奇妙(きめう)に治(ぢ)す 【左丁本文】  ○陰門(まへ)かゆき時の薬 一 陰門(いんもん)のうちしきりにかゆきことあるは虫(むし)の くらふなりこれをあ洗(あら)ふ薬は  防風(ばうふう)《割書:三分》 大戟(だいげき)《割書:二分》 艾葉(よもぎのは)《割書:五分》 蓮房(れんばう)《割書:三分》 右せんじてあらふべし若(もし)中(なか)やぶるゝ事あらば  杏仁(きやうにん) 硫黄(いわう) 麝香(じやかう) 三味等分にして綿(わた)に つゝみ陰門(いんもん)の中へいれおくべし又たゞかゆき には蒜(にゝく)一味 水(みづ)にてせんじ度々(たび〳〵)あらふべしまた 胡麻(ごま)一味かみたゞらして付るも妙なり  ○男(をとこ)にあふごとに陰門(まへ)より血(ち)の出る薬 一 婦人(をんな)によりて交合(かうがふ)するごとに血(ち)出るあり 五倍子(ふしのこ)一味つけてよし又 陰門(まへ)しまりなく 中 冷(ひゆ)るは硫黄(いわう)をせんじて洗(あら)ふべし 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 にてとむるなり ○紅染(べにそめ)の法は湯(ゆ)をよきほど にとりて紅(べに)をときその中へつ けおくべし少しばかり間(ま)を置 酢(す)を少しくはへ又しばらくつけ ておけばよくそまる也 ○渋染(しぶぞめ)の法 生渋(きしぶ)一升に水九 升いれたらひにてよくまぜ 生布(きぬの)にてもさらしにても水にて 粘気(のりけ)をおとし右の渋水(しぶみづ)へつけ よくもみ合せ棹(さを)にかけその下 に渋水(しぶみづ)の入たるたらひをおきて 布(ぬの)をしぼらず干して幾度(いくたび)も 渋水の盡(つく)るまでそめてほす べし渋色(しぶいろ)むらなくよくそ まるなり ○藍(あゐ)ぞめは辛灰(からはひ)に蜆殻(しゞみから)の灰(はひ) 【左丁頭書】 少しくはへて灰汁(あく)にたれて 用ゆれば色 至(いた)つてよろし 辛灰(からはひ)とは橿(かし)柞(はゝそ)などの生枝(なまえだ)を やきたる灰(はひ)の事也 ○まがひ紅(もみ)は蘓木(すはう)一■【百ヵ】匁 黄(き) 蘗(わだ)二両 松脂(まつやに)二両ひとつにして せんじ用ゆれば本も■【みヵ】の色(いろ)に なるなり其汁四十匁にかりやす 十匁ずみ四十匁みやうばん三匁 をあはせて水二升いれよく〳〵 せんじ幾度(いくたび)もよくそめほして 後こしきにいれてむすときは 本もみのことく染(そめ)あがる也 ○紺屋糊(こんやのり)を作(つく)る法 糯米(もちごめ)を よくしらげて一升少しも滓(かす)の なきやうに細末(さいまつ)にし蠣(かき)のはひ 二匁二分入れよくまぜて後 【右丁本文】  ○月水(ぐわつすい)【「つきおもの」左ルビ】のめぐりわろき薬 一 茗荷(みやうが)の根(ね)をきざみて水にてせんじ酒 少しいれて空腹(すきはら)にのむべしまた阿膠(あきやう)の 末(こ)を一匁酒にてのむもよし  ○同久しく通(つう)ぜず腹(はら)はりたる時の薬 一 白碁(はくばん)蛇床子(じやしやうし)細末(さいまつ)にして醋(す)にて糊(のり)をとき むくろうじの大さに丸(まる)め紅(べに)を衣(ころも)にかけ絹(きぬ)に 包(つゝ)みて陰門(いんもん)の中へ入べしあつきやうに覚(おぼゆ)る 時取かへてよし又方 唐胡麻(たうごま)一味 細末(さいまつ)にして足(あし)のうらにはりおく 時は早速(さつそく)くだる事妙なり  ○同月水をのばす方 一 婦人(をんな)は時によりて月水(ぐわつすゐ)を延(のば)さねばならぬ 【左丁本文】 事あるものなり其時は唐胡麻(からごま)を細末(さいまつ)にし て頭(かしら)の百会(ひやくゑ)《割書:あたまの|まん中也》にはりおく時はいつまでも 月水のびること妙なりいつにても取捨(とりすつ)る時は 直(すぐ)に月水くだるなり但(たゞ)し房事(はうじ)【「カノコト」左ルビ】をいむべし  ○月水したゞりて止(やま)ざるを治(ぢ)する薬 一月水 多(おほ)く出て止(やま)ざるには阿膠(あきやう)の黒(くろ)やきを 壱匁づゝ酒(さけ)にてのむべし又 乱髪(おちがみ)の黒焼(くろやき)も よし又 多(おほ)く出 過(すぐ)るを崩血(ほうけつ)といふ熟(じゆく)したる 糸瓜(へちま)としゆろの皮(かは)と等分(とうぶん)黒焼にして酒また 塩湯(しほゆ)にて用ゆべし血(ち)の塊(かたまり)の出るには貫衆(きじのを) 炒(いり)て粉(こ)となし酢(す)にてのみてよし  ○つはり病の薬 一 妊娠(にんしん)二三ヶ月のころ気色(きしよく)わろく不食(ふしよく)し 【枠外】 広益秘事大全        五十九 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 常(つね)のだんごよりは少しかたく こね鍋(なべ)にいれなるほどよく煮(に) ていぼの出来る時火を焼捨(たきすて)に にしてよくむしおき後に取上(とりあげ) て何にても器(うつは)にいれさめざる内 にまた蠣灰(かきのはひ)二匁二分 湯(ゆ)少し ばかりにてとき右の糊(のり)にいれ よくまぜて用ゆべし但(ただ)し糊(のり)少 き時はさめやすき故のりを先(まづ) 器(うつは)にいれ別(べつ)の器に湯(ゆ)をいれ 右の糊(のり)をいれたる器(うつは)をつけて まぜてよし ○紋所(もんところ)をつくるには右の紺屋糊(こんやのり) をかたくして紋(もん)のうへにひき その上に手水(てうづ)ぬかをふりかけて ほし其後 布(ぬの)をそむるなり小(こ) 紋(もん)はかたの上より右の糊(のり)を付る也 【左丁頭書】 【挿絵】 【右丁本文】 【挿絵】 嘔吐(ゑづき)し或(あるひ)はさま〴〵の物をくひなどするを俗(ぞく)に つはりと云その時に用る薬  香附子(かうぶし) 藿香(くわくかう) 甘草(かんざう) 三味 等分(とうぶん)に 合せ細末(さいまつ)とし二匁ヅヽ熱湯(あつゆ)にいれて塩(しほ)少し 入れかきまぜてのむべし忽(たちまち)快(こゝろよ)くなる也 【左丁本文】  ○血(ち)の道(みち)黒(くろ)薬 一 川芎(せんきう) 当帰(たうき) 益母草(やくもさう) 右三味 黒焼(くろやき)にして時々 白湯(さゆ)にて用ゆ婦人(ふじん) 血証(けつしやう)の諸病(しよびやう)に神験(しんげん)あり  ○婦人(ふじん)帯下(こしけ)しら血(ち)なが血の薬 一 香附子(かうぶし) 阿膠(あきやう) 反鼻(はんび) 三味 黒焼(くろやき)にして 大黄(だいわう)の粉(こ)にあはせ酒(さけ)にて用ゆ又方 香附子(かうふし)《割書:大》 芍薬(しやくやく)《割書:中》 阿膠(あきやう)《割書:中》 乾姜(かんきやう)《割書:小》 甘草(かんざう)《割書:小》  右五味水にてせんじ用ゆ  ○痔(ぢ)の薬 一 蕎麦粉(そばのこ)を日に三度水をかへ寒(かん)ざらしに したるを鳥(とり)もちにて丸(ぐわん)じそばの粉を衣(ころも) として乾(かわ)かし置 服(ふく)すべし又方 【枠外】 広益秘事大全 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 萬(よろづ)しみ物(もの)おとしの方(はう) ○梅雨(つゆ)のうちなどに衣服(いふく)かび て色の付たるは冬瓜(かもうり)の汁に浸(ひた) し洗(あら)ふべし跡(あと)なくおつる也また 枇杷(びは)の核(さね)をくだき粉(こ)にして あらへばかびおのづからさるなり 又 梅(むめ)の葉(は)をせんじあらふも よし ○衣服(いふく)に墨(すみ)のつきたるには こくねりたる膠(にかは)をぬりて乾(かわ)き たる時其にかはをとれば墨(すみ)は 膠(にかは)につきておつるなり又 白朮(びやくじゆつ) のせんじ汁或は半夏(はんげ)の煎汁(せんじしる) 米酢(こめす)をせんじてあらふもよし 又方 口中(こうちう)に塩(しほ)少し入水をふく みて黒(くろ)みたる処をふくみあらふ 【左丁頭書】 また杏仁(きやうにん)をかみくだきて洗(あら)ふ もよし又 棗(なつめ)をかみてすり付 冷水(ひやみづ)を以て洗(あら)ふ或は飯(めし)をすり つけてあらふ尤(もつとも)妙(めう)なり又方 杏仁(きやうにん)茶子(ちやのみ)等分(とうぶん)細末(さいまつ)にし汚(けが)れ たる處にふりかけ熱湯(にえゆ)を以て 洗(あら)ひおとしてよしまた天南星(てんなんしやう) の新(しん)に取たるをもつて墨(すみ)の上 をしきりにすれば墨(すみ)じねんと おつるなり ○衣(きぬ)に油(あぶら)のつきたるには若竹(またけ)の 虫(むし)くそをひねりかけ紙(かみ)をへだ てゝ火のしをかくべし火つよき はよろしからず又 石膏(せきかう)を焼(やき)て くだき粉(こ)にしてふるひかけ重(おも)き 物をおしにかけ一夜(いちや)おくときは 油気(あぶらけ)なくなる也 新石灰(しんいしばひ)もよし 【右丁本文】 一 木龞子(もくべつし) 五倍子(ごばいし)《割書:各等分》粉(こ)にしてひねり かけてよし痛(いた)み堪(たへ)がたきときは梓(あづさ)桐(きり)の枝(えだ) 葉(は)ともに煎湯(せんたう)にして洗(あら)ひてよし又方 稀薟草(きれんさう) 蓮根(れんこん)を煎(せん)じてよく〳〵あらへば いゆること妙なり又方 一 蓮(はす)の花(はな)のしべをとりて陰干(かげぼし)にして貯(たくは)へ置 日に三度ほど呑(のむ)べし年(とし)久(ひさ)しき痔疾(じしつ)にても 愈(いゆ)ること奇妙(きめう)なり又 鶏(にはとり)の糞(ふん)を水にて せんじ用るもよし  ○疥癬(ひぜん)の薬 一 雷丸(らいぐわん)《割書:十五匁》生脳(しやうのう)《割書:四匁》明礬(みやうばん)《割書:四匁》水銀《割書:一匁》  胡桃(くるみ)《割書:五ッ》朝倉山椒(あさくらさんしやう)《割書:廿五粒》 右いづれもよく合(あは)せつぎにつゝみひぜんに摺(すり) 【左丁本文】 【挿絵】 つくるなり七日のうちにいゆる事妙なり又 苦参(くしん)一両せんぶり少しをよくせんじひぜん を洗(あら)ひて湯(ゆ)の花《割書:温泉(いでゆ)より|いづるもの也》をすり付 布(ぬの)ぎれに て包(つゝ)みおきむしてよし鍋(なべ)をあたゝめ置て さめぬやうにしてよろし又 何首烏(かしゆう)艾(よもき) 葉(のは)等分(とうぶん)水(みづ)にてせんじあらふべし又 青蒿(かはらよもぎ) 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 又/海蘿(ふのり)をときてみそ汁にて せんじあらふ又/蕎麦粉(そばのこ)を上 下にしき紙(かみ)をへだてゝのすべし 或はにえ湯(ゆ)に紫蘇(しそ)をいれて あらひ又は小麦粉(こむぎのこ)を水にとき てぬればおつるなり 何にても水に入がたき物に油(あぶら) の付たるは滑石(くわつせき)の粉(こ)をその上に ふりかけ又其上に紙(かみ)を敷(しき)て 火のしにて幾度(いくたび)ものすべし 木綿(もめん)に油付たるは小麦(こむぎ)の粉に て右のごとくすべし又/滑石(くわつせき)と 天花粉(てんくわふん)との細末(さいまつ)を汚(けが)れたる 処をあぶりてかけふるひおとし てもよし度々(たび〳〵)すればあとなく おつるなり ○蝋(らう)のつきたるには熱灰(あつはひ)を紙(かみ)に 【左丁頭書】 つゝみてのすべし少しばかりの 事ならばやけ火箸(ひばし)にてあぶりて ふきとるべし ○衣類(いるい)に黄泥(あかどろ)のつきたるには 生姜(しやうが)をおろししぼり汁を取(とり) あらふべし ○同/絵具(ゑのぐ)のつきたるは杏仁(きやうにん)を かみくだきてぬりつけ水(みづ)を(もつ)以て 【挿絵】 【右丁本文】 の実(み)をせんじて洗ふもよし又/胡麻(ごま)をかみ たゞらしてすり付るもよしまた硫黄(いわう)の末(まつ) を玉子(たまご)にまぜせんじつめ胡麻油(ごまあぶら)にてとき つけてよし  ○薬湯(くすりゆ)の方 一/艾葉(よもぎのは)《割書:十匁》 肝木(かんぼく)《割書:十匁》 二味/袋(ふくろ)にいれよく せんじ居風呂(すゑふろ)にして洗(あら)ふべし男の疝気(せんき) 女の帯下(こしけ)腰(こし)膝(ひざ)のいたみ打身(うちみ)等によし  ○雀薬(すゝめくすり)の方 一/寒雀(かんすゞめ)《割書:二十羽》 氷砂糖(こほりざたう)《割書:一斤》 古酒(こしゆ)《割書:一升》 右三味 炭火(すみび)にかけとろ〳〵とせんじつめ飴(あめ)のごとく なりし時上おきて少しづゝ服用(ふくよう)すべし第一 腎精(じんせい)をまし気力(きりよく)をつよくす 【左丁本文】  ○疥癬湯(ひぜんゆ)薬 一/大黄(だいわう) 當皈(たうき)《割書:各十銭》  前胡(ぜんこ) 蒼朮(さうしゆつ) 厚朴(ろうぼく)  羗活(きやうくわつ) 山皈来(さんきらい)《割書:各五銭》 桂枝(けいし)《割書:四銭》 忍冬(にんどう)《割書:廿五銭》  湯花(たうくわ)《割書:六十銭》 紫蘇(しそ)《割書:十五銭》 芍薬(しやくやく)《割書:四十銭》 右こまかに剉(きざ)み二ッに分/布袋(ぬのふくろ)にいれ居風呂(すゑふろ) にいれあつき時もみ出し第(だい)四る【日ヵ】めに薬(くすり)を入かへ 七日/浴(よく)すべしひせんをおひ出してさつそく 直るなりすべて疥癬(ひぜん)は附薬(つけぐすり)にてはおひ込 ことありよく出して後に薬湯(くすりゆ)に入べし 又/鼠(ねずみ)の黒焼(くろやき)を服(ふく)すれば大に腫物(しゆもつ)をおひ 出して早くなほる也鼠(ねずみ)をやきて喰(くら)ふはいよ〳〵 よろし  ○陰癬(いんきん)の妙薬 【枠外】 広益秘事大全      六十二 【枠外】  広益秘事大全 【右丁頭書】 あらふべし又 膠(にかは)をせんじ絹(きぬ)に ひたしおきて半日(はんにち)ほどして湯(ゆ) にてあらへばよくおつるなり ○たばこのやにの付たるには 西瓜(すいくわ)の汁にてあらふべしもし すいくわなき時は冬瓜(かもうり)にてもよし 又 西瓜(すいくわ)のさねをかみくだきて洗 ふもよし又みそ汁にてあらふ もよし ○鉄漿(おはぐろ)のつきたるには米醋(こめのす)を せんじてあらふべし又 茶(ちや)にて あらふもよし ○血(ち)の付たるは生姜(しやうが)をうすく へぎて上におけば血(ち)うつりて おつるなり又 白(しろ)き物に付たるは 燈心(とうしん)を唾(つばき)にてぬらしてすれば おつる又 冷水(ひやみづ)にて直(ぢき)にあらふもよし 【左丁頭書】 又 生半夏(しやうはんげ)をすりて付 洗(あら)ふ もよし瘡(かさ)の膿血(うみち)の付たるには 此法もつともよし魚(うほ)鳥(とり)の血(ち) のつきたるは蕪(かぶら)の汁にてあらふ べし ○灸瘡(きうあと)のうみ血(ち)のつきたるには 膠(にかは)の汁にてあらへばおつるなり ○衣服(いふく)に漆(うるし)のつきたるには 杏仁(きやうにん)山椒(さんしやう)等分(とうぶん)にしてくだきて ぬりつけあらふべし又ごまの油 にてあらひ次に皂角(さうかく)にてあらふべし 又みそ汁にてあらふもよし 又方 蟹(かに)をすりつぶしてあらふ べし其あとを杏仁(きやうにん)にてあらへば 跡なくおつる也 ○魚(うを)鳥(とり)のあぶら付たるは栗(くり)と 米(こめ)とをかみくだきぬり付て水に 【右丁本文】 一 大楓子(だいふうし) 大黄(だいわう) 雷丸(らいぐわん)三味粉にして酢(す)に てとき付ること二三 度(と)にして治(ぢ)す又方 荊芥(けいがい)《割書:一匁五分》大黄(だいわう) 硫黄(いわう) 槐花(くわいくわ)《割書:一匁ツヽ》 当皈(たうき)《割書:二匁》 丹礬(たんはん)《割書:五分》 右六味水にてせんじ度々(たび〳〵)洗(あら)ふべし但(ただ)し 陰癬(いんきん)もおひこめば害(がい)をなすものなれば附薬(つけくすり) などせば必(かならず)発表(はつへう)の剤(くすり)を飲(のむ)べし  ○発泡(はつほう)の薬 一 豆斑猫(まめはんみやう)一味 粉(こ)にして和(やは)らかなる油薬(あぶらくすり)に まぜ或(あるひ)は梅干(むめぼし)にすりまぜてたむし瘡(がさ)銭瘡(ぜにかさ) ひぜんのよりなどに張付(はりつく)べし一夜ほどすれば 水ぶくれにふくれる也其時 鍼(はり)にてやぶり 水(みづ)をいだし上皮(うへかは)をとればあとなく愈(いゆ)るなり 【左丁本文】 もし甚(はなはだ)しきは二度三度もはりかへてよし 此方(このはう)近来(ちかごろ)おらんだ流(りう)の医者(いしや)多(おほ)く用ゆる法 なりもろ〳〵の痛處(いたみしよ)の上にすれば気(き)を漏(もら) し痛(いたみ)を和(やは)らげ治(ぢ)する事妙なり  ○小児(せうに)五疳(ごかん)の薬 一 合歓皮(ねむりぎのかは) 車前子(おほばこのみ) 二味酒にひたして 【挿絵】 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書」】 てあらふべしまた石灰(いしばひ)のあく もよろし ○紅染(べにそめ)のきぬちりめんに油の付 たるはつねのごとく洗へば色さめ てあしくなる也 酸漿草(かたばみ)と皂角(さうかく) のせんじ汁にてあらふべしこれへ 少し油を加(くは)ふればます〳〵よく おつるなり色かはることなし ○酢(す)酒(さけ)醤油(しやうゆ)の衣服(いふく)に付たる は蓮(はす)の根(ね)をすりつけて洗(あら)へば 跡(あと)なくおつるなり ○渋(しぶ)のつきたるは燈心(とうしん)の煎汁(せんじしる) にてあらふ又かつをぶしのせんじ 汁にてあらふもよしまた麻(あさ)の 茎葉(くきは)を灰汁(あく)にたれてすゝぐべし ○黐(とりもち)のつきたるは早稲藁(わせわら)の灰(あ) 汁(く)にてあらふべし 【左丁頭書】 ○糞(ふん)に汚(よご)れたるをあらふに は衣服(いふく)を土中(どちう)にうづみおき 一日 過(すぎ)てとり出しあらへば少し も穢(けが)らはしき事なし ○天鵞絨(びらうど)の垢(あか)をおとすには 餅(もち)にてすりておとすべし此方 墨(すみ)をおとすにもちらずしてよし ○紋所(もんどころ)のしみ物をおとすには 紋のところを竹(たけ)の筒(つゝ)などに はりて水中にいれおき柚(ゆ)の皮(かは) にても実(み)のふくろにても持(もち)て ひたものすればおつるなり惣(さう)じて 外(ほか)の処へ水気(すゐき)のちらぬやうに あらふにはみなかくのごとく竹筒(たけのつゝ)か 酌(しやく)のがわなどにはりてあらふべし ○白むくはよき天気(てんき)に日にほし てすぐに日向(ひなた)にて天鵞絨(びろうど)の切(きれ) 【右丁本文】 後 黒焼(くろやき)にし鰻鱺(うなぎ)のやきたるにぬりつけて あたふべし大に効(こう)あり  ○蚘虫(くわいちう)のくだし薬 一 海人草(まくり)《割書:大》 大黄(だいわう)《割書:中》 蒲黄(ふわう) 甘草(かんざう) 山椒(さんしやう)《割書:小》 右五味水にてせんじ用ゆ蚘虫(むし)下りて即効(そくこう) あり海人草(まくり)大黄(だいわう)二味粉にして丸薬(ぐわんやく)とし 用るも又よろし  ○諸(もろ〳〵)の毒(どく)に中(あた)りたる時(とき)の薬(くすり)品々(しな〴〵) 一うどんを喰過(くひすぎ)て中(あた)りたるには大根(だいこん)の絞汁(しぼりしる) を多(おほ)く飲べし又 山椒(さんせう)もよし 一 餅(もち)を多く食(くら)ひたるにも大根(だいこん)のしぼり汁 よろし大根(だいこん)は諸(もろ〳〵)の飽満(はうまん)にいづれもよろし 一 蕎麦(そば)の毒(どく)にあたりたるは楊梅皮(やまもゝのかは)を末(まつ)と 【左丁本文】 して白湯(さゆ)にてのむべし又 萩葉(はぎのは)をせんじ 用ゆるもよし九年母(くねんぽ)の皮(かわ)もよろし 一 豆腐(とうふ)に中(あた)りたるにも大根(だいこん)の汁よしまた 杏仁(きやうにん)を搗(つき)て服(ふく)すべし 一 諸(もろ〳〵)野菜(やさい)の毒(どく)に中りたるには葛(くず)の根(ね)を掘(ほり) とりて水に煮(に)て汁(しる)をのむべし又 胡麻油(ごまのあぶら)人乳(ひとのちゝ) 童便(こどものせうべん)いづれもよろし 一 茶(ちや)にあたりたるは砂糖(さとう)甘草(かんざう)など宜(よろ)し梅(むめ)も よし酢(す)もよし 一 竹(たけ)の子(こ)の毒(どく)に中りたるは蕎麦(そば)の殻(から)を煮(に)て 其汁を多(おほ)くのむべし生姜(しやうが)胡麻(ごま)もよし 一 木実(きのみ)瓜(うり)の類の毒(どく)にあたりたるには肉桂(にくけい)一味 濃(こ)く煎(せん)じてのむべし 【枠外】 広益秘事大全     六十四 【枠外】   広益秘事大全 【右丁頭書】 にてすりてふくべし ○すべて染物類(そめものるい)鹿子(かのこ)等(とう)に物 のしみたるは流(なが)れ川にてあらふ べし白きものは木槿(むくげ)の葉(は)をも みつけてあらへばしみものよく おちて葉(は)の青(あを)みはつかぬ也 ○漆紋(うるしもん)をおとすには海蘿(ふのり)を ときてあらふべし久しくふりても よくおつる也 ○紋所(もんどころ)のうるみたるは橙実(だい〳〵)の 汁をしぼり紋所(もんどころ)にぬりてぬれ たるうちにうどん粉(こ)をふりかけ 干(ほし)てはらひおとすべししみ物 あかの類(るい)こと〴〵くおつるなり ○藍染(あゐぞめ)の色をぬくには石灰(いしばひ)を あくにたれ絹(きぬ)をいれて煮(に)れば 白絹(しらきぬ)となるなり 【左丁頭書】 ○茶染(ちやぞめ)の色をぬくには酒(さけ)に 水少しさして煮(に)ればぬけて もとの白地(しらぢ)となる也 ○黒(くろ)き絹(きぬ)を洗(あら)ふには濃(こ)く煎(せん) じたるくちなしの汁にてあらふ べし色よくなる也又 風(かぜ)ふく日に 黒糸(くろいと)のぬひ物すれば糸(いと)のつや おつるなり心得おくべし ○茶色(ちやいろ)の衣に白(しろ)きほし出たる は烏梅(うばい)をこくせんじて筆(ふで)にて ほしのうへをぬればもとのごとく に色(いろ)なほる也 ○羅(ら)せいたの垢(あか)をおとすは新(あたら)し き草履(ざうり)のうら又はわらづのう らの毛(け)にてそろ〳〵とすれはよく おつるなり ○衣(きぬ)の垢(あか)を灰汁(あく)にてあらふは 【右丁本文】 一 西瓜(すいくわ)に中(あた)りたるは番椒(たうがらし)を水にひたしてその 汁を飲てよし甜瓜(まくはうり)に中りたるは塩(しほ)を湯(ゆ)に かきたてゝ吞(のむ)べし酒もよし 一 菌蕈(くさびら)【「タケ」左ルビ】の毒(どく)にあたりたるには地(ぢ)を掘(ほり)て水を そゝぎ入れかきまぜ其水の澄(すむ)をまちて多(おほ)く 飲(のむ)べし又 古壁(ふるかべ)の土(つち)を湯(ゆ)にたてゝすまして飲 もよろし又ごまの油(あぶら)もよし山梔子(くちなし)を剉(きざ) みて水にて飲もよろし又 茶(ちや)の芽(め)を粉となし 水にてのむもよし甚(はなはだ)しきに至(いた)らば人(ひと)の糞(ふん) 汁(じう)を飲べし此方(このはう)一切(いつさい)の毒(どく)に中りたるに大に 妙なり又 松茸(まつたけ)にあたりたるは豆腐(とうふ)を食(くひ)て よろし又 茄子(なすび)もよく毒を解(げ)する也 一 酒(さけ)の毒(どく)にあたりたるには菉豆(やへなり)また赤小豆(あづき) 【左丁本文】 などよろし菘菜(あをな)の煮汁(にしる)生藕(なまばすのね)の汁もよし 葛(くず)の花 九年母(くねんほ)の皮(かは)桑椹(くはのみ)沙糖(さとう)いづれもよろし また眼子菜(がんしさい)【「ヒルモ」左ルビ】を焼(やき)て灰(はひ)となして服(ふく)すせんじて 用るも妙なり 一 焼酎(しやうちう)に中りたる人に冷水(ひやみづ)を飲(のま)しむべからず のめば忽(たちまち)に死(しす)るもの也 温湯(あたゝかなるゆ)の中へいれて体(からだ)を あたゝむれば毒(どく)おのづから解(げ)す又 赤躶(はだか)になり てころ〳〵ところげ廻(まは)れば吐却(ときやく)して愈(いゆ)る也 又方 好錯(よきす)を二三 盃(はい)のむもよし大根の汁 胡瓜(きうり) 甜瓜(まくは)の搗汁(つきしる)葛湯(くずゆ)甘草(かんざう)の粉などいづれも妙也 一 油(あぶら)あげものに中りたるは九年母(くねんほ)の皮(かは)せんじ用ゆ 一 諸(もろ〳〵)の魚毒(ぎよどく)に中りたるには干鮝(ひずるめ)を水に煎(せん)し て服すべし又 冬瓜(かもうり)をすりて汁をのむもよし 【枠外】 広益秘事大全          六十五 【右丁枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 常(つね)の事ながら物によりては悪(あし) くなる事あり皂角(さうかく)のせんじ汁 又は合歓木(ねふりぎ)の葉(は)をせんじてあら ふべしまた芋(いも)の煎汁(せんししる)にて洗へは 白くなる事 玉(たま)のごとしまた 茶実(ちやのみ)をつきくだきてあらへば 油気(あぶらけ)をさるなり ○頭巾(づきん)をあらふは沸湯(にゑゆ)に塩(しほ)を いれてもみあらふべし又あつき うどんの湯(ゆ)にてあらふもよし ○紅莧(あかひゆ)にて生麻布(きぬの)をにれば 色(いろ)雪(ゆき)のごとくなる ○色の黄(き)なる絹(きぬ)は鶏(にはとり)の糞(ふん)に て煮(に)れば白くなる也又 唐鳩(たうはと) のふんもよろし ○畳(たゝみ)に墨(すみ)のこぼれたるを 水にてふけば墨(すみ)畳(たゝみ)の目(め)へしみ 【左丁頭書】 こみて見ぐるしくなる也 其侭(そのまゝ) 捨(すて)おきてかわきたる後 新(あたら)しき 草履(ざうり)にてこすればよくおつる也 ○畳(たゝみ)に油(あぶら)のこぼれたるは即坐(そくざ) に水を多くかくれば油 水(みづ)に浮(うき) てあがるを拭(のご)ひとるべしされども 少し間(ま)あればおちず其時(そのとき)はそく ひ粘(のり)をぬり紙(かみ)をふたにして はりおくべし翌日(よくじつ)紙(かみ)をとれば 畳(たゝみ)に油のあとなし ○衣服(いふく)に酒(さけ)のしみたるに藤(ふじ)の 花(はな)を陰乾(かげほし)にしてたくはへおき これを其かゝりたる上下にしき 紙(かみ)をあてつよく重石をかけ置 べし藤(ふじ)の花 酒(さけ)の気(き)を吸(すひ)て すこしも残(のこ)らずおつる事 妙(めう)なり たゞし多(おほ)く時を過(すぎ)てはわろし 【右丁本文】 また黒大豆(くろまめ)の汁 紫蘇葉(しそのは)のせんじ汁などよし 一 蛸魚(たこ)にあたりたるは海羅(ふのり)を湯(ゆ)にいれてのむべし たこのみならず何魚(なにうを)にもきく也 一 鰹魚(かつを)の毒(どく)にあたりたるには冷水(ひやみづ)をのむべから ず炒(いり)たる豆(まめ)の粉(こ)を湯(ゆ)にたてゝ多(おほ)く飲すべし また《振り仮名:■吾|つはぶき》【注】の葉(は)をせんじ汁をのむもよし又 【挿絵】 【注 「槖(橐)吾」の誤】 【左丁本文】 桜(さくら)の葉(は)をせんじて用ゆ実(み)を喰(くら)ふもよしまた 鉄漿(おはぐろ)をのむもよし 一 河豚(ふぐ)の毒(どく)に中りたるには急(きふ)に鮝(するめ)をくふべし また青砥(あをと)の磨水(とぎみづ)を多くのむもよしまた藍(あゐ) の汁をのむもよし絵具(ゑのぐ)の藍蝋(あゐらう)にてもよろし また白礬(みやうばん)人糞(にんふん)茗荷(みやうが)の根(ね)の汁 木患子(むくろうじ)の 黒焼(くろやき)砂糖(さたう)いづれもよしまた文字(もじ)がはりの 古銭(こせん)を口にふくみて汁を飲(のみ)こむもよし凡(およそ) 河豚(ふぐ)に中(あて)られたるには香(にほ)ひたかき薬などは 用ゆべからず大に害(がい)をなす也 一 蟹(かに)にあたりたるには蓮根(れんこん)の汁 冬瓜(かもうり)の汁 黒豆(くろまめ)の煮汁(にしる)など皆妙也また蒜(にゝく)を水にせんじ て多(おほ)くのむもよろし 【枠外】 広益秘事大全       六十六 【枠外】   広益秘事大全 【右丁頭書】 【挿絵】 【左丁頭書】 居宅営作(きよたくえいさく)の概略(おほむね) 家(いへ)は天日(てんじつ)雨露(うろ)をさけて常(つね)に 身(み)を安(やす)んずる與(ため)まてなれば分(ぶん)を 過て美麗(びれい)を好(この)むべからず仮令(たとひ) 金銀(きん〴〵)に富(とみ)たればとて凡人(ぼんにん)として 貴人(きにん)の居室(きよしつ)のごとき事を似(に)す るは僭上(せんじやう)奢侈(しやし)といふものなれば 慎(つゝし)むべし但(たゞし)掃除(さうぢ)等(とう)はいかにも 念(ねん)をいれて清浄(しやう〴〵)潔白(けつはく)にす べし是(これ)気(き)を養(やしな)ひ穢気(ゑき)を払(はら) ふ養生(やうじやう)の方(みち)なれば也又その作(つく) りかたによりては甚(はなはだ)不勝手(ふかつて)なる 事ともあれば造営(ざうえい)の初(はじめ)より 能々(よく〳〵)考(かんが)へてつくるべしその心得 になるべき事ともを抄出(せうしゆつ)して こゝに挙(あ)ぐ 【右丁本文】 一 鼈(すつほん)の毒(どく)にあたりたるは胡椒(こせう)よし藍(あゐ)もよし 一 禽獣(きんじう)【「トリケモノ」左ルビ】おのづから死(しに)たる肉(にく)は果(はた)して毒あり若(もし) これを喰(くら)へばかならず中る也 急(きふ)に胡葱(あさつき)を剉(きざ) みて煮汁(にしる)をとりひやし冷(ひや)して多く飲べし生韮(なまにら)の汁 蒜(にゝく)の汁皆よく肉毒(にくどく)を解(げ)す又 古壁(ふるかべ)の土(つち)を水 にて服するもよしその外 蘆根(よしのね)の汁 黒豆(くろまめ)の せんじ汁 眼子菜(ひるも)の汁などいづれも妙なり 一 犬馬(けんば)の肉(にく)は毒ありこれに中(あた)りたる時には 杏仁(きやうにん)一二合 皮(かは)を去(さり)すりつぶし水に入て滓(かす)を すて汁を飲べし血(ち)下(くだ)りてかならず愈(いゆ)る也 山査子(さんさし)を加(くは)へて煎服(せんふく)するもよろし甘草(かんざう) もよろしく人乳(ひとのちゝ)もよし 一 蜈蚣(むかで)蜘蛛(くも)の類(るい)誤(あやまつ)て吞(のみ)たるには鶏(にはとり)の冠(さか)の血(ち) 【左丁本文】 をとり吞(のみ)てよし又 猫(ねこ)の涎(よだれ)を取(とり)て解毒(げどく) の薬(くすり)を送下(おくりくだ)すべし吐(はき)出して解(げ)すべし猫(ねこ) の涎(よだれ)は山椒(さんしやう)蕃椒(とうがらし)の類からきものを鼻(はな)にぬ れば涎(よだれ)をおほく吐出(はきいだ)すなり此涎(このよだれ)よろづ の虫毒(ちうどく)を解(げ)するものなり 一 諸(もろ〳〵)の毒(どく)を解(げ)する薬は犀角粉(さいかくのこ)藍(あゐ)の汁(しる) ごまの油(あぶら)人糞(にんふん)黒豆(くろまめ)の汁(しる)地(ち)を掘(ほり)て入(いれ)たる 水 臘月(しはす)の雪水(ゆきみづ)杏仁(きやうにん)韮(にら)蒜(にゝく)五倍子(ふしのこ)を酒(さけ)に たてゝ呑(のむ)細茶(ちやのこ)白礬(みやうばん)を水にて吞(のむ)などいづれも 諸(もろ〳〵)の毒(どく)を解(げ)す  ○諸(もろ〳〵)金瘡(きんさう)の薬《割書:并》介抱(かいはう)の心得(こゝろえ) 一 凡(およそ)金瘡(きんさう)は血(ち)多(おほ)く出るをいむ小なるは指(ゆび)に ておさへて血(ち)を出すべからず大なるは燈心(とうしん)を 【枠外】 広益秘事大全        六十七 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 ○家(いへ)のひろさは常(つね)を本(もと)とし 客(きやく)ある時は少しせばきほどなるが よし但(たゞ)し分限(ぶんけん)によりて礼式(れいしき)の 欠(かぐ)るなどはよろしからず器物(うつはもの)を おく處は随分(ずいぶん)と広(ひろ)きがよし 又少し無用(むよう)の所あるもよし 是(これ)は無用(むよう)の用にて思ひのほか 用(よう)にたつ事あり又 風流(ふうりう)にも見 えておくゆかしきもの也 ○家(いへ)はあまりに高(たか)く作(つく)るべからず 風(かぜ)あて強(つよ)くして破損(はそん)おほし又 床(ゆか)は高きがよし湿気(しつけ)をさけ て病(やまひ)をふせぐ也 ○家(いへ)は陽(やう)にむかひ陰(いん)に背(そむ)くべし 是 自然(しぜん)の理(り)なるうへにたがへば かならず作廻(さくまひ)わろし南(みなみ)は陽(やう)也 北は陰(いん)なり南を表(おもて)にして北を 【左丁頭書】 裏(うら)とすべし家(いへ)の内 明(あき)らかにして 日あたりよく月(つき)にむかひて風(ふう) 景(けい)よしそのうへ夏(なつ)涼(すゞ)しく冬(ふゆ)暖(あたゝ) かなるものなりその次は東(ひがし)を表(おもて) とし西(にし)をうらとすべし東は 陽(やう)なり西は陰(いん)なりもし東を ふさぎて西を明(あく)るときは夏(なつ)は 夕日(ゆふひ)さし入て東風(こちかぜ)入ず冬(ふゆ)は 西風(にしかぜ)吹(ふき)入て朝日(あさひ)ああたらずもし若(もし) 止事(やむこと)を得ずば広間(ひろま)座敷(ざしき)は 西北むきに作(つく)るとも居間(ゐま)は必(かならず) 東南むきにつくるべしこの理(り) にたがへばかならず勝手(かつて)あしき ものとしるべし ○山岸(やまぎし)にそへて家(いへ)を作(つく)るべ からず湿気(しつけ)人の身(み)を犯(おか)して 毒(どく)となる也三四 間(けん)ほども放(はな)ちて 【右丁本文】 【挿絵】 瘡口(きずぐち)にあてておさへ上を布(ぬの)にてまくべし猶(なほ) も大なるは焼酎(しやうちう)暖酒(あたゝめざけ)にて洗ふべしもし酒(さけ) 類(たぐひ)なき所ならば早(はや)く小便(せうべん)をしかけてよし 又 人糞(にんふん)をつくるもよし但(たゞ)し人によりては 【左丁本文】 さやうにもなりがたき事あるべしその時は 何にても金(かね)を火(ひ)に焼(やき)て赤(あか)くなりたるにて 瘡口(きずぐち)へ直(ぢき)にチヨイ〳〵とあつべし是にて血(ち) のとまらぬ事はなきもの也 小創(こきず)は灸(やいと)をす ゑるもよろし血(ち)とまりたる後は鶏卵(たまご)の しろみ黄身(きみ)ともにませて布(ぬの)にひたし瘡(きず)を まき其上を乾(かわ)きたる布(ぬの)にてまきて外科(げくわ) 医者(いしや)の来(きた)るを待(まつ)べし 一 手足(てあし)などの動脈(どうみやく)を切たる時は血(ち)糸(いと)のごとく はしりいでゝいかにしても止(とま)らぬもの也其時は 腋(わき)の下(した)と股(もも)の付根(つけね)に動脈(どうみやく)ある處を強(つよ)く押(おさ) ふれば脈(みやく)とまりて血(ち)はしらずその隙(ひま)に血(ち)を 止(とむ)る術(じゆつ)を尽(つく)して瘡(きず)をまきたてゝよし 【枠外】 広益秘事大全 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 【挿絵】 たつべし又あたらしき壁(かべ)の未(いまだ) 乾(かわ)かざるにその壁(かべ)ちかく居臥(きよぐわ)す べからず中湿(ちうしつ)の憂(うきへ)あるべきなり ふかくつゝしむべし寝所(しんじよ)居室(きよしつ) に近(ちか)く池(いけ)みぞをほるべからず 湿気(しつけ)人身(ひとのみ)に入りて毒(どく)となり 家(いへ)もはやく腐(くさ)るなり石灰(いしばひ)の 小池(こいけ)などは水湿(すいしつ)もれざるゆゑに 【左丁頭書】 近(ちか)くともさしたる害(がい)なし ○居間(ゐま)座敷(ざしき)は晴(はれ)やかにして 心(こゝろ)の伸(のぶ)るやうにすべし学問所(がくもんじよ) 茶室(ちやしつ)などは木を植(うゑ)てこもり やうなるがよし広(ひろ)き間(ま)は折廻(をりまは)し の板椽(いたえん)つきにして戸内(とうち)の障子(しやうし) ある処は柱(はしら)なしにすべし雨戸(あまど)を 障子にそへて付(つく)るはわろし必(かならず) 椽(えん)のはしに付べし ○大和天井(やまとてんじやう)といふは篠竹(しのたけ)をよ くあらひしげく並(なら)べかづらにて 編(あ)みつけ上に筵(むしろ)をしき其上 を土(つち)にてぬりたる也いにしへは 大和の国中(こくちう)皆(みな)かくのことくなり しとぞ家(いへ)つよくしてほこり なく鼠(ねずみ)のうれひなく虫(むし)おちず たとひ屋根(やね)に火事(ひごと)ありとても 【右丁本文】 一 腹(はら)を切損(きりそん)じたる者 腸(はらわた)出て猶(なほ)生(いき)たるあり これを救(すく)ふには冷水(ひやみず)を多(おほ)く面(かほ)へ吹(ふき)かくべし おびえてぶる〳〵とする時 腸(はらわた)おのづから入るなり もし時を過(すき)て風(かぜ)にあたりたるは乾(かわ)きて入 難(がた)き もの也 是(これ)はあたゝめざれば入がたし医者(いしや)にまかす べし又 喉(のど)を刺損(さしそん)じたるは其人を仰向(あふむき)にし 頭(かしら)に枕(まくら)を高(たか)くかひて瘡口(きずぐち)の開(ひら)かぬやうにし 風(かぜ)を防(ふせ)ぎ煖(あたゝ)かにして血(ち)を止(と)め医(い)をまつべし 一 金瘡(きりきず)にて身(み)冷(ひえ)ふるひ気絶(きぜつ)せんとするには 熱(あつ)き小便(せうべん)を吞(のま)しむべしあしげ馬(うま)の糞(ふん)をあつ き湯(ゆ)にかきたてゝ與(あた)ふるもよし 一 諸(もろもろ)の瘡(きず)半夏(はんげ)をすり末(まつ)となしいたむ所へふり かけてよし又 烏賊(いか)の甲(かう)の粉(こ)石灰(いしばひ)の粉なども 【左丁本文】 よろし又 麒麟血(きりんけつ)蒲黄(ふわう)竜骨(りうこつ)なども血(ち)を止 るによし青蒿(かはらよもぎ)紫蘇葉(しそのは)生(なま)にて付るもよし 一 鉄炮(てつはう)にうたれ丸(たま)肉中(にくちう)に止(とゞま)りたるは煖酒(あたゝめざけ)に蜂(はち) 蜜(みつ)を入れて多(おほ)く飲べし又 蓼穂(たでのほ)をすりて 末(まつ)とし苦参(くらゝ)黄柏(わうばく)【「キワダ」左ルビ】の粉をまぜぬり付てよし  ○打撲(うちみ)落馬(らくば)の薬《割書:并》介抱(かいはう)の心得 【挿絵】 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書 下なる器物(うつはもの)を取出しやすし ○家は二階作(にかいづくり)ならば高(たか)くたつ べし低(ひく)きは鬱陶(うつとう)しくてよから ずまた楼(にかい)は見はらしをむねと して何方(いづかた)にても広(ひろ)く見とほ すやうにすべし二かいの窓(まど)のふ ちなどかまち高(たか)きはよからず 坐(ゐ)ながら眺望(ながめ)のあるやうに すべきなり ○屋敷(やしき)の地面(ちめん)は水上(みなかみ)を高(たか)く して水はけのよきやうにす べし悪水(あくすゐ)所々にたまればおの づから湿気(しつけ)の害(がい)ありて病(やまひ)の もとゝなり且(かつ)柱(はしら)などもはやく 腐(くさ)るなり ○こけらぶきの屋根(やね)は大抵(たいてい) 十年にてはくさるものなり膠(にかは)に 【左丁頭書】 明礬(みやうばん)少し加(くは)へて絵(ゑ)のどうさの ことくせんじやねの上にぬり おけば水をはぢきて二十年は くさらず ○茅屋(かやや)をふくに秋刈(あきがり)のかやの 長きをえらびてよく〳〵そろへ なるほど厚(あつ)く念(ねん)をいれてふ かすれば二三十年はこたゆる也 度々 心(こゝろ)をつけてつくろへば五 十年ばかりも持(もづ)ものなり ○茅屋(かやゝ)わら屋 改(あらた)めふかずして 久しくそこねざるふきやうは新(あらた) にふきて四五年の後くさりて ひきくなる所をわらにてもかや にてもさきをまげてさすべし ひきゝ所ばかりさしてはわろし ひきゝ所の下より入てさすべし 【右丁本文】 一 打撲(うちみ)にて気絶(きぜつ)したるは其人を仰向(あふむけ)に臥(ふさ)せ 両耳(りやうみみ)の孔(あな)を力(ちから)にまかせてはたと打 其手(そのて)を 直(すぐ)に押付(おしつけ)てゆるめず眼(め)を開(ひら)くをまちて手(て) を放(はな)つべし又其人の上に跨(またが)りて左右(さいう)の手 にて腹上(はらのうへを)しかと数遍(すへん)なでおろし掌(たなそこ)【「テノヒラ」左ルビ】を臍下(へそのした)に あてウンと息(いき)をつめて一息(ひといき)に上(うへ)へつよくおし 上(あぐ)べし必(かならず)目(め)をひらくもの也其時引おこし項後(えりあと) を強(つよ)く捺(もみ)て背骨(せぼね)をなでおろすべし或は声(こゑ)を たてて呼(よび)いけ背(せな)をつよく打(うつ)もよし必 甦(よみがへ)る也 さて急(きふ)ならば小便(せうべん)を多(おほ)く飲(のま)しむべしされども さやうにもしがたき人には温酒(かんざけ)に飴(あめ)をまぜて のまするもよし瘀血(おけつ)小便(せうべん)に下るなり 一 打身(うちみ)肉ごもりになりたるは接骨木(たづ)【「二ハトコ」左ルビ】蒴藋(にはたづ)【「ソクヅ」左ルビ】 【左丁本文】 いづれにても水にせんじ二三 椀(わん)をのみ且(かつ)痛処(いたみしよ) をたでゝよし又あし毛馬(げむま)の糞(ふん)を熱湯(あつゆ)にた てゝあらふもよし又 蘩縷(はこべ)【「ヒイヅル」左ルビ】の茎葉(くきは)ともにもみ て紺屋(こんや)のりにまぜぬるも妙也 水仙(すゐせん)の根(ね)もよろし 一 打撲(うちみ)痛(いたみ)つよく堪(たへ)がたきは鶏(にはとり)の血(ち)を酒にまぜ てのむべしま又 童便(どうべん)もよろし  ○口中(こうちう)ふくみ薬 一口中はれいたみできものある時は 藜(あかざ)《割書:秋の頃 実(み)と木(き)とひとつに|くろやきにしたる物一匁》桔梗(ききやう)《割書:五分》甘草(かんさう)《割書:同》 右三味粉にしてふくみてよし又方 滑石(くわつせき)甘草(かんさう)二味 末(まつ)にしてさゆにて用ゆ又方 辰砂(しんしや)《割書:中》滑石(くわつせき)《割書:大》甘草(かんさう)《割書:小》三味末して白湯(さゆ)にて用 ゆれば効(こう)あり口中すゞしくなる也 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 かやうにしてしば〳〵つくろへば 数(す)十年もちこたゆる也おほく 腐(くさ)らぬうちにはやくつくろふが よしわらかやの屋根(やね)は葺換(ふきかふ)れ ば黒(くろ)きすゝ庭中(ていちう)にちらぼひて 見苦(みぐる)しく小半年(こはんとし)も過ざれば もとのごとくならぬ物なればなり たけ初(はじめ)に念(ねん)をいれおきて度々 ふきかへぬやうにするがよし さて棟(むね)つまなどには竹(たけ)を編(あみ)て きびしく覆(おほ)ひ風(かぜ)吹(ふ)くをりの 用心(ようじん)をすべし烏(からす)鳩(はと)などのとまらぬ やうに竹(たけ)の枝(えだ)つきをあげおくも よし棟(むね)の口(くち)には瓦(かはら)をおほひたる がよし風にいたまずしてよく持(もち) こたゆるなり ○柱(はしら)は大木(たいぼく)をひき割(わり)たる角柱(かくばしら) 【左丁頭書】 【挿絵】 を用(もち)ゆべし小木の丸柱(まるはしら)は甚だ はやく腐(くさ)るもの也されども坐敷(ざしき) などは丸柱(まるはしら)を風流(ふうりう)として用るが 今世(いまのよ)のさまなればそれに随(したが)ふも 宜しからんか勝手(かつて)まはり土蔵(どさう) などはかならず角柱(かくはしら)にして幾(いく) 年もくさらずもつをよしとすべし 【右丁本文】  ○気歯(きは)のいたみを治(ぢ)する薬 一 気(き)つかへにて歯牙(おくば)のいたむには五倍子(ふし)《割書:六分》ひ はつ《割書:同》干山椒(ひさんしやう)《割書:同》三味常のごとくせんじふくみ てよし又 五倍子(ふしのこ)一味きぬにつゝみ痛(いた)き歯(は)に あてゝ嚼(かみ)しむるも妙なり又方 蒲黄(ほわう)香附子(かうぶし)塩(しほ)《割書:少シ加》つねのごとくせんじ ふくみてよし又方 枯礬(こはん)蜂房(はちのす)おの〳〵等分せんじふくむ又方 石菖蒲(せきしやうぶ)の根(ね)をかみたゞらし虫歯(むしば)の孔(あな)へ入てよし また牛蒡(ごばう)の実(み)を水煎(すいせん)しふくむ又 黒豆(くろまめ)を酒にてせんじふくみてよし石灰(いしばひ)砂(さ) 糖(たう)等分にして歯(は)の穴(あな)へ入るもよし  ○喉痺(こうひ)の薬 【左丁本文】 一 俄(にはか)に喉(のど)ふさがるを喉痺(こうひ)といふ酒に塩少し 加(くは)へ口中にふくみ少しづゝ吞(のめ)ば破(やぶ)れずして 腫(はれ)次第(しだい)にへりてはやくいゆる也又方 赤蜻蛉(あかとんぼう)の黒焼(くろやき)を管(くだ)にて吹(ふき)こむべし奇妙(きめう)に しるしあり又 鳳仙花(ほうせんくわ)の実(み)をのむもよし  ○喉(のど)に食(しよく)つまりたるを治(ぢ)する方 一 飯(めし)を食(しよく)する時 喉(のど)につまり難義(なんぎ)する時は 塩(しほ)を少し箸(はし)につけなめてよろしまた 茶漬(ちやづけ)のつまるは湯水(ゆみづ)にては下(くだ)らぬものなり 酢(す)を飲(のみ)てよろし妙なり  ○湿気(しつけ)の妙薬 一大なる蝦蟇(ひきがへる)【左ルビ「ガマ」】を土(つち)につゝみ黒焼(くろやき)にして七日 が間 朝夕(あさゆふ)酒にて用ゆべし大に奇効(きこう)あり 【枠外】 広益秘事大全        七十一 【枠外】  広益秘事大全 【右丁頭書】 ○材木(ざいもく)は檜木(ひのき)を上とすうつく しくして腐(くさ)ること遅(おそ)し杉(すぎ)これに 次(つ)ぐ然(しか)れども木(き)柔(やはらか)にしてきず つきやすし松(まつ)は下等(げとう)也こえたる 松を用ゆればいたつて強(つよ)しされど 脂(やに)出て堪(たへ)がたしこえざるは大に よわし湿気(しつけ)のつよき所には 栗木(くりのき)を用ゆべし大につよくして 腐(くさ)ることなし櫪(くぬぎ)は虫(むし)はみて早 く用にたゝぬなり ○/𤇆(けふり)出(だ)しの穴(あな)は竈(かまど)の真上(まうへ)にあ くべしわきへよれば煙(けむり)滞(とゞこほ)りて 速(すみやか)に出がたし ○土蔵(どざう)を造(つく)るにはいかにも土(つち)を 厚(あつ)くつけて火のとほらぬを第一 とすべし屋根(やね)をも壁(かべ)と等(ひとし)く ぬりふさぎて別(べつ)にこけら屋根(やね)を 【左丁頭書】 かりにおほひたるもよし火事の 時 投(なげ)おとして土屋根(つちやね)ばかりにすれ ば火(ひ)のとほる事なし戸窓(とまど)は 中にも土を手あつくつけて念(ねん) を入るべしわづかの事にて戸窓(とまど) よりは火の入やすきものなり 又つねに家(いへ)にちかき方(かた)に物を多(おほ) くおくべからす火内に入ざれ共【共に濁点】 むせてこがるゝもの也又 土蔵(どざう)は 石垣(いしがき)を高(たか)く築(つく)べからず恰好(かつこう)は よけれども鼠(ねずみ)蟻(あり)などの穴(あな)より 火を引(ひく)ことはやし若(もし)高(たか)くする とも石垣(いしがき)の上をも土(つち)にてぬりて おくべし石垣(いしがき)より火の入たるを 度々(たび〳〵)見たる事ありさてまた 坐(ざ)の下に小き穴(あな)をあけおく時は 風(かぜ)とほりて木柱(きはしら)のくさる事なし 【右丁本文】 【挿絵】  ○深山(しんざん)瘴気(しやうき)をはらふ方 一 深山(みやま)に入る人は大蒜(おほひる)【左ルビ「ニヽク」】搗(つき)くだきて雄黄(をわう)を 加へ餅(もち)のことく丸(まる)めて身(み)につくべし一切(いつさい)の 瘴気(あしきき)をはらひ毒虫(どくむし)悪獣(あくしう)を避(さ)く若(もし)傷(きずつ)く事 あらばその瘡(きず)につけて即効(そくこう)ありすべて此方 流疫行(はやりやまひ)また寒暑(かんしよ)のあしき気(き)をさくる事妙也 【左丁本文】  ○蝮蛇(まむし)【左ルビ「ハミ」】に囓(かま)れたる薬 一 蝮蛇(まむし)にさゝれたるには柿渋(かきしぶ)を塗付(ぬりつけ)てよし 串柿(くしがき)をかみくだき醋(す)にて付ても妙なり又方 野猪(ゐのしゝ)の心(きも)を乾(かわか)しおき粉(こ)にして付(つけ)或はせんじて あらふもよし又一方 咬(かま)れたる時 急(きふ)に烟管(きせる)の 厂首(がんくび)にてきびしく疵口(きずぐち)をおほひ力(ちから)をきはめて おし付て放(はなた)ざればしはしの間に肉(にく)腫(はれ)あがりて 厂首(がんくび)の内一はいになる其時 小刀(こがたな)にて截割(きりさき)て 悪血(わるち)を多くしぼり出すべし又 鉄炮(てつはう)の薬(くすり)を 咬(かみ)たる處(ところ)の大さほともり置(おき)て火(ひ)をつくるもよし 其後(そのゝち)小便(せうべん)にて疵口(きずぐち)をあらひ又は糞(くそ)をつけて 上をまき家(いへ)にかへりて酒(さけ)にてあらひおとして後 熱湯(にえゆ)に灰(はひ)の塊(かたまり)をいれ傷處(いたみしよ)を漬(ひた)すべし初(はじめ)はあつ 【枠外】 広益秘事大全       七十二 【枠外】  広益秘事大全 【右丁頭書】 されども火事(くわじ)の時 此穴(このあな)をぬる ことを忘(わす)るべからず ○火事(くわじ)の用心(ようじん)に常(つね)に泥(どろ)をた くはへおくべし瓶(かめ)入ればよけれ ども俄(にはか)なる時にもちあつかひにく し又 費(つひえ)も多(おほ)くかゝるなれば酒樽(さかだる) の四斗桶(しとおけ)に入おくもよし口(くち)まで つめおけば長(なが)くもつもの也さて 【挿絵】 【左丁頭書】 事(こと)に臨(のぞ)みて輪(わ)を切(きり)はなせば桶(をけ) くだけて泥(どろ)早(はや)くいづる也これにす さを合せて少しかたきほどにして ひたもの土蔵(とざう)の戸窓(とまど)をぬるべし かたきほどならねば土(つち)すべり落(おち)て ぬり付がたきもの也此土 寒(さふ)き国(くに) にては冬(ふゆ)は氷(こう)りて用(よう)に立(たち)がたし 土をふかくほり水ぬきをつけて かり屋根(やね)をこしらへ貯(たくは)へおくべし ○蔵(くら)はねりへい蔵を第一(だいゝち)とす べし見くるしけれど火の入ると いふ事さらになし柱(はしら)なしに土ばか りにて築上(つきあげ)たる物にて灰小屋(はひこや) のごとき物なり下(した)に一尺ほど石(いし) 瓦(かはら)の類(たぐひ)にて台(だひ)をつきあげそれ より段々(だん〳〵)上(うへ)へ築上(つきあぐ)るなり一段 づゝにて上に苫(とま)をおほひおきよく 【右丁本文】 きを覚(おほ)えざるべし熱(あつ)きを覚(おぼ)ゆれば毒(どく)浅(あさ)くなり たる也ひたものひたして堪(たへ)がたきほどにして止(やむ) べし其後に雄黄(はわう)五霊脂(ごれいし)を粉(こ)となし馬歯莧(すべりひゆ) のしぼり汁にてとき瘡口(きずぐち)をよけてまはりにぬり 上をつゝみおくべし又右の二味を酒(さけ)にて酔(ゑふ)ほどに 内服(ないふく)すべしいつれの薬(くすり)を用ひたる後にても 酒(さけ)を酔(ゑふ)ほどにのみてよし 又 急(きふ)なる時は烟管(きせる)を火にて焼(やき)やにのわき流(なが)るゝ を直(すぐ)にきずの上にそゝぎかけて熱(あつ)きを忍(しの)ぶべし 多(おほ)くかくるほどよし  ○蜂(はち)に螫(さゝ)れたる薬 一 蜂(はち)にさゝれたるは明礬(みやうばん)を生(なま)の天南星(てんなんしやう)の汁 へいれてあらふべし又 葱(ねぎ)の白根(しろね)を敷(しき)て灸(きう)を 【左丁本文】 するもよし又 朝貌(あさがほ)の葉(は)蒼茸(をなもみ)の葉(は)蓼(たで)の葉 薄荷(はくか)の葉 山椒(さんしやう)の葉などすり付るみな妙なり 塩(しほ)をぬり熱湯(あつゆ)にひたすなどもよし  ○毛虫(けむし)にさゝれたる薬 一 伏龍肝(ふくりうかん)《割書:竈(かま)の下(した)の|やけ土なり》を水にてつけてよし馬歯莧(すべりひゆ) をつきて付るもよしその外 藍(あゐ)の汁(しる)雪(ゆき)の下草(したぐさ) の葉(は)の汁 呉茱茰(こしゆゆ)【左ルビ「グミ」】の葉など諸虫(しよちう)のさしたるに つけて妙なり  ○蜈蚣(むかで)にさゝれたる薬 一むかでのさしたるには鶏卵(たまご)をぬりてよしまた 蛞蝓(なめくじり)蝸牛(てゝむし)などをつぶしてぬるも妙なりまた 蒜(にゝく)蓼(たで)の葉 塩(しほ)などいづれもよろし又 蜘蛛(くも)を とらへて瘡(きず)の處におけば蜘蛛(くも)おのづからその毒(どく) 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 乾(かわ)きて又 築(つ)くなり若(もし)急(きふ)なる 時は二三段づゝも築(つか)るゝ物なれど さやうにしては湿気(しつけ)去(さり)がたくして よわしさて築上(つきあげ)て湿(しめり)よく〳〵 かわくを見てやねを葺(ふく)べし やねも五寸ばかりのあつきに土を つけて其上に瓦(かはら)をふく也 屋根(やね) 下は厚板(あついた)を用ゆべしこれを内(うち) 外(そと)より上塗(うはぬり)をし戸窓(とまど)のすき 間(ま)なきやうにしておけばいかなる 大火(たいくわ)たりとも火の入る事 絶(たえ)て なし大暑(たいしよ)と大寒(たいかん)の時には つくべからず春(はる)は三月より梅雨(つゆ) の前(まへ)秋(あき)は七月 末(すゑ)より十月末ま でにつくべし ○諸(もろ〳〵)の材木(ざいもく)は切(きり)てそのまま皮(かは)を むき久しく水(みづ)に漬(ひた)しおきて用 【左丁頭書】 ゆるをよしとす皆(みな)虫(むし)をさくるの 術(じゆつ)なり又六月 土用中(どようちう)に伐(きり)たる 木には虫(むし)入らず ○狭(せば)き家(いへ)にて椽(えん)近(ちか)く小便所(せうべんじよ)を 造(つく)らば瓶(かめ)をほりすゑ上戸(じやうご)の穴(あな) より細(ほそ)き箱(はこ)か竹にてもとほし 瓶(かめ)の中へおろし其外をば瓶(かめ)に 蓋(ふた)をして臭気(しうき)のもれぬやう に作(つく)り構(かま)ふべし上戸(じやうご)の口には 杉(すぎ)の葉(は)を入れたび〳〵取かへて よろし坐敷(ざしき)ちかき厠(かはや)小便(せうべん)所 などは殊(こと)に心をこめて清浄(しやう〴〵) にすべき事也 厠(かはや)にも蓋(ふた)をして すき間(ま)をよくふさきおくべし 臭気(しうき)もれずしていさぎよし ○居間(ゐま)の内(うち)は風雅(ふうが)にして飾(かざり)なく いさぎよきをむねとすべし飾(かざ)り 【右丁本文】 を吸(すひ)出して痛(いたみ)やむなり ○牛(うし)馬(うま)に噛(かま)れたる薬 一 牛馬(ぎうば)にかまれたるは急(きふ)に灰(はひ)を熱(あつ)き湯(ゆ)の中へ いれ湯(ゆ)のさめぬやうにしてひたもの漬(ひた)すべし 若(もし)腫(はれ)あらば石を炙(あぶり)あつくして熨(の)すべしまた 白砂糖(しろざたう)鶏冠(にはとりのさか)の血(ち)なとぬるもよろし 【挿絵】 【左丁本文】  ○鼠(ねずみ)に咬(かま)れたる薬 一 鼠(ねずみ)の中に一種(いつしゆ)の毒鼠(どくそ)あり若(もし)これに咬(かま) るゝ時は傷(きず)は愈(いゆ)れども毒気(どくき)惣身(さうしん)にまはりて 後(のち)竟(つひ)に大熱(だいねつ)を発(はつ)し狂(くる)ひまはりて死に至る ものまゝあり恐(おそ)るべしこれを療(りやう)ずるにはまづ 急(きふ)に鉄砲薬(てつはうぐすり)を傷(きず)の上におきて火(ひ)をつくれば 毒(どく)散(ち)るなり其後に麝香(じやかう)をぬりつけて白(しろ) つゝじの花(はな)又は千屈菜(みそはぎ)をせんじて服(ふく)すべし もし急(きふ)に焔硝類(えんしやうるい)なき時はよく血(ち)をしぼり出 し又は熱湯(ねつたう)にひたして後 牽牛(あさがほ)の葉(は)または 桐木(きりのき)の黒焼(くろやき)なべすみなどなどをつけてよし黏(とりもち) におしまぜて付(つく)るをよしとすまた黄栢(わうばく)石灰(いしばひ) 蛎(かき)の粉(こ)三味 蘩縷(はこべ)【左ルビ「ヒイヅル」】の汁にてつくるもよし 【枠外】 広益秘事大全      七十四 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 【挿絵】 彩(いろど)りて花麗(くわれい)なるは常(つね)にこれを 見て欲心(よくしん)ふかくなり災(わさはひ)となると 居家(きよか)必用(ひつよう)にいへりさもあるべし ○畳(たゝみ)は廻(まは)り敷(じき)にすべし床(とこ)の前(まへ) は横(よこ)にしくべし横畳/四畳(よでう)は並(なら) ぶべからず ○居間(ゐま)と閨(ねや)との庭(には)にはいやしき 雑木(ざふぼく)を植(うへ)べからずよき木を 【左丁頭書】 少しうゑて文石(ぶんせき)を以て友(とも)とす べし ○居間(ゐま)の軒(のき)ちかく草木(さうもく)を多 く植(うゝ)れば陰気(いんき)ふかく夏秋(なつあき)の ころ豹脚(やふか)おほく昼(ひる)もいでゝ 人の肌(はだへ)を食(くら)ひて堪(たへ)がたし ○家の北の境(さかひ)には竹をうゝべし 北風をふせぎて冬(ふゆ)暖(あたゝか)なるに 火災(くわさい)の用心(ようじん)ともなるなり西に 植(うゝ)るも又よし夏(なつ)は日をふせぎ 冬(ふゆ)は風をふせぐなり ○宅地(たくち)広(ひろ)くば棟(むね)を二ッ三ッに もわけて廊下(らうか)をかくべし風流(ふうりう) にして見處(みどころ)あり又/明(あか)りの為(ため)に よろしく煩雑(はんざつ)の音(おと)聞えず して都合(つがう)よしもし廊下(らうか)を 費(つひえ)なりとおもはゞそのうらの方(かた) 【右丁本文】  ○病狗(やまいぬ)にかまれたる薬 一/狗(いぬ)にかまれたるも大事(だいじ)にいたる事あるもの也 急(きふ)に瘡口(きずぐち)より血(ち)をしぼり出し或は鍼(はり)にてその 囲(まはり)の血(ち)をさして出し人に小便(せうべん)を多(おほ)くしかけ さすべし大勢(おほぜい)立代(たちかは)りてかくるほどよし其後 胡桃(くるみ)の殻(から)を二ッにわりて人糞(にんふん)をつめ傷(きず)の上へ おほひふせて其上に大なる灸(きう)百ばかりすう べし胡桃(くるみ)なき時は何(なに)にてもがわになる物をおき て糞(ふん)をつめ其上に灸(きう)する也其後/杏仁(きやうにん)をすり て泥(どろ)のごとくし厚(あつ)くつけてぬり封(ふう)じ木綿(もめん)にて しかとつゝみ巻(ま)くべし血(ち)は流(なか)れ出るほどよし さて翌日(よくじつ)杏仁(きやうにん)を去(さり)て又前のごとく灸(きう)をし 膽礬(たんはん)を末(まつ)とし瘡口(きずぐち)へふりかけつゝみおき其後(そのゝち) 【左丁本文】 は毎日(まいにち)膽礬(たんはん)を酒(さけ)にてあらひおとして灸(きう)し 灸しては又/膽礬(たんはん)をかけ血水(ちみづ)出る間(あひだ)はいつまでも 如是(かのごとく)すべし血水(ちみづ)止(やみ)たらば再(ふたゝび)前(まへ)のごとく杏仁(きやうにん) をぬりておくべし《割書:膽礬のいたみにたへがたき人は杏仁ばかり|にてもよし又/葱(ねぎ)の白根(しらね)もよし》 内薬(ないやく)は杏仁(きやうにん)一匁/馬銭(まちん)五分水/二盃(にはい)を一盃にせんじ 少しづゝ度々(たび〳〵)のむべしさて韮(にら)をつきしぼりて その汁を一/盃(はい)ヅヽ五六日に一度のむべし 又方/防風(ばうふう)升麻(しやうま)葛根(かつこん)甘草(かんざう)《割書:各三分》杏仁(きやうにん)《割書:壱匁五分》右 のごとくせんじて服(ふく)す尤(もつとも)効(こう)ありまた蝦蟇(ひきがへる)【左ルビ「ガマ」】を生(なま) にて皮(かは)を去(さり)膾(なます)として柚橘(ゆみかん)の類(るい)をあしらひ多(おほ)く くらふもよし  ○同禁忌(おなじくきんき)の心得 一/病狗(やまいぬ)にかまれたる人はきびしく養生(やうじやう)すべし 【枠外】 広益秘事大全      七十五 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 の庇(ひさし)を長くして湯殿(ゆどの)雪隠(せついん)又 少しづゝの物置(ものおき)處にすべし ○居風呂(すゑふろ)の木はむろの木また 槙(まき)榧(かや)くさまきを用ゆべし香(かう) 気(き)ありて水につよし又 湯風呂(ゆぶろ) はかた隅(すみ)へよせたるはくさりはやし 四方(しはう)ともに風のとほるをよし とすべし ○生垣(いけがき)は杉(すぎ)の生(いけ)がきよろし 小冬青樹(かもみのき)の生垣(いけがき)亦(また)よしいづ れも茂(しけ)くうゑてきびしく ゆひ梢(こずゑ)を伐(きり)そろゆればさかえ 茂(しげ)りて枝葉(えだは)おほく壁(かべ)のごと くになるものなり山梔子(くちなし)の 生(いけ)がき又よろし萩(はぎ)寒竹(かんちく)など 此余(このよ)も葉(は)のしげき物を植(うゝ)べし 外に池堀(いけほり)などある處 尤(もつとも)よし 【左丁頭書】 天気(てんき)の善悪(よしあし)を見様(みやう) 天気(てんき)のよしあしを見る法 昔(むかし)より おほしといへどもおほかたは無用(むよう) の事(こと)のみにして中(あた)ること少し 今(いま)こゝに挙(あぐ)るところはその験(しるし) あるかぎりの事どもを和漢(わかん)の 書(ふみ)より引出(ひきいて)て考(かんが)へ記(しる)したるなれ ば第一(だいゝち)船(ふね)にのり道(みち)を行(ゆ)く時の こゝろ得あるひは農業(のうげう)漁猟(ぎよれう)など の事に知(しり)おきて益(えき)を得(う)ること 多(おほ)かるべし ○雨(あめ)と晴(はれ)とを知(し)るには其(その)日(ひ) 暁(あかつき)の天気(てんき)と日(ひ)の出る時を伺(うかゞ)ふ べし日の出る時 赤(あか)きは風(かぜ)黒(くろ) きは雨 青(あを)く白(しろ)きは風雨(ふうう)と しるべし又日のいづる時はれて 【右丁本文】 第一(だいゝち)毎日(まいにち)灸(きう)する時 風(かぜ)をさくべし風 瘡(きず)口より入れば 変(へん)しで【じてヵ】急症(きふしやう)となり死(し)に至(いた)る或は犬(いぬ)の如(ごと)く吼(ほえ)た けりて狂(くる)ひ死(し)するあり慎(つゝし)むべし食物(しよくもつ)は 犬肉(いぬのみ)《割書:一生喰ふ|べからず》 赤小豆(あづき) 蕎麦(そば)《割書:三年の間|食ふべからず》 酒(さけ)《割書:一年のむ|べからず》 胡麻(ごま) 麻子(をのみ) 索麺(そうめん) 芋(いも) 油揚(あふらあげ)の類(るい)一切(いつさい)醋(す)のもの 魚類(うをるい) 梅(むめ)《割書:百日の間この品々|くらふべからず》 右の物(もの)食(くら)へば忽(たちまち)死(し)すべし 【挿絵】 【左丁本文】 ゆめ〳〵慎(つゝし)みて妄(みだり)にすべからず若(もし)再発(さいほつ)する時は いかなる名医(めいい)たりとも救(すく)ふべきやうなき物也  ○瘤(こぶ)ぬき薬 一 白蛇(はくじや)《割書:一両 黒焼(くろやき)|にして》 一 檜木(ひのき)の皮《割書:一両》 右(みぎ)二色(ふたいろ)合(あは)せ天南星(てんなんしやう)を粉(こ)にし少(すこし)づゝ加(くは)へて漆(うるし)にて 付(つく)べし ○鼻血(はなち)を止(とむ)る法 一 鼻血(はなち)多(おほ)く出るとも椶梠箒(しゆろはうき)のさきを切(きり)出る方 の鼻穴(はなのあな)へさし込(こむ)べし左右(さいう)共に出るならば左右へ さし込べし頓(とみ)に止(とま)る事 神(しん)のごとし  ○腫物(しゆもつ)の出来所(できどころ)あしきは他所(たしよ)へのくる法 一 萆麻子(ひまし)の油(あぶら)  一 甘草(かんざう)の粉(こ) 右二 味(み)ねり合せ腫物(しゆもつ)には押薬(おしぐすり)を付(つけ)よせんと思ふ 【枠外】 広益秘事大全      七十六 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 やがて陰(くも)りて晴(はれ)ざるは風雨 となるべし ○数日(すじつ)雨ふりて後(のち)日出て はやく晴(はる)るはかへつて雨ふる 朝(あさ)くもりてやう〳〵遅(おそ)く晴 るはよし ○明日(あす)の日和(ひより)は今晩(こんばん)の日の 入る時に見るべし日の入る時 よく照(て)るは晴(はれ)雲(くも)の中(うち)に日 入るは夜半(よなか)の後(のち)に雨となる 然(しか)らずは明日(あす)かならずふる也 日入て後やうやく紅粉(べに)の ごとくにしてやがて色(いろ)かはるは 風ふきもしくは雨ふる日の入る 時 雲(くも)赤(あか)けれども其色(そのいろ)か はらず漸(やう〳〵)うすくなりて消(きゆ)る はよし黒雲(くろくも)日の入につゞくは 【左丁頭書】 明日 天気(てんき)よからず西に黒雲(くろくも) あれども日の入る時雲なく 日のかたち見えて入れば明日 も雲はれて天気よし ○赤(あか)き雲気(うんき)日の上下にある 時は大風ふく但(たゞ)し色(いろ)変(へん)ぜず してやうやく薄(うす)くなるときは 晴てまた風もふかず日の色 黄(き)に見ゆるは風なり ○白気(はくき)日月の上下にひろく しくは三日の内に悪風(あくふう)雨あり ○日に耳(みゝ)あるに南にあるは 晴(はれ)北にあるは雨 両方(りやうはう)に耳あ るときは雨なし又耳ながく して下へたるゝは久しく晴と 知るべし ○月(つき)に暈(かさ)あるは風かならず 【右丁本文】 所(ところ)に鍼(はり)を浅(あさ)くたて鍼(はり)の口(くち)に右の葉を付ておけ ば其所(そのところ)へよるなり但(たゞ)し色(いろ)のつかぬ中(うち)にのくる也  ○腫物(しゆもつ)押(おし)薬 一 犬山椒(いぬさんしやう)の若葉(わかば)を陰干(かげぼし)にして粉となし天南(てんなん) 星(しやう)三分一入て梅酢(むめず)か米(こめ)の酢(す)にて付べし  ○疵(きず)癒(いや)し薬 一 水仙(すいせん)の根(ね)を摺(すり)て付べし忽(たちま)ちいゆる事 妙(めう)なり  ○瘤(こぶ)落(おと)し薬 一 丹礬(たんはん)をこよりにより込(こみ)瘤(こぶ)を結(むす)びおくべし 自然(しぜん)にだん〳〵としめよせ終(つひ)に落(おつ)るなり  ○餅(もち)の咽喉(のど)につまりたるを治(ぢ)する方法 一 土龍(うころもち)を黒焼(くろやき)にして吞(のま)すべし頓(とみ)に下るなり 又ぢわうせんをくふべし通(とほ)るなり 【左丁本文】  ○打撲(うちみ)の薬 一 温飩(うんどん)の粉(こ) 一 楊梅皮(やうばいひ)【「ヤマモヽノカハ」左ルビ】 一 石灰(いしばひ) 右三味 等分(とうぶん)に合せそくひにてねり丸(ぐわん)し吞(のむ)べし もし急(きふ)なる時は右の散薬(さんやく)【「コクスリ」左ルビ】 を水(みづ)にて用(もち)ゆ  ○手足(てあし)を折(くじ)きたる薬 一 水仙(すいせん)を根(ね)葉(は)ともに黒焼(くろやき)にして梅干(むめぼし)とそくひ におし合(あは)せ付べし又 芭蕉(ばせを)を根(ね)葉(は)ともに粉(こ)にし そくひにおしまぜ付るもよし  ○同 骨(ほね)砕(くだ)けたるには 一 楊梅皮(やうばいひ)を煎(せん)じてよくたで洗(あら)ひ其(その)滓(かす)を よくすりて違(ちが)ひたる所に付て置べし一時(ひとゝき)ばかり ありて砕(くだ)けたる骨(ほね)もなほりちかひたる所も速(すみやか) に癒(いゆ)るなり《割書:石菖蒲(せきしやうぶ)を根葉ともにせんじて|あらふもよし》 【枠外】 広益秘事大全     七十七 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 暈(かさ)のかげたる方(かた)より来る ○月初(つきはじめ)二日三日まで月見え ざればその月風雨しげし ○新月(しんげつ)下へそりてかけたる弓 のごとく上にたまりなきは其 月雨すくなくかぜ風(かぜ)多(おほ)し仰(あふ)のき て上にたまりあるは其月(そのつき)雨多 し新月(しんげつ)の下に黒雲(くろくも)横(よこた)はるは 明日雨ふる ○月はじめて生(しやう)じ形(かたち)小にして はゞ大なるは水のわざはひ有 かたち大にしてはゞ小なるは 三日のうちに雨ふる ○白気(はくき)月をつらぬくは夏(なつ)は 大水(おほみつ)秋は風ふく黒気(こくき)月を つらぬくは夏(なつ)は大水春秋も水 又は陰(くも)ると知べし 【左丁頭書】 ○月の傍(そは)に黒雲(くろくも)おこるは大 水月の上下 黄(き)なる雲くらく 覆(おほ)ふはお大風 ○日の色(いろ)白(しろ)く夜(よる)月の色(いろ)赤(あか)き は旱(ひでり)せんとする兆(きざし)なり日の色 あかく夜(よる)月の色白きは雨の兆(きざし) なり又日の色 青(あを)く夜月の色 青きは寒(かん)の兆(きざし)なり 【挿絵】 【右丁本文】  ○痣(あざ)ぬき薬 一六月に藜(あかざ)をとり黒焼(くろやき)にして石灰(いしばひ)と砥(と)石と 三色合せ壷(つぼ)に入れ水を浸々(ひた〳〵)に入れ其内(そのうち)へ 餅米(もちごめ)をいれ夏(なつ)は日に干(ほ)し冬(ふゆ)は竈(かまど)の際(きは)に置(おき) 米とろけたる時 竹箆(たけべら)にて痣(あざ)をこそげ血(ち)を出し 其上に右の薬をぬり紙(かみ)を蓋(ふた)にして付おくべし 落(おつ)ること妙(めう)なり《割書:疣(いぼ)ほくろ共に此方にてみなおつる也》  ○癜(なまず)を治(ぢ)する薬 一 蛇脱(へびのきぬ)を焼(やき)酢(す)にてつけてよし紫癜(くろなまず)は硫黄(いわう)を 酢(す)にて煮(に)て茄子(なすび)のへたに浸(ひた)して頻(しきり)に付べし 蛇脱を水にてせんじ洗(あら)ひてもよし白癜(しろなます)は肉(にく) 桂(けい)を末(まつ)として唾(つば)にて付てよし  ○虫喰歯(むしくひば)を治する薬 【左丁本文】 一むしくひ歯(ば)にて難義(なんぎ)なる時は天南星(てんなんしやう)を粉(こ)に して大根(だいこん)のしぼり汁(しる)にて一滴(ひとしづく)のべていたむ方 の耳(みゝ)へ入(いる)れば忽(たちま)ちに痛(いたみ)やむ若(もし)両方(りやうはう)ながら いたむときは両方(りやうはう)の耳(みゝ)へ入るなり  ○同まじなひの法 一 芹(せり)《割書:白根(しらね)を去(さり)て|一にぎり》  一 甘草(かんざう)《割書:少(すこし)》 右(みぎ)常(つね)のごとく一盃半(いつはいはん)を一盃(いつはい)にせんじあげ口(こう) 中(ちう)にふくみてよし又 伊勢白粉(いせおしろい) 蒜(にゝく)二味を 蜆貝(しゞみかひ)一はいに入 手(て)の大指(おほゆび)手くびの間(あひだ)の陷中(くぼみ) 【手の絵】此(この)●点(てん)の處(ところ)《割書:指(ゆひ)をそらせば|くぼみできる也》へ右の貝(かひ)をおし つけおき上をよくくゝりおけば治(なほ)ること妙なり 但(たゞ)し虫(むし)くひ歯(は)左(ひたり)ならば右(みぎ)右ならば左 両方(りやうはう)な らば両方どもくゝり付てよし 【枠外】 広益秘事大全         七十八 【枠外】 広益秘事大全 【右丁頭書】 ○雨後(うご)に天くもりてもたゞ 一星(いつせい)見ゆればその夜かならず はれて明日も天気(てんき)よし 又 星(ほし)の光(ひかり)きら〳〵として定(さだ) まらざるは風又は雨也 夏夜(なつのよ) 星おほきは明日あつし ○久雨(きうう)の時 暮(くれ)かた俄(にはか)に雨 止(やみ) 雲ひらき満天(まんてん)星(ほし)みゆるは 其夜(そのよ)に天気あしくなり明日 はかならず雨ふる星(ほし)つねよ り大に見ゆるは雨なり ○日の暈(かさ)は雨ふる兆(きざし)なり但(たゞ)し 朝日(あさひ)にかさありてやうやくに さゆるときは晴なり ○日の暈(かさ)青(あを)く赤(あか)きは大風 赤きは旱(ひでり)白きは風雨 黒(くろ)きは 大水 紫(むらさき)は大旱なり 【左丁頭書】 ○月の暈(かさ)は雨 黒気(こくき)あるも雨 しかれども春霞(はるがすみ)花曇(はなくもり)など いふことのあればたとひ暈(かさ)あり ても雨ふらざる事あり ○月のかさは必(かなら)ず中天(なかぞら)にある 時なり十五日の前後(ぜんご)七八日よ り廿ニ三日の間に有て月の はじめをはりにはなし月のか さ一方かけたるは風なり忽(たちま)ち に消去(きえさ)るは晴なりおよそ暈(かさ)は 其所によりてこれあり世上(せじやう)一 時にはなきものなり ○七八月の比(ころ)大風(おほかぜ)ふかんとては かならず虹(にじ)のごとくにして切(きれ)たる 雲たつこれを颶母(ばいも)といふ ○冬(ふゆ)日くれて風 和(やは)らかになる時は 明朝(みやうてう)又風はげしくなる 【右丁本文】  ○魚毒(ぎよどく)を消(け)す法 一 橄欖(かんらん)といふ木を用(もち)ひて即効(そくこう)あり唐(から)にて 舟(ふね)の梶(かぢ)につくる木なり渡海(とかい)する時 毒魚(どくぎよ)の類 もしこれにかゝり触(ふる)るときは魚(うを)消失(きえうす)るといへり 又 魚鳥(ぎよてう)の骨(ほね)肉(にく)にたちたるには梅干(むめぼし)を煮(に)たゞ らし其汁(そのしる)にて象牙(ざうげ)の粉(こ)をねりてあつく 付てよし  ○喉(のど)に物のたちたるを治する法 一 宿砂(しゆくしや)《割書:大》  一 甘草(かんさう)《割書:小》  此(この)二味(にみ)を煎じ 用れば何のとげにてもぬける事妙なり 一 喉(のど)腫(はれ)痛(いた)むには糸瓜(へちま)の黒焼(くろやき)を酒にて用ゐ てよし若(もし)酒(さけ)きらひの人は白湯(さゆ)にてもよし 又 喉(のど)に物(もの)出来(でき)たるにはほうせん花(くは)の実(み)を吞(のみ)て 【左丁本文】 よし治(ち)する事妙なり  ○瘧(おこり)の呪術(まじなひ) 瘧(おこり)は呪術(まじなひ)の尤(もつとも)験(しるし)あるものなり疑(うたが)ふべからず 一方 【鬼の字3個】かくのごとく紙(かみ)に書(かき)つけ早天(さうてん)に井(ゐ) の水(みづ)を汲上(くみあ)げアビラウンケンソハカと三遍(さんべん)唱(とな) へその水にて吞(のみ)てよし又方   一葉(いちえう)のおつるは舟(ふね)のおこりかな といふ事を何遍(なんべん)もかきその上へかき〳〵して符と なし朝(あさ)人(ひと)のいまだ汲(くま)ざる井水(ゐのみづ)にていたゞか すればおつる事妙也  ○同妙薬 一 巴旦杏(はだんきやう)【「アメンドウス」左ルビ】《割書:壱匁》  一 甘草(かんざう)《割書:壱分》 右二味を刻(きざ)みおこり日の朝 早天(さうてん)に人の汲(くま)ざる水 【枠外】 広益秘事大全       七十九 【右丁頭書】 ○日のうちに風(かぜ)おこるはよし 夜(よる)変(おこ)るはわろし日のうちに風 やむはよし夜半(やはん)にやむはわろし これは寒天(かんてん)のときの事なり ○東風(こち)急(きふ)なるは蓑(みの)笠(かさ)を備(そな)ふ べし東北風も雨 南(みなみ)風はその日 たちまちに降(ふら)ず明る日かその 暮(くれ)にか必(かなら)す雨ふる西風北風は おほくは晴也北風は西風より いよ〳〵よし但(たゞし)春(はる)北風ふけば 時雨(しぐれ)おほし秋は西風にて雨ふる 南風は四時(しじ)ともに雨ふる南に 海(うみ)ある所は南風にも雨ふらず といふ所あり東に海(うみ)をうけ たる所も同じ乾(いぬゐ)風はかならず はるゝゆゑにいぬゐ風を日吉(ひよし) といふとぞ 【右丁本文】 を食椀(めしわん)に一はい入れ半分(はんぶん)にせんじたとへば日(につ) 中(ちう)におこるならば其前(そのまえ)までに残(のこ)らず用ゆべし 又方 一 辰砂(しんしや)  一 阿魏(あぎ)《割書:各等分》 右 糊(のり)にて大豆(だいづ)ほどに丸(ぐわん)じ一粒(いちりう)づゝおこる日の朝 用ゆべし又方 一 檳榔子(びんらうじ) 一 草菓(さうくわ) 一 川芎(せんきう) 一 百芷(びやくし) 一 青皮(しやうひ)  一 紫蘇(しそ) 一 半夏(はんげ) 一 良姜(りやうきやう) 右 常(つね)のごとく煎(せん)じ用ゆ《割書:熱(ねつ)つよきは|姜(きよう)を除(のぞ)く》又方 一 牛膝(ごしつ)  一 蕺薬(ぢうやく) 右二味をすり丸(ぐわん)じ早天(さうてん)に五粒用ゆ千日になる 瘧(おこり)たりとも落(おつ)べし又 落(おち)かぬるに 一 馬鞭草(ばべんさう)《割書:中》一 木香(もくかう)《割書:中》《割書:落兼る時は|大にくはふ》一 甘草(かんざう)《割書:少》 右つねのごとく煎(せん)じ用ゆ 【左丁 白紙】 【右丁白紙】 【見返】 特1 206 【裏表紙】