【表表紙】 長生虎之巻 完 【右丁】 【空白】 【左丁】 【扉】 天明二 長生虎之巻《割書:通笑作|清長画》 三冊 こゝに酒 しうばいにて 庄蔵と ゆふものあり しやうとく りちぎにて あきないに せいを いたし とほうもなく 金の のびるが おもしろく 一日たのしみたる 事もなく 二三百も たまると □ぢ□をかし 四五ねんの うちには なかれこみ こめがやすいと かいこみ みそは 三ねんに なるのを くい あさから はんまで はたらくゆへ なんても あじ ないといふ事を しらず のびるが おもしろい からとは 此人の 事なり 【イ】 十六〆二百 なゝ十弐文 【右丁】 庄蔵は しだい〳〵に てづよき しんだいに なり もはや 五十のうへ 六十にすこし たりぬといふ としになり ひとつの ふそくには 子共ひとりも なし いくら金が あつても ごくらくへ ぢさんきんも いらず そうばに かまわず たつた六文 ぜに かねで あとへ ひとつも としをとる 事もできず たのしみを した 事もなけれど いま さら ながうたの けいこも ならず 【左丁】 うまいものも そのようにも くわれず よしわらと しばいへ ひつこしに しては おもしろくも なし こそでも ふたつきる ところへ 三つでは あつし こんな事を おもふと 一日も おもしろく なく なんでも ながいきをする つもりを くふうする 【イ】 すごされもせねと かわいがるは 【ロ】 子共しゆが あるでは ないか 【ハ】 おむかふで いつひき ほしいと おつしやり ます おかみ さまが いつそ おす き て ござり ます 【右丁】 庄蔵 とかく なかいきをねがい よねのまもり くらいは ずいぶん じやうぶなれと そのくらいな あまくちな事ではなし よくいふ事なれども かねが百両ほしいと いへば 五十両でもよいと いふ 三両でまけて や□ふはひさしいもの やまほど ねがへは ちりほど かのうふと いふ たとへに おもひつき かめはまんねんと いへば うちはに 【左丁へ】 見ても つるくらいは いきそふなものと はなしどり はなしうなぎは ごしやうのため はなしかめは じゆみやうの ためと はなしてやり うなぎや こいとは ちがい かめは よろこんで さんとまで れいにでれば すいぶん ながいきは のみくみ そふな ものなり 【イ】 おほふさま こらんあそ はせ 【ロ】 はなし かめ 〳〵 〳〵 【ハ】 てゝを だす まい ぞ 【右丁】 庄蔵はかめをかふては かないのものに いゝつけ さけをのませて はなしてやり つるかめと いへども つるはげこと 見へてさけを のんだはなしも なし よりとも こう つるが おかにて せんば つるを はなし給へども もちをくわせ 給ひし事も きかずかめの さけのみと いふ事はしらぬ ものもなし 【左丁へ】 事に さけ しやう ばいなれは まんくわんじ【摂津池田の満願寺屋】 けんひし【摂津伊丹の剣菱】と いふ所を のませ あんずるに さけはかめが すくから めでたい ものかも しらず てまへものゆへ あまりのまぬ かめにはみりんしゆ までのませ みな〳〵おもしろかつて はなす 【イ】 きやつは よほど なるわへ 【右丁】 しんだいに ふそくも なければ いのちの事を あんじ このころは ふら〳〵と わづらい 女ほう【女房】も こゝろならず おいしや さまをよび さとの おやじにも はなしければ あんじて 来り さて〳〵 こなたは らつちもない よくきかしやれや勘平とのは三十にと いふが勘平どのゝふたりまへまだ いくつまでゝもいきよふもしれず なかいきばかりしてもわづらつては いかぬわしがこれ八十になるがあわびが いけるたこかくへるたくあんづけの ほか〳〵には わかいものか やかましがる めがねがいらず つへつかず【杖突かず】 そくさいなれば 子共のせわにも ならず ひやうしん【病身?】では おもしろい事も おかしい事もなし はて人は とかくものを くろふ【苦労】にするがどく もふきさまたちの としでさつさおせ〳〵と いふてもきつかい【気遣い】はない かならず〳〵 きをわさ〳〵と もたつ しやれと すゝめる 【イ】 わしが よふな もの ばかり では □□はくさま【げんはくさま=杉田玄白をもじっている?】 おまへがたは おひ□【ま?】じや 【ロ】 いや此間は しやう〳〵 ひまに いたし たい 【右丁】 しうとのいけんにつきいかさまごほうべん しだいわづらつてはつまらぬと そこらこゝらと ほよふ【逍遥?】にいで かわばたを とをりければ見なれぬ しりを【尻尾?】のかめ庄蔵を見て これはよいところへござつたこのほうの おやだまよりおしつけそこもとを むかいにまいる しばらくまち たまへと おしへる 【左丁】 しはらくまちしうち おふきなるかめ むかいに来りむかしより ためしのなき事なれば いやなものなれど うらしま太郎も つゝがなくゆき さるもおなじ事 庄蔵はいきぎもを とられるあんしもなく たからものや  たまてばこののぞみも なけれどもおとひめには すこしきもあり ろぎんもいらす うまいものなれば よろこびかめの せなかにきのじやの まつといふみに なりてゆく 【右丁】 りうくう【竜宮】の三りほど わきにいけの みきわといふ 所あり ひめこまつの 上るりのでは なし かめおふ【亀王】といふ たいしやう【大将】 あり もはや 御とし 九せん七百さいに なり給ひすべて かふるいとは いへどもかには ゆでられて くわれすつぽんは なべやきの うれいあり かめばかりはくわるゝ 事もなし 【左丁】 その うへ とし【歳?】 まんざいの よわひ【齢】を たもち まんざい【萬歳】の いふとをり ま事に めてたふ さむらいけり 人けんかい【人間界】にて はなし かめをいつひき【一匹】したる ものは十年つゝいのちを のばすつもりにさだめおき かめのはらにかきつけのあるを てうめん【帳面】にしるしおきける これではものまいりにてもでゝ はなしたるはそんのよふなれど かきつけがなしとぶつしやう ふくろ【仏餉袋?】とおなじ事それ だけの事はあるなり 【イ】 ちかころのかきつけは おふかた庄蔵と してござります 【ロ】 かめのはらに 万二郎【?】は ありがたい 【右丁】 庄蔵はよふ〳〵と みやことおぼしき所へ つきけれはやくにんと 見へてりつは【立派】なるもの いでむかい庄蔵とは そのほうの事かと 五十や六十のものをば 子どもどうぜんにおもひ とみのふだの三四千は とほふもないよふに おもへどこのくにの 三四千はわかての うちなりすべて とちのふうぞくを 見ればふうきなる 所にてなにの ふそくもなし これではいくつまでも いきられそふな ものなり 【左丁】 乁うぬしは おみかめを はなしたる事 大王事のほか よろこび給ひ それゆへむかいを つかわした そのほうたちが はなすかめは まだ弐百にも ならぬちやくねん もの【若年者?】しゆきやうの ために しよ こくへいだしおく それゆへ おいらが しつほとは ちがふ千年に ならねば このやうに みのゝやうには ならぬと はなす 【イ】 よろ しく おとりなし くだされませ 【ロ】 としに あわせては りかうな もの じや 【右丁】 庄蔵はかしさしき【貸座敷?】の やうなる所に とうりう【逗留】して いれば せつぶんの よにて みな〳〵 としのかずほど まめをくふ いづくもおなじ事 たいかい二舛 くらいよりもすくなく くふものはなし これをおもへば 日本の人おいらは としのかずほど くふと しよく しやうを するも ちとこたいそふ かめなどは五六舛も くわねばめてたいとは いわずこれほどめてたい 【左丁】 ところにて なにゝも ものいまいも しそふも ないものなれと やつはり やくはらいも あぐるき【挙ぐる気=執り行う気持】て いわふ それから 見れば たゞの人を ものいまい じやとて かならず おんべい かつぎ じや とて いわぬが よし 【イ】 よつほど くちが くた ひれた 【ロ】 あゝらだんなの 御やく申せは つるが千びき 【ハ】 かめは 万びき うらしま太郎が八千人 みうらの大介 〳〵【云云という記号か?】 【ニ】 とふぼふさくか【東方朔が】 九千人みんなの としをひとつにして これもだんなの 御きつきやう 【右丁】 いづくのうらても ものみだかく 庄蔵も よき男でも なけれども おんなも めづらしがりすこしはきは あれどもあつかましくそれとも いわれずつゝしめばなかに ひとりほふ【頬】のふくれた はなのひくい日本では  おたふくといふやつ庄蔵に くどきかけむしやうにひつこく しかけけれは こまりはて いけねへ しろものなり とんと だいかく ら【太神楽】のおかめ 女郎と かめの おたふくは おかめ女郎 【左丁】 さては いにしへも ありしことゝ おもひなん にもせよ うつくしい やつを見ては きはなか ばしと おもひいつせ いちどの いろおとこ 道成寺へでも にけたいもの あのふとりでは 日高川はおもひも よらすと そがの五郎といふ しうち にて そけなく ふり はなす 【イ】 にほんは いきな ものじや 【ロ】 あんまり とふよく じや わいなあ 【右丁】 庄蔵 おかめ女郎に つれなくいゝ はなし ければ おもひつめ たる事 かきおき して しなんと かくごきわめ かめのしぬと いふ事は よく〳〵の 事これを 見ればうつくしいやつは じやうはなしかりそめの 事にこのくらいしかし いけぬやつのじやう なしはふとゞき かみ〳〵のかくらに おかめのあるもこゝろの よきゆへかくこには よしあしあれと おかめのめんにかわる事なし 【左丁】 いけのみぎはの つるかめはほう らいさんもう よそならずと うたいにもあり にわのいさこ【砂子】は きんぎんにて けつかうづくし【結構尽くし】 いわんかたなし 庄蔵をとも ない来り ければいのちもおししにわのいさごにも  きがありりうじんぞろいの上るりは こゝの事かとおもふ 【イ】 はや まるまい まつた 【右丁】 そのほう ちやうじゆ【長寿】 いたしたきよし このほうどもを したふおやだま きこし めしこゝろ さしに めんじ 壱万 ざいの よわいを さづくる しかし ながら みもちを かたいしに【固石に?】 して いのちが あつても ぜにかなくては いけぬ そこは うぬしは じよさいは あるまい しなぬと おもふて 【左丁】 寺をそまつにせまいぞ せんぞかいつて【先祖が行って】ごさる 小そでもむしやうに しやうぶな ものと こゝろ かけても よごれては いけぬすみから すみまで きをつけても またなかいきも ならぬたゞおふ やけのおきてを もちいひのよう じんを大事にして そのほかわ のんへんくらりに しようなら 一万ねんは さておき 百万ねん でもいき られる きつと うけやい 【イ】 なんぞみやげを やりたいものじやが たわら藤太には りうぐうよりつりかねを くだされうらしまは たまてばこ そのほうへはかくれみのを つかわすみのかめとは 此事なり 【ロ】 ちがい なしと いゝわたし 給ふ 【ハ】 あり がたふ ぞんし ます おみやも あげませず はゝ 〳〵 〳〵 【右丁】 庄蔵は日ごろの ねがいかない こきやう【故郷】へかへり たきよしを 申あけければ 大ぜいのかめに おくりをいゝつけ につほんのちへ つれ来りける 庄蔵は六十ちかき ものなれども かめなどは 子ぞうのやうに おもひ かめども かる〴〵と おかへあげ かへりけり あんずるに かめのなかから しやう〴〵 子ぞうが てこ〳〵と 【左丁】 いふ事は いへども いかなる 事かしれず しやう〴〵の 事なれは しやう〴〵に おとななしと 見ゆる 子共なれば けしからぬ さけくらい とんと わからす ま事に これらかめの なかから 庄蔵 子ぞう なり 【右丁】 庄蔵は いつく とも なく ゆき がた しれず かないの ものは いふに およばす しんるいぢううより□□かねがあつて  かけおちするものもなしもしや かの人でもつまゝれたるかかふまんな きもないからそふいふ事もあるまいと まいにち〳〵 □【て?】 わ して たつ ねて ある き 【イ】 やれ〳〵 □□□ □□ 【ロ】 どこへおいで なさりました 【左丁】 【空白】 【右丁】 □□□□ 【左丁】 【空白】 【裏表紙】