文臺雅調【咅+周】  全 俳諧歌文臺雅調 【右丁】 【上段枠】 出羽天童  文歌堂真名富撰   兼題 春の歌      夏の歌 下総野田  柏唫社広善撰   兼題 秋の歌      冬の歌 東都  龍迺門梅明撰   兼題 恋の歌      雑の歌 【下段右枠】 畫工 一立斎先生 筆者 栞迺門先生 剞劂 江川錦二 摺工 両国半助 【下段左枠】    天童 会主  調歌堂真枝    野田 同   茂木重正 同   春友亭梅英 【左丁】 春 十五 うくひすは憎からぬかな梅の花我ものかほに枝をにきれと 野田 柏唫社 【印字不明】 ことならば風のふく日に花よちれ心つからと見れはうらめし  同 十三 またさらに朧月夜もめつらしな影さやけきは常のことにて   同 梅さけは園のうちのみほこりかに家の風をもふかせてしかな  同 はつ花はかそへられけり垣の外に咲はとなりのたからなれとも 同 吹風にうつりやすきを我とふか疎みて花をもたぬ柳か   大坂 雪の門 手折らすてもとる心やしりつらんしたしく袖にとまる梅か香 同 菊 守 さくをまち散をし惜むこころには花も中々さかり久しな    同 雪 雄 春風に吹おくられて鶯はおのかなく音もをちにきくらむ  大津 春 眠 梅さかぬ野のうくひすも春めきし心の花にとめて聞かな   同 鈴 雄               広重 【印 朱文】 一立齊      茅屋 十八 鶯はよその  梢にあくかれて   ふる巣の花は    見る春や       なき  十八      野田    こと草に     柏 唫社     先たちもゆる     広善       はるの野の    よもきや     あはれすくせ        なるらむ     十五    清水舎     はつ春の    有年      年の湊は        門松の       風にや浪の         音を聞らむ 【左丁 上段】     十五      波の屋     家つとに      象雄      とめて来にけり        うめの花       かをりは袖に         色はこゝろに            二本松       十五     文園        折らすとも   綾雄        隣の梅に         こと足りぬ        花の香はかり         我ものにし              て       十五      明石       かさせられ    生々堂        老はかくれし    信孝          さく梅の         花は           かしらの          雪に           まかひて 【左丁 下段】         岐阜 十五        神垣内 うくひすの  人来となくは    聞とれし   わかおも影や     近くよりけん  十五      瑞舎    引のこす    輝城    野への     小松の丈       のひて   夕日に    千代の     かけをみる          哉 【右丁】              広重 【印 白文】 一立齊 十八       手をかけて   野田   見れは     柏唫社     枝さへ    おしまれつ   花は心に     折て      もた        まし 【左丁上段】 十八      松風舎  咲は散る    琴音   ものと      思へは    待うちの   日数や    花のさかり      なるらむ  十八      二本松   人心      小竹の門    花にまと     光樹       むる     はるはたゝ    さくらの       ための       月日        なり         けり 【左丁中段】 十八 色にいてて  あひに    あひけり   あかすみる    こゝろの花と     花の      こころと        玉星子         梅彦 十五 とく  過る       こゝろ 日数に    ならすも  花や    うつろひに いそ       けむ   かれて         二本松           光樹 【左丁下段】 十五 はるは  たゝ花に   こゝろの     隙そなき さけるをまつと    ちるを惜むと    松友子     隺雅         【右丁】 十五     善光寺    桜花      実斎  こゝろに    童司   しめし    色香こそ つと【注】ゝなりけれ   枝はをらね        と 【注 みやげもの。】 十五       天童      いとふへき    梅歌堂   風にあかるそ    文詞    しられける   霞の     中の    花の     さかり        を 【左丁】                         羽小松                  十五      豊玉亭                   見ぬ人の    照毛 十五                 ためとをらるゝ  かきりあれは  嵩月房         み山への   桜をあとに   滝澄       桜の花や     かへる             いかに嬉しき        かな         心はかりを    十五           花に残して   花もたぬ    十五             柳は風に   ともすれは              すなほさの   花を雲とそ             心あまりて      見まかふる 【左丁上段】        枝や     雲を花とも 十五     倭文園    のひけん    見し  さくら花    島成             目うつしに   とくちれはこそ      大坂      ?川    なくさむれ        霊の門     秋園     風も吹あへぬ       清明      斐竹      人のこころ                            広重 【印 朱文】一立齊 【右丁】 十八 夕かほの   花はゑみけり      朝かほに    いみし        十五       日影の     ほとときす       入るを       聞ての後の         待えて       人つては                 花に匂ひの           瓊舎     そふ心ち                     せり                       東山堂                      延国 【左丁 右側中段】 十五      信京     杜宇 【ホトトギスのこと。】花島屋   なき    にくきかも   もゝ千鳥【百千鳥(ウグイスの別名)】     さへつる        春のくれし跡には 【左丁 左側中段】 十五  ほとときす   はやもなかなん     ちりはつる    花のおもかけ     わする       はかりに       天童        竹の屋         直也 【左丁 左側上段】 十五  すゑ   わけて    水もかかれも 【二句目の語意味不明】     かをりけり    月はあやめに     ふきも       そへねと         天童           松旭亭 【左丁 右側下段】        人童         桂月堂 十五       茂弘  おもひあまり    夢にも花を      見しままに    夏たつけふも      ぬれは春なり 【左丁 左側下段】          大坂 十五        菊守  をられしも   さちとなりけり     葉さくらの    梢すゝしく       月を         もらして              広重 【落款 朱文】一立齊 【右丁】 十八     ともしけち   茅屋   村雲はらふ     小夜風の    ゆくへや     月の光り      なるらむ 十八  露ふかみ花野の  いろのおのつから  そはる【添はる】とみれは  月出にけり      摎舎 輝條 【左丁】 十五       堺 山彦の      和群居  とよみも恋の     せめ来やと   妻とふ鹿の    鳴しきるらん 十五 をちかたに  かけかへたつを    なこり       にて   月を待とる    山のはそ       うき      二本松        栗園 十五      琴詠舎 秋こそは     得賀  ふかくなりけれ  もみち葉も   うへ浅からぬ    いろにみえ        つゝ 十五       松戸 心にも  あかぬ       檜蒼園   限りを    そめ置て  さてや    萩をは     袖にすら        まし 十五 よそふ日の  くるゝもしらす   もみち葉の  あかきかたには    道まとふ       かな       天童         調歌堂 【右丁】 十五 ほとときす  なかせて      みたき             古沢     柴垣に        十五     美知業  つもるふふ雪         初雪は      卯花の如        あとなくはれて    羽小松               をちかたに        龍兵【奥ヵ】     ふしのね白く                     あらはれにけり   十五          十五    およひ折て【注】   おちたきつ     みる程もなし     なかれて       ことしさへ       はやき     花さく         岩間にも      春に          きのふの       七日たらねは       水を         成田        氷にそ           秀明        見る                       璓唫社 【注 指を折って(数える)】 【左丁】 十八     璦舎            大串 いかてさは          十五      有竹  水に数かく         をしまれて    をし鳥そ         みつから消ぬ  おもはぬ                こころをは    妻を            しはし     思ふともなく          木かけに                   はするはつ雪          十五           しくれにも            雲かくれせぬ                 月かけは             落葉の事に               さえまさりつゝ                 天童                   文歌堂      【右丁】                 広重 【落款 朱文】一立斎 十八  まつ人の   枕にと思ふ    ひさの上に   なれて     まろふは      涙也けり       璦舎 十八  涙とふ   待夜の月に    いやまして    うしや       別れの      十八        茅屋      袖の         つれなしや        ひかけは      岩木の中の                    こたまたに         おなしく      こたへはするを                      人のこゝろは 【左丁】         日新庄   十八        きぬ〳〵の    成升亭   けさを                 至清堂     きのふと        十五      思ふまて        此頃はしのふ     この夕くれの        かたをも       待とほき          よそにしつ           哉       見まくほしさの                     たゆめ                      かたさに         同小松           睦毛    十六                  野田     命にも         十八       拍唫社      かへんといひし     くれたさは         身かはりに     また宵の間と       しねや           つきなくに         逢夜の        つらさ        明の           はかりと          をからす        けさは                        成けり                                                広重 【瓢箪形の落款印 朱文】一立斎 【右丁】      倭文園 十八     島成  筑波根は   女夫【めおと】ならひて     たてりとも   ひとつ蓮【はちす】の     みねに【注①】      しかめや【匹敵するだろうか】       十七    花をめて     鳥を    つとひは   竜観園      あはれむ  春に     梅彦       とち    かきら         ふみの【注②】 さりしか 【注① 蓮の峯=蓮の台(うてな)のことを言っていると思われる。極楽浄土に往生した者が座るという蓮華の座。】 【注② とちぶみ=「とち」はそのものが愚かである、ふざけたさまである意を表す接頭語。ふざけた文書。】 【左丁上段】 十七 なひきもれ  みたれし世ゝの   ふるふみを    しつけき      窓に    見るか       かしこさ          輝條 【左丁中段】 十七 きぬ〳〵を   告よと    をすに     すゝむるか   かけし    めとりは     ものねたみして           梅彦 【左丁下段】 十七      野田  うきはなほ   拍唫社   女の道を     すつ迄に   人のあそひと      なるか       かなしさ 十六      茅屋  いさり【漁り】する蜑【あま】はわれから【注③】    からきめも見るや      藻にすむ        虫あけの           泊【「迫」の誤記ヵ】門【せと 注④】 【注③ 「われから(割れ殻)」=海藻の表面に多く見られる小型の甲殻類。ヨコエビと近縁。和歌では「藻に住む虫」「われから」として「我から」に言いかけ、「自分から」の意に用いる。】 【注④ 虫明の迫門=岡山県瀬戸内市にある港】 十五     漫唫社  ふしのねの   足もとにたに     よりかねて   五つの嶽や     遠く逃けん 【右丁】 文臺雅調 散のこるたくひならすて咲初てまはらなる花はうれしな 信楽  花鳥屋 今日あすと春の月日のすくる如木つたひてゆくうくひすの声 岐阜  神垣内 まち〵し春し来ぬれは又さらにまたれにけりな花のさかりを 高津戸  信経 春来れは野へも沢辺もかすみけり若菜つむ子の袖もみとりに 秩父野上 小松 山寺はよしとかめすもはつ桜たしなき花をいかてをるへき 熊谷   不知瀬 なくさめし目をよこさしと散花のあはれを風の誘ひゆくらむ 鹿沼   吉明 香に匂ふ梅をあるしにゆるされて折はくたてや花はちりける 成田   文彦 あなにくの梅のにほひや匂はすは人もとひ来て折はさましを 潮来   守居 何にこの花はうゑけむ雨につけ風につけつつなけき多きを 天童  調歌堂 誰夢によへや女と見えつらんかをりえならぬ梅の朝風 仙台  千菊園 【左丁】 十 よき事もなきにはしかぬ家桜さけはみ【「集」では】ゆゑ枝をられけり 仝  綾信 人来とていとふもあるを嬉しくも花を見にことよふこ鳥かな    漫唫社 我宿のさくらなれともちる時は心にえこそまかせさりけれ    輝條 さくら狩あすの日和をうらとへは【占問へば】夜も燈火の花くもりしつ    輝城 きのふ見し人ありとしもしらすしてけふ見る我はけふの初花    琴音 ここらさく花見のむれにいとはれて春柳にのみふくか春風    近国 雪に香をしのふる梅もおもふにはまま?【「まくら」ヵ】ならひと匂ひそめけり     滝澄 夏   十五 いかなればはかなきものにたとへけむ露こそ夏の艸の玉の緒     至清堂 心ありてたてし家ゐは庭にさへ常夏をこそむねと栽けれ     仝 ほとゝきす待夜の雲間もれ出て月は烏をなとなかすらむ     璦 文臺雅調 【右丁】 嬉しくも待へきことりほとときすはつ音の後の人のはつ音を     梅彦 いたつらに水のみ飲てつかはるる鵜こそからすの真似をしてけれ 野田  柏唫社 つみは皆身にもよとまて御禊川はや瀬の水の沫ときゆらむ     茅舎 十三 すゝしさはまさしく秋の月なから明やすき夜に夏そしらるゝ 二本松 栗園 数いはぬ人のたくひに郭公まれになくこそおくゆかしけれ 天童  三千子 ほとときすふる声【注①】なからまた更に待えて聞はめつらしき哉 善光寺 童司 涼しさを扇の中にみなこめてもてはや夏は風のたしなき【注②】     漫唫社 月雪の友とふのみの床【康ヵ】なれや世をうの花の垣 のへたては     六橋園 世中のかくこそありけれ郭公まちたゆむ【注③】夜を鳴てすくなり     島成 何をかもたのみに待んほとときす花はつほみの間たにありしを 堺   和群居 【左丁】                      十一 ほとときすあかす待見む短夜のふけれは仮のやとりよせ山     輝條 しら雪とうたかふ花のちりはてて青きみ空を若葉にそみる     琴音 秋  十五 彦星にもあはて過ける秋やあると鹿の恋路にをしへてしかな     梅彦 野路しめてくるとも見ましおく露の光になけの【注④】萩の色かは     仝 【頭部欄外】沓冠  柿本人麿 かけくらき軒端の露も燈火の光に玉とまかふこのころ     瓊舎 十三 老らくのよしや来るとも昼と見る月には門をさゝまく【意味不明】もをし     槙の屋 とりあへすぬさに手向るもみち葉は錦にあける神もめつらむ     島成 朝かほのいかてあかつきいそくらんとりの音侘ん人もある世に     滝澄 天の川夕ゐる雲もやかてあふ星に手向むきぬかとそ思ふ     岑頼 はつ雁もひなのかた田に落来なり月の都となりしこよひは     近国 【注① 昔のままの声。】 【注② 足し無き=乏しい。不十分である。】 【注③ 待ち弛む=待ち疲れる。】 【注④ 無げの=ほんのちょっと。】   又臺雅調 【右丁】 さらぬたにうからん秋を角の如あはれ枝さくさをしかの群      琴音 月影を見つゝうたんと巻あくるきぬはすたれのいよ染にこそ      仝 物名 よもき しのふくさ  いねかての夜もきそふなり秋の風篠ふくさへもあはれとおもふに      梅彦 立浪にかけをうつしてすむ月の桂は風にたわめるかこと 讃岐観音寺 艶雪  影やとす月のおもみやかゝりけん更ゆくまゝにたわむ萩かえ 大坂    菊守 とき衣【解きぎぬ】をはやも【注①】ぬはなんはたへ【注②】には針さすことく寒きあき風 信楽    花鳥屋 朝かほのはかなさ見れは夕顔のゆふへのうさはものゝ数かは 善光寺   童司 ものひとつ月はいはねとうきことのとはるゝはかり見るかかなしさ 熊谷    不知瀬 酔てうさわするゝ間なくさむるこそうへなれ秋にかもす新酒は 佐野    糸屑 夏の日は猶あつかりし薄衣のうすさおほゆる秋のはつかせ 高津戸   信経 【注① すぐに】 【注② 肌へ=皮膚の表面。】 【左丁】 十二 おきならふ露のひかりも玉手箱あくるはつらき月のこよひや 野田    喜門 嬉しさをつゝめる頃にとり入れん星にかしたる衣のたもとは 仝     長村 雲の浪跡にのこしてさしのほる月の水こすすゑの松やま 千潟    晴明 ふるさとを月もしたふか西に入かけはひかしの空にもとりつ 結城    椿園 世の人のたくひならすて中々に虫はえらみにあふかうからむ 天童    調歌堂 冬     十二 さりけなく空は晴けりはこひ来し白雲なから雪とふりけむ       茅舎 をりにあひてちることしらぬ松の葉も土につくまて雪そつもれる       瓊舎 廻文    十三 をしめともきゆれは青きしけ山やけしきをあはれ雪もとめしを       仝 氷りけりわれて流れし瀧月も末ならすしてむすひあふへく       千束庵 年のうちに春を手にとるこゝちして市路に松をかひえつるかな       梅彦 文臺雅調 【右丁】 根にのこる草のよるへにけさははや池のはちすにむすふ薄氷       輝條 みとりなる空は雪けに黄はみけり千くさもなへて枯はてぬへし       輝城 いつはとていとまなささに年月のよせてくるゝもしらて過にき       瀧躬 有明の月は入にしまつかけに猶かけありと見ゆる霜哉 天童    文歌堂 のこりにしもみちのうへにふる雪は匂う朝日にちる花と見む 宮崎    近信 恋  十五 夢に似て夢にもあらすうつゝにて現ともなき新まくらかな       輝城 瀧おとし【注①】水はしらせてしのふ山くやさん【注②】とするわかなみたかも       瓊舎 【注① 雨などが滝のように落ちること。】 【注② 「くやす(崩す)」=砕きこわす。砕き散らそうとする。】 十三 心にはあまりてたらぬ言の葉は匂ひしほめる恋のはつ花       得雅 しのふれとあらはにいつるなみた哉我ものにして我にまかせす       仝 錦木はかひなく門に朽はてゝひとり千束につむなけきかな       有年 【左丁】 十三 恋の海わか身をあまになしはてゝよそのみるめをかるよしもかな       琴音 つれなさに惜きかきりの命をもかくるや恋のならひなるらむ 善光寺   童司 嬉しさよなけの情【注③】のいつはりもたのむまことのわかこゝろには 佐野    束成 【注③ なげの情=うわべだけの情け。】 恋草にしのふの草をつみそへてちから車のやるかたそなき 江戸寄  緑樹園 なほさりに我はまたぬを疑ひて使に来けむ君かおも影 二本松   光樹 もれ出る涙もわれにつらき哉なさけをしらぬ人にならひて       仝 をし【注④】の住池のあやめにつくらましあふ夜の床のふたつ枕を 羽生    石水 【注④ 鴛鴦(をしどり)のこと。】 雑    十五 空かける夢や見るらむ雲のゐる高き木末に眠るあしたつ【注⑤】       至清堂 【注⑤ 葦田鶴=葦の生える水辺に多く居ることから鶴の異名】 みかりしてあそふ健男【たけを】のゑみさかえならすゆはす【注⑥】は音もゆたけし       輝城 【注⑥ ゆはず(弓弭)=弓の両端で弦(つる)をかける所。】 麻をもて造る弓弦に弾かれて蓬の矢【注⑦】さへすくにゆくらむ       漫唫社 【注⑦ よもぎの矢=よもぎで作った矢。邪気をはらうという。】 文臺雅調 【右丁】 風鈴の鳥の目をしもはなつ迄ふくや八幡の山おろしの風      島成 みなもとは木の葉くゝりて木の葉よりかろけに舟を水は浮つつ      隺雅 神垣の杉には絵馬を懸んとてうらみぬ針も打てけるかな 名古屋  竜屋 虫の巣と名をよひぬともひめおきてしみのすみかに玉をなさめや 津    五十瀬の屋 よる浪の青海はらは常磐木の露に雫やなかれいてけむ      近国 不尽のねを枕にちかく引よする夢のちからはたくひなきかな 大津   春眠 たらてたる事をししれは物思ひのなきを心の友とこそせめ 天童   松旭亭 いたつらにわか世ふけゆく庵りにはよき友なれや窓の月影 仝    調歌堂 さく花の都に遠き椎かもとしひこと【注①】しらぬ人のすむらむ 羽三条目 真波 西のはてひかしのはての国人も近き隣とならふ浦ふね 鹿沼   稲丸 【注① 誣言=作りごとを言う。 【左丁】 十四 俳諧歌文臺雅調             出羽天童  文歌堂真名富撰 十二       春夏之部 十二 をしかりし年のわかれのなかりせはいかて嬉しき春にあはまし 見付   草の舎 うくひすの泪の氷とけそめてこゝらなく音ののとかなりけり 三小川  斐竹 春ふけて声たかくなる鶯は老ゆくまゝに耳やしひ【注②】けん 津    五十瀬屋 風いとふかきりやかすむ山さくら人のいきもや花にこもれる      仝 香のそはる雫もゆかし春雨にぬれて【注③】を過ん梅の下道 岡崎   弓彦 初さくらまはらに咲もめでたしなあかぬ心は枝にみちつゝ 堺    速樹 野に山にうつしはてゝや春雨のふる日はみえす空のみとりは      千晴 うれしさに我とひたちぬ軒近く来ぬる鶯落付てなけ 山名   烏流菴 春の日の光あまねき春日野は若菜も空の色に出けり 秩父   清良 庭さくら待うちをいさ花にしてさかり長くや此春は見む 板木   一幸 今さくら咲はめてたし花のさちよそにみられし梢なけくも 野田   拍唫社 【注② しふ(癈ふ)=感覚・機能を失う。】 【注③ 濡れ手=㊀普通に「水に濡れた手。」の意と㊁「情を交わす人」の意があり、ここでは㊁の意味が良いと思う。】 【右丁】 苗代に天の川水せきいれて年に一たひ種おろすらん 木ノ崎  茂雄 きのふ見し花にもとりつ草枕夢はゆくての事も思はて 松戸   明村 野へ遠き都は若菜うる人の手ふさ【た房】に雪の舞いとそしる 成田   秀明 日をかそへ待つゝ恋るわか心花にかしてもさかせてしかな 八木蒔  三千丸 枝をらは花やちるらんみぬ人にけしきはかりをつとに【注①】なさまし 二本松  綾雄 花の香にさそひ出されてあなかちにちらすは風も悲しからまし 〃    光丸 手をらんの心もよわく成にけり梅か薫りの袖にすかれは 盛岡   実成 立交る松もみなから花にして花を常磐にみんよしもかな 天童   松旭亭 すみれ草ふまゝく【注②】をし【惜し】とみれは野に一夜も安くねられさりけり 〃    調歌堂 いひしらぬ薫の花をうこかしてそよとはこへる風はをかしな 〃    真也 かをらすは雪とのみ見て門の梅花のさけるを誰かしらまし 〃    千代丸 花を見し七日ふりよりいと長し咲をまつ間の春のひと日は 一本柳  菊住 花をまつみ山の心いかはかりうつくしからんいろにいてなは 新庄   成升亭 たのしみも常よりことに奥ふかし千尋の底の貝ひろふ日は 江戸   六橋園 【注① 朝早く】 【注② 踏ままく=「踏む」の未然形+推量の助動詞「む」のク語法。ク語法とは活用語の語尾に「く」が付いて全体が名詞化される。「言はく」「語らく」「老ゆらく」などの語法。】 【左丁】 十五 雛まつるけふみかのはら【注③】呑酒の酔をさまさん枕かせ山【注④】 江戸   竹躬 十 夢ならは中々花のいろもみんやみのうつゝに匂ふうめかゝ【梅が香】      象雄 いとみあふはては粟津の夕日影深田に落て蛙なくなり      福禄亭 つみ下す枯木の枝も匂ふなり霞をわくる宇治の柴舟      楽浪舎 咲つゝく花のひかりによしの山目ををいこはするかけは なき哉      寉雅 昼ほゆる犬さくらかも咲そめていやすさましく人のいて来る      島成 鍬とりし手も末広にもちかへてわらひの種をおろす【注⑤】万歳      古路 樺さくら交りさくらん遠山の花もひとつにとちてみゆるは 観音寺  諸光 しふねくも【注⑥】のこれる雪や山松のをれにし枝ははやく枯しを 堺    和群居 かたちなき梅かかをりを目にみえぬ風のさそふはおもふともかも 若山   房也 さくら狩ゆかねと庵の留守もれは居なからつくの花をみる哉 〃    歌雄 いつ迄もめかれぬものをきまかへてしら雪とふる花そつれなき 兵庫    江居 さくら花ひらきし日より春雨もかをる雪けの水とこそしれ 大坂    常員 心さへうきたつ春ののとけさはつめるわかれの色に社しれ 〃     寿賀女 【注③ みかのはら(瓶原)=京都府相楽郡加茂町北部も地名。元明天皇以後の離宮の所在地で、聖武天皇の恭仁京が置かれた所。】 【注④ 鹿背山=京都府南端、木津町と加茂町にまたがる山。この山の西麓から恭仁京を左右に分けたという。】 【注⑤ 「おろす」には「種子をまく」・「種子を植える」の意が有ります。普段は田畑を耕している人が、お正月には鍬を扇に持ち替えて笑いの種を振りまきに万歳をしに町へ出るという意。】 【注⑥ 形容詞「しふねし(しゅうねし)」の連用形+助詞。執念深くも。しつこくも。】      文雅 【右丁】 きぬもれてひかれる玉のたくひ哉霞につゝむはるの夜の月 大坂    雪雄 くるとあくとめかれぬものをうとむ如なと梅かゝの出てかへらぬ 信楽    花鳥屋 朝風にちれるさくらは朝かほの夕かけまたぬよりもはかなし 仝 となりとち【注①】中垣もなき青柳はかみもたかひに結ひあふらし 津     津留丸 咲みちしみ山さくらは折来にし里はつかしみ花のちるらん 松坂    秀也 よきことははやく過行世の中のならひになれつ花の盛も 名古屋   波雄 梅つほになれて鶯ねくらせり今宵瀧口【注②】弓なならしそ【注③】 〃     便々居 はつ子【注④】日ひきやすからぬ小松こそうこかぬみ代の根さし也けめ【注⑤】 衣浦    佳雅 世をゆするおのか力のあまりてや咲もそろはて花の散らん 掛川    梅武 そこそと【注⑥】もわかたぬ夜はの梅かゝは花や匂へる風やはこへる 芝田    安丸 石となる星かと人やあやまたん楠葉の宮の梅のはつ花 在甲面高改 忠明 山々の枕ならへてうたゝねの夢見草みる心たのしも 倉科    雪丸 春風ののとけきほとは梅かえをはなれす花の薫るにそしる 館林    宣明 水そこにこかねの玉をしくか如かけうつすなりきしの山吹 〃     梅孫 【注① となりどち=隣同士】 【注② 内裏を警護する武士の詰所。】 【注③ 「な…そ」で優しい禁止を」表す。ここでは、(鶯が寝ているから)弓の音を鳴らさないでね、の意。】 【注④ 初子(はつね)=正月の最初の子の日。古く、この日は、小松を引き、若菜を摘み、宴を催して祝った。】 【注⑤ 係助詞「こそ」の係り結び。已然形で結ぶ。】 【注⑥ 「そこぞ」「ぞ」は指定的に強調。どこにあるかも見極められないという意。】 【左丁】 白粥の雪にうもれし初わか菜ふたゝひ人にたつねられけり 十六    㒰 久かたの月もくもれり梅の花今やさかりの香にゝほふらん 在桐生   秋村 春もはや日数たしなし此頃のをしさは花のちるはかりかは 熊谷    不知瀬 ちるたにもさかりしあれは桜花木の下かけはえこそたゝれね 野上    小松 いつくにも春立なから爰はかり明るとそおもふけさの初空 引又    広主 小町たに今も双紙を洗ふらん水を渇して蛙なくなり 太田谷   道彦 さくら咲きのふにけふに野に山に春てふ中の春を見る哉 青梅    扇松垣 雨はるゝ空は色こくかすみけりあらへははゆる衣のたくひに 金子    好文 ねたく見る隣の花もわか庭にちりてこよとは思はさりけり 谷貫    広海 目路遠き帆かけ桜はかすみけり漕いにし舟の跡なきか如 日光    花門 花守にかたりつわひつとゝめてもとまらぬ春やみゝなしの山 鹿沼    稲丸 花さかんことを思へははる雨のつれ〳〵も猶なくさ【注⑦】なりけり 古山    畔草 山守のをらせぬ花のさかりをは俤をのみ家つとにせむ 佐野    糸屑 鶯の木つたふ梅にあわ雪のとけては露の玉をうはうか 〃     綾明 【注⑦ なぐさ(慰)=心の波立ちを静めるに役立つかもしれなおもの。】    文雅                 十六 右帖 吹なりになひく柳はなかれゆく水のうつはにしたかふとみん 佐野   綾明 つみて来し鷹菜あらひて中々に野守か鏡かけもうつらす 成田   秀明 春雨をしのく笠とや大原女かくろ木に梅を折そへにけん 〃    文彦 月の山ひるさへ人にしたはれて春のかゝみとにほふ花哉 〃    保明 春告る国栖の舞【注】の笛竹のみとりも時にあひし色かな 松戸   明村 まひなしになのらぬ梅の夕風は袖の下より香をはこひたり      仝 ちる花の俤のみや残るらんくれゆくはるの山のはの雲 〃    阿字丸 小山田の蛙の類は神代より今もむかしのすかたにそなく 三ッ堀  吉丸 行末のきみかよはひや梓弓子の日の松にかけてひかまし セト   知足 中々にみしかゝりけり春の日もあくことしらぬ花にかくれて 干潟   松成 さく花の梢の雲を下に見て足も空なる志賀の山越 エトサキ 緑樹園 たることをしるか氷もうちとけて花鳥にとむ春の山里 水海道  種義 長閑【のどか】なる八重の汐路の八重霞たつの都の春のあけぼの      梅里 立よれはへたてぬ梅のかをり哉心にそまぬ人もあらんと 羽生   石水 【注 国栖(くず)の舞=古代の宮廷の節会に国栖人(くずびと※)によって行われた歌舞。※大和国吉野川の川上に住んでいたもの。】 左帖  十七 糸をもて玉をつらぬくたくひ哉柳になひくうくひすの声 二本松  光居 かしましく水のつはめはめつるかなひさこすつへきすまひなるらし 仙タイ  千柳亭 のほり立高ねの花もまたれけり国に杖つくよはひなからに 〃    千菊園 花の雲またくれはてぬ夕さくら露にあやしき星をみる哉 〃    薫 見わたせは四方の山とかくろひてふしはかすみのうみの浮島 花巻   千布 かほとまつ心をよそにそむけつゝ花やあまりにもたせ皃【かほ=貌】なる 大道   夢盛 うちわたす色はひとつを白雲と花ふきわくる春の朝風 天トウ  松旭亭 目のまへに花はみれともなくさます風吹すさふうしろめたさに 〃    調歌堂 あたに折袖さへ香をはとめてけり梅の情やいかにふかゝる 〃    直也 咲からに折らん心のかよふやと高ねの花をおほふ霞か 〃    茂弘 浪あらき海路をわたるこゝちせり磯山さくら風さわく日は 〃    唐糸 あかぬ哉山路の雲も川浪もよし野の花はたゝならすして 一本柳  小瓶 馬のある木幡の里にいかなれはかちかちと鳴小田の蛙ら 金原   定住 あらし山はつか七日は花の世と風心してよそにふく哉 宮内   有丈 文雅 右丁 声高にものいふ川のせをなてゝ柳なかしの美しき哉 シン庄   清樹 さくら花をしむ心も風の日はちり行かたへかたふきにけり 竹杜    津喜丸 けふ花の使ははつに来なからもなとか心の散初にけり 長手    真留 木のもとへ見に来る人のうるさしと枝をはなれて梅や匂へる 小松    田居良 目の覚てくやしくもあらす鶯の声にとられし初夢の鷹 〃     真明 八 はつ花はひとへなからも匂ふ哉八重に名高きならの都は 大坂    寉の屋 枝たれて土になつきそ【注】糸桜老先のある花のひともと 〃     改女 春告る声やきかまし鶯の月日ほしさへけふをはしめに 〃     花好 とくるよしとけぬはつらし春されは谷のみ雪と花の下紐 若山    寉浦 鶯の出にし谷に消残る雪やみかきし玉の屑かも 三木    雪好 もろともに花を嵐のゆする日は人のこゝろもさわき立けり 兵コ    志道 消あへぬ雪はあれとも山の端のはるや立らんかすむみとりに 水口    稲丸 咲かけし花の白露わらふにもこほす泪とみえにける哉 二本松   光居 ともし火の外にも春はいなり山みつの光をうたふうくひす 松坂    哥良丸 【注 「な…そ」で優しい禁止表現】 左丁    十八 おもひねのうつゝに折し一えたは夢に分入るみよし野のおく 松坂    文丸 青柳に露をふくめる春雨は花なき枝もつほみとそみる ナコヤ  豆成 はる風に柳の糸をよらせつつ浪のあやおる宇治のはし姫 〃     浪丸 結ふ手の雫のつらゝかけみえて清水に冬のけしきうつれり 〃     千代彦 もゝ桜花さく春は中々にひなも都にましてをかしも 太ノ    静波 手折こし梅の匂ひのふかけれはもと木の花の香はたえつらん 遠イヒタ  住安 あるかなきかかすみてそれとわかねともつめる若菜やかけろふの小野 越府中   竹庄園 いくたひも隣をかへて鶯はふみこのむ木に宿をしむらん 芝田    大極園 ものいはぬ色に匂へる山吹の花を女のこゝろともかな 黒井    磯住 世のうきをさくらかけこそをかしけれちゝになけかん月もかすみて 善光寺   長房 ちる花のふゝきや凌く簑にせん菅の浦わに月も笠きて シホコ   石業 子日には小松の外にみとり子の手をさへ引てかへる家刀自 上一宮   梅刀自 水いろにさける桜のはつせ山かすみかけたる花のうきはし 丁モコカ  志好 かくれかの藪の梅かゝまきとりて山路にちらすつむし風かな 〃     阿久美 文雅 【右丁】 花山の花見に来しそ寺子らよ我をりにきと人にかたるな サノフノ  明義 松かさるみつのあした【注①】は家毎の門より千代の色そこもれる エ本    寉住 風の神天降るらし枝高きかたより花のちりそかゝれる 〃     一幸 倒さしと雨の恵みのひかへ綱まつはる藤の花の下いほ【庵】 鹿沼    稲丸 折せさる心にくさも数へらぬ花のなかめにけふはわすれつ サノ    糸屑 春雨にわか身もろともゆるむ日の草木も長くのひにける哉 〃     花休 うきしつみあるをさとすか世中を水にまかせてちるさくら花 引又    広毛 春雨のおやのふる里見ならひて雲とみせさる山さくら花 〃     友寉 いつしかと汀の氷うちとけて池の心もはるをしるらん 水子    友翠 たのしさは咲ん花待内にありとひち【肘】枕する春雨の宿 天トウ   ?し鷹 北山をふき来る風にわらはやみ【注②】やみてや枝のふるふ青柳 竹杜    津喜影 枝ことにおける白露青柳の糸もてむすふ玉かとそみる 宮サキ   近信 すみれ草けふ花さかんわか艸の藤よけにみえて春雨の降 三条タ【メヵ】   真波 世をわひんいほりさすなら梅のもと歌よみ鳥のとふらひやこん 上ノ山   真薫 【左丁】    十九 くれてゆく春のなこりをいかにせんかたみとなりぬ花もなけれは 〃     真影 待うちは花のつほみにこもりゐて人の心もひらかさりけり シン庄   島音 花七日過るははつかさかぬ間を待は千とせのおもひなりけり 〃     之頼 もろこしへ聞えわたらんかたてめ【かくそめヵ】のふしは硯のうみよりも出つ 最手    真留 一重咲花をも八重に立かくす霞や風をよそになすらん 大道     夢盛 めてゝよる我袪【たもと】には入たらて野路にあふるゝ風の梅かゝ【梅が香】 白川    綾寉 引そむる霞にしるき梓弓おして春たつ矢野の神山 丹生    一親  むつましくしめをもはるの二見潟ともに霞の袖のひきあふ 松戸    阿字丸 春はけふかきりとあれは山さくら風をもまたす花のちるらん セト    繁樹 三笠山光は花にゆつりつゝおほろにみゆる春の夜の月 ノ田    高?【持ヵ】 梅かゝは袖にすがりて中々にこゝは杉田【注③】のすきうかり【注④】けり 山田    真波 かくさんとかさす桜もみなちりて老をみせけり春の行日は 羽生    御年 誰か夢に入し名残そ春霞はるゝかたよりみゆか【注⑤】ふしのね 江戸    槙の屋 十二 玉としも人あさむけとしら露をおのれ糸にもぬかぬ蓮葉       琇唫社 【注① 三つの朝=年、月、日の三つの朝にあたるところから元日の朝のこと。元旦。】 【注② 童病み=間欠熱の一種。悪寒、発熱が隔日または毎日時を定めておこる病気。】 【注③ 杉田=横浜市磯子区杉田には、江戸時代は梅の名所として知られた梅林があった。】 【注④ 過ぎ憂し=立ち去りにくい。】 【注⑤ 見ゆが=見えるのが。助詞「が」の主格用法か。】 【右丁】 夏の夜は柴の戸さゝて【注①】すゝまなんたゝく水鶏【注②】の心いられに       寉雅 端居して袖に待とる風すゝしまた秋遠き水端【みづはな】なからん【注③】       岑頼 夏なから寒さつけ野の真清水を見れは氷室の雫也けり       滝躬 くらくなる手元いとはし早少女のぬれひつ【濡れ漬つ】袖に月を宿して 信楽    花鳥屋 ほとゝきすはつ音きゝつと来る人にとはるゝ迄かうれしかりける 秩父    清良 夕すゝみいとゝ心もうき舟や月のかつらの花のなかめに サノ    至宝 なく声をしはしとゝめて時鳥月のもなかになかめてしかな カリ谷   直春 みな月のもちの今宵は宮人にめされやすらんかひのこま瓜 ノタ    拍唫社 ほとゝきす一声のみのうれしさにとりの八声も聞あかしけり       仝 かたりつきいひつきなして郭公はつ音も人にふるされにけり       仝 伊豆の山はつ音聞つる時鳥石の中なる玉にさりける 成田    秀明 よき事はしれぬ世なるを郭公雲井かくれの声のめでたさ 仙タイ   千柳亭 やれきぬもいとはすとまる橘のむかしは香さへおこらさりけり 寒川口   弥寛 かたそきの【注④】ゆきあひの間【注⑤】におく霜とみえて涼しき住の江の月 観音寺   艶雪 【注① 戸を鎖す(或は閉す)とは戸に錠をおろして戸締りすること。ここでは敢えて戸を閉めないで夏の夜を涼むのにはもう一つの理由があると次に述べています。】 【注② 水鶏(くひな)は、初夏の頃、盛んに鳴き、その鳴き声が戸を叩く音に似ているので、作者は気持ちがいらいらして落ち着かないので、戸を叩かれない様に開けておくと言っているのです。ちなみに水鶏は「鳴く」といわず「たたく」という。】 【注③ 无は無に同じで「ム・モ」と発音されていた文字ですが、助動詞「む・らむ・けむ」、終助詞「なむ」やほかの語(やむごとなし➝やんごとなし」)における「む」などが、「む」の発音から、後に「ん」に転じたことによって「ん」の仮名になっていったものです。ですから状況に応じてむ、も、んを読み分ける必要があります。】 【注④ 「行き合い」にかかる枕詞。】 【注⑤ 相寄って接した物と物との間のすきま。】 【左丁】    二十 夏草にゆきゝの岡も名のみして風のかよへる道たにもなし 若山    房也 目さむれはあとは聞えぬ郭公こよひ夢路の初音なるらん 大坂    梅香園  瀬をはやみ岩うつ浪のよる〳〵は玉とみたれて飛ほたる哉 〃     春臣 入相のかねものとかに聞えけり雨にいろます庭の葉さくら 〃     竹材 かたりあふ友さへとはて口につのたまるはかりや梅の雨には 兵コ    真道 青葉もてつゝむ桜はあはれてふことせは猶もやらしとやさく サカヒ   和唫社 人伝にきのふ聞つゝほとゝきすこよひは月をなかめられけり 〃     重樹 あふ坂や夏行人の関なすは杉の木かけの清水也けり 大ツ    鈴雄 みな人のにくむあつさは風の上におりて涼しきゆふへなる哉 シカラキ  花鳥屋 夕立におはれて逃る身の汗の内より先にぬるゝをかしさ 長八一   里塔 鶯の声も夏来てたえはてぬ若葉にもらぬ月日のみかは ツ     津葉女 あつきものそしるはしゐに消たしとうしろむくらん風の燈火 〃     巴字丸 さくら花散はてにけりさめ〳〵となけ大ひえ【注⑥】の山ほとゝきす チコヤ   便々居 五月やみ【注⑦】雲のあみ鳥あみのめをもり来ることき一声もかな       時好 【注⑥ 大比叡=比叡山の美称。】 【注⑦ 五月闇=さみだれが降って、空が暗いこと。】 文雅 【右丁】 あつさをは風もいとふか涼しゝと思ふあまりにはなれさりけり カケ川    弘丸 きぬたうつ秋はまた来ぬ夏の夜に水鶏は夜さら何たゝくらん スンフ     広葉 夕月のみふねもかくやこき出し風もなきさの夏草の波 古沢     美知業 わけかぬるふしの裾野の下道は鳰の海よりふかき夏艸 クラ科    亭 村雨のふるの社は秋ならておのかころもやうつせみの声 シホコ    本住 見れとあかぬいさこ交りのこかねそとみなせ河原をとふ蛍哉 ノ上     小松 夏まうてわか影法師も掟をや守りてみえぬいせの神垣 サクラノ   明義 ほとときす鳴捨て行一声の名残は花のちるにまされり エ本     寉住 風そよくとすにかけては水鳥の加茂の葵も浪くゝるみゆ 日光     楽水 持ふか【「る」の誤記ヵ 注①】す扇に漉し花紅葉風いてぬ程になりて散けり サノ     糸屑 ほとときす声くもらぬは濁りなき天の真那井【注②】の水やのみけん 小金     琴夫 光りなきやみにひかりてひかりある月にはうとき夏虫の影 成田     文彦 難波江の芦わけ舟もいつとなく葉末をわたる五月雨の頃 セト     浦風 やみの夜になくはあたらし時鳥さりとて月に声はみえねと 粗毛     宮望垣 【注① 持ち古す=使い古す。】 【注② 「井」の美称。「まな」は接頭語。】 【左丁】  二十一 跫にかすみし春のおもかけもけふ宮人の袖にみるかな 二本マツ   光居 卯花の雪にこゝろの駒とめて佐野の渡りも袖を払はす ヤナ川    本住 有事をなしとむかしはへつらいて袖に入てもかをるたち花 寒河江    弥寛 香をとめし花の衣はぬきかへていとひし風をまたれぬる哉 トヨマ    武虎 とゝまりて聞にあとなき郭公たゝ一声やかきりなるらん 仙タイ    秋竜 あつさをもとりかへしたるこゝちせり汗を入江に月のうかふは 宮内     千可喜 待わひてわか宿をして行過てしらぬ隣をたゝく水鶏か シン庄    真柿 待てさすほくし【注③】をねらふ鹿を見て身をひそめたるさつを【注④】をかしも 竹杜     津喜影 風そよく草のもとなる夏むしはかけさす月の水に消けり 江戸     六橋園 夜もすからたゝきし鳥の跡ならん穴のあきたる池の古杭        楽浪舎 わきも子かかねの色よき初茄子は夏の口にそめてはしめける        象雄 ほとゝきすなけと遠きは久かたの月の桂にやとりぬるかも 目■     ■草園 袖と袖すれあふ雲の衣川水さへ踊るさみたれのころ ■フ     耳■ むしろおるあへ野に住し法師蝉えらむもをかし諵【楠ヵ】のえた 〃      竹生園 【注③ ほぐし(火串)=篝火などの灯火を固定させるための串。】 【注④ さつを(猟男)=狩猟をする人。】 【右丁】 ほとときすまれにとひ来しその夜より老ならぬ身も声さえしてけり 三木     雪好 浅みとり草より木より猶涼しことし生ひたる竹のはらい【ママ】は 大坂     一樹 なく蝉の声の時雨にもみつやとみれは梢の夕日なりけり サカヒ    和辟居 出来秋のみのりおもしと若苗は露を葉末にもちやならへる 大ツ     鳩照 水の中に入てこかねのわかぬ如月にはうとく光る蛍か 津      津留丸 せみの音はよそをしくれて夏の日の軒もるにこそ袖はぬれけれ 〃      津多丸 人ことにそゝやと初音めてあふを聞ほとゝきすいかに嬉しき 見ツケ    草の屋 夕立の濁りに染ぬ大空の真名井かおふるふしの蓮葉 セン光寺   玉兎 妹山はふりわけかみとなりにけり馬の背山のゆふ立の頃 沼田     直彦 けさかふる衣のみならて白雲の袖もなつかし花の名残に 在桐生    命郷 あなかちに長追なせそ飛ほたるなれも軍のはかりもやある サノ     糸屑 夕立のはれし跡こそすゝしけれあつさは水の一しつくにて 三条ノ    真波 夏くさの茂る程なほ道たえてとふ人かるゝよもきふの宿 タカ畑    只耳 日さかりは風もあつさにたへかねてよるか涼しき松の木陰に 宮内     秋也 【左丁】  二十二 立よりて汗ふきはらふかげもなし佐野のわたりの夏の日盛 金原     定住 風そよく若葉の浪に影もれて月の水うつ庭そ涼しき 天トウ    文水堂 匂ひ深きあやめの風呂に出湯あるいかほの沼もしのふけふ哉 〃      唐糸 郭公あやめもしらぬ夏の夜にわか宿すてゝいつち行らん 古山     畔草 ほとゝきす月のあなたに声するは都おちをやわひてなくらん 谷貫     広海 消のこる雪かとはかりみ山路の垣根に白き庭のうのはな 馬ハシ    文園 あやめふく人の袖まて匂ふなり花よりつたふ水のしつくに 白川     玄道 春の夜に扇窓より匂ひ来る風のたよりに梅こそはしれ 仙タイ    千代彦 み山路はわきて若葉の茂りあひて只あしたにも通ひかたしや 〃      吉彦 わたつみにたゝよふ舟か夏艸のしける新潟の夕月のかけ 〃      條彦 清らなる月にみかくか郭公くもらぬ声そ空に聞ゆる アラヤ    友成 下総野田  柏唫社  広善撰 秋冬の歌 十二 もみち葉に心なき身も枝柿のあをきはおきてなけく猿まろ        至清堂 【右丁】 花見つゝさくらかもとにこほしたる酒や木末のいろに出けむ       漫唫社  みちのくのしのふ摺よりあはれ也みたるゝ袖とみゆる尾花は       ■【渮ヵ】雅 山川の下ゆく水にかけみえてちらぬもみちそ根に帰りぬる       古路 秋しらぬわきへ【我家】の松に山風のよその紅葉をかすかあはれさ       嶋成 ものいはぬ女郎花にもうき時はをしかや妻のありかとふらん       有年 咲はとくしほむ朝かほうき秋をまはらにみせてまとめぬそよき       仝 霧こめてまたやみなから明ぬとは告るからすの声にしる哉       近国 最中なるあきの今宵に玉くしけ二夜ともなき月をみる哉 京     住雄 秋霧のまかきもいまたまはらにて夏をへたてぬ暑さなるらん サカヒ   速樹 妻とへる鹿にこたまのもらひ鳴岩木なからもあはれをやしる 準     五十瀬屋 根なし雲吹よる風のうらうへに池の面おほふ月の水草       仝 はえなくもかしらおもけ【重げ】のみたれ咲十日の菊と二日酔なる 〃     津婆女 なれか背の星毛も落て恋瘦し鹿の思ひや石となるらん 松坂    歌良丸 軒よりも高くつもりて中々に雪に日影のうもる三越路 クハナ   益枝 【左丁】    二十三 鳴あかす鹿の音わひしぬる間のみせめて涙のひまとおもふを ナコヤ   竜の屋 うつくしとちらても見んを白露の玉もいたらて萩の花つま 見ツケ   草の舎 うつ蝉の世にもあるかな秋といへは夏をよぬけて涼しかりける 三小川   斐竹 七日ともこれはかきらて花よりもあかぬ匂ひや桜もみち葉 越中ト山  菊好 こよろきの【注】いそきて染しもみち葉をありめにこそはさゝまほしけれ 善光寺   童司 夏やせはしらぬなからも物おもふ秋にたくすや肉の落鮎 サノ    糸屑 しら玉をたかくたきしと思ふまて千くさの露に影わくる月 エ本    隺住 朝かほはさかり久しなあた毎にあする色なく咲かはりつゝ 古ノ山   畔草 日にほしてつや出さんともみち葉をいろよく染て雨は晴けん 成田    秀明 もみち葉はさなから花にまかふとも春に似けなき秋の夕暮       文彦 きりきりすもろこし舟に入てうるをのこも髭の長くやあるらん       仝 折とりし月のかつらの心ちせり草葉の露にわけし光は ノタ    香居 夕くれの秋のならひを朝かほはしらぬにつけて哀なりけり 二本マツ  光樹 かけめてゝなけきにしつむ人の世をあはれと月や山にいるらん       仝 【注 枕詞「こゆるぎの」の母音交替形。いそ(磯)、「いそぎ」にかかる。】 文雅 【右丁】 さきかけし雲は見る間にみね越ておくれてすめる月のさやけさ 天トウ    松旭亭 照月の雪ふかき夜はしつかなり松ふく風も遠くきこえて 〃      調歌堂 なき入し時かとおもへはさを鹿の声せぬ間こそ猶わひしけれ        仝 水結ふ手こそきのふにかはりけれ秋はかけひをつたひ来にけん        茂弘 栗あけひゑみ顔みする山里は秋のあはれもしらすやあるらん 金原     定住 くれ早き秋の日かけやこもるらん今宵の月のひるとてる夜は 寒川江    弥寛 霧の海まかきの辺に打よする色貝【注①】なれや庭のあさ皃 宮内     千可喜 照月の雪の下つやうもれけん外山にかゝる枝雲もなし 〃      一ヒ 秋のゆく和田路はるかに見わたせは只いたつらにかへる浪かな 天トウ    松旭亭 山なくて猶うかりけり入月のはて迄見ゆるむさしのゝ原 〃      真名寉 なかめやる心のはては海はらの浪にたゆたふ秋の夜の月 〃      直也 秋の野に生ふるかひこのいとすゝきこれもややかて綿となるらん 羽      文章堂 二ッ星もあけなと契る浦島か箱のふたよとなきこよひ哉 小松     真槌 名にめてゝつとになさはや女郎花我をりにきと人なとかめそ 〃      五百毛 【注① さまざまの色の貝。】 【左丁】     二十四 名にしおふ大はら山の炭焼も黒くは見えぬ月の霜の夜 羽上山    真滝 さかつきの底あかやかにてる影もうまき色ある月人男 新庄     清樹 もみちせぬ松をこそまつたつねけれ去年みしまゝの心おほえに 仙台     千菊園 てる影を雪とみ空のかつら木も枝をれやせん十六夜の月 仝      葛彦 下野や室のやしま【注②】はかくしてもけふりは見する秋の夕くれ 仝      吉彦 照ほとは猶をしまるゝけふのみに月のひかりのかきりもやすと 楽川     畑守 つかひてし夏にたかひてうかひをの出るをめつる秋のよの月 郡山     真似保 棚機のつらきわかれの泪かな手向しささにおける白露 二本松    光門 見るさへに袖はぬれけり大かたの秋をまとめて露の置けん 仝      光房 野へみれはあはれをかしも八千種の草【花ヵ】をあらしと宿る夕露 在甲     勇魚 八重ひとへ咲そふ菊の九重やひなさへつゆの玉しきの庭 倉科     雪丸 へたてある妻ゆゑ石に身を摺てを鹿鳴らんひれふりの山【注③】 越府中    竹圭園 ひちてうき袖には似すよに露の玉をにしきにつゝむもみちは 三木     雪好 入月のいそける山のあなたにはあすをしまたぬ契あるらん        仝 【注② 栃木市惣社町にある大神(おおみわ)神社の古称。そこにある池は水気が立ち上がり、煙るように見えるところから、つねに煙の立つ所として歌枕に用いられた。】 【注③ 佐賀県唐津市の東境にある鏡山の別称。松浦佐用姫が任那に使いする夫を。この山から領巾(ひれ)を振って見送ったと伝えられる。】     文雅 【右丁】 洗ひなばあするならひをもみち葉は雨に錦のいろまさりけり 若円    房也 さく花のかすほと千代をかさねらんいく組もある菊のさかつき 仝     歌雄 しら菊もうつろひはてゝ籬さへ霜となりゆく秋のわかれや 堺     速樹 雁の声きくはかなしなうき事をかきつらねたる文ならねとも       仝 雨雲のなからましかは秋の夜の月に心しくもらさらまし 大坂    常貝 妻恋て身のあふらをもしほるらん遠里小野にすめるを鹿は 長浜    里塔 はつ雁のわたりも来ぬにたかもちてけさふみ月のこゝに来にけん 信楽    花鳥屋 むさし野の出入る月のはて見れは尾花の浪の末にこそあれ 岐阜    神垣園 身ひとつにあはれせまりて聞ゆ也我家とのみ限る虫かは 名古屋   竜の屋 秋されは薄のいとふ松の針ころもさせとの虫も鳴くなり 仝     豆成 海こえんことに列つくうき橋のかたちつくりて渡る雁かね 飯田    住安 月の水あまりてこゝに落るやとわか涙さへあやしまれけり 掛川    弘丸 花すりてつとになさんと宮人の真萩わけゆく袖や白かる 金子    好文 木の間よりもり来る秋の月かけは光りさへこそ露けかりけれ 佐野    束成 【左丁】    二十五 空晴て星のみえぬる心ちせり霧のまかきにならふ白菊 成田    文彦 子日せし野への松虫聞秋のひと夜や千代をふるこゝちせん【*】       仝 露しけき野への真萩にさを鹿の夜のまくらやぬれて鳴らん 仝     梅寿躬 もみち葉を恋ひといろにそむる哉空さためなくそゝく時雨は 松戸    明村 うへしこそ草の袪は露けゝれ虫もをしかもなきあかす野へ 本庄    滝兄 むつましきをとこ女の合槌か遠くて近き風の夜きぬた 江戸崎    緑樹園 行くれて月かけやとる海はらのあるしは浪の花にそありける 太田    積足 ぬれてたつ鹿たにあるを下紅葉蓑とはいはし時雨ふるとも       至清堂 たくひなき月の真玉を天地のくれけに入れて誰かもつらん       漫唫社    みゝつくのつく〳〵秋は日長しとくれしもしらす月にかこてる       琇唫社 てる月の雪をかこたんよしもかな氷室のおもの立そめし野は       六橋園 荻はらのそよくをみれはこゝにのみありとやはみん風のやとりは       岑頼 おきぬへき玉江の芦も枯はてゝ露を霜にや結ひかへけん       滝澄 桐よりもあはれまされり散初るもみちはおなし一葉なからも       隺雅 文雅 【新古今賀七〇九によるか。】 【右丁】  八 花瓶にさすへき菊の枝ふりは水にうつるをえりてをらまし      楽浪舎 春日野のむらさき蕪にひしきものむかし男の玉祭かな      福禄亭 月にさへ秋のあはれをうち添てきぬたの音は空にすみ行      象雄 くるゝかとみし山本は霧晴てもみちにてらす遠のひとむら      仝 秋のいろにそまらぬ松の木の間よりてらすは月の桂也けり 京    守達 我ものと思ひし袖のかけたにもさそひて月の入るそつれなき 兵庫   真道 あらしさへ色ありけりと思ふ迄もみち葉さそふ秋の山かけ 観音寺  十雨 見て老とならんけしきにうかれ出て千とせをこゝに松嶋の月      仝 交りのうとき隣も此頃は風にきぬたの音のとりやり 若山   抜樽 ともし火のもとのをくらきたくひかも月の出遅き山かけの庵 大坂   隺の屋 山の井はもみちなからに汲てけりこの葉の雨の晴間あなれと 仝    一榭 川ふかみそこは秋にもそまらすや上にのみうくもみち葉の陰 仝    雪の門 やとるへき露ちる夜はゝ照月もさやけき中にものや思はん 仝    寿賀子 九重の雲井にかくるあら駒は月毛の名にしあふ坂の関 仝    常成 【左丁】   二十六 世の秋はしらてよはひをのへぬらん菊にすかりて光る朝露 水口   稲丸 舌をまく酔もことしの竹の葉やよりもとさんに水そこのめる 津    津多丸 村しくれいたりいたらぬ所ありてもみちもみちぬ木々も有らん 仝    巴字丸 末の子をめつるならひかことさらに菊ははえよくおほし立つゝ 仝    津多丸 をたまきのいとゝあはれに妻恋るをしかなくなり三輪の山もと 松坂   形也 客人もかへさうからん我庭の菊のにほいの袖にすかれは 名古屋  滝守 獅子舞も廻りのこしゝ山里になくや神楽の鈴むしの声 駿府   広葉 山里のけふりの中にもえぬともすゝけさりけりもみちはの色 間門   鍵守 岩代の岡の松むし籠に飼て夢むすふへき枕辺にきく 在甲   面高 おく露は水かねならし明行は声のつふれし荻の上風 芝田   太極園 たなはたへさゝけし竹におく露はかなしきふしの涙なるらし 仝    真守 誰か槌の音と旅寝の淋しさにおもひ出さるゝ古さとの妻 仝    隺雄 よしさらはおきてうたまし小夜碪【注】やめし隣をまたねせぬ也 山名   烏流菴 今も猶もの思ひのみはすてられつ更科山に月をみる夜は      歌輔 【注 さよきぬた=夜打つ砧(きぬた)。碪=砧】 文雅 【右丁】 むさし野を迯る水にも限りなき清さをみせてすめる月影 桐生    秋村 あか駒もしのふはかりそかひかねにもみちのさ枝はらはひにけり 館林    梅孫 星とみえ玉とみる迄光りよくみかき出せるむくの葉の露       仝 我かけのかしらもくろし照月のむかしを見する鏡なりけり 栃木    言葉 おもはすも見る間に袖の露けくて秋のあはれを月にしられつ 佐野    梅香 見れと猶秋の野もせはわかたしな千種の花のいろかあかすて 仝     有鄰 山川のあらき流れにさからはて水にまかるゝ秋の落あゆ 仝     綾明 天の川こよひの風に流るゝは星の枕にはらふちり雲 太田谷   道彦 柴の戸に吹たひ風の音つれて秋の長夜もぬるはみしかし 熊谷    不知瀬 白川の関路をこえて渡り来る雁はかすみと共にいにしを 引又    友隺 ものことに秋としいへはあはれにて草葉の露もたゝならぬ哉 野田    喜門 みそきしてかへさの袖に残りたるあつさに風もよそや吹らん 松戸    阿字丸 霧の海の底より出るいろみえてのほる朝日にむかふもみち葉 瀬戸    重樹 山里は世にもしられす露の間に千代の色そふ白きくの花 仝     浦風 【左丁】    二十七 淋しさに住やわひけんかたつふり家ひき出す秋の夕くれ 宮原    清直 唐にしき二村山のむらもみち村しくれにやかくそまりけん 山田    春山法師 いなり山めくる時雨にもみち葉の夕日にめたつ朱の玉かき 水海道   梅里 照月のかけをうつせは玉川の鮎のさひさへみゆる望の夜 江戸嵜   喜丸 花ことにわけておかねと秋の野の千くさにかはる露の色哉 潮来    守居 いせの海渚を清みすむ月は見てもえかたき真珠也けり 二本松   光丸 三面山夜はにこえ行はつ雁は河内の妹か文にかも似し 仙台    千代彦 夏と秋入かふ雲の絶間よりいつらわれ出る三日月の影【*】 仝登米   美波 たつた川見ゆるあなたは霧こめてちらぬ紅葉も中は絶けり 仝     繁安 紅葉見る目のつかれしを補ひし松のみとりそ秋はゆかしき 仝     楽睡 稲妻に綾をとらせて村雲の月をおり出すしつ機の山       水原 牛さへもかなしかるらん彦星の恋の気落をおろす今宵は 盛岡    賓成 あすさかん莟にあとをいそかれてとくしをるらん朝かほの花 仝     康羅 ぬは玉のやみの木かけを片よせて月にもあかき嶺のもみち葉 花巻    菊守 【古今夏巻軸一六八によるか。】 【右丁】 待よはゝいぬる事をも忘れけり枕の山に月をみんとて 小松    豊玉亭 むらさきの文字のはしめは唐人も此糸はきの花によりけん 高安    真津雄 めてたしなよそのうきをもしら菊の花のこかねにこめるあるしは 新庄    真澄 村雲に風のさはりて照月のかつらの花のあかき夜はかな 宮内    水也 人ことに袖をぬらすはいかはかり水やもつらんもちの夜の月 同     時代住 更科や田毎のいねに置露も玉となりけり月のこよひは 高畑   糸也 さひしさに鴫さへ人の足あとを立かねてゐる沢の夕くれ 天童    文柳堂 淋しさもあはれも秋は山里にまとめてはこふ鹿のこゑ哉 同     よし鷹 風なきて雲の浪さへ立ぬ夜は月のみ舟はうこくともなし 同     直也 目にみえぬ風のみ軒に音つれてとふ人もなき秋の夕くれ 同     文水堂 しら露のおきてそたわむ菊の花しかりとてしもかやはかくるゝ 同     茂弘 廻文  十二  流れくる木の葉もくらしゆふは川冬しら雲はのこるくれ哉       梅彦 文字鎖 をりはやく来るはつ雁かかねて待月のかつらももみちあへぬを       素鵞門 同     十 むらさきに匂へる萩を折てよししはし過なは花やちりなん 尾大野   広波 【左丁】     二十八 物名  貫之 躬恒 葛かつら雪のうつみてさへ渡る風をうらみつ根もやかれんと 天童    文歌堂  桜橘 めてあかぬ千くさ花さくらちの内にたちはなれえす月もやとれり       琴音  両国橋 あたなりやうこくはしたふ心そと身をかこちてもすこす契りは       素鵞門  さをしか  女郎花  はき けふはいさをしからすとてもみち葉をみなへしをるはきみか為かも       島成 二十二 折句  不二 筑波 冬の夜の霜そわひしき露はみな草のやとりをはなるとおもへは 善光寺   童司 十 謎字  はつ雪 何せんに葉末のつゆは残るらんすゝきのほ波枯うせにけり       輝條 沓冠  大ひるめむちのかみ 沖つしほ干かたにおふるめやからむ千しまの蜑のかつくいとなみ       仝 枯あしの葉を横に吹夜あらしは草かり笛の音や出らすらん 観音寺   諸光 まかひものあしきならひそ雪のみは桜にまさるみよしのゝ山 三木    雪好 葛の葉も枯てあらはに風寒し庵のわかへやうらかへすへき 堺     千晴 ものなへてせはしき折は忘るゝを惜さわすれぬ年のくれ哉 大坂    守近 板屋根をはしる霰のおと聞けは猶も寒さはとまらさりけり 大津    鳰照 氷る夜は池のせまさにことよせてつかひのをしや猶むつふらん 仝     春眠 とゝめても年はとまらしかたへより春待わさをせぬ人はなし 信楽    花鳥屋      文雅 【右丁】 打はらふかまとのあたり立舞てもとのけふりをしのふ煤哉 松坂    歌良左 日毎来て小野の炭やく賤の男も白くなりぬる雪の明ほの 水子    友茂 伊豆の海や沖の小島につむ雪はよせて帰らぬ浪かとそみる 谷無【貫ヵ】    広海 蓬莱にあらぬ嶋根も白かねの木々そ多かる雪つもる日は       仝 何事もなしはたさんとおこたらぬ心にはやくくるゝとし哉 佐野    橋住 なつかしみ菫の野へにたくひてか雪に小松も一夜ねにけり【1】 松戸    阿字丸 中々に学ひの窓をうつみては昼もをくらき雪にそ有ける 成田    文彦 おくとてもうつろはされは八重とのみめてはや霜のしら菊の花 野田    善成 白きには消たれ安さよあかねさす日かけを雪のうつめてそふる 二本松   栗園 つもるへきかたを尋ねて心みにまはらにふるか庭のしら雪 仝     光房 あらし山杣かいほりも埋もれて音たに立すつもるしら雪 仝     光都久 神棚の戸をおしたてゝ煤とりにたゝく畳のとこやみの宿 仙台    薫 月かけにさはらてすめる榎の葉井にかつらの落葉なとかくすらん 寒川    弥寛 田子のうらにはかなく消ししら雪は浪をくゝもてふしにつもるか       仝 【左丁】    二十九 木枯もさそひ残して久かたの月のかつらはさやけかりけり 天トウ   文水堂 山のはの雪より上にかけさえて光り身にしむ冬の夜の月 三条目   真波 近く来る春をはしらて目路遠くよすきり島に雪の花さく 堀川    歌丸 吹風に時雨の雲も片よせて落葉のうへにやとる月かけ       近国 はふりらもたなれのにきてよそにして梅の宮ゐの雪やめつらん【2】       隺雅 おく霜はかれし千種に八重の花さかせてしらむならの故郷       仝 みかさます事と聞しは谷河の流れにそはる落葉也けり       六橋園 難波江や小舟出ぬ日も立枯の芦に葉分の風はそひけり       仝 家つとり声をゆたかに合すらん神いさめすとならす鼓に【3】       得雅 何となくくるゝもしらぬ白雪のふりし山辺をたとる杣人       滝躬 梢をははなれ木末にやとりけり落葉をしける谷の枝川       古路 有明の月のを笠もかたふけて関路こえ行横しくれ哉       岑頼 冠毛ををしよよこすな池水の濁りに足はよしあらふとも【4】       千束菴 錦なす落葉をたきていとひなく木綿を煮るは憎き山里       福禄亭 文雅 【1、万葉集巻八ー一四二四によるか】 【2、はふり、神社に属して神に仕える織またその人。たなれ(手馴れ)。にきて(和幣)。】 【3、いへつとり(家つ鶏)、第三五コマに後出。かみいさめ(神慰め).】 【4、冠毛(かむりげ)。をし(鴛鴦)。】 【右丁】 あらし山あらしのさそふしら雪はちり花よりもめてたかりけり 大坂    寉の屋 難波江のあしのふし間にふる雪は水の底にも見ゆる白たへ 若山    歌雄 照月のやとれる影は池の名の氷室の雪と見ゆるさやけさ 観音寺   笑顔 釼羽をうつ音たてゝ寒き夜も太刀造江にすたく水鳥 仝     諸光 住のえの雪には年のゆたけさをますはかりなる市や立らん 阿波    輝明 くれてゆく年をとゝめんよすかともなれや高ねにつもる白雪 水口    稲丸 埋火のほのめく宿をいふせけに立さるものは寒さ也けり 大津    春眠 花咲し野への真萩はうつもれてふりつむ雪に袖をする哉 信楽    花鳥屋 雪つもるその暁に鳥野山三世の仏もつくりてしかな 名古屋   真守 花と見てつとにもこぬをうらめしとつもらて雪の枝やをるらん 岡崎   好彦 冬の夜の月には雪の光さへさしそはれはや寒けかるらん 大間々   有門 日影さす霜の底より白菊のまことの色はあらはれにけり 上一宮   梅刀自 つまならぬ日数かさねと衆戸女もなへてせはしさまさる年の尾【1】 楐野    明義 みよし野も三田の山もあらそはぬ色にこそみれむつの初花 コカシ   志好 【左丁】    三十 ちりよとむ落葉は絶すさやく也水の底にも風はふくらし 日光    楽水 なきたまはうき世の事もしらねはやせはしき年の果にきませし 松戸    明村 雪をれの音は竹田の里なれやけしきのかはる明ほのゝ空 野田    広永 ふもとより時雨を山にはこふ時ふりこほしつゝのほる村雨 木の崎   茂雄 かしましく友よひかはす群千鳥月あかき夜も人目はちすや 成田    秀明 みよしのに春きにけりと思ふまて木々の白雪花咲にけり 二本松   光妻 木々の葉もてよわく風に散はてぬもえにし春に似もやらすして 仝     光村 夕まくれ一むらくろむ烏より外にいやみをしらぬ雪かな 仙タイ   薫 吹風をつはさになして鳥ならぬ木の葉も空にみたれてや飛 登米    秋竜 ひんかしへ尾花おしなみなひきけり西より秋の初風そふく 大道    夢盛 ねくらたつ鷺のゆくへも白たへにうつみてわかぬ雪の嵠 盛岡    実成 白雲にひとしき灰をのけみれは天津ほしほとのこる埋火 高畑    和哥喜 松かえをはらふあらしにけふは又きのふの雪のつもる山里 竹杜    津喜丸 花さきし千くさの滴とあかぬ哉たゝ一いろの雪はふれとも【2】 天トウ   茂弘 【1、衆戸女、姑(しゅうとめ)か。新古今釈教一九六四によるか。】 【2、古今冬三三〇によるか。】 【右丁】 村しくれ晴て露おく松の葉をしはし夕日に紅葉なしけり 金原    定住 八 九重の高き屋とても瓶の水氷て民の寒さこそしれ 宮サキ   千可信 都にて雪見車のかよふろち目をとゝろかす水仙の花 三条目   真波 み仏にかたちつくれは法の師のかつきし綿とみゆる白雪 竹杜    津喜影 見わたせは昨日の秋の色もなくふしの根白し雪の明仄 天トウ   文好 川風にきしの枯蘆折敷てなかれもあへぬ雪をみる哉 同     よし鷹 雪をしも花とやみらんくるはすて寒きのとはぬ戸さし守る犬 小松    真竹 冬は猶目にたつこともいとさひし風も音せすちれる木々の葉 同     末広 ふる雪に春のおもかけみゆはかりちりかふ花に似たる吉野路 一本柳   小瓶 はゝきをもとらせす庭の雪をみんけふは異国の元日の朝 上ノ山   真薫 とはすとも神の留守ともしられけりぬさと手向る紅葉たになし 同     真影 八千くさの限りしられぬむさし野もかれてことしの果をみせけり 大道    夢盛 ちり尽し木の葉なかれて行末は海にのみきく木からしの音 盛岡    广守 おく霜のしろさとけさはみえにけり神のみまへのあけのみはしも 仙タイ   染好 【左丁】     三十一 松風のしくるゝ夜はゝ木の間もる月かけさへそやとり定めぬ 仝     三千年 風さそふ峰の木の葉は飛散てしくれならねと山廻りしつ 気仙沼   好之 あらしする風のやとりを埋めんか雪ふりつもるみねの松かえ 荒マ    友成 八重むくら枯たつ冬の浅茅原つはらに寒きけしきとそなる 白川    玄遠 小夜ふかくなるみの海にいとゝしく群袖しほりてなく水鳥哉 塩子    仲住 ふる雪を池の面にもつまんとや氷は水をやらひそむらん 善光寺   長房 日数さへはたち重ねてふる雪に猶たけ高きふしの山すえ【ママ】 仝     玉兎 月かけのみえみ見えすみふる雪は桂の花のちるにや有らん 大坂    雪雄 めつるかとしはしみ空にたゆたふや一しきりしてをやむ初雪 仝     菊守 水底にみねの雪みる田子の浦世にならひなき不二の移りて 長浜    里塔 飛鳥川かはる淵瀬にをし鳥はうきねの床を定めかぬらん 明石    信孝 み空にもふれる中はをつきてまし雪にあたなる日を埋むかに 兵庫    江居 雪つまは折れもやせんと吹風のかねて木の葉を散すなるらん 同     亀石 寒けさに手飼の猫の身ふるひも白き毛こほす雪の明仄 名古屋   便々居     文雅 【右丁】 紺かきのわさもおよはぬ染かたや雪に紅さす夕はえの空 名古ヤ    玉松 くれにける昨日の秋の別れよりけさのしくれに袖をぬらしつ 同      有子 たはしかし露もあるに【ママ】白雪のつもりてたわむ竹のうきふし 衣浦     住雅 しくれふる都の町は傘のもみちをみせて人の行かふ 飯田     住安 眠りなは氷つかんと水鳥のかたみに夜はゝ声かはすらん        仝 帯と見しふし川の上の薄氷かひの口にや結ひそめけん 駿フ     松成 たゆみなくをとめの袖にきらめきぬ採物ならぬ霜の剣も ハマ松    末広 きよらなり羽袖ぬらさで高波の打出の浜に来なく千鳥は 萩野     美年 心して雪は冬こそふるならめ花も紅葉もあらぬ梢に 榎本     一幸 かた糸のあはての浦の千鳥こそ羽袖ぬらして夜さら鳴らめ サクラ野   明義 けふらすは賤かすみかもわかぬ哉雪のあしたのみよしのゝ里 秩父     清良 ふるよりも晴てあかねの日のさせは我笠ぬきて雪に着せなん 引又     友寉 さそはるゝ浪をわひしみうき艸を岸にとちたる池の氷か 野田     香居 苫かへす八重の汐風身にしみて雪になるみのうらの寒けさ 松戸     阿字丸 【左丁】                      【枠囲】二十二 おきかはるゆふへの露も久かたの空よりしらむけさの初霜 セト     実則 いそきなはあたゝまらんを早川の水もよとみて氷るなりけり ウサキ    隣通 しのはるゝ梅もさくらも白たへの雪の花にはます色そなき 山田     真波 つくはねは晴てそかひに行雲の足をのゝちは時雨ふるらし 水海道    種義 とくちかし柳の枝の瀧つせに声を添たる木々のこからし        楽浪舎 東都    檜 園梅明 撰 恋雑歌 十二 おもひ草しけりにけりなゝき人のたまの尾花は冬かれぬとも        象雄 よきことはふたつなき世のならひにてあふ程もなく明ぬ此夜は        輝條 中々にかみとりあけてかるかやのみたれ心に待夜わひしき        近国 おもはしと思ふ後はより枕よりせむる涙や恋のみつ汐        琴音 辻占はいけのをくしの歯の根より出ぬる人の言の葉そ待 名古ヤ    波雄 あふ事はなきさの海の晴な【ママ】やひけは玉藻もなひく習ひを 山名     烏流菴 契りてし身は錦木とくちぬとも門をないてそうき名はかりは 善光寺    童司 文雅 【右丁】 人心かはり安きをたのみにてつれなきを猶したひぬる哉 二本松   光居 うき人に心なかくやたのまゝし思ひ初しを身のとかにして       仝 みしめ【御注蓮】縄よそにむすふの神そともしらていのりしことの悲しさ 天トウ   文歌堂 十 こゝろみに今宵やこしといひやらん恨みかてらに人の来るかに 同     松旭亭 あふ夜またまさるなけきそ歎きのみあはぬ昔になすよしもかな 同     美鷹 捨られて今はかひなき床の海にひろふ涙の玉は何せむ 寒川江   弥寛 恋草のくちつゝ色のかはり行君か心や霜かれの野へ 竹杜    津喜丸 つもりたる枕のちりに涙川うつみはてなはおもひなからん 仙タイ   條彦 しのはらやしのゝほ薄ほにいてゝ秋はおもひのいやしけりぬる 花巻    梅保 あふにかへわかれにかふるよしもかな人のつらきにたえん命を 二本松   光居 家つとりかけのたれをの長き夜を今宵もひとりなき明す哉【1】 白川    綾寉 髪きらんおよひ【指】きらんと契りけり柳も梅もよそに見なして 山田    真波 心からつくれる恋の山からすまなふたはれてはたなきになく 江戸崎   緑樹園 うき人のとひ来んこともなく涙袖にこたへてしのふ夜そなき ウサキ   隣通 【左丁】                       【枠中】三十三 つれなさは我に先たち願ことを神にうけなと妹やたのみし 粗毛    宮望垣 黒かみをきりておくらんあらたむる人めの関はすゑすもあらなん 成田    秀明 てゝ虫の姿おほえて辻君の家と背負へるとふの菅こも【2】【注】 松戸    明村 あはぬ夜は我さきもりと身をなして床の海へに袖ぬらすかな       仝 さりともとはかなき身にも頼む哉人の俤夢に見ゆれは 金子    好文 尾花より袖はしとゝにぬれにけりわか下もえのほに出ぬとや 引又    輝雄 みすやいかにつれなき人は白露の紅葉におけは赤くなりぬを 芝田    梅国 うたはるゝうき世のかれてとりかねの聞えぬ恋の山中もかな 津     五十瀬屋 長月の月にならひて来ぬ人をまつ夜はまつにさはりあるらし 大坂    隺の屋 霜かれもしらてしけれる恋草は袖の露こそおほし立けめ 水口    稲丸 我魂は君にそひえてうしや身は出るなみたにくちんとそする 三木    雪好 わか胸のうこくはあやし嬉しともうしともいまたさらにわかぬを 堺     千晴 俤は夢にもみえすなけきのみ今は添寝になす身はかなさ       六橋園 あすの夜もあはすはいかにあかさましきのふに増るけふのつらさを       古路     文雅 【1、万葉巻七ー一四一三によるか。】 【2、金葉冬二七八によるか。】 【注 十符(とふ)=符は網目の意。目を十筋に編んだもの。十符の菅薦で編み目が十筋もある幅の広い菅薦。】 【右丁】 契りおきてとはぬ夜床の手まさくりなけきのみ社【こそ】いたかれにけれ       寉雅 しけりけり尾花かもとの草とのみ恋る思ひは秋ならすとも       有年 夢にまてつれなくみえてぬる間たに涙かわかぬ恋衣かな       象雄 こえなつむ恋の山路の手向には心をぬさとくたきつるかな       磐樹 八 あふみの海かひあるへくもおもほえす君をみるめのなきあかす身は       象雄 夜々つもる枕の塵におもひ川わたるたよりの道つくらまし 阿波    輝明 待かひもなみたにぬれて木枕の山もくつるゝおもひなりけり 観音寺   諸光 白き歯を人にかくして戸かくしの神にいのらん梨子をたちつゝ 越フ    竹生園 つれなさをあひみし夢ととりかへて夢をまことになすよしもかな 芝田    安丸 いのりても印のなきを歎くとは神ならぬ身の君はしらしな 堺     速樹 吹風のまに〳〵なひく女郎花わか思ふ君もかゝらましかは 同     重樹 逢ふ夜はの袖にうれしき露さへもあくれはうきにかへりこそすれ 若山    隺輔 常磐なる色の柳を心にてなひきあふ夜そ嬉しかりける 大坂    春臣 わすれ草身に負せてよ住よしの神のいのれるしるしあらすは 仝     守近 【左丁】                        【枠中】三十四 へたゝるをうき世のきりといさゝかもことわりしらぬ我涙かな 大坂    雪雄 おもふことありその海のふかけれはひろふにかたし恋わすれ貝 大津    鈴雄 あまたゝひ心や行てさそひきぬとはかりおもふ君かおも影 岐阜    神垣内 夏引の手ひきの糸のきれはてゝよらんかたなき恋もする哉 名古ヤ   便々居 捨られてなけきたる身をとふ人のあらぬや恋の山路なるらん 津     巴字九 恋草は野への薄か中々にあひそめてより思ひみたれつ 見付    草の屋 松山のまつにつれなく君来ねは今は浪こす袖となりにき 遠森    益枝 千とせもと契ること葉を頼にて鶴を折りつゝ人をこそまて 掛川    梅武 あへはこそかくは別れの悲しけれあはぬむかしのうらめしきまて 甲フ    松良 鳴雁の涙を添て二人寝のとこよはなるゝきぬ〳〵の空 在甲    面高 草や木のものいひぬへく思ふ哉恋の山路にさわく浮名は クラ科   亭 あふ夜はゝ寝よとのかねもしゝまにてものもいはれぬ程そ嬉しき       仝 もの思ふ胸にも雲のとつる夜はつれなくふりぬ袖のむらさめ 仏都    月輝 今はたゝもる人ありと秋の田のほのきくからにいとゝうらめし 上一宮   梅刀自     文雅 【右丁】 我恋の山そたちなるやつこらそおもひのましはかくもとるらめ 鹿沼    吉明 こめやとは思ひしりつゝ夕くれはきねとはかりに立またれけり サクラノ  明義 一もとのあふひ【葵】かさして君と我すゑはもろはに恋いのらなむ 榎本    一幸 玉くしけ【注①】二夜も三夜もあかすしてしくひあひ【注②】なは嬉しからまし 同     隺住 たてよ神たゝは思ひもたえぬへしちかひたかへし人のいのりは 栃木    橋住 なきことも添てうき名は立にけりあるかあるにも定めなき世に 野上    小松 かくはかり恋の重荷はつもるともかたかへんとはおもはさりけり 干潟    松成 つゝめとも袖にあまりて流れ出る枕の下やなみた川なる 三堀    吉丸 秋風はいつ吹そめてわか袖にしくれとなみたふらぬ日そなき 松戸    阿字丸 きぬ〳〵の涙は我をいさめけりかく別れよと落て見せつゝ 古山    畔艸 くれ竹の一よなりともなひけかし千尋にあまる我おもひには 水海道   種義 俤を夢にはみれと真心のあけてかたらんそひふしそなき 仝     三千歳 月よりもあた名のもりて今はたゝ不破の関屋と身は成にけり 仝     梅里 此まゝに恋しぬるともいとはしな君かおもかけそひ寝なせれは 上ノ山   真影 【左丁】                        【枠囲】三十五 おもひ川おもひわたると思ふまにさめてはかなき夢のうきはし 宮内     千可喜 あひみんと思ふこゝろのあたさくら散てはかなく年そつもれる 新庄     鈴音 燈火はかき立もせんを待夜はゝ思ひに消【け】ぬる胸はいかにそ 天トウ    文水堂 ふる雨をかことにこぬを待わひて我のみぬるゝあかつきの袖 仝      文柳堂 きぬ〳〵の涙の玉をつふてにてわかれを告るとりを打てん 仝      三千子 くりかへしいへと心のとけさるはいかにむすへる賤かをたまき【注③】 盛岡     実成 あひ見さる月日数へてなく我は恋のみ山の谷のうくひす 仙タイ    葛彦 つれなさの泪のしくれふりまして冬かれもせすしける恋草 ケ仙ヌマ   好之 十二 おもふ事そのまゝかみに書とれる筆は心のつかひなりけり 二本松    光樹 うるはしき空の葉きさむ桜木はふたゝひ春の花さかすかな 鹿沼     稲丸 いたつらに年はふりけりおもふ事何ひとつたにみてぬ我身は ウサキ    隣通 をられぬを神にちかひて小草すらさかえもゆくかくせの社は 善光寺    童司 背を高め妻あらそへる恋猫もかのふた山のかたちみすらん 大津     春眠 うきふしはよきてのてまし我老をたすけん杖としける若竹 阿波     食翁     文雅 【注① ここでは音「フ」にかかる枕詞。】 【注② しぐいあひ=語義不詳。男女がくっつき合う、交わるなどの意か。】 【注③ 正しくは「しづ(倭文)が(或は「の」)おだまき(苧環)」。「倭文」とは古代の織物の一種。梶木(かじのき)、麻などで筋や格子を織り出したもの。「しづの苧環」とは、しづを織るための麻などを玉に巻いたもの。糸を織り出すものであるところから、「繰り返し」の序や「しづ」を「賎」の意にとって「いやしい」の序として用いられる。】 【右丁】 わきも子か化してや出ん猿沢の池の玉藻をかつく狐は      滝澄 十 ともすれは角たつ箱の火打石よにすれてこそ丸く成けれ      滝躬 わひしらに今道心もやすみけり村雨かゝるかるかやの関      岑頼 つひはめるけらのひとつを嬉しむはかけのたれをのたることやしる      璓唫社 見し夢のこてふは跡もとゝめぬにさひしく残るともし火の花 京    住雄 生れたるわか身のむかししのふ哉人のいさめの杖にすかりて 大坂   清明 乗物のつるをかひおく其人と千代のよはひはいつれまされり 阿波   青草園 神路山たとりてふりし事とへは清きかへしを石そ答ふる 仝    梅彦 わかの浦芦へに汐のみちぬらん田鶴鳴わたる水色の空 信楽   花鳥屋 立浪のかふりをたつるわたつみの都は水の民そにきはふ 津    津葉女 まきこよみまきおくかみも二柱行めくるなり右を左に 名古屋  千代彦 月の眉霜のはたへの美しきあそひは花とめてられにけり 仝    玉松 沖遠みつゝける空のひさこより出しととらゆる浪の白馬 見付   草の舎 八千とせをふるの里人うち墓にもたかひにしなぬ石のあるらん 熊谷   不知瀬 【左丁】   三十六 とことはに緑かはらぬ天のはら冬かれしらぬ草のおふらん 谷貫   広海 沖遠みうこく手ふさに海士人の海のさちあるしるしをそみる タテ林  梅孫 蚊の眉に巣をくふ鳥のあとならんむしめかねもてのそく細字は 日光   花門 ものいへはこたふる山の山彦をかたらふ友とたのむいほかな ノタ   柏唫社 けふのみのこゝちせられてしるすかに聞はかなしき夕くれの鐘 同    善成 世にしけるふみの林にわけいらぬ身は今さらになけきをそこる 水海道  種義 まねかれて今宵とまりの旅枕尾花かりふく宿の露けさ 八木蒔  三千丸 ものあらくいへはいらちてこたへけり我にまかする峯の山彦 二本松  光麿 夢の世を夢と過にし人かみえて身のゆめみえぬ夢の浮世や 仝    光蔭 万代をへぬへき亀にくらふれは松のよはひや春のわかくさ 梁川   民丸 ますらをは軍なき世も筆の鉾手にとらぬ日はあらしとそ思ふ 仙タイ  千柳亭 さはかりはふらすも雨の夕くれは先こゝろこそ打しめりけれ 大トウ  調歌堂 あすありといふをかことにけふの日のくるれはあけのまたれつるかな 同    松旭亭 さひしさに馴て常ゐる山里はすかる【注】なく夜ももの思ひはなし 同    調歌堂 【注 鹿の異名。】    文雅 【右丁】 をしまれてちり行花にはつかしやうとまれて世になからふる身は 金原    定住 おそろしや人の心のくろ塚にこもれる鬼のありとこそきけ 大坂    一樹 雨はれてみとりのそはる八重山のいろは空にもまさりけるかな 同     寿賀女 あふきみれはいよ〳〵高し常磐山松はみ空のいろにつゝきて 同     菊守 おく山に身をかくすともくれ竹の世のうきふしはのかれさらまし 明石    信孝 ふくまゝに姿なひきつ女竹廓もしらぬ風をやとして 三木    雪好 みちぬへき汐のなけれは世々ふともひくことのなきすはの水海 阿波    食翁 いたゝきて出る黒木は大原女のけふりを立んしろ【代】にかふ【替ふ】らん       仝 うかれ女はうきを心にかこつらんまことかたれと聞人をなみ 堺     速樹 いとまなみ櫛けつる間もあら磯の浪にみたるゝあまの黒髪       仝 大君のしきます空に鳴神よつちへな落そかしこかりとも 仝     千晴 言の葉の花をしをりそ奥ふかく文のはやしに分いらんには 越ト山   菊好 ものおもひ承とり出して涙ほと硯へおとす水入の水 大津    鳰照 すま寺のたらひの額に手をかけて顔を鼠のあらぬをかしさ 信楽    花鳥屋 【左丁】    三十七 もろこしのうつし絵みれは海山も手にとるまてに間近也けり       仝 手習をきらふわらへは汐のなき硯のうみもからくおもはん       仝 うらかへとしりつゝ客にしろきかた出す碁席の石かれひかな 津     津留丸 草も木も生ひ出ぬふしはいろとらぬ墨絵にかきて美しき哉 松坂    歌良丸 見もしらぬ昔の人の言の葉をつたふる筆のなかき命毛 飯田    住守 月かけのすまぬをわひてうき世にや流れいつらん谷の下水 カケ川   弘麿 うき雲のこもるみ山に世のうきをのかれて住る人はをかしな 古沢    美智業 川竹のみさを立れと游女の身はうき世の【ママ】やとり定めす 塩尻    浦人 此神のさかえんほとは住よしの松も千とせと限るへしやは 佐野    糸屑 清らかにかたちつくれと濁りたる心は利根のなかれてふ身そ       仝 谷ふかみくらきに風のたゝりつゝものにあたるる音のはけしさ 中神    栲の屋 照月の雪の綿よりくり出す糸とやみらん布引の滝 引又    友隺 隅田川よとまぬ浪はむさしのゝはてをなかれて逃る水かも 太田谷   道彦 世々かけてあふけさかゆく言のはの玉津島根の神のみやしろ 野上    小松     文雅 右丁 霜おける松の木末の風さへて浪よりしらむ沖つ島山 野上   小松 おのか羈おのれをせめて夜はいく度火をもやすらん野への子狐 フタ   香居 水かゝみ見てやよはひをうらとはんかけうすからぬわかの浦鶴 セト   繁樹 めてたしなかしらの雪はたえねともとこ少女なるふしのしら姫 仝    浦風 ゆたかなるみ代は八少女舞外に剣うちふるものとてはなし 水海道  三千歳 山人のめてにし菊の名をつけてよはひたもてと明る峰かも 潮来   守居 やみしらぬさとは吉原竹村のも中の月の出ぬ夜もなし 谷田部  筑波山人 末長きみ代のためしにをのゝえの朽木の杣に花木引らし ホリ川  歌舟 くれなゐの葵にそまらぬ山寺はすみの宿のすみよかるらん エトサキ 喜丸 嬉しともかなしともはた聞人の心にひゝくいりのあひのかね 二本マツ 光房 駒なつむ木曽のかけはし見おろせはしら泡はめる谷の川なみ 仙タイ  綾信 末ひろきみ代のかなめとみな人のあふきてのそむ山はふしのね 仝    薫 ゆかみなくすくなるみ代のなりはひにまかるをよしとゝらはためさん ■【砣ヵ】マキ  有年 とほれぬる程や小松と生ひにけん今年を千代の初めにはして 盤丘   广守 左丁   三十八 あら海の中にしたけき鮫なれは死ても太刀のかさりとそなる 仝    実成 恋しらぬ身にもにくさの増りけりねられぬ夜はを起す鳥かね      仝 夜をこむる学ひの窓の灯火は人もろともにねふらさりけり 大道   夢盛 かれ飯と落る涙にほとひけり椎の葉をもる月の旅寝は 天トウ  文章堂 さめてまた旅にゝとりつ古郷へかよふは夜はの夢はかりにて 同    真隺 滝の音やあらしの声になるゝ哉世をあなかまとのかれ住身も 本生   滝躬 くれ竹のよかれし宿はあれにけりしたにうらみの鬼のすむ迄      楽浪舎 心ゆくひなの旅路のひさこ酒こゝをつゝさはなして別れなん      仝 はらからも明ぬたくひにてみつ栗の中のひとつやめたち着なる      千束庵 すなとりし魚はぬれてゝ安房上総うら〳〵近くかへる釣ふね      六橋園 春夏の類想あへける序に奥にとてよめる長歌幷短歌          藤原         真名富 楢の葉の名におふ宮の大御代に匂ひそめてしあつまなる偉【焼ヵ】炎山の こかねよりひかりなされる人みなのことはの花を花ことにあやに学し 文雅 右丁 しかれとも心なき身はいろ香をもわかむよしなしいはんすへせんすへすらて いたつらにあふきてのみもうちみつるかな 色も香もきよくめてたきことの葉は花とやいはん青葉とや見む 沓をぬくほしをみきりにあけおきて人こそまため庭の白雪 野田    柏唫社 をさまれる御代はかしこしなへてとはおもはぬ妹か門も戸さゝす       檜園 當座  日本三景    至清堂大人撰 十六 女男の神昔いましははし立やなりあはぬ海に成相の寺       漫唫社 十五 松しまにけしきおとらし七夷笑かほのあまたならふ宮しま       花咲菴 十三 舟かけて釣する蜑は松島の笑ふ中にも針やもつらむ       梅屋 松嶋は松の多くて十かへりもおなし道ゆくこゝちこそすれ       岺頼 よる浪の玉をつらぬるいつく嶋黄金花さく山もしよめや       茅舎 うちむかふ由良の長者の竈よりけふり賑はふはし立のまつ       至清堂  同  六歌仙  漫唫社大人  撰 十五 美しくみかくこと葉の玉造り小町は化粧ふすかたのみかは       梅屋 左丁      三十九 十二 かくて世の人のめかれぬことのはをしほめる花となと名付けん       寉雅 此道に立よる人のかゝみ山年経てくちぬことの葉のはな       島成 綾にしきかさる都をうとむより世をうち山にすみ染の袖       軽燕子 わたつみの浪の花よりとことはにその言の葉そ秋にあはさる       璓唫社 よりかけし柳の糸のしら露そこりて詞の玉はなしける       漫唫社 文 臺 雅 調 終     文雅 【右丁】 【蔵書朱丸印】「MSS BIBLIOTHÈQUE NATIONAL, R.F.] 【左丁】 森園光書【蔵書朱丸印】「MSS BIBLIOTHÈQUE NATIONAL, R.F.] 【付箋】【蔵書朱楕円印】「BIBLIOTH NATIONAL MSS」 「Vente Emile Javal, 27 Novembre 1933,」 「Hiroshigé. Haikaika Bundai Gwacho. Recueil de kyoka.  Ces poèmes furent réunis par les poètes Chokado Mayéda, Mogi Shigé-  masa et Shunyutei Baiyé. Ni date, Ni nom d'éditeur.             I vol.contenant 12 pages de gravures en couleueurs.」 【製本裏表紙、文字なし】 【製本 背】 【製本天地】 【製本、小口】 【製本天地、綴じ目折り返し、判読不能】