大時代唐土化物 曽我太夫染 合冊 【同じ本で表紙などを欠く→https://honkoku.org/app/#/transcription/F41683218C9E230FEED3799214D754A4/1/】 【同じ本で別の表紙?がついている→https://honkoku.org/app/#/transcription/52B2A331BAC037B8682345AB2D1EF8B6/3/】 【今見ているこの本は、コマ20から後ろに『曽我太夫染』という別の話が合本されている】 大時代唐土化物 曽我大夫染 振鷺亭作 種彦作 合冊 大(おゝ) 時代(じだい) 唐土(からの)化物(ばけもの) 振鷺亭作 春亭画 【おおじだいからのばけもの】 振鷺亭主人作 勝川春亭画 全三冊 大時代唐土化物(おほじだいからのばけもの) 子の春新刻 仙鶴堂寿梓 大時代(おほじだい)唐土(からの)化物(ばけもの) 全三冊 宝井其角(たからゐきかく)が鍾馗(しやうき)の自画賛(じぐわさん)を覧(み)はべりしに   今こゝに團十郎(だんじうらう)や鬼(おに)は外(そと) といへる発句(ほつく)なり夫(それ)鍾馗(しやうき)は疫鬼(えきき)を譲(はら)ふ【ママ、攘ふ】の術(じゆつ)あり俳優(わざおき) 團十郎は其名(そのな)高(たか)く異域(ゐいき)に聞(きこ)ゆ就中(なかんづく)英武勇者(ゑいぶゆうしや)の所作(しよさ) に妙(めう)を得(え)て怨敵退治(おんできたいぢ)の分形(ありさま)を芸(げい)とす鍾馗の邪気(じやき)を 退(のぞ)くの事(こと)によく肖(に)たればこれを賞(せう)したる晋子(しんし)が当意(とうゐ) 即妙(しくめう)の作意(さくゐ)彼此(かれこれ)を感(かん)じて此(この)草子(さうし)の趣向(しゆかう)とはなしぬ 文化十三年 丙子春正月 振鷺亭主人述 【左ページ上の囲み内】 唐土(から)の化物(ばけもの) の図(づ) 紅毛(おらんだ)細工(ざいく)吹(ふき) 矢(や)の体(てい) 牡丹灯(ぼたんとう)の 妖怪(ようくわい) 【図中の文字】 ちやん〳〵ぼうず 旧院妓女之怪 からはんにや たうおに ひとうばん から女のゆうれい せつぶんに もふ 春風が ふくは内 おには外まで にほふ 梅が香 不知読人 今こゝに 團十郎や 鬼は外    其角 望之厳然 如干城之 大将就之 而不見所 畏又如優 孟之衣冠 擬 目 録 魔 滅 絵 化 物 尽 《題:唐女(からをんな)幽霊(ゆうれい)の図(づ)》 ここに洒落斎(しやらくさい)といふ 戯作者(げさくしや)ありけり 一ばん合巻(がうくわん)の もんきりがたを のがれていつかう 【左ページへ】 こわくないばけものといふが しゆかうにうかみつくゑに もたれてかんがへながら ねむりしがはりうちまげに 花かんざしごたいそうにさして つむりのおもさうなるかむろおかもち さげてゆくていをみたりこれはむかしの あか本にあるしよぼ〳〵あめのふるよに ばつてうかさきてとうふかひに出るこぞうに にたりてめへとうふをなん丁かつてきたといへば アイサ半丁かつてまいりんしたよサアその半丁に なつてトヾめでたし〳〵といふ所になんぞめでたい ばけものを出さねばならぬか此あんじにこまるて ヲヤめでたいばけものとはしんぱんておざりいす 本になつたらおくんなんしふへ手本にいたし ますよといふ手めへもばけならうのか こんどのばけものはひねつたものよ からのばけものを見せるきだ ヲヤからのばけものなら ちんぷんかんでわつちらには わかりいすまい〽おれも さくしやはするがからの ばけものはどんなものか しらん〽そんなちんふんかんの ばけものよりやつぱりやわらかに とうふのゆうれいてもおかき なんしといふかとおもへはゆめ さめてかつ手にとうふやの おかもちばかりのこれり これはとうふのゆうれい▲ ▲からのばけ ものといふべしと すなはちこの さうしのげだいにし ゆめになつては さくしやの 手がらうすく はじめから ゆめがさめたは あたらしいが とゝのつまりか やりにくしと あんじいつて すぢがき して いる ところに こつぜんと してゑん の下より すまふの ごとき大き なるうで さしいだし 【囲み内】つぎへつづく 【枠】つづき【枠ここまで】しや本をかいつかんでひつこまんとすこはおもしろしと ふでのさやをもつてはつしときればにはのとびいしのもと にてきへうせぬ石となつたは九太夫のばけものかきつね たぬきのわさにしてはさしたるしゆかうにも ならぬとつぶやけばしをり戸のそとにこゑありて われ〳〵は百鬼夜行(ひやつきやぎやう)のばけものなりこよひとしこしの おにうちまめにおいはらはれやくはらひにつかまれん ことのこわさににけまどひ候かさすがは おさくしやとしこしにもかまはず ばけものにおもいれの御やうすゆゑ おうきものをうばひとつてはいけん いたしたがからのばけものとの 御しゆかうからの ばけものはどんな ものでござり ますといふに▲ ▲しやらくさいうちわらひ 山海経(せんかいきやう)爾雅(しか)にそのかたちを きわむる事あたはす博物志(はくぶつし) 輟耕録(てつかうろく)太平広記(たいへいくわうき)本草綱目(ほんぞうかうもく) なともせんさくして見るが さてあたらしいばけものもない なんぢらなんぞあたらしい ばけやうはないか蘇子瞻(そしせん)が 鬼話(ばけものばなし)をこのみしにはあら ねどこよひのとぎとす べしといへばわれ〳〵も あか本のはしをも見 ましたれどみこし にうとうや一つ目 こそう などの▼▲ ▼▲ やぼなばけものばかりて 手本にもなりませぬちと しんぱんのばけものもござります ればまかり出ませうがおとこのまの おかけものをおそれますればはつ してくだされましといふこれは しやうきのかけものにて〽今こゝに 團十郎やおには外といふキ角のくわ さんなりしやらくさいはのぞみのとふり かけものをはづしいわしひいらぎも さゝずうきよをかべとみたさくしやの いほりの内おつかながらずはいれ〳〵 ばけものゝせううつしいけを【と?】りにしてくれんとふでもちかまへてゐれば よろふたるむしや一つきむないたに∴一【渡辺星】のもんをつけ金さつをたづさへ あらはれ出たりしやらくさいさてはつなかへんげよな【綱が変化よな】さゝゑにしても よろいむしやとはこふうなばけものめといへばせんせいもしちよつと● ●おはな【別の本で確認】 しがござり やず【す】よいの くちやくは【宵の口、厄払ひに】 らひにばけ て くる わへ は いり は らひ 鬼箱(おにはこ)を かひませうと らせうもん がしをよんで とふりますと かうしの内から ぬつと手を出して むなぐらをつかまへ はらひめんた【女】かつて【買って】 くんなといゝつらを 見れはねんあきめへ いくつになるときけば おにも十八さといふから すはらしい大江山へはらつ てもせんたくはゝァ【婆ァ】にほか ならねへとんたはけものたと つきはなしてにけようとして うてを見たらあだに ほりものが【枠】つきへつゞく【枠ここまで】 【枠】つゝき【枠終わり】ありやすなんだと見ればわたなへのもんが しなひてゐはどうでありますといひすてゝうせぬ しやらくさいたいらのとももりゆうれいより よつほどおちをとつたきでひつこみおつたが こんどはなにか こわいものが出る だろうと ところに▲ ▲そのたけ 一丈あまりの おにわかしゆ のすもふとり すつくと出 いのくまたこを めんにかぶつて おちさんももん かァとおとす しやらくさい へいきて見て ゐれはおらはことも しゆも御ぞんしの みこしにうとう なるかあまり ふるくさい ゆへしんて をあんじ にんけんに はけて▼▲ ▼▲出たところ ねつからこわく ないかしで【?】わが うてをふでのさや にてきり給ふそのうでかへせと なくしやらくさいたこならあして【足で】あり さうなものじやがといへばたこにもうてたこが ありますとりくつをいつてうせてげり 【左ページ】 さてばけものゝでるときは ものさびしきものなるに にわかになにかにぎやかになりて わや〳〵がや〳〵とゆやじようるりを うたひ出す〽いたこすくよなうわきな うまへテト〳〵〽ころしもはげしき山あらし 〽のふ〳〵その女こそげんじがた〽なんときいたり さくら丸〽がつてん〳〵せきひじやうじゆ なす与一は〽■兵衛【?】が身はたいせつ 〽一合取 ̄ツ てもさむらいの家に生れた 十郎兵へとの〽金ゆゑだいじの 忠兵へさん〽かねにうらみはかず〳〵 ござる〽尾上はいとゞしやくり上 〽ちいさな子どもかなんぞの やうに〽高砂やァ〽さんげ さんげ六こんしよう〴〵と 大さわぎになるしやらくさい こゑあつてかたちなきは どんなばけものかゆけに あがらぬうちはやく出ろと いへばまつかなこぞうひよろ〳〵して のたくり出わつちやァ子ゆやにいる あかなめこぞうのばけものでござりやすが にんげんに出あつて目をまわしやした みづをいつぺいのまして【枠】つぎへつゞく【枠ここまで】 【囲み内】ぎだゆうづら 【囲み内】しんないづら 【囲み内】うたいづら 【囲み内】いたこづら 【囲み内】ながうたづら 【囲み内】ぶんごつら 【枠】つゞき【枠ここまで】おくんなせへ 〽べらぼうめそんな ばけざまがあるものかと しかりけしぬ 【挿し絵に妖怪たちが化けてみせたとおぼしき芝居の登場人物が描かれている。】 ときしもいきな女のすがた見ゆるあついたの まへおびしませいらつ【=縞セイラツ(セイラス)】のちりめんのこそでに うらはくろじゆす【黒繻子】あいぎは【間着】うづらかわの むく二つをついにかさねすそわたたつぷり ゆうれいにしては▲ ▲すそが あり いゝころな としまで 子のねへつらは さてはうぶめかといへば おなかにたまるりそくさへ やつきもまたでしちやのうち ながれかんじやううたかたの あはれはかなきかりぎにて みへぼうものゝしだらなし ひきずり女のまよひのもので ごさんすついたけしゆばんはすそから 【左ページへ】 下ばかりあいぎは二つついのやうても すそまわしばかりでくちわたの にんぎやうじたてどうをおめに かけたらきもがつぶれて目を まわしなさらふうわきはみつものの いろあげひるすぎと申たいがよるの うし みつごろ これが ほんの きものの おばけ さといふ しやらく さいなる ほど きものゝ おばけとは よつほどこんたんした いしやうづけもあだなり やぼからぬばけもの どんなつらか見てやらうと いへばおこそづきんをとる つむりはべつかうのばかしもの かほはおばあおやつかな【おやっかな=おや、おっかないの訛】 とんだばけものだ〽なんと きもつぶしかへじよせへのねへ▼▲ ▼▲よの中にんげんがおばけをきなさる からばけものははだかでにげます 〽それだからばけものより大 みそかゞこわいよ〽なぜへ〽はて 夜あかしだからばけものは 出めへが人のかほが ながくみじかく おつかなく 見えらァ なんと● ●大みそかと いふをだい にして米酒 さかなみそ まきをしゆかう にしてばけて 【左ページへ】 見せねへかかけとりほど【別本にて確認、かけとり(集金)ほど】 こわいものはねへせ 〽なんだいだがはけて おめにかけやせう が わつ ち が こわ か らう と いふ ゆゑ なせ 〳〵 といへは わつ ちやァ 女の かけとりさと やつきとしてうせに けるしやらくさいなるほど 女のかけとりはこわからふきて だいを出したがなにが出るかと にわをながめ〽なんどきか雪はしきりにつも りけりとうろうを見れば風あり夜の雪と口ずさむ ときしもゆきふみわけてくるもの ありしろむくのふりそでにまるわた きてからかさをさしたるはさぎむすめの いでたちごゐ さぎの ばけた のか ゆき 女 に し て は ち と いろ がくろいやうだと あざわらへばつんとして 此しろむくがくろいとはへ 〽さればあるほつくに大ゆきやさぎほど くろい鳥はなしとしろいものをくろいといつたか おもしろむくのゆきのゆりそであらいはりでもしたら よからう〽そりやなぜてござんす〽はてふるいといふ事だ 【左ページへ】 ようさりよりにてどちよふみならふてと【泥鰌踏みならふてと】 うたひもせぬさぎむすめとはこふうな やつおしどりのしよさ事ともやらいでな 〽いやいなァわたしや▲ ▲しろい〳〵上はくの きむすめでござんす〽ハア上はくにしてはいろが くろいがつきやうがたりぬじやまで〽くろい しろいはお手にとつてみやしやんせ〽どう見ても くろむくじやさぎむすめならゑりあかのふるぎを ぬかであらひおとしばけなをして見せいでな〽のふしんまいのしらはをば▼▲ ▼▲くろいとはおなさけない〽イヽヤひねつ こびたむすめだぽんぽんちまい【陳ね米のこと】ならしろ みづでてうづをつかひぬかぶくろのひつ きれるほどとぎなをせ〳〵〽あらはづ かしやわれはこれいろのくろいがほんしやう ぞや〽さて こそな さぎ むす め とは ば け そ こ ない め 〽アイ わつ ちやァ から   す むすめ さと ゆきに おされて 【左ページへ】 きへうせける しやらくさい今出たは米むしのせいれいなるか さてはおれが出したなんだいのとふり さけさかなみそまきのはけものを 出すだろうこんどはなにが出るかと おもふところにかつをヱヽかつをヱヽと たかくよぶこへしてむかふはちまき めくらしまのはらかけ一つでちうを とんてくるさかなうりモシヨヘだんな はつがつをがめいりやしたといふに しやらくさいきもをつぶしよそば うりさへ出ぬ此ゆきにきのきいた ばけものはあしをあらつて ひつこみゆき女もこたつで とけてるじぶんに はつがつをうりとは 〽そこがばけもの なんとあたら しうござい やせう なる ほど さし づめ てつ ぽ う と 【左ページへ】 いふところを雪ふりに初がつをとはしゆかうは ふるせでもねへがとしのくれにしほがつを じやァねへかといへばしほものをうるやうな しみつたれないさばうり【魚売り】じやァごぜいや せんばけものでも いさみさかしへかひ 出しにめいりやしたら はつがつをがきたと なにがぼてへ【棒手=担ぎ売り】どもが ばつちらがつて けんくわづらをし ひらめをふん つふすやう たいが▲ ▲めだまを とびだすやら【鮃を分潰すよう、鯛が目玉を飛び出すやら】 大さわぎ べちやァねへ【別ぁねえ】 りうぐうに 手あいまちの あつたやうさ 所をわつちが いさくさなしに おめへさんに うらうと【売らうと】 思つてひつ さらつてめいり やしたとはん切を あけて見せるなる ほどあづまつ子だおねだん にはおかまひないがねをしよう たかかろうなといふとかつをにはねがはへて トヒヨ〳〵ととんでゆくやぼしやァねへ きのきいたばけものだといへば さかなうりこれははこねからこつちの ばけものさとしやれてきえぬ しや らくさい ばけもの にもせよ はつ がつをなら ひと くち と おも ひし   に から   し みそは いら ねへが ゆどうふの▲ ▲ねぎみそがほしいと思ふ所に むすめどうじやうじのばけ ものあらはれるなぜ どうしやうじが みそかさけに なると思へば手まり うたをうたふ【枠】つぎへつゞく【枠ここまで】 【左ページ】 【枠】つづき【枠ここまで】〽ぼんのぼたもち四もんもちより むまいあづきにあまいきなこに むりのはやぐひ これがほんに くふじやひい ふうみいよう テンツヽツン     〳〵  テンツヽ     〳〵   テンツヽ     ツン とおどる ひやうしに かづらは おちてむすめが ぼうずぼうずが やらうになつて 〽さつさァ ござれや せきぞろ【節季候】ほつぽう テンツヽ〳〵とやみ へしくたと【?】おどるゆゑ● ● しや らく さい まて〳〵 こいつらは あまりちやかしたばけものめうたもあらふに ぼたもちどうぜうしとはやぼなやつ今出た◆ ◆はつかつをのばけものはよつほど きがきいたといへばきいたか〳〵と いふきいたか〳〵とはからしみそ と いふ 事か のろ まの かい た から しの やうで さつぱり きか ねへは とう りで のろま きやう げんを しおつた わいらは のろまのふきみそ かといへばハイ〳〵わたくしどもは そのふきのとうのせいでござり ますとかつてきたつとつこの内へはいりぬ しやらくさいねぎみそ ならゆどうふとも やらかさうふきみそとは のろまなばけものと わらつてゐるところに 又せいのたかさ一丈あまり のきりかむろどうじ がうしのこそでをき大 さかづきをもちいぼがね うつたるてつのぼうと 見ゆるは一丈あまりの たこのあしをひつさげ たるにてすつくと あらはれこれを さかなにいつこん くまんといふにぞ しゆてんどうじ とはさけのばけ ものといふことか さけのだいでは おもしろくばけ やうがありさうなもの もちつとあんじなをせあまり手がないといへば 手を出してあしをいたゞくたこざかなとかけて 【左ページへ】 なんととくといふしやらくさいしれた事をの九太夫と とく〽そのこゝろは〽あしばかりでしつこしがない【尻腰がない=覇気がない、落ち着きがない】 おれが又ひとつかけようゆらの介とかけて なんととく〽そらなまゑひか〽いや〳〵 山いりととく〽その こゝろはかたきのくびを とつておにのくびを とつたようなうれし がるやつか〽いんや やつぱりそらなま ゑひよ又ゆら大じんと かけてなんととく しやうき大じんととく そのこゝろは〽おにころしか 〽いかにもととこのまに あるしやうきのかけものを さつとひらけば たちまちどうじは ほんしやうをうしなひ そのたけ一丈あまりの きじんとなつてあれなる まきべやにあるたくあんの さかだるはおにころしの あきだるなるがその気 のこつてあくしゆのどくきを あらはせしにしやうきのゐくわうに▲ ▲おそれを なし御家内 にはおり がたし おには そとへと にげ  いで   たり しばらくしてなにやらかつたびしとおと してふきやのごとくはせいだすばけ ものありすりこ木にはねがはへてとび出し すりばちにあしがはへてころげ出しおたふく があんどうさげてかけ出しあんまがまつだけ かついでにげ出すまないたに目はなが あいてげたとなればちりとりにめがついて わさびおろしとばけるはつたくさして【ばったくさして=ドタバタして】 たゝみがもちあがるこいつは大さわぎ ばけものゝすゝはきかと思へばゑんの したからかぢわらがかたちのものはひ 出る此げぢ〳〵めがといへばおすゝとり ゆゑしつけむしもにげまするといふて きへうせぬ又まきべやのうちさわがしく 何事かとうかゞへば四十七き夜うちの ていにてまきべやなればたくあんの かうのものなにとはこぢつけたが かたきはくどうさゑもんとはハテ めづらしいたいめんじやなァといふ あまりばけやうがいりくんでくどうさゑ もんちうしんぐらに十ばんぎりとは ばけものもこれぎりかときいてゐれば 【左ページへ】 ばけものどもはなしあうやう大みそかの こわいといふだいで米さけさかなみそ まきなどのばけものも出しそがと ちうしんぐらのかたきうちで ばかして しまはふと おもつた所 忠孝(ちうかう)といふ 二 字(じ)には かたれぬそが きやうだいのゆらの助と いふしゆかうかあくま よけになつて しやうきのぐわぞう かけものからぬけ出 市川団十郎が ふんぬのさうを あらはしあくま がうぶくの大だちを もつていでもの見せんと いふまゝにおにうちまめを うつごとくはらり〳〵となぎはらふ【枠】つぎへ【枠ここまで】 【枠】つゞき【枠ここまで】 げにいさましき はたらきに おそれを なして かなはねば はや たいさん    と いふ こゑし 百鬼(ひやつき) 夜行(やぎやう)は きえ うせて 夜は ほの 〴〵  と ▲ ▲あけわたり あさひ はな やかに かゞ やき ければ しや らく さい きゐ の 思ひ を なし 【枠】つぎへつゞく【枠ここまで】 【枠】つゞき【枠ここまで】とこの間に鍾馗(しやうき)の画像(ぐわざう)を たれて物(はれ)をなすに 今こゝに団十郎や      鬼は外 と其角(きかく)の妙句(めうく)鬼神(きしん)を感(かん)じ 邪気(じやき)をはらひし事 疑(うたか)ひなし 易(ゑき)に鬼神(きしん)を説(と)くこれ造化(ざうくわ)の 作者(さくしや)なり阮瞻(げんせん)無鬼論(むきろん)を取(とつ)て 鬼におどされし ためしも ありと ひとり わらつて やうやく▲ ▲さうしも かきおわるところに とひやからしや本が【問屋から写本(原稿)が】 【左ページへ】 できましたかと さいそくの つかひ ゆみ はまを もつて きたり ければ これは▼▲ ▼▲あたるといふ きつさうなり むかし高砂(たかさご)の 相生(あひおひ)の松(まつ)化(け)して ふうふとなりしといふ これめでたきばけものなり それ破魔弓(はまゆみ)は邪気(じやき)をはらふのこゝろ 尉(ぜう)と姥(うば)はわらべをことぶくとしの始(はじめ)の【枠】つぎへ【枠ここまで】 【枠】つゞき【枠ここまで】かざりものこそしんぱん あらたまのおきなはじめ けにたかさごの松こそ ひさしかりけれ めでたし   〳〵〳〵     〳〵〳〵 【枠内】振鷺亭作 【枠内】勝川春亭画 【左上円形の枠内】金玉(かねだま)の精(せい) 【左ページ】 《割書:文化十三年|丙子の春》新版稗史目録     曲亭馬琴作 《割書:文治高尾(ぶんじたかを)|紅葉衣河(もみちころもがは)》達模様(だてもよう)判官贔屓(はうがんびいき)全六冊     歌川豊国画     十返舎一九作 《割書:楠家(なんか)|一代(いちだい)》忠壮(ちうそう)軍記(ぐんき)《割書:前五冊|後五冊》     勝川春亭画     十返舎一九作 《割書:信陽(しんやう)栗尾山|観世音 霊験(れいげん)》御法(みのり)の花(はな) 全三冊     勝川春亭画     山東京山作 《割書:間野(まのゝ)次郎左エ門|大磯(おほいそ)之(の)八(や)ツ(つ)橋(はし)》籠(かご)釣瓶(つるべ)出世(しゆつせの)鯉口(こいぐち) 全六冊     歌川国直画     振鷺亭作 大時代(おほじだい)唐土(からの)化物(ばけもの) 全三冊     勝川春亭画     十返舎一九作 《割書:ちやばん|きやうげん》初子待(はつねまち) 全二冊     歌川国丸画     十返舎一九作 《割書:不死(しなざ)|無止(やむまい)》欲世界(よくのせかい) 全二冊     歌川国丸画     十返舎一九作 開運牡丹餅男(かいうんぼたもちおとこ) 全二冊     歌川国直画 本問屋 《割書:江戸通油町|   鶴屋喜右衛門》 【ここから後ろは別の本が合本されているようです】 近松門左衛門作 柳亭種彦修辞 歌川国貞画図 西与板【西與板】【版元名:西村屋与八=永寿堂】 【刷りの違う同内容の本→ https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01993/index.html 】 曽我たゆふ染(ぞめ) 近松門左衛門作  《割書:付やたての杉こひの目あて|并ゆいがはま松九ほんのじやうど》 三ばんつゞき 三幅(さんぶく)一対(いつつい) 《割書:左 いづゝの水うをさいしき 五郎筆|中 小ゆびのちしほごくさいしき 十郎筆|右 ふじのしら雪中さいしき とら筆》 一ぜんじほう 主役 若林四郎右衛門 一大いそのとら 太夫 水木たつの介【水木辰之介】 一そがの五郎 同 大和屋甚兵衛 一けはい坂少将 形女 そでさきいろは 一そがの十郎 同 坂田■十郎【藤十郎?】 一かぶろかづさ □  柳亭種彦修辞  歌川国貞画図  栄寿堂   西村屋与八【西村屋與八】梓 【左ページ】 《割書:元禄年間(げんろくねんかんの)|曽我狂言(そがきようげん)》曽我太夫染(そがたいふぞめ) 近松門左衛門作 ○近松門左衛門(ちかまつもんざゑもん)はぢめは歌舞伎(かぶき)狂言(きようげんさくしや)なり其頃(そのころ)の正本(せうほん)曽我(そが)多遊婦(たゆふ)  染(ぞめ)といふを友人(ゆうじん)の許(もと)より借(かり)得(え)て是(これ)を灯火(とうか)に朗誦(らうじゆ)すれば恰(あたか)も百有余年(ひやくゆうよねん)  の昔(むかし)狂言(きようげん)を目前(まのあたり)視(み)るこゝちして最(いと)めづらかなりければ古風(こふう)を世(よ)に  傳(つたへ)まほしくて趣向(しゆこう)は原本(げんほん)を聊(いさゝか)も翻(あらため)ずたゞ辞(ことば)のみ今様(いまやう)にとりなし  標題(へうだい)もそのまゝ曽我(そが)昔(むかし)狂言(きようげん)となづけぬ ○原本(げんほん)に年号(ねんごう)なしといへども元禄(げんろく)六七 年(ねん)の頃(ころ)なるべしと巻中(くわんちう)に考(かんがふ)る  ところあり事(こと)ながければこゝにもらしつ ○狂言(きようげん)名題(なだい)を太夫染(たいふぞめ)といふは案(あんず)るに太夫(たいふ)は水木辰之助(みづきたつのすけ)なり其頃(そのころ)彼(かれ)がつねに  着(き)たる染絹(そめぎぬ)を辰之助染(たつのすけぞめ)とよび専(もつはら)流行(りうかう)なしければしかなづけしなるべし  文化十四年丁丑孟春 柳亭種彦誌 【検索用:曽我太夫染/そがたゆうぞめ/そがたゆふぞめ】 大磯(おほいそ)の虎御前(とらごぜん)に扮(ふん)するは其頃(そのころ)    世(よ)にきこへたる水木辰之助(みずきたつのすけ)なり 【枠】うたひ【枠ここまで】やたての杉のふる ■どり〳〵さかゆ〳〵 すえをたのまん ○おに王どうざは弓に矢 つがへすぎのこずへにはつしと ゐつけ〽いかにどうさいにしへは 此杉をゆもとのすぎといひ たるが六そん王つねもと公 ちようてきたいじの きぐわんをこめうわざしの【上差の矢】 矢をゐたまふよりやたて の杉といひならわし   心にねがひある        ものは       矢を       もつて▼▲ ▼▲これをうらなふしかるにわが矢は あれあのことくいちのゑだ 〽それがしが矢は二のゑだに めあてたがはずたつたるは 〽おもふかたきをうちえんきちずい 〽あらありがたやとふしおがむ をりから二人 ̄リ のむすめがたちいで うちわをかざしおもはゆげに 〽ほんにかほならかたちなら花が ものいふもみぢがわらふ 母ごさんのおさくがようて すくひたまへやあみだぶつ だいてねじやかのごりしよふに こひのいんもんいたゞきたい おわりしゆさんとほめければ きようだいはがてんゆかず 〽たれ人なればわれ〳〵を【枠】次へ【枠ここまで】 【右ページ下のほう】 ○ぜんじぼう 〽ぜんじぼうがいたきたるは すけなりの一子なり 〽鬼王は若衆なり金王菊王なんど いふ名もあれば鬼王を わかしゆとなすも 故あるに 似たり 原本には かつら かく の ごとく かけり【鬼王のかつらの挿し絵あり】 【左ページ下のほう】 〽ほめことばの ごときもの 此ころの流行と みへたり 今長作の じようるりに のこれり ○ひむろ の 前 ○どう ざぶ らう 【枠】つゞき【ここまで】おなぶりあるといふところへぜんじぼうはおさなこの 手をひいてたちいでたまひ〽人もきくわうらいで はすはなことをいわれなといふにむすめは うちわらひ〽ぼんさんがおわかしゆのひいき さんすはもつともじやかおまへにはかまわぬと おに王がむなぐらとりきこへませんと なきたまへばおに王はふしんはれず 〽さだめてこれは人たがへまづをんみは なに人ぞととわれてむすめはかほふりあげ〽己らはゝ【ゝは衍字か】 和田のよしもりがむすめひむろの前と申もの あねみなつきさまおまへのゑすがたをごらうじて それからのこひわづらひあんまりみるめが いとしさにあのこしもとのみぞぎをつれて 今のやうなざれごともそれを手すぢに いひよりてあねのこひかなへたきたび〳〵 ふみをあげられどついにいちどのへんじも ないあんまりきづよいすけなりさまと きいておに王手をつかへさてはよしもり公の ごそくじよにてありけるかわれ〳〵しゆじんの 此すわうをちやくせしゆへおんみたがへも ごもつともせつしやはおに王これなるはどう三郎 と申ものしゆくんすけなりは大いそのとらに ふかくちぎりこれ此ような子までもふけかたきうちも のび〳〵さては此お子がほだし【絆し=障碍】になつてのことゝぞんじ それがしひそかにぬすみいだしぜんじさまにあづけしかど おもひきりもなされいでとらごぜんもろともに すがたをやつし此お子のゆくへをたづねたまふよし さすればみな月さまとやらがどのやうにおぼしめし ても此こひはかなひませぬときいてひむろが 〽さほどのことをときむねどのなぜいけんは したまわぬ〽さアときむねさまにもさいつころ【=先つ頃】 はこねをげさんあそばしてごらうぼさまの ごかんどう十郎さまとは五ツや三ツもそのときに おあひなされたそのまゝでたいめんさへ したまわずあまつさへけわひざかの【化粧坂の】 しよう〳〵といふゆう女のもとへこれも かよひたまふとやらといふをとゞめて ぜんじぼう〽アヽそれもよくなひものがたり それゆへおに王きようだいが十郎五郎の すわうをちやくしかたきをうたんととうしやへ ぐわんごめ〽てもたのもしい心ざしさようならその お子は此ひむろがもらひませうさすれば十郎すけなりさま お子をたづねてきたまわんそのときはあね さまのおもひをはらしかたきをおうちなさるやう ごいけんもいたしませうとこゝもとに子をいだかせもはや むかひもまいるはづいざおいとまとたちたまへば〽ぐそうも それまでおみおくりとひめもろともにぜんじぼうとりゐの かたへゆきすぎぬ○おに王むかふをきつとみて〽あのどう ぜいはたしかにすけつねしのんでやうすをうかゞわんと 杉のこかげへかくるゝを馬上のすけつねとを目にみつけ 〽あやしき両人あふみやわたひきいだせとおほせにはつと たちかゝれば〽アヽわれ〳〵はゑんごくものりようじあるなと いはせもはてず〽すわうのもんはいほりにもつこうたしかにそれと たちよるやわた〽イヤかまくらははんへ【?】わの地しようぞくなくては はづかしとあしかゞのあさ市でわづかのあしでかましたといふにあふみは あざわらひ〽此しんぼくにゐつけし矢におに王どうざとしるしあれば【枠】次へ【ここまで】 【右ページ中ほど】 ○工藤左衛門 【右ページ下のほう】 ○此ころは  工藤左衛門【=すけつね=祐経】  やわたの三郎【祐経の家臣】 みな敵役也   三人とも 原本には  はんばかま也 工藤のかつら  原本には 今いふ まさかりの  ごとく    かけり 【囲い】つづき【ここまで】そがのうゑんであらうがのじきいてすけつねうち うなづき〽なんぢらをみるにつけふびんなるは ながれ矢にてあへなくしゝたる かわづのすけやす かたきがしれたら うつてやらふに わいらも さだめて むねんで あらふと そゝりうそふけば たまりかね 〽そのかたきは ほかでもない さいふ 左衛門 すけ つね  と とび かゝ れば はつた  と にら  み 〽われ   を かたき   と● ●しるならば なぜ今までは みのがした 〽おろかやすけつね かまくらへのをりのぼり 大いそ小いそさがみがはらのあるときは ふかさはへんにかくれしのんでねらへども そのほうは大名ゆへ百き二百きめしつるゝ つれざるときも五十き二十きわれ〳〵はきようだい 二人そのとうぜいをおそるゝにはあらねどもしそんじては かばねのちじよくすゝむなどう三ひけやおに王と むなしくかへるわれ〳〵が心をふびんとおもふなら かたきと名のりせうぶせよとなみだにくるゝゆだんを みすましあふみやわた【大見・八幡、祐経の家来】ぼうふりあげさん〴〵に うちすゆるをりよくもどるぜんじぼう馬も人もをしたをし うへゝどつかとこしうちかけ〽それがしはうわづが三男 くがみ寺のぜんじぼううはつ【有髪】ななれば武士もどうぜん さアすけつねあひてになれとつめかくる此いきおひに きをのまれ〽かれらを手あらくいたしたはけらいどもの ぶちようほうすけつねおわびつかまつるとみな〳〵ひきつれ にげてゆく〽のがしはせじとかけゆく兄弟ぜんじぼうひきとゞめ 〽そのほうどもよりそれがしがうちとらんはやすけれども今みの がせしはをりをうかゞひ二人りの兄にうたそふため手にいるかたきを うたずしてたからの山へいりながらむなしくかへる心のうちおもひ やれときばをかみぜひなくそのばをかへりけり 【囲み】つぎのゑのわけ【ここまで】こゝに大いそのとらはわが子のゆくへをたづねんと わかしゆすがたにいでたちて十郎はともとなりよしもりの下やしき 小もんぐちの前にきたりせうぎにこしをかけにはり【?】かゝるをりから▼▲ 【左ページへ】 ▼▲ときむねもふう  りうつくす六ほう すがた人目をしのんで  せう〳〵もともの   わかしゆとすがたをかへ あたりの井づゝにこしうちうちかけ 〽さても見事なおわかしゆさん こひ風がぞつとしてどうやら風を ひいたやうじやとじろりととらを みやるにぞこなたはなをしさいらしく 〽コレやつこわたしやイヤおれはだいぶ のどがかわいてきた水をいつぱい くんでこひ〽かしこまつたと十郎が たちよるうちにときむねはつるべに 水をくみあげてすけなりの ひしやくをばいとり〽にはかに水が のみたいとはおれにもつてこいといふ 心のそことくみあげた【囲い】次へ【ここまで】 【右ページ下】 ○百き二百きのことば又宝の山へ いりながらのことば原本にあり ふるくよりいひきたりしを しのぶべし ぜんしぼう 有髪(うはつ)の 僧(さう)にて ▲荒事(あらごと)   なり   いと   めづらし 【囲み】つづき【ここまで】さアのみ給へとさしいだす〽なんじやいな みはげにんをもつてゐるなんのおまへにたのもふぞ 〽はてせつかくのしんせつを水になすとは きこへぬとたちよるをへだつるせう〳〵 〽ヱヽせうのわるいだんなさん男でも女でも なんぞといふとあだどんなもう〳〵こゝへは おかれぬとむりに五郎をいざなひゆく 〽さてりんきぶかいわかしゆめしやヱヽこれ 今のそうどうでだいなしおれは 水だらけとつぶやく十郎どつかりと とらはすわつて〽ヱヽしんどいわしや 大小【刀のこと】がおもふてならぬわかしゆは いやでござんすと いふに十郎   たちよつて 〽このやうふ すがたを やつすも わが子の ゆくへがたづねたさ しんぼうしやと なだむるところに 小もんぐちよりいでくる しもべこしもとみそぎが【?】 はしりいで〽これ〳〵井ど ほりの作兵衛どの 此ごろもいふとをり      【囲み】二ノ巻へつゞく 【右ページ下】 ○十郎   奴となる ○とら若衆の   六法に姿をやつす 【左ページ】 【囲い】一ノ巻のつゞき【ここまで】 此おやしきに十郎 さまのお子がおいで なさるれば ひよつとたづねて ござらふもしれぬ きをつけて くださんせと いひすてはいれば うなづく作兵衛 〽どれ井戸 がへにかゝらふと いふのをきいて よろこぶすけなり 〽もし〳〵その十郎とわしは ともだちそのぎならばおやしきへ 今にもつれてまいらふかそのお子が 十郎どのゝ子でないときはいかにもきのどく おれもよくみしつてゐるが その子をちよつとみることは なるまいか〽ヲヽそんならおれが 此半てんをきて作兵衛がてまじやと いふてみてござれおれは用が あるほどにちつとこゝをたのみますと▼:▲ ▼:▲いひすてはいれば十郎は天のあたへと よろこぶところへときむねはおけやのどうぐ うちかたげてたちいづれは〽ヤアきさまは さつきの六ほうどの〽こなたはさつきの 奴どの〽ヲヽおれはたかゞ日ようとり【日用とり=日雇い】 井戸ほりにたのまれたが▲ ▲六ほうがおけやとはがてんが ゆかぬといひければ〽サア何を かくさうおれは母のかんどう うけてゐるが 此やしきの    あるじ よしもりどのを たのんで母に わびをしようと おもへどどうも ちかづく てだてが なさに おけやと 【囲い】次へ【ここまで】 ○原本はげんぶく したるときむね也 かづらは かくの ごとく かけり ○少将(せう〳〵)若衆の しもべとなる 【枠】つゞき【ここまで】すがたをやつしたとものがたるうしろのかたたちいでたまふ みな月ひめはむろのまへもろともにつく〴〵と五郎がかほ ゑすがたにひきあはせ〽わらはがほれた此ゑがたに とんとおまへはいきうつしもしやそれかとたちよれば 五郎あきれてにげいだすを十郎がひきとゞめ 〽たしかあれはよしもりさまのひめぎみかんきの わびをたのむにはねがふてもないさいわいと むりにつきやる十郎がかほをながめて 〽いや〳〵こなたゟなをにていゐるようたづ ねてきてくださんしたとよろこび給へは ひむろのまへこしもとどのゝうちよりて まァ〳〵こちへと兄弟をむりに いざなひいりにけり ○とらはそのまにしのび いりなんなくわが子を ぬすみいだし〽これ ぼんよそなたに あひたいばつかりで いかいくらうをした わひのとよろこぶ おりからきかゝる せう〳〵〽さいぜんの おわかしゆさんどうやら おまへは女子のものいひ 〽そふいふおまへも女の ものごし〽あいせう〳〵といふ 女郎でごさんす〽そんなら おまへとつれだつたは ときむねさんでござんしたか わたしや大いそのとらと いふものつれだつたのが すけなりさん〽さては そふかとおどろく せう〳〵ヱヽかんどうの わびことも思ふやうに らちがあかぬとつぶやき ながらたちでるときむね 〽もふし〳〵五郎さんこの おかたがうわさに きいたとらごぜん しもべにすがたを やつせしがあにご さんでござんすと きいて五郎が びつくりぎよう てん〽やうすは きいたとたちでる すけなりいかに五郎 五つや三つのそのときよりたがいに あわねばかほもしらず〽よそ〳〵しい さつきのあいさつ〽弟〽兄じや人 おなつかしやとてをとりかはし よろこびあふぞことわりなる ○しけたゞのしやほん田の二郎さん上 せりとよばはるにぞ〽かれにあふては むづかしとおさな子すてゝかくるゝ人〳〵【枠】つづき【ここまで】 【右ページ下】 ○五郎   おけやと      なる ○原本に十郎は かくのごとくからかさに しかのつのもやうを かきたりからかさは もみぢがさにて 紅葉に  赤の心なるべし 【左ページ下】 ○十郎   井戸    ほりと      なる ○水無月姫(みなつきひめ) 【枠】つづき【ここまで】たちいでたまふみな月ひめほんだといつわりあふみの ことうだ【近江(大見)小藤太】のつさ〳〵といりきたり〽イヤよいところでおめに かゝつたかねてすけなりにごしうしんとあつてかれが一子を やしなひおきたまふよししゆじんしげたゞ十郎をたづねいだし おん心にしたがふやうとくといけんつかまつりその子をかへして とらごぜんとゑんをきつてまいらせん おわたしあれと いひければ みな月は まことゝ おもひ 〽ヱヽあり がたい しげ たゞ さま  と おさな 子の手を とつてわた せばあふみ【近江(大見)】は してやつたりと おさなごをこわきに かゝへかけいだせば とらごぜんわかしゆ すがたをさいわひと ゆくさきにたちふさ がり〽それがしはほん田の おとゝ三郎ちかいへと いふもの兄の名を いつわりてその子を うばひとつたるくせもの さつするところくどうが けらいことうだであらふがの 〽ヲヽよいすいりようしゆじんを かたきとねらふすけなり こせがれを人じちにとつて おくのだそこはなせとあやうく みゆれば十郎五郎ぬきつれて きりむすぶみな月ひめは おどろきたまひこしもと ひきつれにげいりぬ なんのくもなく きやうたいは ことうだをとつて おさへ〽ちゝかわづを ゐとめしからはいわば おのれもとうの かたきくわんねん せよといふよりはやく くびちうにうちおとし  とらごせんに子を   いだかせ兄弟せう〳〵    うちつれてよろこび     いさみかへりけり ○小藤太   本田の    二郎と   いつわり  兄弟に   うたるゝ こゝに大いそのゆふ女やちようがごけはいんきよをかまへ べつけにすまひゐたりしがとらごぜんのあね のかぜ【野風】いもとにはにぬふつゝかものかざをり きんざんなんどいふゆふくん【遊君=遊女】もろとも いりきたればごけはみるより 〽これのかぜそなたはとらがこしを【腰を押す=後押しする、応援する】 おしやるの〽いへ〳〵あとの月 あたごのさかでこしおした ばかりでござんすなぜその やうにはおつしやります〽此たび くどうすけつねさまとらを みうけなさらふとたび〳〵 人をつかわされどとらめは そがのやけらうにんにぎりを たてゆくことはいやじやと ぬかす〽いへ〳〵そふでは ござんすまい よしもりの げしやくばら【外戚腹】 みな月といふ むすめご すけなりさんに ほれぬいていろ〳〵にくどいても どうもがてんさんせぬゆへすけなり さんは女郎ずき女郎になつて思はりよう とやしきを夜にげなさんして心がらの【心柄の=自分からの】 つとめぼうこう今の名はかめぎくとて すけなりさんとふかい中とらとのゑんは きれてあるときいてごけはおもてをやわらげ 〽そふならばわしもあんど今にとらもくるであらふ いけんしてくだされとことばのうちにとらごぜん ひきふねかむろひきつれきたり〽これかざをりさん きんざんさんわたしやおまへがたのためにはあね じやぞへきやいがわるふてねてゐたにごいんきよ さんのおつしやることがあるならばなぜおまへがた わしがところへきていやらぬまァ此家でだいじの 人はだれじやといへばごいんきよさんでござんする ○じやが○ごいんきよさんはしなんしても此いへは たちやんしようがわしがしんではこゝのうちが たゝぬぞへ子どもたばこをつけてくりやと そこへべつたりきのじなり 〽あれ又あんなわがまゝを いひおるとはらたつこけを なだむるのかぜ〽わがみはなぜ そんなことをいやるきけば すけつねさまへゆくことはいや じやといふげなわしまでがめいわく するどふぞいつてたもひのと たのめばとらはにつことわらひ 〽アイおまへがめいわくなさん すならふしやうながら いきやんしようといふに ごけは大によろこび 〽そんならそのしるしに 小ゆびをきつてあげもふしや さいわいおくにやわたさまが● ●きてござればみうけの らちのあいたやうす わしはおはなしもふそう とほた【ほく?】〳〵よろこび いりにけりとらは あとをみをくつて 〽これあねさん わたしや今さら ゆびきつては すけなりさんへ たゝぬほどに どうぞおまへ めうだいに いつてあげて くださんせ 〽せつかくの そなたの たのみ 【枠】次へ【ここまで】 ○大いそ     の 長(ちよう)が  後家(ごけ) ○とら   わが    まゝいふ 【枠】つゞき【ここまで】こんやとつくりかくごしてあしたきつてやりませう 〽イヱ〳〵あしたはちいみ【血忌、血忌み日】でござんすけふちやつと きるまねしてほんにきるのはあしたがよい〽そんなら 切 ̄ル まねばかりか〽アイそふでござんすとまくらへ ゆびをのせさせてうへよりてうどうちきれば 〽のふかなしやとなきふすのかぜ〽ヲヽどふりで ござんすいたからうかなしからうがなにを いふのもいもとのためとかんにんしてくださんせと わぶるところへやりてがたちいで〽おくにござる やわたさまがおまへをつれてかへるとて今こゝへ ござんすときいてとらはびつくりし〽おまへはやう【お前早やう】 おくへいてとらはゆくきでござんすがとらが母が【かすれを別本で補う】 とくしんせぬとそふいふてくださんせとやり手を おひやりこれあねさん此ごろざしきでそとは 小町の【卒都婆小町の】のふがあつてナかづらやゐしようは【カツラや衣装は】 このうちにしまつてあるわたしがそのかづらを きてとらが母といふほどにさいわひの たそがれどきあかりをつけてくださん すなといひすて一 ̄ト 間へはしりゆく やわたはたちいで〽これはくらいイヤなに そこな女いよ〳〵とらはゆかふといふかと とわれてのかぜがいたさをこらへ 〽あいとらさんはゆくきでも母ごさんが とくしんせぬときいてせきたつやわたの 三郎〽それならば母にあをふこゝへ よべといふうちにとらはらうじよに すがたをやつしする〳〵といできたれば 〽フウさてはそなたがとらが母か すけつねさまへさしあぐれは おひのたのしみ此うへなしどふじや〳〵 ととひかけられとらはかしらを うちふりて〽イヤ〳〵いかなる ゑいぐわにあふとても わが子をはなち やることはたよりなく 候へばおもひもよらず候 とうたひかゝりしこはね にてよわ〳〵とまひ かなでけりやわたは ふしんのがんしよくにて 〽くらうて【暗うて】あいろは【文色は=様子は】わからねど しらがににやはぬかほのわかさ ちようちんもてとけらひをよび ヤヤやつぱりわれはとらごぜんと いはれてにげゆくもすそをとらへ とゞむるはづみにおちたるかづら とらはあらはれせんかたなく ちようちんはつたとうちおとす とりにがさじとさぐりより のかぜをとらとこゝろへて やわたがとゞむるひとまの ふすまとらははつたとたてきつて 〽それにゆるりとござんせやおとぎに あねをおきますといひすてゝこそ にげゆきけり 【次のゑのわけ】さるほどにそが兄弟は※ ※とある川べにたちいでゝしきみをさし水をたむけ 父しようりようぶつくわぼだいとふしおがみ〽いかに五郎 世がよのときであらうならいかなる仏事もなすべきに 兄弟がしきみの水心ばかりの たむけくさくちおしいみになりはて たとなみだぐめばときむねが 〽そのおくやみはことわりながら▲ ▲此ときむねが身に とつては三つのよろこび候也 一つには母うへのかんきがゆり 二つにはげんぶくして 兄弟いつしよの此たいめん 〽ヲヽいふまでもない三つにはおやの かたきをうちとつてほんもうを とくるであらうと心にいさむ をりこそあれ大いそのてうがごけかめぎくを ひつたてきたり〽やい女とらばかりかとおもふたら【枠】次へ【ここまで】 ○とらごせんそとは小町の   かづらをきてとらが          母といつわる ○のかぜ  〽やわたさまは    おしのび   あかりを     つけると   おもてから    おかほが     みへます 【刷りの違う同内容の本: https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01993/index.html 】 【枠】つゞき【ここまで】おのれもそがのやせ らうにんとくされあひほかの きやくはいやじやとぬかすサア すけなりをおもひきつたと いひおれとさん〴〵にうちすゆれば かめぎくかほをふりあげて 〽げしやくばらでもよしもりが むすめのみなづききみけいせいの つとめをするもすけなりさんに あひたきゆへどふしておもひきられ ませうとなきふしてこそ ゐたまひけれふびん とおもへどすけ なりも をりあし ければ でられ もせず あふぎを かほに おしあてゝ まつのこかげに かくれゐる 日もはやくれて うすづきよてうのごけは それともしらず〽これおさむらい じやけんなことをするやうなれど 此女は世になしものゝ【世無者の】十郎めと まぶくるひそれでせつかんいたしますサアやせらうにんの すけなりをおもひきつてしまひをれと又さん〴〵に うちすへ〳〵かうしておくのもこらしめとまつの木に くゝりつけごけはとつかわかへりけり兄弟よろこび はしりよりいましめのなわひきほどけば 〽すけなりさまかとすがりつきなくより ほかはことばはし十郎もなみだに くれ〽さいぜんよりおんみ とはしりしかど あまりなる あつこうに でるも    ▲ ▲でられず ひかへしが からだがいたみは しませぬかと 五郎もろともいたわる ところへせう〳〵ははしり きたり〽もふし〳〵あの とらさんはちくせうじや げんざいかたきのすけつねへ みうけされてゆるしやんす ときくよりときむね大にいかり 〽につくいとらめくびひきぬいて きたらんとかけいだすを十郎は おしとゞめ〽ハテちくせうのあいてになるも おとなげなしなまじいかれにつながれなば せがきのことまで心にかゝりかたきにいであふ そのときにみれんなこゝろがでやうもしれぬ 今ふつつりとおもひきれば心にかゝることもなくわがみに とつてはもつけのさいわひそのまゝにすてゝおけといひつゝむかふをきつとみやりあのちようちんのもんどころはたしかにわだのよしもり どの人めにかゝらぬそのうちにはやう〳〵と兄弟が二人居 ̄リ の女をおつたてやり【枠】次へ【ここまで】 ○此まへ長か別家より   このところはうらぼんなり    水無月ひむろ      みそぎなんどいふ     なをもちひしを           もて● ●おもひ   あはするに  原本は   夏狂言    なるべし   又野風と    よべる名は   とらが    姉なれば     なるべし ○みな月ひめかめぎく   といふげいことなり  ちようがごけにせつかんにあひ              たまふ 【枠】つゞき【ここまで】すほうのそでをかきあはせ しんびようにこそひかへけれ○かゝる所へ よしもりすけつねとうちつれだち ゑがらの平太【荏柄平太】そのほかのさむらひあまた ひきつれきたり〽下馬のていは何 ものぞこよひはこれなるすけつね どのをもてなさんと大いそへ しのびのみちたゞそのまゝに とをられよといふにすけなり 手をつかへ〽めづらしやよしもり どのそが兄弟に候ときいて ほく〳〵うちうなづき〽これは さいはひ大いそへまいられて ばんじのとりもちいたされよ イヤなにすけつねどの かれらはかわづがわすれがたみ そが兄弟に候なり 五郎はいまだみしるまじ これなるはすけつねどの いちかづきになつておけと おふにすけつねにつこと わらひ〽さてはそがの やせ兄弟かみがやしき へも出入りをし犬ぼうが ふるわんぼうでも もらひたそくにせよと【多足にせよ=たしにしろ】 ちようろうなす きばやのときむね とびかゝるを すけなりはおしとゞめ 〽こはけつこうなる ごあいさついかにも  すいさんいたすべしと   おんくわのとばに  わだのよしもり 〽夜ふけぬうちにすけつねどの   〽さようならごとう〳〵   〽兄弟もあとからまいれと   大いそさしてゆきすぎぬ  〽おのれすけつねのがさぬと   又かけいだす五郎ときむね  〽やれまて弟今ほんもうを たつするときはよしもりどのゝ なんぎとなるそこへ心の  つかざるやとなだむるところへ  ゑがらの平太あげやより  とつてかへし〽ごきようだいを まねきしはときむねどのに   工どうがおもてを   おぼへさせをりをうかゞひ  かたきをうたせ申さんと   よしもりがかねてのしよぞん   まづ〳〵あげやへ    おんいであれと  うちつれてこそ       いそぎゆく ○此ところ今のたいめんに   にたり工藤【似たり。工藤は】原本には    上下【上下】おきづきん【置頭巾】なり 〽いぬぼうが    ふるわんぼうの     ことばも      ふるくより       いひつたへし         ことゝ           みへたり ○わだの     よしもり ○ゑからの丙太   わかしゆ     がた也 ○すけなり   大名と    なる 此大名は  きながし【着流し=袴をつけない着物姿】   さば    き   がみ【捌き髪=結わずに解き散らした髪】  なれ    ど  原本    に  ならひ     て   かくは    ゑ    が   かす ○とら   やまの  かみに   なる【山の神=妻】 此山の   かみは  大名のつまなり   女ぼうのことを山の    かみといふ     とわさもいと         ふるし ○五郎  太郎くわじや     となる 【枠】狂言花子【ここまで】 かくてそが兄弟はあげやのざしきへいでければよしもりも きげんよく〽なんじらはきようげんの上手ときく二人 ̄リ は 花子のきようげんをつとめすけつねどのをなぐさめ よといひければすけなりこたへて〽花子と申きょうげんは 大名に太郎くわじや山のかみと申て女がたともに三人 兄弟にてつとめなばかの女がた二人 ̄リ がふそくなりと いひければ左衛門すけつねひつとつて〽その女がたは 此ほうにととめさすべきものあればいそいでようゐ つかまつれときくより兄弟ざをたちあがりすけなりは 大名ときむねは太郎くわしやしたくとゝのへたちいでゝ 【枠】きようけんのことば【ここまで】〽太郎くわじやあるか〽おまへに 〽此ほどは花ごさまへまいらぬほどに一七日があいだざぜん するといふてうちの山のかみをだましておいたなんじは このざぜんふすまをかぶつてざせんしてゐてくれい それがしは花子さまへまいり此ほどのうつふんを はらそふとおもふもし山のかみがきて何といふとも 物ばしいふな身はもふまいるといらんとせしがたちもどり ○こりやゆんでもめても山のかみがおほいずいぶんともに 心をつけよとかたきの中といふことをしらすれば  ときむねうなづき〽ちつともきつかひなされますな   〽それならはあんどしたどれ花子さまへまいらふと    一 ̄ト 間のうちへいりにけり    ○とらごぜんは山のかみのやくにあてられうちかけ     すがたにいできたり〽わたしかとのごは十七日      ざぜんをなされゆをも水をもまいらぬが     あまりせうしにござんすからよそながら    やうすを見ましようとおもひまする   なんじやいなものはさつぱりいわしやんせいで  かぶりばかりふつてゐさんすまァ此ふすまを   とらしやんせ。やァとのさんかとおもふたら    おのれめはなにしてゐる〽あゝかなしやとのは花子   さまへござりましたぜひおよばずかやうにいたして    おりますとおひつゝかほをうちながめ○山のかみを     だれだとおもへばちくせう女郎のとらめだな      おのれはようも〳〵兄じや人へのぎりをすてと     いふをよしもりうちけして〽これさときむね      その花子のきようげんにさような       ことばはついにきかずととがめられて         せんかたなくうでをさすつてひかへる五郎      とらはすりより〽そんならそのざぜんふすまを       わたしにきせてこゝへおいてくださんせとのさんに        よそながらいひたいことがござんすとなみだぐめば         五郎ときむね〽ヲヽどうでもかつてにしやァがれと        ふすまをとらにうちつけてたゝみけたてゝ       いりにけり○ひきちがへてすけなりは         かめぎくがうちかけのこそでをかたにうち          かけて小うたのこゑもしどけなく      〽あやのにしきのしたひもはとけて中〳〵よしなるや       ○やれ太郎くわじやさぞまちかねたであらふ         なにとてものはいはぬぞまづおれが          かしこへいてつまどをほと〳〵とたゝいたら         花子さまがものとおつしやつた○いとゞ名のたつ        おりふしにたそやつまどをきり〴〵すとおつしやつた         此小そでも花子さまのかたみなるれど又山のかみが           みたらはらたつるであらうとことばのうちに           とらごぜんふすまかいやりすけなりがむなづくしに▼▲ ▼▲とりついて〽此小そではみしつてゐるかめぎくさんの    こそで山のかみがみたらはらたてるで     あらうのなんのとわたしへのあてこすり    いとゞ名のたつをりふしにアイうき名のたつたは     ひめぎくどのより此とらがさきでござんすと    なみだまぢりのうらみごとすけつね大にふきようして     〽きようげんにことよせておのれらが       くぜつのあいさつ見たうないよしにしろ      ざしきをかへてのみなをさん       よしもりどのもごいつしよにと         とらをむりにひつたてさせ              みな〳〵うちつれいりにけり 【枠】今のきようげんにていはゞとう〴〵かわり なるべし是よりあげやのおくざしきなり【ここまで】 ○とらごぜんはあねのかぜがかうてにゐるを   よびいだし〽これあねさん一生のねがひが  あると半ぶんきかず〽又かいのうまだ此ごろの【又かいのう、まだ此頃の】   小ゆびのきずうづきさへとまらぬに    こんどはかんにんしてたもとゆくをひきとめ     〽いへ〴〵そふいふことではござんせぬ    かね〴〵おまへもしつてのとをり     すけつねさんがわたしへれんぼを      さいはひに心にしたがふやうにみせたは       心をゆるさせごきようだいに      かたきをうたそふためばかり     それにこよひはぜひにわたくしを    だいてねるとあれあそこにとことつて     まつてじやからあかりがあつては      はづかしいとかむろどのにけさしておいた    わたしがつけごゑするほどに     おまへわたしがめうだいにちやつと      いつてくださんせと       たのむこなたのびようぶのうち    〽とらごぜんとらはいぬかとよぶすけつね      〽あいそこへゆきやんすと        いひつゝむりにあねのかぜを    ひようぶのうちへおしやりて     ほつとといきをつくところへ   そが兄弟はしようぞくあらため    びようぶをさつとおしひらき     〽おやのかたき左衛門すけつね       くわんねんせよとよばはれは    〽のふかなしやとにげでるのかぜ       すけつねかたなおつとりあげ   〽ヤアこしやくなるやせらうにんかへりうちに      してくれんとおどりいづるをこととも     せずうけつながしつきりむすび      一 ̄チ のたちは兄すけなり二のたちは      弟ときむねなんなく工どうを       うちとつてよろこびあふぞことわりなる      かくときくよりわだのよしもり     へいだをひきつれかけきたれば      兄弟はたちなげすて       〽ほんもうとげしうへからは【枠】次へ【ここまで】 ○むかし人の   きよう     げん    見る      さま 〽そが兄弟   すけつねを    うちとる 〽とらが   あね  のかぜ   ねまき      の    まゝ     にげ      いだす 【柱の文字】曽我たゆふ染 三番つゞき 【枠】まへのつゞき【ここまで】  もはやうき世に   のぞみはなし  ぞんぶんにし給へと いへばよしもり   うちわらひ それがしこゝに    ありながら そのまゝに  見のがしてはよりとも公   のごぜんへすまぬ  今よいもりが   ぬくたちは    世の人口を     ふせがんため    がてんかいたかと     きりつくる    こゝろへたりと     二 ̄タ うち      三うち    すけなり     ふつと【枠】次へ【ここまで】 【枠】つゞき【ここまで】心づき 〽きでんの そくじよみな 月どの今此さとのゆふ女となり名はかめぎくと申す也 よびかへしたまふべし〽ヲヽよくもしらせてくだされたおもひがけなき けいせいぼうこうしよ〳〵ほう〴〵とたづねてもゆくへのしれぬは ことわりなりとうちあひながらいちれいのべわざとかしこへよろ〳〵〳〵 ○ゑゝうちもらせしかざんねんといひつゝおちよとしらすれば かたじけなしと兄弟はついにそのばをたちわかれつきせぬ 爽【叟ヵ】のきようげんきぎよふじのすそのに名もたかき   むかしがたりをちかまつがまつにやなぎの    つぎほしてめでたく     ふでをぞおさめける      めでたし〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵 ○此すへおに王どうざ   やわたの三郎を    うちとり     とらごぜんかたみの      こまをひく きようげん    あれど  ことながければ    もらしぬ 近松門左衛門作 柳亭種彦修辞 筆耕千形仲道 彫刻江川留吉 歌川国貞画図 琴雷 【机の下、玉屑という薬の広告】 版元  にて とりつぎ おん薬 店に こひろう  永寿    堂 らんほう ○玉屑 右のおん薬は いつさいきぶん よりいでたる おあやひにことに よろしくわしくは のうがきに  しるしをき       申候 【裏表紙】