大昔化物双紙 完 【以下と内容が同じ本です→ https://honkoku.org/app/#/transcription/0E6BFA83690E76BE9BF12C64824DF76C/1/】 寛政七乙卯春【1795年】 大昔化物双紙 慈悲成作 豊国画 二冊 御ぞんしのゑちごの くにの大にうだう 一子を一つめ小ぞう とてちやうあいし けるに此小ぞう おやにおとらぬばけ ごうしやにてありし かばあまたのばけもの に□たう【にうたう】にいふやう 一つめどのいん■【ま】はあつ はれのばけやう なればにうだうは ゐんきよして世を 一つめにゆすり給へと すゝめけれはにう だうもなかまの すゝめによりて わが一つめをくり ぬき小ぞうに ゆづりわがみは めひとつぼう とあらため 世をのがれて くらしける 【ゑちごの入道の台詞】 小ぞうめに世をはわたしたが あじをやればいゝがむかしと ちがつていまはばけものも だへぶしにくひが 【右ページ、大入道の息子の台詞】 おれがなりは ひらがなの つぢほう ゐん【辻法印】と いふ みだ おやぢはよつほと 人にこはがられた もんだがおれも うまく やりたい もんだ 【左ページ】 一つめ小ぞうは にうだうに世を ゆづられなか〳〵 いまゝでのやふに まるぼんにとふふ【ママ、豆腐】を のせてあめふりにやな ぎのしたからもゝん じいとやらかすよふな まだるいことをしては 大にうだうのかぶが すたるとかのどうじ がうし【童子格子】の大どてらを こしらへてつのぼうを よた〳〵とついてしよ こくばけしゆぎやうと でかけける 【右ページ台詞】 よく〳〵 はからへ 〳〵 ずいぶん ばけなかまで はなのひしやげぬ やふにするかいゝ かつてんか 〳〵 【左ページ上、本文】 たんばの山おくに ひゝといふもの ありてよく人を なやまししゝ【ここでは猪】おゝ かめ【狼】をとりくらひ 山をあらしけれは さと人これがために なやまぬものなし たんばのくにのばけ ものだいしやうといふ しかるにひゝがいつしを 山わらう【山わろう=やまわろ】といへりされ ども山わらうはばけもの だいしやうとなるべきはたらき なければひゝせんかたなく みこしにうだうといへるものを こぶんにたのみ申けるは此たび ゑちごのくに大にうだうがせがれ 一つめ小ぞう世をとつていまにう たうといゑりかればけしゆぎやうに いでたるよしきゝなればなんぢかの いまにうだうとみるならばひつとらへ はなをひしぎくれよとみこしびうだうに いゝわたしける 【左ページ、台詞など】 山わらは へこんでゐる なにさおめへさん まだ一つめ ぐらゐの 小ぞうが 此みこしに あつておた まりが あるもの     か 【おたまりがあるものか=たえられるわけがない=ひとたまりもない】 こゝにばけものさと とてあまたの ばけものうつゝを ぬかすくるはあり なかにも なかくびやの おろく おゝさむやの ゆきの夜 とてそのころ なだいのぜん せいありけり 【台詞】 おゝしやうし【笑止=おかしい、馬鹿馬鹿しい】 【左ページ】 此くるはのすけん【素見=ひやかし】 たるもろこしの ばけもの すいくはのばけもの そゝりうた【そそり歌】で でかける 【ひやかし客の台詞】 とんだ うつくしい もんだ コウ【ヨウ?】たうもろや これからちつと もゝんぢいよこ丁を ひやかそふじやァ ねへか 【遊女を先導するちょうちんの台詞】 おろくさん あんまり おのびな さへすな 人ごみで かんざしが あぶなひ ぞへ いまにうだう【今入道】 つく〳〵と おもひけるは ばけのさとは おふくの【多くの】ばけ ものゝゐりこむ ところなれば 此さとにいり こみばけしゆ ぎやうせんと まいや〳〵 かよひけるが 此ごろの つきだし しんやの 毛(け)女郎と ふかくなれ そめける 【右ページ下、台詞】 此ところ だんまりに しておくべい 【左ページ】 ひゝがやうしの【狒狒が養子の】 みこしにうだうは 毛女郎がつき だしのそのひ よりいろ〳〵 こゝろをつくし てにいれんと しけれども いつかうとく しんなければ【一向得心なければ】 いかなるわけ やらんとおもい けるに毛女郎は いまにうだうと ふかくなじみて うまきなかときゝて きもをつぶし毛女郎□【を】 今にうだうにとられては やしなひおやし【養ひ親父】たるひゝに いゝわけたゝずなにとぞして 毛女郎をわがてにゐれいまにう たうのはなをひしがんと心を いたむるおりから【折りから】くるは【郭】にてゆきあひさや あてしてついに毛女郎のもらひひき【貰い引き】になる 【左ページ下、台詞】 おれも だんまりで いべい 【だんまり=歌舞伎の暗闇のシーンなどで、台詞を使わず誇張された動作だけで表現すること。】 かくて ふたりの にうだう たがひに 毛女郎を もらう ならんの いゝづく より かたなに かけてと ぬきつれて たゝかふところへ しんやの毛女郎 かけきたりふたりの かたなをおさめさせ ひとまづしんやの にかいへつれゆく 【今入道の台詞】 われから ひけ 【見越し入道の台詞】 われから引 【左ページ毛女郎の台詞】 にうだうさん うたがひが それたはい のふ 【本文】 今にうだう 毛女郎へ しんぢうに かた〳〵の めをくり ぬいてやる いたい〳〵 めいたびらめと きてゐる 【目が痛いのと、目板鮃という魚をかけた駄洒落。江戸時代中期にはヒラメとカレイを明確には呼び分けていなかったので、メイタビラメは今でいうメイタガレイの事だと思われる。】 【前のコマを見ると今入道は越後の一つ目小僧のことを言っているが、挿し絵で目をくりぬかれている入道には長い首があり、見越し入道に見える。ただし着物の柄は一つ目小僧のもの。】 【次のコマでは狒狒が「親から貰った片目を女に与えるとは」と言っているので、やはり目を抜かれたのは一つ目小僧でなくてはならない。】 【丹波の狒狒の台詞】 ヤイ小ぞう いかにとしか ゆかぬ とて おやの ゆづりし ひとつの めを毛女郎のためにくり ぬきなにをもつてばけものゝ大 しやうとなるぞ此上は入道とはよばぬ やつはりもとの一つめ小ぞうだ〳〵〳〵と あくこう【悪口】する 【右ページ下】 ひゝ一首歌 〽ばけおふき ばけが中にも ばけぞあり ばけになれ     ばけ ばけに   なれ   ばけ 【右ページ上、本文】 みこしにうだうは いまにうだうにおゝきに 【左ページへ】 へこまされ しかばおやぶんの ひゝ大きにはらを たちとしよつての さとがよひはあまり でかさぬ事ながら みこしがはぢをすゝ がんとしんやの毛女郎を あげぞめにしておく いまにうだう ひゝにみつけられ いろ〳〵あつかう【悪口】        され むねんがる 【左ページ下、毛女郎の台詞】 で まい ぞ 〳〵 てゝは ならぬ はい のふ 【妖怪たちの台詞】 はやく どこぞへ いつて こどもでも おどかせやい きり〳〵 きへて しまへ 〳〵 うぬがざまを みをれやつはり もとの ちよろけん 小ぞう【注一】た ホンニ どじめ かん ねん ぶつ【寒念仏=物乞い】 だ 【注一、 福禄寿の張りぼてを着た子供の見せ物】 あみだの ひかりに あたつた よふな ざまた 【右ページ左上、本文】 なさけなや いまにうだうは ひゝかはからひにて たけのこがさを 【左ページへ】 かぶせられまるぼんにとうふをのせて てにもたせくるはのわかいものに いゝつけばけのさと でぐちの やなぎの したへ おひ いだ され ける 【今入道の台詞など】 いまいちど 毛女郎にあはせて くだされなさけ 女郎だと しやれる いまにうだう ひゝにあつかう さればけものゝ くらゐをくるは よりおいさげ られし事を おやのふる にうだう ひそかにきゝ □【こ】ゆへのやみに ゑちごのく□【に】を いでゝせがれが ありかをたづね さまよひける おりから毛女 郎はいまにう だうがあとを したひくるはを かけおちして ふたりしな んとかくごの ところへふる にうだう ゆきあひ 【左ページへ】 ばけもの だけにこは ゐけんも よくきく 此ところ じやう るりと いふば なれども そんな きの きいた ばけ物 にては なし ずんど むかしの 事ゆへ たじ ひと とをり なり 【右ページ下、古入道の台詞】 いまにうだうやァい 毛女郎やァい ハッアノ ひとこへは かつはち【注一】 にうだう【入道】 ほとゝぎすか ハア そふじや 〳〵 【左ページ下、毛女郎の台詞】 こちの人ばけめに かゝらぬうち はやくしに たいはい のふ 【今入道の台詞】 そなたはながらへ わがばけあとを とふてたべ 【注一、加牟波理入道という便所に出る妖怪がいて「かんはり入道ほととぎす」と言えばこれに出会わないと言われている。その俗信にかけた言葉であろう。】  【毛女郎の台詞】 こちの人 にうだうどの あつぱれ〳〵と ほめてもみるめが ないやつさ 【古入道の台詞】 ヲヽ〳〵 そふだぞ〳〵 もつと もゝんぢイ引と【長音記号の表現か?】 ながァくひつぱれ 〳〵〳〵 【右ページ左上、本文】 子にはめのない おやこゝろとふる 【左ページへ】 にうだうなにとぞ せがれをばけもの だいしやうに したく思ひ あとにのこ りし たつ た ひとつの めをまた くりぬきて せがれにやり ければ毛女郎の これぞふうふの片目(かため) なりとてはじめもらひしめをくりぬきいま にうだうにわたしければいまはあつはれめいよの ばけものだいしやうゑちごのくにの三つめにうたう とてはけものなかまおそれをなしけるとぞ 酒田(さかた)の金時(きんとき)は ばけものたいぢ せんとてくすね してまちけるが 三つ目にうだうは いまだじやくねんの ことなればまた〳〵 おりもあらんと きんときは ゆうぜんとして めでたき はるを むかへける うた川 画【歌川豊国】 桜川慈悲成 作【櫻川慈悲成】