《割書:上方(かみがた)|震下(しんくだ)り》瓢磐(ひやうばん)鯰(なまづ)の化物(ばけもの) 一名(いちめう)《割書:難獣(なんぢう)|といふ》      安政二乙卯十月二日夜興行 須弥山(しゆみせん)の地底(ちてい)に大鯰(おゝなまづ)住(すめ)り変化(へんげし)て四足(しそく)全躰(ぜんたい)をなす是(これ)を難獣(なんぢう)と云 一度(ひとたび)首尾(しゆび)を動(うご)かす時(とき)は泰山(たいさん)を抜(ぬき) 蒼海(そうかい)を干(ひた)し宮殿(きうてん)樓閣(らうかく)堂塔(どふとう)伽藍(からん)太家(たいか)庫倉(こそう)を破損(はそん)し躰(たい)より火(くは)ゑんをいだす事いと おびたゝしく其(その)阿云声(うなりごへ)百千の雷(いかづち)も物かは南圓(なんゑん)浮臺(ぶだい)をくつがへすかとおもはる世界(せかい)の人(じん) 民(みん) 是(これ)が為(ため)に居(い)ところを破(やぶ)られ財宝(ざいほう)をうしなひ万歳楽(ばんざいらく)〳〵〳〵〳〵と怖(おぢ)おそるる事 雷爺仁(かみなりおやじ)に勝(まさ)れり 全躰(ぜんたい)は「面(おもて)」鯰のごとく口より火炎(くわゑん)をふき身より火を出す事三十七ケ所 「頭(かしら)」土蔵の家根(やね)に似たり「背(そびら)」背中(せなか)は瓦をならべたる如くまた家根 板(いた)の 如きところもあり躰(たい)を震動(ゆりうご)かす時は背中の瓦八方へ飛散(とびちり)粉(こ)の如く こけらの所はさまての事なし「腹(はら)」のうちには臆病(おくびやう)と いへる病(やまひ)ありておのが住家(すみか)に居(い)る時は身うち すくみて自由(じゆう)をなさず依(よつ)て夕(ゆふべ)に臥(ふす)時は往還(おうくわん)に 野宿(のじゆく)す「足(あし)」は四本の柱(はしら)に似て ゆら〳〵として一向(いつこう)に役(やく)にたゝず 常(つね)に丸木を杖(つえ)の如くにして からばりと号(なづけ)よふ〳〵建(たつ)ている なり「尻尾(しりを)」は大浪(おゝなみ)の寄(よす)るがごとく 此尾にさはる者は共に巻込(まきこま)れて 地ごくへ店替(たながへ)をなし土(ど)左衛門と名を 改(あらた)むるなり此尾を津浪(つなみ)とよぶ恐(おそる)べき難獣(なんちう)なり ○抑(そも〳〵)此 獣(け)ものは神代の暦世(むかし)豊秋津洲(とよあきつす)に蟠(わだか)まりて時々出て 人民(じんみん)をなやめたるを天下しろしめす皇太神(すめおんがみ)鹿島(かしま)の神に神詫(しんたく) ありて石の御坐(みまし)《割書:俗に|要石》をもて其 頭(かしら)をおさへ動(うご)かし給はず依(より)て此 難獣(なんぢう)の△ △患(うれ)ひなく ゆるがぬ御代と 栄(さかへ)つゝ諸(しよ)人 万歳(ばんざい) 楽(らく)をとなへたり されども諸神(もろかみ)の居まさぬをりは僅(わづか)にその身を動(うご)かすに諸人万才 楽と称ふればその難(なん)をのがるとかや然るに此 変化(べんき)時を得て今時(ことし) 十月 八百万(やをよろづ)の神達(かみたち)出雲(いづも)に御幸(みゆき)させ給ひし閑(ひま)を窺(うかゞ)ひ地中に動揺(どうよう) して三千六百の町々家蔵を破損(はそん)する事大かたならずしば〳〵世界(せかい) をくつがへすかと思はれし此事御 留守(るすゐ)居の蛭子尊(ひるこのみこと)《割書:夷|神》より出雲國へ 火急(くはきう)の御 告(つげ)に皇(くわう)太神の御 指揮(しき)として鹿島の神 宕愛(あたご)【愛宕の反転ママ】山の次郎坊 只一時にお帰国(きこく)まし〳〵この難獣(なんぢう)をおさへたるかんじん要(かなめ)の礎(いしづへ)に世は 盤石(ばんじやく)の如くなるべし 【左上】 出雲國(いづものくに)大社(おほやしろ) におゐて八百 万神(ばんじん)狼藉(らうせき)を【草冠+狼】 怒り給ふ 天照太神御詫 寸 善(せん)尺(しやく)魔(ま)で 此方の連中(れんちう)が壹月 いぬとまたぬら くら者めが あばれおつた 鹿島をさきへ かへした がよかろう 〽つまごひとのは  おるすでも  おてぎはじや  地しんも火事もしん  るいだからおちついて  いたらたしぬけをくら  わせおつたアヽ  まんざいらく      〳〵〳〵 【右下】 鹿島太神宮 サア〳〵ゆら しつて御ろうじ まし騒動(そうどう)にて は非常(ひじやう)あはれ 大 焼(やけ)にては勘(かん) 當(どう)ゆり店(みせ)は しろもの丸で そん御當所に おゐて元禄年 中に難(なん)にあひ ましたる鯰(なまづ) の化(ばけ)物 天災(てんさい) といふ獣(け)もの で厶り升 喜怒(きど)せん  わづか 難渋見聞(なんぢうみもん) 土蔵の近隣(きんじよ)は 友崩(ともくづ)れおひやう ばんじや   〳〵〳〵 【左下古書店の価格票】 珍奇資料専門集収所 四圓也【書入あり 32a?】 帝大赤門前 木内書店 【左下上の価格表】 珍奇資料専門集収所 帝大赤門前 書林 木内誠 【左下】 0011841657 東京大學圖書之印 【右下に2/4と同じ価格表の折り返しあり】 【古書店価格表裏面】 245c? 220分?