御代参丑時詣 かまくらかめがやつといふ所に【鎌倉、亀ヶ谷という所に、】 松山【松山】 かげゆと【勘解由と】 いふ人あり【いう人あり。】 御ほふこふを【御奉公を】 たいせつに【大切に】 つとめしゆび【勤め、首尾】 よくいんきよの【よく、隠居の】 ねがいかなひ【願い叶い。】 ひとり【一人】 むすめの【娘の】 こいむこ【恋婿】 新之丞に【新之丞に、】 かとくを【家督を】 おふせ【仰】 つけ【付】 られこのうへもなく【られ、この上もなく】 よろこびよをゆるやかに【喜び、世を緩やかに】 くらししちりがはまの【暮らし、七里ヶ浜の】 とりたてのさかな【取り立ての魚】 びち〳〵するので【びちびち、するので、】 御酒を【御酒を】 あがりて【上がりて】 たのしみ【楽しみ】 給ふ【給う】 【下部】 明日わか【明日、若】 とのさま【殿様】 ごと【御登】 ぜう【城】 なさり【なさり】 ます【ます】 かまくら【鎌倉】 いちの【一の】 ふうりう【風流】 おとことは【男とは、】 かじわら【梶原】 源太ばかりかと【源太ばかりかと】 おもへは【思えば、】 新【新】 之丞は【之丞は】 いわん【言わん】 かた【方】 なきふうぞくにて【無き風俗にて、】 やくしやならば【役者ならば、】 さぞひいきの【さぞ、贔屓の】 ありそふな【ありそうな】 事なり【事なり。】 きふばのみちを【弓馬の道を】 こゝろがけ【心掛け、】 こふしんのこゝろ【孝心の心】 ふかくやしき【深く、屋敷】 ぢうの【中の】 とり【取】 さた【沙汰】 も【も】 ま事に【誠に、】 ぜにの【銭の】 か?ん【勘】 じやうも【定も】 おしり【御知り】 なされず【なされず、】 ほんの【本の】 との【殿】 さまだと【様だと、】 よろこび【喜び】 ける【ける。】 【左頁左下】 どふ〳〵 御ふうふのおんなか【御夫婦の御仲、】 むつましく【睦ましく。】 まいよ〳〵九ツすきまで【毎夜、毎夜、九ツ過ぎまで】 およづめにておつぎ〳〵の【御夜詰めにて、お注ぎ、お注ぎの】 おわかいしゆ【御若い衆、】 おこしもとおさかもりの【御腰元、御酒盛りの】 おあいてになり【御相手になり、】 やどさがりにまいり【宿下がりに参り】 ますとおんざへ【ますと、御座?へ】 まいりますといふものも有【参りますと、言う者も有り。】 ふきや町へまいりますと【?町へ参りますと、】 いふものもあり【言う者も有り。】 まいよ〳〵その【毎夜、毎夜その】 あらそひ【争い】 にて【にて】 おつぼねさまに【御局様に】 しかられ【叱られて】 だまる【黙る】 とこ【とこ】 ろを【ろを】 たの【楽】 しみに【しみに】 した【し給う】 まふ 【左頁左上】 おさへた 〳〵 このはこを □テ□ン 〳〵 【右頁下】 もんや 【名前の呼びかけか?】 さなき 【小唄三味線の曲に「さなきだに」というのがあるようです】 だを ひかつ しやい 【左頁下】 おやを【親を】 めすよ【召すよ?】 わかとのは【若殿は】 御ほふこふを【御奉公を】 たいせつに【大切に】 つとめ【勤め】 ごけらいの【御家来の】 うち【内】 にも【にも】 おきにいりと【お気に入りと】 いふもなし【言うも無し】 みな〳〵しごく【皆々至極】 つとめよく【勤め良く】 おすきといふ【御好きという】 事もなければ【事もなければ】 とりいる事も【取入る事も】 なしあるやつ【なし。あるやつ】 なれどおそばの【なれど、御側の】 うちにねいじん【内に、佞臣】 ものにてばんばの【者にて番場】 忠太がおいに【忠太が甥】 ばんばの忠二といふものあり【番場の忠二という者あり】 おりを見やわせごむほんをすゝめ申【折を見合わせ、御謀反を勧め申す。】 御ぜんは御かくもんやふげいの【御前は御学問や武芸の】 ごけいこばかりあ□してはきつう【御稽古ばかり】 ごこんのどくて御座ります【御根の毒で御座ります】 ちつと □□よふの【御加?養の】 ために おしのびで【御忍びで】 おいで【御出で】 なさるが【なさるが】 よろ【宜】 しう【しゅう】 ござります【ござります】 なんぼ【なんぼ】 御ほふ【御奉公が】 こうが 御だいしでも【御大事でも】 御びやうきでも【御病気でも】 でましてはと【でましては】 わたくし【私】 どもはきつうくろうふに【共は、きつう苦労に】 なりますとしんじつの【なりますと、真実の】 よふにこじつける【様にこじつける】 【右頁下】 おふさ【おうさ】 そうた【そうだ】 〳〵【そうだ】 【左頁下】 まつおき【先ず、御気】 ばらしに【晴らしに、】 つるがおかの【鶴ヶ岡の】 八まんまへ江【八幡前へ、】 御出あそはせ【御出遊ばせ。】 きた〳〵では【?、?では、】 きがはれ【気が晴れ】 ます【ます】 ばんばの【番場の】 忠二【忠二】 どふやら【どうやら】 こふやら【こうやら】 すゝめいだし【進め出し】 たいしやう【大小?大将?】 そのひの【その日の】 いで【出】 たちは【立は】 とびいろちりめんの三ところ【鳶色縮緬の三所】 もんにくろちりめんの小そで【紋に黒縮緬の小袖】 ひどんすのおびくろろのづきん【緋緞子の帯黒絽の頭巾】 いくび□きなしいつきどふ ぜんのもの二三人ひきつれ【?の者二、三人引き連れ】 大いそへ【大磯へ】 おしよせ【押し寄せ】 ければ【ければ】 まい【舞】 づるやの太夫【鶴屋の太夫】 たきかわを【滝川を】 やくそくして【約束して】 おき【置き】 しよ【初】 かいなれ共【回なれ共】 ちややまで【茶屋まで】 むかいにいで【向いに出で】 新之丞か【新之丞が】 おとこふりに【男振りに】 なれそめ【馴れ初め】 ふかき中と【深き仲と】 なりけり【なりけり】 これより【これより】 忠二【忠二】 おきに【お気に】 いりとなり【入りとなり】 とふ【当】 ざの【座の】 ごほふ【御褒】 びと【美と】 して【して】 しろ【銀】 かね づくりの【作りの】 おき【御煙管を】 せるを くださり【下さり】 けり【けり】 【左頁下】 むかしの【昔の】 もへきがよに【萌黄?が世に】 でたも【出たも】 ありがたい【有難い】 うまい【上手い】 ねへ【ねえ】 新之丞【新之丞】 ひにまし【日に増し】 ふかき【深き】 なかと【仲と】 なり【なり】 たき川も【滝川も】 たひ〳〵【度々】 なれども【なれ共】 すこしづゝもとめおきそのうへおくがたの【少しづつも留置き、その上、奥方の】 ある事もしりながらかへらふといへは【ある事も知りながら、帰ろうと言えば】 しやくをおこし女郎かいに【癪を起こし、女郎かいに】 かふしやくもあれどいろおとこは いちわりがたしやふぶなお しいよふなれども かふる事も はやし 【右頁右下】 あしたまた【明日、また】 こよふ【来よう】 【右頁左下】 こんやに【今夜に】 おいで【御出で】 なんし【なんし】 【左頁】 かけゆいんきよ【勘解由、隠居】 してなにの【して、何の】 ふそく【不足】 なきに【無きに、】 ねいじんの【佞人の】 すゝめにて【勧めにて、】 わかとの【若殿】 身もち【身持ち】 あしく【悪しく】 なり【なり】 給ふ事ひそかに【給う事、密かに】 ひめきみにあひ【姫君に会い】 かならず〳〵【必ず、必ず】 おんなのたし【女の嗜みは、】 なみは りんき【悋気】 しつと【嫉妬】 事にしも〳〵とは【事に下々とは】 ちかふいろはたんかのよふに【違う、いろは短歌の様に】 ふうふけんくわはなるまいし【夫婦喧嘩はなるまいし、】 とうじやう寺のやうにつのゝ【道成寺の様に、角の】 はへぬやうにいけんし給ふ【生えぬ様に、意見し給う】 【左頁下】 おんなどもの いふ事を ま事に しやんな ちゝうへのいけんを【父上の意見を】 まもりかたくりんきを【守り、固く悋気を】 たしなみたまへとも【嗜み給え共】 おつぼねとおくからうと【御局と奥家老と】 そふたんのゆめを見【相談の夢を見】 給ふ【給う】 〽おくづき石山甚太夫を【奥付、石山甚太夫を】 よびおつぎ〳〵の女中【呼び、おつぎおつぎの女中】 よりやいあれほどおなかの【寄合、あれほど御仲の】 よいごふうふ中大いそへ【良い御夫婦中、大磯へ】 ばかりおかよひなされ【ばかり御通いなされ】 なか〳〵わたくしども【中々私共】 なればたいていの【なれば大抵の】 りんき所ではあるまい【悋気所ではあるまい】 ごふくやへうろこの【呉服屋へ鱗の】 小そてをあつらへ【小袖をあつらへ】 ひたか川なら【日高川なら】 ちよきにでものつて【猪牙にでも乗って】 おつかけるにすこしも【追っかけるに、少しも】 おはらもたゝず【お腹も立たず?】 いかにしてもけいせいめか【いかにしても傾城めが】 にくいやつ【憎い奴、】 その女郎さい【その女郎さへ】 なければ【なければ、】 こふいふ【こういう】 事も【事も】 あるまい【あるまい、】 にくゝて【憎くて】 なり【なり】 ませぬ【なせぬ、】 どうそ しやふは【仕様は】 ござり【御座り】 ます【ます】 まいかと【まいか、と】 そうだん【相談】 する【する。】 【右頁下】 ひめきみ【姫君】 くさそうしを【草双紙を】 よみかけとろ〳〵【読みかけ、とろとろ】 ねむり給ふ【眠り給う】 【左頁下】 ゆふぢよどもの たらしをるは このほうどもの ふんべつにも まいらぬ 甚太夫かたきこゝろにて【甚太夫、敵心にて】 女中ととも〴〵たき川を【女中と共々、滝川を】 にくゝおもひほかに【憎く思い、他に】 しあんもなくうしの【思案もなく、丑の】 ときまいりと【刻参りと】 こゝろづき【心付、】 まつあたまの【先ず、頭の】 うへのらうそく【上の蝋燭】 たてかなくては【立が、なくては】 なるまいと【なるまいと、】 かまくらちうの【鎌倉中の】 ふるもの見せを【古物店を、】 せんぎして【詮議して】 見れど【見れど、】 きうな事ゆへ【急な事故、】 ひとつも【一つも】 なし【なし、】 三ほん【三本】 あし【足】 □□ ごとくと【五徳と】 □て【まで?】 こゝろ【心】 づけども【付ども、】 さきか【先が】 まかつて【曲がって】 いるゆへ【いる故】 らうそくが【蝋燭が】 たゝず【立たず、】 しかくな【四角な】 ごとくにては【五徳にては、】 あしが一つほん【足が一本】 おゝしらうそくの【多し、蝋燭の】 ものいりは【物入りは】 かまわねども【構わねども】 四ほんといふは【四本というは】 きゝおよばす【聞き及ばす】 い□□【くら?】もふるいのが【古いのが】 ありそうなものひとつも【ありそうなもの、一つも】 ないといふものはゑんしう【ないというものは、遠州】 はままつじやないが【浜松じゃないが】 ひろいよふで【広い様で】 せまいとおもふ【狭いと思う。】 【右頁下】 むこふの【向こうの】 てつやかんは【鉄薬缶】 いくらだの【幾らだの】 【右頁左】 ぎん三両で【銀三両で】 ごさります【御座ります】 【左頁下】 此 足 に □□ なは ないかの いろ〳〵と【色々と、】 せんぎ【詮議】 すれども【すれども、】 らうそく【蝋燭】 たてに【立に】 こまり【困り、】 ひそかに【密かに】 かぢやへ【鍛冶屋へ、】 きたり【来たり。】 ねだんは【値段は】 のぞみ【望み】 したいに【次第に、】 つかわす【遣わす。】 よなべにでも【夜なべにでも】 して【して、】 人のめに【人の目に】 かゝらぬ【掛からぬ】 よふに【ように】 たのむと【頼むと、】 ちうもんを【注文を】 見せ【見せ、】 すい【随】 ぶんあたまへらうそくの【分、頭へ蝋燭の】 ながれぬよふにたうをも【流れぬように】 つけか□かあたつて き□□てはならぬ ぼんぼりも【雪洞も】 いつしよに【一緒に】 いゝつけて【言いつけて】 くだされついでに【下され、ついでに】 かなづちも一本【金槌も一本】 とゝのへねば【調えねば】 ならぬと【ならぬと】 あつらへければ【誂えければ】 あまりたひ〳〵も【余り度々も】 なきさいくゆへ【無き細工故】 ふかつてなれと【不勝手なれど】 もちはもちやにて【餅は餅屋にて】 ぐつとのみこみ うけとりけり 【右頁下】 かよふな【斯様な】 まるい物は【丸い物は】 むづかしふ【難しゅう】 ごさります【御座います】 か【ど?】かまるは【角が丸は?】 いかんだと いわれては【言われては】 なり【なり】 ませぬ【ませぬ】 【左頁中】 とんだ【とんだ】 ながつちりな【長っ尻な】 きやくだ【客だ】 ほど【程】 なく【なく】 した【支度】 くもできおれきれきの【も出来、御歴々の】 事なれは【事なれば、】 御じしんには【御自身には】 したまわず【し給わず】 ごだいさんにて【御代参にて】 明神のもんぜんまで【明神の門前まで】 ひやううちののりもの【鋲打ちの乗物=鋲乗物】 しやうふかわのおとも【菖蒲革の御供=菖蒲革装束の御供】 うしの【丑の】 上こくに【上刻に】 来り【来り】 かたへに【傍に】 とも【供】 まわりを【供回りを】 またせ【待たせ】 しんぼくのそば【神木の側】 までたゝひとり【まで唯一人】 おさたまりの【御定まりの】 しろしやうぞくてんきが【白装束、天気が】 よくてもたかあしだにて【よくても、高足駄にて】 九尺ばかりあるうしの【九尺ばかりある牛の】 ねている所をひよいと【寝ている所を、ひょいと】 またぎおもふうらみを【跨ぎ、思う恨みを】 とりころさんと五寸【取り殺さんと五寸】 くぎをかなつちにて【釘を金槌にて】 とん〳〵とゝんと【とん、とん、ととん、と】 うちこむ【打ち込む】 【右頁下】 やれ【やれ、】 おそろしや【恐ろしや】 おとこの【男の】 てぎはには【手際には】 いかぬ【いかぬ】 事じや【事じゃ】 ひめきみ【姫君】 とろ〳〵と【とろとろ、と】 ねむり【眠り】 給ひ【給い】 おそろしき【恐ろしき】 ゆめにて【夢にて】 めをさまし【目を覚まし】 ちゝうへの【父上の】 ごいけん【御意見】 りんき【悋気】 しつとははづかしく【嫉妬は恥ずかしく】 うわきにもつゝしみ【浮気にも慎み】 給ひけれども【給いけれども】 こゝろにこゝろで【心に心で】 あいそかつき【愛想が尽き】 ごきぶんあしく【御気分悪しく】 おかほいろあしきゆへ【御顔色悪しき故】 みな〳〵おどろき【皆々驚き】 おくすりよ【御薬よ、】 おゆよと【御湯よ、と】 さわきけれど【騒ぎけれど】 うき〳〵とも したまわず【し給わず】 おむづかるゆへあんしける【御憤る故、案じける。】 【左頁】 ひめ【姫】 きみ【君、】 人に【人に】 はなし【話】 たまわす【給わず】 たき【滝】 かわが【川が】 おもわく【思惑】 さぞや【嘸や】 つね〴〵【常々】 りんき【悋気】 ふかからんと【深からんと】 おもわんと【思わんと】 おぼしめし【思召し】 まいづるや【舞鶴屋】 までひそかに【まで密かに】 おつかいを【御使いを】 つかわされとのさまの【遣わされ、殿様の】 たひ〳〵御出あそはし【度々御出で遊ばし】 さぞなにか□ おせわと【御世話と】 れいながら【礼ながら】 たづね【訪ね】 来る【来る】 【左頁中】 〽はてめつらしいおきやくだおまへさま【はて、珍しい御客だ、御前様】 かどちがいては【門違いでは】 ござり【御座り】 ませぬか【ませぬか】 たき川【瀧川、】 ひめより【姫より】 おれいとして【御礼として】 こま〳〵との【細々との】 やうすを【様子を】 きゝいかばかり【聞き、如何許り】 此ほうを【此方を】 おうらみ【御恨み】 なんしても【何しても】 ごもつとも【御尤も】 なれども【なれども】 いかになかれの【如何に流れの】 身にても【身にても】 めんぼくもなし【面目もなし】 ふとなれ【ふと、馴れ】 そめしより【初めしより】 きんぎんにて【金銀にて】 たいせつに【大切に】 せしといふ【せしと言う】 でもなし【でもなし】 たとへ【譬え】 こいには【恋には】 いのちも【命も】 すつる【捨つる】 ものなれど【ものなれど】 おくさまへは【奥様へは】 ぎりたゝず【義理立たず】 けいせいは【傾城は】 人てなし【人でなし】 いづれも【何れも】 おなし【同じ】 こゝろかと【心かと】 おさげすみ【御蔑み】 なんしては【なしては】 おなじながれの【同じ流れの】 かほゝもよごして【顔をも汚して】 いゝわけなく【言い訳なく】 いつそもふ【いっそ、もう】 どふしんしやふのふ【どうしんしょうのう】 ばからしいと【馬鹿らしい】 おもふ【思う】 【右頁右】 おやしきはきれいだの【御屋敷は綺麗だの】 【右頁右下】 瀧川さんの【瀧川さんの】 きやふだい【兄弟】 しゆかの【衆かの】 【左頁下】 たび〳〵御出【度々、御出】 あそばしさぞ【遊ばし、さぞ】 御せわに【御世話に】 ござり【御座り】 ませふ【ましょう】 新之丞は【新之丞は、】 いつもの【いつもの】 とをりに【通りに】 きたり【来たり。】 瀧川に【瀧川に】 あいけれ共【会いけれ共】 ついぞなく【終ぞなく】 ふん〳〵と【ふん、ふんと】 してなにか【して、何か】 わからずがてんの【わからず、合点の】 ゆかぬ事と【ゆかぬ事と】 おもひこいなれは【思い、】 こそあやまり ぐち なんと【何度】 いふても【言うても】 つん〳〵と【つんつんと】 ばかり【ばかり、】 もし【もし】 また【また、】 ほかの うちへ でも いくと いふものでもあるかと【言う者でもあるか、と】 といかくればなにとも【問かくれば、何とも】 あいさつもせすくつと【挨拶もせず、くっと】 かんしやくをおこし【癇癪をおこし】 ふんごぶしのやうに【豊後節?のように】 あとであやまる【後で、謝る】 つもりにて【つもりにて】 したゝかちやうちやく【したたか、打擲】 すれど【すれど】 うむの あいさつも【挨拶も】 せづさては【せず、さては】 ほかによい【他によい】 きやくが【客が】 あつてあいそ【あって、愛想】 つかしと見へた【尽かしと見えた。】 そふとは【そうとは】 ゆめにも【夢にも】 しらなんだ【知らなんだ】 ま事の【誠の】 ちくしやうめと【畜生め、と】 はらたち【腹立ち】 かへりける【帰りける】 【右頁左下】 見さげ【見下げ】 はてたちく【果てた、畜】 しやうめ【生め】 【左頁下】 忠二【忠二】 おとろき【驚き】 かけきたる【駆け来る】 新之丞【新之丞】 瀧川か所にて【瀧川が所にて】 はら【腹】 たち【立ち】 けれ共【けれ共】 すこしも【少しも】 とめも【止めも】 せず【せず】 かへし【帰し】 けるゆへ【ける故】 これまで【これ迄】 いろ〳〵【色々】 たまされ【騙され】 かよいしが【通いしが】 かないの【家内の】 ものにも【者にも】 めんぼくも【面目も】 なく【なく】 おもへは【思えば】 〳〵【思えば】 はらのたつ【腹の立つ】 もはや【最早】 ひとめも【一目も】 見るしよ【見る、所】 ぞんもなしと【存もなしと】 大いそ【大磯】 かよひを【通いを】 さつはりやめ【さっぱり止め】 うちに【家に】 ばかり【ばかり】 とぢ【閉】 こもり【籠り】 四きの【四季の】 ほつくを【発句を】 かんかへたり【考えたり】 百いんの【百韻の】 てんとりでも【点取りでも】 して【して】 たのしみ【楽しみ】 これほど【これ程】 おもしろい【面白い】 事をして【事をして】 よしなき【由無き】 事に【事に】 おもひたしても【思い出しても】 くちおしいと【口惜しいと】 おもひけり【思いけり】 【右頁中】 けいせいといふても【傾城と言うても】 女ほうと【女房と】 いふても【言うても】 こいさ【恋?さ】 【右頁中下】 けいせいといへば【傾城と言えば】 こいになりますか 【右頁下】 おつかいか【御使いが】 かへり【帰り】 ました【ました】 わかとの【若殿】 身もち【身持ち】 ほふらつは【放埓は】 はんはの忠二が【番場の忠二が】 しわざにて【仕業にて】 そのきよに【その虚に】 のつておゝくの【乗って、多くの】 御用金を【御用金を】 ぬすみ【盗み】 いたし【致し】 たれも【誰も】 しらぬと【知らぬと】 おもひ【思い】 まし〴〵【まじまじ】 しやあ【しゃあ】 〳〵【しゃあ】 として【として】 いれば【居れば】 そばの【側の】 もの【者】 でも【で】 しらね共【知らね共】 てんとう【天道】 さまは【様は】 御そんじ【御存じ】 にて【にて】 すこしの【少しの】 事より【事より】 あ□□ あら【顕れ】 われ もふ【毛】 せん【氈】 かぶり【被り】 よりかせには うけとり にくけれども わりたけ【割竹】 にてたゝき【にて叩き】 だされ【出され】 けれとも【けれども】 おきの【御気の】 とくと【毒と】 いふものも【言う者も】 なく【なく】 いつかちう【一家中】 くちを【口を】 そろへて【揃えて】 そうた【そうだ】 ろう〳〵と【ろう、そうだろうと】 いふもの【言う者】 ばかり【ばかり】 【右頁下】 くさそうしのせりふの【草双紙の台詞の】 とふりたいぼくの【通り,大木の】 はへぎはたち【生え際、立ち】【「大木の生え際」は当時の流行語】 ませい 【左頁下】 忠二〳〵【忠二、忠二】 □この くわへはじつ ちやうと わり竹にて【割竹にて】 たゝく【叩く】 つゝいづゝのもとにてふりわけ【筒井筒の本にて振分】 かみのおりよりいもせの【髪の折より妹背の】 かたらい又かわちの国【語らい又河内国】 たかやすのさとへ【高安の里へ】 からかいけれは【からかいければ=負けまいと張り合う?】 そのときおんな【その時、女】 うらむべきを【恨むべきを】 かぜふかば【風吹かば】 おきつしらなみ【沖つ白波】 たつた山よわにや【たつた山夜半にや】 きみがひとり【君がひとり】 ゆくらんと【行くらん→越ゆらん】 よみければかわちかよひをやめけり【読みければ、河内通いを止めけり】 それにひとしく【それに等しく】 瀧川をしんせつに【瀧川に親切に】 たのみければ【頼みければ】 たき川ふり【瀧川振】 つけ大いそ【付け、大磯】 かよひやみける【通い、止みける】 又瀧川が心もかんじ【又、瀧川が心も感じ】 やしきへ身うけして【屋敷へ身請して】 たかいの心ま事あるゆへ【互い?の心、誠ある故】 長く松山の家さかゑけるそめてたかりけり【長く松山の家、栄けるぞ、目出度かりけり。】 【右頁下】 あり【あり】 がたふ【がとう】 そんじ【ぞんじ】 ます【ます】