大時代化物咄し 上中下合冊 【同じ本で刷りの違うものがほかにもあります。詳しくは→https://honkoku.org/app/#/transcription/4DF8B9D054DB1B4A06AFDF611085E368/1/edit】 【翻刻はゼロからやりたい人がいれば新たにしていただいてよいかと思います。】 【右は白紙】 【左】 《題:大時代(おほむかし)化物(ばけもの)咄(はな)し》 鷺路亭作 春亭画 鶴喜版    大時代(おほじだい)唐土(からの)化物(ばけもの) 全三冊 宝井(たからい)其角(きかく)が鍾馗(しやうき)の自画賛(じくわさん)を覧(み)はべりしに   今こゝに団十郎(だんしうらう)や鬼(おに)は外(そと) といへる発句(ほつく)なり夫(それ)鍾馗(しやうき)は疫鬼(えきき)を讓(はら)ふの術(じゆつ)あり俳優(わざおき) 団十郎は其名(そのな)高(たか)く異域(ゐいき)に聞(きこ)ゆ就中(なかんづく)英武(ゑいぶ)勇者(ゆうしや)の所作(しよさ) に妙(めう)を得(え)て怨敵(おんでき)退治(たいぢ)の分形(ありさま)を芸(げい)とす鍾馗の邪気(じやき)を 退(のぞ)くの事(こと)によく肖(に)たればこれを賞(せう)したる晋子(しんし)が当意(たうゐ) 即妙(そくめう)の作意(さくゐ)彼是(かれこれ)を感(かん)じて此(この)策子(さうし)の趣向(しゆかう)とはなしぬ             振鷺亭主人述 【右頁・右下】 から松のくわい 【同・左上】 ちやん〳〵ぼうず 【同・左下】 旧院妓女之怪 【左頁・上段左】 唐土(から)の化物(ばけもの) の図(ず) 紅毛(おらんだ)細工(ざいく)吹(ふき)    矢(や)の体(てい)  牡丹灯(ぼたんとう)の   妖怪(ようくわい) 【同・下段】 からはんにや たうおに ひとうばん から女のゆうれい 【右頁下段の横書き文字】 擬目録魔滅絵化物尽 【右頁上段】 せつぶんに もふ 春風が   ふくは内 おには外まて 【左頁上段】 ひほふ  梅が香 不知読人 望之儼然 如干城之 大将就之 而不見所 畏又如優 孟之衣冠 【左頁下段】 今こゝに 団十郎や  鬼は外     其角 【右頁】 こゝに洒落斎(しやらくさい)といふ 戯作者(けさくしや)ありけり 一ばん合巻(がうくわん)の もんきりかたを のがれていつかう 【左頁上段】 こわくないばけものといふが しゆかうにうかみつくゑに もたれてかんがへながら ねむりしがはりうちまげに 花かんざしごたいそうにさして つむりのおもさうなるかむろおかもち さゝげてゆくていを見たりこれはむかしの あか本にあるしよぼ〳〵あめのふるよに ばつてうかさきてとうふかひに出るこぞうに にたりてめへとうふをなん丁かつてきたといへば アイサ半丁かつてまいりイしたよサアその半丁に なつてトヾめでたし〳〵といふ所になんぞめでたい ばけものをださねばならぬか此あんじにこまるて ヲヤめでたいばけものとはしんばんておざりいす 本になつたらおくんなんしにへ手本にいたし ますよといふ手めへもばけならうのか こんどのばけものはひねつたものよ からのばけものを見せるきた ヲヤからのばけものなら ちんぷんかんでわつちらには わかりいすまい〽おれも さくしやはするがからの ばけものはどんなものか しらん〽そんなちんふんかんの ばけものよりやつぱりやわらかに とうふのゆうれいてもおかき なんしといふかとおもへはゆめ さめてかつ手にとうふやの おかもちばかりのこれり これはとうふのゆうれい▲ 【左頁下段】 ▲からのばけ ものといふべしと □□□はちこの さうしのげだいにし  ゆめになつては   さくしやの  手がらうすく   はじめから    ゆめがさめたは     あたらしいが   とゝのつまりが    やりにくしと     あんじ      いつて     すぢがき      して     ゐる     ところに     こつぜんと     してゑん     の下より    すまふの  ごとき大き   なるうで    さしいだし     つぎへつゞく つづきしや本をかいつかんてひつこまんとすこはおもしろしと ふでのさやをもゆてはつしときればにはのとびいしのもと にてきへうせぬ石となつたは九太夫のばけものかきつね たぬきのわさにしてはさしたるしゆかうにも ならぬとつぶやけばしをり戸のそとにこゑありて われ〳〵は百鬼(ひやつき)夜行(やぎやう)のばけものなりこよひとしこしの おにうちまめにおいはらはれやくはらいにつかまれん ことのこわさににけまどい候かさすがは おさくしやとしこしにもかまはず ばけものにおもいれの御やうすゆゑ おかきものをうばひとつてはいけん いたしたがからのばけものとの 御しゆかうからの ばけものはどんな ものでござり ますといふに▲ ▲しやらくさいうちわらひ  山海経爾雅(せんがいきやうじが)にそのかたちを  きわむる事あたはす博物志(はくぶつし)  畷耕録(てつかうろく)太平広記(たいへいくわうき)本草綱目(ほんざうかうもく)  なともせんさくして見るが  さてあたらしいばけものもない   なんぢらなんぞあたらしい   ばけやうはないか蘇子瞻(そしせん)が    鬼話(ばけものばなし)をこのみしにはあら    ねどこよひのとぎとす    べしといへばわれ〳〵も     あか本のはしをも見      ましたれどみこし      にうとうや一つ目        こそう        などの           ▼▲ ▼▲ やぼなばけものばかりて 手本にもなりませぬちと しんぱんのばけものもこさります ればまかり出ませうがおとこのまの おかけものをおそれますればはつ してくだされましといふこれは しやうきのかけものにて〽今こゝに 団十郎やおには外といふキ角のくわ さんなりしやらくさいはのぞみのとふり かけものをはづしいわしひいらぎも さゝずうきよをかべとみたさくしやの いほりの内おつかながらずはいれ〳〵 ばけものゝせううつしいけとりにしてくれんとふでもちかまへてゐれば よろふたるむしや一つきむないたに∴一のもんをつけ金さつをたづさへ あらはれ出たりしやらくさいさてはつなかへんげになさゝゑにしても よろいむしやとはこふうなばけものめといへばせんせいもしちよつと◑ ◑おはな しがござり やすよいの くちやくは らひにばけ     て     くる     わへ      は      いり      は   らひ  鬼箱(おにはこ)を かひませうと らせうもん がしをよんで とふりますと かうしの内から ぬつと手を出して むなぐらをつかまへ はらひもんたかつて くんなといふつらを 見れはねんあきめへ いくつになるときけば おにも十八さといふから すはらしい大江山へはらつ てもせんたくはゝァにほか ならねへとんたはけものたと つきはなしてにけようとして   うてを見たらあだに   ほりものが つきへつゞく つゝき ありやすなんだと見ればわたなへのもんが しなひてゐはどうでありますといひすてゝうせぬ しやらくさいたいらのとももりゆうれいより よつほどおちをとつたきでひつこみおつたが こんどはなにか こわいものが出る だろうと ところに▲   ▲そのたけ   一丈あまりの   おにわかしゆ   のすもふとり   すつくと出   いのくまたこを   めんにかぶつて   おちさんのもん   かァとおとす   しやらくさい  へいきて見て  ゐれはおらはことも しゆも御ぞんしの  みこしにうとう     なるかあまり      ふるくさい      ゆへしん手     をあんじ      にんけんに      はけて▽▲     ▼▲出たところ     ねつからこわく    ないらしでわが   うてをふでのさや にてきり給ふそのうでかへ■と  なくしやらくさいたこならあしてあり   さうなものじやがといへばたこにもうてたこが     ありますとりくつをいつてうせてげり さてばけものゝ出るときは ものさびしきものなるに にわかになにかにぎやかになりて わや〳〵がや〳〵とゆやじようるりを うたひ出す〽いたこすくよなうわきな おまへテト〳〵〽ころしもはげしき山あらし 〽のふ〳〵その女こそげんじがた〽なんときいたり さくら丸〽がつてん〳〵せきひじやうじゆ なすには〽■兵衛が身はたいせつ 〽一合取ってもさむらいの家に生れた 十郎兵へどの〽金ゆゑだいじの 忠兵へさん〽かねにうらみはかず〳〵 ござる〽尾上はいとゞしやくり上 〽ちいさい子どもかなんぞの やうに〽高砂やァ〽さんげ さんげ六こんしよう〴〵と 大さわぎになるしやらくさい こゑあつてかたちなきは だんなばけものかゆけに あがらぬうちはやく出ろと いへばまつかなこぞうひよろ〳〵して のたくり出わつちやァねゆやにいる あかなめこぞうのばけものでござりやすが にんげんに出あつて目をまわしやした みづをいつぺいのまして [つぎへつゞく] ときしもゆきふみわけてくるもの しろむくのふりふりそでにまるわた きてからかさをさしたるはさぎむすめの いでたちごゐ さぎの ばけた のか ゆき 女 に し て は ち と いろ がくろいやうだと あざわらへばつんとして 此しろむくがくりと□へ 〽さればあるほ□□に□ゆきやさぎほど くろい鳥はなしとしろいものものをくろいといつたか おもしろむくのゆきのふりそであらいはりでもしたら