地震之用心火之用心 【枠外】根岸二松軒案  【絵の右下】古城画 【中央】 この用心書を目につく所にはりおき日々用心 する方は地しんと火事の災難を免れ玉ふべし 【中央下】 板元 東京市下谷区下根岸町廿五番地     石井方 伊勢辰立退所 地震之用心【横書】   地形(ぢげう)  もり土やおき土の上に住(す)む人は        地震の時にあぶないと知れ   建築(けんちく)  細柱(ほそはしら)瓦(かわら)のやねに大(だい)かぐら       あだま勝(がち)なる家ぞあぶなき   火元  火 鉢(ばち)ガスすべて火の元 厳重(げんぢう)に        まツさきに消(け)せ地震する時  あわて 平日の用心 足(た)らぬあわて者        瓦(かわら)に打たれ塀(へい)に潰(つぶ)さる   津波(つなみ)  来(く)る時は地震 間(ま)も無く来るも       のぞ津波〳〵といつまて怖(おそ)る   震返(ゆりかへし) ゆり返(かへ)し本(ほん)ゆりよりは小さいもの        鯰(なまづ)でツかち尻ツこけなり   逃場(にげば)  頑丈(ぐわんじやう)な長火 鉢(ばち)なとを盾(たて)にとれ       まさかの時も出(で)るにはまさる  二 階(かい)  棟(むね)の下に三角の明(あ)きあればこそ       二階のけがは下よりは無し   薬品(やくひん) リウサンに塩酸(えんさん)キハツ油なと       火を出すものはころばさぬやう   避難(ひなん)  屋外(をくぐわい)にさけるに越(こ)すはなけれども       其の時々の程(はゞ)に従(したが)へ 火の用心【横書】   主人(しゆじん)  風呂(ふろ)だんろ煙突(えんとつ)なとの火の元は       主人 自(みつか)ら吟味(ぎんみ)なされよ  風 向(むき)  考(かんが)へず無茶(むちや)に飛出(とびだ)す上(あ)ケ句也        風向(かざむき)と地 理(り)でなんぎするのは  ポンプ  万(まん)両の神輿(みこし)を造(つく)る金有らば       小さいぽんぷを各町におけ  用水   泉(せん)水や堀(ほり)井戸有らば潰(つぶ)さずに       永く火防(ひふせ)の神と仰(あふ)がん   非常袋(ひしやうぶくろ) ろうそくにマツチ提灯(てうちん)大 風呂敷(ぶろしき)        細子(ほそこ)を入れて長押(なげし)にかけおけ   生命(いのち)  昔(むかし)から生命(いのち)あツての物たねと       いふは真実(まこと)ぞ見 限(き)り大 切(せつ)  宝物  ヤレ土蔵(どざう)ヤレ金 庫(こ)とはいふものゝ        無二(むに)の宝(たから)は身につけて出よ   持(もち)出  常々(つね〴〵)に目につくやうにきめておく       非常 持(もち)出す物は何々(なに〳〵)   身支度(みじたく) 身支度はたびにざうりにかぶり物       手にのみ水か氷砂糖(こうりさとう)か   電線(でんせん) うろたいて電燈線(でんとうせん)に引かゝり        凧(たこ)のまねして命(いのち)とらるな