はうた合ねしめの色糸  下 はうたあわせ ねじめの いろ糸 中の巻 〽わたしやアさつき  からどんなに  まつていたか しれないよマア  酒(さけ)はあとにして  まアちよつと       お寐(ね)よ 〽いかさまおれもみち〳〵  おやてきたからいち番(ばん)でか  けねへうちは虫(むし)がおちつかねへ 鳥(とり)かげにねづみなきして なぶらるゝこれも心(こゝろ)の うさはらしぐちがのま せるひやざけもしんきしん くのアゝしやくのたね しのぶ恋じはさてはか なさに食とあふのが命 がけよごすなみだの 白粉もその悪かくす むりなさけ 【右】 〽アゝモウ  フウ〳〵〳〵  いつそ  よいよ〳〵  ソレいく    〳〵〳〵    ハア    アゝ〳〵     〳〵 【左頁】 〽お主(まえ)さまとこんな ことをいたしましたら ばちがあたりませう 〽またそんなことをいやる わたしやいつまでもはなれは せぬゆへにようぼうじやといつてくりや 梅になかよく 鶯さへづるはるがすみすみれ たんぽゝかたみおとらぬあさげ しきあめにほころぶはなのつ ぼみもたれゆへぞどうしてぬし はこのやうにおなごをまよ はすあくしよもの 〽わたくしも もうまいります ソレ〳〵 ハアアゝ〳〵〳〵 めぐる日の春にちかい とて老木の梅か若や ぎて候しほらしや〳〵かほ りゆかしと待わびかつ てさゝなきかける鶯? のきては朝寝をおと しけりサリトハ三年越な 〽サア〳〵もうかん  じんのところに  なつてきたから  上(うへ)からもつと  さつ〳〵とこしを  つかつてくんねへ そうだ〳〵 アヽいゝ〳〵 フウ〳〵〳〵 〽アヽどうもわたしも よくなつてきてどうも かうもしかたがねへようで しびれるようでこゝがつかへねへよ □□どうせうのうもういくわな〳〵 〽おれもいつしよだハアヽヽヽソレいく〳〵〳〵    いんすい〽どく〳〵〳〵ぬら〳〵〳〵〳〵〽ハアヽヽヽ かねてよりくどき上手と しりながら此手かといたとう じゆすのいつかときてにくら しいかりてたぼかくつ きのくしき心と辻うら ひきばかりほんにやるせが ないはいな 〽口(くち)をすいてか紅閨(こうけい)より  紅梅(こうばい)がのろくては なまものは喰(くへ)ねへ ちよんの間(ま)に 気(き)をやり梅(うめ)と しやう 〽わたしや  柳(やなき)だから  おまへの  しやうに  どう   でも   なる   き   さ 梅(うめ)がぬしなら やなぎがわたしなかの よいのかすねるのかある 夜(よ)ひそかに山の月(つき)こゝろ ないぞへさよあらし 〽宵(よい)からぬかずふかずに  入(いれ)つめでとう〳〵もう  夜(よ)があけるそうだ あきの夜(よ)ながに ぬしにあふ夜(よ)のみ じかさは月夜(つきよ)がら すがなくわいな月じや ごんせぬしら〳〵とあけの鐘(かね) 〽わたしやア まだたんのう しないからもう 五六ばんして     おくれ よがあけ てもいゝじやアないか 〽今日(けふ)のような よい間(ま)はないから サアはやくどうか      おしよ 〽どうかしろと  いつてなにを  どうする    のだへ 〽じれつ  たいねへおと  ぼけでない   それもう  こんなにして  いるくせに   わたしやアモウ  気(き)がわく〳〵して           いるわね 〽それぢやアわたしが  こうしているから  このうへゝおのり〽ヲヤ ⌛ ⌛おしよく  ごのみだ     ねへ ゆくすへはたがはだふれん 紅(べに)のはなつぼみのうちから あいきやうのめもとすゞ しくかあいらしサツテモ おまへはおとこ気(ぎ)をハテ まよはしなりかたちまア どうせうぞ 端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)下の巻      通(かよ)ひ小町(こまち) 小町(こまち)おもへば照(て)る日(ひ)もくもるしいの少将(しやう〳〵)がなみだ雨(あめ)とはいま 専(もつは)ら世(よ)の中(なか)に通客達(つうかくたち)のいきがりてうたふはうたの文句(もんく)ながら 末(すゑ)の一句(いつく)のばゞじやへは色気(いろけ)のない行(ゆき)どまり外(ほか)になにとか言(い) ひやうも有(あ)るべきにばゞじやへとは何事(なにごと)ぞや。酒(さけ)は燗(かん)肴(さかな)は気(き) どり酌(しやく)はたぼちん猫(ねこ)ばゞア子供(こども)いやなりとのおきてをもはゞか らぬ悪洒落(あくじやれ)の一言(いちごん)。成(な)らば雅言(がげん)に取(と)りなして文句(もんく)をいさゝか 端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)下の巻      通(かよ)ひ小町(こまち) 小町(こまち)おもへば照(て)る日(ひ)もくもるしいの少将(しやう〳〵)がなみだ雨(あめ)とはいま 専(もつは)ら世(よ)の中(なか)に通客達(つうかくたち)のいきがりてうたふはうたの文句(もんく)ながら 末(すゑ)の一句(いつく)のばゞじやへは色気(いろけ)のない行(ゆき)どまり外(ほか)になにとか言(い) ひやうも有(あ)るべきにばゞじやへとは何事(なにごと)ぞや。酒(さけ)は燗(かん)肴(さかな)は気(き) どり酌(しやく)はたぼちん猫(ねこ)ばゞア子供(こども)いやなりとのおきてをもはゞか らぬ悪洒落(あくじやれ)の一言(いちごん)。成(な)らば雅言(がげん)に取(と)りなして文句(もんく)をいさゝか かゆるともそつとは なにかくるしかるべ き抑(そも〳〵)此(この)小野(をの)の 小町(こまち)といふは出(で) 羽(は)の郡司(ぐんじ)小野(をの) の良実(よしざね)が娘(むすめ)にて本朝(ほんてう)美人(びじん)の聞(きこ)えたかく和歌(わか)は衣通姫(そとほりひめ)の 流(なが)れをくみてその才(さい)古今(こゝん)にひいでたれば其色(そのいろ)にまよひ其才(そのさい) をしたひて縁(えん)に因(ちな)みつてをももとめて言寄(いいひよ)るもの多(おほ)けれどおのれ 【絵の中】 花のくもりか遠山の  雲か月かはしら雪の なかをそよ〳〵ふく  春風にうきね     さそふや  さゞなみの    こゝそかもめ着    みやこ鳥あふぎ     びやうしの      ざんざめく内や    ゆかしき内ぞゆかしき に漫(まん)ずか所(ところ)よりして心(こゝろ)に叶(かな)ふも者(もの)なくかたはしより刎(はね)つけ皆々(みな〳〵) お間(あひだ)の始末(しまつ)ながら猶(なほ)あきらめかねて思(おも)ひをこがすものおびたゞし かり爰(こゝ)に深草(ふかくさ)の少将(しやう〳〵)といへる人(ひと)恋暮(れんぼ)の念(ねん)にしのびかね。じか付(づけ)に              ひた〳〵ト思(おも)ひの丈(たけ)をならへたてゝかき              くどきしに其(その)言葉(ことば)の抜(ぬき)さしならぬ              品(しな)となりさらば今宵(こよひ)よりして百夜(もゝよ)の              間(あひだ)かよひつめてそもじ様(さま)の真実(しんじつ)誠(まこと)を              見(み)せ給ひなば其時(そのとき)こそは御心(みこゝろ)にした 【絵の中】   夜ざくらや    うかれがらすが   まい〳〵と花の    小かげに   たれやらが   ゐるわいな   とぼけさんすな 芽ふく柳が風に もまれてエゝエゝ  ふはり〳〵と そうじやいな 【右側】 に漫(まん)ずか所(ところ)よりして心(こゝろ)に叶(かな)ふも者(もの)なくかたはしより刎(はね)つけ皆々(みな〳〵) お間(あひだ)の始末(しまつ)ながら猶(なほ)あきらめかねて思(おも)ひをこがすものおびたゞし かり爰(こゝ)に深草(ふかくさ)の少将(しやう〳〵)といへる人(ひと)恋暮(れんぼ)の念(ねん)にしのびかね。じか付(づけ)に              ひた〳〵ト思(おも)ひの丈(たけ)をならへたてゝかき              くどきしに其(その)言葉(ことば)の抜(ぬき)さしならぬ              品(しな)となりさらば今宵(こよひ)よりして百夜(もゝよ)の              間(あひだ)かよひつめてそもじ様(さま)の真実(しんじつ)誠(まこと)を              見(み)せ給ひなば其時(そのとき)こそは御心(みこゝろ)にした 【絵の中】   夜ざくらや    うかれがらすが   まい〳〵と花の    小かげに   たれやらが   ゐるわいな   とぼけさんすな 芽ふく柳が風に もまれてエゝエゝ  ふはり〳〵と そうじやいな 【左側】 【絵の中】 志賀の  から   さき ひとつ   松 夜こと〳〵に  ねり   からすが むゝと   来るを あを〳〵と   うれし なみだの   かわく 間覚なく  くもりがちなる    夜の雨 【左本文】 がひ下紐(したひも)ときて大事(だいじ)の所(ところ)をも任(まか) せもうさんト我(わが)玉門(ぎよくもん)へ大(だい)ぶん勿(もつ) 体(たい)をつけていひけれど少将(しやう〳〵)もよく よく惚(ほれ)こんだやう夫(それ)より毎(まい)ばん こんよく小町(こまち)が家(いへ)の車(くるま)よせまで 通(かよ)ひけるが折(をり)しも年(とし)の暮(くれ)に及(およ) びていつもより寒気(かんき)厳敷(きびしく)九十 九 夜(よ)めの晩(ばん)には大雪(おほゆき)降(ふり)て寒風(かんぷう)