紺屋百物語 【タイトルは違いますが内容は以下と同じようです→場戯嘉話古手返 : 3巻 https://honkoku.org/app/#/transcription/E294C8CFA43937EC381C1C2B9D19351D/1/ 】 天明六年丙午春 紺屋百物語 序 爰(こゝ)に化(ばけ)の裘(かわごろも)あり其(その)趣向(しゆかう)甚(はなはだ)にことふり垢(あか) つきよごれ裂(さけ)綻(ほころび)たれば襤縷(つゞれ)の錦(にしき)つゞ る事(こと)あたはずとて古(ふる)着(き)屋に與(あた)へて一身(いつしん)夕(ゆう) 飯(はん)の代(しろ)に替(かへ)たりける古(ふる)着(き)屋 ■(これ)を洗濯(せんたく)して 化(ばけ)の皮(かわ)を場戯(ばけ)の嘉話(かわ)に張(はり)かへつゝ古(ふる)手(て)返(かへ)しに 翻(かへ)したりけるは戯場(しばゐ)のこんたん華街(ゆうしよ)【ゆうじょ=遊女】のいきま【粋ま=粋であること】 たちまちあいたらぬ浅(あさ)黄 染(そめ)とはなしぬされば もゝんぐわをも模紋画(ももんぐわ)に書(かき)かへ見(み)る人をして化(ばか)さん ことひたすら御免(こめん)を奉願候(ねかひたてまつりそろ) 三蝶述 はけものゝ きんねんす たりしこと 大めうしま しつほう よりもはな はだしく これにては 中〳〵つまら ぬ事也とて 三めぐりへ ちよびと より合を付 はけやうの こんたんま ち〳〵なり これを怪 合【会合の洒落】と いふ くろすけ をはじめ 【左ページへ】 そですり まつさきすき のもりなど ば所はへぬ きのきつね そのほか 所々のきつ ねわれさ きにと あつまり けれ共みこし 入道の一とう は大のそく【賊? 俗?】 なりとて 此よりあい には はふき ける 【中央、屏風の中、台詞】 なんでも こゝへよつた 所でくつとあたらしいあんじ がとかくあろうでごぜへ す アヽねむく成た むさしやへ とりにやろう か 【右ページ下、台詞】 かさぬひで【?】 かいたら をちが こよふ 【左ページ下、台詞】 そんな ともいゝ【そん(れ)等もいい】 だろう 口上 乍憚 人間様方 ̄ヱ申上候此度私 とも 寄合珍らしき化やう存付 御化 ̄シ申候右 ̄ニしるし置申候 直段 ̄ニ一倍まし金拾両 御出 ̄シ被遊候へは弐拾両分化 様奉入御覧候甚御 徳分と奉存候不寄多 少御用被仰付可被下候 尤化様之義御望次第 化そこない何ケ度も 化直 ̄シ入御覧候間御 光駕奉希候 一十弐銅ゟ 一十六銅 一廿四銅 一五拾銅 【左ページへ】 一百銅品々 一弐朱《割書:化やう|品々》 一壱分品々 一弐分 同 一壱両品々 一拾両 同 一廿両 同 一三十両 同 一百両 一千両 其外御誂向遊所 芝居等之化やう随分 工夫仕候間月待日待 きのへ子待御慰 ̄ニ御 用被仰付可被下 月日 あれも 人の子 たるひろい【樽拾い=丁稚奉公】 たのしみたい おどりたいはたれも有 ̄ルやつ にてごよう一生の思ひ でと十二文もちてくる 所はどこともさだめ ねどもきりみせ【切見世】の やうすあちらこちらと そゝるうちゆきかと まがふほつとりものこ いつたまらぬとあがれば みせのわかいしゆがよび にきたりしゆへせんかた なく今にくるからまつ てゐてくださいと内へ かへり用をしまふと またかけ出して行な がら三丁めのあかを 向ふがしのぶちにけしかければ 犬のこゑにてきつねばさば〳〵 五十ぞうを半ぶんかい二十四文のとくをする 【五十蔵は一切り五十文の私娼。それをハーフタイムで買ったので二十四文、一文はたぶんオマケ。おそらく狐は犬に驚いて報酬を取らずに逃げてしまい、五十蔵のあたりからは現実。二十四文で女の子二人分なので得だと言っている】 【下段、台詞】 コウ【こうっと、ええと】 あに さん よつてき ねへ 【左ページ】 おりんどのやど さがりのつゐで に五十はづみけ れば四つもみぢ のかんざしにとび いろびろうどの こしをびのもん づけ見るとふるへ つゑてもん一つ 二十四文つゝのを ゆひわたとます を二つかいひらけ ばほんくじは三つ いてうヱヽくやしい と思へばはなに 出て百とるとは 五十のとく也 きんのかん ざしと 見へしは むまのほね 【下段、台詞】 ホンニゆふべの ゆめに梅川忠 兵へを見 たつけ 【梅川・忠兵衛は江戸時代の情話の登場人物】 【もんづけはさまざまな紋が描かれた紙を使ってする博打】 をりすけ【折助=武家に仕える下僕】 ていの【体の=…のような風体の】 もの廿四 文もちて きたりけ ればざしき のやうす たちまちに 打ちつゞきたる まちのけしきと なりまづ八文 にてゆにいり ぐつと みがいて両ごくを ぶらつきせんぞの ためと一文にてう なぎを一ぴきはなし あさくさへきたり つりの三文であめ をかいくいながらどふ をまはりうらもん からすけんと出【素見=ひやかし】 かけのこう 【左ページ】 十弐文て とうもろ こしのつけ やきを一生 のたのしみ にてよし はらをぶら つくうち日 はくれるはら はへるせんかた なくしやう じきそばの くひにけ はみゝずて なければ 弐十四 もん の と く あんまはりのれうし かた下もみの代をはづ みて十六文出す あとは二ばんめしんけう けん【新狂言】十六文にてひと まくいりし所にぞんじの やくしやのかほも 見へこゝがきつねの とくにてろこう【路考=瀬川菊之丞】と じやく【杜若=岩井半四郎】がうつくしくきに【に、衍字か】 おやだまのきれいな げいを今はじめて見る となればさてもおも しろしとかんるいをな かし思はすふたまく みれば三十弐文わし はめが見へぬからきく ばかり十六文まけ さつしやいとはふ届也 一まくは又とはやすい ものたきつねをばかにした 人をめくらにした 【台詞】 つえの ほうへ 【台詞、左端】 ■きに つまるそ ■しや 〳〵 【同内容の別本 → https://honkoku.org/app/#/transcription/E294C8CFA43937EC381C1C2B9D19351D/8/】 おしよけ【お所化】にたんか【檀家】より ほうじれうになんれう 一ふ【一分】たのまれたるを ちやくぶくしてほう ずにされるきつかいは なしとばかされる 所は仏だな【仏棚?】うなきのにほい にほんのふ心 ̄ンおこりて二百 がかばやきに酒五合かね てねかひのうらつけぞう り【裏付け草履】を四百でかいこれで 二朱はつかいきれとも一分 のたのしみなれば やろうかい【野郎買い】なとに 有べしとてよし丁【芳町】を 一二へんあるけ共一分 のかねで化されははら をたてまゆげをぬら せばきつねははなれてし まいもとの二朱はにきり つめてゐる やはりこれをくすねる故 つごう一分のとくか 【狐は人の眉毛を数えて化かすと言われていて、狐に化かされたくない時は眉毛につばをつけて濡らし、毛がくっついて数えられないようにする。】 はんとう【番頭?】 一分もちて ふか川らし きところへ ゆきいつぱい をしやれの めしてとこへ まはりしに あひかたの 女郎こよう にたつとて あやまつて しりをゝ見 つけられこ いつはきつね なり人を ばかしたは ばかにしたの ひゞきあれ【?】 ばさて〳〵 ふとゞき なるやつ かなとさげ 【左ページへ】 てしまい 外の子 をよびし は二分の とく あいつは さげて しまへ くわい〳〵ご めん〳〵こん どからこん なことはいた します まい 【右ページ下、遊女の台詞】 しつ ぽを 出し たは 大 わ ら いだ しわひ【吝ひ=けちな】やつ弐分 もちてこうまん にしやれるきにて 一分のけいしやを 二人つれこれら【?】 もかんじやうづく にて四■じふん から三めくり【三囲】あ きは【秋葉(神社)】などぶら つきいつもなかたやへ ゆくがけふはてまへたち につきやつてむさしや にしようと 大のこう まんにて きつねに てんじやう を見せんと こゝをせんどゝ【ここを先途と】 のみけれはふね から何から よほどのお ごりにてさて 【左ページへ】 〳〵よいきみ也 二分出して二両 ほとのお□□【ほとのおごり】 はさんそ□【はさんそう】 はいの とく也と 思ひの外 こいつも はけ ものゝ方 によく有 やつ にて にはかに 日をくらし げいしやが ちうやに なり【昼夜になる=昼夜通しの揚げ代をとられる】 二分 そんを して はんふん のとく 【右ページ下、台詞】 あのやかたはおまさんと だれたのこう【?】おま さん〳〵みゝはとこへ 付 ̄ケ て いな はる 【刷りの違う同内容の本→https://honkoku.org/app/#/transcription/E294C8CFA43937EC381C1C2B9D19351D/12/】 くわいりよくらんしんは【怪力乱神は】 大じやうぶのかたらざる所【立派な男が語るものではない】 身ともな【みっともない?】こはいめに【恐い目に】あつた ことがおりない【ない の丁寧語】とてさるおさ むらい百もちてはかされに くる いまや〳〵とまもりいれば いづくともなく大このをと【太鼓の音】 さてこそはけものこさへ【ささへこさへ(障り)?】 なれうすどろ〳〵もふる〳〵【古古】 とこうまんめはりこみ【張込=毒づく】にて いれはうすどろ〳〵とき こへしはすまふ【相撲】の大こ にて中入のちのおも しろいさいちうにしは たにかぜひかしはおの川 もゝてをくたいてとりけれ はさて〳〵おもしろひ ことゝてこふしをにぎり めをふらずみつめて思 はす大小【刀】をはなに【端に】なげ ければさや【鞘】はしりて 二人のひたいへあたり 【左ページへ】 大きにはらをたて いまにもつかみころ さんけしき一世一 代のこわひめにて なにしをふ【名にし負う】ふた りにかゞまり【?】一 しやうけんめい とあやまり やう〳〵のこ とにてかん にんしけ ればゆめの さめたるご とくなり されとも たにかせお の川かたち あひは二百 五十分もの はあるゆへ 一ばいの とく ぶん〳〵 きめんも【極めんも=叱っても?】 ころばぬ やつよ 【刷りの違う同内容の本→ https://honkoku.org/app/#/transcription/E294C8CFA43937EC381C1C2B9D19351D/13/ 】 ゐんきよ らうごの 思ひに一両 おごる 千両富の札 を一両にて かいし所に■ 日あたりて 千両取しゆへ 百両ほうのふ【奉納】 金にして残り 九百両にて きんのむく のあみだを一 たいあつらへ すいしやう【水晶】 のしゆすを一 れんいゝつけ のこり金にて だんなでらへ つりがねを おさめんと 【左ページへ】 思ひしかこれも ふるいやつなれば いつそ大こくな どきしんすべしと よしはらへきたりまつ ばやにてひとつ見 たて手付をうたんと 思ひしがまづかねを もちてかへりばゞァどん にもよろこばせと ちよき【猪牙(船)】にのりてかへり かけてつほうず【鉄砲洲】のおき にてはやてにあい千 両のおもみでは舟はちい さしなみはいるしつみ ます〳〵といふゆへいのち にはかへられずと千両 ばこをうみへほうり【ほかん?】 されどもよしはらにて いのちのせんたく 此おごりばかり も二両かものは 大あり〳〵 女ほうそのこと をきゝておしき ことにおもひてつ ぽうずのをきへす てしせんれうの かねをひろわんと 五十もちてきたり ければ三月のごとく しほはひあかり そここゝとさがせ しがみつからず してはまぐり四 五升ひろこれ も百 ほどの とくを する おく女中五両もちて きたりければよめ入の 口がてき男ふりは門之介 と宗十郎がおもざし 幸四郎と松介がきやんな所に 仲蔵がにがみをくはへた男 千両やしき百ヶ所にしう とはなしどふぞゆきたい といへばおやたちもとく しんにてこんれいの したくにかゝりさき かたを聞て もらへばまづ きがないと はじかれる されどもくし かうがいこそでは いふにおよはずせん とうへ行上田嶋【=上田縞】に さなだをのこまげた【真田緒の駒下駄】 まてできあがりむ すめのとくとぞ なりけり 【台詞】 さきがしんしやにとつしといふ【?】 おとこならとうせう〳〵 を のみ【もみ?】 こゝに おつとめ なさらずはなるまい はなはだのぶ おとこばかさ てなり【?】と心の まゝにあそび たいと思ひ二人 にて五日ぎりの かね十両かりて くる 玉やのくづの は【葛の葉】といふ女郎て なしみしがくづの はもふひとりの 男へも出ると聞て しよて【初手=最初】のやつかん しやくをおこし 向ふの内にて玉 も【玉藻】といふ女郎を かいければたかい はりとやらいじと やらにてもてると なりひら【業平】はむさしのへ はだしでにげひかるげんし はゑんの下へかくれるくらゐ 【左ページへ】 こいつはさて〳〵おも しろいと思へば はや五日のにて やくそくの日切れ しとてきん しゆ【金主】のほうから さいそくにあいかね だか【金高】十両ときゝ せんかたなしおや 〳〵が十両づゝ いだしきんしゆ のかたへ十両かへ してみれば あとに十両 のこる なるほどこ いつはとく な も のだ 【右ページ下、女郎の台詞】 かくし なんすの かくしなんし 【男の台詞】 なんでも なへと いふに よほどよきくらしの町人 ふうふづれにて二十両もち てはかされにくるとは ばかなもの 品川やたひ【屋台=小屋、小さな家】主人も もゝちどり【=大磯通い】とは誠に はなのお江戸ふうふの ものはとうしかご二てう たて江のしまかまくら うらはこねへ とうじして夫 ̄レ よりやまとめぐ りのつもり一日 に六七里づゝの 道にてめいしよ こせきはいふに およばすじんしや 仏かくのこりなくまは りまことにたのしみの さい上品にてならのはた ごやに二日とうりうし 三わの茶屋をひるやす みとして京へ出んと 【左ページへ】 すれどとかく道にま よいてはならへかへり 大坂へ行んとすれは 三わへ出こゝかきつ ねにはかされた所 にてあちらこちら とはい回 ̄ル ほとふら つく内四十両つかいは たしたは二十両の徳 なれどさつはりろ銀 にこまり残の二分 にて舟にのれは 大風おこりて たすけ ぶね 〳〵 と いふ 内に 品 がわげ つく 【左ページ台詞】 たこのあるく ところを 見せ よふ ふくとくやと いへる名たかき かねかし此さた をきゝ毎日 一ばいづゝの りふんはかね をかすより はなはたの とく也その うへねるの下 るの【注】といふ 心つかひの なければとて まいにちせん れう【千両】づゝもつて ゆくかよかろう 手代ばん とうを よびて そうだん する 【注・ねるの下るの。寝るは借金を返さないこと、下る(さがる)は支払いが滞ること】 【右ページ下、台詞】 一日せん りやうの つもりで 一ヶ月三万 れう【両】りが三万両 さいそくなしに かり ませふ 【左ページ】 きつねのかたにても これにははなはだ こまりはて とうとりは つぶれそう なりし かさす かはじん つうをゑたる ものにてかねを かりしものどもへ まくら神にたつ なんちらふくとくやの かねをみやうにち中に くはんりそろへてかへす へしあとかとふもこふ もいけぬといはふかそこ はおいらかのみこんではん じやうさせてやるはソレ よしかうんといへ〳〵 もしかへさぬときはいよ〳〵 びんほうにまもるへし 所々の かりかたへゆめ まくらに立し ことなれば 我も〳〵 とせつなきかねを ぐわんりそろへて もちきたり かへしてにて きせんくん しゆをひたゝ【貴賎群衆おびただしく】 しくふくとく やのもんせん いちをなし まことにふく とくやの 三年 めなり 【福徳神の利益は三年に一度くらいしか来ないという事で、忘れた頃に来る思い掛けない幸運や利益のこと。福徳の百年目ともいう】 かねをかり しもの のこらず かへしけ れはふけの 人〳〵は かぞうりつ しんありて きん〳〵と さかへてう人は【町人は】 しやうはい はんじやう なして すこしの うちのくる しみを きつねの かいた けうげん にて めで たく さかへ ける 【右ページ下、台詞】 今迄ふつ てもはたい てもうご かぬかねが かふよる とはき めうてい らいだ【帰命頂礼だ】 元金 五十両りか二十八両 三匁五分六りん みゝをそろへ てへん上いたす 【左ページ下、台詞】 よほ ど いたい の おゝくのひとを ばかせしかひとつ としてかいに【害に】 ならすそのうへ かねなどもうけ ければいきかたな みやをたて しんきくわんも【?】 とをつた人にて 九郎介のきつねを はしめおふ正しい いなり大つうじんに にんじられめだ たきはるのはつ むま【初午、稲荷の縁日】をむかへしこと めで たし〳〵