【表紙 題箋】 団十郎蓬芥伝 【管理ラベル】 京 乙 112 特別 【見返し】 団十郎蓬芥傳 【資料整理ラベル 右上】 京 乙 特別【朱印】 112 【同 中央】 東京図書館 一冊 一一二号 四架 京乙函 そのむかし江州あさいごほり 伊吹山に浅井太郎といふもの のふあり一人のひめをもつ つねにかりをこのみふ しつといふいぬを あいす 此ちかきにとれ ゐぶき三郎 といふもの 此ひめに心 をかくる 【挿絵内せりふ】 あの妓はまだ入ふだ はあるまい とうそわ れらかほうへくるめ たいものた とうやき【唐焼】 ではいくまいへつかうの かうかゐ【鼈甲の笄】でみしらそふか 【左下】 わん〳〵 このあさいひめゑをすきてつねにもて あそぶしかるにゑかくしな〳〵 のうちさるうさきひつじ りやうこ【龍虎】とりわけゑもの にてふすまにさいし き朝夕のなぐさみと する きめうかな〳〵わ がむすめなから さてもゑにめう【妙】 をゑたり そのまゝ いきて はたらく やうなひつせい【筆勢】どこ そよいはしよをみ たてゝみせをだしたらはやりそうな事じや 何をこちの人のあほうらしゐ事ばかり女 ははりしごとこそしはざなれいらさる さいはじけた【才弾けた=出しゃばって余計なことをする】ゑかきとはふさ 〳〵し い【太々しい】ほん に此 はゝ はむ ねむし【胸虫=腹の虫】むつ とするせかいだ あんまりわるいあて こともない【とんでもない】あんほん たんじや けいぼ【継母】 あくりひめを にくみ いかにして もうしなは ばやとおもふ あぐりみちならぬいふき の三郎にひそかにつうし 太らうをころしあとし き【跡職=遺産相続】をして やらん とた く む小じろ ちく るい な れ と 此ことをきく 三郎どのこなた もやほてはなし わしがめつきでも がてんがあろこち のはなたらしをふつ ちめて此あとしき はとんときさまに あけまきの介六た 【右頁・右下】 それはみゝより しかしひめがこ とはちと のひかけ山なれ はとうしやうあん のそばきりた 【左頁・右上】 あるときつまの太郎石山へ まふでけるるすのまに みな〳〵をかたら いひめをなはめに かくる やれ〳〵 いとしや 此はゝが つね〳〵そな たをかあいがれとおとつ さまの御きにそむけば せひもないみつからが心 をすいりやうしやなみたで 【左頁・右下】 おひめさま御ちちごの仰付 なればしやう事かござ らぬなはかけ まする 【左頁・中央】 道が みつぬほうい  〳〵 さあ  〳〵 御たち〳〵 ひめをはしらに くゝり付くひうたんと するひめ石山のにき 【右頁・下】 くわんおん せいしければ ふしきやふすま にかけるりやうこゑをは なれいきほひすさまじ くたけりかゝる ちゝうへの御るすに かゝるなんぎに あふ事もひとへ にけいほと 三郎があく しん から おこつ た事ひころ ねんする石 山のくわん せおん此 きうなんを すくひたまへ 【右頁・左上】 みな〳〵 おとろき   にけ    はしる 【左頁・上】 うはらたつ もしとう せなかひつ しのかしらに さるのをいふは ゑのめきゝの事なり 【左頁・下】 なむねびくわんおんりき〳〵 のふこわやまづ にけ給へ〳〵しか しこれは西のしやう るりはん こんかう【反魂香】 の初段といふ けいだその時はとら 一疋此度は まして りゆう がてた あいつに くらわれ てはならづ けのかもくつた 【ならず⇒奈良漬、の洒落】 やれこはや〳〵 ほんにおがみんすにへ あこら【太郎ヵ】石山よりとく にかへりものかけ にてみるに いふき□で 太郎□め かけき り こむ所をこじろ三郎がのどへくら いつきついにくいころす 【右頁・下】 たらうめを十わ りとばらしてひめを して こまそ う と おも ひの ほか ちく しやう めにし められたこ れはほんのいた 事わんつくう んつくつ く 〳〵 には きゝに く で まつ あゝくるしい  〳〵 【右頁・左上】 あくり此ていをみてにくきちくし やうのふるまいかなとすかさずいぬ のくひきる此くびとびあがり〳〵 ゑんの下にしのひいるもののあたま へくらいつくぞふしき なれ 【左頁・右下】 いぬぼね おつてはゝ にきら れるとは此 事だ 【左頁・中央】 いや此 ちくしやうめは さま〳〵のしう ちをひろく六だ んめとたのん だだん平迄 くいころした さて〳〵大ぼくのは へぎわて此いぬめは ふといのねと きたは 太郎にとんやゆるされじであくりをさしころす おのれよふ ひめをころしそのうへおれをしめ よふとたく みおつ た をれがしるまい とおもふか しにひらきか■□ うちお【出ヵ】し まてしつて いるは やいおも ひしつたか  〳〵 ああせつ ないかね やすが み せ のゑでどう ばらにあな があいたこん とから いた し   ます まい どう    ぞお    たすけ    〳〵 それより太郎こしろ がこころざしをかんじ 神にいわゐまつる これをいぬ神と いふなり きんしやうさい はい〳〵つヽし みおそれみ〳〵 をまふす それひのもとは しんこく【神国】れいじやう のちなり此う わが してん つん おん なき し め□ □□ □□ □□□ く らい 〳〵 三郎かあくねん【悪念】いふき山にてあくき【悪気または悪鬼・悪戯ヵ】となり山 中よりつふてをなげつけとくき【毒気】ふきかけ ける 【右頁・下】 村のしうこれこ のやういた事は きんねんおほえ ぬ はいとく さん【敗毒散 注】ではいき ます まい 【注 近世、広く愛用された売薬。頭痛、せき、かぜなどに効があった】 【右頁・中央】 うぬめらいち〳〵 わつらわせ ておち をとる【落を取る=見物人の喝采を受ける】 さて 〳〵 ふて〳〵 しい村のやつらかな あれ〳〵せつながつ て【押迫られて苦しがって】てん やわや【大勢が先を争って混乱する】 ひろぐ【しをる:「する」「行う」の意をののしって言う語】 【左頁・中央】 つぶてになけたる石大石小石ともにもち だんごなとひきちきりて  つかみ たる  やうにあと つきて いぶき 山 ふ も と三四里がほどい まに みち〳〵 たり  これ を いふき  山の      つかみ      石と      申 ねつから いこかれぬ【動かれぬ】 あんと【「なんと」するの意。「何と」の変化した語】する 事だ  もさ【注】 【注 終助詞。近世の関東方言。感動をこめて人に告げることばの末尾につける。~よ。】 とりはけ ひめにあ たり月【産み月】を こへてくるし めり 【吹き出し】 いかに太郎なんぢ をやく【お役ヵ】われをねん する事年久し よつて此度のわつらい をすくひゑさする かまへ て【必ず】うたがふ事なかれ しか しまめ入【豆煎りヵ】はたくさんに しやれ どらやきさつまい もよものあか【四方の赤=銘酒「たきすい」】もちつい【つい:ちょっと】や いとぎやう【灸饗=灸をすえる時、苦痛の慰めのために食べる菓子。また灸をすえた子どもへの褒美。13コマの豆煎りもこの意と思われます。】によかろ きみやう てうらい 〳〵 【帰命頂礼=拝み言葉】 【左頁】 石山のくはんせおんぼさつあさい 太郎かゆめにつけてのたまはく 三郎があくねん人みんをなや ます事いとふひんなり これをまぬかれんにはきたる たんこのあけ七ツにいふき山 のよもきをとりきうぢ【灸治】せば やまひこと〳〵く へいゆうすべしと つけさせたまうぞ ありがたき  〳〵   〳〵 【左頁・下】 はやうあげ ましたい【差上げ致したい】 ものじや 【左頁・中央】 これで二 ばんせん じだ くわんをんのぶつちよく【仏勅:仏のおことば】にまかせ五月 五日のみめいに村中いぶき 山のよもきおとりもぐさ にこしらゆる さて〳〵くわんをんさま【さ・まの合字】の 御ちかいがなくはこち ごとはやみくもてんこち ないめ【天骨無いめ=とんでもないめ】にあわふとお もふたにさてあり かたきくわん ぜおんみ なのしうこん どいのち びろいした いわゐにはこち のみそ づ【味噌吸いものの略】で たき すい【銘酒の名。13コマ参照】を のみかけ 山のかん からす【注】と でませう 【注 寒烏:寒中のカラスを黒焼にしたものは、のぼせ、眼病、血の道の薬として用いられた。】 【右頁・下】 くわんおん さま はあり がたい事 じや 【左頁】 ほんぞうかうもくぢちん【『本草綱目』の作者李時珍のこと】がいわく【注】 きうてんのうんきにてけんやう をおきなひきうつする ものは火気にて はつさんす 【きうてん=灸点、うんき=温気、けんやう=元陽。おきなひ=補い、きうつ=気鬱】 ちのへりたる人は けいらくを あたためて血 をめぐら すか てんか 〳〵 【「血をめぐらすがてんか〳〵(天下〳〵:この上ないこと)ヵ】 【注 李時珍『本草綱目』巻十五・草之四・艾 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557947/18】 【左頁・下】 今もくさやにてかんばん にごうしういぶき 山もぐさと なだいするは 此いわれ也 一かわらけ  何ほと     じやな 子ともに きうを すへてやる にまめいりを する事此て めが まめになる やうにとのい はれなり 【豆煎り:煎り豆。灸治の療法食として煎り豆を食べさせる風習<十一ページ参照>】 それにすが りておとな もなを〳〵まめ になるやうにやいと すべ し とかく人は二八月 にはきうをたや すべからず 【右頁・下】 あさひひめくせ【救世】ほ さつ御おしへにて きうぢ【灸治】せし にたちまち やまひへいゆう【病平癒】し けるそれよりその きんへん くだん のことくきう をすへて長 くそく才【息災=健康】 に成たり 村中いゑ〳〵で此ことく きうを仕そく才なりますれ ど てうちそはきりによものあか をもちいますれはとうてもちとは 【手打蕎麦に四方の赤=銘酒を用いますれば、どう考えてもいささかは】 【左頁・下】 いた事【出費】 〳〵 さりながら人はそく才がかんぢ んみのよふしやう【身の養生】が大あたり〳〵 【左頁・右上】 なるほと〳〵まつ けんへき七のゆ十一 【肩癖(けんぺき)=肩こり】 十四さて は てんすう など でよ かろいつれ も五十そう □すへら成 れい 【左頁・中央】 御いしや さまわたくしがきう てんはおほし めしした いに  頼上 ます 【よものあか(四方の赤)=江戸時代、江戸日本橋和泉町にあった酒と味噌を商う四方久兵衛の店を「四方久(よもきゅう)」といい、そこの銘酒「滝水(たきすい)」を「四方の赤」というそうです。】 【そばきりは5ページにも「とうしやうあんのそはきり」の用例あり】 未正月《割書:新|板》目録 絵師 《割書:鳥居清信|鳥居清満》 【上段】 《割書:天女|龍女》娜(まいひめ)二代 鉢木(はちのき) 五冊 《割書:節|季|作》大厚木(おほはらぎ)の始(はじめ) 三冊 周防内侍仮寝枕(すわうのないしうたゝねまくら) 三冊 沖石水魚筆始(おきのいしいもせのふではじめ) 三冊 《割書:萬や助六|総角助六》相谷蛇目傘(あいやいじやのめがさ) 三冊 【中段】 《割書:夢者|栄茅》宝船(たからぶね)の始(はじまり) 三冊 䲬(きじの)𩿦(こゑ)藤戸魁(ふじとのさきがけ) 三冊 夫家所婦中珠取(おとこあまふちうのたまとり) 三冊 《割書:出世|偉人》和国二十四孝(わこくにじうしかう) 二冊 《割書:京|江戸》鶯問答(うぐひすもんどう) 二冊 【下段】 《割書:江州|伊吹山》 團十郎蓬艾伝(だんじうろもぐさのでん) 二冊 源太夫旅行生土(げんだゆうりよかうのうぶすな) 二冊 《割書:浮世|世話》 萬能金徳丸(まんのうきんとくぐはん) 二冊 《割書:漢倭|軍配》 本記原(しやうぎのはじまり) 二冊  【丸に三つ鱗の紋=商標】版元《割書:鱗形屋| 孫兵衛》 珍敷新板物御歴ゝ追々出し懸御目申候 【管理ラベル】 京 乙 112 【管理ラベル】 京 乙 112 【裏表紙】 【「帝国図書」のエンボスあり】