【書名】 百世養草 【撮影用ターゲットのため以下略】 【帙表紙 題箋】 《題:百世養草  《割書:帙内第》一冊》 【資料整理ラベル】 サ800  17 【帙を開けて伏せた状態】 【帙の背】 百世養草   一 帙内第     一冊  【左から横に】筑大図 【帙の表紙 題箋】 《題:百世養草  《割書:帙内第》一冊》 【同 資料整理ラベル】 サ800  17 【冊子の表紙 題箋】 《題:百世やしない草》 【資料整理ラベル 1/3】 た百六十弐 【注】全壱冊 【資料整理ラベル 2/3】 第五二三一号     一冊 【資料整理ラベル 3/3】 サ800  17 【冊子の表紙 前コマに同じ】 【冊子下部のメモ】 百世 ヤシナ イ草 なるこそ家内繁栄の基(もとい)也扨夫より父母への孝行 の心得/子共(こども)の養ひよう幷に人之養生の始末(しまつ)を 書(か)き集(あつ)めはべるのみ    養老 ○父母に孝につかふるは子孫繁昌(しそんはんじやう)の基なり 人の子(こ)として親を大切に敬(うやま)ふ事第一也先父母の 心に叶(かのふ)よふに万端(ばんたん)に心を尽すべし朝夕/寝起(ねおき)の節 父母の床(とこ)までも下人の手にかけず夫婦にて 上ケおろしまいらせたきものなり又食事の時も 膳(ぜん)は夫婦にてすへまいらせたきもの也/別(べつ)して 耳順(六十)にも成りたる父母ならば毎夜/臥(ふ)す前に よき程の湯にて足洗(あしあら)ひまいらすべしあたゝまり てよし寒気の節は別してかくありたきもの也 暑の節は随分 涼(すゞ)しき様にして朝夕の居所(いどころ)も 心づけまいらすべし食事もやわらかに味(あぢ)よふ して三椀食し給ふ分量ならは二椀半二椀まいら ば一椀半と兔(と)角(かく)半椀ほどづゝ少くまいらすべし 尤これ倹約(けんやく)にあらず養生也と能(よく)得道(とくどう)させ参ら すべし経に曰節-_二戒 ̄スル飲食 ̄ヲ_一者 ̄ハ却 ̄クル_レ病 ̄ヲ能良方也また魚鳥 なども朝昼は少しづゝまいらせてよし夜の しよくじには魚鳥不_レ宜さいはかろき品ひしほ 胡麻味噌(ごまみそ)の類(るい)を参らすべし酒も食後少々づゝ 参らすへし食の気めぐりてよし餅(もち)はつ きたてはよろしからず老人小児ハ咽(のど)につまり て死(し)する者まゝありよく煮(に)てまいらすべし 堅(かた)き餅/炙(あぶ)りたるも不_レ宜あぶりて湯につけや わらかにして参らすべし堅き餅のあぶり たるにては喉痞(こうひ)を煩(わずら)ふことまゝあり ○入湯老人には熱湯(あつきゆ)不_レ宜少しぬるき方よろし 別して銭湯(せんとう)などへは子たる人付/添(そ)ひ参りたき ものなり又老たる人遠方へ行(ゆく)事よろし からず形体を労(らう)する故也/若(もし)無_レ拠ゆく時は 是も子なき人は身よりの者付添参りたきもの なり心労をうすくするため也何ほど達者(たつしや)成 老人にても十里をゆかんとおもはゞ六七里も ゆき六七里を行んと思はゞ四五里にてとゞ まるべしむりに遠行すれば身の痛(いたみ)となり てよろしからず万事うちばてすべし惣して 老人は腸胃弱し驚くこと悲しむ事聞しむ へからず驚悲めは病生す驚悲しみつねに 憂なきやうに介保すべし又/怒(いか)りたまはざる様に すべし怒り多ければ命みじかし若老たる人 いかりの心おこらば数珠(じゆず)をつまみ我/宗旨(しうし)の 文を一心になりて唱ふべしこれ怒(いか)りをおさ ゑるの良方老人の嗜(たしな)み養生の第一なりまた 老ては欲念甚/深(ふか)くなるもの也何にても心に 叶ひたるものを身上に応(おう)しとゝのへ参らせ たき者也老たる人は欲念を慎(つゝ)しみこらゆ へし欲(よく)に心を労する時は短命なり万事不 足(そく)なるを十分とおもひ朝夕を養ふべし聖人 も常に足事を知るとのたまふ扨此外養老 の道多しといへども是を略(りやく)す    臨産小児生育 ○小児出生の事は母の胎内(たいない)より大切に心掛ケ臨 産の刻猶心を用ゆべし着帯の月より功者成 とりあけ婆々(ばゞ)を頼み置婆々の手方に任べし 虚弱なる婦人ならば毉もたのみ置臨月ならざる まへより臨産の手あてをすへし臨月に 入たらば平産湯を用ゆへし朔日より三日迄 一/貼(ふく)づゝもちひ置方也尤婆々と医師(いし)へも かねて沙汰し置催生湯を貰ひおくべし出産 の催しありて虫気づき水しも下らば塩時を 能かんがへ早め薬をもちゆべし尤用方医師に 聞置へし二貼や三貼にては効(こう)おそきものなり 少しひかへめならば五七貼もたてつけて用ゆべし かならず効有り難産のうれひなし催生湯の 方意は急に新血をやしなひ十月の間の滞 血を順経するの方也此方意を能考へ多く もちゆべし扨また産婦にもかねてよく 聞せべし妊娠は病にあらず天/然(ねん)自然之 理(り)にて十月にみつればおのづから生る已(すで)に 草木みのり時来れバ落るがごとし霜月/栗(くり) 柿(かき)の梢に残りたるためしなし此理をよく 心得安心させてやしなふべし着帯の月より 交合(こうがう)を禁(きん)じ心をやすく持へし百病皆気より 生すといふ婦人常に心得へきは臨産の催し あつて虫気づき水じも下り腹痛なにほと しきりなりとも必むりにいけみ出すべからず時 来ればおのづから内よりいけまねばならぬ やうになるもの也いけみ出すにあらす内 よりいけみ出るなり初産の婦人は此/意(こゝろ)を 能得道すべし尤其せつは婆々の差図(さしづ)に任す へし猶又臨産の時は夫(おつと)とも同室に居り世話 をいたし又は同室に不居とも外出なとはせす して万事慈に致遣すへし産婦甚だ心づよく 安産の基也孕中より食養生つゝしみ身軽 くいそがわしくはたらき又昼寝朝寝を せす大食不_レ宜心を不_レ労万事よくつゝしみ 前方より心がけよき時は難産のうれひなし 難産になりてからさわぎたつるは甚/愚(ぐ)なり たとへ産はかろくとも前かたよりの手あて心 かけあしき時は手をかへす間(ま)もなく隣家(りんか)の 医も間にあわざるほどの急変(きうへん)あるものなり 慎むへし恐るべし小児生 下したらは又小児 の生育もすべし出産後養生の事冷物辛物 油け類こわきものかたき物生物しよくすべからず 房事(ぼうじ)百日の間禁べし慎しみあしき時は辱労 となり又は眼病となり或は血の道とて頭痛寒気 なぞして色々病生る者也産後かたくつゝ しむへきの第一なり    小児生育 ○臍帯(ほそのを)を納る事第一也婆克手なれて居れ共 兔角みじかきを好むべし根をよくくゝり一二寸 程がよし能血毒をこきいだすやうに頼むへし 産湯は足も婆能手なれてはあれども湯/加減(かげん) 時候(じかう)に依て考へあること也湯手拭は婦人の髪毛 をよく油を煑抜たくわへ置用ゆべし又は古き 絹(きぬ)ぎれやわらかなるを洗(あらい)出し可_レ用血/垢(あか)能洗ひ おとすやうに頼べしあらひよう悪しき時は 肌きめあらく小瘡を生ずる物也産湯一名を血 洗と云かんがふべし ○五番湯俗まくりと名づくまくりは生下し て一時ほど過て用ゆへし余りおそき時は 胎毒(たいどく)残りて悪疾小瘡を生ず ○乳(ちゝ)を付る事十二三時過て付へし早ときは 虫を生しおそき時は脾胃いたみてやせ小 瘡を生し諸病の根となる也他家に二十四時 過て付るあり亦三七日過てつける方ありいづれ 予か家に経験する所は大小便通して三時程 過て乳を付べし二便/通(つう)する時は胎毒も下り 胃の気も和すべし胃和する時は乳を尋る おもむきあり此時かならず用ゆへし胃和して 呑せさるときは胃虚の患をおそれてなり 又乳を付るに小指を口中に入て窺ひ見るによく からみちゝを吸をもむきあらば此時必す乳を 呑すべしいつれこのことは懇意の小児医に 問置其流に随ふべし ○三ツ目より毎朝四ツ時まへ焼塩少しづゝ薬/指(ゆび)の 先につけて百日が間/吞(のま)すべし小児無病にして 諸(もろ〱)の毒に不_レ 中   《割書:塩の分量みゝかきに一ツほどツヽなり|呑湯の分量小のはまぐり貝に一ツほどづゝ也》 ○七ツめより毎朝百日が間さゆを少しづゝのます べし第一風を不_レ引虫不_レ生五疳生せず大小べん 順通して人相をよくす必用ゆへしすべて百日 が間母の肌(はだ)をはなさずゆるやかにいたきおどろか ざるやうにすること肝要(かんよう)也抱寝の仕形(しかた)は田舎流甚 真実の育方也寒月は母の脊肌に付ておぶい 夜は肌に付て抱寝す田舎の人堅固長寿成は 小児発生の成育真実なるがゆへなるべし貴賤 皆如此有りたきもの也此通り成育する時は 十人が八九人迄は無病にして成長すべし ○灸治の事小児生れ付色あしくつやなく なき声/力(ちから)なく多病に見へば灸治いたすべし むまれつき色つやよくなきこゑ高く力 あるは無病也かならず灸治不_レ宣其ゆへは一体 小児は陽気発盛の気を以/成長(せいちやう)するもの也 灸艾は陽気不足なるを養たすくる 者なり此故に無病の小児灸よろしからず 老人は陽気不足なる故に都て灸治宣物なり 無病の小児故なく灸をすゆる時は偏勝偏屓 といふことありて多くは必頭瘡を生する物也 経に曰諸痛痒瘡は属心火といふ事あり【注①】依 之考べし又曰有故無毒と云ふ事有り此語を かへしてみれば無故は針灸薬共に皆/毒(どく)なり 世語に薬人を不殺医師人を殺すといふ是等の ことかんかへ悟るべし臨産小児生育の二条 是まては円田家数代経験する所の要方なり 信する輩はこれによるべし    養生抜書 ○養生の道は思_三治 ̄シ_二未 ̄タ【注②】_レ病 ̄ニ_一消 ̄センコトヲ_二未_レ萌 ̄サヽサル_一のみ先三欲と 【注① 「季」は「李」の誤ゕ。】 【注② 「未」の左に「サ」の字。】 いふことあり飲食色欲睡りの欲也凡飲食は 身を養ふもの也身をやしなふものゝために 身をそこのふへからす世語に禍(わざはひ)は口より出病は 口より入と云ふ病とならさるやうに心かくへし 食は飢を養ふはかり飲は渇を止るはかり 味よしとて多く食すへからす渇するとて 多くのむへからす食は自己の分量に応し て八分と思ふを最上の養とす飲は少しく渇 を止むるをよしとす飲食共に温にして気塞 からさるものを食すべし益あり生冷のもの 瀉下の物辛き物熱あるもの皆多く食すべからす 少く食すべし諸病の根(ね)と成也又食する時六 恩あり君恩か父母の恩かと云ふ事をおもふべし 自かせきて食するとも国の恩を思ふべし 又我にさしたる才徳行儀なくして此美味を しよくしやしなふことをおもふべし又世の 中にわれより貧(まづ)しき人多く糟糠の食さへ たらす飢餓の患にて死する人多し其中に 飢さることの難有さを思ふへしまた古しへ五穀 なき時草木の実(み)を食せしに今の世に生れて 五穀にたり酒食魚鳥に至まて飽迄食することを おもふべし殊更乱世の時と今の世の難_レ有安堵 に食する事を思ふべし ○食傷の後一日も食を絶(たへ)てよし食するとも やわらかなるものを少ししよくして養生すべし 薬治より此/仕方(しかた)よきもの也消毒の薬ハ脾胃を やぶり気をへらす物なり猶老人虚弱の人は 不_レ宣老人急病にて死するひと多くは食傷なり 慎むべし此時は生姜汁に塩を等分(とうぶん)にくわへ用ゆ べし快気するもの也 ○李笠翁か説に常に好めるものは薬補に当る といふ少しつゝ食すべし益(ゑき)あり多く食すれば 又傷る我不好物しよくすへからす害となる ○衰病虚弱の人常に魚鳥の肉を灸りて食す べし参茋の補にまされりといふ ○何れの食にてもつかゆる気味に覚ゆるは脾 胃虚の症也何にても薄(うす)く切て食すべし厚(あつ)き はつかへて養生によろしからす ○古語に穀は肉に勝べし肉は穀にかたしむべ からす老人虚弱の人は此語を常に心得へし ○遠行或は骨折わざして飢渇の後俄多食 すへからず腹満してやまひとなることありつゝ しむべし身を労動して後汗ひかざるときは 必食すべからす汗引て食すべし ○古今医統に曰百病の横夭多くは飲食による飲食 の愁は色欲に過たりと云へり色欲は絶べし 飲食は半日も絶へからず ○千金方に曰山中の人魚肉に乏し故に無病 長寿也海辺の人は魚肉多く食す多病に して短命なり ○飯は元気を養ふ多くしよくする時は元 気を破り気をふさぐ能熟したるよし こわくねはきをいむ煮(に)かへし飯湯取めしは 積聚気滞之人脾胃虚弱の人老人小児によろし 病後の人猶食すへし粘(ねば)りて糊(のり)のごとくなるは 膈噎気滞の人によろしからず新穀は性つよく して気を傷る諸病にいむ晩穀古穀は性かろし 諸病によろし粥(かゆ)は毎朝温にして食すべし 膓胃を養ひ身をあたゝかにして諸病によろし ○諸魚肉は少く食すへし滞やすし ○諸獣肉は壮若の人は食すべからす老人は 少しつゝ食すへし血を潤し身を温む ○五味は何にても一味を多くしよくすべからず 偏勝といふてよろしからず ○甘き物おほくしよくすれば腹(はら)はり痛少し 食すれば脾胃を養ふ ○辛きもの多く食すれば気昇りて気へり 小瘡又は眼病を発す少し食すれば食毒を消 ししつをはらひてよし ○鹹(しわはやき)物多く食すれば血かわき咽(のど)かわき湯水多 くのむゆへに湿を生し脾胃を傷る少し食 すれば腎を益し五臓を潤す ○苦き物多く食すれば脾胃の生気を損し少 ければ否(つかへ)を開き胸をすかしてよし ○酢きものおほくしよくすれば気/蹙(しゝ)まる少け れば味なきものをもうまくし食をすゝめ気 を引たて胃をやしなふ都て五味をしよくするに 程よきを考べし ○五辛(ごしん)の類もろ〳〵の食毒を解(け)し少し加へ 食すべし胡椒(こせう)山椒(さんせう)蓼生大根生葱/蕃椒(とふがらし)鱠に 生姜/山葵(わさび)などを加ゆるの類也 ○酒は気厚して上昇す陽なりといふ又酒ハ 百薬の長とも云ふ少く飲は益ありて損(そん)なし 古語にも酒は微酔をよしとす花は半開きをよし とすと云へり程よく飲は人と交りを厚ふし 気血を養ひ薬力をたすけ吉凶として不用事 なし多く飲時は内損吐血酒痔諸の病と成り 或は乱心となり人と交りをたつ慎むべし 恐るべし ○五湖慢聞に曰酒を多く飲人は短命(たんめい)也長寿の 人皆酒を不飲と云ふ酒を呑人長命成はなしといへり ○食後保養の仕方食後しばらく過て胸(むね)より 腹をなでおろし又京門の辺もなでめぐらし 腰も此ごとくして少したゝくへし是養ひ也 ○華佗か語に食後程よく労動すべし労動 すれば穀気消化して血脈流通す消化あし き時は諸病の根となるといへり ○呂氏春秋に曰流水は不腐戸枢は不嘍(むしはます)とい えり足形気常に動く故也 ○古へ唐にも食医の官あり食養を以百病を 治すと古書にも見へたり ○灸治はつねに陽気/薄(うす)き人は四季または隔(かく)月 にも灸すべし又病あるときは医をたのみ灸 数までもよく問ひすゆべし常の養生には日々 に足の三里に五七荘又は十五荘ツゝもすゆる 人は必長寿なりといふ六十以上の人はおり〳〵 気海の穴に灸すべし保養によし ○交接千金方に曰二十の者は四日一度三十の 者は八日に一度四十の者は十六日に一度五十の者は 廿日に一度六十のものは精を閉て不泄もし精 力盛なる人は一月に壱度泄すべしといふ万事 是に準ずへし ○達生録に曰男子いまた二十ならさるもの精気 未満して慾念うごきやすしたしかに交接 をつゝしむべし此時不慎は発生の気をくじきて 一生の根本をそこなふといふ又四十以前の人深く 房室を閉れば孤陽(こよう)と云病を煩ふ又腫物となり または便毒となる兔角程よくすくなきをよしとす ○房室に入時慎の事大風大雨/地震(じしん)日月の蝕/雷(らい) 電(でん)都て天変(てんへん)の時凡日月星の前聖賢の像仏 神の前父母の神主のまへ皆恐れ慎むべし 亦病中病後全快せざる時腫物不愈時気を 労し身を労し大酔大飽すべて忿り憂ひ 悲しみ驚きつかれたる後つゝしむべし 礼記に曰男子三十而 娶(めとり)女子二十而嫁(か)すといふ聖賢(せいけん)の おしへは皆(みな)天の命する所也/敬守(うやまいまも)るべし不守時は寿を短し 智を薄(うす)ふする誤あらん歟/克(よく)考(かんがへ)養べし ○古語に暫の間慾をこらゑされば大なる禍を生 す犯す時は微にして秋毫のごとし病となる時は 泰山の重きのごとしといへり又無病の時やまひ ある日のくるしみを常におもひ出して風寒 暑湿の外邪をふせぎ酒食好色の内欲を節にし 身体の起臥動静をつゝしめば病生せず古詩に 安楽常思病苦時又小欲をつゝしまざれば大病と なる小欲は慎みやすし大病は苦しみ多し 兼て心得べし ○千金方に曰冬温を不極夏涼を不極一時の快は 必後の災(わざはい)となる ○又病ある人養生の道を堅(かた)く慎み守りて 病苦をば憂ひ不_レ可_レ苦気ふさがりて病加わる必病 重しといへとも養ひよく久しければ思ひの外 快気を得ること有り弥/自身(じしん)にても快気無覚束 おもはゞ覚悟を極め遺言などすべし覚悟(かくご)きわ むる時は誠に安心/決定(けつぢやう)す是にて大病も思ひの外 全快を得る人まゝありかねておもふべしかならず 秘死の症は天命の定る所也憂ても甲斐なし 心をくるしむるはおろかの至り也 ○睡りの欲といふは夜いぬるは三更に限(かぎ)るべし 三更はハ四ツ半より九ツ時迄の間也三更にふして平旦に 起るを最上とす常に昼寝を好み食後寝る 事を好む人は病生して短命なり食物消化 せさるが故也夜ふすとても暫間を置て臥す べし夜臥時は横に成り足をかゞめ腰もかゞめ 気海に気を納め鼻より息(いき)を引口より鼻を吹 出すやうにして臥べし眼の覚る度毎に寝返り すべし平旦の頃目覚るならば眠しとも二度寝 すべからず是睡りの欲をこらえてつゝしみ養ふ なり眠を恣まゝにせさるなり夜書を読み人と 語るに三更にかぎるべし深更(しんかう)までふさざれは 精神しつまらすしてよろしからす殊に主客下人 等もつかれずして宜し ○病源候論に曰夜臥の時面を覆べからす気上昇 す又曰/閨(ねや)に燈火を遠く置べし近付へからす魂魄定 まらす老人は夜臥の時消痰の薬多くのむへからす 気をへらして不宣夜臥の時行ふの術先ツ仰 両足を伸(のべ)気を安和にして呼吸をしづめ手をも つて胸より腹をなでおろし臍下に気を納め それより横に成り臥すべし ○気元気を養ふの道は元気をおしみてへら さず静にして元気を保(たも)ち動て気をめぐらすを 養生の第一とす ○難経に曰臍下腎間の動気は人の生命なり 十二経の根本なり是人の命根のある所也これを やしのふの術は常に腰を正しく坐し真気を 丹田に納め集めて呼吸をしつめ息(いき)づかいあらく なきよふにすへし是気を養ふの術也丹田の 穴は臍下三寸なり ○経に曰怒れば気昇る喜へは気緩まる悲めば気 消す恐るれば気めぐらす寒ければ気閉ツ暑ければ 気泄る驚けば気乱る労すれば気へるおもへば 気結ばるといへり又曰百病皆気より生すといへり 気を養ふこと常に心懸べし ○寿親養老に曰七養有り言語(ことば)をすくなふして 内気をやしなふ色欲を戒しめて精気を養ふ 濃味を薄ふして血気をやしなふ津液(しんゑき)を飲て 臓気を養ふ怒りをおさへて肝気を養ふ飲食を 節して胃気をやしなふ思慮をすくなふして 心気を養ふ是寿を保(たもつ)の道也万事殊すくなに して養生をすべし ○孫真人曰修養の道五宣あり髪は多く櫛 つるによろし手は常に面にあるによろし 歯(は)はしば〳〵たゝくによろし津は常にのむに よろし気は常に練るに宣し練るによろしと はしづかにする事也手は面にあるによろし とはつねに顔なでさすること也其なてる仕方 あり手のひらをよく力(ちから)をいれてすり合せ手(て)の 内あつくなり【季は李の誤】たる時まづ眼にあて度々あたゝめ すぐに顔をなでさする也かくのことく毎日二三度 づゝも養ふ時は老眼にてかすむといへども日数 を経てはあきらかになる事/奇々(きゝ)妙々(めう〱)也 ○寿養叢【最は誤】書に曰凡人一日に壱度ツゝ我か首百言 の穴より頭の四方眉毛/鼻(はな)ばしらのわき耳(みゝ)の 内外を手にてさすりおし次に頸の左右をも み背(せ)をたゝきおし又手足の節々(ふし〴〵)をよくもみ なでさするべし自身如此行ふべしおわりに 足の指をかた〳〵の手にて握(にぎ)りかゞめてかた手に て足のうら湧泉の穴をかきなですれば気▢  【張り紙 「湧泉」の裏字】 下し脚の病を治する事妙也 ○沐浴千金方に曰十日に一度浴す五日に一度沐すと 有れとも日本にては信用し難し時の意に 任すべし ○温泉相応するの病症金瘡打身落馬疥癬 もろ〳〵の腫物久しく難愈によし不応の症 内症虚労腎虚汗症気虚熱症皆不応又気 鬱食滞不食気血不順にて虚寒(きよかん)の症はあたゝま りてよきこともあり併外症の即効(そくかう)あるほとには なし久しく入てよし湯治中禁物の事 第一房事大酒大食熱性の物不可食湯治の後も 右之通/慎(つゝ)しむべし又灸治も忌むべし後十日計 補薬服用すべし性よき魚鳥を少しつゝ食して 二十七ページの文章と同じ 脾胃を補べし ○二便ともに通気あらばこらへずして通すべ しこらゆれば気痔となる大便秘結せば つねに身を潤し膓胃をめくらす薬を服すへ し麻仁を黒焼にして粘丸として可用 ̄ユ平和 にして克通する方なり小便飢ては坐して 通し飽ては立て通すべしこらゑて通し おそき時は腫病となりまたは淋病となるも のなり ○古語に得病不治毎得中医といへり養生の 道はつねに嗜むへし          円田得述   御書房   出雲寺和泉椽  寛政七乙卯歳五月 【見返し 両丁白紙】 【裏表紙】