【上段より開始】  関東一帯を風靡した     鮮人虐殺の真相(附録) 鮮人襲来の流言を一番最初に放つた張本人は目下掠 奪暴行其他の犯罪で収監されてゐる横浜在住の社会主義 者山口正憲等であつた事は最近発覚したが、其流言は 忽ち関東一帯を風靡し、数百名の鮮人が無惨の迫害 に斃れた。其真相の報道は当局官憲で調査の必要上 絶対に禁止されてゐたが此二十日漸く解禁され真相報道の自 由が許された。元来が流言に因て起つた事件である丈に従来 の風説世評には多くの虚伝があり誇大に伝へられてゐた。従て 実際の事実は風説ほどはなかつた。併し最も惨虐を極め たのは何といつても流言の本場であつた横浜で、大震災当日の 午后には山口等の流言は命から〳〵市を囲んだ山や高台 に遁れた多数の罹災民間に早鐘の如く伝へられ殺伐の空 気物凄く漲り青年会率先して同夜区【まちまち】に自警団を組織 し、鮮人を鏖殺せよといきまき、一日夜から四日頃迄に約百 五十名から鮮人がむごたらしく殺されてしまつた。次に狂暴 惨虐を極めたのは埼玉県で本庄では八十六名、熊谷では 四十三名、神保原では三十五名、寄居、処沢【所沢】では各一名、 合計百六十六名の鮮人が殺害された。其中最も甚かつた のは本庄と熊谷地方で本庄町では九月二日迄は東京か らの避難民救助に全力を注いでいたが、二日頃から流言 盛んに行はれ、三日夕刻汽車で避難して来た鮮人六名を 乗客避難民が自警団に引渡したのが火蓋の第一となつ て殺気立ち、警察へ連行の途中暴行を加へて負傷さ せた。警察では鮮人を保護すると共に署長は新聞記 者在郷軍人分会役員等と大道演説をして極力人身人心の 鎮撫につとめたが、四日朝川口町蕨町其他戸だ戸田、南平柳 村方面でじけ自警団に捕へられた鮮人労働者約二百名を縣 外安全地に送るべく浦和町から自動車で群馬縣下に出 発させたので殺気立つた町内自警団が襲ひ警官消 防組在郷軍人が必死に制止するのもきかず兇器を以て肉 迫したので、一旦警察署に引返し演舞場に収容し たのを又々自警団襲撃し、数百名の一団は逃げ 惑ふ鮮人をメチャ〳〵に殺害し署内は大修羅場と化し た。此の暴虐によつて殺された鮮人は実に八十六人に上つた。 又熊谷地方では九月三日来縣警各部で保護中で あつた多数鮮人が長野縣若くは新潟縣へ送致される事 となり、中山道を西下するといふ噂が伝はり消防組在郷軍 人団は全力を挙げて警戒中であつたが、四日夕刻には何人 が言ひ出したともなく一家一人宛自警員を出せと□に廻 り忽ち自警団が成り、警察と自警団との間に鮮人 の争奪が始まり、熊谷署は消防組と在郷軍人団 の援助で鮮人を深谷方面に送り届け【以下カスミの為数文字判読難】 発したが、忽ち自警団の襲ふ所となり、忽ち十餘名殺 され、遮二無二逃げんとする鮮人を保護の為警察がしば りあげたので愈に不運鮮人だと誤解し再び□乱状態 に陥り、同夜九時頃迄に熊谷署内、本町三丁目□□屋旅 館前、筑波町他内□数ヶ所□合計四十三名□殺され た。そして□□の死体は翌日□□累々と□り、あたり一面血 の海と化した。又、九月四日午後一時鮮人十五名に警 官三名消防組役員五名附従ひ本庄署を出発した。貨 物自動車が児玉郡賀美村渡船場に差かゝつた所が流 言に従つた同村民と利根川対岸の村民が竹槍などの凶器 を携へて殺到したので附添の消防役員は逃走し警護の 【上段終了】 【下段開始】  ▲特に注意▲【四角囲み開始】 本(△)書(△)は(△)発(△)売(△)を(△)禁(△)止(△)さ(△)れ(△)て(△)居(△)た(△)が(△)解(△)禁(△)に(△)よ(△)つ(△)て(△)発(△) 売(△)が(△)許(△)さ(△)れ(△)た(△)も(△)の(△)で(△)本(△)協(△)会(△)は(△)大(△)震(△)災(△)当(△)日(△)以(△)来(△)非(△) 常(△)の(△)危(△)険(△)を(△)冒(△)し(△)て(△)各(△)方(△)面(△)に(△)実(△)地(△)調(△)査(△)を(△)行(△)ひ(△)其(△) 真(△)相(△)を(△)発(△)表(△)し(△)た(△)も(△)の(△)で(△)あ(△)る(△)。【四角囲み終了】 巡査が極力弁明し警察電話で対岸の群馬縣藤岡警察署 に鮮人引継ぎ方を交渉したが同署長は之を拒否した、そこへ本庄署か ら第二次の護送自動車か廿一名の鮮人を載せて来たので村民は益 々激昂し、騒擾化して来たので二台の自動車は神保原村派出所 前迄引返した所へ本庄署の村磯署長は児玉寄居松山各署 よりの応援巡査と共に自動車で馳付け藤岡署に交渉し村民□ 説諭中本庄署構内で八十六名を屠って血に狂った本庄の狂暴自 警団三百餘名喴声をあげて殺到し村民と合して忽ち鮮人に□ 害を加へ三十五名悉く殺害し巡査二名を竹槍で突いて 重傷を負はせた、其暴状言語に絶し、九死の中に一生を得た 村磯署長は引責し休職となつた。次に自警団の暴状を 極めたのは群馬縣藤岡町で流言蜚語盛んに行はれ、三日朝には 埼玉縣に接近した各地の青年会在郷軍人等は自警団を 組織し、手に手に兇器を持つて殺気立ち、三日正午頃鬼石町の自 警団が挙行不審で捕へた一鮮人を藤岡警察署に連行引渡 し、署長が取調の結果何事怪しい点がないので放還した。 それを藤岡の自警団は井戸に毒薬を投入する者を警察が放置 するとは何事だと激昂して警察に反感を抱き、砂利会社からの 保護願によつて同署内に保護してゐいた十四名の鮮人土工を引渡 せと迫り、折から署長不在の為メ署員は署長の帰る迄待てといふ も聞かず、午后六時頃猟銃竹槍日本刀などの兇器を携へた自警 団は「やつてしまへ」と警察に闖入し、留置場を破壊して躍り 込み、保護されてゐた十四名の鮮人を僅か一時間丗分で殺害して しまつた。□□し縣警察部の伴保安課長は巡査十余名を率ひ 自動車で急行したが宛ら戦場の如く全く手の下し様なく引返した。千 葉縣でも流言盛んに行はれ東葛飾郡八栄村では北総鉄道工事中 か鮮人工夫が危険になつたので会社の願により習志野駐兵聯隊の兵士 十三名が三十七名の鮮人を護送中船橋町の消防組及青年団員約六七十名兇 器を携へ自分達が護送するからと偽つて鮮人を受取り兵士の姿の見え なくなるや忽ち之鏖殺して同町夏尾仮埋葬場附近に埋めた。又神奈 川方面では二日朝から□□□に行はれ二、三、四の三日間に五十余名の鮮人 殺害され死体は主に鉄道線路附近に遺棄されたが其後も尚死体□ □□を□し火中に或は海中に投ぜられて的確には知り得ないが某会 社に雇用されてゐた八十余名の鮮人の如きは殆ど一夜にして全滅し目も□ てられぬ惨状を呈した。鶴見では七八名殺され、川崎では四百人中四名殺 された。東京市内及附近でも狂暴自警団の為に□□名の鮮人が殺さ れた。之は既に犯人検挙され目下□審中で報道の自由を有しない が、山口正憲等が放つた襲人襲来の流言が伝播された結果□□ 上の如く関東一帯に於て殆ど四百名からの鮮人が殺害された悲惨 事となつた。但し其中の鮮人中には不逞分子もあつたことは□□ である。 【二重線四角囲み開始】 災害予防研究□□発表       定価   《割書:地震|火災》安全避難法  金六拾銭       送料        金四銭 附  各専門博士大家の安全避難法及び耐震耐火建 録  築法の説話満載! 【二重線四角囲み終了】