【表紙 題箋】 ほうらい山 《割書:上》 【題箋下部 資料整理番号のラベル】 Jap 23(1) 【表紙左側下部 シール】 TIMEO HOMINEM UNIUS LIBR■ 【右丁 表紙裏(見返し) 資料整理番号のラベル】 SMITH-LESOUEF JAP 23(1) 1517 F 1 【左丁 文字無し】 【右丁 文字無し】 【左丁】 むかしか今にいたるまてめてたきため しにいひつたへ侍る事かす〳〵おほき その中にことにすくれてきとくなるはふ らう不死(ふし)のくすりとておひたるかたちを ひきかへし二たひもとのすかたとなしも とよりわかきともからはよはひをのへていつ まてもかはらぬ色は常葉木(ときはき)や松のみとり のすゑなかくたもついのちはかきりもなし そも〳〵此くすりのいつるところをたつぬ れはほうらいさんにありといふしかるに 【右丁】 この山は大 海(かい)のうちにありてもろ〳〵の 仙人のあつまりすむところなりあるひは此 山を藐姑射(はこや)の山ともなつけたりもろこしの いにしへ五 帝(てい)には第四にあたらせ給ふ唐(たう) 堯(けう)と申すみかとみつからこの山にゆきして 四人の神仙(しんせん)にあひ給ふ仙人大によろこひて ふらうふしのくすりをたてまつり侍りけり 唐堯(たうけう)すてにみやこにかへり給ひつゝ人にほ とこしあたへんとおほしめしけれともこのみ かとゝ申すはこれ上代の聖人(せいじん)なり五 常(しやう)【注】の 【注 儒教で人の常に守るべき五つの道。仁・義・礼・智・信。】 【左丁】 みちをたゝしくして天 理(り)のまことをたう とひつゝ人にをしへて世をおさめこのみちを つたへ給ひすゑの世まてもたえさしとつ ねに心にかけ給ふもし此くすりを人に あたへよはひ久しく命つきすは此くすりを たのみとしてほしゐまゝに世をみたし五 しやうのみちをわすれては天 理(り)のまことを やふるへししからは国家もみたれつゝ世のし つまる事あらしとかねてよりすゑの世を ふかくおもひとをくはかりてふらうふしの 【右丁】 くすりをは世にひろめ給はすはこのうち にかくしつゝ驪山(りさん)といふ山のうちにうつみ をかせ給ひけりそのくすりのとくゆへに 山中大にうるほひて草木はなはたさか えたり又このくすりのはこの上には黄精(わうせい)【なるこゆり(鳴子百合)の漢名】 といふ草おひたり後の世の仙人此草をとり こんて丹薬(たんやく)をねりて服(ふく)すとかや長生(ちやうせい) 不死(ふし)の 薬草(やくさう)にていまの世まても黄精(わうせい)はいのちを やしなふ三百六十 種(しゆ)の草木の中の                    第一とす 【左丁 絵画 文字無し】 【右丁】 しかるにかのほうらいさんと申すは是より 南海(なんかい)にむかいて三万余里の波濤(はたう)をへて その次の大海をは溟海(めいかい)となつけたか水の 色くろうしてふかき事かきりなしこの 故に黒海(こくかい)ともなつけたり風吹事なけれ とも波つねにたかくあかりまん〳〵として たゝへたれは雲の波けふりの波そのたかさ 百 余丈(よちやう)日夜にさらにやむときなし世の つねの事にはふねもいかたもかよふことな けれは人けんなかくへたゝりぬ天 仙(せん)神力(しんりき) 【左丁】 のともからのみ心にまかせてわたる故に またはこのうみを天地(てんち)ともなつくとかや かの溟海(めいかい)をわたる事又三万里をうちすき てほうらいさんのきしにいたる此やまはし めてあらはれしそのいにしへをあんするに わかてう神代のそのかみもろこし三 皇(くわう)の 第一 伏羲氏(ふつきし)の御ときに大 海(かい)の底(そこ)に六の亀(かめ) これありとしをかさね劫(こう)をつみてその大さ一 万里也あるとき六の亀ひとゝころにあつ まりかいちうにたゝよふところの大山を 【右丁】 甲(かう)にのけてさしあけたりもとよりこの 山はもろ〳〵のたからのあつまりたりし精(せい) なれはきれいみめう【綺麗微妙】の名山なり波うち きはのきしよりも峯(みね)の岩まにいたるまて すいしやうりん【水晶輪=水晶で出来た輪。転じて美しいこと、潔白なことの譬え。】の台(たい)のうへにめなうこはく 金銀白玉(きん〴〵はくぎよく)いろ〳〵のたまのひかりさなから くわうみやう【光明】かくやく【赫奕】たりかくてとしをふる まゝに草木おほくおひ出たりその草木の 有さまさらに人間世界(せかい)のたねにあらす 花さきみのるよそほひ色といひにほひといひ 【左丁】 またあちはひのうるはしきは心もこと葉 もをよはれす上(かみ)には梵天(ほんてん)の大くはほうの 徳をうけ下にはりうくうのへんけ無方(むはう)の ところよりあらはれ出し山なれはなしかは【なじかは=なにゆえ。どうして。】 この世にたくひあらんそのゝちあやしき けたものめつらしき鳥かす〳〵に生産(しやうさん)す 角(つの)のかたち毛(け)の色つはさのよそほひなき さえつるこゑをのつから天 地(ち)五 行(ぎやう)のとくに したかひ五のてうしみたるゝことなしわか てう神代のいにしへ天照太神あまの岩戸(いはと) 【右丁】 にとちこもらせ給ひしかは国のうち常闇(とこやみ) の夜と成にけりそのとき八百万(やをよろづ)の神たち 岩戸のまへにしてこれをなけきたまひて いかにして二たひ太神(おほんかみ)を岩戸より出し たてまつらんとさま〳〵はかりことをめく らし給ふとくに思兼(おもひかね)の命(みこと)と申す御神あり とをくおもひふかくはかりて天(あま)の香久(かく)山 の真榊(まさかき)をねこし【ねこじ(根掘じ)=根のついたまま掘り取るこ】にして上のえたには鏡(かゝみ)を かけ下のえたには白幣(しらにぎて) 青幣(あをにぎて)をかけ給ひ 庭火(にはひ)をたきかくらをそうし給ひけりまた 【左丁】 はかりことをめくらして常世(とこよ)の国よりも 長鳴鳥(なかなきとり)をもとめよせて岩戸のまへにて なかせられしに太神の御心なたまらせ たまひて二たひ岩戸を出させおはしまし けりされは常世の国と云はほうらいさん のこと也なか鳴とりと申すはこれ庭(には)とり の事なりこの鳥世の中におほき物にて 侍れは人さらにめつらしからすおもへとも あかつきことの時をたかへす八こゑをとなふ るそのきとくは又余の鳥にくらへかたし 【右丁】 まことに仙境(せんきやう)の名鳥(めいてう)なれは神世(かみよ)にも猶(なを)もて なしたまひ      いまにつたへて            やしろ〳〵                に            庭鳥(にはとり)は              かひ               給へり 【左丁 文字無し】 【右丁 絵画 文字無し】 【左丁】 また垂仁(すいにん)天わうの御とき田道間守(たみちのまもり)といふ 臣下(しんか)におほせて常世(とこよ)の国の香菓(かくのみ)【香りのよい果実の意】をもとめ させ給ふに間守(まもり)すなはち勅(ちよく)めいをうけた まはり常世(とこよ)の国にゆきむかふてかくのみを もとめえてみかとにこれをたてまつりき 香菓(かくのみ)と申すは今我てうにうへとゝめてめ てたきものにもてはやす橘(たちばな)のこと也 右近衛(うこんゑ) の陣(ちん)のまへに橘(たちはな)をうへらるゝも               この故と聞え                    たり 【両丁 絵画 文字無し】 【右丁】 しかるにこれより天上に太清宮(たいせいきう)太玄宮(たいけんきう) 太真宮(たいしんきう)なとゝてそのかみ世界(せかい)はしまりしその いにしへよりこのかた長生不死(ちやうせいふし)の大 仙王(せんわう)天 帝(てい) のみやこあり此うちにすみ給ふ天仙【天界の仙人。特に天上に住み雲中を飛行できる最高位の仙人。】 飛(ひ)仙【空中を飛ぶ仙人】の ともからはるかに此山をみそなはしこれし やう〳〵のれいち也とてあるひは溟海(めいかい)の波 をふむ事 陸地(ろくち)をゆくかことくあるひは蒼々(さう〳〵) のうらをかける事鳥のとふかことくに天上 よりあまくたり此山にすみ給へは十方諸国 の仙人もみなこの山にゆきかよひてたのしみ 【左丁】 をきはむとかやかゝりけれは天仙飛仙の神力 によりて宮殿楼閣(くうてんろうかく)重々(ちう〳〵)にして七ほうを ちりはめつゝをのつからしゆつしやうせり十 二のきよくろう【玉楼=珠玉をちりばめた楼閣】九 重(ちう)の玄室(げんしつ)ひたりには たまの池あり右にはみとりの泉(いつみ)あり池の うちには五しきの魚(うを)ありそのほかになを 方壷員岱閬風玉圃(はうこいんたいらうふうきよくほ)とてくうてんのきを ならへろうくわんたる木をきしれりまた 溟海(めいかい)の波のうちに大 蜃(しん)のはまくりありて  気(き)をはくその気にしたかふて五色の雲そら 【右丁】 にたなひき雲のうへに三の宮殿あり鳳(ほう)の いらかたかくそひえ虹(こう)のうつはり【虹のように上方にやや反りを持たせてある梁(はり)】なてわた かまれりすへてあらゆるくうてんろうかく 厳浄奇麗(こんしやうきれい)いふはかりなしめなうのはし らこはくのなけしさんこのらんかん黄金(わうこん) のたる木硨磲(しやこ)【玉偏の文字にしているのは誤りと思われる】【注①】のすたれには真珠(しんじゆ)のやうらく をかけすいしやうの戸たいまいのかきるり のかはらをならへたりらんしや沈水(ぢんすい)のかう【香】の にほひとこしなへに【永久に】してたゆることなし庭 には金銀(きん〴〵)のいさこ【いさご=すなご(砂子)】をしき池には八 徳(とく)の水【注②】 【注① シャコ貝科の二枚貝の貝殻。七宝の一つ。厚くて白色の光沢があり、磨いて装飾用にする】 【注② 八功徳水(はっくどくすい)のこと。極楽浄土にあって甘く、冷たく、清浄で、心身を養う八つの功徳を持つといわれる水。】 【左丁】 をたゝへたり池のみきはにはほうわうく しやくかれうひん【注③】その外いろね【色音】もめつらか なるもろ〳〵の鳥あつまりつゝ羽さきをな らへてさえつるこゑきくに心そすみわたる 咲みたれたる花の色なりこたれ【果実などがたわわに実って枝が垂れ下がること】ぬる菓(このみ)の にほひ四方にくんしかゝやきてたくひはさら にあるへからすもろ〳〵の仙人花にたはふれ 水にあそひ楽(かく)をそうし舞(まい)をなし四しゆの 肉芝(にくし)五しきの交梨(かうり)【食べると飛行が出来るという仙人の食べ物】火棗(くはさう)【食べると空中飛行できるという仙人の食べる果物】西瓜(すいくは)をしよく としきよくれい【玉醴=道家で、不老長生の神薬とするものの一つ。玉の精からとった液体という】きんしやう【金漿=仙薬の名。黄金を朱草で溶かしたものという】の天しやう 【注③ 迦陵頻伽(かりょうびんが)の略。極楽浄土にいる鳥といわれ、、顔は美女のようで、その声が非常に美しいところから、仏の声を形容するのに用いられる。】 【右丁】        の         こんす【酒の異称】            の             さけ           たま             の              さ               かつき                  を             かたふけ 【左丁】        たのしみ            に         ほこる            有さま              たとへん                 かたは                な                 かり                  けり 【両丁 絵画 文字無し】 【右丁】 またひとつのうてなあり柏梁台(はくりやうたい)【「栢」は「柏」の俗字】と名付た り高さ五丈の幢(はたほこ)のうへにしろかねの盤(ばん)あり て天にむかふてさゝけたり秋の夕のしら露 を盤(はん)の中にうけとゝめて是を煉るに糖(あめ)となる これをもちひて煉丹(れんたん)の君薬(くんやく)とせり又青霜(せいさう) 玄雪(けんせつ)とて雪霜まてもところから【所柄】に命を のふるくすりとなる又ひとつのくうてんあり 七ほうをちりはめて二重に軒をかまへたり軒 の上に額(がく)あり長生殿(ちやうせいてん)とうちたり御殿(ごてん)のまへ に門あり門の額(かく)にはふらうもんと書(かき)たりけり 【左丁】 殿のまへには白(はく)大 椿(ちん)をうへたりけり八千歳 を春とし八千歳を秋とすとしるしたるち きりのふかきたとへにも八千世をこめし玉 つはきかはらぬ色とよみたりける哥の心も これそかしかの長正生殿のうちには不老不死(ふらうふし) のくすりありこれ天 帝(てい)のおさめたまひし ところなりこかねのうてなの上に瑠璃(るり)の壷(つほ) にいれ給ひまへにはもろ〳〵のはなをそなへ 常(つね)にめいかうをたきつゝ八人の天仙日夜に はん【番】をつとむれは門には又十六人の鬼神(きじん) 【右丁】 ありてかたく是をまもるとかやこのくすりの にほひあまねく四方にくんしつゝ雲路を さしてさかのほれはそらに五色の雲たな ひき天人つねにやうかう【影向】すこのくすりを ふくすれはかたちはいつもわかやかによはひ かたふくこともなくいのちもさらにかきりなし されはもろこしの麻姑(まこ)といふ仙人はそのかみ 継母(けいほ)のさんけんによつて年十五と申せし時 父母の家をにけ出て山にこもりし女なりをの つから仙術をさとりえてほうらい山にいた 【左丁】 りつゝふらう不死のくすりをなめたりそれ より三百余さいの後 張重花(ちやうてうくは)といふ人に山中 にしてゆきあひつゝむかしのことをかたり けるそのときのかほ          かたち            さらに         むかしに             たかはす                 と                  也 【右丁 絵画 文字無し】 【左丁 文字無し】 【裏表紙 文字無し 左上部に資料整理番号のラベル】 23 fo?