【表紙タイトル】 嗚呼不侭世之助噺 【中表紙】 【所蔵者の朱書き】 清長 □□ 天明元 嗚呼不侭世之助噺 【中表紙裏】 【所蔵者署名?】 △ 御月 【一丁表】 むかし かまくらのかたいなかに【片田舎に?】福兵衛といふ【この行綴じ目で見えず】 百姓あり むすめ一人もちけるか 百人に すぐれし び人【美人】にて 今年十七になり ければ 江戸へほうこうに出さんと おもひ しんるいのかたへ つれゆく 【右下 娘の台詞】 とつさま にし【汝】も くたびれさしつたんべい あれみなさろ あんなゑゝもの をきてあるき ますはよ 【左下父親の台詞】 おきくや わりやア あるきつけねへから さぞあしが かんだるかんべい もふは ちく とんべいだ 【一丁裏】 福兵へがゆかりのもの あさくさの願人に て めくら藤といふもの しやらとくぶ人から ものゆへ おきくをみる よりむなさん用【胸算用】て たのもしくうけあふ 【めくら藤台詞】 これは〳〵いろ〳〵 お心づかいな おみやげどれも よいものだ 【画面中段右 後姿女房の台詞】 これは〳〵 心つかいな これはみな あのこ のしたくに してやり ませう 【画面左下 娘の台詞】 まづ わた しが そば において しついて 春になつて からよい所へ 出してやり申【?】 ませう 【二丁表】 【福兵衛の台詞】 その金は 二十両ござり 申すよ 十両 はそれ様に お上申ますべい あとの十両は おきくがしたく に おたのみ 申よ ずいぶん しかつて くんな されや 【画面右下 おきくの台詞】 おんばあ これから かめ【自分のことをかめと自称?】 御めん どうに ます 何ン にも しり まし ねへ 【二丁裏】 おきくは通りものゝ女ぼうに しこまれ今では おざいこうもぬけ 切てよほどのしやれ ものとなりければ あたりきんしよ【辺り近所】の ひやうばんものに ていなかのひまおり からは 又五だんも 十だんもきりやう をあげる これしよせん やしきがたへ ほうこうに 出す気はない うつてやる がてみぢ かでゑゝ てめへも  一わりのせて やろう おりいれ はたらいて みやれ 【画面左下 後姿の男の台詞】 そこは 此八が のみこみ山だ あれでは きつと あたゝ まるに ゑゝに 【三丁表】 もしなんとおつしやつても がつてんのゆかぬみちだよ きつねにばかされは しなさらぬかへ そして どこへゆく のだへ 【画面左 後姿の男の台詞】 はてさて それは 大きなまちがい けふ ゆく所は おれき〳〵だ しかもだんな さまがたは けつこうなりあすこへ しゆび【首尾】すれば 大しあわせ だよ 【三丁裏】 【右側の男 台詞】 こいつはどふもたまらぬ はなはだきにり【気に入り?】だ なんとかしてくれるきは ないか かうじ町のいど じやあ ねへよ 【左側の黒羽織の男 台詞】 介ぼう み給へ きんねんの ものだよ かつてみる御しんは なしか 【四丁表】 おきくはとう〳〵 よしはらへ百両 にうられ今は 松田やの きぬ川とて ならび なきゆふ くん【遊君:遊女のこと】となり ひくて あまたの 身となる そのころ 与之介とて 大のいろ おとこかの きぬ川も にくからず おもひければ おり〳〵うらちや屋ふしみ町 のいちや つきあり 【四丁裏】 かまくらのたつの口 へんの ぶざすぎ大じん きぬ川にうちこみ まい日〳〵通ひける が うけ出してかこわんと ていしゆにそうだんする これきぬ川が 身うけは いかほどじや くにかたへ 金を云て やつてそう〳〵 さうだんを きわめたい 【きぬ川の台詞】 いつそぬし のこはいろ をつかい なんし 【五丁表】 【画面左上扇子で口元を隠す男の台詞】 はま村やと きこへては 大さわぎだ おれは やまとやのこゝろだ 【画面中段 酌を受ける男の台詞】 はま 村や あり がたい 【画面右隅  台詞】 その ほかに □も かゝみ □川は 入ま せふ 【画面左 平伏する茶屋の亭主 台詞】 一はこ半でな ければ御さう だんはでき かねます 【五丁裏】 【遊女きぬ川の台詞】 介さんきゝなんし ぶざめがみうけ をすると申んす【申しんす】 くにへかねをとり にやると申んす からそのまへに くめんしておくん なんし 【世之介 台詞】 くめんといへば にげるのだが にげた所が こじきと かくごを きわめねば ならぬといふ よふなものだ なんでも 一ツ一しやう のちへを 出して みやうそ 【六丁表】 世之介は何かいきに くらしけれども内ゝは すかんひん【素寒貧】にて もとより かんどううける親もなけ れば □んぽな事もならず ただ きぬ川が事を おもひわづらひ ゐけれども身うけは さておき しちうけの くめんもてきねば こゝろをいため 文などだしてみては 気をもみしまひ には しあんに あぐみ いつも こう〳〵と たかいびき のみなり 【六丁裏】 世之介ふと思ひ つきて金 のくめんに下ふさのくに はにうむら【羽生村】 にいたり しに 大なる 家あり くら のかたへまはり てみ れば ちん【亭】ざ しき ありて そのほとりの いけに かきつ はた【杜若】のさかり【盛り】 なるにみとれ てやすらひける時 此家のあるじの むすめ おかねと いふ十人なみのふりそで ちんざしき より与之介をみそめる 【画面右下 世之介の台詞】水かゞみで みればかきつばた のひらき であは た【痘痕】は少シ あれど も なか〳〵 □はに はなだ 見事〳〵 しかしはま村 やば なるかみと いふみは ちとつよ すぎる 【七丁表】 あるしのむすめ おかね こしもと にさゝやき 世之介をちんさしきへ よび入 あつかましく くときける おまへをつれて ゆくにはどこ ぞの山おくかたゞしは かみがたのほうへでも ゆかば かくべつなん にしても 金がまんと なくてはできぬ そうだん二タはこ ぐらい くめんし給へ いつしよに にげませう   おかへりなされ いまなら わたしも つれていて 下されませ 【こし元の台詞】 ぢよう様の おねがいかな へてお?上ケ なされませ 【七丁裏】 どふも こわくて ならぬ わいな 【八丁表】 此あるじは 大がねもちなるが にわのおくに石にて たゝみ上たるいわ 山をつくりその いわのほうの門へ 金を入おきぬす人 をきびしくふせぎ けるが おかねはかのいわとの かぎをぬすみ出し 木のゑだへつなをさげ なるかみといふみにて やう〳〵にあがり かねをぬすみ いだす 【世之介の台詞】 あぶ ない〳〵 しづかに〳〵 【八丁裏】 【おかね台詞】 これで 二タはこ でござり ます 【世之介 台詞】 さて〳〵御しん せつ わすれ おきませぬ ありがた 山ぶき色【黄金?】 てうど これ で 二タはこ しめこのうさぎだ 【九丁表】 かくて まつの きへつな をさげ おかねは へいの そとへさ がりて 世之介と一所に にげる 心なるに世之介は 一所ににげてはくめんわるきゆへ つなを切ておかねを木のうへより まつさかさまにおとすとは あんまりむごいやつなり そなたをつれていては ちとこちの さん用があわぬ 此二千両は きぬ川を うけだそふ といふは かり ことだ 【九丁裏】 おかねはつなをきられ いたべい【板塀】のうちへ おち下のいし【石】 にてかほをうち あしをくじきけ ればめはかたくつぶれ 口をさき はなを かき ほう【頬】ははれ上り びつこ【歩行困難者の蔑称】となりふためと みられぬていになり 大きにいかりをなして いたべいをのりこへおつかけゆく 【おかね台詞】 あの世之介の 人でなしいづく までかはのがす べき 世之介は二千両のかねを 松浦やへもち来り しに 杉大じん がくにからの□た かねのこぬ うちなれば 大きによろこび千五百両 わたしほかに二百両 のしやく金【借金】を はらひあと 三百両を 志とためて おんくわふ くらす心也 【きぬ川台詞】 此やうな うれしい 事はあり いせん 【画面右下 女郎屋亭主?台詞】 【綴じ目に隠れて一行目台詞不明】 ります 松□か おきゝなされ まし たら 【画面左下 女郎屋関係者台詞】 さぞ や 【さぞや】き すぎの あふぎばこ でごさりま せふ 【十丁裏】 世之介はもとつかいし【使い:使用人】下人 治兵衛といふものと しやう小ぐ【少々愚】なりは □分【なにぶん?】たの もしき男なれば きぬ川を つれきたりて たのむ 【世之介台詞】 はにう村のしり もきみがわるし しばらくてまへの 所にゐ候【居候】にして くりやれ 金 もよほどもつて ゐるから ゆるりと よいおもひ つきが あらふさ 【画面右下 治兵衛台詞】 おきづかいなされ ますな いつまでも わたくしかたに おいりあそ ばされ ませ 【十一丁表】 おかねは与之介がおかけにてうまれもつかぬかたはものとなり 与之介にうらみをなさんとそここゝとあるきしか とちゆうや 治兵衛がたにきぬ川 もろともしのびいると きゝたづねきたり あほうのでつちをだまし ゑぼしあめのふくろさつけて いへのうちへはいる 【丁稚台詞】 此うちへはぬす人かたくきんぜい【禁制】にて候 ぬす人でさへなけは はいりなさい そのかはりに こちへもうまい物をおくれよ 【画面左下 おかね台詞】 おりふし これに ゑぼしあめ にて【?】候 これを めし上かれて われらを うちへ 入て おくれ 【十一丁裏】 おかねはうちに入 あほうに やうすをきけば治兵衛も 与之介ふうふもきん所へ ほしまつりによばれてゆきたり ときゝ あほうをしてうの そとへねかし た【わ?】れはあほうが してうのうちに入 よふけて与之助 ふうふがかへり たるを うかゞいおそ ろしき すがたにて ふうふを ひきさき すてんとあら われいで きぬ川が にげると ところを おひ【帯】の さきを 【画面左下 丁稚の様子】 あ ほうは かに くは れる も この さはぎも しらず ねいり いる 【十二丁表】 くわへ てはな さす 与之介は でばぼうてう【出刃包丁】 にて おかねが くびをうち おとす 【画面右下 きぬ川台詞】 のふかなしや なむ くわんぜ おんぼさつ 〳〵 【十二丁裏】 【画面右上:おかめ台詞】 うらめし やなあと いひた けれども くちが ふさがつ ているゆへ たゞ だまつて にらめ まわす 【画面右下:地の文】 おかねがくびは をびをくわへ せいけんたとのどく かやをまいてみたれとも なにかふじゆうとら にてせんべいを一まい まわしながら くうてち なり 【十三丁表】 【右上】 与之介ふうふはうろたへ かやのうちへとび入 くわんをんの ぶつそう【仏像】を いだし 一しんに いのる せつないときの ほとけだのみ なれど たすけ 給へ〳〵 【十三丁裏】 かゝる所へていしゆ 治兵衛立かへり かのおんりやうをうちころさんと おもい けれども もはや 一たびしんだ ものなれば あら□でもゆかず わるくうちて きぬ川がをびをやぶり でもしては きのどく又 をびをぶち ころし ては ふじ ゆふなら んと ひかん□ 【画面右下 治兵衛台詞】 此うへは しよしう【諸州?】 くわんをん さまのことだよ 【十四丁表】 おんりやうもしまひがつかね□こゝは一はん大つらにて く□つとりようけん【料簡】をかへてかんにんし くりからふどう【倶利伽藍不動】もひさしいものなれば くりのからよりおもひつきていがぐりと なりて たんばの大江山の さし合がよかろうなどゝ くふうし くちにくわへし おびをはなせば くびはたちまち いがぐりと なりける ゆめほど たわいのなき ものはなし 【十四丁裏】 世之介 きぬ川が夢をみて しあんにあぐみをろ〳〵とね入 此ゆめにてそうみ□りあせ をながし ちや屋【茶屋】の男におこ され めをさましてやうすを きけは きぬ川もいよ〳〵 すぎ大じんにうけいたされ もはや きのふ くるわをいで しとのはなし しよせんくいてもかなはぬ こと さつ ぱりと おほしめしきられませ これはこちでかつて まいつた いがもちで ござります これで おちやでも あがつて ちやにして【冗談にして】 おしまひ なされませ 【画面右下 世之介台詞】 ゆめはさかゆめ【「夢は逆夢」】とは よくいふたものた くりの いがの いがもちに なつた はかり がとく なやう なものだ 【十五丁表】 世之介ゆめにてさとりをひらき これからは 身のあげつきでもきめる心になりしに どじやうや 次兵へがとこにて こんれいとゝのへ けり ゑどきんざい【江戸近在?】の大おたふくむすめ よい男にそいたき ねかいにて【願いにて】 大毎【大枚】【廿両?】のぢさん金にて与之介が 所へ来る 丸わた【丸綿】を とりて かほを みれば ゆめにみたる おたふくに そのまゝの かほなれば いよ〳〵おそ ろしく おもい なか よく そいとげ けり 【画面右下 世之介台詞】 わしが うちは 大のひんろう【貧陋】 たよ しよじ【諸事】 そのこゝろて たのみます 【十五丁裏】 【見出し上段 世介噺下終】 【本文上段 杉大尽の台詞】 ずいぶん ねんを 入て つとめよ ふたり ながらはじ めてあいま す きぬ川は すぎ 大じん にうけ いだされ なに ふそく なく おく様 〳〵と あふかれ ければ 今は 与之介 をみて も すこし も【画面中段左に続く】 しらぬがほにて 介さんのすのじ いひ出さずけいせい といふものみなこの くらゐなものなれば むすこさんがた あま りふつはまりは【続きは綴じ目で隠れて判読不可】 【画面右中段】 世之介女ぼうのかげにて奉公のもとで にありつきかまくらへ奉公に出ける そのだんなといふはかのすぎ大じん おく様といふは きぬ川なり いよ 〳〵まゝならぬ うきよとさとりて りちぎまつほうにつとめ子ども あまた もち めでたくさかへけり 【世之介台詞】 此すへは おめを くだ さり ませ 【左頁 中表紙】 【所蔵者のサイン?】 【△ 御月】 【中表紙裏】 【文字、画像なし】 【表紙裏】 【文字、画像なし】 【表紙】 【書き込みなし】