【表紙】 【管理タグ】 JAPONAIS 389 1517 III F 【管理番号等】 No 2739 389 Oura-Sima  うらしま むかしたんごのくにゝ。うらしまといふもの はんべりしに。そのこにうらしまらたう と申て。としのよはひ二十四五のおのこ あり。あけくれうみのうろくづをとりて 。ちゝはゝをやしなひけるか。あるときつり をせんとていでにけり。うら〳〵しま〳〵 いりえ〳〵。いたらぬところもなく。つり をし。かいをひろひみるめをかりなどし けるが。ゑじまがいそといふところにて。か めをひとつつりあげけり。うらしまた 【欄外・管理番号?】 No 2739 らう。此かめにいふやう。なんぢしやうあ るものゝなかにも。つるは千(せん)ねんかめはまん ねんとて。いのちひさしきものなり。たちま ちこゝにていのちをたゝん事。いたはしけ ればたすくるなり。つねには此おんをお もひいたすへしとて。此かめをもとのう みにそかへしける かくてうらしまたらう。その日はくれ てかへりぬ。又つぐの日。うらのかたへいでゝ つりをせんとおもひ。みければ。はるかの かいしやうにせうせん一そううかへり あやしみやすらひみれはうつくしき女 はうたゞひとりなみにゆられてしだひ にたらうがたちたるところへつきにけり たらう申けるは御身いかなる人にてまし ませはかゝるおそろしきかいしやうに たゞ一にんのりて御いり候やらんと申 ければ女ばういひけるはさればさるかた へびんせん申て候へば折ふしなみ風あ らくして人あまたうみの中へはねい れられしをなさけある人ありてみづ からをはこのはしふねにのせてはな されけりかなしくおもひおにのしまへ やゆかんとゆきがたしらぬ折ふしたゞい ま人にあひまいらせさふらふ事このよ ならぬ御ゑんにてこそ候へさればとくおほ かめも人をゑんとこそしさふらへとてさ め〳〵となきにけりうらしまたらうも さすがいは木にあらさればあはれとおも ひつなをとりてひきよせにけりさて女 はう申けるはあはれわれらをほんごくへ をくらせたまひてたひ候へかしこれにて すてられまいらせばわらはゝいづくへ なにとなりさふらふへきすてたまひ 候はゝかいしやうにての物おもひもおなし 事にてこそ候はめとかきくどきさめ〳〵 となきけれはうらしまたらうもあはれ とおもひおなじふねにのりおきのかたへ こぎいだすかの女はうのをしへにしたが ひてはるか十日あまりのふなぢをを くりふるさとへそつきにけるさてふね よりあがりいかなるところやらんとおもへは しろかねのついぢをつきてこがねのいら かをならべもんをたていかならんてんじやう のすまゐもこれにはいかでまさるへき このにう【「によう」の「よ」の脱落か】はうのすみところことばにもを よばれすなか〳〵申もをろかなりさて 女はうの申けるは一じゆのかげにやどり 一がのながれをくむ事もみなこれたし やうのゑんそかしましてやはるかのなみ ぢをはる〳〵をくらせたまふ事ひとへ にたしやうのゑんなればなにかはくるし かるべきわらはとふうふのちぎりをもな したまひておなじところにてあかし くらし候はんやとこま〳〵とかたりける うらしまたらう申けるはともかくもおほせ にしたがふへしとそ申ける さてはかいらうとうけつのかたらひもあ さからすてんにあらはひよくのとりち にあらはれんりのえだとならんとたが ひにえんわうのちきりあさからずし てあかしくらさせたまふさて女はう 申けるはこれはりうぐうじやうとてた のしみふかきところなり四ほうに四 きのさうもくをあらはせりみせ申さ むとてひきぐしていでにけりまづ ひがしおもてを見ければはるのけしきと うち見えてむめやさくらのさきみだ れやなきのいともはるかせになびきかす みのうちよりもうくひすのねののきち かくいづれのこすゑもはななれやみなみお もてを見てあればなつのけしきとみえわ たりはるをへだつるかきほにはうのはなや まづさきぬらんいけのはちすはつゆかけ てみぎはすゞしきさゞなみにみづとり あまたあそびけり木ゞのこすゑもし げりつゝそらになきぬるせみのこゑゆふ だちすぐるくもまよりこゑたてとをる ほとゝきすなきてなつをやしらせけん にしはあきとうち見えてよものこすゑ ももみぢしてませのうちなるしらきく やきりたちこむるのべのすへまはきがつ ゆをわけ〳〵てこゑものすきしかのねにあ きとのみこそしられけりさて又きたを なかむれはふゆのけしきとうち見えて よものこすゑもふゆかれてかればに おけるはつしもや山〳〵はたゞしろたへの ゆきにむもるゝたにの戸にこゝろほそ くもすみかまのけふりにしるきしつがわ ざふゆとしらするけしきかなかくて おもしろき事ともにこゝろをなぐさみ ゑいぐわにほこりとしつきをふるほどに 三とせになるはほともなしうらしまた らう申けるはわれに三十日のいとま をたひ候へかしふるさとのちゝはゝを見 すてかりそめにいてゝみとせをおくり候へ はちゝはゝの御事をこゝろもとなくぞ むじ候あひたてまつりてこゝろやすく まいり候はんと申ければ女はうおほせ けるは三とせかほどはえんわうのふすま のしたにひよくのちぎりをなしかたとき 見えさせたまはぬさへとやあらんかくや あらんとこゝろをつくし申せしにいま わかれなば又いつの世にかあひまいらせ候 はんや二世のゑんと申せはたとひこの よにてこそゆめまぼろしのちぎりにてさ ふらふともかならすらいせにてはひとつ はちすのえんとむまれさせおはしまし 候へとてさめ〳〵となきたまひけりまた やゝありて女はう申けるはいまはなにをか つゝみさふらふへきみづからは此りうぐう じやうのかめにて候がゑじまがいそにて御 身にいのちをたすけられまいらせて候 その御をんほうじ申さんとてかくふう ふとはなりまいらせて候又これはみづからが かたみに御らんじ候へとてひだりのわき よりいつくしきはこをひとつとりいだし あひかまへてこのはこをあけさせたまふ なとてわたしけりゑしやぢやうりの ならひとてあふものにはかならすわかるゝ とはしりなからとめかたくて一しゆ  日かすへてかきねしよはのたびころも  たちわかれつゝいつかきて見ん   うらしまかへし  わかれゆくうはのそらなるから衣   ちきりふかくはまたもきて見ん さてうらしまたらうはたがひになごり をおしみつゝかくて有へき事ならねは かたみのはこをとりもちてふるさとへこそ かへりけれわすれもやらぬこしかたゆくす ゑの事ともおもひつゝけてはるかのなみ ぢをかへるとてうらしまたらうかくなん  かりそめにちきりし人のおもかけを   わすれもやらぬ身をいかゞせん さてうらしまはふるさとへかへり見てあれ ばしんせきたえてとらふすのべとなり にけりうらしまこれを見てこはいか なる事やらんとおもひあるかたはらを 見れはしはのいほりのありけるにたち よりものいはんといひけれはうちより 八十はかりのおきないてあひたれにてわ たり候そと申せはうらしま申けるは此 ところにうらしまのゆくゑは候はぬか といひけれはおきな申やういかなる人 にて候へばうらしまのゆくゑをは御た つね候やらんふしぎにこそ候へそのうら しまとやらんはや七百ねんいぜんの事 と申つたへ候とかたりけれはたらうお ほきにさはぎこはそもいかなる事ぞと てそのいはれをありのまゝにかたりけ れはおきなもふしきのおもひをなし なみたをながし申けるはあれにみえて 候ふるきつかふるきせきたうこそその 人のびやうしよと申つたへて候へとて ゆびをさしてをしへけりたらうはなく 〳〵くさふかくつゆしげきのへをわけ ふるきつかにまいりなみたをなかし一 しゆかくなん  かりそめにいでにしあとをきてみれは   とらふすのへとなるそかなしき さてうらしまたらうは一もとの まつのこかげにたちよりてあきれは てゝそゐたりける太郎おもふやうかめ があたへしかたみのはこあひかまへて あけさせ給ふなといひけれともいまはな にかせんあけて見はやとおもひみるこ そくやしかりけれ此はこをあけて みれば中よりむらさきのくも三すぢ のほりけりこれをみれば二十四五の よはひもかはりはてゝあはれなり さてうらしまはつるになりてこ くうにとびのほりけるそも〳〵 このうらしまがとしをかめがはから ひとしてはこの中にたゝみいれに けりさてこそ七百ねんのよはひをた もちけるあけて見るなとありしを あけにけるこそよしなけれ  君にあふよはうらしまがたまてばこ   あけてくやしきわかなみたかな とうたにもよまれてこそ候へ。し やうあるもの。いづれもなさけをし らすといふ事なしいはんやにんげん におゐてをやおんを見ておんをしらぬ はぼくせきにたとへたりなさけふか きふうふは二せのちぎりと申がまこ とにありかたき事ともかなうらしまた らうはつるになりほうらいの山にあひ をなすかめはかうに三せきのいはゐ をそなへよろづ代をへしとなり さてこそめてたきためしにもつる かめをこそ申候へたゞ人はなさ けあれなさけある人はゆくすゑめで たきよし申つたへたりそののち うらしまたらうはたんごのくにゝ うらしまのみやうしんとあらはれし ゆしやうさいど【「衆生済度」=人々を迷いから救い、悟りを得させること】したまへりかめもおな しところにかみとあらはれふうふ のみやうしんとなりたまふめで たかりけるためしなり 承應弐年 【裏表紙裏】 【白紙】 【裏表紙】