【表題❘最上部右から横書き】 奈良県下十津川地方変災実況之図 【右下枠内】 ⑴  是は今回の変災中尤も惨状を極めたる林村近傍山崩の実況 にて十津川の本流の一時棄塞せられしは此崩壊の為めにして尚 二里の川上迄逆流し高津、上野地、谷瀬。宇宮原の各村は悉く七 八十間以下の水又は土中に在り即ち(イ)印は林村(ロ)印は上野 地村(ハ)印はツンボ茶屋辺夫の玉置郡長の死せし所なり ⑵  是は水中に沈める谷瀬村の実況にして地面より水上まで凡 六七十間ありといふ ⑶  是は壚【?】野近傍山崩の為め天の川の流を塞ぎ一時湖水となり し実況なり之が為め天の川の下流は凡三時間許于川となれりと いふ ⑷  是は辻堂村の上に在る八谷村及辻堂村山崩の実況なり初め 山の鳴動して崩壊の兆あるや若し八谷村の山崩懐すれば其下に 在る辻堂村は共に土中のものとなるべしとて八谷村の者は皆難 を外に避んとすると同時に急を辻堂村に告げしめたる時は巳に 数十丁の山上より崩壊し来りし時にして八谷村は勿論辻堂村も 均しく土中に埋もり人も家も一の全きを得るものなきの惨状を 呈するに至りしなり辻堂村は人家廿八戸あり此辺にて小市の形 をなし郵便局もありし所なりしが只寺一箇のみ残し其他は皆無 となれり ⑸  是は高津村の水中に在る実況なり北村に高津の宮とて道路 の右手小高き岡の上に一の神社あり其社前に樅の大木あり今は 水面僅に尺余を現はすのみ ⑹  是は被害地に於て被害人民が警官及び慈善者の慈恵に依り 一命を全うせし状を写せしなり ⑺  是は十津川郷被害地中の凡五分一の図なり此内(イ)印は壚【?】 野(ロ)印は辻堂村(ハ)印は長殿(ニ)印は宇宮原(ホ)印は上野地 (ヘ)印は林村の位置なり