WEEKLY PAPER   No. 78. "DENKICAN NEWS"  JESSE L. LASKY presents CECIL B, DeMILLE'S  PRODUCTION "MALE AND FEMALE" Founded on J. M. Barrie's famous play "The ADMIRABLE CRICHTON" Adapted for the screen by Jeanie Macpherson.  A Paramount-Artcraft Picture 【(二)頁 上段外枠】 (二) 大正九年六月廿五日発行 デンキカンニユース 第七十八號 【(二)頁 下段】 大正九年六月二十五日封切 特別大興行映畫番組         米国ヱデイケーシヨナル社映畫  (1) 賜 台 覽 實寫 [楽天郷の晝夜] 全一巻                 説明 細山夢眼      米国パラマウント社アーバツクル映畫      監督兼作者ロスコー、アーバツクル氏       『デブのアーバツクル君        アルセント、ジヨン君 共演      (2) 喜活劇 [デブの天幕生活] 全二巻             "CAMPING OUT"             説明 徳永天露      米國アートクラフト社特別映畫――巨星セシル、ビー、デミル氏一代の大作  (3)  《割書:芸術的|大作品》 [男性と女性] 全九巻      Cecil B. DeMill【DeMille】's production "MALE AND FEMALE"    △原  作………………………………………………………ゼー、ヱム、バーリー氏    △補  作……………………………………………ジヤニー、マツクフアースン女史    △監  督………………………………………………………セシル、ビー、デミル氏    △撮  影……………………………………………………アルヴイン、ウイコツフ氏    △美術監督……………………………………………ウイルフレツド、バツクランド氏    △製作支配…………………………………………………………ホワード、ヒツギン氏    △製  作……………………………一九一九年十一月ジヱツス、エル、ラスキー社    △東洋映寫権所有………………………………………………日本活動寫眞株式會社          [説明擔任] 西川遊魂 石野馬城 高岡黒眼          [音楽擔任]……………………… 管絃楽團第一部第二部演奏 【(三)頁 上段外枠】  大正九年六月廿五日発行 デンキカンニユース 第七十八號 (三) 【(三)頁 中段】         ==映畫の概略== 『神はその己の像の如く人を創造し玉へり== 即ち神の像の如く人を創り、之を男と女とに別 ちたまへり………舊約聖書創世記第一章二七節 『神のなし玉ふ創造の數の中に加へられて== 此世に女と生れて、ロンドンの贅澤なるローム 家の複雑な運命の中に交つて、『トウイーニ』は 奉公す………………………………リラ、リー嬢 『ローム伯爵――此人の貴族的な我儘な眼にも 貴族の血は果して青いか、或は普通の人の如く 紅いか、後日実際に判明する時あらん==== (註古言に因る)…………テオドル、ロバーツ氏 『ローム卿の従弟アーネスト、ウーリは身分あ るに任せて、常に料亭で食事し、莫大な支拂を 爲せる人なり…………レイモンド、ハツトン氏 『ローム卿の妹娘アガタ、レイゼンビーは美人 に有り勝の事ながら、己の顔の様子そのものよ りも、其時々の顔の様子を處置して行く方が却 つて大切であると云ふことを知れる女である… ………………………ミルドレツド、レアード嬢 『姉娘メリー、レイゼンビーは、手と云ふ者は 單に爪磨き師に磨いて貰ふばかりでなく働かせ るためのもの、頭は單に美々しく飾り立てるも のではなく物を考へるためのもの、又心は常に 物事に吃驚するばかりでなく人を愛するための ものである事を、知る必要のある人である…… …………………………グロリア、スワンスン嬢 『ローム家の召使頭イリアム、クリチトン―― 此男は實に見上げた人物である………………… …………………………トーマス、ミーハーン氏 『こりやボーイ、其様なことをしてゐると今に 死刑臺に乗せられる様になるゾ。 『人道は確かに精煉されて來れるは事實なるも 或は貴族的になりつゝあるにあらざるか――婦 人は屢々入浴すると雖、太古の女達より美人と なりしと云ふ譯のものにもあらず。何故浴室を 【(三)頁 下段】 客間の如く美々しく飾る必要ありや? 『お前は近頃注意が足りませんよ、妾の入浴の ことに付て少しも氣を付けないのね。熱さは九 十度以上はいけません。 『薔薇水。 『若し何人かゞローム家の令嬢と、臺所働きの 例の『おさんどん』との運命は、到底離すべから ざる程共に結びつけられたものであると、その 二人に物語らば、共に眼を見張つて笑ふべし。 『化粧水。 『薔薇の嬢へ―――今朝私はお伺ひ致します、 そして其節貴女様の可愛ゆき白き手の指に好い 物を差上げませう―――ブロツケル、ハースト 『些細なことが生み出す大喧嘩。      第二巻 『此トーストは駄目になり過ぎて、随分柔かい のね===(お互に皮肉くる) 『駄目になるものはトーストに限つてゐるので 御座いませうか……お嬢さん! 『物を較べるのは嫌な氣持のするもので、また 時には危險なこともある。 『これでいゝ事よ、クリチトン! 『靜かなる場所にて書物に親しむことは、地位 の高きと低きとを問はず、すべての人を仲よく せしむものである。 『詩集――イリアム、アーネスト、ヘンレー。 『栄えし時も過ぎ去りて        みな墓場のものとは失せぬ   娑婆にありしその時は          我は、バビロンの王――。          汝は――奴隷の白人――。 『私は誰の奴隷でもありません。違ひますよ。 『ですけれど貴方の奴隷にならなりますワ。 『アツギーさん!貴女ヘンレー詩集の第二巻を 見ましたか? 【(四)頁 上段外枠】 (四) 大正九年六月廿五日発行 デンキカンニユース 第七十八號 【(四)頁 中段】 『我は汝を見て、奪ひ取り。側へと引寄せて。    汝の誇りを無惨や、打ち摧きたり。 『アーニーさん!貴方ヘンレー詩集の第二巻を 見ましたか? 『クリチトンや、妾ヘンレー詩集の第二巻を探 してゐるんだがね。 『――詩――七と同文。 『あら、クリチトンや!お前が古代バビロニア の王様のことが好きだつたとは、妾少しも知ら なかつたワ。 『處が爰に、バビロニアのことは少しも知らざ れども、クレオパトラダンスに出る或る女王の 事は非常によく知れる人物あり。其名はブロツ ケル、ハースト卿…………ロバート、ケーン氏 『あの人とお嬢様とは好いお仲間ぢやないの? 『クリチトンや、ブロツケル、ハースト卿にソ ーダ水を割つてウイスキーを上げて頂戴! 『立派な若様と令嬢とが直ぐ結婚する筈であつ たと云ふ事が、身分賤しき召使頭に何の關係あ らんや! 『お茶を入れる時==此打ち解ける時==に自 分の心配な戀愛事件を親友に打明けて智惠を借 らんと、アイリーンと云ふ令嬢が訪問する。 『アイリーンさん、私等はヨツトで南洋に旅行 する相談が今出來たのですか、貴女は何故御一 諸にお出でにならないんですか? 『難有う厶いますが一寸参りかねると思ひます 妾、メリーさんに少し御相談したいことがあつ てお伺ひいたしましたの。 『メリーさん、私のある御友達が御自分よりも 身分の低い方を大變に思つてゐらしやるのよ。 又その男の方も妾のお友達を愛し、結婚したい と望んで被在るの………でこの二人の方は本當 に幸福に暮せるでせうか? 『相手の男の方と云ふのは、その女の方の家に 勤めてゐらつしやるのよ。 【(四)頁 下段】 『ジヤツク、ドーとパラダイズ、バードとを一 諸に一つの籠の中に入れて置れるものですか! ねえアイリーンあん!矢張同じ類のものでなく ちや駄目ですワ、貴女だつて妾だつて眞逆、左 様でないとは云へますまい。      第三巻 『そりやね、メリーさん!何とでも云へますけ れど貴女が何としても……我關せずと云つた風 の顔してゐられないものが只一つあります…… ……それは、戀ですワ。 『お前方召使の者は、近頃随分無遠慮になつて 上下の區別がないのね。 「人と云ふものは他人の心がどんなものか能く 判らぬもので厶います。人すべて自然に還り土 塊となりましたら、最う其時から貴女は御嬢様 でもなく私は下男でも御座いません。吾々は自 然のなすすがまゝになるもので御座います。 『波の上を、辷り出て行くその船に、   楽しく乗れる令嬢は、戻るつもりで旅の空。 『激流を横切つて――。 『新聞』==アイリーン、ダンクレーギー嬢の結 婚――不意の発表――花聟は花嫁の家の召使。 モルン公爵の一人娘アイリーン嬢は………。 『女が此様な男と結婚すれば、直ぐに嫌になる だらうと僕は思ひます。 『餘り滑稽ですワ。まるで妾がクリチトンと結 婚するのと同じ様ですもの………。 『此話の様な事も其儘お了ひになつたかも知れ ぬ――若し一同が風に吹き寄せられて海圖にも ない熱帯國の海に行かなかつたならば………。 『妾はクリチトンさんの側に居りたいばかりに お嬢様の女中となつて船に乗つたのに、彼の人 は妾を見向いても呉れないんですもの………。 『――詩――。 『此ボートは婦人用のです。旦那様、直ぐに別 のボートを支度致します。 【(五)頁 上段外枠】 大正九年六月廿五日発行 デンキカンニユース 第七十八號 (五) 【(五)頁 中段】 『メーリ嬢さんは何處だ? 『嬢様を探し出す迄は、私は此舟から離れない。 『突如――太陽の光に消ゆる露の如く―メリー 嬢は彼にとつて、最早立派なお嬢様ではなくな つた。普通の女であつた==憐むべき且綺麗な 一婦人に過ぎなくなつた。      第四巻 『父様は何所に在らつしやるのだらう?誰かお 父様を見た方はありませんか? 『貴方は濕つて冷たいでせう? 『習慣と云ふものは人間の性質に偉大な力を及 してゐるもので、急に習慣は變るものでない。 香水入の入浴に慣れてゐたローム家の人は―― 自然の警鐘は、射し登る太陽である――と云ふ ことがまだ分らない。 『私は難破した船へ行つて、何かあるか見て來 ます。貴方や他の方は、岩の下の方へ下りて貝 を採つて來て下さい。 『==スイス家族のロビンソン== 『==私は猿に石を五つ六つ投げ始めました。 猿は人眞似する癖があるから、木に實つてゐる コーコナツトを毮り取つて大變な勢で擲けたか ら、早速拾つて私は其實の皮を剥ぎました。 『==詩集== 『僕は貴女のお側にゐる時の平素同様に、僕の 服を折目を正しく押かけてゐるんです。 『火を起すのですから、貴方の時計の蓋ガラス を貸して貰ひたいのです。 『ねえクリチトン!餘程時間も遅れてゐるのだ から、朝の食事の支度を急いでしてお呉れ! 『小川へ行つて水を一杯汲んで來給へ! 『水を運んだりすりや、僕弱つて了ふよ。 『トウイーニ!俺はアーネストさんを伴れて川 へ水汲みに行くから、火の側を離れるな!      第五巻 『此次に、正直に仕事をしないと、こんな事は 【(五)頁 下段】 幾度でもあるゾ。 『トウイーニ!お前にお給金を拂つてるのはク リチトンぢやないのよ。妾だよ。 『お嬢様吾々一同は此島で、今後一生暮す様に なるかも知れません。だから此島では物を買ふ お金と云へば働くと云ふ事の外はありません。 働きの嫌な人は寒くなつて飢じくなつて……。 『クリチトンや、妹や妾が働かなければ、お前 は妾等に食べさせないと云ふのかへ? 『早く〳〵!虎が来た! 『あらお父様!貴方が來て下つたからには貴方 が此島の一等上席の地位に就いて下さいな。 『クリチトンや、此島の頭に誰がなるかと云ふ 問題は只一度きり取極めればいゝのだ!元々貴 族に生れた俺が当然皆に指揮せねばならぬ。 『旦那様、私共は英國に居りまする時、誰を頭 にするのしないのと云ふ様な事は少しもありま せんでした。又此島でもそれを極める事も厶い ますまい。ですが今迫る問題はメーリ様の黄金 で装つたレースを拝借したいのであります。恰 度誂へ向きの魚取網になりますから……。 『お前は今直ぐにお詫するか、夫とも一ヶ月後 には暇をやるから其積りでゐるがいゝ! 『夫では若しクリチトンが妾の仲間から離れて 出て行かぬと云ふならば、妾等の方からクリチ トンと別れて了ひますよ。 『英國で貴族であると云ふことゝ、無人島で貴 族であると云ふのとは又別問題である。 『太陽の照つて居る晝の間勇氣あるのと、夜の 闇黒の中にあつて勇氣あるのとは又別個の問題 である。 『アーネストさん!オクスフオード大學卒業の 方は、召使頭よりも物事を知らないなんて云ふ 事は厶いますまい―――寒さに震へてゐる婦人 を暖かにする方法を御存知ないのですか? 『妾は皆さんと同様に餓じいのです――けれ共 【(六)頁 上段外枠】 (六) 大正九年六月廿五日發行 デンキカンニユース 第七十八號 【(六)頁 中段】 頭を下げて貰ひには行かれません。妾は寧ろ一 等先きに餓死した方がましです。 『クリチトンや!娘のアガタにお前の拵へたス ープを一杯やつては呉れまいか。 『お嬢様!私は貴女のお側を離れたくはありま んけれど、あのスープの美味相な臭ひは……。     第六巻 『吾人は餓死も寒さも一時は忍び得べし。され ど底氣味悪き不安の念には、如何に意地張り強 き人も堪へ得ざるべし。 『自然の必要に迫られて彼等は―――野山は虫 獣の住むまゝに任せて置くべきではないと云ふ 事を悟るに至る。草は以て衣服となすべく、野 猪は以て食膳に上すべし――要するに豊饒なる 自然は人間のために給仕せんと待てるなり。 『猫の居ぬ間に……鼠は非常に心配す 『甚だ残念ながらローム卿御一行の□索隊は何 等得る處なく歸還仕侯【候】……ヱドワード、ビーチ 『ローム家の召使達は丁度解雇の通知を受けま した。奥様妾をお使ひ下さらば嬉う厶います。 『浮世にも潮の満、干あり==例のヨツトが難 破して以来二年目には、クリチトンは満潮に乗 つて押しも押されもせぬ酋長となる。 『この棒を引けば海岸の岩の上に仕懸けてある 處へ合圖の火が上るのだ。 『船が若し通航するのを見付けたら、是で合圖 するんだ。故郷へ還れる様になるかも知れぬ。 『臺所――室――さてはクルーヴアーの生へた る野に於ても、否世界中――何處へ行くとも女 は矢張『女』である。 『===詩=== 『妾が旦那様にお給仕するんだよ!     第七巻 『今夜は旦那様にお給仕する番だつたのよ。 『無花果は何處にあるの? 『無花果がなくなつた!旦那様は今夜特別に無 【(六)頁 下段】 花果が欲しいと仰言つたんだから。…… 『ぢやね、貴女お食事のお給仕をして上げて頂 戴!妾、毀れた昔の建物の側にある樹まで走つ て行つて、取つて來るから………。 『何故メリーを夜分今頃古跡の處へやつた?其 所は豹が出ると云ふのをお前は知らないのか! 『在りし昔の栄華の跡に、      獅子や蜥蝪の國がある――。 『お前の目に恐怖の色が浮んだのを見て、俺は 殆んど忘れかけた===英國を===‼ 『クリチトンさん!貴女がバビロンの王様だつ たと、妾は幾度も思ふ事がありますのよ。 『俺がバビロンの王様だつたなら、お前は基督 信者たる白人の奴隷だ! 『汝を馴らしてやるぞ――怖がることはない、 こりや処女よ!     第八巻 『===詩=== 『出せ!イシユタールの聖なるライオンを! 『汝の運命は汝自ら定むるがいゝ!汝は喜んで 我に屈服するか、左もなくば、汝のために設け たる猛獣の檻を汝に見せ味はせるであらう―― こりや処女よ! 『七度八度……幾度にても生れ変り、この讐を 報いん!―――――――――― 『幾度も生れ変り報仇したのでせう。けれども 其時も貴方を愛してゐたんです……そして今も 妾は貴方を思つてゐるんですもの……! 『こりや女共!過ぎにし日の悔み事、さては今 後の杞憂を今払ひ去るため、満々と酒を注げ! 何?明日の事とな?明日は明日!余はまた過古 七千年を有する我に還らん! 『未来のクリチトン夫人のために祝杯! 『貴方も馬鹿ぢやありませんか! 『汝は此婦人を汝の妻とするか? 『一寸、待つて〳〵!船……船………! 【(七)頁 上段外枠】 (七) 大正九年六月廿五日發行 デンキカンニユース 第七十八號 【(七)頁 中段】 『船が來たのは、何のことか貴方には分つて? メリーさん……旦那様は妾のものに………なる と云ふことよ! 『これはバビロンが亡びたと云ふ事だ!メリー さん、そして愈々此ビル、クリチトンは本氣で 事をせねばならぬことだ! 『夢だ!夢だ!夢ぢやないか………船なんか見 えない事よ、クリチトンさん! 『私が拵へようと苦心して居つた、相当天才的 な設計を皆さんにお見せしよう。流石教育の力 は偉大なもんですね。左様ぢやありませんか。 『お嬢様! 『最早彼に敬意を表する者は、誰も無し=== 吾々がするならば格別なれども===      第九巻 『一同の者が歸國すると忽ち、森の流れで水浴 した事もない様な顔して、香水入りの湯に這入 るのを待ち受け、又スープ一杯何卒下さいと言 つた事もない様な顔して、召使頭に冷然と構へ 込んで物事を吩咐け、怡も昨日の事は忘れ去つ た風である、一同は召使頭を酋長とも、旦那様 とも言はなかつた。 『それは古跡の中にあつた事で豹が今にも飛び 付かうとする時、僕が矢を放つたのでした。 『クリチトンさん―――絶海の孤島へ行つても 矢張り青年は青年でせう!随分と吃驚する様な 改革的なことがあつたでせうね? 『奥さん!たとへ其島でも―――他と同様に餘 り平等と云ふことがありませんでした。實際の 話が僕は他の人とは一緒に食事もした事がござ いませんでした。 『未來のブロツケル、ハースト夫人のために! 『メリー嬢さんに、舊友の人が來て――お逢ひ したいと云つて居りますと何卒お傳へ下さい。 『お食事の用意が出来ましてございます。 『妾何うしようかと困つてゐるんですよ!メリ 【(七)頁 下段】 ーさん妾ね、主人に何か働き口のお世話して頂 かうと思つてお伺ひしたのよ。妾が家の雇人と 結婚したと云ふので……誰一人、交際して呉れ ないンですもの………。 『クリチトン!お前は島に居る時―――お嬢さ んによく親切にして呉れたことに對して御褒美 を上げよう。 『猫と言ふものは、お姫様の顔を、遠慮もせず に見ることもあります。 『貴方が本当にその方を思つて愛してゐるなら ―――たとへ其方が立派な身分であらうと、な からうと少しも構はないぢやありませんか―― 妾もある人を愛して、経験があるから能く知つ て居ります。妾はその人のためなら他の物は何 を捨てゝも其人と結婚したいと思ひます。 『メリーさん!小説なんかに書いてあることを 信じちや駄目よ―――恋は何者よりも大切だと 云ふ譯ぢやありませんからね―――此世界には 身分も入用なら、また昔からの習慣と云ふもの もありますからね。 『お嬢様トウイーニと私とのことでございます が御都合つき次第お暇頂きまして―――二人は 結婚して米國に渡りたいと存じます。 『………御幸……福を祈ります。 『吾々は壊さんと欲せば花瓶をも壊し得べし! さりながら―――その薔薇の花の香は、尚、附 近に浮動すべし。 それと同じく、恋と云ふ花がなくなりし後も、 その香氣は永く、偉大なる犠牲の香りとして馥 郁たるべし! 『ねえ!貴方が結婚を延ばしてゐられる理由は 私存じて居ります。貴女はクリチトンを愛して ゐられたのです――あの立派なクリチトンを! ですが私は、貴女を世界の裁きの日にお待ちし て居ります―――貴女は今一度、よくお考へ直 して頂けませんか?  ===(完)=== 【(八)頁 上段外枠】 大正九年六月廿五日發行 デンキカンニユース 第七十八號 (八) 【(八)頁 上段】          内外時事    快漢ドグラス映畫近く上映す 日活獨得の巨弾たるアートクラフト社に於 けるドグラス、フエアバンクス氏映畫は最 早僅に二種を餘すのみ――面もその全作品 中の傑作『ニツカーボツカー、バツカロー』 は近く、且つ君に最も關係深き某名畫と共 に上場すべく、乞ふ期待されよ! 製作……一九一九年五月アートクラフト社 監督………………アルバート、パーカー氏 撮影………………ホツグ、マツクラング氏 △諷刺映畫『ニツカーボツカー、バツカロー   "THE KNICKERBOCKER       BUCKAROO"      CAST OF CHARACTERS Teddy Drake ............ Douglas Failbanks【Fairbanks】 Mercedes, the Girl ............... Majorie【Marjorie】 Daw Henry ........................ William Wellman Sheriff, a Crook Frank ............... Campeau【役名「Sheriff, a Crook」演者「Frank Campeau」】 Teddys' Mother ............ Edythe Chapman Manul【Manual】 Lopez ............... Albert Mc Quarrie【MacQuarrie】 Clubman ................................. Ted Reed    近く封切すべき名篇 或る事情のために暫く公開を許されざりし べラスコ映畫セシル、ビー、デ、ミル氏監 督ベツシー。バリスケール嬢モンロー、サ リスベリー氏デイツク、ラ レノー氏共演 西部情話『農園の薔薇』"The Rose of the Rancho" は近く上映さるべく、作は 古いがその内容は實に立派なもので、西部 に起る哀話、社會に対する呪ひ、愛と誠と 力とを根底にした深刻な映畫である。 【(八)頁 中段】    海外發賣新作器【「品」の誤植か】 ロバートソンコール社早川雲洲氏特作映畫 △社會劇『悪魔の要求』全五巻    "THE DEVIL'S CLAIM"   Story by J. Grubb Alexander, フアースト、ナシヨナル社アニタ、ステワ ート嬢ドナルド、マツクドナルド氏主演 ▽藝術作品『黄色の暴風』全五巻   "THE YELLOW TYPHOON" By Harold MacGrath, Dir. by Ed. Jore. アートクラフト社ブライアント、ウオツシ ユバーン氏ワンダ、ハウレイ嬢共演映畫 △情緒劇『彼女の電報』全五巻  "Mrs. TEMPLE'S TELEGRAM"  By frank Wyatt and William Morris        一週一言     今回は紙面の都合により宗     教上特に寄稿されたる此一     篇のみを記す    先週のモルモンの少女に就いて       末日聖徒基督教會日本傅道部 先週の「モルモンの少女」の示すモルモン教 は、大變モルモン教に就いて、誤解されて ゐますから、一寸紙面を拝借致します。  モルモン教なる宗教は、神の啓示に依つ て立てられたキリスト教でありまして、今 日も立派に存在し、永久に繼続すべきもの でございます。  モルモン教は人の自由を尊重し、又解放 主義で、教會の内部に少しの秘密もありま せん。それ故傅道をするにも、決して他人 に無理強ひをする様な事は無く、何處の國 法、何の宗教に対しても、平和主義者であ 【(八)頁 下段】 ります。又一夫多妻主義は、教會の創立当 時、少数の者の間に行はれましたけれど、 あの映畫に示す様な強求奪略等の事はあり ませんでした。  アメリカを旅行する日本人に對しても、 一番好感情を與へるのは。ユタ州のソール トレーキ市(所謂鹽の湖の町)であります  ユタ州は即チモルモン州と呼ばれてゐる 所です。排日気分のたゞよつてゐる時に於 ても。さう云ふ悪感はなく――眞の愛と親 しみを有つて居ります。  寫眞はユタ州で撮影したものでなく、中 に出て來る地名も想像上のもので、教會の 大監長で、又アメリカの開拓事業の恩人な る、プリガム、キング氏をモデルとしてあ りますが。名も性格も替えてあるのを、と やかく云ふのも大人氣ない事ですが、日本 ではモルモン教に就いてまだ眞に理解しな い人が多いのですから、この寫眞が先入主 となる事を恐れて一言しました。  同宗の正しき事に就いて、アメリカ上院 の會議□【に】於ける、演説の一部を、左にかゝ げて擱筆しませう。  アメリカ上院議院の、タマス氏、アシハ ースト氏 及びヘンダーソンの諸氏は、等 しく、モルモン教に就いて、次のやうに申 しました―『予は何の教會にも屬せず、亦宗 教に就いては何の關係も有せざれど、モル モン教徒の勤勉なる事、法律に對して絶対 に服従する事、自由を尊重し、従つて社會 的に非常に利益ある國民なる事は、予の激 賞措く與はざる所なり。 今機會を得て、國民の代表者諸氏に宣言す  處々に社會主義その他の危険思想起り、 國法をさへ危ふくせんとする者あるの時に 方り、彼等の平和堂々たる態度を見ればか かる人々の多くならん事を、心より希望し て止まざる所なり』と。 【左側 外枠】 《割書:定価  一部三銭 郵税 二銭|廣告一行六號(十四字詰)  八十銭》 《割書:発行編輯|兼印刷人》森田勝祐 《割書:浅草公園六|區三號八番》デンキカン社 電話下谷《割書:三六二二|五七七七》 【最左頁:1枚目の画像と重複】  WEEKLY PAPER   No. 78. "DENKICAN NEWS"  JESSE L. LASKY presents CECIL B, DeMILLE'S  PRODUCTION "MALE AND FEMALE" Founded on J. M. Barrie's famous play "The ADMIRABLE CRICHTON" Adapted for the screen by Jeanie Macpherson.  A Paramount-Artcraft Picture 【八頁:3枚目の画像と重複するため省略】