207 1743 烏行水諺草 上 207 1743         新         版          版元             魚 烏行水諺草(からすのぎやうすいことわざぐさ) 上           【破れにて文字不明】 【挿絵の看板の文字】  江  戸 大かばやき  前 烏行水諺草 はとにさんしのれいあり からすにはんほのかふありとハ しらぬものもなくきり じんぎをしらぬ人おやを そまつにする人ハみゝの いたくなるほどきく事なり はとハミゑださがりて おやをうやまふ からすハ百日 やしなわれて 又百日 やし のふ てう るい さへ かくの ことしいわんや 人ハてんちのれいなり 子をおもひ おやを うやまふ事ハ いふもさらなれども なかにハすねをかぶり おやえ くろふばかり かくるものハ てうるいにも おとりしものなり 【左側の烏の言葉】 ちとごしゆでも  あがりませぬか はとハはちまんのつかわしめにてけんじのとうりうたる よりともかふのだいなりいしばし山いてふしき がくれのおりはとにわとびいでしゆへおふばまたのを あざむきそふついぶしになり給ひひとへに はとのとびいでしゆへなればこのころよりも はとばかりハミつけにいてもおかまいなき ものなりすこしハいしばし山を はなにかけわかきうちよりつへなど つきけるゆへはとのつゑとハこの事也 にはとりハ大神宮のつかわしめ かうじんさまのおすき きじハくわんおんさまが ごひいきゆへ しんじんな ものハくわずいつれも とりのうちでもらくじんにて たのしミにいてけりそのころ ひわうつくしきおんなにて ちやみせをたしけれハ ひわちやとて 事のほかはやりけり かさもりのおせん くらいの事 なり 【鳩の言葉】 せんせい   なんどきだ 【鶏の言葉】 いまちやうと     九つだ 【雉子の言葉】  どうりて  □□し    さた たかといへばよした□と さきばしるものあ□たかハ しんざんのけんそ なる所にすむものなり しよてう おそれて つきやいもせず くらしけるが おなじ ところに すまい する おふとり これも つきやいも なくたかと しごく こゝろやすく おり〳〵はなしに 来りけれども だい所も むづかしく ていしゆにハ すゞめの すいもの おきやくにハ さるのすい ものにて のミうけ たかが子の なき事を きのどくに おもひ そふ おく なる やふしをせわを やらんととびの子を つらまいて 来れども たかは上ひんなる ものとびハ 下ひんの ものゆへ 子にハならずと いふ とび の子 たかになら ぬといふハ 此事なり 【右丁下の文字】 わしじや 【左丁下の文字】 たれだ からすはくまのゝこんけんのつかわしめと なりからす勘左衛門となをあらため 日本の めいてうと いわれ なに くら からす くらし けるが さしての 事も なけれ ども むすこの からす とかく くちゆへ にくまれ その うえ ごん ひやうへかたね まくからすが ほじくると人の くちのはにかゝり なかまいつどうの つらよごし ことにからす 勘左衛門うぬが うちハ やけたはやくいつて ミつかけろ水バ なくハ小べん かけろとおやの 事までわるく いわせや くぎも つとめるものか これでハすまぬと 大小もいで かんどうして まつくろになつて はらをたつとハ 此ときよりぞ はじ まり  ける 【右丁下の文字】 あほう からすの たゝ□  が□せ つきよ からすの よふに うる□□ ある□□ 【左丁下の文字】   なるで あらう おやが なかじ□ こじ つけ うハ う な ぎ しやふばいにて うれる事おび たゝしうなぎの かばやきハ ひとゝおりでさへ うれるものが あなごや 小ぶなのやいたのを ゑに すさまじく うりうなぎの きもを めくすりに かいに くる事 ひきもきらず いそがしく とりの めハ うなぎの きも さへ くへば さつはりと□□なるもの にんけんも あついしぶん よる めの見へぬ事あり そのおりハうなきの きもをくへバ よくなる物 このりくつ なり いわれのなき事ハ なしおもしろき 事なりからすハ かんどううけて うが所にいそふろふ となり くちハくち だけ はたらく 事も はたらき うも ありかた やまのかんがらすと よろ こふ 【右丁の下】 だんなの あかるのだ つうの うをが あらば □だされ 【左丁の下】 めくすりを おくれ 【障子の文字】 江戸前 大かばやき うかいのうたいのとふり 此川なミにはつといり おもしろのあり さまやそこにも 見ゆるかゞり火に おどろくうをゝ おいまわし ひまなく うをゝ くふときハ つミもむくひも のちのよもわすれ はてゝおもしろやと つたなかりけるせつしやうとハ おもへともこのわざにて しんミやうをいとなミけるが うもひさしくかせをひき しやうばいをやすんでいれば からすもうちにいてきのどくに おもひうなぎとりにいで しつけぬ事ゆへあつふうかあ うのまねするからすハ水をのむと すへのよまでもわらひぐさになりけり からすはかんどうの身にてぜに壱もん つかわずいたる所へどふゆふわけやとしれねとも すこしのかねをからすかねとやらにかし わづかのまにきん〳〵となり ほんまつくろ くろ じ たて に て よしわらとでかけ おもわすさきが たかいにあいさつもせづ わかれけれどもこれより さきと からすのあらそひに なりけり さぎハ ひな つるになしみて かよいたかいに ふかき なかと なり 大ぜい けいしやを あつめ しやう ばんの すゞめおとりを はじめ そが まつりのよふに そろいの いしやう 竹に すゞめハ しな よく おとりて 大さ わき なり しか 又こよい しよかい にて からす 来りて はつミのし たいにて おもてざしきの いざこざ にて なにやら かあ〳〵 やかましく きこゆるなり それにも かまわす さぎはとんと あそんで いるゆえ 事によし原 なれはとんどや さきてうとハ この事なり 【画面下の言葉】 ちどりや おいらんハ どふ しなん した かハらでせ それへ  〳〵 やつとさ またさ  〳〵 よい〳〵   よい さきとからすの いざこざひな づるをもらい かゝりけれとも さきもなか〳〵 かてんせず たてひきに なりこの うへハうで つくにて もらわんと おもてへいで さぎもひくに ひかれず たかいに ぬきはなし ければ からすが さしたる わきざしを 見れバ へいけの ちょうほう たるこがらす 丸のめい けんなり からすが 子がこがら す丸を もちつたへしも ふしきなる 事とおもひ たちのい□□ す□しハ おそれて ひるみし おりからひなづる なかへわつていり おふたり さんともに おけがゞ あつてハ すミんせん わたしが是ハ あつかりやんすと りやうほうを しづめしゆへ つるの ひとこへ    と     いゝつたへし          なり 【図の下の言葉】 いちのはらから     でた   とんび    からす      め     ひつ□ら     まいて     □□□     □□□     いれて     いけ     とり     〳〵に     するぞ がんくび やろうめ たゝき ひしいて とつけい へいに するそ 【雁首の連想から古金属の再利用「取っかえべぇ」を持ち出したか】 さきとからすの たてひきに ひなづる なかへはいり からすが ざしきハ つとめぬき ゆへわけを つけるも むづ かしく こゝろを いためしに あんに そうい して からすが ほう から なか なを りの さか つき そつち こつちと よあけまでかゝりけりなかなをり すりやあけのかねにくやからすが つけわたるとそのころくるわちうて うたにうたひけり からすハさきよりさきへかへり なにかこゝろにいちもつあるけしき さすがのひなつる見てとりこゝろ もとなくおもひがんを大ぜい あとより見せにやりてがらしだいに いそいでくたされあとのがさきに なつたらかうかいとらしよと いへばがんハかうかいはいらねとも 金にするきでいそぐ ひなつるかすいりやうにたかわすからすハ 道にまちふせしてさきさへふつちめれハ ひなつるハこゝろのまゝとまちけれは おもひかけなく さきハおとろき ひへのはたけへ かけこミ ければからすハミうしない さぎハ いきを ころ し て かくれていてそろ〳〵と かほさしだしつゝと たつたるそのありさま まつせのいまに いたるまておこさま かたのおなぐさミ ひへをまいたるかわらけに さきをいれたるこしらいれき この とき より はし まり けり ぬけ めの なき からすの はかり事 ひへの なかへ かゝしと 見せて とんひを おき さきにいつ はいくわせ くわにて あしをなくり けれハ さきはとちゆう ふむあし つきになり せんのはまむらやの いなかむすめといふミぶりをする さきはちやう ちやくにあい ひなつるか所へ かへりミたれし かミをすいてもらい 長五郎かかミすきの めりやすといふところ なれども さいわい となりさしきの さきむすめのうたに とかしてやる長哥 「おもひかさなる むねのやミ「合せりふひなつる そなたハなきやるかくしけの つゆしやわいなあ 「せめてあわれと ゆふくれにちら〳〵 ゆきにぬれさぎの しよん ぼりと かわいらしまよふこゝろの ほそながれちよろ〳〵みずの ひとすじにうらミの ほかわしらさぎの からすハさきをしたゝかなめに あわせどろだらけになりてかへり ゑてものゝぎやうすいをしける この ぎやう ずいの 事ハ むく ろん じ【無患子】ハ 三年 ミがい ても しろく ならぬといふとふりからすも いくらあらつてもしろくハ ならずそこをからすも あきらめてぎやうすいを たちまちしまふゆあかりの はやい事をからすの きやう ずいと いふなり てうるいハつかいと きわまりて ほかの とりと ふうふに なる事ハ ならず ほとゝ ぎすハ うくひす ひめと いゝかわし しよせん ミやうとに なる事 かなはぬハ あのよで そわんと ふたりづれにて かくごきわめ うくひすも ほうほけきやうと こゝろにねんじ めいどのとりと いわれんかと ほとゝきすも ちのなミだ やぶうくひすの なきこえに からすハやうすを うかゝい ふたり ともに うちへ いれ やうすを きゝわが かたへ かくまい おく 【烏の台詞】 はて かわいらしい こへじや からすはふたりをかくまいおき ま事にかごのとりのごとく そとへもたさすあさねきらいゆへ むつからおきて うくひすが くひものを こしらい しかもほとゝきす などハくい ものも むつかしく さりとハ きどくな 事なり うす〳〵 かもハやふすをきゝたし からすが 所へ来り やふすを たつねさて〳〵 ひころに にやわぬ しをらしき事 あのふたりを ころしてハ うたをおよミ あそハす おかたやはいかい なさるしうへ まふし わけもない とふでゝも きこうハ はいきがあるゆへ ころすまいとハ よいしやんなんでも こんどのしうちに めんじてかんどうも わび事して しんせませう さぎとの りくつも わしらが いとこの水にして しましやふに こしつけますとうけやふ 【図中の書き込み】 わたしらが ところのミその おつぼねを ミてくだ  され ありがたい ぞう り とり くろ がも まち  い  る   かもハ人にももちい らるゝものにて からすがせけんで わるくいふよふても なくやさしき こゝろざしを かんじひつきやう さぎとのいしゆ いこんもわかけの事なり さぎもふかく うらむ こゝろも なくわほくせんと とも〳〵からすが かんとうのわびをして このうへはごいしのよふに しのくろのとあらそわず たがいになかよくいたし たいといへばてまいものゝ ごおふをのませせいしを かためければおやからする よりこひかんどうハ しておいてもとんひなきが わるくても あんじけり ひとへに かもかはた らきより そうほう ともにわぼく してとてもの 事にわかい ものゆへしりの かたまるやうにと さぎにハ さきのもりと いふかぶに ありつけ からすハ からすもりと なづけ 今にその なを のこし  けり 【図の下の書き入れ】 今まてとハ ちかいます このうへハ からす どのゝ くちまね ても いたしたらハ くちのはたへ きうをすへて やるがよふござり     ますと きわめけり からすの  くち   まねハ    せぬ    もの    なり   こわい     事   〳〵 おしどりふうふが なかうとにて ほとゝきすと うぐひすこんれい させずいぶん なかよくひよくのとりと なるように いわいちうしん くらの九だんめの とふりたにの とあけてうくひ【「す」脱か】の むめ見つけたる ことくにてほうし まばゆきふせいとハ よくあてなすつたと ミな〳〵 おもひよるハ とりめの事なれバ ひるまの しうけん かくすを はじめ おとり もち とり に もちハ いミ 事ばと むだを いふやら なにやら かやら なかまの うちの つるに あやかり ちよに やちよ   と いわい  けり 【烏の下の書き入れ】 かあ 〳〵 〳〵 よろ こひ から  す 【鶏の左の書き入れ】 うたいのかわりに いちばんどりを    うたふ とつけかふかふ からすのなかぬひあれとわするゝひまはないわいのとハ きついうそそれにもねのとけぬがあり からすハ一日もけたいなしからすのやふに かせいだら金のおきところハあるまい はるのよのあたい千きん なつのよのあけやすく おふてまもなくはや しのゝめといづれも からすをにくむも わかきうちなり ひのもとのめいてうにて つきのかけにハうさきを ゑがきひにハからすをゑがく なればしよてうにすぐれたるなり ほとゝぎすとハいへとも元日のあけからすにハおとりけり こゝをもつて長哥にも元日ばかりミな〳〵さんが よろこびからすとハもつとも せんはんなりけり 【右下】 通笑作 【左下】 清長画 207 1743 207 1743