【表紙】 【見返し】【ラベル】JAPONAIS/311/2 【書入れ 1058に取消線あり、その下に311】1058 311 【書入れ「R.B」と「1843」を中括弧で結び、その右に「3267」】 R.B. 1843 3267 頭書(かしらがき)増補(そうほ)訓蒙図彙(きんもうづゐ)巻之十二   畜獣(ちくじう)《割書:此/部(ぶ)には山野人間(さんやにんげん)にすむ|もろ〳〵のけだ物(もの)をしるす》 【上段】 ○麒麟(きりん)は   仁獣(じんじう)なり  ■(くしかの)【麕ヵ】身(み)牛尾(うしのを)   一角(いつかく)あり牡(ぼ)を  麒(き)といひ牝(ひん)を   麟(りん)といふ生虫(せいちう)     をふまず  生草(せいさう)をふまず   聖人(せいしん)の世(よ)に    いづる獣(けだもの)       なり 【下段 挿絵】 麒麟(きりん)【横書き】 【丸印 朱 中央に冠を頂く鳥(鷲ヵ鷹ヵ)の図を囲むように円形の文字列】BIBLIOTHÉQUE IMPÉRIALE MAN. 【二重丸印 朱】 R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS :: 【上欄書入れ】Fase.6        6   1     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        一     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        一 【右頁上段】 ○獅子(しゝ)は百/獣(じう)   の長(ちやう)たり    一/日(にち)に  五百/里(り)を走(はし)る   虎豹(こへう)をとり    食(くら)ふ故(ゆへ)に 《割書:補》虎豹(こへう)といへども   獅子(しゝ)を大に    恐(おそ)ると也  天竺(てんぢく)の猛獣(もうじう)   にて通力(つうりき)し    ざいを得(ゑ)し  ものなりといへり   一/名(めい)狻猊(しゆんげい)と       いふ 【右頁下段 挿絵】 獅子(しし) 【二重丸印 朱 R.F.|BIBLIOTHĒQUE NATIONALE :: MSS::】 【左頁上段】 ○獬豸(かいち)は   異国(いこく)の獣(けだもの)    なり其形(そのかたち)  獅(し)子に似(に)て   一角(いつかく)あり一名(いちめい)    神羊(しんよう)と云  能曲直(よくきよくちよく)を   わかつ皐陶(かうよう)    獄(ごく)を治(おさむ)る時  その罪(つみ)うたがは   しきものは獬(かい)    豸(ち)にあたふ  《割書:補》罪(つみ)あるものは是(これ)   を喰(くらふ)罪(つみ)なき    はくらはずと 【左頁下段 挿絵】 獬(かい)  豸(ち) 【上欄書入れ】2     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        二     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        二 【右頁上段】 ○虎(とら)はかたち   猫(ねこ)のごとく    大(おほい)さ牛(うし)の  如(ごと)し色黄(いろき)に   して前足(まへあし)ふと    く一身(いつしん)の力(ちから)  前足(まへあし)にあり夜(よる)   行(ゆく)に一目(いちもく)は光(ひかり)を    放(はな)ち一目(いちもく)は物(もの)  を見る声雷(こゑらい)の   ごとくよく風(かぜ)    をおこす《割書:補》山(さん)  上(じやう)にて虎一声(とらいつせい)   吼(ほゆ)れは百/獣(じう)恐(おそれ)    すくむといふ 【右頁下段 挿絵】 虎(こ)《割書:とら》 【左頁上段】 ○騶虞(すうぐ)は白虎(びやくこ)   なりその    尾/身(み)より  ながし仁獣(じんじう)     なり ○豹(ひう)はかたち   虎(とら)によく似(に)て  ちいさし頭円(かしらまる)く  面白(おもてしろ)し毛色(けいろ)《割書:補》   薄黄(うすぎ)にて白(しろ)    きほしあり  甚美(はなはだび)なり故(ゆへ)に   みづから毛采(もうさい)    をおしむと      いふ 【左頁下段 挿絵】 騶(すう)  虞(ぐ) 豹(へう)《割書:なかづ| かみ》 【上欄書入れ】3     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        三     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        三 ○獏(ばく)は熊(くま)に   似(に)たり象(ざう)の    鼻(はな)犀(さい)の  目尾(めお)は牛(うし)の   ごとく虎(とら)の    足銅鉄及(あしどうてつおよひ)  竹(たけ)を食(くら)ふ   よくねむる    けだものなり 《割書:補》すべてあしき   夢(ゆめ)をくらふと    いふよつて  枕(まくら)にゑがいて    獏(ばく)まくらと      名(な)づく 【右頁下段 挿絵】 獏(ばく) 【左頁上段】 ○象(ざう)は異国(ゐこく)の   大獣(たいじう)なり  鼻牙(はなきば)ながく 《割書:補》食(しよく)は口(くち)より      くらひ  水(みつ)は鼻(はな)より   吸(すう)といふ三年    に一たび  乳(にう)す大山高(たいさんかう)   山(ざん)にすむなり     牙(きば)をとり  て万(よろづ)のうつは   ものにつくる    象牙(ざうげ)といふ       なり 【左頁下段 挿絵】 象(ざう) 【上欄書入れ】4     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        四     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        四 【右頁上段】 ○犀(さい)は毛豕(けぶた)の   ごとく蹄(ひづめ)に    三/甲(かう)あり 頭(かしら)は馬(むま)のごとく  三/角(かく)あり鼻(ひ)   上額上頭上(じやうかくしやうづじやう)     にあり ○熊は毛色黒(けいろくろ)く 形豕(かたちぶた)に似(に)たり胸(むね) に白脂(はくし)あり俗(ぞく)に 熊白(つきのわ)といふ洞穴(ほらあな)に すむを穴熊(あなぐま)といひ 木(き)にすむを木熊(きくま)と いふ熊蹯(ゆうはん)はくまの たなごゝろ熊膽(ゆうたん)くま         のゐ 【右頁下段 挿絵】 熊(いう)《割書:くま》 犀(さい) 【左頁上段】 ○狼(おほかみ)は狗(いぬ)に似(に)て大(おほい)也 頭(かしら)するどに頬白(ほうしろ)く 前足高(まへあしたか)く後(うしろ)ひろし  口とがり大(おほ)き也 力(ちから)つよく諸獣(しよじう)  をとり食(くら)ふ よく後(うしろ)をかへり     見る ○豺(さい)は狼(おほかみ)の類(たぐひ) なり色黄(いろき)にして 頬白(ほうしろ)く尾(を)ながし  狼(おほかみ)よりは少(すこ)し 小(ちいさ)く力(ちから)つよく  諸獣(しよじう)を喰(くら)ふ    悪獣(あくしう)なり 【左頁下段 挿絵】 豺(さい)  《割書:やま| いぬ》 狼(らう)  《割書:おほ| かみ》 【上欄書入れ】5     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        五     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        五 【右頁上段】 ○鹿(しか)は馬(むま)のごと くにして小(しやう)なり 頭長(かしらなが)く脚細(あしほそ)く 高(たか)し牡(を)は角(つの)有 夏至(げし)におつ牝(め)は 角(つの)なし六月に して子(こ)をうむ  好(このん)で亀(かめ)をくら ふ秋(あき)のすへにいた りて声(こへ)を発(はつ)す 虚労(きよらう)をおきなひ 腰(こし)をあたゝめ一切(いつさい) の病(やまひ)に益(ゑき)あり ○麑(かのこ)は鹿(しか)の    子(こ)なり 【右頁下段 挿絵】 鹿(ろく)《割書:しか》  《割書:かのしゝ| とも|  いふ》 麑(げい)《割書:かの|  こ》 【左頁上段】 ○麞(くじか)は秋冬(あきふゆ)は山に すみ春夏(はるなつ)は沢(さわ)に住(すむ) 鹿(しか)に似(に)て小(ちいさく)して 角(つの)なし黄黒色(きくろいろ)也 雄(お)は牙(きば)あり  ○麋(おほしか)は鹿(しか)にて色(いろ) 青黒(あをくろ)なり大(おほ)さ子(こ) 牛(うし)のごとし目(め)の下(した)に 二の穴(あな)あり夜(よる)の目(め) といふ ○麢(かもじゝ)は羊に似(に)て 青色(あをいろ)にして大(おほい)なり 角(つの)は細(ほそ)くて文(もん)あり 人(ひと)の指(ゆび)のごとし長(なが)さ 四五/寸皮(すんかわ)をとつて 褥(しとね)とす 【左頁下段 挿絵】 麞(しやう)  《割書:くじか》 麋(び)《割書:おほ| じか》 麢(れい)《割書:にく》 《割書:かも|  じゝ》 【上欄書入れ】6     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        六     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        六 【右頁上段】 ○麝(じや)は麞(くじか)に似(に)  て小さく色黒(いろくろ)し 臍(ほそ)に香気(かうき)あり 《割書: |補》じやかうといふは 是(これ)なり故(ゆへ)におのれ  が臍(ほそ)をおしむと云 ○羊(ひつじ)は柔毛(じうもう)の畜(ちく)  なりよく群(ぐん)を なすよつて群(ぐん)  の字は羊(ひつじ)に    したがふ ○綿羊(めんよう)は羊(ひつじ)の   毛(け)の長(なが)きもの をいふ夏羊(かよう)    胡羊(こよう)と同 【右頁下段 挿絵】 麝(じや)  《割書:じや| かう》 綿羊(めんよう)  《割書:むく| ひつ|  じ》 羊(よう)  《割書:ひつじ》 【左頁上段】 ○豕(ちよ)は猪彘(ちよてい)の惣名(さうみやう) なり野猪(いのしゝ)豪猪(やまぶた)な とあり不潔(ふけつ)を喰(くら)ふ よつて豕(ぶた)といふなり 腎虚(じんきよ)を補(おぎな)ふ ○豚豕(ゐのこぶた)の子(こ)也/唐人(とうじん)は ころして常(つね)に食(しよく)す ○野猪(ゐのしゝ)は腹小(はらちいさ)く脚(あし) ながし毛䅥色牙(けかちいろきば)に てかけ投(なげ)る力(ちから)つよし 味甘毒(あぢはひあまくどく)なし癲癇(てんかん)を 治(ち)し肌膚(きふ)を補(おぎな)ふ ○山猪(やまぶた)は項(うなし)背(せ)に棘(いばらの) 鬣(たてがみ)あり長(なが)さ一/尺(しやく)ば かり筋(すし)のごとし触(ふるゝ) ときは矢を射(ゐ)るが如(ごと)し 【左頁下段 挿絵】 野猪(やちよ)  《割書:ゐのしゝ》 山猪(さんちよ)  《割書:山| ぶた》 豚(とん)  《割書:ゐのこ》  豕(し) 《割書:ぶた》 【上欄書入れ】7     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        七     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        七 【右頁上段】 ○馬(むま)は火気(くはき)を受(うけ) て生(うま)る火は木 を生(しやう)ずる事あたは ず故(かるかゆへ)に肝(かん)あつて 膽(たん)なし膽(たん)は木(き)の 精気(せいき)なり木臓(もくざう)不(ふ) 足(そく)す故にその肝(かん)を くらふものは死(し)す ○駒(く)は馬(むま)二/歳(さい)なる を駒(く)といふ又五尺 以上(いじやう)を駒といふ ○驪(り)は馬(むま)の純(もつはら)に 黒(くろ)きものなりく ろこまなり ○騮(りう)はあかき馬(むま)の 【右頁下段 挿絵】 駒(く)  《割書:こま》 馬(ば)  《割書:むま》 驪(り)  《割書:くろ| こま》 騮(りう)《割書:かけの| むま》 【左頁上段 右頁上段から続く】 黒(くろ)きたてがみ なるをいふなり 駵(りう)同かげのむま なり ○驄(そう)は馬(むま)の青(あを)   しろき色(いろ)    なり あしげ馬(むま)なり  連銭葦毛(れんぜんあしげ) ○駁(はく)は馬(むま)の   色(いろ)の純(もつはら)なら ずしてまだら   なるなり    駁(はく)同   ぶちむま也 【左頁下段 挿絵】 驄(そう)  《割書:あしけ》 駁(はく)  《割書:ぶち》 【上欄書入れ】8     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        八     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        八 【右頁上段】 ○牛(うし)は田(た)を耕(たがへ)す   畜(ちく)なり唐(もろこし)    には牛(うし)を 殺(ころ)して祭(まつり)に備(そなふ)  野牛(やぎう)有/水(すい)   牛(ぎう)あり牲(いけにへ) にそなゆるを   大/牢(らう)といふ ○犢(とく)は牛(うし)の子(こ)   なり犢(とく)の鼻(はな)    男根(なんこん)に似(に) たるゆへ男根(なんこん)を   犢鼻(とくび)といふ      なり 【右頁下段 挿絵】 犢(とく)《割書:こ|うし》 牛(ぎう)【左ルビ「うし」】《割書:特牛こというし|牝牛めうし|黄牛あめうし|犂牛ほしまだらうし》 【左頁上段】 ○驢(ろ)はうさき馬(むま)と   いふ耳(みゝ)ながき    馬(むま)なり唐(もろこし) には是(これ)をつかふ   倭国(わこく)にはなき    馬(むま)なり ○駝(だ)は背(せなか)に肉鞍(にくあん)   ありて峰(みね)の ごとし頸(くび)ながく   して脚高(あしたか)し    其毛(そのけ)温厚(うんかう) にして狐(きつね)の毛(け)  よりもあたゝか   なり夏(なつ)は     涼(すゞ)し 【左頁下段 挿絵】 驢(ろ)《割書:うさぎ|  むま》 駝(だ)  《割書:らくだの|   むま》 【上欄書入れ】9     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        九     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        九 【右頁上段】 ○狐(きつね)は狗(いぬ)に似(に)て 鼻(はな)とかり尾(お)大(おほい) なり昼(ひる)はかくれ 夜出(よるいづ)る馬骨(ばこつ)を くはへて吹(ふけ)ば光(ひかり)を出(いだ) し食(しよく)を求(もと)む是(これ) を狐火(きつねび)といふ又/玉(たま)を くはへて光(ひかり)をなすと もいふ百/歳(さい)を経(へ)て 北斗(ほくと)を礼(らい)して化(ばけ)る といへり ○猫(ねこ)は眼晴(まなこのひとみ)子午卯(ねむまう) 酉(とり)には糸(いと)のごとし 寅申(とらさる)巳亥(みい)には満月(まんげつ) の如(ごと)く丑未辰戌(うしひつじたついぬ)に 【右頁下段 挿絵】 狐(こ)《割書:きつね》 猫(めう)《割書: |ねこ》 【左頁上段 右頁上段から続く】 は棗核(なつめのたね)のごとし鼻(はな) 常(つね)に冷(ひやゝか)なり夏至(げし) 一日あたゝかなり ○狸(り)は虎狸(こり)あり猫(めう) 狸(り)あり猫狸(めうり)はくさし 食(しよく)すべからず頭(かしら)とがり 口方(くちけた)なるを虎狸(こり)と云 ○貉(かく)は狐狸(こり)に似(に)た り毛黄(けき)にして褐色(かちいろ) なりよくねむる昼(ひる) はふして夜出(よるいづ)る ○貒(たん)は犬(いぬ)に似(に)て喙(くち) とがり足黒(あしくろ)く毛(け)䅥(かち) 色(いろ)なり尾足(おあし)みぢかく ゆくことおそし耳(みゝ) 聾(しい)て人(ひと)を恐(おそ)る 【左頁下段 挿絵】 狸(り)《割書:たぬき》 貒(たん) 《割書:みだ| ぬき》 貉(かく)《割書:む|じな》 【上欄書入れ】10     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十 【右頁上段】 ○獒犬(かうけん)は大犬(おほいぬ)なり 高(たか)さ四尺なるを 獒(かう)といふ俗(そく)にこれ を唐犬(とうけん)といふ ○犬(いぬ)は味(あじわひ)鹹(しははゆく)温毒(うんどく)な し五/臓(ざう)を安(やすん)し気(き) をまし腎(じん)に宜(よろ)し ○㺜犬(のうけん)は毛長(けなが)し 尨狵獅犬(ほうほうしけん)同し むくいぬなり ○蝟鼠(いそ)は貒(みたぬき)のごとし 脚短(あしみぢか)く尾長(をなが)し 色青白(いろあをしろ)し足毛(あしのけ) 人をさす山谷田野(さんこくでんや) に生(しやう)ず猬(ゐ)同 ○霊猫(れいめう)は南海(なんかい)の山(さん) 【右頁下段 挿絵】 獒犬(かうけん)  《割書:たう| けん》 犬(けん)《割書:いぬ》 㺜犬(のうけん)  《割書:むくいぬ》 【左頁上段】 谷(こく)に生(しやう)すかたちた ぬきのごとし陰(いん)は 麝(じやかう)のごとし ○兎(うさぎ)は前足(まへあし)みじ かく尻(しり)に九の孔(あな)有 辛(からく)平毒(へいどく)なし中(うち) を補(おぎな)ひ気(き)をます ○猿(ゑん)は禺(さる)のたぐひ 猴(こう)に似(に)て臂(ひぢ)ながし よく樹(き)の枝(えだ)を攀(よづ) ○猴(こう)はかたち人(ひと)に似(に) たり腹(はら)に脾(ひ)なふ して行【犴?】をかつて食(しよく) を消(しやう)すよく立(たつ)て ゆく性(せい)さはがしく して物(もの)を害(かい)す 【左頁下段 挿絵】 蝟鼠(ゐそ)  《割書:くさぶ》 霊猫(れいめう)《割書:じやかう|  ねこ》 兎(と)《割書:うさ|  ぎ》 【上欄書入れ】11     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十一     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十一 【右頁上段】 ○獺(をそ)は水中(すいちう)にすむ 四/足(そく)ともに短(みじか)し色 青黒(いろあをぐろ)し魚(うを)をとり くらふ水気(すいき)脹満(ちやうまん) を治(ぢ)す多食(おゝくくらふ)べからす ○貂(でう)は鼠(ねずみ)のたぐひ 大(おほひ)にして黄(くわう)黒色(こくしき) なり毛(け)ふかくして あたゝかなり帽子(ばうし) 領(えり)にして寒気(かんき)をふ せぐ俗(ぞく)に栗鼠(りす)と書(かく) ○鼯(むさゝび)は小狐(しやうこ)のごとく 肉(にく)翅(し)蝙蝠(かふもり)に似(に)たり 脚(あし)みじかく尾長(をなが) さ三尺ばかり声人(こゑひと)の よぶがごとく火煙(くはゑん)を 【右頁下段 挿絵】 猴(こう)《割書: |ましら》 猿(ゑん)《割書:さる》 獺(だつ)  《割書:かわ|  をそ》 【左頁上段】 喰(くら)ふ高(たか)きより下(ひきゝ) におもむく下(ひきゝ)より 高(たか)きにのぼる事 あたはず ○鼲(てん)は鼠(ねづみ)のたぐひ なり皮(かわ)裘(かわころも)につくる べし一名(いちめい)礼鼠(れいそ) ○海狗(かいく)は膃肭臍(をんとつせい) なり形狐(かたちきつね)ににて 尾(を)は魚(うを)なり身(み)に 青白(あをしろ)き毛(け)あり又 青黒(あをくろ)き点(てん)あり 臍(ほそ)は脾腎(ひじん)の 労極(らうごく)を治(ぢ)す ○海獺(かいだつ)は獺(をそ)に似(に) て大(おゝき)さ犬(いぬ)のごとし 【右頁下段 挿絵】 貂(でう)《割書: |りす》 鼲(こん) 《割書:てん》 鼯(ご)《割書: |むさゝび》 【上欄書入れ】12     【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十二 【右頁上段】 脚(あし)の下(した)に皮(かわ)あり毛水(けみつ)につい て濡(うるほ)わずあじかといふ ○水牛(すいぎう)は色(いろ)あをく腹(はら)大(おほい)に頭(かしら) とがりかたち猪(いのこ)に似(に)たり これを食(しよく)すれば消渇(せうかつ)を やめ脾胃(ひゐ)をやしなひ虚(きよ)を おぎなひ水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す ○猩猩(しやう〴〵)は海中(かいちう)にすむ獣(けだもの)也 毛色黄(けいろき)にしてさるのごとし 耳白(みゝしろ)く面(おもて)と足(あし)は人(ひと)のごとくに て酒(さけ)をこのむ血(ち)をとりて染(そむ) ○狒々(ひひ)は猴年(さるとし)を積(つみ)て狒々(ひひ) となるといふ形人(かたちひと)のごとくにし て大(おほい)なり唇(くちひる)長(なが)く反踵髪(はんしやうばつ)を 被(かふ)ふり迅(とく)走(はしり)て人を食(くら)ふ人を 見れは大(おほい)に笑(わらふ) 【右頁下段 挿絵】 海(かい) 狗(く) 《割書:おつと|  せ》 海獺(かいだつ)  《割書:うみ| をそ》  《割書:あじか》 水(すい) 牛(ぎう) 【左頁上段】 ○鼠(ねすみ)は四/歯(し)ありて牙(きば)なし前(まへ)の 爪(つめ)四ツ後(うしろ)の爪(つめ)五ツあり小児(せうに)の 驚風(きやうふう)てんかんを治(ぢ)す ○鼷(けい)はつかねずみなり鼠(ねすみ)のちい さきものなり人をくらふて痛(いた) まず瘡(かさ)となる ○鼴(ゑん)うぐろもちは伯労(もず)の化(くは) するものなり鼠(ねすみ)に似(に)て頭(かしら)は ゐのしゝのごとく尾(お)なし毛色(けいろ) 黄黒(きくろ)し地中(ちちう)をうがつてみゝ すを食(くら)ふ日月(じつげつ)の光(ひかり)をおそる ○鼬(いたち)は鼠(ねすみ)より大(おほき)に身(み)ながく 四足みじかく尾(お)大(おほい)なりいろ 黄(き)にしてあかしよく鼠(ねすみ)をとる ○角(かく)はあらそふとよめりけだ物(もの) 角(つの)をもつてあらそふなり 【左頁下段 挿絵】 狒々(ひひ) 猩猩(しやう〴〵) 【右頁上段】 鹿(しか)は夏至(げし)に角(つの)おちて 秋分(しうぶん)に生(しやう)ず鹿角(しかのつの)水(すい)牛(ぎう)の角(つの)器(うつはもの)につくる ○牙(きば)は歯(は)のながく大(おゝい)なる ものなり象(ざう)の牙(きば)は 大(おゝい)にしてうつは物(もの)につ くり猪(ゐ)の牙(きば)は物(もの)をす りてなめらかにす ○騣(そう)は馬(むま)の頸(くび)にあるた てがみなりうながみともいふなり鬃(そう)鬐(さ)鬛(れう) ならびに同 ○蹄(てい)はけだものゝ足(あし)の さきなり麒麟(きりん)は蹄(ひづめ) の下に肉(にく)ありて物(もの)をふ んでやぶらずといふ 【左頁下段 挿絵】 鼠(そ) 《割書:ねず| み》 鼷(けい) 《割書:はつか| ねず|  み》 鼴(ゑん)《割書:うごろもち》 鼬(いう)《割書: |いたち》 角(かく)  《割書:つの》 牙(げ) 《割書:き| ば》 騣(そう) 《割書:たて| がみ》 蹄(てい)《割書:ひづめ》 【左頁上段】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十三 禽鳥(きんてう) 《割書:此/部(ぶ)には山林(さんりん)にすむもろ|〳〵の鳥(とり)をのこらずしるす》 ○鳳凰(ほうわう)は神霊(しんれい)の鳥(とり) なり雄(お)を鳳(ほう)と云/雌(め) を凰(わう)といふ其かたち 雞(にはとり)に似(に)たり羽(はね)は五 采(さい)をそなへ高(たか)さ四五 尺(しやく)声(こゑ)は簫(しやう)のごとし 生虫(せいちう)を啄(ついばま)ず生草(せいさう) をふまず桐(きり)をこのむ 竹実(ちくじつ)をくらふ 鳳凰(ほうわう)瑞鶠(ずいえん)並同 【左頁下段 挿絵】 鳳凰(ほうわう) 【右頁上段】 ○孔雀(くじやく)は大さ鴈(かん)よ り大なり高(たか)さ四尺 かしらに三/毛(もう)をいたゞ く長(なが)さ一寸余/惣身(そうしん) 緑色(みどりいろ)にて光(ひか)り有 尾(を)の玉(たま)は青(あを)くひかる 人/手(て)をうつて歌(うた)へは 尾(お)をひらきて舞(まふ) 【右頁下段】 孔雀(くじやく) 【左頁上段】 ○錦雞(きんけい)は山どりに 似(に)て小(ちいさ)く羽色(はいろ)は五 色(しき)なり孔雀(くじやく)のは ねのことし鷩雉(べつち) 采鷄(さいけい)並同 ○白鷴(はくかん)は山雞(やまとり)に似(に) て色白(いろしろ)し黒(くろ)き文(もん) あり尾(を)の長(なが)さ三四 尺ばかりあり食(しよく)す れば中(うち)を補(おぎな)ひ毒(どく) を解(げ)す 【左頁下段 挿絵】 錦雞(きんけい) 白鷴(はくかん) 【右頁上段】 ○鶴(つる)は長(なが)さ三尺/高(たか)さ 三尺余/啄(はし)の長(なが)さ四 五寸/頂(いたゞき)目(め)頬(ほう)あかく 脚(あし)あをく頸(くび)ながく指(ゆび) ほそく羽白(はねしろ)くつばさ 黒(くろ)し夜半(やはん)になく 声(こゑ)ましわりて孕(はら)むと 糞(ふん)石(いし)に化(くわ)す ○鸛(こうづる)は鶴(つる)に似(に)ていたゞ き丹(あか)からすくび長(なが)く 喙(はし)あかく色(いろ)灰(はい)白(しろく)つば さ黒し高木(かうぼく)に巣(すくふ) ○鶬鴰(さうくわつ)は鶬雞(さうけい)なり まなづるなり 【右頁下段 挿絵】 鸛(くわん)《割書:こう| づる》 鶴(くわく)《割書: | | つる|たんてう》 鶬鴰(さうくわつ)  《割書:まなづる》 【左頁上段】 ○雁(がん)【鴈】は大なるを鴻(こう)と いひ小(すこし)なるを雁(がん)と云 久(ひさ)しく食(しよく)すれは 気(き)をうごかし骨(ほね)を さかんにす ○鴻(ひしくひ)は雁(かん)の大なるもの なり江渚(こうしよ)に多(おゝ)くあ つまるゆへに江(こう)と書(かく)也 五/臓(ざう)を利(り)し丹石(たんせき)の 毒(どく)を解(げ)す ○鵠(はくてう)は雁(がん)より大なり 羽(はね)白く高(たか)く飛(とぶ)味(あぢは)ひ あまく平毒(へいどく)なし人の 気力(きりよく)をまし臓腑(ざうふ)を 【左頁下段 挿絵】 雁(がん)《割書:かり》 鴻(こう)  《割書:ひし| くひ》 鵠(かう)《割書:くゞひ》  《割書:はく| てう》 【右頁上段】 ○鵞(とうがん)は蒼白(あをしろ)の二/色(いろ) ありまなこ緑(みどりに)喙(はし)黄(き) に脚(あし)紅(くれない)なりよく闘(たゝか)ふ 食(しよく)すれは五/臓(さう)の熱(ねつ) を解(け)す ○鶩(あひる)はかたち鳬(かも)に似(に) たり飛(とぶ)ことあたはず 羽色(はいろ)は白きあり頭(かしら)黒(くろ) きはかもの羽色のごとし 大寒(だいかん)毒(どく)なし風虚(ふうきよ) 寒熱(かんねつ)水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す ○鸊鷉(かいつふり)は鳩の大さほ どあり陸(くが)をあゆむこ とあたはず水(みづ)に入て 【右頁下段 挿絵】 鵞(が) 《割書: | |とう| がん》 鶩(ふ)《割書: | |あひ| る》 《割書:かい| つぶり》 【左頁上段】 魚をとる ○鳬(かも)は品類(ひんるい)多(おゝ)く大 小あり羽色(はいろ)さま〴〵かは れり図(づ)するところは俗(ぞく) にいふ真鴨(まがも)なり中(うち)を 補(おぎな)ひ気(き)をまし胃(ゐ)を平(たいらかに)す ○鴎(かもめ)【鷗】は白(しろ)き鴿(はと)のごとし 喙(はし)ながくむらがり飛(とん) で日にかゝやく海辺(かいへん)に 住(すむ)三月に卵(かいこ)をうむ ○鴛鴦(をしどり)は大さ鴨(かも)の如(ごと) し色(いろ)黄(き)黒(くろ)羽(は)青(あお)くひ かる小毒(しやうどく)あり夫婦(ふうふ)和(くわ) せざるものにはひそかに 【左頁下段 挿絵】 鸊鷉(へきてい)《割書:かいつ|  ぶり》 鳬(ふ)  《割書:かも》 鴎(をう)《割書: | |かも|  め》   《割書:を|し| とり》 鴛鴦(えんわう) 【右頁上段】 喰(くら)はしむ ○鷺(さぎ)は頸(くび)ほそく長(なが)く 喙(はし)脚(あし)ともに長(なが)し大小有 小なるは頂(いたゝき)に長(なが)き毛(け) 有/脾(ひ)をまし気(き)を補(おぎな)ふ ○鵁鶄(ごいさぎ)は水鳥(みづとり)なり 大さ鷺(さぎ)のごとし灰白(はいしろ) 色(いろ)背(せ)黒(くろき)をせぐろごいと いひほしあるを星(ほし)ごい といふ諸魚(しよぎよ)の毒(どく)を解(げす) ○紅鶴(とき)は一名/朱鷺(しゆろ) といふ鷺(さき)より大なり 色白(いろしろ)く少(すこ)しあかく 俗(ぞく)にたうがらすと云 【右頁下段 挿絵】  《割書: |ごいさぎ》 鵁鶄(かうしやく) 鷺(ろ)《割書:さぎ》 紅鶴(こうくわく)  《割書:たう| とき》【「とき」は「つき」ヵ】 【左頁上段】 ○鷸(しぎ)は大さ鳩(はと)より少(すこ) し小(ちいさ)し喙(はし)脚(あし)長(なが)く 羽(はね)茶色(ちやいろ)に黒(くろ)きふ有 田沢(てんたく)にすむ大小あり 大なるをぼとしきと いふ虚(きよを)補(おぎな)ひ人を暖(あたゝむ) ○鸕鷀(う)は鴉(からす)に似(に)て 頸(くび)長(なが)く喙(はし)少(すこ)し長 し水(みづ)に入てよく魚(うを) をとる林木(りんぼく)に巣(す)く ふ漁人(ぎよじん)かふて魚(うを)を とらしむ 【右頁下段 挿絵】 鷸(いつ)  《割書:しき》 鸕鷀(ろじ)  《割書:う》 【右頁上段】 ○鷲(わし)は鷹(たか) の大なるもの なり至(いたつ)て大 なるは七八尺に およぶ其色(そのいろ)は 黄(き)にしてはら 黒(くろ)くふあり 觜(はし)黄(き)なり 深山(しんざん)にすみて 空中(くうちう)をかけり よく獣(けだもの)をつかみ 喰(くら)ふ 【右頁下段 挿絵】 鷲(しう)  《割書:わし》 【左頁上段】 ○皂鵰(くまたか)は鷹(たか)の大(おゝい) なるものなり翅(つばさ)つ よく空中(くうちう)高(たか)く飛(とび) めぐり諸鳥(しよてう)はいふに 及(およ)ばす獣(けだもの)をとり食(くら) ふ其/長(たけ)三四尺あり唐(もろ) 土(こし)にて大鷹といふ は鷲(わし)皂鵰(くまたか)をいふと なり日本にては大 鷹と称(せう)ずるものは 隼(はやふさ)などをいふ 【左頁下段 挿絵】 皂鵰(そうしう)《割書:くまたか》 ○鷹(たか)は惣名(さうみやう)にて大 小その品(しな)多(おほ)く勇猛(ゆうもう) の鳥(とり)なり田猟(でんりやう)にも ちひて諸鳥(しよてう)をとら しむる事はそのかみ 神功皇后(じんぐうくわうこう)の御(み)代に 百済国(はくさいこく)よりはじめて 鷹を献(けん)ぜしとかや それより代々(よゝ)鷹(たか)を もてあそび給ふ鷹は 朝鮮国(てうせんごく)の産(さん)を第一 とす 【右頁下段 挿絵】 鷹(よう)《割書: | |たか》 【左頁上段】 ○隼(はやふさ)は鷹(たか)の中(なか)にて するどきものなり形(かたち)も 大にして鳶(とび)ほどあれ ば雉(きじ)鴈(かん)鴨(かも)などの大 鳥(とり)をとる鶴(つる)などに は隼を二/羽(は)かくると かや鶽(じゆん)同 ○鷂(はしたか)は鷹(たか)の小(ちいさ)きもの なり鷂の小(ちいさ)きを兄(こ) 鷂(のり)といふさらに小きを 雀鷂(つみたか)といふいづれも かたち小(ちい)さければ小鳥(ことり) 【左頁下段 挿絵】 隼(しゆん)《割書:はやふさ》 白鷹(はくよう) 【右頁上段】 をとるなり ○雀(ゑつ)𪀚(さい)【「鳥」偏に旁は「戎」】 雀鸇(さしば) 何れも鷹(たか)の名(な)小 鳥をとる鷹の種品(しゆほん) 四十八あり鳶(とび)鵙(もず)梟(ふくろう) をくはへて四十八/種(しゆ)と せりしかりといへども 狩猟(しゆれう)にもちゆる鷹 は其(その)飼(かふ)人の名付(なづく)る あり又むかしより名(めい) 誉(よ)の鷹には悉(こと〴〵)く異(い) 名(みやう)あり亦(また)異国(いこく)より 【右頁下段 挿絵】 鷂(よう)《割書:はしたか》 兄鷂(けうよう)《割書:このり》 【左頁上段】 わたりし鷹には異(ゐ) 類(るい)ことさらにあるべし 唐鷹(とうよう)高麗(かうらい)南蛮(なんばん) 琉球(りうきう)日本にも東国(とうごく) 西国(さいこく)北(ほつ)国四国中国 つくしその国々(くに〴〵)のか わりありとかや鷹の 羽(はね)はかた羽(は)に廿四枚両 羽合て四十八/枚(ま?)尾(を)は 十二枚ありいづれも名 あり鷲(わし)の尾(を)は十四枚 あり 【左頁下段 挿絵】 雀(じやく)𪀚(しう)《割書:ゑつさい》 雀鸇(さしば) 【右頁上段】 ○鶯(うぐひす)【鸎】は毛(け)うす青(あを)し 立春(りつしゆん)のゝちはじめて さへつる声(こへ)春陽(しゆんやう)に応(おう) ず ○鷦鷯(みそさゞい)は雀(すゝめ)よりちい さく赤黒(あかくろ)く黒きふ あり寒中(かんちう)雪(せつ)中に きたる夏(なつ)は居(お)らず ○鶲(ひたき)は冬(ふゆ)きたる雪(ゆき) びたきといふは青(あを)くひ かる羽色(はいろ)なりじやう ひたきはかばいろに黒(くろ) き羽(は)まじはる 【右頁下段 挿絵】 鶯(あう) 《割書:うぐ| ひす》 鷦鷯(せうれう)《割書: |みそ|  さゞひ》 鶲(ひたき) 【左頁上段】 ○山鷄(やまどり)【雞】は雉(きじ)に似(に) てすこし小(ちいさ)くし て尾長(をなが)く羽色(はいろ)黄(き) 赤(あか)し山にすむ也 鸐雉(てきち)といふあぶり 食(しよく)すれば中(うち)を補(おぎな)ひ 気(き)をます ○啄木(てらつゝき)は小(ちいさ)きは雀(すゝめ)の ごとく大(おゝい)なるはひよどり ほど有/下腹(したはら)赤(あか)く觜(くちばし) 錐(きり)のごとく木(き)をつゝき うかつて虫(むし)を食(くら)ふ 【左頁下段 挿絵】 山鷄(さんけい)《割書:やま| どり》 啄木(たくぼく) 《割書:てら| つゝき》 【右頁上段】 ○雲雀(ひばり)は一名/蒿雀(かうじやく) といふ雀(すゞめ)より少(すこ)し大(おゝい) に茶色(ちやいろ)にしてふあり 三月の始(はじめ)より夏至(げし)の 頃(ころ)まで空(そら)に登(のぼ)りて 囀(さへづ)る陽(よう)をおこし精(せい) 髄(すい)をおぎなふ ○雉(きじ)は雄(を)は羽色(はいろ)美(び)也 尾(を)長(なが)し雌(め)は茶色(ちやいろ)に してふあり春陽(しゆんよう)に 至(いた)りてなく九月より 十一月まで食(しよく)すべし 【右頁下段 挿絵】 雲雀(うんじやく)  《割書:ひ| ばり》 雉(ち)《割書:きじ》 【左頁上段】 ○練雀(れんじやく)は尾(お)の長(なが)き と短(みじかき)との二種(しゆ)あり大 さひよどりより小(ちいさ)く 黒(くろ)く䅥(かち)【かうヵ】色(いろ)尾(を)に白き 毛(け)ありて練(ねり)たる帯(おび) のごとし ○鵐(しとゝ)は雀(すゞめ)の大(おゝい)さほど ありて薄青(うすあを)く少(すこ)し ふあり冬月(とうげつ)来る俗(ぞく)に あをじといふ此(この)鳥(とり)を 黒(くろ)やきにして腫物(しゆもつ) に付(つけ)て妙薬(めうやく)なり 【左頁下段 挿絵】 鵐(ふ)《割書:しとゝ》 練鵲(れんじやく) 【右頁上段】 ○鶉(うづら)はひよどりの大(おゝい) さほどありて丸(まる)き形(かたち) なり惣身(さうしん)こまかなる ふあり赤(あか)ふ黒(くろ)ふの二 品(ひん)あり秋(あき)のすへに至(いた) りてなく人/此(この)声(こゑ)をは 賞(しやう)じて多(おゝ)く籠(こ)に入(いれ) てかふ粟(あわ)をこのんで食(くら) ふあぶり食(しよく)すれば五 臓(ざう)をおぎなひ中(うち)をま すなり 【右頁下段 挿絵】 鶉(じゆん)《割書: |うづら》 【左頁上段】 ○吐綬雞(とじゆけい)は大(おゝい)さ鶏(にはとり) のごとし頭(かしら)雉(きじ)に似(に) たり羽(はね)の色(いろ)黒(くろ)黄(き)に してほしあり項(うなじ)に 嚢(ふくろ)ありて肉綬(にくじゆ)を納(おさむ) 日和(ひより)よく快(こゝろよ)き時(とき)はこの 嚢(ふくろ)をのばしあそぶ ○山鵲(さんじやく)は鵲(かさゝぎ)のごとく にして色黒(いろくろ)く文采(もんさい) あり觜(はし)あかく尾長(おなが)く してとをく飛(とぶ)ことあ たわず 【左頁下段 挿絵】 吐綬雞(とじゆけい) 山鵲(さんじやく) 【右頁上段】 ○鶤雞(たうまる)は雞(にはとり)の大なる ものなり一/名(めい)傖雞(さうけい) といふもろこし蜀(しよく) 中(ちう)に多し羽色(はいろ)黒(くろ) 白(しろ)の二/品(ひん)あり其(その)性(せい) 勇(ゆう)にしてよく闘(たゝか)ふ 又しやむ国(こく)より渡(わた) りし鶏(にはとり)ありよつて しやむといふ鶤鶏(たうまる) よりは少(すこ)し小(ちい)【ちいさヵ】く脚(あし) ふとく高(たか)くして勇(ゆう)也 闘(たゝかひ)をこのむ 【右頁下段 挿絵】 鶤雞(こんけい)  《割書:たうまる》 【左頁上段】 ○雞(にはとり)は朝鮮国(てうせんこく)を 良(よし)とす羽色(はいろ)は品々(しな〴〵) あり俗(ぞく)にしやうこく といふ炙(あぶり)食(しよく)すれば 虚(きよ)を補(おぎな)ひ中(うち)をあた ため血(ち)をよめ婦人(ふじん) の崩(ぼう)によし ○雛(ひな)は諸鳥(しよてう)の巣(す) だちなり初(はじめ)て生(うま) れてみづから啄(ついばむ)を 雛(ひな)といふ母(はゝ)くゝめ食(くらは) しむるを鷇(こ?く)といふ 【左頁下段 挿絵】 雞(けい)《割書:にはとり》  《割書:しやう| こく》 雛(すう)《割書: | ひな|ひよこ》 ○矮雞(ちやぼ)はもろこし 江南(こうなん)に多(おゝ)しかたち 小(ちいさ)くして脚(あし)わづかに 二寸ばかり ○鷽(うそ)は雀(すゞめ)より小く 羽色(はいろ)文采(もんさい)あり腹(はら)の 下(した)白(しろ)くしてうつく しき鳥なり ○燕(つばくら)は雀(すゞめ)の大(おゝき)さほど あり泥(どろ)を含(ふくみ)て屋(いへの)宇(のき) に巣(す)をつくる戊巳(つちのへみ)の 日をさくるといへり 【右頁下段 挿絵】 鷽(よ) 《割書:うそ》 矮雞(わいけい)  《割書:ちやぼ》 燕(ゑん) 《割書:つば| くら》 【左頁上段】 ○鳩(はと)は惣名(さうみやう)にて類(たぐひ)お ほし図(づ)する処(ところ)は俗(ぞく)に いふじゆずかけ又/八幡(はちまん) 鳩(ばと)ともいふ頸(くび)のまはり 黒(くろ)くじゆずをかけたるか ごとし羽色(はいろ)灰白(はいしろ)くふなし 人/此(この)鳩(はと)をとらず ○山鳩(やまばと)は山に住(すみ)て里(さと) に出(いで)ず羽色(はいろ)緑(みどり)褐色(かちいろ) なり食(しよく)すれば虚(きよ)を 補(おぎな)ひ血(ち)を活(いか)す 天子(てんし)御衣(ぎよゐ)の色(いろ)是(これ)なり 【左頁下段 挿絵】 鳩(きう)《割書:はと》 山鳩(せいきう)《割書: |やま| ばと》 【右頁上段】 ○鳲(かつこ)鳩は色(いろ)褐(かち)にして 三月/穀雨(こくう)の後(のち)はじめ てなく食(しよく)すれは神(しん)を 安(やすん)ず又つゝ鳥(どり)といふ有 是(これ)も鳩(はと)の類(たぐひ)にて三月 の頃(ころ)なく声(こゑ)を聞(きゝ)て豆(まめ)を まくといへり ○鴿(いへばと)は堂塔(たうたう)に多(おゝ)く あつまり住(すむ)はとなり 精(せい)をとゝのへ気(き)を益(ます)悪(あく) 瘡(さう)を治(ぢす)藥毒(やくどく)を解(げ)す 多く食(しよく)すべからず 【右頁下段 挿絵】 鴿(がう)  《割書:いへば|   と》 鳲鳩(しきう)《割書: |かつこ》 【左頁上段】 ○鶫(つくみ)は鵯(ひよどり)の大(おゝき)さ有 羽色(はいろ)茶(ちや)にしてふ有 歳(とし)の暮(くれ)に是(これ)を食(しよく) す味(あじは)ひよし ○鵙(もず)は鵯(ひよどり)より少(すこ)し小(ちいさ) く茶色(ちやいろ)にて頭(かしら)鷹(たか)の 如(ごと)く小鳥(ことり)を追(おひ)肉食(にくじき)す 小児(しやうに)言(ものいふ)ことおそきに鵙(もず) の踏(ふむ)枝(えだ)にてうつなり ○鶸(ひわ)はかたち雀(すゞめ)ほど あり羽色(はいろ)黒(くろ)く黄(き)なる 羽(はね)まじる春(はる)きたる 【左頁下段 挿絵】 鶫(とう)《割書:つぐみ》 鶸(じやく)《割書: |ひわ》 鵙(げき)《割書:もず》 【右頁上段】 ○画眉(ほゝじろ)は■(くは)【畫+鳥】鶥(び)鳥(てう) なりかたち雀(すゞめ)ほど有 羽色(はいろ)も似(に)たり頬(ほう)白(しろ)く 黒(くろ)き毛(け)あり  ○鶖(かしとり)は鵯(ひよどり)より大(おゝい)に 翅(つばさ)に青(あを)く■【るヵ】りに黒(くろ)き ほし有/羽(は)あり秋(あき)の末(すへ) より冬月(とうげつ)に来(きた)り鳴(なく) ○杜鵑(ほとゝぎす)は鵯(ひよとり)より大に して黄黒(きくろ)く口(くち)赤(あか)し 四五月の頃(ころ)夜陰(やいん)に なく杜宇子規(とうしき)同 【右頁下段 挿絵】 画眉(ぐはび)《割書:ほゝ|じろ》 鶖《割書:かし| どり》 【左頁上段】 ○鵯(ひよとり)は鸜鵒(くよく)なり 又/哵哵鳥(ははてう)ともいふ 身(み)首(かしら)ともに薄(うす)ね ずみ色(いろ)に黒(くろ)きふあり 諸木(しよぼく)の実(み)を食(くら)ふ 秋冬(あきふゆ)多(おゝ)く来(きた)る ○鶺鴒(せきれい)は觜(はし)ほそく 尾長(をなが)し飛(とぶ)ときは鳴(なく) 居(おる)とき尾をうごかす 羽(はね)白/背(せ)黒(くろ)きをせぐろ といひ青(あを)く黄(き)なるを きぜきれいといふ 【左頁下段 挿絵】 杜鵑(とけん) 《割書:ほとゝ|  ぎす》 鶺鴒(せきれい)《割書:いし| たゝき》 鵯(ひ)《割書:ひよ| どり》 【右頁上段】 ○翠雀(るり)は一名/翠(すい) 鳥(てう)といふかたち雀(すゞめ)の 大(おゝい)さほどあり頭(かしら)背(せなか) ともにるり色(いろ)に光(ひか) りて美(うつ)くしき鳥也 ちやるりといふもの有 ○蝋嘴(まめどり)は一名/竊脂(せつし) といふかたちひよどり の大(おゝい)さほとにて喙(はし)は ふとく黄(き)なり又しめ といふ鳥(とり)かたち蝋嘴(まめどり) と同/嘴(はし)薄赤(うすあか)し 【右頁下段 挿絵】 翠雀(すいじやく)  《割書:るり》 蝋嘴(らうし)《割書:まめ| どり》 【左頁上段】 ○烏鳳(おなかどり)惣身(さうみ)黒(くろ)く 尾(を)長(なが)し一/名(めい)王母(わうぼ) 鳥(てう)といふ ○雀(すゞめ)は頭(かしら)は蒜(にら)の顆(つぶ) のごとく目(め)は椒(さんせう)の目の ごとし其(その)性(せい)尤(もつとも)淫乱(いんらん) なり食(しよく)すれば陽(よう)を さかんにし気(き)をまし 腰(こし)ひざをあたゝめ小便(しやうべん) をしゞめ血崩(けつほう)帯下(たいけ)を 治(ぢ)す頭(かしら)を食(しよく)すべから ず瘡(かさ)を発(はつ)す 【左頁下段 挿絵】 烏鳳(うほう) 《割書:おなかどり》 雀(じやく)《割書:すゞ|  め》 【右頁上段】 ○鸚鵡(あふむ)はよく言鳥(ものいふとり) なり白青(しろあを)く又五 色(しき)あり青(あを)き羽(はね)赤(あかき) 嘴(はし)あり唐鳥(からとり)なり ○竹鶏(やましぎ)は鷓鴣(しやこ)に似(に) てちいさく褐色(かちいろ)にし てまだらに赤(あか)し 尾(を)なし蟻(あり)をくらふ 水辺(すいへん)にすむ 【右頁下段 挿絵】 鸚鵡(あふむ) 竹鶏(ちくけい)《割書: |やま| しぎ》 【左頁上段】 ○鸜鵒(はくてう)はかたち烏(からす) に似(に)て小くよく人(ひとの) 言(ものいひ)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり) なり ○蝙蝠(かふもり)はかたち鼠(ねずみ)に 似(に)てつばさは紙(かみ)をはる がごとくものなり 夏(なつ)より秋(あき)の末(すへ)まで 夜(よ)ことに飛(とび)めぐりて 蚊(か)を食(くら)ふ昼(ひる)は洞穴(ほらあな) にかくれ居(をる)つばさの さきにかぎ有てかゝり           ゐる 【左頁下段 挿絵】 蝙蝠(へんふく)《割書: |かふ| もり》 鸜鵒(くよく)  《割書:哵哵鳥(ははてう)也》 【右頁上段】 ○鴉(からす)は觜(はし)大(おゝい)にしてむ さぼる事を好(このむ)黒焼(くろやき) にしてやせ病(やまひ)欬嗽(がいそう) 労疾(らうしつ)を治(ぢ)す ○烏(からす)は觜(はし)ほそく鴉(あ) より小なり生れて 母(はゝ)哺(くゝむる)こと六十日/巣(す)だ ちして母(はゝ)を哺(くゝむる)こと 六十日よつて慈烏(じう)と云 ○鳶(とび)は鷹(たか)に似(に)たり 鴟(てい)同/黒焼(くろやき)にして 頭風(づふう)を治(ぢ)す 【右頁下段 挿絵】 烏(う)  《割書:からす》 鳶(えん)  《割書:とび》 鴉(あ)《割書: |からす》 【左頁上段】 怪鴟(よたか)はふくろうの たぐひにて夜(よる)出(いて)て 昼(ひる)はかくれ居(お)るかた ちは鷹(たか)に似(に)て小(ちいさ)し 不徉(ふしやう)の鳥(とり)なり ○角鴟(みゝづく)はかたちふく ろうにてちいさし頭(かしら) 目ねこのごとく毛角(もうかく) 両耳(ちやうに)あり昼(ひる)ふして 夜(よる)いづる声(こゑ)老人(らうじん)の ものをよぶがごとし 【左頁下段 挿絵】 怪鴟(くはいし)《割書:よたか》 角鴟(かくし)  《割書:みゝづく》 【右頁上段】 ○梟(ふくろう)はかたち鳶(とひ)に 似(に)て小(ちいさ)く頭(かしら)大(おゝい)にして 丸(まる)く眼(まなこ)大(おゝい)なり夜(よる)出(いで)て 昼(ひる)はかくれ居(お)る雌(め)は 声(こゑ)さけぶがごとし母鳥(はゝとり) を食(くら)ふといふ不孝(ふかう)の 鳥(とり)といへり ○鵲(かさゝぎ)は大(おゝい)さ鴉(からす)のごと し尾(を)とがりて長(なが)し 觜(はし)黒(くろ)し食(しよく)すれは 淋病(りんびやう)消渇(せうかつ)を治(ぢ)する 婦人(ふじん)は食(しよく)すべからす 【右頁下段 挿絵】 梟(けう)  《割書:ふくろう》 鵲(しやく)  《割書:かさゝ|   ぎ》 【左頁上段】 ○秧雞(くひな)は雞(にはとり)に似(に) て小(ちいさ)し頬(ほう)白(しろ)く觜(はし) 長(なか)く尾(を)みじかく背(せなか) に白まだらあり田(てん) 沢(たく)のほとりにすむ ○鴗(かはせみ)は大(おゝい)さ燕(つばめ)のごとし 喙(はし)かたちより大に尖(とが)りて 長(なが)し足(あし)のうら紅にし て短(みぢか)し水辺(すいへん)に有 て魚(うを)をとる土(つち)にあな ほりて巣(す)つくる惣身(さうみ) 黒(くろ)く青(あを)くひかる 【左頁下段 挿絵】 秧雞(あうけい)  《割書:くひな》 鴗(わう)《割書:かはせみ》 【右頁上段】 ○火雞(くはけい)はかたち雞(にはとり)に 類して高(たか)さ七尺くび 長(なが)く日に飛行(とびゆく)こと三 百里/異国(ゐこく)の鳥(とり)なり 駱駝馬(らくだむま)に似(に)たるゆへ一名 駱駝鶴(らくだくはく)ともいふ ○鶚(みさご)は鷹(たか)の類(るい)なり 鷹(たか)に似(に)て羽色(はいろ)黄(き)白 なり海辺(かいへん)水上(すいじやう)を 飛(とび)めぐりてよく魚(うを) をとり食(くら)ふ 【右頁下段 挿絵】 火雞(くはけい) 《割書:一名|駱駝(らくた)| 鶴(くはく)》 【左頁上段】 ○羽(は)斑(まだら)鷸(しぎ)はしぎの たぐひなり羽(はね)まだら にふありてうつくし 田沢(てんたく)にすむ鷸(しぎ)と 同くむらがり飛(とふ) ○鴋(はん)は水鳥(みつとり)なり大 小ありかたち雁(がん)鳬(かも)に 類して脚(あし)は長(なが)し 【左頁下段 挿絵】 羽斑鷸(はまだらしぎ) 鴋 《割書:ばん》 鶚(かく) 《割書:みさご》 【右頁上段】 ○鶁(むくとり)は小(こ)むくといふ大(おゝい) さひよどりより小(ちいさ)く 頭(かしら)白く背(せなか)黒白(くろしろ)の毛(け) あり秋(あき)の央(なかは)多(おゝ)くむ れわたる味(あじは)ひ美(び)也 ○椋鳥(むくとり)大(おゝ)むくといふ 小むくより大(おゝい)なり羽(は) 色(いろ)もかはれり夏秋(なつあき)の 頃(ころ)来(きた)るむれにならず ○菊(きく)戴(いたゞき)は至(いたつ)て小(ちいさ)き鳥(とり) なり惣身(さうみ)薄青(うすあを)し 頂(いたゞき)に黄(き)なる毛(け)あり天 【右頁下段 挿絵】 椋鳥(むくどり)  《割書:小むく》 菊戴(きくいたゝき) 椋鳥(むくどり)《割書:大むく》 【左頁上段】 気(き)よくあたゝかなれは 頂(いたゞき)の毛(け)をひらけば中(なか)よ り紅(くれない)の毛(け)いづる冬月(とうけつ) 来(きた)る鳥(とり)なり ○文鳥(ぶんてう)は雀(すゞめ)ほどあり 羽色(はいろ)黒(くろ)く頬(ほう)に丸(まる)く 白(しろ)き毛(け)あり腹(はら)白し ○四十雀(しじうから)は雀(すゞめ)より 小(ちいさ)く頭(かしら)黒(くろ)く頬(ほう)丸(まる)く 白し背(せなか)はうす青(あを)く 腹(はら)白く黒(くろ)き毛(け)あり 秋冬(あきふゆ)きたる 【左頁下段 挿絵】 文鳥(ぶんてう) 四十雀(ししうから) 【右頁上段】 ○山雀(やまがら)は雀(すゞめ)の大さほ どあり頭(かしら)くろく背(せなか) 黒(くろ)くはらかき色(いろ)なり 羽(は)づかひかるくしてよ くかへるゆへに籠(かご)に入 て飼(かひ)をくなり ○鴰(ひがら)は四十/雀(から)に似(に)て 小(ちいさ)し是(これ)も飼置(かひをく)によし 毛色(けいろ)うるはし  ○小雀(こから)は鴰(ひがら)に似(に)てい たつて小(ちいさ)しいづれも 秋(あき)のすゑにわたる 【右頁下段 挿絵】 鴰 《割書: ひ|  がら》 山雀(さんじやく) 《割書:   やまがら》 小雀(しやうじやく) 《割書:   こがら》 【左頁上段】 ○繍眼児(めじろ)は雀(すゞめ)より 小(ちいさ)し羽色(はいろ)もへぎ色(いろ) 腹(はら)うす黄なり目(め)の まはり白(しろ)し多(おゝ)く集(あつま) り枝(ゑた)におし合(あひ)とまる 鳥(とり)なり ○ゑながは至(いたり)て小(ちいさ)き 鳥(とり)なり頂(いたゞき)灰白(はいしろ)色/羽(は) 色(いろ)うす黒灰白(くろはいしろ)の毛(け) 交(まじ)りうすあかき毛(け)有 尾(を)長(なが)し秋(あき)より冬(ふゆ) にいたりてむれ来(きた)る 【左頁下段 挿絵】 尾長(ゑなが) 繍眼(めじ)  兒(ろ) 【右頁上段】 ○駒鳥(こまとり)鵯(ひよどり)より小(ちいさ)く 頭(かしら)背(せなか)ともに赤茶(あかちや) 色(いろ)腹(はら)に黒(くろ)き毛(け)有 山に住(すみ)て里(さと)へいでず 鳴(なく)声(こへ)を人/賞(しやう)じて 飼(かひ)をくなり ○九官(きうくはん)は一/名(めい)秦吉(さる) 了(か)といふ鳩(はと)より小(ちいさ)く 惣身(さうみ)黒(くろ)く翅(つばさ)に白 き羽(は)ありよく人の 言(ことば)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり) なり 【右頁下段 挿絵】 駒鳥(こまとり) 九官(きうくはん) 《割書:一名》秦吉了(さるか) 喉(の)紅(ご)鳥(どり) 【左頁上段】 ○風鳥(ふうてう)はかたち雀(すゞめ) より大(おゝい)につばさ尾(を) ともに長(なが)き毛(け)あり てみのをきたるが如(ごと) し色(いろ)は緑(みどり)にてひか りありまれなる鳥(とり) なり ○/𪈿(ひよくのとり)【蠻+鳥】は比(ひ)■(よくの)【羽+戈】鳥(とり)とも 書(かく)なり雌雄(しゆう)つばさ をならべて飛(とふ)といふ 此(この)鳥(とり)実(じつ)に見(み)たる人 をきかず 【左頁下段 挿絵】 風鳥(ふうてう) 𪈿(ひよくのとり) 【右頁上段】 ○喉紅鳥(のごとり)はかたち 雀(すゞめ)の大さありのど より胸(むね)にいたりて紅(へに) にして美(うつ)くしき鳥也 まれにあり ○深山頬白(みやまほじろ)は小鳥(ことり) にて羽色(はいろ)美(び)なる 鳥(とり)なり ○黄雀(きすゞめ)はすゞめに似(に) て黄なり又/紅雀(へにすゞめ)と いふは紅(へに)の毛(け)あり又 入(にう)内(ない)雀(すゞめ)といふも有 【右頁下段 挿絵】 深山(みやま)頬白(ほじろ) 黄(き)雀(すゞめ) 鸞(らん) 【左頁上段】 ○鸞(らん)は神鳥(しんてう)なり かたち鶏(にはとり)に似(に)て尾(を) 長(なが)く声(こゑ)五音(ごゐん)にあた る鏡(かゞみ)を見れは舞(まふ) ○蒼鷺(あをさぎ)はさぎより 大(おゝい)にして青(あを)く腹(はら)白し 雨夜(あまよ)には羽(はね)青(あを)く光(ひか) りて人/怪(あやし)みおそる ○葦(よしはら)雀(すゞめ)は雀(すゞめ)より 大(おゝい)にかしましく鳴(なく)葦(よし) 芦(あし)の中(なか)に居(お)る河辺(かへん) 沢(さわ)のほとりに多(おゝ)し 【左頁下段 挿絵】 蒼鷺(さうろ)  《割書:あをさぎ|みとさぎ》 葦雀(おげら)《割書: | | |よしはら|  すゞめ| よしどり|   きやう〳〵し|     ともいふ》 【右頁上段】  ○鴆(ちん)は鷹(たか)に似(に)たり 紫黒(むらさきくろ)く嘴(はし)赤黒(あかくろ)し 頸(くび)長(なが)さ七八寸/蛇(へび)を 食(くら)ふ大毒鳥(だいどくてう)なり鳳(ほう) 凰(わう)をおそる ○雉鳩(きじばと)は鴿(いへばと)に似(に)て 羽薄(はねうす)黒赤(くろあか)く茶色(ちやいろ)の ふあり竹林(ちくりん)に住(すむ)としより こいとなく ○杓(しやく)【犳は誤字ヵ】鴫(なぎ)は惣身(さうみ)茶色(ちやいろ) にて頸長(くびなが)く脚(あし)ながし 海辺(かいへん)に住(す)む 【右頁下段 挿絵】 鴆(ちん) 雉鳩(きじばと) 【左頁上段】 ○都鳥(みやこどり)はかしらより 背(せなか)は黒(くろ)く腹白(はらしろ)し 觜(はし)脚(あし)あかし水鳥(みづとり)也 ○音呼(いんこ)は大小あり 大(おゝい)なるは鳩(はと)の大(おゝい)さあり 小なるは小鳥(ことり)ほど有 色は紅(べに)有/五色(ごしき)あり 唐鳥(からとり)なり ○羽(は)は翎(れい)䎐(かん)【翰ヵ】並に同 翮(かく)はね羽根(はね)羽茎(はぐき)也 翈(かう)はかざきり翮上(かくじやう)の 短羽(たんう)なり 【左頁下段 挿絵】 杓鴫(しやくなぎ) 都鳥(みやこどり) 音呼(ゐんこ) 【右頁上段】 ○翼(つばさ)は鳥(とり)のつばさ なり翅(し)同/大鳥(おゝとり)を 翼(よく)といふ小鳥(ことり)を羽(う) といふ ○尾(を)は鳥(とり)の尾(を)なり 臎(すい)同 ○嘴(くちばし)は鳥(とり)のくちば しなり喙(けい)同又/吻(ふん)は くちわき觜(し)はくちばし ○卵(らん)雛(すう)は諸鳥(しよてう)の たまご鶏卵(けいらん)は五臓(ござう) を安(やすん)し水臓(すいざう)を温(あたゝ)む 【右頁下段 挿絵】 羽(う)《割書:は》 翼(よく)  《割書:つば|  さ》 嘴(し)《割書: | |くち| ば| し》 尾(び)《割書: |を》 卵(らん) 雛(すう) 《割書:たま|  ご》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十四   龍(りよう)魚(ぎよ) 《割書:此部(このぶ)には海水(かいすい)川谷(せんこく)にすむ|もろ〳〵の龍(りよう)蛇(じや)魚(ぎよ)鱗(りん)をしるす》 【左頁上段】 ○蛟(みつち)は龍(たつ)の角(つの)なき ものなり四/足(そく)あり せなか青(あを)まだらに わき錦(にしき)のごとく水(すい) 中(ちう)又深山(しんざん)幽谷(ゆうこく)にす むなり ○龍(たつ)は鱗虫(りんちう)の長(ちやう)也 せなかに八十一の鱗(うろこ)有 九々の数(すう)をそなへたり よく雲雨(うんう)をおこす 【右頁下段 挿絵】 蛟(こう)《割書:みつち》 ○螭(あまれう)は蛟(みつち)に似(に)て角(つの) なし龍(れう)ににていろ 黄(き)なり ○魚虎(しやちほこ)一名/土奴魚(ととぎよ) といふ海中(かいちう)にありて よく潮(しほ)をふくよつて 城門(じやうもん)に此(この)魚(うを)をつくるは 火災(くはさい)をさくるの心 なりといへり ○鯨(くじら)は海中(かいちう)の大魚(たいぎよ) なり浪(なみ)を鼓(く)して雷(らい) をなし沫(あわ)をはいて 雨(あめ)をなす雄(を)を鯨(げい)と いひ雌(め)を鯢(げい)といふ 【右頁下段 挿絵】 龍(りよう)  《割書:たつ》 【左頁上段】 ○鰐(わに)はかたち大にし て四/足(そく)あり口大に人 をのめば海上(かいしやう)にうく 鱷(かく)同 ○鯪(りよう)はかたち鯉(こい)にゝ て陵(をか)に穴(あな)して居(を)る よつて鯪鯉(りようり)といふ 四/足(そく)あり首(かしら)鼠(ねづみ)の如(こと) く鱗(うろこ)かたきこと鉄(てつ)の ごとし ○鯛(たひ)は棘鬣魚(きよくれうぎよ)と云 水腫(すいしゆ)を消(せう)し小/便(べん)を 利(り)し痔(ぢ)を治(ぢ)し上(じやう) 気(き)虚労(きよらう)を治(ぢ)す但 【左頁下段 挿絵】 螭(ち)  《割書:あま| れう》 【右頁上段】 産後(さんご)百/余日(よにち)があいだ かたくいむべし若(もし)あ やまつて食(しよく)すれは必(かならず) 死(し)す ○鯖(さば)は湿痺(しつひ)によし 韮(にら)と同しく煮(に)て 食(しよく)すれは脚気(かつけ)煩(はん) 悶(もん)を治(ぢ)し気力(きりよく)をま すなり ○鯵(あぢ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し 痢疾(りしつ)を治(ぢ)すわすれ て尿(いばり)するものはくら ふべからず ○鰷(せいご)は煮(に)て食(しよく)すれば 【右頁下段 挿絵】 魚虎(ぎよこ)  《割書:しやち|  ほこ》 鯨(けい) 《割書:くじ|  ら》 【左頁上段】 うれひをやめ胃(ゐ)をあ たゝめ冷(れい)瀉(しや)【泻】をとむ 鮂魚(しうぎよ)同 ○鮸(くち)は中(うち)をおぎなひ 気(き)をます多(おゝ)く食(しよく) すべからず瘡(かさ)を発(はつ) し脾湿(ひしつ)をうごかし 足膝(あしひざ)に利(り)あらず ○鰩(とびうを)は婦人(ふじん)難産(なんざん) にくろやきにして 酒(さけ)にて壱匁ふくす れば産(さん)しやすし 文鰩(ぶんよう)同 ○鯼(いしもち)は五/臓(ざう)をおぎな 【左頁下段 挿絵】 鯪(りよう) 《割書:穿山甲(せんざんかう)》 鰐(がく) 《割書:わに》 【右頁上段】 ひ筋(すじ)骨(ほね)をまし脾(ひ) 胃(ゐ)を和(くは)すおゝく食(しよく) してよし ○鮏(さけ)は一名/過臘魚(くはらうぎよ)と いふ鮭(けい)につくるは非(ひ)也 ○鰶(このしろ)は胃をあたゝめ 人を益(えき)痢(り)をやむ 多(おゝ)く食(しよく)すれは風(ふう) 熱(ねつ)をうごかしかさを 発(はつ)す ○尨魚(はうぎよ)は今いふくろ だひなり又はちぬた いともいふ ○黄檣(わうしよく)は今いふはな 【右頁下段 挿絵】 鯖(せい) 《割書: さば》 鯵(さん)《割書: あぢ》 鰷(でう) 《割書: せいご》 鯛(しう) 《割書: たひ》 【左頁上段】 おれたいなり ○烏頬魚(うけうぎよ)は今いふ すみやきだいなり ○梭魚(かます)は五/臓(ざう)をおぎ なひ肌(はだへ)をうるほし 気力(きりよく)をまし積(しやく)を 治(ぢ)し虫(むし)をころす ○鰈(かれい)は王余魚(わうよぎよ)とも 比目魚(ひもくぎよ)ともいふ虚(きよ)を おぎなひ気力(きりよく)をま す多(おゝ)く食(しよく)すれば 気(き)をうごかす ○海鰻(はも)は五/疳(かん)湿痺(しつひ) 面目(めんもく)うそばれ脚気(かつけ) 【左頁下段 挿絵】 鮸(ばん)《割書:くち》 鮏(せい)《割書: |さけ》 鰩(よう)《割書: | |とび| うを》 鯼(そう) 《割書:  いし| もち|   石首(せきしゆ)|     魚(きよ)|   とも|   いふ》 【右頁上段】 風気(ふうき)によしはらみ女 の水気(すいき)あるによし ○鯧(まながつほ)は人をして肥(こへ)すこ やかならしめ気食(きしよく)を ます鱂魚(しやうぎよ)同 ○鯔(なよし)は胃(ゐ)をひらき五 臓(ざう)を利(り)し人をして 肥(こへ)すこやかならしむ ○江鮏(あめ)は胃(ゐ)をあたゝめ 中(うち)を補(おぎな)ふ多(おゝ)く食(しよく)す れば瘡(かさ)を発(はつ)すまた鯇(あ) 魚(め)といふ又/水鮏(すいせい)とも 書(かく)なり ○馬鯪(さはら)【馬鮫ヵ】は一名/章鮌(しやうけん) 【右頁下段 挿絵】 鰶(せい) 《割書: このしろ》 鰛(うん) 《割書: いわ|  し》 尨魚(はうぎよ) 《割書: くろだひ》 黄(わう)  檣(しよく) 《割書:はな| おれ|  だひ》 烏頬(うけう) 《割書:すみやき|  だひ》 【左頁上段】 といふちいさきものを 青前(せいせん)といふさごし なり章鮌(さはら)擺錫(さはら)同 ○鱈(たら)は風をさり酒(さけ)を さまし煮(に)て食(しよく)すれ は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し小便(しやうべん) を利(り)す ○䰵(ゑぶな)はまへの鯔(なよし)の所(ところ) に見えたり かうきち ぼら いな いせごゐ ゑぶな すばしり い づれも同物(どうぶつ)異名(いみやう)也 ○鱸(すゞき)は五/臓(ざう)をおきな ひ筋(すじ)骨(ほね)を益(ます)腸(ちやう)胃(ゐ) 【左頁下段 挿絵】 海鰻(かいまん) 《割書: はも》    《割書:狗魚(くぎよ)|白鰻(はくまん)|鮦鮵(とうだつ)|慈鰻(じまん)| 鱺(れい)| 並同》 梭魚(さぎよ)《割書:かます》 鰈(てう) 《割書:かれい》 【右頁上段】 を和(くは)し水気(すいき)を遂(おふ) おゝく食(しよく)すれば痃(けん) 癖(べき)はれ物(もの)いづる ○鰹(かつほ)は生(なま)は膈(むね)をきよ くし炙(あぶれ)は脾胃(ひゐ)をとゝ のふ多(おゝ)く食(しよく)すれは血(ち) をうごかす ○鰧(おこじ)【䲍】は虚労(きよらう)をおぎな ひ脾胃(ひゐ)をまし腸風(ちやうふう) 瀉血(しやけつ)を治(ぢ)し気力(きりよく)を ます人をして肥(こへ)すこ やかならしむ ○魴鮄(ほうぼ)は鯄(かながしら)に似(に)て 色(いろ)あかし一名/藻魚(もうを)と 【右頁下段 挿絵】 鯧(しやう) 《割書:まな| がつほ|扁魚(へんぎよ)同》 江鮏(こうせい) 《割書: あめ》 鯔(し) 《割書:なよし|ぼら》 馬鯪(ばかう)《割書:さはら》 【左頁上段】 もいふ ○江豬(いるか)は脯(ほぢゝ)となして 食すれば虫(むし)をころし 瘧(おこり)を治(ぢ)す又/海豚(いるか)と も書(かく)なり ○鱪(しいら)は其性(そのしやう)未(いまだ)_レ考(かんがへ) 秋の末(すへ)に多(おゝ)く出る ○鱣(ふか)は長(たけ)二/丈(じやう)はかり 灰(はい)いろなりせなかに 三/行(かう)あり鼻(はな)ながく してひげあり玉版(ぎよくはん) 魚(きよ)同 ○鮫(さめ)は首(かしら)鼈(かめ)に似(に)て 脚(あし)なく尾(を)の長(なが)さ尺(しやく) 【左頁下段 挿絵】 鱸(ろ)《割書:すゞき》 鱈(せつ) 《割書: たら》 䰵(し) 《割書:ゑ| ぶな》 鰹(けん) 《割書: かつほ》 【右頁上段】 余(よ)あぢはひ美(び)なり 皮(かわ)は刀(かたな)の柄(つか)さやに つくるなり ○鯄(かながしら)は魴鮄(ほうぼ)に似(に)た り小児(せうに)のくひぞめに かならず用ゆ ○鱠残魚(きすご)は一名/王余(わうよ) 魚(きよ)といふ呉王(ごわう)船中(せんちう) にて鱠(なます)を海にすつる に魚(うを)となれり今の 王余魚(わうよぎよ)これなり  ○鯽(ふな)は小鯉(こごい)に似(に)て 色(いろ)くろし五/味(み)に合(がつ) して煮(に)て食(しよく)すれば 【右頁下段 挿絵】 鰧(ちん)【䲍】 《割書: おこじ》 鱪(しよ)《割書: |しいら》 魴鮄(ほうぼ) 江豬(こうちよ)《割書:いるか》 【左頁上段】 ○虚羸(きよるい)をつかさどる中(うち) をあたゝめ気(き)をくだ し下痢腸痔(げりちやうじ)を やむ蓴(ぬなわ)に合(かつ)してあ つものとなしては胃(ゐ) よはくして食(しよく)くだ らざるをつかさどり 中をとゝのへ五ざうを ます ○鮧(なまづ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し 小便(しやうべん)を利(り)し下血(げけつ)だ つこうのいたみに葱(ひともし) と同しく煮(に)て食(しよく) してよし 【左頁下段 挿絵】 鱣(はん) 《割書: ふか》 鱠残魚(くはいざんぎよ) 《割書: きすご》 鯄(きう) 《割書:かな|がし| ら》 鮫(かう)《割書:さめ》 【右頁上段】 ○鯉(こい)は頭(かしら)より尾(を)に いたるまで鱗(うろこ)に大 小なしみな三十六 鱗(りん)あり煮(に)て食(しよく)す れば欬逆(がいきやく)上気(しやうき)黄(わう) 疸(だん)を治(ぢ)し渇水腫(かつすいしゆ) を治(ぢ)す ○杜父(とふ)はいしもちと もうしぬすびととも 又ふぐりくらひとも いふなり五/臓(ざう)をおぎ なひ脾胃(ひゐ)を和(くは)す また杜文(とぶん)はいかりいを也 土(と)■(ほ)【魚+莆】土鮒(とふ)土附(とふ)同 【右頁下段 挿絵】 鯽(せき)《割書:ふな》 鮧(い)《割書:なま| づ》 鯉(り)《割書: | こひ》 【左頁上段】 ○鮞(はす)【鰣ヵ】は虚労(きよらう)をおぎ なふ油(あぶら)をとりてやけ どにぬりて妙(めう)なり ○鱓(やつめうなぎ)は中(うち)をおぎな ひ血(ち)をまし虚(きよ)をお ぎなひさんこのあく 露(ろ)を治(ぢ)す ○鰻(うなぎ)は虫(むし)をころし瘡(かさ) を治(ぢ)し脚気(かつけ)腰腎(こしじん) のあいだの湿痺(しつひ)を治(ぢ) し陽(やう)をたすく ○黄鱨(ぎゞ)はおゝく食(しよく)す べからず脾胃(ひゐ)をそんじ 洩痢(せつり)す一名/黄顙(わうさう) 【左頁下段 挿絵】 杜父(とほ) 《割書:うし| ぬすびと|ふぐり| くらひ》 鱓(せん) 《割書:やつめ| うなぎ| 小| なる|  を》《割書: |鰌鱓(しうせん)といふ》 鰻(まん) 《割書:鰻鱺(まんれい)| 魚(ぎよ)同》 《割書:うなぎ》 【右頁上段】 魚といふ ○鰌(どぢやう)は中(うち)をあたゝめ 気(き)をまし酒(さけ)をさまし かわきをやめ痔(ぢ)を治(ぢ)ス ○金魚(きんぎよ)は藻(も)のうち に生(しやう)ず甘(あまく)平毒(へいどく)なし 久痢(きうり)を治(ぢ)す銀魚(ぎんぎよ) 朱鯉(ひごい)朱鮒(ひぶな)あり ○年魚(あゆ)は煮物(に)て食(しよく) すれば憂(うれい)をやめ胃(ゐ) をあたゝめ冷瀉(れいしや)を止(やむ) ○鮅(うぐひ)は眼(まなこ)あかく鱒(そん)と なづく又一名/赤眼魚(せきがんぎよ) といふ 【右頁下段 挿絵】 黄鱨(わうしやう)《割書:ぎゞ》 金魚(きんぎよ) 《割書: 朱魚(しゆぎよ)同》 鰌(ゆう) 《割書: どぢやう》 年魚(ねんぎよ) 《割書:  あゆ| 銀口魚(ぎんこうぎよ)》  【左頁上段】 ○鱭魚(たちを)は火(ひ)をたす け痰(たん)をうごかし疾(やまひ)を 発(はつ)し瘡(かさ)をはつす 多(おゝ)く食(しよく)すれべからず ○鯃(こち)は能毒(のうどく)いまだつ まびらかならず鯒(こち) とも書(かく)なり ○河㹠(ふぐ)は虚(きよ)をおぎな ひ湿(しつ)をさり腰脚(こしあし) をおさめ痔(ぢ)をさり 虫(むし)をころす此魚(このうを)に 大/毒(どく)あり食(くらふ)べからず ○魥(はまち)は功能(こうのう)いまだつ まぎらかならず 【左頁下段 挿絵】 鮅(ひつ) 《割書:うぐひ》 河㹠(かとん)《割書: |ふぐ》 《割書:鯸䱌(こうい)同》 鱭魚(せいぎよ) 《割書: たちを》 《割書:鮆魚(せいぎよ)|鮤魚(れつぎよ)|鱴魚(へつぎよ)|魛魚(とうぎよ)|  同》 鯃(ご)《割書: |こち》 【右頁上段】 ○小鮦(こんぎり)は鱧(はも)の少(ちいさ)き ものなり功能(こうのう)はも に同し ○鱵(さより)は甘(あまく)平毒(へいどく)なし これを食(しよく)すれば疫(えき) 病(ひやう)をやまず針魚(しんぎよ)同 ○鱒(ます)は胃(ゐ)をあたゝめ 中を和(くは)す ○鰕(えび)は鼈瘕(へつか)を治(ぢ)し 痘瘡(とうそう)につけてよし 陽(やう)をさかんにし乳(ち) を通(つう)ず小児(せうに)食(しよく)す れは足よわくなる 蝦(か)同 【右頁下段 挿絵】 鱵(しん) 《割書: さより》 魥(ぎう) 《割書:はまち》 小鮦(しやうたう)《割書:ごんぎり》 鱒(そん)《割書:ます》 【左頁上段】 ○鰝(うみえび)は鮓(なます)にして食(しよく) すれは虫(むし)くひばを 治(ぢ)し頭(かしら)のかさを治(ぢ) す紅鰕(こうか)龍鰕(りやうか)海(かい) 鰕(か)同 ○河鰕(かか)はかはえび也 俗(ぞく)にてながゑびと云 ○醤蝦(あみ)はゑびのこま かなるものなり苗蝦(べうか) 線蝦(せんか) 泥蝦(でいか)ともいふ ○麪條(しろうを)は中(うち)をゆるく し胃(ゐ)をすこやかにし 水(みづ)を利(り)し欬(せき)をやむ ○蝦姑(しやくなげ)はゑびのたぐ 【左頁下段】 河鰕(かか)《割書:てながゑび》 《割書: かは|  えび》 鰕(か)《割書:えび》 鰝(かう)《割書: |うみえび》 【右頁上段】 ひなり海馬(かいば)といふは この事なり産婦(さんふ)に 手にもたすれば平産(ひらさん) すといへり ○鰤(ぶり)は肝(かん)を利(り)し血(ち) をおぎなふ脾胃(ひゐ)実(じつ) するものはくらふ事なかれ ○鰣(ゑそ)は虚労(きよらう)をおぎな ふ油(あぶら)をとりてやけど にぬりて妙(めう)なり ○鰚魚(はらか)は腹赤(はらか)とも かくなりはらかの魚 を帝(みかど)に献(けん)ぜし事 【右頁下段 挿絵】 醤蝦(しやうか) 《割書: あみ》 麪條(めんでう)《割書: |しろいを》 蝦姑(かこ)《割書:しやくなぎ》 鰤(し)《割書: |ぶり》 【左頁上段】 あり ○矢幹魚(やからいを)ははもに 似(に)て色(いろ)あかし膈症(かくしやう) のどに食(しよく)つまるを治(ぢす) ○青前(さごし)魚は諸病(しよびやう)に いまず馬鮫(さはら)のちい さきものなり ○鯡(にしん)は能毒(のうどく)つまび らかならず猫(ねこ)の病(やまひ)を いやす ○鱓(ごまめ)は鼠頭(いわし)魚の ちいさきものなり能(のう) 毒(どく)いまだつまびらか ならず 【左頁下段 挿絵】 鰚魚(せんぎよ) 《割書:  はらか》 鰣(じ) 《割書:ゑ| そ》 青前(せいせん) 《割書:  さごし》 矢幹魚(しかんぎよ) 《割書: やがら|  いを》 鯡(ひ)《割書: |にしん》 【右頁上段】 ○水母(くらげ)は婦人(ふじん)の虚(きよ) 損(そん)積血(しやくけつ)こしけ小児(せうに) の丹毒(たんどく)又やけとに付(つけ) て妙(め)なり ○烏賊(いか)は気(き)をまし 志(こゝろざし)をつよくし人に 益(えき)あり月経(ぐはつけい)を通(つう)ス ○鱝(えい)は男子(なんし)の白濁(ひやくだく) 膏淋(かうわん)玉茎(ぎよくけい)のいたみを 治(ぢ)す小/毒(どく)あり人に 益(えき)あらす海鷂魚(かいようぎよ)同 ○土肉(なまこ)は元気(げんき)をおぎ なひ五/臓(ざう)をまし三焦(さんせう) の熱(ねつ)をさる鴨(かも)と同じ 【右頁下段 挿絵】 鱓(せん) 《割書:ごまめ》 烏賊(うぞく) 《割書: いか》 水母(すいも) 《割書:くらげ》 《割書:海月(かいげつ)|石鏡(せききやう) 並同》 鱝(ふん) 《割書: えい》 《割書:邵陽(えい)魚 魟魚(えい)|鯆魮(えい)》 【左頁上段】 く食(しよく)すべからず ○海馬(かいば)は血気(けつき)のいたみ を治(ぢ)し水臓(すいざう)をあたゝ め陽道(やうどう)をさかんにし かたまりを消(せう)し疔(てう) はれいたむによし ○海牛(すゞめいを)は功能(こうのう)いまだ つまびらかならず ○章挙(ここ)は血(ち)をやしな ひ気(き)をます冷(れい)なる ものなれば脾胃(ひい)よは きものは食(しよく)すべからず 章魚(しやうぎよ)同/石鮔(せききよ)はあし ながだこ飯蛌(はんくは)いゐだこ 【左頁下段 挿絵】 海牛(かいぎう)《割書: |すゞめいを》 土肉(とにく) 《割書:なまこ》 章挙(しやうきよ) 《割書: たこ》 海馬(かいば) 【右頁上段】 ○鮪(しび)はかしらちいさく してとがりかふとに似(に) たり口(くち)おとがいの下(した)に あり大なるは七八尺ばか りあり ○䱱(さんせういを)は疫病(やくびやう)を治(ぢ)し 瘕(かたまり)を治(ぢ)し虫(むし)をころす 又鯢(げい)とも書(かく) ○魚子(はらゝご)は目(め)のうちかす むによし鱖(さけ)又は鯇(あかめ)に あり ○乾鱖(からざけ)は鱖(さけ)のしらぼし なり能毒(のうどく)鱖(さけ)に同し 目(め)の玉(たま)は煮出(にだ)しによし 【右頁下段 挿絵】 鮪(ゆう) 《割書:しび》 䱱(てい)《割書:さんせう|  いを》 【左頁上段】 かつほにまされり ○鰊鯑(かずのこ)は鯡(にしん)の子(こ)なり 正月又はしうげんに用(もちゆ) ○鯣(するめ)は烏賊(いか)のほし たるなり能毒(のうどく)いかに 同し産後(さんご)によろし ○鱲子(からすみ)は鯔(ぼら)の子(こ) のほしたるなり ○鰭(き)は魚(うを)の背(せなか)をいふ 俗(ぞく)にひれといふ又はた ともいふ鬣同/夏(なつ)は 陽気(やうき)上(かみ)にあるゆへ魚(うを) の美味(びみ)鰭(ひれ)にあり冬(ふゆ)は 陽気(やうき)下(しも)に有ゆへに魚(うを)の 【左頁下段 挿絵】 鱲子(らうし) 《割書:から| すみ》 鰊(とう)《割書:かずのこ》 鯑(き) 乾鱖(かんけつ) 《割書: から|  ざけ》 魚子(ぎよし) 《割書: はら|  らご》 鯣(しやく)《割書: |するめ》 【右頁上段】 美味(びみ)腹(はら)にあり ○鱗(うろこ)は魚龍(ぎよりやう)のうろこ なり鱗(うろこ)あるもの龍(りやう) これが長(ちやう)なり鯉(こい)は大小 ともにせなかに鱗(うろこ)の数(かず) 三十六/鱗(りん)あり ○鰓(さい)は魚(うを)の頬(ほう)の中(なか)の 骨(ほね)なり俗(ぞく)にこれをえ らといふ又おさとも云 ○鰾(へう)は魚(うを)の腹中(ふくちう)に有 ふえといふ魚脬(ぎよはう)なり 膠(にかは)につくりてにべと云 【右頁下段 挿絵】 鰭(き)《割書:はた》 《割書:ひれ》 鱗(りん)《割書:うろ| くず》 《割書:うろこ》 鰓(さい) 《割書: えら| おさ》 鰾(へう) 《割書: ふえ| にべ》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十五    蟲介(ちうかい)《割書:此/部(ぶ)には野草(やさう)にすむもろ〳〵の蟲(むし)|川谷(せんこく)にすむ甲(かう)介ある虫(むし)の類(るい)をしるす》 【左頁上段】 ○亀(かめ)は四/肢(し)ひき つりなへたるにゝて くらふ瀉血(しやけつ)血痢(けつり) をとめ三十/年来(ねんらい) の寒嗽(かんさう)を治(ぢ)す ○鼈(どうがめ)は瘀血(をけつ)を下し 陰(いん)を補(おぎな)ひ婦人(ふじん)の 難産(なんざん)腰痛(こしいたむ)を治(ぢ)ス ○鱟(かぶとかに)は痔瘻(ぢろ)を治(ぢ)ス 虫(むし)をころす多(おゝ)く食(くら) 【左頁下段 挿絵】 龜(き)《割書: |かめ》 鼈(べつ)《割書: すつ|  ほん| |どうがめ》 【右頁上段】 へは咳(せき)および瘡(かさ)を はつす ○䘂(がざめ)は一名を黄甲(わうかう) といふがざめなり ○蟳(しまがに)は一名を蝤蛑(ゆうほう) といふ小児(せうに)のつかへ熱(ねつ) 気(き)によし ○螺(さゞい)は瘰癧(るいれき)結核(けつかく) むねのうち欝気(うつき) してのひざるを治ス 蠃蠡(られい)同 ○田螺(たにし)は小便(せうべん)を利(り) し目(め)の痛(いたみ)を治(ぢ)す ○蟹(かに)は血(ち)をさんじ 【右頁下段 挿絵】 鱟(こう) 《割書:かぶと| かに》 䘂(しん) 《割書:がざめ》 蟳(じん)《割書: | |しま| がに》 【左頁上段】 筋(すじ)をやしなひ気(き) をまし食(しよく)を消(せう)す うるしまけにすり て付てよし螃(はう) 蟹(かい)【蠏】郭索(かくさく)同/石蟹(いしかに) 蟛螖(はうくはつ)《割書:あしはら|  かに》螯(かにのこう) ○毛亀(みのがめ)は陽道(やうどう)をた すけ陰血(いんけつ)をおぎなひ 精気(せいき)をまし痿弱(なへよわき) を治(ぢ)す ○螄(ばい)は目(め)をあきら かにし水(みづ)を下(くだ)し 渇(かつ)をやめ熱(ねつ)をさり 大小/便(べん)を利(り)し酒毒(しゆどく) 【左頁下段 挿絵】 田螺(でんら) 《割書: たに|  し》 蟹(かい) 《割書: かに》 螺(ら)《割書: |さゞへ》 【右頁上段】 を解(げ)す海螄(かいし) 尖 螺 螺螄(らし)はにる ○蛤(はまぐり)は五/臓(ざう)をうるほ し酒(さけ)をさまし胃(ゐ) をひらき婦人(ふじん)の血(けつ) 塊(くはい)によし ○蚶(あかゞひ)は五/臓(ざう)をうる ほし胃(ゐ)をすこやか にし中(うち)を温(あたゝ)め食(しよく) を消(せう)し陽(やう)をおこす ○蜆(しゞみ)は胃(ゐ)をひらき 乳(ち)をつうじ目(め)を あきらかにし小/便(べん) を利(り)し脚気(かつけ)酒毒(しゆどく) 【右頁下段 挿絵】 毛龜(もうき) 《割書: みのがめ》 【左頁上段】 を治(ぢ)す ○蚌(からすがひ)は渇(かつ)をやめ熱(ねつ) をのぞき酒毒(しゆどく)を解(げ) し目(め)をあきらかにし 帯下(こしけ)によし蜯(はう)𧉻(〳〵)【虫+半】同 馬刀(ばたう) ○貝(たからがひ)は汁(しる)をとりあら へば目(め)のいたみを止(やめ)菜(さい) に合(かつ)し煮(に)て食(くらへ)ば心(しん) 痛(つう)を治(ぢ)す海(かい)𧵅(ば)【貝+巴】同 ○蟶(まて)は虚(きよ)をおぎな ひ痢(り)を治(ぢ)し胸中(けうちう) の熱(ねつ)いきれをさる ○蛎(かき)は虚損(きよそん)を治(ぢ)し 【左頁下段 挿絵】 螄(し)《割書:ばひ》 蚶(かん) 《割書: あか|  がひ》 《割書:魁蛤(くわいかう)|瓦壟子(くはらうし)》 螺(ら)  螄(し)《割書: |みな》 蛤(がう)《割書: |はま| ぐり》 蜆(けん) 《割書: しゞ|  み| 扁螺(へんら)》 【右頁上段】 中(うち)をとゝのへ生(しやう)にて くらへは酒後(じゆご)の熱(ねつ)を さます ○鰒(あわび)は精(せい)をまし身(み) を軽(かる)くし五/淋(りん)をつう し目(め)を明(あき)らかにし 風熱(ふうねつ)労極(らうごく)によし ○車渠(ほたてがひ)は神(しん)をやすんし 緒(もろ〳〵)の藥毒(やくどく)を解(げ)す 能毒(のふどく)あかゞひと同 ○淡菜(みるくひ)は虚労(きよらう)精(せい)す くなく腰痛(こしいたみ)疝気(せんき)帯(こし) 下(け)によし久(ひさし)く食(しよく)すれ は人の髪(かみ)ぬくる 【右頁下段】 蚌(はう) 《割書:からす| がひ》 貝(ばい) 《割書:たから|がひ》 蟶(てい)《割書:まて》 蠣(れい)《割書:かき》 《割書:肉(にく)を|蛎黄(れいわう)| といふ》 鰒(はく)《割書:あわび》《割書:石決明(せきけつめい)|九孔螺(きうこうら)》 【左頁上段】  ○辛螺(にし)は飛尸遊(ひしゆう) 虫(ちう)に生(しやう)にて食(くら)ふ べし ○梭尾螺(ほらのかい)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ考(かんがへ) 法螺貝(ほらのかい)ともかく ○玉珧(たいらぎ)は巧用(こうよう)蚌(からすかい) に同じ多(おゝ)く食(しよく) すれば風(かぜ)をうごか す𧍧(たい)【虫+咸】䗯(らぎ)ともかく也 ○帽貝(ゑぼしかひ)はかたち帽(もう) 子(す)に似(に)たり能毒(のふどく)は いまだつまびらかな らず ○海燕(たこのまくら)は雨湿(うしつ)にあ 【左頁下段 挿絵】 車渠(しやぎよ) 《割書: ほたて|   がひ》 淡菜(たんさい)《割書:一名/穀菜(こくさい)》 《割書: みるくひ》 辛螺(しんら) 《割書:  にし》 《割書:   香螺(かうら)|    ながにし》 梭(さ)《割書:ほらの| かひ》 玉珧(ぎよくたう) 《割書:  たいらぎ》 《割書:海月(かいげつ)|馬頬(ばけう)》 《割書:江跳(こうてう)|並同》 【右頁上段】 てられ身(み)いたむに 汁(しる)に煮(に)てくらふべ し一名/陽遂足(やうすいそく)に 海盤(かいはん)ともいふ ○寄蟲(がうな)は顔色(がんしよく)を まし心志(しんし)をうるは しうす ○海膽(うに)は能毒(のふどく)いま だつまびらかならず ○郎君(すがい)は婦人(ふじん)の なんざんに手(て)にもた すれはうまる酢(す)の 中(なか)へ入れはうごくなり 【右頁下段 挿絵】 帽貝(はうかい) 《割書:ゑぼ| し| がひ》 海燕(かいゑん)《割書:たこの|  まくら》 寄蟲(きちう) 《割書: かうな》 郎君(らうくん)《割書:す| がひ》 《割書:  相(さう)|  思(し)|  子(し)|   同》 海膽(かいたん)《割書: かぶと|   がひ》 【左頁上段】 ○蛍(ほたる)は腐草(ふさう)又は 爛竹(らんちく)の根化(ねくわ)して ほたるとなる夏(なつ)の 大/火気(くはき)を得(え)て化(くは) すよつて光(ひか)り有 ○蛬(きり〳〵す)は蟋蜶(しつすつ)【「蜶」は「蟀(しゆつ)」ヵ】とも 蜻蛚(せいれつ)ともいふ夏の 蝗(いなご)に似(に)て大(おゝい)なり《割書:補》夏(なつ)の 末(すへ)にいづる ○螻(けう)【けらヵ】は土中(どちう)の泥(どろ)に すむ土(つち)をくらふ也 一名/土狗(どく)又/石鼠(せきそ) ともいふ ○蟷螂(かまきり)はいほむじ 【左頁下段 挿絵】 蛍(けい)《割書:ほたる》《割書:丹鳥(たんてう) 蠗々(よう〳〵)【熠燿ヵ】同 蛆螢(そけい)《割書:みづ| ぼたる》》 螻(ろう)《割書:けら》 蛬(きやう)《割書:きり〳〵す》 り仲夏(ちうか)に生ずいか るときは臂(ひぢ)をかゝく ○絡線(こうろぎ)はきり〴〵 すともいふ一名/聒(くはつ) 々児(〳〵じ)いとゞといふも 此たくひなり ○螇蚸(けいれき)は一名/蟿(けい) 螽(とう)といふはた〳〵 むし俗(ぞく)にしやう りやうむし ○竈馬(まるいとゞ)は一名/竈(そう) 雞(けい)といふかたち丸(まる)く 脚(あし)長(なが)し竈(かまど)のほ とりにすむ 【右頁下段 挿絵】 絡線(らくせん)《割書:こう| ろぎ》 蟷螂(たうらう)【蜋】 《割書: かま|  きり》 螇蚸(けいれき) 《割書:しやうりやう|    むし》 竈馬(そうば)《割書: |まるいとゞ》 【左頁上段】 ○蜻蛉(とんぼう)は六/足(そく)四の つばさ夏(なつ)生(しやう)ずと んでむしをとり 喰(くら)ふ《割書:補》大(おゝい)なるをやん まといふ ○赤卒(あかゑんば)はとんぼう の色(いろ)赤(あか)きものなり 俗にあかやんまと云 黒(くろ)やきにして喉痺(こうひ) を治(ぢ)す ○䘀螽(いなご)は稲(いね)に生(しやう) す𧑄(しう)【虫+衆】同 ○/𧐍(はた)【虫+舂】𧑓(〳〵)【虫+黍】は一名/螽(しう) 斯(し)いなごに似(に)たり 【左頁下段 挿絵】 蜻蛉(せいれい)《割書:とんぼう》 赤卒(せきそつ)《割書:あかゑんば 絳騶(かうすう)同》 䘀螽(ふしう)《割書:いなご》 𧐍𧑓(しようしよ)《割書:はた〳〵》 【右頁上段】 ○蝶(てふ)は蚕(かいこ)【蠺】化(くわ)して なる又/麦化(むぎくは)して蝶(てふ) となる鳳蝶(ほうてふ)はあげ は胡蝶(こてふ)蛺蝶(けうてふ)野(や) 蛾(が)同 ○蝿(はへ)は前足(まへあし)にて縄(なわ) をなふかたちをなす よつて虫へんに黽(なわ)の 字(じ)をかく爛灰(らんくはい)の内(うち) より生ず ○金亀(たまむし)は大さ刀豆(なたまめ) のごとし夏/蔓草(まんさう) の中(うち)に生ず ○燈蛾(ひとりむし)は燈(ともしび)をはら 【右頁下段 挿絵】 蝶(てふ)《割書:あげは》 燈蛾(とうが)《割書:ひとり| むし》 蝿(よう)《割書:はへ》 金龜(きんき) 《割書: たま|  むし》 【左頁上段】 ふを飛蛾(ひが)とも燭蛾(しよくが) ともいふひとりむし ○馬蜂(くまばち)は虻(あぶ)の大(おゝい)なる ものなり色くろし ○叩頭(ぬかつきむし)ははたをり むしとも《割書:補》いもつき虫 ともいふ ○/𧉟(まつむし)【虫+台】は《割書:補》七月の末(すへ)よ り生(しやう)す声(こへ)松風(まつがせ)の 音(をと)のごとし広野(くはうや)に 生ず ○金鐘(すゞむし)は一名/金鏡(きんけい) 児(じ)とも月鈴児(げつれいじ)とも いふなり 【左頁下段 挿絵】 馬蜂(ばほう) 《割書: くま|  ばち》 叩頭(こうとう) 《割書: ぬかつき|  むし》 金鐘(きんしやう)《割書:すゞむし》 𧉟(たい)【虫+台】 《割書:まつ| むし》 【右頁上段】 ○鑾虫(くつはむし)はなく声(こへ)く つはの音(をと)に似(に)たりよつ て名づく ○斑蝥(はんはう)は人に大毒(だいどく) なり斑猫(はんめう)とも書(かく) ○紺蠜(かねつけとんばう)は水上(すいじやう)に飛(とん)で 虫(むし)をとる紺蝶(かんてふ)同 ○齧髪(かみきりむし)は一名/天牛(てんぎう) ともいふよく髪(かみ)をく ひきる目(め)の前(まへ)に二 角(かく)あり ○蓑虫(みのむし)は一名/木螺(もくら) 結草(けつさう)といふ ○蜂(はち)は腐(くさる)菌(くさひら)化(くは)し てなる毒(どく)尾(を)にあり 【右頁下段 挿絵】 斑蝥(はんはう) 《割書: はんめう》 鑾蟲(らんちう) 《割書: くつはむし》 齧髪(けつはつ) 《割書:かみきり|    むし》 紺蠜(かんはん)《割書:かねつけ| とんばう》 蓑虫(さちう)《割書:みの| むし》 【左頁上段】 鋒(ほこ)のごとしよつて蜂(ほう) といふなり ○蠧(のんし)はかいこにゝて木(もく) 中(ちうに)有て木(き)又/葉(は)を くらふ木(き)をくらふを蝎(けつ) といふ葉(は)をくらふを 蠋(しよく)といふ ○蟢(あしたかぐも)はあしながきく もなり蟰蛸(せう〳〵)同 ○蝉(せみ)は地虫(ぢむし)化(くは)して なる口なふして鳴(なき)の んで食(くら)はず ○蝸(かたつふり)は池沢(ちたく)草樹(さうじゆ)の 間(あいだ)に生(しやう)ずかたち螺(にし) 【左頁下段 挿絵】 蜂(ぼう)《割書: |はち》 蟢(き)《割書:あし| たか| ぐ|  も》  《割書:ぢよらう|   ぐも》 蠧(と)《割書: |のん| し》 蝉(せん)《割書:せみ》 蝸(くわ) 《割書:かた| つふり》 《割書:蝸蠃(くわら)同》  《割書:でん〴〵|  むし》 【右頁上段】 に似(に)て色(いろ)白(しろ)く角(つの)有 ○虻(あぶ)は大(おゝい)なるを木(もく) 虻(ばう)といふつばさを 以てなく声(こへ)虻々(ばう〳〵)と いふよつてなづく ○蛾(か)は蚕(かいこ)【蠺】化(くは)して蛾(が) となる燈蛾(とうが)の類(たぐひ)也 ○蠮螉(えつをう)はさそり又 蜾蠃(くはら)とも細腰蜂(さいようほう)と も蒲蘆(ほろ)【芦】ともいふ俗(ぞく) にいふ似我蜂(じがばち) ○気蠜(へふりむし)は一名/行夜(かうや) つばさ短(みじかく)して遠(とを)く 飛(とば)ず 【右頁下段 挿絵】 虻(ばう)《割書:あぶ》 蛾(か)《割書:ひゝり【ひゝるヵ】》 気蠜(きはん) 《割書: へふり|  むし》 蠮螉(ゑつをう)《割書:さゝ| り》 【左頁上段】 ○蚋(ぶと)は田野(でんや)に生(しやう)じ 雨(あめ)の前後(ぜんご)に飛(とん)で人 の肌(はだへ)をさす其あと 愈(いへ)がたし ○蚊(か)は孑々虫(ぼうふりむし)化(くは)して なる豹脚(へうきやく)はやぶが也 ○孑孑(ぼうふりむし)はたまり水 くさりて生(しやう)ず化(くは)し て蚊(か)となる一名/釘(てい) 倒虫(たうちう) ○蛙(かはづ)は惣名(さうみやう)なりね ずみ色(いろ)にして背(せ)に小 紋(もん)がた有をかはづと云 なく声(こへ)美(び)なり水(すい) 【左頁下段 挿絵】 蚋(せい) 《割書:ぶと》 蚊(ぶん)《割書:か》 孑孑(けつ〳〵)《割書:ぼう| ふり|  むし》 蝌蚪(くわと) 《割書: かへるこ》 蛙(あ) 《割書: かはづ》 《割書:田雞(でんけい)|水雞(すいけい)|  同》  《割書:青蛙(せいわ)| あま|  かへる》 蛭(しつ)《割書:ひる》 《割書:てつ》 【右頁上段】 中(ちう)に住(すむ)又/色(いろ)青(あを)きを あまがへるといふ色(いろ)赤(あか) きを赤(あか)がへるといふ 是(これ)を小児(せうに)に食(しよく)せし めてよし ○蝌蚪(かへるこ)は蟇(ひきがへる)の子(こ)也 水中(すいちう)に生(しやう)ず蛞斗(かつと) 活東(くわと)並同 ○蛭(ひる)は大なるを馬(むま) 蛭(ひる)といふよく人の血(ち) をすふ ○蠼螋(はさみむし)はかたちむか でに似(に)て色(いろ)黒(くろ)し 人の影(かげ)にいばりすれ 【右頁下段 挿絵】 蠼螋(くしう) 《割書: はさみ|  むし| 蛷螋(きうしう)| 捜夾(しうけう)《割書:同》》 蟾蜍(せんじよ) 《割書: ひき|  がへる》 蜈蚣(ごこう) 《割書: むかで》 百足(はくそく) 《割書:をさ| むし》 蚰蜒(いうゑん)《割書: |げじ|  〴〵》 《割書:螾(いん)𧍢(えん)【衍+虫】同》 蝦蟇(がま)《割書: |かへる》 【左頁上段】 ば人かさを発(はつ)す ○蜈蚣(むかて)はせなか黒(くろ)く みどり色(いろ)足(あし)あかく 腹(はら)黄(き)なりさゝれたる 人は烏鶏(くろきにはとり)の尿(くそ)又は 大蒜(おゝびる)をぬるべし ○蟾蜍(ひきがへる)は腹(はら)白(しろ)く黒(くろ) き紋(もん)ありせなかにが んぎあり油(あふら)を蟾(せん) 酥(そ)といふ藥(くすり)に用(もち)ゆ ○蝦蟇(がま)はせなかに黒(こく) 点(てん)あり身(み)にして よくおどる化(くは)して 鶉(うづら)となる 【左頁下段 挿絵】 蠓(もう) 《割書:ぼう| |しやう| 〴〵》 蚘(くわい)《割書: |はらの| むし》 蚯蚓(きういん)《割書:みゝ| ず》 蛆(そ)《割書:うじ》 糞蛆(ふんそ) 《割書: くそ| むし》 蠐螬(せいさう)《割書:きり| うじ》 蟫(いん)《割書:しみ》 蚤(さう)《割書:のみ》 虱(しつ)【蝨】 《割書:しら| み》 蛜(い) 蝛(い) 《割書:おめむし》 蟻(ぎ)《割書:あり》 【右頁上段】 ○蚰蜒(けぢ〴〵)はむかでにゝ て足長(あしなが)し毒(とく)あり 人の耳(みゝ)に入(いり)たるに 龍脳(りうのう)をふき入べし ○百足(おさむし)は長(なが)さ七八分 色(いろ)黒(くろ)し足(あし)百にいたる 一名/馬蚿(ばけん) ○蠓(しやう〴〵)は雨(あめ)によつて 生(しやう)じ陽(ひ)をみて死(しす) ■(うすひく)【「虫+豊」。『頭書増補訓蒙図彙』では「磑」】がごとき時は風(かぜ)吹(ふく) 舂(うすつく)【㫪】がごときときは 雨(あめ)ふる ○蚘(はらのむし)は人の腹中(ふくちう)に有 ながき虫(むし)なり蛔(くはい)同 【右頁下段 挿絵】 蠶(さん)《割書:かひこ》 蛣蜣(きつきやう) 《割書:くそ|む| し》 蜘蛛(ちちう) 《割書: くも》 土蠱(どこ) 木(もく) 虱(しつ)《割書: |たにこ》 水蚤(すいさう) 《割書:とびむし》 【左頁上段】 脾胃(ひゐ)の湿熱(しつねつ)より 生ず ○蛆(うじ)は腐肉(ふにく)のあいだ に生ず魚類(ぎよるい)畜類(ちくるい)の 肉(にく)のうちに生す鮓(すし) の中(なか)にもわく蠁(きやう)同 ○蠐螬(きりうじ)はかたち蚕(かいこ)の ごとし樹根(じゆこん)又は糞(ふん) 土(ど)の中に生(しやう)ず身(み)みし かく色(いろ)白(しろ)し蠀螬(しそう) 同《割書:補》又/小(ちいさ)く黒(くろ)きあり ○蚯蚓(みゝず)は雨(あめ)ふれば出 はるゝときは夜(よる)なく ○蛜蝛(おめむし)は一名/𧑓(しよ)【虫+黍】蝜(ふ) 【左頁下段 挿絵】 水馬(すいは) 《割書:しほう|  り》 蠑螈(ゑいげん)《割書:いもり》 滑蟲(くわつちう)《割書:あぶら| むし》 蜥蜴(せきてき) 《割書:とかけ》 蝘蜓(ゑんてん)《割書:やもり》 【右頁上段】 虫といふ又は鼠婦 ともいふ ○蟫(しみ)は書中(しよちう)の白魚(しみ) なり一名/蛃(へい)と云/俗(そく) に蠧魚(とぎよ)といふ ○蚤(のみ)は床下(ゆかのした)土中(どちう)ゟ 生ず ○蝨は人の《割書:補》身(み)にわく 髪(かみ)にもわく又/毛(け)にも 有かたちかはれり ○蟻(あり)は大なるを蚍蜉(ひふ) といふ小(ちいさき)を蟻(ぎ)といふあ りに君臣(くんしん)の義(ぎ)あり 故(ゆへ)に義(ぎ)の字(じ)をかく 【右頁下段 挿絵】 殻(かく) 《割書:こく|  から》 甲(かう) 《割書:こ| う》 介(かい) 蛻(たい)《割書:もぬけ》 蝉蛻(せんたい) 《割書: うつせみ》 繭(けん)《割書: |まゆ》 【左頁上段】 ○蜘蛛(くも)はぢよらうぐも を花蜘蛛(くはちちう)といふ足(あし)たか くもを蟢子(きし)といふむか しの大昊(たいかう)くもをみて あみをむすび出せり ○蚕(かいこ)は糸(いと)を吐(はく)虫(むし)なり 三たび俯(ふ)し三たび 起(をき)二十七日にして老(おふ) 黄帝(くはうてい)の元妃(けんひ)西陵(せいりやう) 氏(し)始(はじ)て蚕(かいこ)をやし なふて糸(いと)を作(つくる) ○蛣蜣(くそむし)はよく糞土(ふんど) をうつて円(ゑん)をなす 糞虫(ふんちう)同 【左頁下段 挿絵】 蛅蟖(せんし)《割書:いら| むし》 豉蟲(しちう) 《割書: まひ〳〵|  むし》 蚇蠖(しやくくわく)《割書:しやく| とり》 蛞(くわつ) 蝓(ゆ) 《割書:な|め|く|ぢ》 螲蟷(ちつたう) 《割書:  つち|  く|   も》 【右頁上段】 ○土蠱(どこ)は《割書:補》蛭(ひる)に似(に)て色(いろ) 黄(き)なり頭(かしら)耳(みゝ)かきの ごとし俗(ぞく)にみゝかき蛭(びる) といふ此(この)虫(むし)大毒(たいどく)あり ○木虱(たに)は木竹(きたけ)より生 ず𧈲(しらみ)【「卂+虫」、蝨ヵ】に似(に)てまるく 青(あを)く灰色(はいいろ)なり壁(へき) 𧈲(しつ)【「卂+虫」、蝨ヵ】同/俗(ぞく)にいふたにこ ○水蚤(とびむし)は一名/水蝨(すいしつ)と いふ湿地(しつち)の土中(どちう)に生(しやう) すよくとぶ目肬(めいぼ)に つけてよし ○水馬(しほうり)は一名/水黽(すいよう)と いふ水上(すいじやう)におよぐ水(みず) 【右頁下段】 壁銭(へきせん)《割書:ひらた| くも》 虎(ようこ) 《割書: はへとり|   ぐも》 螵蛸(へうせう) 《割書: おほぢが|  ふぐり》 雀甕(じやくよう) 《割書: すゞめの|    たご》 【左頁上段】 かるればとふ長さ一寸ば かり四/足(そく)あり ○蠑螈(いもり)は水中(すいちう)に住(すむ) せなか黒(くろ)く《割書:補》腹(はら)赤(あか)く 四/足(そく)あり ○蝘蜓(やもり)は一名/守(しゆ)官(きう)【宮ヵ】 といふ此/虫(むし)を殺(ころし)て宮(きう) 女(ぢよ)の臂(ひぢ)にぬるに男(をとこ) を犯(おかす)ことあればはぐる おかさゞればはげずよつ て守宮(しゆきう)といふ壁虎(へきこ) 蝎虎(けつこ)並同 ○蜥蜴(とかけ)は《割書:補》土中(どちう)にすむ 毒(どく)あり石龍子(せきりやうし)山龍(さんりやう) 【左頁下段 挿絵】 蟒(まう)《割書:やまかゝち》 《割書:うは| ばみ》 子(し)ならびに同 ○滑虫(あふらむし)は一名/蜚蠊(ひれん) といふかまどの辺(へん)に多(おほ) し《割書:補》羽(はね)有てとぶ色(いろ)黒(くろ)し ○殻(から)は蚌螺(ほうら)の類(たぐひ)のから の惣名(さうみやう)也/蛤(はまぐり)のからを玄(けん) 明粉(みやうふん)といふ痰(たん)を治(ぢ)すは いのふたを甲香(かうかう)といふ又 厴(えん)とも書(かく)たき物に入 鰒(あわび)の貝(かい)のからを石決明(せきけつめい)と云 目(め)の痛(いたみ)を治(ぢ)しはなぢをとむ 又かき貝(がい)のからを牡蠣(ぼれい)と なづくよく盜汗(ぬあせ)をとむる ○蛻(もぬけ)は蛇蛻(じやたい)はへびのきぬ 【右頁下段】 烏(う) 蛇(じや) 《割書:からす|  へみ》 両頭(りやうとう) 蛇(じや)《割書:くちなは》 銀蛇(ぎんしや) 《割書:しろ| へみ》 蝮(ふく) 《割書: まむ|  し》 岐首(きしゆ) 【左頁上段】 なり蛇皮(じやひ)共/蛇退(しやたい)とも云 黒焼(くろやき)にして酒(さけ)にて用(もち)ゆ れは難産(なんざん)によし 蝉蛻(せんたい)は蝉退(せんたい)とも枯蝉(こせん) 共いふ粉(こ)にして油(あぶら)にて とき耳(みゝ)だれに付れは治(ぢ)す ○甲(かう)は亀(かめ)の甲(かう)なりむ かしは亀(かめ)をやいて甲(かう)の 紋(もん)を見て吉凶(きつけう)をうら なふ事有/是(これ)を亀(き) 卜(ぼく)といふ又/薬(くすり)に用(もち)ゆ れは腎(じん)を補(おきな)ひ瘀血(をけつ) を消(せう)す又/鼈(べつ)【鱉】甲(かう)は瘀(を) 血(けつ)を散(さん)じ腫(はれ)を消(せう)す 【左頁下段 挿絵】 𧋪(べい)【虫+芋】虫(ちう) 《割書:こめ| む|  し》 吉丁虫(きつていちう) 《割書: かぶと|  む|  し》 蛅蟖(せんし) 《割書: けむし》 蠛蠓(べつもう) 《割書: かつほ|  むし》 螱(い) 《割書: は|  あり》 芋蠋(うしよく) 《割書: いも|  むし》 介(かい)は蟹(かに)の甲(かう)なり○繭(まゆ)はかいこをかひて眉(まゆ)をつくらせ綿(わた)をとる蟓(しやう)はくはまゆ○蛅蟖(いらむし)は一名/黒髯虫(こくせんちう)といふ 木上に生(しやう)ず人をさせばはれいたむ○蚇蠖(しやくとりむし)は樹上(じゆじやう)に生ず行(ゆく)こと指(ゆび)にて尺(しやく)をとるがごとし○豉虫(まひ〳〵むし)は一名/豉母虫(しぼちう)と いふ水中(すいちう)に生ず色(いろ)黒(くろ)く小し○蛞蝓(なめくじり)は二/角(かく)あり蝸牛(くわきう)に似(に)たり一名/土蝸(どくわ)といふ○螲蟷(つちぐも)は土窟(とくつ)の中(うち)に すむ一名/蛈蜴(てつたう)といふ古(ふる)きいわやに有○壁銭(ひらたぐも)は壁戸(かべと)などの間(あいだ)に有一名/壁鏡(へききやう)といふ窠(す)を壁繭(へきけん)といふ ○蝿虎(はいとりぐも)は一名/蝿豹(ようへう)といふ蝿蝗(ようくはう)蝿豹(ようへう)並同○雀甕(すゞめのたご)は一名/蛅蟖房(せんしばう)といふいらむしの窠(す)なり螵蛸(おほぢがふぐり)は 木(き)の枝(えだ)にあり一名/蟷螂房(とうらうばう)といふかまきりのすなり○蟒(うはばみ)は蛇(へび)の大(おゝい)なるものなり深山(しんざん)広野(くはうや)にすむ人を のむなり○蛇(くちなは)は草中(さうちう)にすみて蛙(かいる)を食(しよく)す蛇(じや)は惣名(さうみやう)なり○蝮(まむし)は蛇(へび)に似(に)て長(たけ)みじかく黒黄色(くろきいろ)なり おとがひ黄(き)にかしら大に口とがり毒(どく)はなはたしくよく人をさす又ははみとも反鼻蛇(はんひじや)ともいふ○烏蛇(からすへび)は 身(み)黒(くろ)くひかりあり頭(かしら)まるく眼(まなこ)あかし又/烏梢蛇(うせうじや)とも黒花蛇(こくくはじや)ともいふ○銀蛇(しろへび)は長さ一尺ばかり一名は 錫蛇(しやくじや)又/金蛇(こがねへび)といふ○両頭蛇(りやうとうじや)は一/頭(とう)は口目(くちめ)なし是(これ)をみれば不吉(ふきつ)なり一名/越王蛇(えつわうじや)といふ○岐首蛇(きしゆじや)は首(かしら) ふた岐(また)ある蛇(へび)なり枳首蛇(きしゆじや)とも書(かく)ことに毒(どく)あり触(ふる)べからず○螱(はあり)は飛(とぶ)蟻(あり)なり朽木(くちき)より生ず ○吉丁虫(かぶとむし)はせなかみどりにかぶとのごとし此(この)虫(むし)をとりて身(み)におぶれは人を愛(あい)し媚(こば)しむ○芋蠋(いもむし) 芋(いも)の葉に生(しやう)ず○蛅蟖(けむし)は木(き)の葉(は)より生じて枝(ゑだ)を食(くひ)枯(から)す○/𧋪(よね)【虫+芋】虫(むし)は米(こめ)の中(うち)に生ず俗(ぞく)にいふ こくうぞう○蠛蠓(べつもう)はかつほむし順(したがふ)の和名抄(わみやうしやう)に見へたり 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十六   米穀(べいこく) 《割書:此部(このぶ)には五/穀(こく)の類(るい)すべて|くひ物のたぐひを記(しる)す》 【上段】 ○粳(うるしね)は気(き)をまし胃(い)の気(き)を和(くは)し 中(うち)を補(おぎな)ひ腎精(じんせい)をまし腸胃(ちやうゐ)をます ○糯(もちごめ)は中(うち)をあたゝめ気(き)をまし脾(ひ) 胃(い)をあたゝめ小/便(べん)をしゞめ虚(きよ) 寒(かん)洩痢(せつり)をとむ ○粟(あわ)は腎気(じんき)をやしなひ脾(ひ) 胃(ゐ)の熱(ねつ)をさり小/便(べん)を利(り)し 反胃(ほんい)を治(ぢ)す ○稷(きび)は気(き)をまし不足(ふそく)を補(おぎな)ひ 熱(ねつ)をのぞき中(うち)を安(やす)くし胃(い)を利(り) し血(ち)をすゞしうし暑(しよ)を解(げ)す ○稲(たう)【左ルビ「いね」】は禾(くは)同 かりいね 【下段 挿絵】 早稲(わせ) 晩稲(をくて) 粳(かう) 《割書:うる| しね|糲米(くろごめ)|精米(しらげ)》 糯(だ)《割書:稬(だ)【糯】米(べい)同|もちの| よね》 【右頁上段】 ○穧(せい)はいなば苗(べう)はなへ又 苗代(なはしろ)ともいふ ○稗(ひえ)は中をおぎなひ気(き) をまし腸胃(ちやうゐ)をあつくし 飢(うへ)をすくふ ○麦(むぎ)は虚(きよ)をおぎなひ血(けつ) 脈(みやく)をさかんにし五ぞうを 実(じつ)し顔色(かんしよく)を益(ます) ○蕎(そば)は腸胃(ちやうゐ)を実(じつ)し気(き) をくだし積滞(しやくたい)を和(くは)し 熱腫(ねつしゆ)風痛(ふうつう)を消(しやう)す ○菉(ぶんどう)は食(しよく)を消(せう)し気き をくだし熱(ねつ)をさり毒(どく)を解(げ) し小べんを利(り)し脹満(てうまん) 泄痢(せつり)をつかさどる 【右頁下段 挿絵】 粟(ぞく)《割書: |あわ》 《割書:■米(もちあわ)【「禾+木」、「柇」ヵ「秫」ヵ、秫米(もちあわ)】|梁米(うるあわ)》 稷(しよく) 《割書: きび|丹黍(あかきび)|秬黍(くろきび)》 稗(はい)《割書:ひえ|稊(てい) 䄺(い)同》 【左頁上段】  ○麻(あさ)は女人(によにん)経候(けいこう)通(つう)せず けんぼう金瘡(きんそう)内痔(ないぢ)を 治(ぢ)し悪血(あくけつ)をさる ○豇(さゝげ)は気(き)をまし腎(じん)をお ぎなひ胃(ゐ)をすみやかにし 五ざうを和(くは)し小便(しやうべん)しげ きをとむ ○豌(えんどう)は小/便(べん)を利(り)し腫満(ちやうまん) をつかさどり消渇(せうかつ)を治(ぢ)し 吐逆(ときやく)を治(ぢ)す胡豆(こづ)𧰆(ひつ)【豆+畢】豆(づ)な らびに同 ○菽(まめ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し悪血(あくけつ)を さんじ脾胃(ひゐ)をすこやかに し酒病(しゆびやう)を解(げ)し胃中(ゐちう)の 熱(ねつ)をさる 【左頁下段 挿絵】 菉(りよく)《割書:やへなり|ぶんどう》 蕎(きやう)《割書:荍麦(けうばく)同》 《割書: そば》 麥(ばく)《割書:むぎ》 《割書:稞麦(くはばく)|むぎやす》 ○荅(あづき)は水(すい)と気(き)を下(くだ)し濃(うみ)【膿ヵ】 血(ち)をはらい小便(しやうべん)を利(り)し脹(ちやう) 満(まん)消渇(せうかつ)を治(ぢ)す ○藊(あぢまめ)は中(うち)を和(くは)し気(き)を くだし呕(ゑづき)をやめ五ざうを おぎなひくはくらん酒毒(しゆどく) を解(げ)す扁豆(へんづ)籬豆(りづ)眉豆(びづ) ならびに同 ○胡麻(ごま)は気力(きりよく)をまし肌(き) 肉(にく)を長(ちやう)じ筋(すぢ)骨(ほね)をかたく し大小腸(ちやう)を利(り)し耳(みゝ)目(め) をあきらかにす ○嬰粟(けし)は風毒(ふうどく)をさり邪(じや) 熱(ねつ)をおい痰(たん)を治(ぢ)し反胃(ほんゐ)を 治(ぢ)しかはきをうるほす 【右頁下段 挿絵】 麻(ま)《割書:あさ》 豇(かう)《割書:さゝげ》 《割書:白角豆(しろさゝげ)|紫豇豆(あかさゝげ)》 豌(ゑん)《割書:のらまめ|えんだう》 【左頁上段】 ○蠶豆(そらまめ)は胃(ゐ)をこゝろよくし 臓腑(ざうふ)を和(くは)す一に胡豆(こづ)と なづく ○玉黍(なんばんきび)は気(き)をまし中(うち)を和(くは) し洩(くだり)をとめくはくらんくだり 腹(はら)をとめ小べんを利(り)す ○蜀黍(たうきび)は中(うち)をあたゝめ腸(ちやう) 胃(ゐ)をしぶらしくはくらんを 治(ぢ)す蘆穄(ろさい)萩穄(しうさい)同 ○刀豆(なたまめ)は中(うち)をあたゝめ気(き)を くだし腸(ちやう)胃(ゐ)を利(り)ししや くりをとめ腎(じん)をまし元(げん) をおぎなふ ○黎豆(はつしやうまめ)は中(うち)をとゝのへ胃(ゐ)を まし小/便(べん)をつうず貍豆(りづ) 【左頁下段 挿絵】 菽(しゆく)《割書: まめ》 荅(たう)《割書:あづき》 藊(へん) 《割書: あぢまめ| いんげん|   まめ》 【右頁上段】 虎豆(こづ)ならびに同 ○燕麦(からすむぎ)はあまく平(へい)どく なし飢(うへ)をすくひ腸(ちやう)をな めらかにす一名/雀麦(じやくばく)といふ  ○穂(ほ)はいねのほなり芒(はう)【𦬆】は のぎ秕(ひ)はしひなせ今(いま)按(あん)ず るにみよさ ○藁(かう)はわらなり禾稈(くははい)禾(くは) 穣(じやう)稲草(たうさう)ならびに同/稈(はい) 心(しん)わらしべ稭(かい)䕸(かつ)秸(かつ)並同 ○穀(こく)もみ禾(あわ)麻(あさ)粟(こめ)麦(むぎ)豆(まめ) これを五/穀(こく)といふ種(しゆ)は たね稃(ふ)はすりぬか ○萁(き)はまめがらなり𧯯(き)【豆+其】同 魏(ぎ)の曹稙(そうちよく)詩(し)につくれり 【右頁下段 挿絵】 胡麻(ごま)《割書:油麻(ゆま) 脂麻(しま)|芝麻(しま)》 罌粟(あうぞく)《割書:けし》 蠶豆(さんづ)《割書:そら| まめ》 【左頁上段】 ○莢(けう)はまめのさやなり 豆角(づかく)なり藿(くはく)はまめのは なり馬(むま)これをくらふ ○饅頭(まんぢう)はもとは肉餡(にくあん)をも ちひし事なり小豆餡(あづきあん) のものを素饅(そまん)といふ餡(あん) なきものを蒸餅(せうべい)といふ 今(いま)は新製(しんせい)品々(しな〳〵)あり唐(とう) 饅頭(まんぢう)あるひは煎餅(せんべい)饅(まん) 頭(ぢう)などいふものあり ○飯(はん)はいひなり又めし 強飯(こうはん)はこはいひ赤飯(せきはん)はあづ きめし乾飯(かんはん)はほしいひ水(すい) 飯(はん)は湯(ゆ)づけめし《割書:補》麦飯(ばくはん)は むぎめし粟飯(ぞくはん)はあわのめし 【左頁下段 挿絵】 燕麥(えんばく)《割書:からす|  むぎ》 玉黍(ぎよくしよ)《割書:なんばん|   きび》 蜀黍(しよくしよ)《割書:とう| き|  び》 刀豆(たうづ) 《割書:なた| まめ 刀鞘豆(たうさうづ) 挟劔豆(けうけんつ) 同》 【右頁上段】 ○餅(べい)はもち麺餅(めんべい)なり 糕(こう)は粉餅(ふんべい)なり団子(だんご)なり 飯団(はんだん)はほたもち《割書:補》粟餅(ぞくへい)は あわもち艾餅(かいへい)はよもぎもち ○糖(たう)はあめなり飴(い)同/湿(しつ)【濕】糖(たう) はしるあめ錫(せい)はかたあめ也 ともに老人(らうじん)をやしなふ 一種(いつしゆ)地黄煎(ぢわうせん)と名づくる 《割書:補》もの有/当時(たうじ)夏月(かげつ)に専(もつはら) 小児(せうに)に用(もち)ゆ ○糉(そう)はちまきなり粽(そう)同一に 角黍(かくしよ)といふ楚(そ)の屈原(くつげん)よ りはじまりし事といふ也 古(いにしへ)は葦(あし)の葉(は)にてつゝみ五/色(しき) 《割書:補》の糸(いと)にて巻(まき)しとぞ今(いま)用(もち) 【右頁下段 挿絵】 黎豆(れいづ) 《割書: 八升|  まめ》 萁(き) 《割書: まめがら》 穂(けい)《割書:ほ》 藁(かう) 《割書: わら》 莢(けう) 《割書: まめの|   さや》 穀(こく) 《割書:もみ》 【左頁上段】 ゆる笹(さゝ)の葉(は)は腹中(ふくちう)によ ろしからずといふ能々(よく〳〵)あく けを出しよくゆてゝつかふ べし ○索麺(さくめん)はむぎなわといふ 一名/索餅(さくへい)といふ《割書:補》又饂飩(うんどん) 蕎切(そばきり)冷麦(ひやむぎ)などいふ物をす べて麺類(めんるい)といへり ○餢飳(ふと)は俗(ぞく)に伏兎(ふし)【寛永六年版のフリガナ「ふと」】とかけ りあぶらあげの餅(もち)なり油(ゆ) 堆(たい)となづく ○環餅(くわんべい)はまがりなりあぶ らあげの菓子(くはし)なり糫(くわん) 餅膏(へいかう)とも糫寒具(くわんかんく)とも いふ巧果(こうくわ)あぶらもち 【左頁下段 挿絵】 饅頭(まんぢう) 飯(はん)《割書:いひ》 餅(べい) 《割書: もち》 糖(たう) 《割書:あめ》 糉(そう)《割書: |ちまき》 【右頁上段】 ○酢漿(さくしやう)はすはまなりまた 酨(すはま)とも書(かく)べし俗(ぞく)に洲浜(すはま) とかくなり ○焼餅(やきもち)は䭆(やきもち)とも書(かく)べし 串(くし)にさしたるをこがくといふ 又/鳥(とり)のかたちにつくりて鶉(うつら) やきと名(な)づく ○粔籹(きよぢよ)はおこしごめなり糯(もち) をいりて飴(あめ)にてかためたる なり俗(ぞく)に興米(をこしごめ)とかけり 《割書:補》丸(まる)きを飴(あめ)おこしといひかと あるを岩(いわ)おこしといふ ○煎餅(せんへい)は餅(もち)をひらめて 煎(いり)あぶりたるなり又/銭(せん) 餅(へい)とも書(かく)べし 【右頁下段 挿絵】 酢(さく) 漿(しやう) 《割書: すはま》 焼(やき) 餅(もち) 餢(ぶ)  飳(と) 煎(せん) 餅(べい) 巧(あぶら) 果(もち) 粔籹(きよぢよ) 《割書: おこし|   ごめ》 環餅(くわんへい)《割書:ま| がり》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十七    菜蔬(さいそ) 《割書:此/部(ぶ)にはもろ〳〵の野菜(やさい)|苑蔬(ゑんそ)のたぐひをしるす》 【左頁上段】 ○蕪菁(あをな)は食(しよく)を消(せう)し気(き)を くだし嗽(せき)をやむつねにくらへば 中(うち)を通(つう)じ人をこへすこやか ならしむ ○莱菔(だいこん)は気(き)をくだし食(しよく)を消(せう) し痰咳(たんがい)を治(ぢ)し中をあたゝ め大小/便(べん)を利(り)す ○芹(せり)は頭中(づちう)の風熱(ふうねつ)をさり 酒後(しゆご)の熱(ねつ)をさまし大小 腸(ちやう)を利(り)し血(ち)をとめ気(き)を益(ます) ○葱(ひともじ)は汗(あせ)を発(はつ)し風(かぜ)を去(さり) 【左頁下段 挿絵】 蕪(ふ) 菁(せい)《割書: |な》 芹(きん)《割書:せり 水靳(すいきん) 同》 莱(らい) 菔(ふく) 《割書: たい|  こん》 《割書:蘿(ら)蔔(ふく)| 同》 【右頁上段】 小べんをつうじ魚肉(ぎよにく)の毒(どく) をころし中をあたゝめは なぢをとむ ○韮(にら)は胃熱(ゐねつ)をのぞき中を あたゝめ虚(きよ)をおぎなひはら のいたみによし ○蒜(にんにく)は脾胃(ひゐ)に帰(き)し中を あたゝめくはくらん腹中(ふくちう)やす からざるを治(ぢ)す ○薤(らつきよ)は水気(すいき)をさり中をあ たゝめ不足(ふそく)をおぎなひ久(ひさ)し きくだり腹(はら)によし気(き)をくだす ○菠薐(はうれんさう)は酒毒(しゆどく)を解(げ)し 胸(むね)をひらき気(き)をくだしか わきをうるほす 【右頁下段 挿絵】 葱(そう)《割書:ひと| もじ》《割書: ねぎ》 《割書:葱針(かりぎ) 凍葱(わけぎ)》 蒜(さん)《割書:にんにく|ひ| る》《割書:葫蒜(おほひる) 山蒜(のびる)》 韮(きう) 《割書:に|ら|豊本(ほうほん)同》 薤(がい)《割書:おほ| にら》《割書:䪥(かい)同》 菠薐(はれう)《割書:からな》 《割書:ほうれん|   さう》 胡葱(こさう) 《割書: あさ|  つき》 【左頁上段】  ○胡葱(あさつき)は中をあたゝめ気(き) をくだし食(しよく)を消(せう)し虫(むし) をころしはれを治(ぢ)す ○芋(いも)は腸胃(ちやうゐ)をゆるうし肌(はだへ)を みち熱(ねつ)をさり渇(かつ)をやめ胃(ゐ) をひらき宿血(しゆくけつ)をやぶる ○著蕷(やまのいも)は虚(きよ)をおぎなひ 気力(いりよく)をまし陰(ゐん)をつよくし 腰(こし)のいたみをとめ腎(じん)をます ○午房(ごぼう)は中風(ちうふう)はのいたみ脚(かつ) 気(け)風(ふう)どくせんきによし面目(めんもく) はれいたむにもよし ○胡蔔(にんじん)は気(き)をくだし中を おぎなひ腸胃(ちやうゐ)を利(り)し五 臓(ざう)をやすんずこれをくらふ に益(えき)ありて損(そん)なし 【左頁下段 挿絵】 芋(う)《割書:芋魁(いもがしら)》 《割書:いも|蹲鴟(いもがしら)》 牛蒡(ごぼう) 薯蕷(しよよ) 《割書: やまの|  いも》 胡蔔(こふく) 《割書:にんじん》 【右頁上段】 ○苣(ちさ)は胸( む)膈(ね )をひらき筋(すぢ) 骨(ほね)をかたくし目(め)をあきら かにし乳汁(にうじう)をつうじむしを ころす ○芥(からし)は腎経(じんけい)の邪気(じやき)をのぞ き上気(じやうき)せきを治(ぢ)し胃(ゐ)を ひらき膈(むね)を利(り)し九/竅(けう)を 利(り)す ○薺(なづな)は肝(かん)を利(り)し中をや はらげ胃(ゐ)をまし五ざうを 利(り)す ○莙薘(たうぢさ)はすぢほねをおぎ なひ胸(むね)のふさがりをひら き熱(ねつ)を解(げ)す  ○天蓼(またゝび)は中風(ちうぶう)口ゆがみけんべ きかたまり女子(によし)の虚労(きよらう)を治(ぢ)す 【右頁下段 挿絵】 苣(きよ)《割書:ちさ》 《割書:苦苣(せんば)|萵苣(きじのを)》 薺(せい) 《割書: なづな》 芥(かい)《割書:からし》 莙薘(くんたつ) 《割書:  たうちさ》 【左頁上段】 ○蕗は葉(は)あふひにゝてひろ じ茎(くき)は煮(に)てくらふべし 欵冬(ふき)と和訓(わくん)同(おなじ)きがゆへに あやまる事/多(おほ)し ○蘘荷(めうが)は蠱(こ)にあたり沙虫(しやちう) 蛇毒(じやどく)を解(げ)す多(おほ)くくらへば 脚(あし)に利(り)あらず ○莧(ひゆ)は気(き)をおぎなひ熱(ねつ)を のぞき九/竅(けう)をつうじ大小/腸(ちやう) を利(り)し癜(なまず)治(ぢ)す ○独活(うど)は痛風(つうふう)を治(ぢ)し中風(ちうぶう) 湿冷(しつれい)逆気(ぎやくき)皮膚(ひふ)かゆく手(て) 足(あし)ひきつるを治(ぢ)す ○瓢(なりひさご)は脹(はれ)を消(せう)し虫(むし)をころ し痔(ぢ)下血(げけつ)を治(ぢ)し血崩(けつばう) 赤白(しゃくびやく)の帯下(こしけ)を治(ぢ)す 【左頁下段 挿絵】 天蓼(てんれう) 《割書: またゝび》 蕗(ろ)《割書:ふき ふきのとう》 蘘(めう) 荷(が) 《割書:めうがのこ》 莧(けん)《割書:ひゆ》 《割書:野莧(やけん)《割書:くさひゆ》》 独活(どくくはつ)《割書:うど》 【右頁上段】 ○瓠(いふがほ)は口中のたゞれいたむ を治(ぢ)し水道(すいだう)を利(り)し心(しん) 熱(ねつ)をさり心肺(しんはい)をうるほす ○瓜(うり)はすべて小/便(べん)をつうじ 渇(かつ)をとめ熱(ねつ)をのぞき大 腸(ちやう)をゆるくす羊角瓜(あさうり) ○冬瓜(かもうり)は小/便(べん)を利(り)し渇(かつ) をやめ気(き)をましむねのつかへ をのぞき熱(ねつ)をさる ○蕈(たけ)は気(き)をまし風(かぜ)を治(ぢ) し血(ち)をやぶる地(ち)に生(しやう)ずる を菌(きん)といふ木(き)に生(しやう)ずるを 蕈(たん)といふ ○胡瓜(きうり)は熱(ねつ)をすゞしうし 渇(かつ)を解(げ)し水道(すいだう)を利(り)す 小児(せうに)にはいむ 【右頁下段 挿絵】 瓠(こ) 《割書:ゆふ|  がほ》 瓜(くは)《割書: |うり》 瓢(へう)《割書:なり|ひさご》《割書:蒲盧(ひやくなり)》 冬瓜(とうくは) 《割書:かも| うり》 【左頁上段】 ○醤瓜(あをうり)は水道(すいたう)を利(り)し中 をおぎひはれを消(せう)す ○糸瓜(へちま)は皮(かわ)をほしてたゝみ をふき踵(くびす)のあかをとるに よし熱(ねつ)をのぞき腸(ちやう)を利(り)す ○山葵(わさび)はひへばらのいたみ を治(ぢ)し食(しよく)をすゝめむね を利(り)し痰(たん)をひらく ○茄(なすび)は血(ち)をさんじいたみを とめ腫(はれ)を消(せう)し腸(ちやう)をゆる くし痰(たん)をおふ銀茄(ぎんか)しろ なすびなり ○鶏腸(よめがはぎ)は毒腫(どくしゆ)を治(ぢ)し忘(わす) れていばりするによし 人(ひと)に益(ゑき)あり ○薊(あざみ)は宿血(しゆくけつ)をやぶり胃(ゐ)を 【左頁下段 挿絵】 蕈(たん) 《割書:松蕈(まつたけ)》 《割書:たけ| |香(かう)|蕈(たけ)》 醤瓜(しやうくは) 《割書:あを| うり》 胡瓜(こくは) 《割書:きうり》 山葵(さんぎ) 《割書:わ|さび》 《割書:山姜(さんきやう)同》 絲瓜(しくは)《割書: |へちま》 【右頁上段】 ひらき食(しよく)をくだし吐血(とけつ) 衂血(ぢくけつ)をとめ熱(ねつ)をしりぞく ○藜(あかざ)は虫(むし)をころしむし くひばを治(ぢ)す脾(ひ)胃(ゐ)虚(きよ) 寒(かん)の人には用(もちゆ)べからず ○馬莧(すべりひゆ)はりんびやうを治(ぢ) し血(ち)をさんじはれを消(せう) し腸(ちやう)を利(り)すはらみ女は くらふべからず ○薑(はじかみ)は胃(ゐ)をひらき血(ち)をや ぶり風邪(ふうじや)をさる菌(くさびら)の毒(どく) を解(げ)し神明(しんめい)に通(つう)ず ○蔏陸(やまごぼう)は五さうをすか し水気(すいき)をさんず色(いろ) ありきものは人を害す 食(しよく)すべからず 【右頁下段 挿絵】 藜(れい)《割書:あかざ》 茄(か)《割書: |なすび》《割書:水茄(ながなすび)》 馬莧(ばけん)《割書:すべり| ひゆ》 雞膓(けいちやう)《割書:よめが|  はぎ|齊蒿(せいかう)同》 薊(けき) 《割書: あざみ》 【左頁上段】蔞蒿 ○蒟蒻(こんにやく)は消渇(せうかつ)をとめ血(ち)を くだしはれを消(せう)し癰(よう) を治(ぢ)し労(らう)を治(ぢ)す疱瘡(はうさう) せざる小児(せうに)にはいむべし ○蘩蔞(はこべ)は年(とし)ひさしき悪(あく) 瘡(さう)痔(ぢ)愈(いゑ)ざるに血(ち)をやぶり 乳汁(にうしう)をつうずさんの女くら ふべからず ○蒲英(たんほゝ)は乳癰(にうよう)水腫(すいしゆ)に汁(しる) にしてくふべし食毒(しよくどく)を消(せう) し滞気(たいき)をさんず ○蕨(わらび)は熱(ねつ)をさり水道(すいだう)を 利(り)し五ざうの不足(ふそく)をおぎ なふなり ○狗脊(くせき)はぜんまいなり俗(ぞく)に いぬわらびといふ疝気(せんき)を 【左頁下段 挿絵】 薑(きやう)《割書:はじ|  かみ》 《割書:姜(きやう)|同》 《割書:はこべ》《割書:蔞蒿(ろうかう)同》 蘩(はん) 蒌(ろ) 蔏(しやう) 陸(りく) 《割書:やま| ごぼう》 蒟蒻(こんにやく) 蒲英(ほゑい) 《割書:  たんぼゝ》 【右頁上段】 治(ぢ)し帯下(こしけ)をによし ○蓴(ぬなわ)は腸(ちやう)胃(ゐ)をあつくし気(き)を くだし呕(ゑづき)をやめ下焦(げしやう)を安(やすん)ず ○瓣(べん)はうりのへたなり薬(くすり) に用(もちひ)て膈噎(かくいつ)呕逆(さくり)を治(ぢ)す ○瓤(じやう)はうりのなかごなり𤬓(ゐん)【「兼+瓜」㼓。れんヵ】 犀(せい)同/橘柚(きつゆ)の肉(にく)をも瓤(じやう)と云 ○芝(し)は渇(かつ)をやめ人の顔色(かんしよく) をまし神(しん)につうし智(ち)をまし 気(き)をすこやかにしるいれきに ○鹿角(ひぢき)は風気(ふううき)をくだし小(せう) 児(に)の骨蒸(こつしやう)労熱(らうねつ)を治(ぢ)し 麺(めん)の熱(ねつ)を解(げ)す ○石花(ところてん)は上焦(しやうせう)の浮熱(ふねつ)を去(さり) 下部(げぶ)の虚寒(きよかん)をはつす ○昆布(こんぶ)は水道(すいだう)を治(ぢ)し面(おもて) 【右頁下段 挿絵】 鹿角(ろくかく) 《割書: ひじき|  鹿尾菜(ろくびさい)|  海鹿草(かいろくさう)並同》 芝(し)《割書:れい| し》 蕨(けつ)《割書:わら|  び》 瓣(へん)《割書:うりの| へた》 瓤(じやう)《割書:うりの|なかご》 狗(く) 脊(せき) 《割書:ぜん|まい》 【左頁上段】 はれ悪瘡(あくさう)を治(ぢ)しこぶ結(けつ) 核(かく)陰(いん)はれいたむによし ○海帯(あらめ)は風(かぜ)をさり水(みづ)をくだ し女のやまひを治(ぢ)しさん のはやめによし ○紫菜(あまのり)は煩熱(はんねつ)をさりこぶ 脚気(かつけ)をうれふる人はこれを くらふべし多(おほ)くくらへばはら いたむなり ○水松(みる)は水腫(すいしゆ)のやまひを治(ぢ) しさんのはやめに用(もちひ)てよし ○燕窩(えんす)は虚(きよ)をおぎなひ 労痢(ろうり)をやむ ○石耳(いわたけ)は目(め)をあきらかに し精(せい)をまし人をして うゑず大小べんすくな 【左頁下段 挿絵】 石花(せきくは) 《割書:こゝろ|  ぶと|ところ| てん》 蓴(じゆん)《割書: ぬな| わ》《割書: 蒓同| 》 《割書:じゆんさい》 水松(すいせう) 《割書:み| る》 昆布(こんぶ)《割書:ひろめ》 海帯(かいたい) 《割書: あらめ》 【右頁上段】 からしむ ○苔菜(あをのり)は乾苔(かんたい) ともいふむしをこ ろし痔(じ)くはくらんゑ づきを治(ぢ)す ○木耳(きくらげ)は気(き)をま し身(み)をかるくし こゝろざしをつよく し痔(じ)を治(ぢ)す ○萆薢(ひかい)はところ なり黄薢(わうかい)とも いふ又/野老(やらう)といふ 味(あぢ)にがしよく疝(せん) 気(き)のむしをころ すなり 【右頁下段 挿絵】 燕(えん) 窩(す) 萆薢(ひかい)《割書:とこ| ろ》 苔(たい)  菜(さい) 《割書:   あを|   の|   り》 紫(し) 菜(さい) 《割書:あま|のり》 木耳(もくに) 《割書:きく|ら| げ》 石耳(せきじ)《割書:いわ|た|け》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十八    果蓏(くわくは) 《割書:此/部(ぶ)にはくだものゝ|たぐひをしるす》 【左頁上段】 ○杏(あんず)はほしさらしてくらへ は渇(かつ)をとめ冷熱(れいねつ)の毒(どく)をさる 仁(にん)はせきをとむ ○梅(むめ)は生(なま)は多(おゝく)くらへば歯(は)を損(そん) ず仁(にん)は目(め)をあきらかにし白 梅(ばい)は痰(たん)をのぞく ○桃(もゝ)は生(なま)は顔色(がんしよく)をまし仁(にん)は瘀(を) 血(けつ)をさんじ大/便(べん)をつうず ○李(すもゝ)は労熱(らうねつ)をさり肝病(かんびやう)に 食(しよく)すべし麦(むぎ)じゆくして 実(み)なるを麦李(ばくり)といふ 【左頁下段 挿絵】 杏(きやう)《割書:から| もも|あん| ず》 梅(はい)《割書:む| め》 桃(たう) 《割書: もも》 杏(り)《割書:す| もゝ》 【右頁上段】 ○梨(なし)は熱(ねつ)嗽(さう)をやめ渇(かつ)をと め痰(たん)を消(せう)し火(ひ)をくだし 肺(はい)をうるほす ○柰(からなし)は中焦(ちうせう)もろ〳〵の不(ふ) 足(そく)の気(き)を補(おぎな)ひ脾(ひ)を和(くは)し 気(き)ふさがるを治(ぢ)す ○棗(なつめ)は脾(ひ)胃(ゐ)をやしなひ津(しん) 液(ゑき)を生(しやう)し心腹(しんふく)の邪気(しやき)を さり心肺(しんはい)をうるほす ○栗(くり)は気(き)をまし腸(ちやう)胃(ゐ)を あつくし腎(しん)を補(おぎな)ひ腰(こし)脚(あし)かな はざるを治(ぢ)す茅栗(しばぐり) 杭子(さゝぐり) ○柚(ゆう)は食(しよく)を消(せう)し酒毒(しゆどく)を解(げ) し腸(ちやう)胃(ゐ)の悪気(あくき)をさり婦(ふ) 人(じん)孕(はらみ)て食(しよく)をおもはず口(くち)淡(あはき)を 治(ぢ)す 【右頁下段 挿絵】 梨(り) 《割書:な|し》 柰(たい)《割書:からなし》 棗(さう) 《割書:なつ| め》 栗(りつ) 《割書:く| り》 柚(いう) 《割書: ゆ》 柑(かん) 《割書:くねん| ほ》 【左頁上段】 ○柑(くねんほ)は腸(ちやう)胃(ゐ)のうちの熱/毒(どく)を 利(り)し俄(にわか)に渇(かつ)をやめ小便を利(りす) ○枳(からたち)は大/便(べん)をつうしむねのつかへ をさり痰(たん)を消(せう)す脾(ひ)胃(ゐ)よ はきものは用ゆべからず ○橘(たちばな)は消渇(せうかつ)をやめ胃(ゐ)をひらき 膈中(むねのうち)のふさがりをのぞく ○榧(かや)は寸白虫(すんばくちう)を治(ぢ)し食(しよく)を消(せう) し目(め)を明(あき)らかにし欬嗽(がいさう)白濁(びやくだく) をやめ痔(じ)を治(ぢ)す ○柿は水(みづ)を利(り)し酒毒(しゆどく)を解(げ)し 胃中(ゐちう)の熱(ねつ)をさる ○椎(しい)は腸(ちやう)胃(ゐ)をあつくし人をし て肥(こへ)すこやかならしむこれを くらへばうへず ○榛(はしばみ)は気力(きりよく)をまし腸(ちやう)胃(ゐ)を実(じつ) 【左頁下段 挿絵】 橘(きつ)《割書: たちばな|  みかん》 《割書:か|ら|た|ち》 枳(き)《割書:きこく》 《割書:し》 椎(すい) 《割書: しい》 榧(ひ)《割書:かや》 柿(し)《割書:かき》 榛(しん)《割書:はし|ばみ》 【右頁上段】 し人をしてすこやかにし胃(い)を ひらく ○楉榴(ざくろ)は喉(のど)のかわくを治(ぢ)し三尸(し) 虫(ちう)を制(せい)す味(あぢは)ひ酸(すく)甘(あまき)の二/品(ひん)有(あり) ○来禽(りんご)は気(き)をくだし痰(たん)を消(せう) し霍乱(くはくらん)腹(はら)の痛(いたみ)消渇(せうかつ)を治(ぢ)す ○葡萄(ぶだう)は淋病(りんびやう)しひれを治(ぢ)し 腸間(ちやうかん)の水をのぞき久(ひさ)しく くらへは身(み)をかろくす ○金柑(きんかん)は気(き)を下(くだ)し胸(むね)をこゝろよ くし渇(かつ)をやめ二日酔(ふつかえい)を治(ぢ)す ○銀杏(ぎんあん)は生(なま)にては酒(さけ)を解(げ)し 痰(たん)をくたし虫(むし)をころす熟(じゆく)し くらへは小/便(べん)をしゞむ ○枇杷(びは)は吐逆(ときやく)をとめ上/焦(せう)の熱(ねつ) をつかさどり気(き)を下(くだ)し肺気(はいき)を利(り)ス 【右頁下段 挿絵】 来禽(らいきん)《割書:りんご》 楉(じやく) 榴(りう)《割書:ざく| ろ》 金柑(きんかん)《割書:ひめたち| ばな》《割書:盧橘(ろきつ)同》 葡(ほ) 萄(どう) 《割書:ぶ| どう》 《割書:えび》 《割書:鴨脚(いてう)樹》 銀杏(ぎんきやう) 《割書:ぎんあん》 【左頁上段】 ○枳椇(けんほのなし)は五/臓(ざう)をうるほし大小 便(べん)を利(り)し酒毒(しゆどく)を解(げ)す ○楊梅(やまもゝ)は気(き)をくだし腸(ちやう)胃(い)をそゝ ぎ渇(かつ)をやめ痰(たん)をさりゑづき をとめ食(しよく)を消(せう)す ○茘支(れいし)は渇(かつ)をやめ顔色(がんしよく)をまし 煩(いきれ)を除(のぞ)き頭(かしら)おもきを治(ぢ)す ○苺(いちご)は気(き)をまし身(み)を軽(かろ)くし虚(きよ)を 補(おぎな)ひ男は陰(いん)なへ女(をんな)は子(こ)なきによし ○仏手柑(ぶしゆかん)は気(き)をくだし痰(たん) 水(すい)をのぞき酒(さけ)に煮(に)てのめば 痰(たん)咳(がい)嗽(さう)を治(ぢ)す ○胡桃(くるみ)は肌(はだへ)をうるほし髪(かみ)を黒(くろく) し多食(おゝくくら)へば小/便(べん)を利(り)す ○榲桲(まるめろ)は中をあたゝめ気(き)を下(くだ) し食(しよく)を消(せう)し胸(むね)の間(あいだ)の酸水(さんすい) 【左頁下段 挿絵】 枳椇(しく)《割書:けんほの|   なし》 苺(ぼ)《割書:いちご》 《割書:樹(き)|苺(いちご) 覆盆子(つるいちご)| 蛇苺(へびいちご)》 枇杷(びは) 《割書:一名/炎(えん)|   果(くは)》 楊(やう) 梅(ばい) 《割書:やま| もゝ》 茘(れい) 支(し) 《割書:離支(りし)同》 香椽(かうゑん) 《割書:ぶしゆ| かん》 《割書:仏手柑(ぶしゆかん)同》 【右頁上段】 をのぞき水瀉(すいしや)を治(ぢ)し酒 気(き)を散(さん)ず ○木瓜(ぼけ)は脚気(かつけ)筋(すぢ)ひきつり くはくらんを治(ぢ)す ○菱(ひし)は中を安(やすん)じ五/臓(ざう)を補(おぎな)ひ 酒毒(しゆどく)を解(げ)し渇(かつ)をやめ丹石(たんせき)の どくを解(げ)す ○茶(ちや)は小/便(べん)を利(り)し痰(たん)熱(ねつ)を さり渇(かつ)をやめねむりすくな く食(しよく)を消(せう)し目(め)を明(あき)らかにす ○椒(さんせう)は風邪(ふうじや)の気(き)を除(のぞ)き中 をあたゝめ女人の経水(けいすい)を通(つう)ず ○胡頽(ぐみ)は水痢(すいり)を治(ぢ)す寒(かん) 熱(ねつ)の病(やまひ)には用(もちゆ)ゆべからず ○葧臍(くわい)は風毒(ふうどく)を消(せう)し耳(みゝ)目(め)を 明(あきらか)にし胃(ゐ)をひらき腸(ちやう)胃(ゐ)をあ 【右頁下段 挿絵】 《割書:核桃(かくたう)| 核果(かくくは)同》 胡桃(こたう)《割書:くる| み》 菱(れう) 《割書:ひ|し》 榲(うん) 桲(ぼつ)《割書:ま| る|める》 茶(た)《割書:ちや》 《割書:さ》 椒(せう) 《割書:さん| せう》 木瓜(もくくは) 《割書: ぼけ》 【左頁上段】 つくし血/痢(り)をつかさどる ○慈姑(しろくわい)は産後(さんご)にむねをせめ 死(し)せんとし難産(なんざん)ゑな下(くだら)さるを治(ぢす) ○梬棗(さるがき)は心(しん)をしづめ熱(ねつ)をとめ 消渇(せうかつ)をとめ久(ひさ)しく服(ふく)すれば 顔色(がんしよく)をよろこばしむ ○松子(まつのみ)は諸風(しよふう)骨(ほね)ふし痛(いたみ)頭(かしら) ふらめきがいさうによし ○龍眼(りうがん)は胃(ゐ)をひらき脾(ひ)をまし 虚(きよ)を補(おぎな)ひ智(ち)をます久(ひさ)しく 服(ふく)すれは志(こゝろさし)をつよくし身(み)をかる くして老ず ○甘蔗(かんしや)はさたうの木(き)なり よく脾(ひ)胃(ゐ)をおぎなふ ○胡椒(こせう)は中をあたゝめ痰(たん)を去(さり) 腹痛(はらのいたみ)をやめ胃口(ゐこう)虚冷(きよれい)を治(ぢ)す 【左頁下段 挿絵】 胡頽(こたい) 《割書: ぐみ》 梬棗(ゑいさう)《割書:さる| がき》 葧臍(ほつせい)《割書:く| わい》 慈(じ) 姑(こ)  《割書:茨菰(じこ)同》 《割書:しろ| ぐわい|    おもだか》 松子(せうし) 《割書: からまつの|     み》 【右頁上段】 ○鴉瓜(からすうり)は火(ひ)をくだし咳(せき)を治(ぢ)し 痰(たん)をそゝぎのどを利(り)す 土瓜(とくは)赤雹子(せきはくし)同 ○燕覆(あけひ)は膀胱(ばうくはう)を治(ぢ)し癰(よう)を 消(せう)し腫(はれ)をさんじ能(よく)乳汁(にうじう)を通(つう)ス ○甜瓜(からうり)は熱(ねつ)をのぞき小/便(べん) を利(り)し煩渇(はんかつ)をとむ暑(しよ) 月(げつ)にくらへば暑(しよ)にあてられず ○苦瓜(つるれいし)は邪熱(じやねつ)をのぞき労(らう) 乏(ぼく?)をおぎなひ心(しん)をきよく し目(め)をあきらかにす 錦茘枝(きんれいし) 癩葡萄(らいぶだう) ○烏柿(うし)はあまほしなり 火柿(くはし)同 醂柿(りんし)はさはしがき 烘柿(こうし)つゝみがき白柿(はくし)はつり がきなり 【右頁下段 挿絵】 胡椒(こせう)《割書:まるはじ|   かみ》   《割書:一名|木奴(もくぬ)》 龍(りう) 眼(がん) 《割書:円眼(えんがん)|茘奴(れいぬ)同》 鴉瓜(あくわ)《割書:から| す|う| り》 甘蔗(かんしや)《割書:さたう| だけ》 燕(ゑん)  覆(ふく) 《割書:一名|桴棪| 子| あけび》 【左頁上段】 ○蔕(てい)は瓜(うり)の蔕(ほそ)柿(かき)の蔕(へた) なり又/蒂(てい)につくる㚄(てい)同 柿(かき)茄(なすび)などのへたなり ○莍(きう)は櫧(かし)櫟(いちゐ)などの実(み)を もる房(はう)なり俗(ぞく)にかさと云 ○仁(にん)はくだものゝ核(さね)のうち にあるものなり 梅仁(ばいにん) 桃仁(とうにん) 杏仁(きやうにん)なり 薬(くすり)にもちゆ ○核(かく)は梅(むめ)桃(もゝ)《割書:補》その外すべて くだもの又は瓜(うり)茄(なすび)のさね也 核(さね)の中(うち)薬(くすり)にもちゆるもの あまたあるなり ○紫糖(くろざたう)はおほく食(くら)へば心(しん) 痛(つう)し長虫(ちやうちう)を生(しやう)す 【左頁下段 挿絵】 《割書:まくは| うり》 甜(てん)  瓜(くは) 《割書:から| うり》 《割書:にがうり》 苦(く)  瓜(くは) 《割書:つる| れい|  し》 白(はく) 柿(し) 《割書:つ| り|がき》 烏柿(うし) 《割書:あま| ぼ| し》 蔕(てい) 《割書: ほそ| へた》 【右頁上段】 ○沙糖(さたう)は   心肺(しんはい)をうる    ほし  大小/腸(ちやう)の   熱(ねつ)をさり    酒毒(しゆどく)を解(げ)す ○氷糖(こほりさたう)は   心脹(しんてう)の熱(ねつ)を     さまし  目(め)をあきら     かにす 【左頁下段 挿絵】 氷(へう) 糖(たう) 《割書:こほり| ざたう》 沙(さ) 糖(たう) 《割書:しろ| ざたう》 紫(し) 糖(たう) 《割書:くろ| ざたう》 核(かく) 《割書:さね》 莍(きう) 《割書: かさ》 仁(にん) 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十九    樹竹(じゆちく) 《割書:此/部(ふ)にはうへ木(き)竹(たけ)のるいをしるす》 【左頁上段】 ○松(まつ)は久(ひさ)しく服(ふく)す れば身(み)を軽(かる)くし て老(おい)ず年(とし)をのぶる といへり《割書:補》五/葉(よう)を俗(ぞく) に唐松(からまつ)といふ ○楓(ふう)はかいでなり又 鶏冠木(かいで)とも書(かく)也 もみぢの事なり 《割書:補》紅葉(こうよう)は諸木(しよぼく)に多(おゝ)ク あり楓(かいで)は中(なか)にも勝(すぐれ)          たり 【左頁下段 挿絵】 松(しやう)《割書:まつ》 楓(ふう)《割書: |かいで》 【右頁上段】 ○桧(ひのき)は深山(しんざん)あり て《割書:補》大木(たいぼく)となる白木(しらき) の木具(きぐ)曲物(わげもの)など みな此木を用(もち)ひて 最上(さいじやう)とす又/楫(かぢ)に つくるなり ○《割書:補》円柏(いぶき)は葉(は)栢(かや)にゝ て実(み)は松に似(に)たり 尖(とが)りかたし但(たゞ)し 葉(は)桧(ひのき)に類(るい)して 色(いろ)黒(くろ)く皮(かわ)あらし 檼栢(いんはく)同 ○檉(むろ)は《割書:補》檉柳(ていりう)なり 一名雨師(うし)といふ 皮(かわ)あかし 【右頁下段 挿絵】 檜(くわい) 《割書: ひのき》 圓栢(ゑんはく) 《割書: いぶき》 檉(てい)《割書:むろ》 【左頁上段】 ○杉(すぎ)は《割書:補》深山(しんさん)に生(しやう) ずるもの大木と なる木立(こだち)直(すぐ)に て枝葉(ゑたは)しげる也 煎(せん)して毒瘡(どくさう)を 洗(あら)ひ水に浸(ひた)し て脚気(かつけ)腫満(しゆまん)を 治(ぢ)す ○仙栢(いぬまき)は《割書:補》槙(まき)のは に似(に)たり実(み)の形(かたち) 手(て)を合(あは)せたるか如(こと)し 一名/羅漢松(らかんしやう) 【左頁下段 挿絵】 仙栢(せんはく)《割書:いぬ| まき》 杉(さん)《割書:すぎ》 【右頁上段】 ○南燭(なんてん)は《割書:補》五月に 少(ちいさ)き白き花さき 実(み)のり霜後(さうご)に 紅(くれない)になるその色 美(び)なり《割書:補》此(この)木(き)悪(あし) き夢(ゆめ)を見たる時 此(この)木(き)をみればその 夢(ゆめ)きゆるといふ事 ゆへ多(おほ)く手水所(てうづどころ) のむかふに植(うへ)をく なり ○山茶(さんさ)は《割書:補》品類(ひんるい)多(おほ) し俗(ぞく)にさゞんくは といふ冬(ふゆ)花/咲(さく)うす 紅(べに)白花(はくくは)なりつばき は春さく花(はな)葉(は)共 に大にして色(いろ)品々(しな〴〵)有 【右頁下段 挿絵】 南燭(なんしよく)《割書:なんてん》 山茶(さんさ) 《割書: つばき》 【右頁上段】 ○桜(さくら)は一名/朱桃(しゆとう)又は 麦英(ばくゑい)ともいふ《割書:補》むかしは 梅(むめ)にかきりて花(はな)と称(しやう) じき今は花(はな)といへは桜(さくら) にかぎる実(み)を桜桃(あふとう)と いふ桜(さくら)は一重(ひとへ)なるもの成 しが後(のち)に八重桜(やゑさくら)の種(しゆ) 類(るい)多(おほ)くなり今は 百/種(しゆ)に及(およ)べり ○海棠(かいだう)は《割書:補》花白く 紅色(へにいろ)の所(ところ)ありて 尤(もつとも)美(ひ)なり葉(は)はな しのことく三月に 花さく一名/海紅(かいこう) 花(くは)といふ 【左頁下段 挿絵】 櫻(ゑい)《割書:さくら》 海棠(かいだう) 【右頁上段】  ○躑躅は類(たぐひ)多し 紫花(しくは)は《割書:補》二月に花 さく赤(あか)つゝじは三月 花さくれんげつゝじは 少し遅(おそ)く花大に して見事なり霧(きり)【雱】 島(しま)は花/濃(こい)紅(へに)にして 美(び)なりもちつゝじは 薄紫(うすむらさき)四月花さく りうきうつゝじは白花 と紫(むらさき)有花大にし ておそし杜鵑(さつき)花は 五月花さく紅紫(へにむらさき) 又は白紅交(はくこうまじ)り種々(しゆ〴〵)有 【右頁下段 挿絵】 羊躑(やうてき)   躅(ちよく) 《割書: れんげつゝじ》 映躑躅(えいてきちよく) 《割書: あかつゝじ》 杜鵑花(とけんくは) 《割書:   さつき》 【左頁上段】 ○辛荑(こふし)は葉/細(ほそ) 長(なが)し花白くして 少し赤(あか)みあり花 を木筆花(もくひつくは)といふ也 春花さく ○木蘭(もくらん)は香蘭(からん)に 似(に)て花は蓮(はす)のごと くうち白くほかわ むらさきなり《割書:補》花を 木蓮花(もくれんげ)といふ ○厚朴(こうぼく)は春(はる)葉(は)を 生し四季しほま ず花くれないに実(み) あをし一名/榛(しん) 【左頁下段 挿絵】 辛荑(しんい) 《割書: しでこぶし》 木蘭(もくらん)《割書:もくれんげ》 厚朴(こうぼく) 《割書: ほうの|   き》 【右頁上段】 ○《割書:補》槿(むくげ)は芙蓉(ふよう)のは なに似(に)て小(ちい)さし 薄紅(うすべに)白(しろ)あり八重(やゑ) ひとへあり七月花 さく一名/日及(じつきう) ○芙蓉(ふよう)は水に生 するを水芙蓉(すいふよう) といふ荷花(かくは)なり木(き) を木芙蓉(もくふよう)といふ 《割書:補》きばちすともいふ 七八月花ひらく 【右頁下段 挿絵】 槿(きん)《割書: |むくげ》 芙蓉(ふよう) 《割書: きはちす| 一名/拒霜(きよさう)》 【左頁上段】 ○蜀漆(くさぎ)は秋/紫(むらさき)の 花さく花中(くはちう)に黒(くろ) き実(み)有/根(ね)を常(じやう) 山(ざん)といふ六月/比(ころ)葉(は) とり食(しよく)すれども 毒(どく)ありともいふ ○女貞(ねづもち)は冬(ふゆ)をしのぎ てしぼまずよつて女 の貞節(ていせつ)に比(ひ)して名 づく一名/蝋樹(らうしゆ) ○冬青(もちのき)は冬月/青(あを) くみどりなりよつて 冬青(とうせい)といふ葉(は)少(すこ) しまるし 【左頁下段 挿絵】 蜀漆(しよくしつ) 《割書: くさぎ》 冬青(とうせい) 《割書: もち|  のき》 女貞(ぢよてい) 《割書: ねづ|  もち》 【右頁上段】 ○粉団(てまり)は葉(は)まるく 花白くして手毬(てまり) のごとし四月花さ く玉(ぎよく)繍(しう)【綉】花(くは)とも繍(しう)【綉】 毬花(きうくは)ともいふ《割書:補》かん木(ぼく) といふ木も粉団(てまり)に似(に) たる花なり大てま り小でまり二/種(しゆ)有 ○紫陽(あじさい)は《割書:補》五月花 さく粉団(てまり)似たり色(いろ) はるり又うす紅白 あり葉(は)てまりに 似(に)て葉(は)さき尖(とが)る 木の長(たけ)三四尺 【右頁下段 挿絵】 粉(ふん)  團(たん) 《割書:てまり》 紫陽(しやう)《割書:あぢ|  さい》 【左頁上段】 ○薜茘(まさきのかづら)は一名を 木饅頭(もくまんぢう)といふ又 鬼饅頭(きまんぢう)といふ《割書:補》秋 のすゑに青(あを)き実(み) のる中あかし ○梔(くちなし)は《割書:補》花白く五 月にさく実(み)は黄(き) なる染色(そめいろ)に用ゆ 上/焦(しやう)の熱(ねつ)をくだし 痰(たん)を治(ぢ)す花を 簷蔔(せんふく)といふ 【左頁下段 挿絵】 薜茘(へきれい) 《割書: まさきのかづら》 梔(し)《割書:くちな|  し》 【右頁上段】 ○錦帯花(やまうづき)は四月に 花さく楊櫨(うつぎ)に似(に) て花/葉(は)ともに大 なり花/開初(ひらきはしめ)には 白く後(のち)に赤(あか)く成 ○楊櫨(うつぎ)は葉(は)こま かく花も小(ちいさ)く木(き)は 黄色(きいろ)をそむるによ し実(み)は莢(さや)をなす 空䟽(くうしよ)同 ○棘(いばら)は《割書:補》山野(さんや)に多し 【右頁下段 挿絵】 錦帯花(きんたいくは) 《割書: やまうつぎ》 楊櫨(やうろ) 《割書: うつぎ》 【左頁上段】 はり多(おゝ)く群(むらが)り生(しやう) ず五月白き花/咲(さく) 棘刺(きよくし)棘鍼(きよくしん)並同 ○角楸(あづさ)はかはらひさ ぎといふ《割書:補》実(み)はさゝげ のごとく細長(ほそなが)くふさ をなす冬(ふゆ)葉(は)落(おち) て角(つの)なを有 ○木槵(つぶのき)は五六月に 白き花さく実生(みしやう) は青(あを)く熟(じゆく)すれば 黄(き)なり 【左頁下段 挿絵】 棘(きよく)《割書: | いはら》 角楸(かくしう) 《割書: あづさ| かはら|  ひさき》 木槵(もくけん) 《割書: つぶの|  き》 【右頁上段】 ○棕櫚(しゆろ)は六七月に 黄白(きしろき)花さき八九 月に実(み)をむすぶ かたち魚(うを)の子(こ)の如 し《割書:補》此木(このき)の毛葉(けは) を帚(はうき)につくる ○黄楊(つげ)は葉(は)こま かくかたし花さか ず実(み)ならず四/季(き) しぼまず《割書:補》木(き)め細(こまか) くかたし色(いろ)黄(き)也 【右頁下段 挿絵】 椶櫚(しゆろ) 黄楊(わうやう)《割書:つげ》 【左頁上段】 ○衛矛(くそまゆみ)は三月に 茎(くき)を生す高(たか)さ 三四尺ばかり《割書:補》秋の すへ紅葉(こうよう)す茎(くき)に 箭(や)の羽(は)の如(ごと)き物 あり今いふにしきゞ 一名/鬼箭(きせん) ○鐵蕉(てつしやう)は蘇鉄(そてつ) なり一名/鳳尾焦(はうびせう) となつく琉球(りうきう)より 出るを番焦(ばんせう)と云 【左頁下段 挿絵】 衛矛(ゑいほう)《割書:くそまゆみ|にし|  きゞ》 鐵(てつ) 蕉(せう) 《割書: そ|  てつ》 【右頁上段】 ○■木(ぬるで)は実(み)を塩(えん) 麩子(ふし)といふ虫(むし)あり て房(ばう)をむずぶを 五倍子(ごばいし)といふ是 ふしなり ○楮(かぢ)は皮(かわ)を製(せい)し て紙(かみ)につくるなり かうそといふ穀(こく) 構(こう)ならびに同 《割書:補》七月七日/児童(じどう) 此/葉(は)に詩歌(しいか)を 書(かき)二星(じせい)にそなふ 【右頁下段 挿絵】 ■(び)【木+備の旁】木(ぼく) 《割書: ぬるで》 楮(ちよ) 《割書: かじ》 㯃(いつ)《割書: |うる| し》 【左頁上段】 ○㯃(うるし)は《割書:補》葉(は)ぬるで に似たり秋(あき)こま かき実をむすふ 此/木(き)より器物(きぶつ)を ぬるうるしをとる みだりにゐら?へはま けるなり ○木樨(もくせい)は一名/岩(がん) 桂花(けいくは)といふ花(はな)白(しろき) を銀桂(きんけい)といひ黄(き) なるを金桂(きんけい)と云 《割書:補》香(か)つよき花なり 【左頁下段 挿絵】 木樨(もくせい) 《割書: かつらの|    はな》 【右頁上段】 ○桐(きり)は琴(こと)につくる 四月花さく白く 薄紫(うすむらさき)なり大木(たいぼく) あり箱(はこ)などつくる に此木を用ゆ ○梧桐(ごとう)は皮(かわ)青(あを)く ふしなし実(み)は 胡椒(こせう)のごとくかわ にしわあり花は 小にして黄(き)なり 櫬(しん)同 ○櫟(くぬぎ)は《割書:補》葉(は)はかしわ 【右頁下段 挿絵】 桐(とう)《割書:きり》 梧桐(ごとう) 《割書:  きり》 【左頁上段】 に似(に)てうすし 又/栗(くり)に類(るい)す実 を橡実(しやうじつ)といふ俗(ぞく) にどんぐりといふ也 木かたく薪(たきゞ)とし て最上(さいじやう)なり ○槲(かしわ)は一名/樸樕(ほくそく) といふ実を櫟橿(れききやう) 子(し)といふ《割書:補》俗(ぞく)にかし といふ品類(ひんるい)多し 木かたくして棒(ぼう) につくるなり 【左頁下段 挿絵】 櫟(れき) 《割書: くぬぎ》 槲(こく)《割書: | かしわ》 【右頁上段】 ○檗(きわだ)は葉(は)呉茱萸(こしゆゆ) に似(に)たり冬(ふゆ)しぼま ず皮(かわ)そと白くうち 黄(き)なり黄檗と いふきわだなり ○紫荊(しけい)は葉(は)こま かにして花(はな)むらさ きなり春(はる)花ひら き秋(あき)実(み)のる実を 紫珠(しじゆ)といふ ○石南(しやくなんげ)は石(いし)の間/陽(ひ) に向(むか)ふ所に生(しやう)ずる よつて石南(しやくなん)と云 葉(は)枇杷(びわ)のごとし 【右頁下段 挿絵】 檗(はく)《割書:き| わだ》 紫荊(しけい) 石南(せきなん)《割書:しやく| なん|  げ》 【左頁上段】 ○狗骨(ひいらぎ)は木のはだ へ白くして狗(いぬ)の骨(ほね) の如(こと)し依(よつ)て狗(く)こ つといふ又/柊木(とうほく)とも 書(かく)なり ○瑞香(ぢんてうけ)は葉(は)厚(あつ)く 春(はる)花(はな)さくかたち丁(てう) 香(かう)のごとく色(いろ)黄(き)白(しろ) 紫(むらさき)なり ○接骨(にわとこ)は小便(せうべん)を 通(つう)じ水腫(すいしゆ)を治(ぢ)ス 一名/木蒴藋(もくさくてき)と いふ手足(てあし)の痛(いたみ)に 煎(せん)じ洗(あら)ふてよし 【左頁下段 挿絵】 狗骨(くこつ)《割書:ひいらぎ》 《割書: 猫児刺(めうにし)| 杠谷(こうこく) 並同》 瑞香(ずいかう)《割書:ぢんてう|   け》 接骨(せつこつ)《割書:にわとこ》 【右頁上段】 ○桑(くわ)は一切(いつさい)の風気(ふうき) を治(ち)し中(うち)を調(とゝの)へ 気(き)をくだし痰(たん)を 消(せう)し胃(ゐ)をひら き食(しよく)を下す 《割書:補》棟(あふち)は葉(は)槐(えんじゆ)のごと く三四月に花さく 薄紫色(うすむらさきいろ)なり俗(ぞく)に せんだんと云/実(み)を 金棟子(きんれんし)といふ ○五加(うこぎ)は蔬につく りてくらへは皮膚(ひふ) の風湿(ふうしつ)をさる五 佳(か)五/花(くは)同 【右頁下段 挿絵】 桑(さう)《割書:くわ》 棟(れん)《割書:あふち》 《割書: せんだん》 五加(ごか) 《割書: うこ|  ぎ》 【左頁上段】 ○枸杞(くこ)は皮膚(ひふ)骨(こつ) 節(せつ)の風(かぜ)をさり熱(ねつ) 毒(どく)をさりかさの腫(はれ) をさんず  ○紫薇(しひ)は花/紅色(べにいろ) なり七月さく百日(ひやくじつ) 紅(こう)といふ《割書:補》俗(ぞく)にさるす へりといふ ○樟(くす)は楠(くすのき)に似(に)たり 四/季(き)しぼます夏 細(ほそ)き花さく《割書:補》楠木(なんぼく)も 此(この)類(たぐひ)なり大木と なる数年(すねん)をへて 其(その)木(き)石(いし)となる 【左頁下段 挿絵】 枸杞(こうき)《割書:くこ》 樟(しやう)《割書: |くす》 紫薇(しひ) 【右頁上段】 ○石檀(とねりこ)は葉(は)槐(えんじゆ)に似(に) たり樳木(じんぼく)苦櫪(くれき)並 同/皮(かわ)を秦皮(しんひ)といふ ○合歓(ねむのき)は五月に 花さく色(いろ)紅白(こうはく)也 実にさやあり《割書:補》葉(は) 昼(ひる)ひらきて夜(よる)しぼ むよつて一名/夜合(やがう) 樹(じゆ)といふ ○楡(にれ)は赤白(しやくひやく)二/種(しゆ)有 三月に莢(さや)を生(しやう)ずか たち銭(ぜに)の如し色(いろ)白 し実を楡莢(ゆけう)楡銭(ゆせん) といふ 【右頁下段 挿絵】 石𣞀(せきたん) 《割書: とねりこ》 合歡(がうくわん) 《割書: ねむの|   き》 楡木(ゆぼく)《割書:にれ》 【左頁上段】 ○葉(よう)は木のはなり 嬾葉(どんよう)わかば紅葉(こうよう)も みぢば落葉(らくよう)おちば 病葉(ひやうよう)わくらは ○株(しゆ)はくゐぜなり俗(ぞく) にいふかふなり土(つち)に 入を根(ね)といひ土を出 るを株(しゆ)といふ ○蘖(かつ)は木のわかば への事なり枿(かつ)丕(かつ)【孑ヵ𣎴ヵ】 ならびに同 ○芽(げ)は草(くさ)のめざし いつるをいふ萌芽(ばうか)と もいふ又さしめを云 【左頁下段 挿絵】 葉(よう)《割書:は》 蘖(かつ) 《割書:ひこ| ばへ》 株(しゆ)《割書: |かぶ》 寄生(きせい)《割書:やどりき》 芽(け)《割書:ぬき| ざし》 【右頁上段】 ○楊(やう)は黄(くはう)白(はく)青(せい) 赤(しやく)の四/種(しゆ)あり白(はく) 楊(やう)は葉(は)まるく青(せい) 楊(やう)は葉(は)ながし赤(しやく) 楊(やう)は霜(しも)くだりて 葉(ば)赤(あか)くそむ水(すい) 楊(やう)は川(かわ)やなぎなり 水辺(すいへん)に生(しやう)ず ○寄生(やどりき)は諸木(しよぼく)に あり枝(えだ)の間(あいだ)木(き)のま たに生(はゆ)る木をいふ 木によりて名(な)かはれ り又/寓木(ぐうほく)ともいふ ○柳(あをやき)は垂條(すいでう)の小 【右頁下段 挿絵】 白楊(はくやう) 《割書: はこやなぎ》 水楊(すいやう)《割書:かわや|  なぎ》 柳(りう)《割書:しだりやなぎ》 【左頁上段】 楊(やう)なり花白し柳(りう) 絮(ぢよ)は柳(やなぎ)のまゆなり ○槐(ゑんじゆ)は葉(は)ほそく花 は黄(き)にして色(いろ)をそ むるに用ゆ又/宮槐(きうくわい) さやを槐角(くわいかく)といふ ○椋(むくのき)棶(らい)同一名/郎(ろう) 来(らい)といふ葉(は)はほし て物をみがきてつや をいだす ○栴檀(せんだん)は葉(は)槐(えんじゆ)のご とく皮(かわ)青(あを)し黄檀(わうたん) 【左頁下段 挿絵】 《割書:あを|  やぎ》 【右頁上段】 白檀(びやくだん)紫(し)檀/赤檀(しやくたん) 黒檀(こくたん)のわかちあり 《割書:補》伽羅(きやら)沈香(ぢんかう)はこの木(き) 朽(くち)てなるなり ○皂莢(さいかし)は葉(は)槐(えんじゆ)に 似(に)たり枝(えだ)にはり有 夏(なつ)ほそく黄(き)なる 花/咲(さく)皂角子(さいかし)共/書(かく) ○柴(しば)は小木(しやうぼく)散財(さんざい) なり俗(ぞく)にしば ○薪(たきゝ)は粗(あらき)を薪(しん)と云 こまかなるを蒸(せう)と 【右頁下段 挿絵】 皂莢(さいけう)《割書:さいかし》 槐(くわい)《割書:ゑん| じゆ》 椋(りやう)《割書:むく》 【左頁上段】 といふ又つまぎ ○竹(たけ)は六十一/種(しゆ)あり 六十年にして一/度(たび) 花さき実(み)のり枯(かる)る 《割書:補》是をじねんこ入(いる)と いふ花をさゝめぐり といふ枯(か)れ尽(つく)れは又 生ず ○筍(たかんな)は笋(たかんな)同 食(しよく)すれは膈(むね)を利(り)し 痰(たん)を消(せう)し胃(ゐ)をさは やかにし水道(すいどう)を通(つう) 【左頁下段 挿絵】 栴檀(せんだん) 伽羅(きやら) 柴(さい)《割書: |しば》 薪(しん)《割書:たき| ぎ》 【右頁上段】 し気(き)をます ○篠(しのざゝ)は小竹(こだけ)なり竹 の根(ね)より生(はゆ)る小ざゝ をいふなり ○箬(じやく)は山に生ずる さゝなり葉(は)大にして長(たけ) 二尺ばかり有此/葉(は)にて 粽(ちまき)をつゝむ篛(じやく)同 ○篁(たかむら)は竹の苗(なへ)なり たかむらともいふ ○蘆竹(なよたけ)は葉(は)大にし て芦(あし)に似(に)たるまた 【右頁下段 挿絵】 篠(でう)《割書:しの| ざゝ》 筍(しゆん)《割書:たかんな|たけのこ》 竹(ちく)《割書:たけ》 《割書: 淡竹(はちく)| 苦竹(まだけ)》 箬(じやく) 《割書: さゝ》 【左頁上段】 秋芦竹(しうろちく)ともいふ ○棕竹(しゆろちく)は一名/実(じつ)竹 葉(は)棕櫚(しゆろ)に似(に)たり 杖(つえ)又/柱杖(しゆちやう)につくる也 ○枎竹(ふちく)はふたまた竹 なり双(さう)【雙】竹(ちく)とも天親(てんしん) 竹(ちく)とも又/相思(さうし)竹とも いふなり ○紫竹(しちく)は斑(はん)竹とも いふ舜(しゆん)のきさき娥(か) 皇(くはう)女英(ぢよゑい)のなみだが かゝりてまだらにそ 【左頁下段 挿絵】 篁(くわう)《割書:たかむら|  だけ》 蘆竹(ろちく)《割書:なよたけ|しのびだけ》 【右頁上段】 みたるとなり ○無節(むせつ)竹はきせる のらうにもちゆる 竹なり ○■(ふく)【竹冠+復】はさゝめぐりと いふ竹の実(み)なり一名 竹米(ちくべい)といふ《割書:補》俗(ぞく)にいふ じねんことて竹の病(やまひ) なりと実(み)の中(なか)に米(こめ) のごとき物あり ○籜(たく)は竹のかわなり 又/竹皮(ちくひ)とも筍皮(じゆんひ)と 【右頁下段 挿絵】 椶竹(そうちく) 《割書:しゆろ| ちく》 枎竹(ふちく)  《割書:ふた| また|  だけ》 紫竹(しちく)《割書:むらさき|  だけ》 【左頁上段】 もいふ ○筒(とう)はたけのつゝ 筩(よう)【『訓蒙図彙』では「とう」】同/竹節(ちくせつ)たけ のふしなり ○蔑(べつ)はたけのあを かわ俗(ぞく)にいふかづらそ ■(へつ)【竹冠に蜜、『訓蒙図彙』では「䈼」】筠(きん)同 ○幹(かん)は木(き)の心(しん)なり 俗(ぞく)にいふみきなり ○根(こん)は木(き)の根(ね)なり 柢(てい)同/本(ほん)とも ○枝(し)は木(き)のゑだなり 【左頁下段 挿絵】 ■(ふく)【竹冠+復】 《割書:さゝめ|ぐり》 筒(とう) 《割書:たけ| の|つゝ》 無/節竹(せつちく)《割書:らう| だけ》 籜(たく) 《割書: たけの| かは》 蔑(べつ)《割書:たけの| あをかは|たけの| かづら》 【右頁上段】 柯(か)同ほそきゑだを 條(でう)といふずはえ樹(き)の またを椏(あ)といふ ○梢(せう)は木(き)のこずへなり 杪(しやう)同 ○炭(たん)はあらずみなり 烏銀(うぎん)ともいふ桴炭(ふたん) はけしずみ ○杮(し)はこけら榾柮(こつとつ)は きのはし鋸末(きよまつ)は おがくずなり 【右頁下段 挿絵】 幹(かん)《割書:から|みき》 根(こん)《割書:ね》 枝(し) 《割書: えだ》 炭(たん) 《割書: すみ》 梢(せう) 《割書: こずへ》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之二十    花草(くはさう) 《割書:此部(このぶ)にはもろ〳〵の草(くさ)|花(ばな)をしるす》 【左頁上段】 ○牡丹(ぼたん)はふかみ ぐさともはつかく さともいふ花(はな)の 王(わう)とす紫花(しくは)多(おゝ) し紅白(こうはく)あり紅(べに)を 上/品(ひん)とす尤(もつとも)花の 富貴(ふうき)なるものな りと古人(こじん)も賞(しやう)ぜ り一名/花王(くはわう)又/木(もく) 芍薬(しやくやく)といふ牡丹(ほたん) 皮(ひ)とて薬(くすり)に用(もち)ゆ 【左頁下段 挿絵】 《割書:はつか| ぐさ》 牡丹(ほたん) 《割書: ふかみ|  ぐさ》 【左頁上欄書入れ】Fasc.9   9 99 【右頁上段】 ○芍薬(しやくやく)は三/枝(し)五 葉(よう)なり花/牡丹(ぼたん)に 似(に)てすこし小(ちい)さ し夏(なつ)の初(はじめ)に花 さく紅白(こうはく)紫(むらさき)あり 花相将離(くはしやう〳〵り)といふ也 根(ね)を薬(くすり)に用ゆ ○桜草(さくらさう)は葉(は)蕪(ぶ) 菁(せい)の如(ごと)くにしてこ はし花/紫(むらさき)白(しろ)なり 三月花さく 【右頁下段 挿絵】 芍(しやく)  薬(やく) 《割書: かほ|  よ|   ぐさ》 桜草(さくらさう) 【左頁上段】 ○葵(あふひ)は惣名(さうみやう)なり 葉(は)大にして花は 紅(べに)又/紫(むらさき)あり五月 花さく実(み)は大さ 指(ゆび)のごとくかわう すくして扁(へん)なり ○蜀葵(しよくき)はからあふ ひなり花/千重(せんえ)に して濃(こき)紅(べに)別(べつ)して うるはし菺葵(けんき)同又 戎葵(しうき)ともいふ ○錦葵(きんき)はこあふひ なり又/銭葵(ぜにあふひ)とも云 荊葵(けいき)同 【左頁下段 挿絵】 錦葵(きんき)《割書:こあふひ》 葵(き)《割書:あふひ》 蜀葵(しよくき) 《割書: からあふひ》 【左頁上欄書入れ】100 【右頁上段】 ○芙蓉(ふよう)は葉(は)葵(あふひ) のごとく花/紅白(こうはく)有 一重(ひとへ)千重(せんゑ)ありひと ゑは木槿(もくげ)似(に)て大 なり清(きよ)く美(び)なり 七月花さく ○竜胆(りうたん)は花/桔梗(ききやう) の花の色(いろ)のごとく 葉(は)は笹(さゝ)のごとし 九月のすへ花さく 俗(ぞく)にりんだうといふ 【右頁下段 挿絵】 芙蓉(ふよう) 龍膽(りうたん) 《割書: ゑやみぐさ》 【左頁上段】 ○秋葵(かうそ)は一名/黄蜀(くはうしよく) 葵(き)といふ又/側金盞(そくきんさん) 葉(は)とがりせばくきざ あり秋うす黄(き)なる 花さく俗(ぞく)にとろゝ ○莠(はくさ)は稷(ひえ)【稗ヵ】に似(に)て 実(み)なし一名/狗尾(くび) 草(さう)と禾粟(あわ)の中(なか)に 生ず俗(ぞく)にゑのころ 草(ぐさ)といふ ○金銭花(きんせんくは)は午時(ごじ) 花(くは)ともいふ秋花さく こい紅(べに)にてうるはし 一名/子午花(しごくは) 【左頁下段 挿絵】 秋葵(しうき)《割書:かうそ》 莠(いう)《割書:はくさ》 金銭花(きんせんくは) 《割書: ごしくは》 【左頁上欄書入れ】101 【右頁上段】 ○蘭(らん)は茎(くき)むら さきに葉(は)みどり なり水沢(すいたく)のほと りに生ず花/黄(くはう) 白(はく)にしてかうばし 蘭(らん)は品類(ひんるい)多(おほ)し ○風蘭(ふうらん)は一名を 桂蘭(けいらん)とも吊蘭(てうらん) ともいふ此/類(るい)に 岩蘭(いはらん)岩石蘭(がんぜきらん) なといふあり 【右頁下段 挿絵】 蘭(らん)《割書:ふじ| ばかま》 風蘭(ふうらん) 【左頁上段】 ○鶏冠(けいくわん)は葉(は)莧(ひゆ) に似(に)て少(すこ)し長(なが) く茎(くき)赤(あか)し花は 赤(あか)黄(き)又は交(まじ)り有 六七月花さき霜(さう) 後(ご)まであり鶏頭(けいとう) 花(げ)とも書(かく)なり ○秋海棠(しうかいどう)は秋 花さくうす紅色(べにいろ)也 茎(くき)葉(は)ともに少(すこ)し あかみあり 【左頁下段 挿絵】秋(しう) 海(かい) 棠(だう) 鶏冠(けいくわん)《割書: |けいとうげ》 【左頁上欄書入れ】102 【右頁上段】 ○剪秋羅(せんをうけ)は花(はな) 石竹(せきちく)のごとく朱(しゆ) 色(いろ)にて美(び)なり 六月花/咲(さく)ふし 黒(ぐろ)といふも此/類(たぐひ)也 ○剪春羅(がんひ)は花 の色(いろ)せんをうより 薄(うす)く黄(き)みあり ○薏苡(ずゞたま)は子/白(しろ)と 黒(くろ)有/薏苡子(よくいし)と いふ五膈(ごかく)を治(ぢ)す 【右頁下段 挿絵】 剪秋羅(せんしうら)《割書:せんをう|   げ》 剪(せん)  春(しゆん)   羅(ら)《割書: |がんひ》 薏苡(よくい)《割書:ずゞ| たま》 【左頁上段】 ○百合(ゆり)は品類(ひんるい)多(おほ)し 此花三月/末(すへ)より咲(さく) 紅うす紅あり ○巻丹(おにゆり)は六七月に 花さく大にして黄(き) 赤(あか)し五六尺もたち のびて花多くさく 葉(は)の間にくろき実(み) を生す一名/番山丹(ばんさんたん) ○山丹(ひめゆり)は四月/初(はじめ)に 花さく小(ちいさ)くして赤(あか) 白有赤は極朱(ごくしゆ)也 うるはし渥丹(をくたん)同 此外(このほか)類(るい)多くあり 【左頁下段 挿絵】 百合(ひやくかう)《割書:ゆり》 巻丹(けんたん) 《割書:おに| ゆり》 山丹(さんたん) 《割書: ひめ|  ゆり》 【左頁上欄書入れ】103 【右頁上段】 ○他偸(えびね)は四月の 末(すへ)より花さく其(その) 品(しな)多し花黄(き)なる あり紫(むらさき)有花色に 種々(しゆ〴〵)かはり有又秋 さく花もあり ○麗春(びしんさう)は三月に 花さく一重(ひとへ)は本紅(ほんへに)也 千重(せんゑ)は紅にしてつま 白し一名/仙女蕎(せんぢよけう) 又/御仙花(ぎよせんくは)といふ 【右頁下段 挿絵】 他偸(たゆ)《割書:えび|  ね》 麗春(れいしゆん)《割書:びじん|  さう》 【左頁上段】 ○金盞花(きんさんくは)は花 のかたち盞(さかづき)の如(ごと) し色(いろ)赤(あか)し三月 花さく今(いま)誤(あやま)りて 金銭花(きんせんくは)といふ金 銭花は別種(べつしゆ)なり ○春菊(かうらいぎく)は花/白(しろ)く にほひ黄(き)なり三 月花さく蒿菜(かうさい) 花(くは)といふはばへの 時(とき)食(しよく)す 【左頁下段 挿絵】 金盞花(きんさんくは) 《割書: きん|  せん|   くは》 春菊(しゆんきく) 《割書:かう| らい|  ぎく》 【左頁上欄書入れ】104     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         六 【右頁上段】 ○蒲公英(たんほゝ)は花 白き大(おゝい)なり黄(き)成(なる) は小(しやう)なり二三月に 花さく葉(は)をとり て食(しよく)す ○菫菜(すみれ)は一名/箭(せん) 頭草(とうさう)と云すも とりぐさなり花紫 白花(はくくは)又うす紫(むらさき)の もの葉(は)丸(まる)く小(しやう)也 ○虎杖(いたどり)は月水(ぐわつすい)を 通利(つうり)し瘀血(おけつ)を破(やぶ)る 渇(かつ)をやめ小便(しやうべん)を利(り)し 腹(はら)はり満(みつ)るを治(ぢ)ス 【右頁下段 挿絵】 蒲公英(ほこうゑい) 《割書: たん|  ほゝ》 菫菜(きんさい) 《割書:  すみれ》 虎杖(こぢやう) 《割書:いた| どり》 【左頁上段】 ○萱草(わすれぐさ)は花 巻丹(おにゆり)のごとく黄(き) 赤(あか)く初夏(しよか)に咲(さく) 春(はる)若葉(わかば)を取(とり)て 食(しよく)す水気(すいき)乳(にう)よ うはれ痛(いたむ)を治(ぢ)す 食(しよく)を消(せう)すこのん でくら【「へ」脱字ヵ】ば悦(よろこび)てうれ ひなし花/千重(せんゑ) のものは毒(どく)ありあや まりて喰(くう)ふべからず ○酢漿(かたばみ)は一名/酸(さん) 草(さう)といふ俗(ぞく)に云 すいものぐさ 【左頁下段 挿絵】 《割書:わす|  れ| ぐさ》 萱草(くはんざう) 《割書: かた|   ばみ》 酢漿(さしやう) 【左頁上欄書入れ】105     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         七     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         七 【右頁上段】 ○射干(からすあふぎ)はひあふぎ ともいふ葉(は)のかたち 檜扇(ひあふぎ)に似(に)たり花は 黄赤(きあか)し五六月花 さく烏扇(うせん)烏翣(うさう) ならびに同 ○蝴蝶花(こてうくは)は射干(からすあふぎ) の類(るい)なり三月白き 花/咲(さく)黄(き)み中(なか)にあり 俗(ぞく)にやぶらんといふ しやがは射干(しやかん)の音(おん) を誤(あやまり)しものなりと ○夏枯草(かこさう)は野(の)に 多(おほ)し薄紫(うすむらさき)の花/咲(さく) 【右頁下段 挿絵】 射干(しやかん) 《割書: からす|  あふぎ》 蝴蝶花(こてうくは)《割書:しやが》 夏枯草(かこさう) 《割書:  うつぼくさ》 【左頁上段】 ○鴟尾(いちはつ)は葉(は)は射(からす) 干(あふぎ)ににたり花は むらさきなり花 を紫羅傘(しらさん)と いふ四月花さく ○馬藺(ばりん)は沢辺(たくへん) に生(しやう)ず気(き)くさし 花はあやめににて 細(ほそ)し色(いろ)もうすし 馬棟(ばれん)ともいふ夏(なつ) の初(はじめ)に花さく 【左頁下段 挿絵】 鴟尾(しひ)《割書:いち| はつ》 《割書:鴨脚花(かうきやくくは)》 馬藺(ばりん) 【左頁上欄書入れ】106     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         八     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         八 【右頁上段】 ○杜若(かきつばた)は水中(すいちう)に 生(しやう)ず花大にして 色(いろ)桔梗(ききやう)の花の色 にてうるはし夏(なつ) のはじめに花さく ○菖蒲(あやめ)は花/杜(かき) 若(つばた)に似(に)て小(ちい)さく 葉(は)も細(ほそ)し又/菖(しやう) 蒲(ぶ)と云は別種(べつしゆ)也 花なし又花菖 蒲と云物/一種(いつしゆ)有 【右頁下段 挿絵】 杜若 《割書:かき| つばた》 菖蒲(しやうぶ) 《割書: あやめ》 【左頁上段】 ○様錦(もみぢぐさ)は六七月 葉(は)紅(くれなゐ)なり黄緑(きみどり) 色(いろ)をかぬるを十様(しうやう) 錦(きん)といふ又/雁(かん)来(きたり)て 紅(くれない)なるを雁来紅(がんらいこう) といふ俗(ぞく)に葉鶏頭(はげいとう) といふなり ○桔梗(ききやう)は花/紫(むらさき)有 白あり一重(ひとへ)有かさ ね有六月にひらく 又/梗草(かうさう)となづく 【左頁下段 挿絵】 様錦(やうきん) 《割書:もみ|  ぢ| ぐさ》 桔梗(けつかう) 《割書: ききやう》 【左頁上欄書入れ】107     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         九     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         九 【右頁上段】 ○烏頭(とりかぶと)は花きゝ やうの花の色(いろ)なり かたち烏(からす)の頭(かしら)の如(ごと) し亦とりかぶと のかたちに似(に)たり 九月花さく  ○鳳仙花(ほうせんくは)は花/紅(こう) 白(はく)あり七月はな さく又/金鳳花(きんほうくは)と いふ花に黄(くはう)紫(し)碧(へき) ありと 【右頁下段 挿絵】 烏頭(うづ) 《割書: とり|  かぶと》 鳳(ほう) 仙(せん) 花(くは) 【左頁上段】 ○番椒(たうがらし)はせんき を治(ぢ)し虫(むし)をこ ろす人にどく也 ○丈菊(てんがいばな)は一名は迎(けい) 陽花(やうくは)といふ日輪(にちりん) にむかふ花なりよ つて日車(ひぐるま)とも云 花/菊(きく)に似(に)て大(おゝい)也 色(いろ)黄(き)又/白(しろ)きも あり ○杜蘅(とかう)は葉(は)は馬(ば) 蹄(てい)に似(に)たり紫(むらさき) の花/咲(さく)馬蹄香(ばていかう) 土細辛(どさいしん)といふ 【左頁下段 挿絵】 番椒(ばんせう)《割書:たうがらし》 丈菊(じやうきく)《割書:てんがいばな》 杜蘅(とかう)《割書:つぶねぐさ》 【左頁上欄書入れ】108     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         十     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         十 【右頁上段】 ○薔薇(しやうび)は花/紅白(こうこく) 黄(き)薄紅(うすべに)有/千重(せんゑ)の ものを牡丹(ほたん)いばら といひ一重(ひとへ)なるを■(いばら)【棘ヵ䔉ヵ】 薔薇(しやうび)と云一名/月々(げつ〳〵) 紅(こう)又/長春(ちやうしゆん)ともいふ ○慎火(いはれんげ)は一名/景天(けいてん) 又は戒火(かいくは)ともいふ小(しやう) なるを仏甲草(ぶつかうさう)と いふなり ○苔(こけ)蘚(せん)同/水(みづ)に有 を陟(ちよく)釐(り)【𨤲】と云/石(いし)に生(はゆ) るを石濡(せきしゆ)瓦(かはら)に有 を屋游(をくいう)墻(かき)を垣衣(ゑんい)と云 【右頁下段 挿絵】 薔薇(しやうび) 《割書: いばらしやう|       び》 慎火(しんくは)《割書:いはれんげ》 《割書:  仏甲草(ぶつかうさう)》 苔(たい)《割書:こけ》 【左頁上段】 ○酸漿(さんしやう)は五月に 白き花/咲(さき)実(み)赤(あか) くとうろうのごとし よりて金燈篭(きんとうろう)と云 ○旋覆(をぐるま)は葉(は)長(なが)み? 有花は黄(き)にして 菊(きく)ににたり六月に 花さく又九月にむ らさきの花さくを 紫苑(しをん)といふ是(これ)は 見事(みごと)成(なる)花なり 【左頁下段 挿絵】 酸漿(さんしやう)《割書:ほう| つき》 旋覆(せんほく) 《割書: をぐるま》 【左頁上欄書入れ】109     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十一     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十一 【右頁上段】 ○藤(ふぢ)は三月の末(すへ) に花さく色(いろ)紫(むらさき)は おそく花の長(たけ)三 四尺に及(およ)ぶ白花(はくくは)は 早(はや)くさきて短(みじか)し 一名/招豆藤(せうづとう) ○石斛(せきこく)は石上(せきじやう)に 生ず胃(ゐ)の気(き)を 平(たいらか)にし皮膚(ひふ) の邪熱(じやねつ)をさる一 名/石蓫(せきちく) 【右頁下段】 藤(とう)《割書:ふじ》 石斛(せきこく)《割書:いはくすり》 【左頁上段】 ○棣棠(やまぶき)は花黄にし て一重(ひとへ)有/八重(やゑ)有 三月花さくあるひ は地棠花(ぢたうくは)となづく ○巻栢(いはひば)は一名を地(ぢ) 栢(はく)と云/石間(せきかん)に生(しやう)ス 生(しやう)にて用(もちゆ)れば血(ち) を破(やぶり)炙(あぶ)れは血(ち)を止(とむ) ○玉栢(まんねんぐさ)は一名/万年(まんねん) 松(せう)とも云/長(なが)きを石(せき) 松(せう)又/玉遂(ぎよくすい)ともいふ 【左頁下段 挿絵】 棣棠(ていとう)《割書:やまぶき》   《割書:いは| ひ|  ば》 巻栢(けんはく) 玉栢(ぎよくはく) 《割書: まんねん|   ぐさ》 【左頁上欄書入れ】110     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十二     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十二 【右頁上段】 ○葦(あし)は水辺(すいへん)に 生(しやう)ずいまた秀(ひいで)ざ るを芦(ろ)といふ長(ちやう) 成(せい)すると葦(い)と云 葉(は)は竹(たけ)に似(に)て花 は荻(おぎ)のごとし ○蓮(はちす)は花/紅白(こうはく)有 葉(は)を荷(か)といひ根(ね) を藕(くう)といひ花を 芙蓉(ふよう)といひ実(み)を 蓮菂(れんてき)といふ 【右頁下段】 葦(い)《割書:あし》 蓮(れん)《割書:はち| す》 【左頁上段】 ○菖(しやう)は一寸九/節(せつ) なるものを菖(しやう) 蒲(ぶ)と名付(なつく)冬至(とうじ) の後(のち)五十七日にし てはじめて生(しやう)ず ○菰(まこも)は水辺(すいへん)に生(しやう) ず菖(あやめ)にゝたり一名 茭草(かうさう)又/蒋草(しやうさう)ト云 ○蒲(がま)は水辺(すいへん)に生 す筵(むしろ)に織(をる)べし蒲(ほ) 槌(つい)がまほこ花上(くはじやう)の 黄粉(くはうふん)を蒲黄(ほくはう)と云 ○萍(うきくさ)は水上(すいじやう)にあり て根(ね)なし血色(けつしよく)の如(ごと) 【左頁下段 挿絵】 菖蒲(しやうぶ) 菰(こ)《割書:まこ|  も》 萍(へい) 《割書: うき|  くさ》 蒲(ほ) 《割書: がま》 【左頁上欄書入れ】111     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十三     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十三 【右頁上段】 くなるを紫萍(しへい)ト云 ○薜(すげ)は水辺(すいへん)に生ず 香附子(かうぶし)の苗(なへ)ににたり 一名/莎(さ)白(はく)薹(たい) ○藺(ゐ)は沢地(たくち)に生ず 茎(くき)円(まとか)に細(ほそ)く長(なが)し 痳病(りんびやう)に煎(せん)じ用(もち)ゆ ○芡(みづぶき)は中(うち)を補(おぎな)ひ気(きを) ます多(おほ)く喰(くらへ)は風(ふう) 気(き)をうごかす実(み) を芡実(けんじつ)といふ ○藎(かりやす)は九月十月に とる緑色(みとりいろ)也/絹(きぬ)を染(そむ) 一名/黄草(わうさう)菉竹(りよくちく)王芻(わうすう) ○莕(あさゝ)は水底(すいてい)に生す 茎(くき)は釵(かんざし)のごとし上/青(あをく) て下白し花(はな)黄(き)に 【右頁下段】 薜(せつ)《割書:すげ》 藺(りん)《割書:ゐ》 莕(きやう) 《割書: あさゝ》 芡(けん)《割書:みづ|  ぶき》 藎(じん)《割書:かり| やす》 【左頁上段】 葉(は)紫(むらさき)にまるし荇(かう) おなじ ○葒(けたで)は茎(くき)ふとく毛(け) あり葉(は)に赤(あか)みあり 実(み)も大きなり ○蘇(しそ)はくき方(けた)にし て葉(は)まるく歯(は)有 色(いろ)紫(むらさき)なり桂荏(けいしん)同 実(み)も葉(は)も薬種(やくしゆ) にもちゆ ○蓼(たで)はくはくらんを やめ水気(すいき)面(おもて)うそばれ たるを治(ぢ)し目(め)を明(あきらか)にす ○萹蓄(うしぐさ)は三月に ちいさき赤(あか)き花を 生ず和名(わみやう)にわやな き扁竹(へんちく)同 【左頁下段 挿絵】 萹蓄(へんちく)《割書:うし| ぐさ》 葒(こう) 《割書:けたで》 蘇(そ)《割書:のらえ|  しそ》 蓼(れう)《割書:たで》 《割書:水蓼(すいれう)|  いぬたで》 【左頁上欄書入れ】112     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十四     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十四 【右頁上段】 ○菊(きく)は百/種(しゆ)あり 花も数品(すひん)あり頭(づ) 痛(つう)目(め)を明(あき)らかに し年(とし)をのぶると いへり薬(くすり)には黄色(きいろ) なる菊(きく)に一/種(しゆ)あり ○莣(おばな)は茅(ちがや)にゝたり 皮(かは)は縄(なわ)又は履(くつ)につ くるなり大を石芒(せきばう) 小を芭芒(はばう)といふ ○荏(え)は白蘇(はくそ)とも いふ山野(さんや)に多(おほ)く 生(しやう)ず油(あぶら)おほし えのあぶらといふ 【右頁下段 挿絵】 《割書:女節(じよせつ)|   花》 菊(きく) 《割書:かはら| よもぎ》 莣(はう)《割書:おばな|すゝき》 荏(じん)《割書:え|はくそ》 【左頁上段】 ○牽牛(あさがほ)は葉(は)三 尖(とがり)あり花はむらさ き白はむかしより 有/近比(ちかごろ)新花(しんくは)出 て紅絞(べにしぼり)飛入(とびいり)花形(くはぎやう) も品々(しな〳〵)あり ○鼓子(ひるがほ)は花のかた ち軍中(ぐんちう)に吹(ふく)鼓子(くし) のごとし故(ゆへ)に鼓子(くし) 花といふ又/旋(せん)葍(ふく) 花(くは)ともいふ ○蒴藋(そくづ)は枝(えだ)ことに 五/葉(よう)花白く実(み) 青(あを)く緑豆(ふんどう)のことし 痛所(いたみしよ)に葉(は)を付 煎(せん)じ洗(あら)ふてよし 一名/接骨草(せつこつさう) 【左頁下段 挿絵】 鼓子(くし) 《割書: ひるがほ》 牽牛(けんご) 《割書: あさ|  がほ》 蒴藋(さくてき) 《割書:そく|  つ》 【左頁上欄書入れ】113     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十五     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十五 【右頁上段】 ○水仙花(すいせんくは)は冬(ふゆの) 初(はじめ)より花ひらき 初春(しよしゆん)まで花有 かたち酒盃(しゆはい)の如く 黄(き)なる物有花び らは白しよつて金(きん) 盞銀台(さんきんだい)といふ 葉(は)は石蒜(せきさん)にゝたり ○麦門冬(ぜうがひげ)は四月 にうすむらさきの 花ひらく実(み)緑(みとり)に して珠(ま)【元禄八年版「たま」】のごとく丸(まる) し秋(あき)の比(ころ)みのる此 根(ね)を薬(くすり)に用(もち)ゆ 【右頁下段 挿絵】 水仙花(ずいせんくは) 麦門冬(ばくもんう)【元禄八年版「ばくもんとう」】 《割書:  せうがひけ》 【左頁上段】 ○瞿麦(なでしこ)は花の色(いろ) 薄紫(うすむらさき)六月にさく 河原(かはら)に多(おほ)し近(ちか) 比(ごろ)は新花(しんくは)あり色 も品々(しな〳〵)あり ○石竹(せきちく)は撫子(なでしこ)によく 似(に)て花/紅白(こうはく)又は絞(しぼり) など種々(しゆ〳〵)あり五六 月に花さく一重(ひとへ)千(せん) 重(ゑ)あり ○玉簪(ぎぼうし)は葉(は)大なり 秋花さく色うす紫(むらさき) 数品(すひん)ありて色もかは れり一名/白鶴仙(はくくはくせん) 【左頁下段 挿絵】 瞿麦(くばく)《割書:なでしこ》 石(せき)  竹(ちく) 玉簪(ぎよくさん) 《割書:ぎ| ぼう|   し》 【左頁上欄書入れ】114     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十六     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十六 【右頁上段】 ○蒼朮(さうじゆつ)は花うす 赤(あか)し脾(ひ)をすこやか にし湿(しつ)をかわかし中(うち) をゆるくす山薊(さんけい)と もいふ花白きは白朮(ひやくじゆつ)也 ○木賊(もくぞく)は目(め)のかすみ を退(しりぞけ)積塊(しやくくわい)を消(せう)す 和名(わみやう)とくさ板(いた)など おろし磨(みがく)に用(もち)ゆ ○山葱(さんさう)は一名を膈(かく) 葱(さう)とも又/鹿耳(ろくに) 葱(さう)ともいふ俗(ぞく)に いふぎやうじやにん にくなり 【右頁下段 挿絵】 蒼朮(さうじゆつ) 《割書: おけら》 木賊(もくぞく) 《割書:とく|  さ》 山葱(さんさう) 《割書: ぎやうじや|   にんにく》 【左頁上段】 ○石荷(ゆきのした)は一名/虎耳(こし) 草(さう)といふ水湿(すいしつ)の地(ち) に生す五月花/咲(さく) ○馬勃(ばぼつ)は湿地(しつち)くち 木のうへなとに生 ずのどのいたみを 治(ぢ)す灰菰(くはいこ)牛尿(ぎうし) 菰(こ)となづく ○石韋(ひとつば)は湿地(しつち)に 生ず葉(は)大にして かたく皮(かわ)のごとし枝(えた) なく一/葉(よう)づゝ生ず 労熱(らうねつ)邪気(じやき)をつかさ とり痳病(りんびやう)を治(ち)す ○螺厴(まめづる)は一名/鏡面(きやうめん) 草(さう)といふ石上に生ス かゞみぐさ又/豆(まめ)ごけ 【左頁下段 挿絵】 馬勃(ばぼつ)《割書:おに| ふすべ》 石荷(せきか)《割書:ゆきのした》 石韋(せきい) 《割書: ひとつば》 螺厴(らゑん)《割書:まめづる》 【左頁上欄書入れ】115     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十七     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十七 【右頁上段】 ○芭蕉(ばせを)は葉(は)落(おち) ず一/葉(よう)のぶる時は 一/葉(よう)焦(こがる)よつてこ れを芭蕉(ばせを)といふ ○苧(まを)皮(かは)をはぎて 布(ぬの)を織(をる)さらし布(ぬの)は これなり紵(ちよ)同から うしともいふ ○艾(よもぎ)は春(はる)苗(なへ)を生し 秋/小(ちいさ)き花さく艾(かい) 蒿(かう)なり又蓬蒿(はうかう) といふ ○薢(かい)は腰(こし)背(せなか)いた みこはりたるを治(ぢ)し 腎(じん)をおぎなひ筋(すぢ) をかおたくし精(せい)を まし目(め)を明(あきらか)にす 【右頁下段 挿絵】 芭(ば)  蕉(せを) 薢(かい) 《割書: とこ|  ろ》 苧(ちよ)《割書:まを》 艾(がい)《割書:よもぎ》 【左頁上段】 ○華蔓草(けまんさう)はは なのかたちけまんの かざりによく似(に)たり 薄紅色(うすべにいろ)なり三月 花さく ○鼠麴(はゝこくさ)は小(ちいさ)く黄(き)な る花さく鼠(ねずみ)の耳(みゝ) の毛(け)のことくなる実(み)を 生す又/鼠耳草(そじさう)と もいふ ○羊蹄(きし〳〵)は一名/禿(とつ) 菜(さい)とも又/牛舌菜(ぎうぜつさい) ともいふ実(み)を金蕎(きんけう) 麦(ばく)といふ 【左頁下段 挿絵】 華蔓(けまん) 鼠麴(そきく) 《割書: はゝこぐさ》 羊蹄(ようてい)《割書:ぎし〳〵》 【左頁上欄書入れ】116     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十八     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十八 【右頁上段】 ○陵苕(のうせんかつら)は木(き)にま とふ夏(なつ)より秋迄 花/咲(さく)色(いろ)赤(あか)し又 陵霄花(れうせうくは)といふ ○藍(あひ)は葉(は)蓼(たで)に 似(に)て大(おほい)なりいぬた での如(ごと)く葉(は)の中(なか)に 黒(くろ)きてんあり五六月ニ 紅(くれない)の花さく葉を 染色(そめいろ)にもちゆ ○茜(あかね)はあかき色(いろ)を そむる草(くさ)なり一 名/地血(ぢけつ)といふ又/染(せん) 緋草(ひさう)ともいふ 【右頁下段 挿絵】 藍(らん) 《割書: あひ》 《割書:  のうぜん|   かづら》 陵苕(れうてう) 茜(せん)《割書:あかね》 【左頁上段】 ○山薑(いぬはじかみ)は葉(は)姜(はじかみ)に 似(に)て花あかし子(こ)は 草豆蒄(さうづく)にゝてね は杜若(かきつばた)にゝたり一名 美草(びさう) ○沢漆(たうだいぐさ)は葉(は)馬歯(すべり) 莧(ひゆ)に似(に)たり円(まとか)にし てみどり碧(あを)き花 さく毒草(どくさう)なり ○蓖麻(たうごま)は葉(は)瓠(ひさご)の 葉(は)のごとく中(うち)空(むなしう) して五また有/秋(あき) 花さき実(み)をむす ぶ実(み)に刺(はり)あり 【左頁下段 挿絵】 山薑(さんきやう) 《割書: いぬはじ|     かみ》 澤漆(たくしつ) 《割書: たう|  だい|   ぐさ》 蓖麻(ひま) 《割書: たうごま》 【左頁上欄書入れ】117     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十九     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十九 【右頁上段】 ○蒼耳(をなもみ)は葉(は)茄子(なすび) のごとし風湿(ふうしつ)づつう 気(き)をまし目(め)を明(あきらか) にししびれを治(ぢ)ス ○車前(おほばこ)はながきほ を出す七八月の比(ころ) 実(み)をとる芣苡(ふい)牛(ぎう) 舌(せつ)同 ○竜芮(うしのひたい)は四五月に 黄(き)なる花さき実(み) をむすぶ大さ豆(まめ)の ごとし一名/地椹(ぢしん) ○防風(ばうふう)は正月に 葉(は)を生(しやう)じ五月 に黄(き)なる花さき 六月にくろき実(み)を むすぶ 【右頁下段 挿絵】 車前(しやぜん) 《割書:  おほばこ》 蒼耳(さうに)《割書:をな| もみ》 龍芮(りうぜい)《割書: |うしの| ひたい》 《割書:  はま|    にがな》 防風(ばうふう) 《割書:苗(なへ)を珊瑚菜(さんごさい)と|       いふ》 【左頁上段】 ○紅花(こうくは)は血(ち)をやぶ り瘀血(をけつ)のいたみを とめ大べんを通(つう)ず 花をとりて紅(べに)とす ○積雪(かきどをし)は本名(ほんみやう)つぼ くさといふ葉(は)まるく して銭(ぜに)のごとくつる なり連銭草(れんぜんさう)胡(こ) 薄荷(はつか)並同 ○苦参(くらゝ)は葉(は)槐(えんじゆ)に似(に) たり花/黄色(きいろ)にして 実(み)はさや有/根(ね)甚(はなは)だ にがし水槐(すいくはい)地槐(ぢくはい)同 ○蛇牀(じやしやう)は気(き)をくだし 中(うち)をあたゝめ瘀(を)を おい風をさる■(き)【元+由、訓蒙図彙「虺」】牀(しやう) 蛇栗(じやりつ)同 【左頁下段 挿絵】 紅花(こうくは)《割書:べにの|はな》 積雪(しやくせつ) 《割書: かきど|  を|   し》 苦(く)   参(じん) 《割書:   くらゝ》 蛇牀(じやしやう) 《割書:   ひる|    むしろ》 【左頁上欄書入れ】118     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        二十     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        二十 【右頁上段】 ○鼠莽(しきみ)は実(み)は天(また) 蓼(たび)の実(み)のごとし 毒(どく)あり ○葛(くず)は粉(こ)は渇(かつ)を止(やめ) ゑづきをとめ胃(ゐ)を ひらき酒(しゆ)どくを解(け) し大小/便(べん)を利(り)し 熱(ねつ)をさる ○紫草(しさう)は九竅(きうけう)を つうじ水(みず)を利(り)しは れを消(せう)すほうさ うによし一名/茈(し) 䓞(れい)といふ ○鴨跖(かうせき)は野外(やぐはい)に生 ず花あをし 碧蝉花(へきせんくは)笪竹花 並同 【右頁下段 挿絵】 《割書:しき| み》 鼠(そ)  莽(まう) 紫草(しさう) 《割書: むら|  さき》 葛(かつ)《割書:くず》 鴨跖(かうせき)《割書:ついくさ》 【左頁上段】 ○南星(なんせう)は風疾(ふうしつ)を治(ぢ) し身(み)をやぶりこわ ばりたるによし又/虎(こ) 掌(しやう)鬼(き)■(く)【艹+竭、蒟ヵ】蒻(にやく)といふ ○防已(ばうい)は風湿(ふうしつ)脚気(かつけ) の痛(いたみ)を治(ぢ)し癰(よう)はれ 痛(いたむ)を治(ぢ)す解離(かいり)共云 ○牛膝(ごしつ)湿(しつ)にてしびれ なへ腰(こし)脚(あし)いたむを治(ぢ)ス 山/莧菜(けんさい)対節菜(たいせつさい) となづく ○水莨(たからし)はおこりに此 葉(は)を寸口(すんこう)に付れはお つるなり大毒(だいどく)あり ○絡石(ていかかづら)は葉(は)橘(たちばな)の如(ごと) く花白く実(み)くろし 石をまとふ 【左頁下段 挿絵】 天南星(てんなんせう) 《割書:   おほ|    そみ》 絡石(らくせき) 《割書:  ていか|   かづら》 防已(ばうい)《割書:つゞら| ふぢ》 牛膝(ごしつ)《割書: |ゐのこ| づち》 水莨(すいらう)《割書:たからし》 【左頁上欄書入れ】119     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿一     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿一 【右頁上段】 ○茴香(ういきやう)は疝気(せんき)を のぞき腰(こし)はらのい たみをやめ胃(ゐ)を あたゝむ蘹香(くはいかう)同 ○■(めな)【艹+稀、豨ヵ】薟(もみ)は花/黄(き) 白なり一さいの毒(どく) 虫(むし)のさしたるに此 葉(は)をもみて汁(しる)を 付てよし ○天茄(こなすび)は一名/龍葵(りうき) といふ葉(は)茄(なすび)ににて 小なり五月のすへ 小(ちいさ)き白花をひら き小(ちいさ)き青(あを)き実(み)のる 【右頁下段 挿絵】 茴香(ういきやう) 《割書:くれの|  おも》 ■(き)【艹+稀、豨ヵ】薟(けん) 《割書: めな|  もみ》 天茄(てんか)《割書:こな| すび》 【左頁上段】 ○蒿(かう)は青蒿(せいかう)又/蓬(ほう) 蒿(かう)といふ藾蕭萩 同邪気を払ふ ○茺蔚(じゆうい)は益母草(やくもさう) といふ湿地(しつち)に生ず ○茵蔯(ゐんちん)は葉(は)のう ら白くまた有九 月にほそき黄(き)な る花さく ○玄及(げんきう)は実(み)を五 味子(みし)といふ枝(えだ)を切(きり) 水につけ置(をけ)はね ばり出る油(あぶら)のかはり に髪(かみ)に付る ○地膚(ぢふ)は若葉(わかば)をく らふ落帚(らくしう)独帚(とくしう)同 此木(このき)を帚(はうき)とす 【左頁下段 挿絵】 青蒿(せいかう)《割書:かはら| よもぎ》 茺蔚(じゆうい)《割書:めはしき》 玄(げん)  及(きう) 《割書:さねかつら》 茵蔯(いんちん)《割書: |かはらよもぎ》 地膚(ぢふ)《割書:はゝきゞ》 【左頁上欄書入れ】120     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿二     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿二 【右頁上段】 ○忍冬(にんとう)は木にま とふ葉(は)青(あを)く毛(け)有 三四月花さく初(はじめ)は白(しろ) く後(のち)に黄(き)なり仍而(よつて) 金銀花(きん〴〵くは)といふ ○茅(ばう)は水をくたし血(ち) を破(やぶ)り小/腸(ちう)をつうじ 消渇(せうかつ)鼻血(はなぢ)下血(げゝつ)を 治(ぢ)す又/荑(てい)といふ ○萍蓬(かうほね)は水沢(すいたく)に 生す葉(は)慈姑(おもだか)に にたり水栗(すうりつ)骨(こつ) 蓬(はう)同 ○藻(も)は水に有/葉(は) 大なるは馬藻(ばさう)葉(は)の ほそきは水蘊(すいうん)と云 馬尾藻(ばびさう)ほだはら 【右頁下段 挿絵】 忍冬(にんどう)《割書:すいかづら》 茅(ばう)《割書:菅茅(くはんはう)|   かや》 《割書:白茅(はくばう)| つばな》 藻(さう)《割書:も》 萍蓬(へいほう)《割書:かうほね》 【左頁上段】 ○菝葜(えびついばら)は山野(さんや)に 多(おほ)し茎(くき)かたくし て刺(はり)あり葉(は)丸(まる)く 大(おゝい)にして馬(むま)の蹄(ひつめ) のごとし秋あかき 実(み)のる ○萩(はぎ)は郊野(かうや)に生 ずるを野萩(のはぎ)と云 葉(は)さきとがり花/少(ちいさ) き也/宮城野(みやぎの)といふは 花/紅白(こうはく)有て大(おゝい)なり 【左頁下段 挿絵】 萩(しう)《割書:はぎ》 菝葜(はつかつ) 《割書: えびつ|  いばら》 【左頁上欄書入れ】121     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿三     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿三 【右頁上段】 ○建蘭(けんらん)は今いふ 白蘭(はくらん)なり一に 蕙花(けいくは)ともいふ又 鉄脚蘭(てつきやくらん)ともいふ ○金燈(きつねのかみそり)は石蒜(せきたん) といふしびとばな也 一名/鬼燈檠(きとうけい)又 曼珠沙花(まんじゆしやけ)とも いふ秋の末(すへ)赤(あか)き 花さく茎(くき)は矢(や)から の如しよつて一枝箭(いつしせん) 【右頁下段 挿絵】 建蘭(けんらん) 《割書: しう|  くき》 金燈(きんとう)《割書:きつねの| かみ|  そり》 【左頁上段】 ○石帆(うみまつ)は石上(せきじやう)に生ず ○茎(くき)はくきなり 𦼮(かん)【艹+幹】同/茎( き)【元禄八年版「くき」】の衣(ころも)を 苞(はう)といふはかま也 草根(くさのね)を荄(かい)といふく さのねなり ○薹(たい)はふき萵(ちさ)な どのたうなり葶(てい) 同 ○葩(は)ははなびらなり 花片(くはへん)花瓣(くはべん)並同 【左頁下段 挿絵】 莖(きやう)《割書: |くき》 石帆(せきはん) 《割書: うみまつ》 葩(は) 《割書:はなびら》 薹(たい)《割書: |たう》 【左頁上欄書入れ】122     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿四     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿四 【右頁上段】 ○蔓(まん)はつるなり 木(き)の本(もと)を藤(ふぢ)といふ 草(くさ)の本(もと)を蔓(つる)と云 ○苞(はう)はつぼみなり 蓓蕾(ばいらい)同 ○蕋(ずい)は花のしべ なり蕊(ずい)蘃(ずい)な らびに同又/花心(くはしん) ともいふ ○萼(がく)ははなぶさ なり花蔕(くはたい) 花(くは) 柎(ふ)ならびに同 【右頁下段 挿絵】 蔓(まん) 《割書: つる》 苞(はう)《割書: |つぼみ》 萼(がく)《割書:はなぶさ》 蕋(ずい) 《割書: しべ》 【左頁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之廿一    雑類(ざうるい) 《割書:此部(このぶ)には諸天(しよてん)神仙(しんせん)聖賢(せいけん)仏菩薩(ぶつぼさつ)諸祖師(しよそし)|其外(そのほか)人物(じんぶつ)の部(ぶ)に洩(もれ)たるを補(おぎな)ひしるす》 【左頁上段】   二王金剛(にわうこんがう) ○右(みき)を右弼(うひつ)金剛(こんがう)と云 人の生善(せうぜん)をよろこび たまふ那羅延金剛(ならゑんこんがう) ともいふ ○左(ひだり)を左輔金剛(さほこんがう)と いふ人の断悪(だんあく)をよろ こびたまふ密迹金(みつしやくこん) 剛(がう)ともいふ仏法(ふつほう)の守(しゆ) 護神(ごじん)なれば三門(さんもん)に 安/置(ち)す 【左頁下段 挿絵】 右(う) 弼(ひつ) 金(こん) 剛(がう)   左(さ) 輔(ほ) 金(こん) 剛(がう) 【上欄書入れ】Fase.10     10   123     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        一     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        一 【右頁上段】 ○持国(ぢこく)天王/乾達婆(けんだつば) 毘舎闍(びしやじや)を足下(そくか)に踏従(ふみしたが)へ て東方(とうばう)を守護(しゆご)したま ふ四天王の第一(だいいち)なり ○増長(ぞうちやう)天王/鳩槃荼(くはんだ) 薜茘多(びやくれいた)を足下(そくか)に踏(ふみ) 従(したが)へ南方(なんばう)を守護(しゆご)した まふ四天王の第(だい)二なり ○広目(くはうもく)天王/龍(りやう)及(およ)び富(ふ) 單那(たんな)を足下(そくか)にふみした がへ法界(ほうかい)を安立(あんりう)し西方(さいほう) を守護(しゆご)したまふ ○毘沙門(びしやもん)天皇/夜叉(やしや)羅(ら) 刹(せつ)を足下(そくか)にふみしたがへ 北方(ほつはう)を守護(しゆご)したまふ大 悲多聞(ひたもん)天王ともいふ 【右頁下段 挿絵】 持国(ぢこく)  天王 毘沙門(びしやもん)  天王 【左頁上段】 ○韋駄天(いだてん)は仏法(ぶつほう)の守(しゆ) 護人(ごじん)なり魔王(まわう)仏舎(ぶつしや) 利(り)を奪(うばひ)とり逃(にげる)を追欠(おつかけ) 取返(とりかへ)し給ふなり禅家(ぜんけ)は 厨(くり)に安置(あんち)す ○鐘馗(しようき)は唐(たう)の明皇(めいくはう)夢(ゆめ) に臣(しん)は終南(しうなん)の進士(しんじ)鐘馗(しようき) なり天下(てんか)の虚耗(きよがう)妖孽(ようげつ) を厭(はら)はんと見給ふ故(ゆへ)に 呉道士(ごだうし)に命(めい)して其(その)形(かたち)を 図(づ)せしめ天下(てんか)に伝(つた)ふと云 【左頁下段 挿絵】 新  韋(ゐ)   駄天(だてん)   新  鐘馗(しやうき) 【上欄書入れ】124     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        二     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        二 【右頁上段】  弁才天女(べんざいてんによ) ○衆生(しゆじやう)に智恵(ちゑ)福(ふく) をあたへたまふなり 琵琶(びわ)を弾(たん)じたまふ相(さう) をもつて又は妙音(めうをん) 天女ともいふ  福禄寿(ふくろくじゆ)  ○福神(ふくじん)なり天南星(てんなんせい) といふ星(ほし)の化現(けげん)なり 頭(かしら)ながくして柱杖(しゆじやう)に 経(きやう)を結(ゆひ)そへてもてり 鶴(つる)を愛(あい)す又/鹿(しか)を 愛(あい)すともいふ 【右頁下段 挿絵】 弁才(べんざい)  天女(てんによ)   福禄寿(ふくろくじゆ) 【左頁上段】  大黒天(だいこくでん) ○八万四千の眷属(けんぞく) あり貧困(ひんこん)を転(てん)じて 福者(ふくしや)となさんと誓(ちかひ) たまふ摩伽羅神(まからじん)と もいふなり  蛭子(ゑびす)  ○伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の第三 の御/子(こ)日(ひ)の神(かみ)の御 弟/西宮(にしのみや)蛭子(ゑびす)三郎/殿(どの) といふなり市(いち)の売(ばい) 買(〳〵)を守(まも)り給ふ御/神(かみ) なり 【左頁下段 挿絵】 大(だい) 黒(こく) 天(でん)   蛭子(ゑびす) 【上欄書入れ】125     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        三     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        三  布袋(ほてい) ○志那(しな)の散聖(さんせい)にし て弥勒菩薩(みろくぼさつ)の化身(けしん) なりといへり常(つね)に布(ぬの) の袋(ふくろ)を負(おひ)てあそべ りゆへに布袋(ほてい)和尚(おしやう) と名(な)づけたり  寿老人(じゆらうじん) ○福神(ふくじん)なり老人星(らうじんせい)と いふ星(ほし)の化現(けげん)なり白(はく) 髪(はつ)にして帽子(ほうし)をかぶ り柱杖(しゆぢやう)をもてり鹿(しか)を 愛(あい)す 【右頁下段 挿絵】 布袋(ほてい) 寿老(じゆらう) 【左頁上段】 ○伏羲氏(ふつぎし)唐土(もろこし)の帝王(ていわう) 大/聖人(せいじん)なり此(これ)人生(じんせい)の始(はじめ)に て網罟(まうこ)を作(つくり)て猟(かり)漁(すなどり)を 民(たみ)に教(おしへ)給ふ又/画(ぐわし)_二 八/卦(けいを)_一 瑟琴(しつきん)造(つくり)たまふ ○神農氏(しんのうし)は同/帝王(ていわう)にて 聖人(せいじん)なり民(たみ)に五穀(ごこく)を作(つくる) 事を教(おし)へ又/市(いち)をなし 交易(かうえき)の利(り)を施(ほどこ)し給ふ 帝(みかど)草木(さうもく)を味(あちは)ひ寒温(かんうん) 平熱(へいねつ)の性(しやう)を察(さつ)し人身(じんしん) の病(やまひ)を療(りやう)ずる事を教(おし)へ 給ふ此(これ)より医道(ゐとう)おこる 【左頁下段 挿絵】 新  神農(しんのう)   新  伏羲(ふつき) 【上欄書入れ】126     【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        四 ○倉頡(さうけつ)は黄帝(くはうてい)の代(よ) の人なり眼(まなこ)四ツあり鳥(とり) の足跡(あしあと)を見(み)て始(はじめ)て 文字(もんじ)を作(つく)る是(これ)文字(もんじ)の 祖(そ)たり ○黄帝(くはうてい)は軒轅氏(けんゑんし)といふ 蚩尤(しゆう)といふ逆臣(ぎやくしん)を亡(ほろぼ)し 帝位(ていゐ)に即(つき)給ふ聖人(せいじん)也 此時(このとき)より暦算(れきさん)律呂(りつりよ) 宮室(きうしつ)書契(しよけい)冠服(くはんふく)等(とう)こ と〴〵く具(そなは)る又/始(はじめ)て舟(ふね) を作(つく)り給ふ元妃(げんひ)に命(めい) じて蠶(こがひの)業(わざ)を教(おしへ)給ふ 【右頁下段 挿絵】 倉頡(さうけつ) 黄帝(くはうてい) 【左頁上段】 ○孔子(こうし)は唐土(もろこし)周(しう)の代(よ)の人 尭(ぎやう)舜(しゆん)の道(みち)を弘め五/常(じやう) を教(おしへ)給ふ文宣王(ぶんせんわう)ともいふ 儒宗(しゆそう)の大/聖人(せいじん)なり ○老子(らうし)は周(しう)の代(よ)蔵室(ぞうしつ) の吏(し)たり生れながら白(はく) 髪(はつ)なり道経(とうきやう)五千/言(げん)を 顕(あら)はし無為自然(むいしぜん)の道(みち)を 教(おしへ)給ふ道士(どうし)の大祖(たいそ)神人(しん〴〵) なり其(その)終(おはり)をしらず ○許由(きよゆう)は尭帝(ぎやうてい)位(くらい)を譲(ゆづ) らんとの給ふを聞(きゝ)て其(その)耳(みゝ) 汚(けが)れたりとて潁川(えいせん)の滝(たき)に いたり耳(みゝ)を洗(あらひ)し賢人(けんじん)なり 【左頁下段 挿絵】 老子(らうし) 孔子(こうし) 許由(きよゆう) 【右頁上段】 ○維摩(ゆいま)居士(こじ)ともいへり 手(て)に払子(ほつす)を持(もち)方丈(ほうじやう) の内に八方の師子(しし)の座(ざ) をかざり三千の大衆(たいしゆ)を 入て法門(ほうもん)をヽし給へり ○山越(やまごし)の弥陀(みだ)は比叡山(ひえいざん) 横川(よかは)の峰(みね)に阿弥陀仏(あみだぶつ) の尊容(そんよう)を現(げん)じ給ふを 惠心(ゑしん)僧都(そうづ)拝(おが)み給ひて 写(うつ)し給ひけるとかや ○聖徳太子(しやうとくたいし)は人王卅二代 用明天皇(ようめいてんわう)の皇子(わうじ)なり 卅四代/推古天皇(すいこてんわう)の御宇(ぎよう) 摂政(せつしやう)たり日本(につほん)仏法(ふつほう)の 祖(そ)なり守屋(もりや)を亡(ほろぼ)し摂州(せつしう) 天王寺(てんわうじ)を建立(こんりう)し給ふ 【右頁下段 挿絵】 維摩(ゆいま) 山越弥陀(やまごしのみだ) 聖徳太子(しやうとくたいし) 【左頁上段】 ○出山(しゆつさん)の釈迦(しやか)は如来(によらい) 十七/歳(さい)にして出家(しゆつけ)し 三十歳の御/時(とき)十二月八 日/明星(みやうぜう)の出(いづ)るとき廓(くはく) 然大悟(ねんだいご)をしめし正/覚(がく) を成(なし)たまへり ○誕生仏(たんじやうぶつ)は釈迦如来(しやかによらい) 卯(う)月八日寅の尅(こく)に誕(たん) 生(じやう)し給ひ七/歩(ぶ)あゆみ 御/手(て)の左右(さゆう)をもつて 上下をゆびさして天 上天/下(げ)唯我独尊(ゆいがどくそん)と のたまへりとかや入滅(にうめつ)は 二月十五日なり 【左頁下段 挿絵】 出山(しゆつさんの)釈(しや)迦   誕生物(たんじやうぶつ) 【右頁上段】 ○初祖(しよそ)達磨(だるま)は梁(りやう)の 武帝(ぶてい)にまみへ江をわた りて魏(ぎ)の少林寺(せうりんじ)に入 たまふ世(よ)に芦葉(ろよう)の達(だる) 磨(ま)とも又は一/葦(ゐ)の達(だる) 磨(ま)ともいふ ○不動明王(ふどうみやうわう)右の手(て)に 利剣(りけん)を持(もち)左に搏(ばく)の縄(なわ) を持(もち)給ふは衆生(しゆじやう)の邪悪(じやあく) をいましめ給ふすがたなる べし後(うしろ)の炎(ほのふ)は動(どう)ぜぬ かたち又/凡人(ぼんにん)の怒(いかり)のていを あらはし示(しめ)し給ふなるべし 【右頁下段 挿絵】 達磨(たるま)  尊者(そんじや) 不動明王(ふどうみやうわう) 【左頁上段】 ○龍猛菩薩(りうみやうぼさつ)は南天竺(なんてんぢく) に出生(しゆつしやう)釈尊(しやくそん)より八百年 後(のち)なり真言宗(しんごんしう)第一の 祖(そ)なり大日/経(きやう)金剛頂(こんがうてう)経 蘇悉地経(そしつちきやう)を弘(ひろ)め給ふ ○善導大師(ぜんどうだいし)は唐土(もろこし)長(ちやう) 安(あん)の滝(たき)より出現(しゆつげん)し給ふ 三十/余年(よねん)少(すこし)も睡眠(すいみん)せ ず唐(とうの)永隆(ゑいりう)二年三月十四 日/遷化(せんげ) ○天台(てんだい)大/師(し)は陳(ちん)隋(ずい)二代 の国師(こくし)唐土(もろこし)天台宗(てんだいしう)の開(かい) 祖(そ)十一月廿四日六十歳にて 入滅(にうめつ)智者大師(ちしやだいし)ともいふ 【左頁下段 挿絵】 龍猛(りうみやう) 善導(ぜんどう)  大師(たいし) 天台大師(てんだいだいし) 【右頁上段】 ○六/祖大師(そだいし)は唐土(もろこし)にて 達磨(たるま)より第六/祖諱(いみな)は 惠能(ゑのう)此下(このした)より禅宗(ぜんしう)五 家(か)にわかる大/監(かん)禅師(ぜんじ)は おくり号(がう)なり  ○伝教(でんぎやう)大師は㝡證(さいてう)とも いふ日本(につほん)天台(てんだい)の開祖(かいそ)なり 延暦(ゑんりやく)廿一年に入唐(につとう)五十六 歳六月四日/入滅(にうめつ) ○役行者(ゑんのきやうじや)は役小角(ゑんのせうかく)とも いふ和州(わしう)の人/葛城山(かづらきやま)に入 て孔雀明王(くじやくみやうわう)の法(ほう)を行(おこな)ひ 後(のち)に母(はゝ)を鉢(はち)入て入唐(につとう)し たまふ 【右頁下段 挿絵】 伝教(でんぎやう)  大師(だいし) 六/祖(そ)大師(だいし) 役行者(ゑんのぎやうじや) 【左頁上段】 ○寒山子(かんざんし)は初唐(しよたう)の人 天台山(てんだいさん)に隠(かく)れて常(つね) に拾得(しつとく)と法友(ほうゆう)たり後(のち)に 去(さる)所(ところ)をしらず文殊(もんじゆ)の 化身(けしん)なりといふ ○拾得(じつとく)は豊于禅師(ぶかんぜんじ)の 道(みち)のかたはらに拾(ひろ)ひ得(ゑ) たるゆへ拾得(じつとく)といふ常(つね)に 寒山(かんざん)とまじはるその終(おはり) をしる人なし ○巨霊人(これいしん)は大/力(りき)神通(じんつう) を得(え)たる仙人(せんにん)なり山を 劈(つんざく)の力(ちから)あり常(つね)に白虎(びやくこ) を愛(あい)す 【左頁下段 挿絵】 寒山(かんざん) 拾得(じつとく) 巨霊人(これいじん) 【右頁上段】 ○費長房(ひちやうぼう)は後漢(ごかん)の代(よ) の人なり仙術(せんじゆつ)をまな び得て白鶴(はくくはく)にのりて 空中(くうちう)を飛行(ひぎやう)しあそび たる仙人(せんにん)なり ○琴高(きんかう)は神仙(しんせん)の術(じゆつ)を 学(まな)びて其(その)功(こう)なる大 いなる鯉(こい)に乗(じやう)して水上(すいじやう) を飛行(ひぎやう)し書(しよ)をよみ 遊(あそ)びたる仙人(せんにん)なりと いへり 【右頁下段】 琴高(きんかう) 費長房(ひちやうぼう) 【左頁上段】 ○大公望(たいこうぼう)は尚父(せうほ)ともいへ り渭浜(ゐひん)に釣(つり)して楽(たの)し みたる隠士(いんし)なり後(のち)に 八十/余歳(よさい)に及(およん)で周(しう)の 文王(ぶんわう)その賢(けん)をしり給ひ 師(し)とし給ひ同/武王(ふわう)に兵(へい) を教(おし)ゆついに紂王(ちうわう)を 亡し給ふ ○上利釼(じやうりけん)は釼(つるぎ)を乗(のりもの)と して大海(だいかい)の波上(なみのうへ)を飛(ひ) 行(ぎやう)する術(じゆつ)を得(え)たりと なん 【左頁下段 挿絵】 大公望(たいこうぼう) 上利劔(じやうりけん) 【右頁上段】 ○張九歌(ちやうくか)は宋(そう)の代(よ)に都(みやこ)に 居(きよ)し冬(とう)月にたゞ単(ひとへ)の衣(ころも) きるばかり帝(みかど)あやしみて 召(めし)て酒(さけ)を飲(のま)しむある日 王(わう)にまみへいとまをこひ薄(うす)キ 紙(かみ)を蝶(てふ)のかたちに剪(きり)て 是を放(はな)せば悉(こと〴〵く)飛(とび)さりける 又/招(まねけ)ばかへりて元(もと)の紙(かみ)と成 しとなり  ○鉄拐仙人(てつかいせんにん)は虚空(こくう)に むかつて己(おのれ)がかたちを ふきいだす術(じゆつ)を得(え)た りし仙人なり ○蝦蟇仙人(がませんにん)はつねに 蝦蟇(ひきがへる)を愛(あい)せるゆへに 其(その)名(な)を得(え)たるとなん 【右頁下段 挿絵】 張九哥(ちやうくか) 鐵拐仙人(てつかいせんにん) 蝦蟇(がま)仙人 【左頁上段】 ○西王母(せいわうぼ)は仙女(せんぢよ)なり 前漢(ぜんかん)の武帝(ぶてい)に桃(もゝ)を 奉る味(あぢはひ)甚(はなはだ)美(び)なり帝(みかど) 核(さね)を植(うへ)んと有しかば王(わう) 母(ぼ)の曰(いはく)此(この)桃(もゝ)三千年に一度(ひとたび) 花咲(はなさき)実(み)のる一ツ食(しよく)す れば三千年の寿(ことぶき)をたも つと東方朔(とうぼうさく)此桃を三ツ ぬすみ食(しよく)せりとぞ ○通玄(つうげん)は張果呂(ちやうくはろ)とも いふひさごの中(なか)より駒(こま) を出す術(じゆつ)を得(え)たりし 仙人なり 【右頁下段 挿絵】 西王母(せいわうぼ) 通玄(つうけん) 【右頁上段】 ○天人(てんにん)は首(かしら)の花曼(けまん) しぼむことなく羽衣(はごろも)常(つね) に垢(あか)づかずつねにま たゝきせずとかや然(しかれ) ども命(いのち)終(おは)るときは 楽(たのし)みつきて五/衰(すい)の かなしみあり ○迦陵頻(かれうびん)は天上の 鳥(とり)なり天人(てんにん)の面(おもて)の ごとく声(こゑ)すぐれて 美(うつ)くしよつて妙(めう) 声(せう)鳥(てう)又/好音鳥(かうおんてう)と もいへり是(これ)仏経(ぶつきやう)の 説(せつ)なり 【右頁下段 挿絵】 迦陵頻(かれうびん) 天人(てんにん) 【左頁上段】 ○和歌(わか)は此(この)国(くに)の風俗(ふうぞく)と して三十一/字(じ)のかなをつら ね心を種(たね)として情(じやう)を 述(の)ぶる事/実(まこと)をもとゝ す故(ゆへ)に仏神(ぶつしん)も感応(かんおう) 有ほどの徳(とく)あるは歌(うた)也 それ和歌(わか)は神代(かみよ)より 始(はじま)るといへども住吉(すみよし)大/明(みやう) 神(じん)を以(もつて)歌(うた)の御/神(かみ)と崇(あが)め 奉り衣通姫(そとをりひめ)人麿(ひとまろ)赤(あか) 人を歌(うた)の祖神(そじん)とすと かや後(のち)に俊成(しゆんぜい)定家(ていか)家(か) 隆(りう)のごとき歌人(かじん)数多(あまた)在(あり) て秀歌(しうか)多(おゝ)し 【左頁下段 挿絵】 和歌(わか)  三/神(じん) 衣通姫(そとをりひめ) 人麿(ひとまろ) 赤人(あかひと) 【右頁上段】 ○詩(し)は唐土(もろこし)よりおこれ り故(かるがゆへ)に唐歌(からうた)といふ夫(それ) 詩(し)は和歌(わか)に同じく六(りく) 義(ぎ)あり五/言(ごん)七/言(ごん)とて 五/字(じ)七字に作(つく)り絶句(ぜつく) と律(りつ)とありよく其(その)情(じやう) を述(のべ)て人心(じんしん)を感(かん)ぜし め実(じつ)をあらはす事 詩(しい) 歌(か)の二ツにとゞめたり 白居易(はくきよい)あざ名(な)は楽(らく) 天(てん)晩唐(ばんだう)の詩人(しじん)なり 蘇軾(そしよく)字(あざな)は子瞻(しせん)東坡(とうば) と号(がう)す宋(そう)の代(よ)の人 なり 【右頁下段 挿絵】 詩人(しじん)  白楽天(はくらくてん) 東坡(とうば) 【左頁上段】 ○筆道(ひつどう)は唐土(もろこし)の文字(もんじ) なり漢字(かんじ)といふ晋(しん)の 王義之(わうぎし)筆法(ひつほう)の祖(そ)とす 石面(せきめん)に書(しよ)すれば墨(すみ)石(いし)へ 一寸ばかりしみ入しとなり 日本(ひのもと)にては嵯峨天皇(さがてんわう) 弘法大師(こうぼうだいし)橘逸勢(たちばなのはやなり)是を 三/筆(ひつ)といふ道風(とうふう)佐理(さり) 行成(かうぜい)を三/跡(せき)といふ何れ も筆道(ひつどう)の名誉(めいよ)後世(こうせい) に残(のこ)りて其(その)筆跡(ひつせき)を 尊(たつと)べり尊円親王(そんえんしんわう)の御/筆(ひつ) 跡(せき)を御家(おいゑ)一/流(りう)と称(しやう)じ て今(いま)世(よ)に習(なら)ひもちゆ 【左頁下段 挿絵】 筆道(ひつどう) 晋(しんの)  王義之(わうぎし) 小野道風(おのゝとうふう) 【右頁上段】 ○琴(こと)は伏羲(ふつき)の作(つく)り始(はじ)メ 給ふ五十/弦(けん)又廿五/弦(けん)あり 瑟(しつ)といふ楽器(がくき)を用(もちゆる)を 和琴(わごん)といふ又/世(よ)に翫(もてあそ)べる 十三/弦(けん)の琴(こと)をつくし 琴といふ音曲(おんぎよく)しらべ上手(じやうず) 多(おゝ)くあり ○香(かう)は清浄(せうじやう)潔白(けつはく)の徳(とく) ある物(もの)にて穢(けがれ)をさくる 故(ゆへ)に神前(しんぜん)仏前(ぶつせん)にて焼(たく) なりその香(か)遠(とをき)にいたる 伽羅(きやら)は水(みづ)に入てしづむ也 よつて沈香(ぢんかう)といふ唐土(もろこし) よりきたる 【右頁下段 挿絵】 琴(こと) 香(かう) 【左頁上段】 ○鞠(まり)は唐土(もろこし)女媧氏(じよくはし)の 代(よ)に逆臣(ぎやくしん)蚩尤(しゆう)といふ 者(もの)謀叛(むほん)を企(くわだて)軍(いくさ)に及(および) しが女媧子(じよくはし)は女帝(によてい)なが ら聖徳(せいとく)あれば万民(ばんみん)な びき従(したが)ひ終(つひ)に蚩尤(しゆう)を 討亡(うちほろぼ)し給ひ其(その)頭(かうべ)をは ねたり諸人(しよにん)蚩尤(しゆう)を悪(にく) みて頭(かしら)を蹴(け)たり是(これ)鞠(まり) の始(はじめ)とかや鞠のかゝりは 松(まつ)楓(かへで)柳(やなぎ)桜(さくら)の四本を植(うゆ) るなり飛鳥井家(あすかゐけ)難波(なんば) 家(け)鞠(まり)の御/家(いゑ)なり上が 茂(も)社家(しやけ)松下(まつした)一/流(りう)あり 【左頁下段 挿絵】 新  蹴鞠(しうきく) 【右頁上段】 ○目利(めきゝ)は墨蹟(ぼくせき)古画(こぐは)又 万(よろづ)の器(うつはもの)の真贋(しんがん)をよく 見分(みわく)る人をいふ古筆見(こひつみ) とも名付(なづく)剣(つるぎ)の目利(めきゝ)は 本阿弥(ほんあみ)とて其(その)家(いゑ)あり ○算術(さんじゆつ)は万法(まんほう)にわたり 貴賎(きせん)ともになくてかなは さる事なり天地(てんち)五/運(うん) の行道(ぎやうどう)も算数(さんすう)を以て 考(かんが)ふ高山(かうざん)万里(ばんり)の数(すう)を知(し) る事も皆(みな)算勘(さんかん)の術(じゆつ) をもつてす人間(にんげん)日用(にちよう)算勘(さんかん)の高徳(かうとく)あげてか ぞへがたし 【右頁下段 挿絵】 新 目利(めきゝ) 筭術(さんじゆつ) 【左頁上段】 ○諸礼(しよれい)は人倫(じんりん)の交(まじは)り において礼なくてかなは ざる事なり聖人(せいじん)の 教(をしへ)給ふ六芸(りくげい)といふは礼(れい) 楽(がく)射(しや)御(ぎよ)書(しよ)数(すう)なり中(なか) にも礼を重(おもん)じ給ふこの 国(くに)の礼儀(れいぎ)の作法(さほう)は将(しやう) 軍(ぐん)義満(よしみつ)公の御代(みよ)より始(はじま) れりとぞ小笠原家(おがさはらけ)の 諸礼(しよれい)といふ又/躾方(しつけがた)とも いふ仕官(しくはん)の人は勿論(もちろん)の 事/貴人(きにん)にまじはる人 はしらでかなはぬ芸(げい)な れば心がけ有(ある)べき事也 【左頁下段 挿絵】 新 諸礼(しよれい) 【右頁上段】 ○弓(ゆみ)は射芸(しやげい)といふ武(ぶ) 士(し)の家(いゑ)に生(うま)るゝ人は射(しや) 芸(げい)を学(まな)ばずんばあるべか らず武士(ぶし)を弓執(ゆみとり)とは いふなり唐土(もろこし)に楊由(やうゆう) 基(き)と云し弓(ゆみ)の達人(たつじん)は百 歩(ほ)下(さが)りて柳(やなぎ)の葉(は)を 射(ゐる)に一/葉(は)も射(ゐ)そんずる 事なしとぞ我朝(わがてう)に おゐては鎮西為朝(ちんぜいためとも)能(の) 登守(とのかみ)教経(のりつね)那須与一(なすのよいち) 等(とう)弓(ゆみ)の達人(たつじん)なり其 外(ほか)数多(あまた)精兵(せいへい)の射(ゐ)て ありしなり 【右頁下段 挿絵】 新  弓(ゆみ) 【左頁上段】 ○馬(むま)は乗馬(じやうば)の法(ほう)なり 是(これ)武士(ぶし)の要道(ようどう)なれば 師伝(しでん)を受(うけ)て習(なら)ふべきこ と肝要(かんよう)なり巧者(こうしや)無功(ぶこう) 者(しや)によりて俊馬(じゆんめ)【「俊」は「駿」の当て字ヵ】にても あしく曲(くせ)出(いづ)るなり其/品(しな) 百曲(もゝくせ)ありとかや駒(こま)のし いれ曲(くせ)の直(なを)しやう法式(ほうしき) ありてむかしより八/乗(じやう) 流(りう)あり今世(こんせい)大坪(おほつぼ)の一/流(りう) を専(もつはら)にもちひて武士(ぶし)の 要道(ようどう)とす高山(かうざん)の𡸴(けん)【山+㑒】岨(そ)も たやすく上り大河(たいが)を渡(わたす) も是(これ)みな俊馬(じゆんめ)の徳(とく)也 【左頁下段 挿絵】 新  馬(むま) 【右頁上段】 ○剣術(けんじゆつ)は太刀打(たちうち)の 法(はう)なり兵法者(へいほうじや)とも いふ武士(ぶし)第一の道(みち)也 流儀(りうぎ)あまたあり神(しん) 道流(とうりう)柳生流(やぎふりう)新影(しんかげ) 流/一刀(いつたう)流などさま〳〵 有/併(しかし)未熟(みじゆく)の芸(げい)を 頼(たの)み身(み)の危(あやうき)をしら ざる人まゝ多(おゝ)しいた ましき事にあらすや 今(いま)静謐(せいひつ)の御代(みよ)に おゐては商家(しやうか)職人(しよくにん) 農人(のうにん)等(とう)はしらぬこ そよかるべし 【右頁下段 挿絵】 新  釼術(けんじゆつ) 【左頁上段】 ○囲碁(いご)は周公旦(しうこうたん)作(つく)り 給ふと云/吉備大臣(きびだいしん)入(につ) 唐(とう)の時/伝来(でんらい)といふ三百 六十/目(もく)は年月(ねんげつ)日/数(かず)也九 目(もく)星(ほし)は九/曜(よう)の星(ほし)石(いし)の 黒白(こくびやく)は昼夜(ちうや)を表(ひやう)する なりとぞ ○将棋(しやうぎ)は周(しう)の武帝(ぶてい)臣(しん) 下(か)王褒(わうほう)に命(めい)じて作(つく)ら しむ軍法(ぐんほう)の備(そなへ)をかたど りしものなり大将棋(だいしやうぎ)中 将棋あり今もてあそ ぶを小将棋(しやう〳〵き)といふもと よりならひあるなり 【左頁下段 挿絵】 新  圍碁(いご) 将棊(しやうぎ) 【右頁上段】 ○茶湯(ちやのゆ)はむかしより ある事なれども茶(ちや) 亭(てい)を数寄(すき)屋と号(がう)し 草木(さうもく)の植(うへ)やう料理(りやうり)等に いたるまで法式(ほうしkい)を立(たて)て くわしくなりしは千(せんの) 利休(りきう)よりはじまれり 古田織部(ふるたをりべ)小堀遠州(こぼりゑんしう)な ど茶道(さどう)の達人(たつじん)其/流(りう) 品々(しな〳〵)あり人倫(じんりん)の交(ましは)り 行儀(ぎやうぎ)をしるの一助(いちぢよ)なり 元来(もとより)茶道(さどう)は奢(おごり)をは ぶき敬恭(けいきやう)をもとゝす るを本意(ほんい)とすといふ 【右頁下段 挿絵】 新 茶湯(ちやのゆ) 【左頁上段】 ○立花(りつくは)は京/六角堂(ろくかくだう) の別当(べつたう)池坊(いけのぼう)立花の宗(そう) 匠(しやう)なり毎年(まいねん)七月七日 に門弟(もんてい)参集(さんしう)して立(たつ) る貴賎(きせん)是を見物(けんぶつ)す 又/拋入(なげいれ)の伝(でん)所々(しよ〳〵)に師(し) あり今世(きんせい)なげ入/専(もつはら)に おこなはれて花の会(くわい) 多(おゝ)し宜(むべ)なるかな花 は人の心をなくさめ 欝気(うつき)をさんずるもの なればよきわざにて 貴賎(きせん)のもてあそびと なるもことはりぞかし 【左頁下段 挿絵】 立花(りつくは) 【右頁上段】 ○山伏(やまぶし)を修験道(しゆげんどう)とも いふ真言(しんごん)の法(ほう)なり行(ぎやう)を 修(しゆ)し身(み)をこらし又/高(かう) 山(ざん)大山へのぼりて行(ぎやう)を なすなり常(つね)に天文(てんもん)易(えき) 学(がく)をまなびて諸人(しよにん)の 五/運(うん)八/卦(け)を占(うらな)ひ手(て)の筋(すじ) 吉凶(きつけう)病(やまひ)の軽重(きやうぢう)失物(うせもの)の 方(はう)がく等(とう)を考(かんが)ふまた 一/派(は)役行者(えんのきやうじや)の法(ほう)を修(しゆ) するものあり是を行者(ぎやうじや) の先達(せんだち)といふ人の病(やまひ)を 祈祷(きとう)す垢離場(こりば)あり是を 行者(ぎやうじや)ぼりといふ  【右頁下段 挿絵】 山伏(やまぶし) 【左頁上段】 ○鷹(たか)は唐土(もろこし)五/帝(てい)の時 より賞(しやう)ぜりとかや我(わが) 朝(てう)にわたりしは神功(しんこう) 皇后(くはうごう)の御代(みよ)に百済(ひやくさい) 国(こく)より始(はじめ)て鷹(たか)を奉 る其後(そのゝち)仁徳天皇(にんとくてんわう)の 御代(みよ)に唐(とう)より鷹を 献(けん)ぜしかば御猟(みかり)を催(もよほ)さ れ諸鳥(しよてう)をとらしめた まふ是(これ)鷹狩(たかがり)のはじ めなり鷹は勇気(ゆうき)さ かんにして武備(ぶひ)の鳥(とり) なれば武門(ふもん)に賞(しやう)せら るゝ事/宜(むべ)なり 【左頁下段 挿絵】 鷹(たか)  匠(じやう) 【右頁上段】 ○能(のふ)はむかしよりある 事なれども其/伝(でん)たし かならず後小松院(ごこまつのいん)の 御于(ぎよう)に観世(くはんぜ)世/阿弥(あみ)と いふ者(もの)公方家(くばうけ)の能太(のふた) 夫(いふ)にてさかんに翫(もてあそび)ぬ後(のち) に金春(こんはる)宝生(ほうしやう)金剛(こんがう)と別(わかれ) て四/座(ざ)といへり又/猿楽(さるがく) といふ事は猿田彦(さるたひこ)の余(よ) 流(りう)のいひなりとかや謡(うたひ)は 日本(ひのもと)遊興(ゆうけう)の随一(すいいち)にして 神祇(じんぎ)釈教(しやくきやう)恋(こひ)無常(むじやう)故(こ) 事(じ)世(よ)の諺(ことはざ)まて悉(こと〴〵く)集(あつ) むるものなり 【右頁下段 挿絵】 能(のふ) 脇(わき) 地謡(ぢうたひ) 《割書: 同音(どうおん)ともいふ》 太夫(たいふ)《割書:してとも|    いふ》 【左頁上段】 ○笛(ふえ)小鼓(こつゞみ)大鼓(おゝつゞみ)太鼓(たいこ) 是を四/拍子(ひやうし)といふなり 笛(ふえ)は漢(かんの)武帝(ぶてい)の時(とき)丘仲(きうちう)作(つく)る とかや鼓(つゞみ)は秦(しん)の穆王(ぼくわう)の 作(さく)なり大鼓(おゝつゞみ)は陽(やう)にして 呂(りよ)なり小皷(こつゞみ)は陰(いん)にして 律(りつ)なりこれ陰陽(いんやう)和(わ) 合(がう)の器(き)なり又/太鼓(たいこ)は 黄帝(くはうてい)の時(とき)夔(き)を殺(ころ)【煞】し 其(その)皮(かは)をもつて作(つく)れり とかや或(あるひ)は云/黄帝(くはうてい)蚩(し) 尤(ゆう)とたゝかふ玄女(げんじよ)帝(みかど) のために夔牛(きぎう)の鼓(こ) を作(つく)れりと云々 【左頁下段 挿絵】 笛(ふえ) 小皷(こつゞみ) 大皷(おほつゞみ) 太皷(たいこ) 【右頁上段】 ○狂言(きやうげん)はそのはじまり つまびらかならずのふ の間へ入る事は気(き)を 転(てん)じて笑(わらひ)をもよふす べきためなるべし能(のふ)と 同じく流義(りうぎ)のわかち ありて少しのかわり有 又/狂言(きやうげん)のうちに伝授(でんじゆ) とするものありそれ 狂言の本意(ほんい)は狂戯(きやうけ)を 専(せん)として人の心をなぐ さめわらひをおこす事 を要(よう)としたるものなり とかや 【右頁下段 挿絵】 狂言(きやうげん) 【左頁上段】 ○浄留理(じやうるり)は小野(をのゝ)お通(づう) に始(はじま)るお通(づう)は信長公(のぶながこう)の 侍女(しじよ)なり参州(さんしう)矢作(やはぎ) 浄留理娘(じやうるりむすめ)が事(こと)を作(つく)る 岩船検校(いわふねけんげう)ふしを付(つけ)て 是(これ)を浄留理(じやうるり)といへり 其(その)後(のち)瀧野(たきの)沢角(さはつの)の両(りやう) 検校(けんげう)三線(さみせん)に合(あは)せて曲(きよく) 節(せつ)をかたる又(また)慶長(けいちやう)の頃(ころ) より浄留理(じやうるり)太夫(たいふ)の受領(じゆれう) をいたゞく事(こと)になり 京大坂江戸に浄留理 太夫/多(おほ)くなりて色々(いろ〳〵)の 流義(りうぎ)出来(しゆつたい)せり 【左頁下段 挿絵】 浄留理(じやうるり)  太夫 【右頁上段】 ○三絃(さみせん)は元来(ぐはんらい)琉球(りうきう) 国(ごく)の楽器(がくき)なるよし 三味線(さみせん)とも書(かく)なり 近世(きんせい)諸国(しよこく)ともに此(この)三 絃をもてあそぶ事/専(もつはら) なり尤/淫声(いんせい)の物なれ ども調子(てうし)におゐて自(じ) 由(ゆう)なる器(き)なり故(ゆへ)に雪(せつ) 月(げつ)花(くは)の楽(たのし)みその余(よ)の 遊興(ゆふけう)いづれ三絃をもて 一曲(いつきよくの)専要(せんよう)とす又/小弓(こきう)と いふものは三絃より作(つく)り 出せるものなるべし 【右頁下段 挿絵】 三絃(さみせん) 小弓(こきう) 【左頁上段】 ○芝居(しばゐ)は其(その)おこりは 河原(かはら)の芝(しは)にござなんど を敷物(しきもの)として狂言(きやうげん)を なしたるものにて今の 放下(ほうか)しなどゝ同し類(たぐひ) の物なりしが次第(したい)に高(かう) 上(じやう)になりて衣服(いふく)器物(きぶつ) まても花美(くはび)を尽(つく)して 立役(たちやく)女形(をんながた)敵役(てきやく)などゝ それ〳〵に役(やく)をわけて 三ケの津(つ)には常芝居(じやうしばゐ) をゆるされ諸人(しよにん)の慰(なぐさみ)所 とはなりぬよつて芝居(しばゐ) と名(な)づけ侍りぬ 【左頁下段 挿絵】 芝居(しばゐ)役者(やくしや)《割書: | |敵役(てきやく)|女形(をんながた)|立役(たちやく)》 【右頁上段】 ○人形(にんきやう)芝居(しばゐ)はあやつり ともいふ名(な)ありはじめは 人形を糸(いと)にてつり つかひし事なりしが 功者(こうしや)出(で)きて今(いま)は自由(じゆう)に はたらきをなす事/生(しやう) あるがごとし難波(なには)竹本(たけもと) 豊竹(とよたけ)の両(りやう)芝居(しばゐ)をもとと す上手(じやうず)あまたあり又 難波(なには)に竹田(たけだ)といふからく り人形(にんぎやう)の芝居あり珍(めづ)ら しき細工(さいく)をなして人の 目(め)をおどろかすほどの上(じやう) 手(ず)なり 【右頁下段 挿絵】 人(にん)  形(きやう) 芝(しば)  居(ゐ) 【左頁上段】 ○軽業(かるわざ)はむかしより其 伝(でん)ある事にや始(はしめ)をしら ず誠(まこと)に危(あやう)き所作(しよさ)なれ どもかね合(あひ)手練(しゆれん)のこと にて上手(じやうす)あまた出て 人の目(め)をよろこばしむる といへどもやゝもすれば 怪我(けが)過(あやまち)をなすもの有 きりん太夫といひしもの 一ツつなをわたり始し より軽(かる)わざしをすべて 世俗(せぞく)にきりんとよぶ幼(よう) 稚(ち)の時より仕(し)なれざれは なりがたかるべし 【左頁下段 挿絵】 軽業(かるわざ) 【右頁上段】 ○鉢扣(はちたゝき)は元祖(くはんそ)空也(くうや)上 人なり下京(しもぎやう)空也堂(くうやどう)の 内(うち)に住居(すまゐ)して茶筌(ちやせん)を けづり作業(さきやう)とす十二 月十三日より京町中を 売(うり)ありく正月大ぶくの 茶筌(ちやせん)めてたき例(ためし)とし て求(もとむ)る事なり  ○鹿島(かしま)の事触(ことふれ)といふ は毎年(まいねん)春(はる)鹿島(かしま)大/明(みやう) 神(じん)其(その)年(とし)の吉凶(きつけう)人間(にんげん)の 身(み)の上(うへ)五穀(ごこく)の善悪(よしあく)等(とう) 神託(しんたく)あるを諸国(しよこく)へ触(ふれ) しらするものなり 【右頁下段 挿絵】 鉢敲(はちたゝき) 鹿嶋事觸(かしまのことふれ) 【左頁上段】 ○猿舞(さるまはし)はふるきこと なるよし今(いま)京都(きやうと)へ 来るは伏見(ふしみ)の辺(へん)より 出るよし年(とし)の始(はじめ)に 御所方(ごしよがた)へ嘉例(かれい)とし て上りめでたき事 を舞(まは)しむ又/田舎(いなか)にて 牛馬(うしむま)を飼(かふ)所は秋入(あきいれ)の 時分(じぶん)きとうのためにと て舞(まは)しむとかや其(その)故(ゆへ)は 猿(さる)は山の父(ちゝ)と称(しやう)じ馬(むま)は 山の子といふゆへなりと あいのふ抄(せう)といふ書(しよ)に 見へたり 【左頁下段 挿絵】 猿(さる)  舞(まはし) 【右頁上段】 ○万歳楽(まんざいらく)は年(とし)の始(はじめ)に めでたき例(ためし)をとり揃(そろ)へ て祝(いは)ひまふなりむかし よりも有事なるよし 聖徳太子(しやうとくたいし)の御/時(とき)に烏(ゑ) 帽子(ぼし)装束(しやうぞく)を下し給はり し例(れい)によりて今に烏(ゑ) 帽子(ぼし)素襖(すはう)を着(ちやく)すると いへり都(みやこ)へ来るは大和(やまと)ゟ 出る農人(のうにん)なりよつてや まと万歳(まんざい)といふ又/中国(ちうごく) へは美濃(みの)より出/東国(とうごく)へは 三河(みかは)の国よりもいづると いふ 【右頁下段 挿絵】 万歳楽(まんざいらく) 夫 ̄レ宮‾宝衣‾冠。動‾植飛‾沈。凡‾百器‾用。以_二 文‾字_一。写_二‾貌其 ̄ノ状_一 ̄ヲ。則苦‾捜力‾索。劣 ̄カニ得_二其 彷‾彿_一 ̄ヲ。求_二之図‾絵_一 ̄ニ。則一‾目瞭‾然。思已 ̄ニ過 _レ半 ̄ニ矣。故古‾人之講_レ学。必也右‾書左‾図。 図‾書並_称。所_二従‾来_一尚 ̄シ矣。惕‾齋先‾生所 _レ著図‾彙。其意 ̄ノ所_レ属。蓋亦在_二乎此_一 ̄ニ。其 ̄ノ書 奚 ̄ソ_翅訓_二‾導童‾蒙_一云_爾。雖_二宿‾儒老‾学_一。亦 有_三資 ̄テ以広_二致‾格之識_一 ̄ヲ。家_珍【珎】人_蔵。良 ̄ニ有 _レ以哉。従_二寛‾文_一逮_レ今 ̄ニ。殆 ̄ト百幾十年。版已 ̄ニ 就_二刓‾欠【缺】_一 ̄ニ。今_茲寛‾政己‾酉。額_田_氏主‾人。 嘱_二 下_河_邊_氏_一 ̄ニ。移_二‾写 ̄シ旧‾様_一 ̄ヲ。再‾刻剞‾劂。而 精‾工縝‾密。視_レ旧 ̄ニ有_レ倍 ̄コト焉。刻_成。請‾余以_二 一‾語_一。余_謂 ̄フ。近 ̄ロ有_二春‾朝‾斎山_城名‾所図‾ 会_一。亦以_二図‾絵 ̄ノ之故_一。盛 ̄ニ行_二乎世_一 ̄ニ。朝‾摺暮‾ 印。洛‾陽紙_貴。彼 ̄ハ実 ̄ニ不_レ過_二 一‾臥‾遊 ̄ノ之具_一 ̄ニ 而已。猶_且見_レ賞如_レ斯。況 ̄ヤ之大 ̄ニ有_レ益之 書。非_三徒 ̄ニ供_二於目‾翫_一 ̄ニ也。則必与_レ彼並_駆。 而超‾乗過此。如_レ指_二諸掌_一 ̄ニ。余預 ̄シメ為_二額田 翁_一 ̄ノ作_レ賀。翁其 ̄レ記 ̄シテ而験_レ ̄セヨ之。   己酉四月      春荘端𨺚【隆】       【方印 陰刻】《割書:端隆|之印》 《割書:文|中氏》 寛政元年己酉三月吉辰 出来  皇都書林  九皐堂 寿梓 【上段】 訓蒙図彙《割書:大本》       全八冊 同本小本        全四冊 同増補頭書       全八冊 同増補頭書大成     全十冊 《割書: 寛政元年出来|   下河邊拾水子画図》 同増補頭書大成拾遺     《割書:全五冊|嗣 出》 三才千字文《割書:訓蒙図彙の目録を幼童の素|読になして文字を覚ゆるに便あらしむ》 【下段】 村上 勘兵衛 出雲寺文治郎 今井七良兵衛 額田 正三郎 勝村治右衛門 泉  太兵衛 小川太左衛門 小川 源兵衛 谷口 勘三郎 【二重丸印 朱】R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS :: 字尽節用解(じづくしせつようかい)【觧】《割書:中本| 全部壱冊》《割書:世(よ)に節用(せつよう)あまたありといへども文字(もじ)の訳(わけ)委(くはし)からざる|故(ゆゑ)に良(やゝ)もすれば誤(あやま)る事/多(おほ)し故に此/節用(せつよう)にはしれがたき|文字(もじ)をそれ〳〵仮名(かな)にてくはしく義理(ぎり)をとき初心(しよしん)の|輩(ともがら)文章(ぶんしやう)等/認(したゝむ)るに必(かならず)誤なからしむ実(じつ)に重宝(てうほう)の書也》 万徳雑書三世相(まんとくさつしよさんぜそう)《割書:大本| 全部壱冊》《割書:此書(このしよ)は人々一代の吉凶(よしあし)家屋敷(いへやしき)田畑(でんはた)の売得(ばいとく)普請(ふしん)|移徒(わたまし)宅替(たくかへ)の方角(ほうがく)吉凶(よしあし)あるひは男女(なんによ)縁組(ゑんぐみ)相性(あいせう)|の善悪(ぜんあく)夢(ゆめ)のうらなひ八卦(はつけい)手相(てのすぢ)暦(こよみ)上中下段の|次第/年中(ねんぢう)日のよしあし等(とう)平かなにてしるし|俗家(ぞくか)重宝(てうほう)随(ずい)一の書(しよ)にて常(つね)に弄(もてあそ)ひ益(ゑき)ある書也》 古文(こぶん)余師(よし)  《割書:後集之部| 全部四冊》 《割書:此/古文(こぶん)は師(し)を求(もとめ)ずして読安(よみやす)きやうによみかた平|かなにて記(しる)し本文には註(ちう)をくはへて文句(もんく)の義理(ぎり)を|釈(とき)やはらげ独学(どくかく)のたよりとす。故事(こじ)をくはしく記たれば|詩歌(しいか)連俳(れんぱい)のためには至(いたつ)て自由(じゆう)を得(う)る至宝の書也》 四書国字弁(ししよこくじべん) 全部十冊 《割書:片かなにて本文に註釈(ちうさく)をくはへたれは師(し)を求(もと)めずし|てくはしく解(げ)し又人にとき聞(きか)しむる随一の書なり》 古今和歌集 《割書:文政新板大本|校正全部二冊》 《割書:文政新改にして惣(そう)じて古がなをもちひ又はかなちがひ|を正し異本(ゐほん)をかたはらにくはへて歌人(かじん)の至宝(てうほう)に備ふ》  京都書林  津逮堂  吉野家仁兵衛板 【丸印 朱 中央に冠を頂く鳥(鷲ヵ鷹ヵ)の図を囲むように円形の文字列】BIBLIOTHÈQUE IMPÉRIALE MAN. 【二重丸印 朱】R.F./BIBLIOTHÈQUE NATIONALE :: MSS::