【図書ラベル207特別2811】 《題:近頃嶋巡《割書:市場通笑著|》完》 安永九年印本  近頃島めぐり        清長画 こゝに小はやし の三郎平と いふもの有 いつたい きさくに して やぼ ならず つふに ちかしさけはおはらで二ツ 三ツといふものはかんかに みくだしちよつとの所が いつきんぐらいはいかいなとも すこしやりほんかむしやうに すきにてかたいものはいき かねれども上るりほんやら よみかけてとろ〳〵と ねむるとそのまゝ あふいびきはとつくり のわざなり 三郎平 どことも しらず うかり〳〵と あるきやふ〳〵 ちや屋みせありし ゆへこゝはなんと いふ所と たづね ても あい さつ も せず だんごを 壱本といふても へんじもせず まごがあつらへし だんごをしてやれ共 しかりもせずさては 【右頁下段】 おれもこの かいどうではくちも きくものくいも せぬものをくつ たといわれては おとこが たゝ ぬ 【右頁上段の続き】 いかなるつう りきかこれは よつほどおもしろいと いろ〳〵のことを してみる それでも ほかに人はきませぬ 【左頁左下剝れの部分】 【やれうつちやつて】 【おかつしやれ】 【あのしゆの】 【くちには】 【めな 以下剝れ有り】 三郎平だんごにて はらをつくろいまた むしやうやたらにあるき けれはまん〳〵たるうみの はたへいできく人は なしいかゞはせんと おもふ所へきりまくも なしおふさつまも なくおにか人かと おもひしにわだが こゝはなんと 申所でござり ます こゝは日本のしほさかへ ちくらがおきといふところ也 これからしま〳〵のしやんはよしまへかた おれがまわつたとふりのかきつけを 【右頁上段の続き】 さんなん小はやしのあさいな あらわれるさて〳〵 そのほうも小はやし みやうしさだめておれが ばつよふなるべしいかゞ したる事かそのほうが らたちはつねのものには 見へずそれをさいわいに せんねんおれがまわつた とをりしまめぐりを しやれおれはちからで はりこんであるいたが うぬしらのには それでは ゆかぬ かたちの 見へぬを さいわいに くいもの くらいは かつてしだい しよくなしに めくつてきやれと おしゑけり 【右頁下段の続き】 やりませうと いへば三郎平 かたじけなす びのしき やきと よろ こぶ あさいなが おしへに まかせ ひとつの しまへ あがりのさり 〳〵とあるき けるが此しまははなはだかたちよく ずんとかるきすまいのうち ひくきまどあるゆへ のぞき見れはあるじと見へて なにかものかいているを見るに あをがいのつくへふでたても ぢくもついしゆぶんちんすゝり のけつかうさむすこと見へて めしをくうを見ればふかそめ つけのちやわん八せんにん のかふものばちぬす人に 【左頁下段】 だいぶたいくつ したあふきな こつふつて ひとつ やりかけ よう 【右頁上段の続き】 見せてんもぎんいちまいか ものはあり こたつふとんは あさきでの さらさはな かみ入ても ついに見た事 もないぢやい めのまわる ほどほしく也 よだれをたら して見ていれす それをとれは わがかたちが あらわれるゆへ はがみをなし そがきやうだい ではないが たからの山へ いりながらてを むなしくかへるか さんねんなり まんまを くつたら あすびやれ だん 十郎 の ゑをやり ませう 三郎平は しまのなは しらねとも きかすと しれたてなが しまふせう ものにはしごく よいくに しかし日本などて かふてがなかくては 人のすたりもの ひとりものなどは しやうべんさいすれは 一日たつ事はなし うらやましい やらきかない やらめしどき などのおもし ろさたがいにてを ぼうのやうにたし みつけのうちを まつりかとをる やうなり まだ ひし ほが すこし あ ろう 【左頁】 いやいぬきと いふ身 も あり 此くにはもふ きがなか ばしだ どこへ いきなん す ばか ら しい 【右頁右下段の剝れの部分】 【あしだのはなをかつまつた】 【此くにゝは】 【から】 【かさ】 【と】 【いふ】 【ものは】 【なし】 【ゑがなか】 【くてわが】 【ために】 【ならす】 ながへと【いふかつねの】 からか【さなりゆふ】 【ぢよまちはむかふ】 かわ【をあるい】 て【もつかまり】 もの【をおとし】 た【とき】 か【ゞまぬ】 が【いつ】 【とく】 【なり】 【左頁】 かまくらのぶせう源のよりとも公の 御代に小ばやしのあさいなしまめくり 又そののちよしつね御きやうたいの 中ざんしやのざんけんに よつてふはとなり ひとまづ みやこををん ひらきあり むさしぼうへん けい御ともにてしま めくりさあそれから 日本のふうを 見ならい とかくいきな 事をこのみあし ながじまでははつちが はやりきものはいつ たんがきれがでれとも はつちは三丈もので なくてはいかずむかし ないものなり したが女ほうが すそがきれぬと よろこふ ぞうりで てるには たいこもいら ず 三郎平あしながしまへわた【りその の】 ぢとうと見へておびたゝしきと【うぜい】 にてたゆふおめ見へといふ 【かみしも】 に【てあと】 より大だいこを【かつがせ】 ころびしときの【やうじん】 と見へた【りしも】 【〳〵は】 こしに【たい】こを つけてあるく あふかせの ときは おふ らい するものも なし とかく ころぶくにゝて 【左頁上段左】 こうやさん むみやうのはしと いふ身じや 【左頁下段】 むみやういんはたやすも【のはなし】 三郎平【も】 あきれ【はてとも】 まわりが【だいどうを】 とじや【うをふむあし】 つき【せんのろかうかいなか】 【むすめをおもひだし】 【なみだをこぼし見る】 【もの事にまたるく】 【なりそれでもなん】 【そりかたのよい】 【事かあるかとおもへは】 ま【めぞうを見れは】 さ【きもせいがたかし】 た【いかいのかちわたり】 する【ばかり一日もいや】 じや【とすぐにつきの】 し【まへゆきけり】 あさいなが おしへの とをり しま〴〵をめぐり 小人しまへわたり 見ればこれは しごくしま らしく 三郎平がめ にはありの あるくよふに 見へこれまて いろ〳〵のしまを めくれどつうりき にてかたちは見へず さんしよが こつぶ でも からし 三郎平が たちはた かりし ゆへ めまくるし【い】 ほとあるく【は】 どふか くもつた よふた 【右頁上段の続き】 なにかくらく なつたが ゆふたち でもあるかと きをつける くらひの事 これから見れは てながしま やあしなが しまはうつ かりひよん どふりで あのやうに てあしが のびるうし むまはおふ きくても にんけんに つかわれぐわん やくはちいさく ても人を たすくる どふり なり ひよりの よいに【こま】 けたは ころ ばねは よいが 三郎平 は 小人 しまはしごく おもしろけれ共 まづだいいちとまる いゑはなしのじくに こまりくいものはなん にもなしいわしは 日本のまぐろのごとく なまあみははなゑひ にして大平へひとつ もりいくらくつても はらにはたまらず やう〳〵とさけ二三 だんはたらきみんな のんでも二升にたりす せいろうも二かばかり いちどにくつても あやめだんごの やうではらにも たまらす十日も 【右頁下段】 はてしまら しいよい けし き かな 【右頁上段の続き】 いるとさけも 五両くちはきつと あがるのじくもいや なりあめのふらぬ うちほかのしまへ たるだいなしに ひきこすきに なりものが しゆふになる ものならば わかとの様かた おひめさま 御子様かたへも 小人しまは みやけにしたい ときのつき しはよつ ほどこぼん のうと見へ たり おうさ そうだよ さまよか とうした ちんつちり てん 此しまはなんによ 共にはらにあなの あきしくになん にもりかたのよい 事も見へずおんなは ぼうにのるをきろふ かねをくわいちう するものは 此あなへ おし こみ おくとんだ くに なり 三郎平は くたびれても はらにあなは なし これはさ やつさ ごふ〳〵 たんないつはい おねかい申し ます 【左頁】 きり て もんでも のられず ふねがきらい ではあそ びに ゆくにこまる どうか見ても きみが わるく かうやく 屋の みせに いそふななり みせものにつれて 来ても どつとおちも きそうもない やつしまの うちでの ぶいきなり ぼうやろヲ 〳〵 ぼうわへ 三郎平此しまは あいそがつき よのしまへゆかんと まつなみきに かゝりいづれのくにも おなし事たひ人の とをるを見て おさたまりのさかて 此男さすがはぼうの しゆれんと見へて 二人ともにとつて なげはらへぼうを つきとをす 三郎平うしろの あなよりのぞき 見るぶて〳〵しき やつらなり 【右頁下段】 これはおもしろい せめて これで ぢに なつた 二人さすを しきやき ざし 五人を だんご さし と いふ 【左頁】 ひとつのしまへあがれは はまばたにおんなの そうりおびたゝしく ならべあるさてはきゝ つたへたるにやふごのしま ぞうりをはいてみたい にはすかたをかくしている ゆへならすふたつよい 事はならぬもの まづこのそうりは どふであろふなか ぬきそうりはおやし きとあさきひろうとの 三枚うらつけどうやらこれは うつくしそふだやわたくろは つうかなふすべはなをは おふどしまくだりせつたは せたいもちひちりめんの はなをもあてにはならず 五枚うらつけかいやがるも ありなんたかしらぬが きがもめる ゆめに ゆめ見る ごとくなり によふごのしまは ていしゆと いふも なけれは 女【ほう】 【と】 い【ふも】 な し み なみかぜにて みこもる事は人の しる所なりおとこが なければなにもかも おんながせねばならずむき をつくおんなは日本にも あれどこめをつくはなし 【左頁】 女のかみゆいもむかしは なかつたが今は日本 にもあり あきんどは みなそろ ばんとつて さんにやふする 所のふうならにく くもなし日本など ではこめんといふ しろものどんなうつ くしい女が あき ない して もよ たれをたらす ものもなく やすくなればうれ ず 女 で いけねばむつかしい事もあるなり かんじんちつ【と】 おやりなん【し】 女はかりのしまゆへゆふちよ まちといふはなし たのしみはすくなくこと さみせんは子共のうち としかよるとごしやうぎ すごろくあさいなかゆき しじふんはよみといふ ものがはやりきんねんは まためくりとやらいふ事が はやりいつたいかんじやうの 事はゑてもの大のこふしややまの ごとくなり三郎平はしまちうに ないめつらしい所おもしろい事 ばかりこゝにはしばらくとう りうしてゆるりとけん ぶつせんとなにやら にかいにおんなのこへ 女郎屋かとおもひ あかつてみれば日本なとで ついぞみぬことなん にもせよおびたゝしい 【右頁下段】 おや〳〵 四を しら ねい 【右頁上段の続き】 くいものてなかしま やあしながしまはらに あなのあるくになど ではろくなものも くらわすひさし ぶりでのうまい ものしよく しやうする ほとくい けり わたしか いつほんきたの いつそてにおわれる けしからぬ これは とふ し もん と いふ し かう では ある まい 三郎平 しよ〳〵を けんぶつ するに女 すもふあり 女しはいもあり いつさいの 事みな女 たてひきの いさこさこまけたでたゝきやい それそふおうにはをりをきた 【右頁中段】 わつちが のみこんで いるわなふけいきな 【右頁下段】 なんの こつた いけ すか ねへ 【右頁上段の続き】 おうやさまのおんなが でゝすましけんくわと いふとだいいちくちが やかましく日本の 女ゆでもこれほどでは なしやかましいももつ とも女といふじを三つ かけはかしましいといふ じそれがさつはり女 ばかり三郎平もちの みちかおこりそふに なりかま くらのおやし きのなが つぼねへ ふくひきの すりこきを とりしも是 にはかなわぬ はやくほかの しまへゆきおとこの こへがきゝたいと いふはよく〳〵のことなり くわばら〳〵 〳〵 三郎平にようごのしまに こりはてきをかへてぐつと はなれたる所へゆき そここゝとやうすを 見ればいたつて上ひん なる所こそでを見れは おふかた八丈さては八しやうが しまかとおもへはしまちり めんもありうへだしまぐんない 【右頁下段】 やふ きうに いた そう 【右頁上段の続き】 じままがいはちじやうふとりしま いちゑんかてんゆかずなんといふ所か やふすがしれずこゝはどこでござり ますとたづねければ江戸 ゆしまといゝしゆへきも をつぶしさて〳〵しよ 〳〵を見物したがこれ ほどの上こくはなし 米のめしとおなし 事いつまていても あきる事なし 是から こいと すつ ぽんを 見せ ま せう さるほとにチンツンチン 小林の三郎平あさいなが おしへにまかせおもひのまゝに しまめぐりゆめさめ見れば 大日本あしながも なしてながもなし 女のふうならおとこ ならひとつとして いゝぶんなし しまのやうす をあらたまの 二日のゆめの たからふねとうの ねむりの御めざ まし御らん被成て おわらいとホ〻 うやまつて まふす 通笑作【右頁下に四角の枠の中】 清長画