【表紙題箋】 繪本合邦辻 一 【題箋に印】 BIBLIOTHEQUE NATIONALE MSS R.F. 【右下に円形ラベル】 JAPONAIS 911 1 速水春暁齋画 繪本合邦辻   文栄堂梓 【頁上部に円形ラベル】 JAPONAIS 911 1 【欄外に「本定」】 絵本合邦辻序 夫報_二 ̄スル父兄 ̄ノ云讎 ̄ヲ_一固 ̄ヨリ不_二易事 ̄ニ_一 也昔時北藩 ̄ニ有_二髙橋氏者_一 捨 ̄レ生以 ̄テ報_二兄 ̄ノ讎_一其 ̄ノ跡■_二尤 ̄モ 難 ̄キ者_一鳥■ ̄ント則其 ̄ノ為_レ仇邦君 云同胞 ̄ニメ而属_二 ̄ス主家云宗籍_二 ̄ニ 論_二 ̄レハ其分_一 ̄ヲ則猶_二 ̄ヲ君臣_一 ̄ノ較_二 ̄レハ其勢_一 ̄ヲ 則不_二啻(タタ)鄒魯_一 ̄ノミ然 ̄ルニ■_レ ̄メ云而不 _レ疑投_レ ̄メ簪 ̄ヲ以冒_二 ̄ス必死之険_一 ̄ヲ其 去就云間正_二 ̄メ其■_一 ̄ヲ而不_レ ̄ル謀_二 ̄ヲ 其功_一 ̄ヲ者有 ̄リ■非_二 ̄ンハ割膓卓識 ̄ノ 丈夫_一 ̄ニ■ ̄カ能 ̄ク為_レ ̄ニ云豈 ̄ニ可_レ不_レ謂 尤難者_一烏乎吾 ̄カ友其深 ̄ク憾_三 ̄ム 其傳云不_レ廣 ̄カラ使_二 ̄ルヲ烈日云規 摸 ̄ヲメ湮没_一 ̄セ於_レ是/乎(カ)輯-_二録其本 末_一 ̄ヲ圖-_二画其形状_一 ̄ヲ上_レ ̄セテ梓 ̄ニ以 ̄テ行_一 ̄ヲ 于世_一 ̄ニ烏是 ̄ノ擧 ̄ヤ也不_下唯欽_二 ̄メ遺 風_一而然_上 ̄ルノミ蓋 ̄シ無慮頑立情之 微意 ̄ナリ也讀 ̄ム者其 ̄レ思_レ旃 ̄ヲ文化 巳丑孟春源静序 【印】【印】 繪本合邦辻惣目録  巻之壹    発(ほつ) 端(たん)      小枝(さえだ)慶(けい)次郎 寒中(かんちう)水風呂(すいふろ)を設(まうく)る圖      小枝 駿馬(しゆんめ)松風(まつかぜ)に鞭打(むちうつ)て立退(たちの)く圖    小枝(さえだ)慶(けい)次郎 漫行(いたつら)の話      圍碁(ゐご)の賭(かけもの)順禮(じゆんれい)林泉寺(りんせんじ)を撲(う)つ圖      慶(けい)次郎 脇指(わきざし)を帯(たい)して浴室(よくしつ)に入(い)る圖    小枝 勇武(ゆうぶ)の話      大字(たいじ)の指物(さしもの)諸將(しよしやう)を驚(おどろか)す圖    髙橋(たかはし)清(せい)左衛門小枝が託(たく)を受(うく)る話      慶次郎 妾(せう)を髙橋(たかはし)に送(おく)る圖  巻之弐   大膳(たいぜん)亮(のすけ)殿(どの)暴慢(わがまゝ)の話     小(さ)枝(えだ)大膳(だいぜん)亮(のすけ)殿(どの)乱(らん)行(ぎやう)の圖     其 二     小(さ)枝(えだ)大膳(だいぜん)亮(のすけ)殿/放鷹(たかがり)の圖     其 二   高橋(たかはし)清(せい)左衛門/直言(ちょくげん)の話     高橋清左衛門大膳亮殿問答の圖     高橋/農民(のうみん)を/謀(をと)す圖   小枝/敏起公(としおきこう)高橋へ内命(ないめい)の話   高橋/大(だい)長(ちやう)寺(じ)に至(いたつ)て内(ない)意(ゐ)を述(のべ)る話     大膳亮殿/途(と)中(ちゅう)に高橋を/避(さく)る圖  巻之三   小枝/敏高(としたか)高橋が所(しよ)為(ゐ)を/怒(いかり)給ふ話     小枝/敏通公(としみちこう)敏高(としたか)を/譬誡(いましめ)給ふ圖 繪本合邦辻巻之壹      目録(もくろく)   発端(ほつたん)     小枝(さゑた)慶(けい)次郎 寒中(かんちう)水風呂(すいふろ)を設(まうく)る圖(づ)     小枝(さゑだ)駿馬(しゆんめ)松風(まつかぜ)に鞭打(むちうつ)て立退(たちの)く圖   小枝(さゑだ)慶(けい)次郎 漫行(いたづら)の話     圍碁(ゐご)の賭(かけもの)順禮(じゆんれい)林泉寺(りんせんじ)を撲(う)つ圖     慶(けい)次郎 脇差(わきざし)を帯(たい)して浴室(よくしつ)に入(い)る圖   小枝(さゑだ)勇武(ゆうぶ)の話     大字(たいじ)の指物(さしもの)諸將(しよしやう)を驚(おどろか)す圖   髙橋(たかはし)清左衛門 小枝(さゑだ)が託(たく)を受(うく)る話     慶(けい)次郎 妾(せう)を髙橋(たかはし)に送(おく)る圖 繪本合邦辻巻之壹     発端(ほつたん) 往昔(むかし)漢(かん)の武帝(ぶてい)の時 東方生(とうばうせい)あり博聞(はくふん)強智(けうち)の才(さい)を懐(いたひ)て 僅(わづか)に執戟郎(しつげきらう)となり談笑(だんせう)を事として心を冨貴(ふうき)に累(わづらは)さず 故(ゆへ)に人 以(もつ)て狂(きやう)なりとす東方生(とうばうせい)笑(わらつ)て曰(いわく)古(いにしへ)の人 世(よ)を深山蒿盧(しんざんこうろ) の下(もと)避(さく)我(われ)は世を朝庭(てうてい)【朝廷の異体字】金馬門に避(さく)るなりとて客難(かくなん)一 編(ぺん)を作(つくり) て其 志(こゝろざし)を述(のべ)し例(ためし)あり我朝の往時(むかし) 應(おう) 永の頃北越の士(し)に小枝(さえだ) 慶(けい) 次郎 敏泰(としやす)と云(いふ)者あり文は経傳(けいでん)百家に渉(わた)り歌道(かだう)乱舞(らんぶ)に 長じあるは源氏(げんじ)伊勢(いせ)の物語(ものがたり)を講(かう)じ勇 畧(りやく)武伎(ぶき)は元 来(より)其(その)性(せい) の長(ちやう)ずる所にして勇名(ゆうめい)一時(いちじ)に擅(ほしゐまゝ)なり然(しかれ)ども爵禄(しやくろく)顕栄(けんゑい)を 意(こゝろ)とせず行處不羈(をこなふところものにかゝはら)ず高(たか)く避世(よをさくる)の人に類(るい)せり其 行事(かうじ)の 【本文】 大畧(たいりやく)を尋(たづぬ)るに初(はしめ)北越(ほくゑつ)の鎮撫(ちんふ)小枝(さえた)亞相(あしやう)敏家(としいへ)卿(きやう)に仕(つかへ)て數々(しば〱) 先登(せんとう)踏陣(とうぢん)の功(こう)あり敏家(としいへ)卿(きやう)其 勇壮(ゆうそう)を稱(しやう)し且(かつ)同姓(どうせい)の族籍(ぞくせき) に系(かゝ)るを以(もつて)芽土(ばうと)の封爵(ほうしやく)を与(あた)へ給ふべき意(こころ)ありと雖(いへども)敏泰(としやす)が 気質(きしつ)世事(せじ)を軽(かろん)じ常(つね)に嬌慢(けうまん)なる行(おこなひ)をなせば一郡(いちぐん)一邑(いちゆう)の主(しゆ)となし 給ふとも行事(かうじ)を慎(つつしま)ず民(たみ)を治(おさむ)る次第(しだい)麁畧(そりやく)ならんを恐(をそ)れ給ひて 慶次郎 敏泰(としやす)を御前(おんまへ)に召(めさ)れ行状(ぎやうじやう)を改(あらた)め萬事(ばんじ)を慎(つゝしむ)べき由(よし)淳〱(くれゞ) 教示(しめし)給ひしかば慶次郎 深(ふか)く前非(せんぴ)を悔(くひ)向後(けうごう)を謹(つつしむ)べき由 答(こたへ)し かば敏家卿御 悦(よろこび) 限(かぎり)なく頓(やが)て采地(ちぎやう)五千 石(ごく)を賜(たまふ)の命(めい)ありしかば 慶次郎密(ひそか)に思ふやう浮世(ふせい)夢(ゆめ)のごとし歓(よろこび)をなす幾(いくばく)もなし□ 今 許多(そくばく)の禄を受(うけ)て食(しよく)は山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を備(そなへ)る共 喰(くらふ)所は腹(はら)に満(みつ) るに過(すぎ)ず身(み)に綾羅(りやうら)を纏(まとひ) 衣筐(いきやう)充満(みちみつる)とも詮(せん)とする處は寒(かん)を 【枠内】   繪本合邦辻巻一      三 【枠内】 繪本合邦辻巻一      三 【本文】 小枝(さえだ)     慶(けい)次郎 寒中(かんちう)    水風呂(みづぶろ)を   設(まふく)る圖 凌(しのぎ)暑(しよ)を避(さくる)の用(よう)に備(そなふ)るのみなり然(しかる)に是が為に区(く)々として細(さゐ) 行(こう)を謹(つゝしみ)心を縮(ちゞめ)身を検(くゝら)んは所謂(いはゆる)五斗米(ごとべい)の為に膝(ひざ)を屈(くゞむ)るとな何(なん)ぞ 異(ことな)らん封禄(ほうろく)を捨(すて)て他邦(たほう)に走(はしり)心にて適(かなふ)行事(かうじ)を為(なし)楽(たのしん)で生(せい)を遂(とく) るにしかじと量見(りやうけん)を定(さだめ)けるが又思ひけるは我(われ)禄(ろく)を捨(すて)て当所(たうしよ) を立 退(のか)ば復(ふたゝび)帰(かへり)来るべき期(ご)なし密(ひそか)に立 退(のかん)も無念(むねん)なれば故郷(こけう)を 去(さ)るの名残(なごり)に興(きよう)ある挙動(ふるまひ)をなして走(はし)るべしと工夫(くふう)をなし翌日(よくじつ) 早(はや)く出仕(しゆつし)して敏家卿の前(まへ)に出 某(それがし)不肖(ふせう)にして憍慢(ほしゐまゝ)なる界(けう) 境(がい)に数年(すねん)を送(をく)り数々(しば〳〵)御 意(こゝろ)に忤(たがひ)しを宥免(ゆうめん)あるのみならず今(この) 今(たび)抜群(ばつくん)の封禄(ほうろく)を賜(たまは)るは憚多(はゞかりおほく)も族籍(ぞくせき)の端(はし)を汚(けがす)を思召ての哀(あは) 憐(れみ)と肝(きも)に銘(めい)して難有(ありがたく)候 向後(けうかう)は仰に従(したが)ひ万事(ばんじ)を謹(つゝしみ)可申候よつて 今日は洪恩(かうおん)の万一を報(はう)じ奉るべき為 茅屋(ばうをく)にて麁茶(そちや)献(けん)じ度