【表紙題箋】 繪本合邦辻 一 【題箋に印】 BIBLIOTHEQUE NATIONALE MSS R.F. 【右下に円形ラベル】 JAPONAIS 911 1 速水春暁齋画 繪本合邦辻   文栄堂梓 【頁上部に円形ラベル】 JAPONAIS 911 1 繪本合邦辻惣目録  巻之壹    発(ほつ) 端(たん)      小枝(さえだ)慶(けい)次郎 寒中(かんちう)水風呂(すいふろ)を設(まうく)る圖      小枝 駿馬(しゆんめ)松風(まつかぜ)に鞭打(むちうつ)て立退(たちの)く圖    小枝(さえだ)慶(けい)次郎 漫行(いたつら)の話      圍碁(ゐご)の賭(かけもの)順禮(じゆんれい)林泉寺(りんせんじ)を撲(う)つ圖      慶(けい)次郎 脇指(わきざし)を帯(たい)して浴室(よくしつ)に入(い)る圖    小枝 勇武(ゆうぶ)の話      大字(たいじ)の指物(さしもの)諸將(しよしやう)を驚(おどろか)す圖    髙橋(たかはし)清(せい)左衛門小枝が託(たく)を受(うく)る話      慶次郎 妾(せう)を髙橋(たかはし)に送(おく)る圖 繪本合邦辻巻之壹      目録(もくろく)   発端(ほつたん)     小枝(さゑた)慶(けい)次郎 寒中(かんちう)水風呂(すいふろ)を設(まうく)る圖(づ)     小枝(さゑだ)駿馬(しゆんめ)松風(まつかぜ)に鞭打(むちうつ)て立退(たちの)く圖   小枝(さゑだ)慶(けい)次郎 漫行(いたづら)の話     圍碁(ゐご)の賭(かけもの)順禮(じゆんれい)林泉寺(りんせんじ)を撲(う)つ圖     慶(けい)次郎 脇差(わきざし)を帯(たい)して浴室(よくしつ)に入(い)る圖   小枝(さゑだ)勇武(ゆうぶ)の話     大字(たいじ)の指物(さしもの)諸將(しよしやう)を驚(おどろか)す圖   髙橋(たかはし)清左衛門 小枝(さゑだ)が託(たく)を受(うく)る話     慶(けい)次郎 妾(せう)を髙橋(たかはし)に送(おく)る圖 繪本合邦辻巻之壹     発端(ほつたん) 往昔(むかし)漢(かん)の武帝(ぶてい)の時 東方生(とうばうせい)あり博聞(はくふん)強智(けうち)の才(さい)を懐(いたひ)て 僅(わづか)に執戟郎(しつげきらう)となり談笑(だんせう)を事として心を冨貴(ふうき)に累(わづらは)さず 故(ゆへ)に人 以(もつ)て狂(きやう)なりとす東方生(とうばうせい)笑(わらつ)て曰(いわく)古(いにしへ)の人 世(よ)を深山蒿盧(しんざんこうろ) の下(もと)避(さく)我(われ)は世を朝庭(てうてい)【朝廷の異体字】金馬門に避(さく)るなりとて客難(かくなん)一 編(ぺん)を作(つくり) て其 志(こゝろざし)を述(のべ)し例(ためし)あり我朝の往時(むかし) 應(おう) 永の頃北越の士(し)に小枝(さえだ) 慶(けい) 次郎 敏泰(としやす)と云(いふ)者あり文は経傳(けいでん)百家に渉(わた)り歌道(かだう)乱舞(らんぶ)に 長じあるは源氏(げんじ)伊勢(いせ)の物語(ものがたり)を講(かう)じ勇 畧(りやく)武伎(ぶき)は元 来(より)其(その)性(せい) の長(ちやう)ずる所にして勇名(ゆうめい)一時(いちじ)に擅(ほしゐまゝ)なり然(しかれ)ども爵禄(しやくろく)顕栄(けんゑい)を 意(こゝろ)とせず行處不羈(をこなふところものにかゝはら)ず高(たか)く避世(よをさくる)の人に類(るい)せり其 行事(かうじ)の 【本文】 大畧(たいりやく)を尋(たづぬ)るに初(はしめ)北越(ほくゑつ)の鎮撫(ちんふ)小枝(さえた)亞相(あしやう)敏家(としいへ)卿(きやう)に仕(つかへ)て數々(しば〱) 先登(せんとう)踏陣(とうぢん)の功(こう)あり敏家(としいへ)卿(きやう)其 勇壮(ゆうそう)を稱(しやう)し且(かつ)同姓(どうせい)の族籍(ぞくせき) に系(かゝ)るを以(もつて)芽土(ばうと)の封爵(ほうしやく)を与(あた)へ給ふべき意(こころ)ありと雖(いへども)敏泰(としやす)が 気質(きしつ)世事(せじ)を軽(かろん)じ常(つね)に嬌慢(けうまん)なる行(おこなひ)をなせば一郡(いちぐん)一邑(いちゆう)の主(しゆ)となし 給ふとも行事(かうじ)を慎(つつしま)ず民(たみ)を治(おさむ)る次第(しだい)麁畧(そりやく)ならんを恐(をそ)れ給ひて 慶次郎 敏泰(としやす)を御前(おんまへ)に召(めさ)れ行状(ぎやうじやう)を改(あらた)め萬事(ばんじ)を慎(つゝしむ)べき由(よし)淳〱(くれゞ) 教示(しめし)給ひしかば慶次郎 深(ふか)く前非(せんぴ)を悔(くひ)向後(けうごう)を謹(つつしむ)べき由 答(こたへ)し かば敏家卿御 悦(よろこび) 限(かぎり)なく頓(やが)て采地(ちぎやう)五千 石(ごく)を賜(たまふ)の命(めい)ありしかば 慶次郎密(ひそか)に思ふやう浮世(ふせい)夢(ゆめ)のごとし歓(よろこび)をなす幾(いくばく)もなし□ 今 許多(そくばく)の禄を受(うけ)て食(しよく)は山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を備(そなへ)る共 喰(くらふ)所は腹(はら)に満(みつ) るに過(すぎ)ず身(み)に綾羅(りやうら)を纏(まとひ) 衣筐(いきやう)充満(みちみつる)とも詮(せん)とする處は寒(かん)を 【枠内】   繪本合邦辻巻一      三 【枠内】 繪本合邦辻巻一      三 【本文】 小枝(さえだ)     慶(けい)次郎 寒中(かんちう)    水風呂(みづぶろ)を   設(まふく)る圖