北陸三県  縁(ゑん)かいな節(ぶし)  明治廿九年七月廿七日印刷 大津なみ         同  年同月卅一日発行              画工印刷兼発行者               日本橋区新両葭町二番地                    楠山橘次郎 【本文上段】 〽北陸(ほくりく)のつなみ騒(さわ)ぎはなか〳〵に眼(め)も当(あて)られぬ    有形(ありさま)は離(はな)れ〴〵に親(をや)と子(こ)がなるも宿世(しゆくせ)の縁(えん)かいな 〽親(をや)の譲(ゆづ)りの家蔵(いへくら)を地震(ぢしん)の為(ため)につぶされて   なんと十方(とはう)に暮(くれ)の鐘(かね)これも自然(じぜん)の天(てん)さいな 〽地震(じしん)のあとの大(おほ)つなみ驚(おどろ)く中(なか)へまた火事(くわじ)と    生(いけ)る心(こゝろ)は更(さら)になし実(しつ)に大(おほ)きな難(なん)かいな 〽先祖代々(せんぞだい〴〵)伝(つたは)りし宝物(ほうもつ)田地(でんち)おし流(なが)し何所(とこ)へ    行(いく)にもあてはなし早(はや)く救(すく)ひはこんかいな 〽禍(わざは)ひ蒙(かふむ)る三県(さんけん)は後(のち)の世(よ)までもはなしだね    聞(きく)も憐(あは)れな青森(あをもり)に岩手(いわで)宮城(みやぎ)の県(けん)かいな 〽一時(いちじ)よせ来(く)る大(おほ)つなみ逃(にげ)るも引(ひく)もあらばこそ    腹(はら)に動気(どうき)を打浪(うつなみ)の胸(むね)はどん〳〵ドンかいな 〽聞(きく)も語(かた)るも皆涙(みななみ)だこんどつなみの人死(ひとじに)は    負傷(ふしやう)合(あは)せて六万 余(よ)実(じつ)にむざんな事(こと)かいな 〽万死(ばんし)をのがれて一生(いつしやう)をたすかる漁師(れうし)の運強(うんづよ)く       不幸(ふこう)のうちの僥倖(さいわい)はおめぐみ下(くだ)さる                     天(てん)かいな 【本文下段】 〽難(なん)に罹(かゝ)りし     万民(ばんみん)は 世渡(よわた)る業(わざ)も    なく斗(ばか)り 恵(めぐ)む政府(せいふ)の     救助米(すくひまい) 有(あり)がた涙(なみだ)が     出(で)るわいな 〽府県(ふけん)市内(しない)の     人々(ひと〴〵)が 東西南北(とうざいなんぼく)     奔走(ほんさう)し 有志(いうし)の者(もの)が     募集(ぼしう)して     贈(をく)る義(ぎ)えんの        金(きん)かいな