(表題)            本所区相生町五丁目五番地                著作兼画工  大森清風 明治二十四年各地震災之実況                 下谷区御徒町壱丁目十一番地                印刷兼発行者 依田周右衛門 震災(しんさい)は天変(てんへん)と云ながら今を去る事四十五年 前(せん)弘化(こうか)四未の三月 信州(しんしう)善光(ぜんくわう) 寺(じ)大に震(しん)す尚(なほ)三十七年前 安政(あんせい)二卯の十月二日 関東(くはんたう)の地(ち)大に震(ふる)ひ死(し)する者 少(すく)なからず恰(あたか)も今回(こんと)の大 地震(なへ)は前代未聞(ぜんだいみもん)の震災(しんさい)は明治廿四年十月廿八日 早朝(あさ)の大地震(たいちしん)は府下(ふか)にては左程のこともなかりしも岐阜(ぎふ)大垣(おほがき)名古屋(なごや)地方(ちほう) 非常(ひせう)に甚(はなは)だし今 聞得(きゝゑ)たる所を記(しる)するに濃(のふ)州 大垣(おほがき)岐阜辺(ぎふへん)は今般(こんぱん)大地震(おほちしん) の中心点(ちうしんてん)なるが如(ごと)く思(おも)はるれども何分同地よりは 何等(なんら)の通知(つうち)なき為(た)め知(し)るを 得(え)す京都(きうと)よりの報(ほう)によれば大坂 岐阜(ぎふ)は大地震の為(た)め全市(ぜんし)全焼(せんじう)せり午前(ごぜん) 六時大地震名古屋市 死傷(ししよう)多(おほ)く出火(かじ)あり郡部(こふりのぶ)同じ全県(ぜんけん)接続地(せつぞくち)は死人(しにん) 二百名|倒家(たほれや)五十|戸(こ)岐阜県笠松(ぎふけんかさまつ)猶夥(なほおほ)し又名古屋市 始(はし)め近郡(きんこふ)人畜死(じんちくし) 傷(しやう)倒家幷に火事(かし)夥(おほ)し名古屋|監獄(かんごく)在監囚人(ざいかんしうじん)負傷(ふしやう)七十三名 死人(しにん)三十 一名 倒家(たをれや)七棟(なゝむね)其他 建物(たてもの)大破(たいは)なり看守(かんしゆ)二名女 監取締(かんとりしまり)一名 押丁(おしてい)二名 負傷(けが) せり囚人(しうしん)二名 所在(しよさい)分(わか)らす倒家(たをれや)四 棟(むね)其外(そのほか)何(いつ)れも大 破(は)なり有名(いうめい)なる名古(なこ) 屋 電信局(でんしんきよく)秋琴楼(しうきんろう)共に倒(たほ)れ其他倒家|人畜(じんちく)死傷(けか)数知(かづし)れず又|長良川(ながらがは)の 橋桁(はしげた)は落(おち)し殊(こと)に名古屋より東京に向ひて発(はつ)したる午前六時四十分の 列車(れつしや)と岐阜(ぎふ)発(はつ)の神戸行(かうべゆき)午前七時四十三分の列車(れつしや)と恰(あたか)も地震(ししん)のあり し頃(ころ)なるが所在(しよざい)不|分明(ふんめい)なりと云(い)へり大坂よりの報(ほう)によれば同地震災(どうじしんさい)の被害(ひがい) は死亡(しぼう)二十一名に負傷(けが)者(にん)九十三人会 社工場(しやかうぜう)全潰(まつたくつぶれ)一棟|半潰(はんつぶれ)一 軒(けん)破損一軒(はそんいつけん)家屋(いへ) 全潰(ぜんつぶれ)十四棟半 潰(つぶれ)五軒 破損(はそん)六十 軒(けん)納(な)屋 土蔵(どぞう)全潰(ぜんつぶれ)六 軒(けん)|難波紡績会社(なんばぼうせきかいしや)の死(し) 傷(せう)十四人|負傷(けが)二十五名なり又九 条(じやう)村しきわ会社にも負傷(けが)あり其他の被害(ひかい) 一方ならず各地の震災は神戸市街は勿論居留地家屋の被害夥し和歌山今 朝七時三十分大地震あり震動強烈(しんどうきやうれつ)にして且(かつ)長(なか)し徳島(とくしま)高知(かうち)も又大に震(しん)す 福井の震災(しんさい)は殊(こと)に甚(はなはだ)しく福井市の分(ぶん)人(じん)家|全潰(せんつぶれ)八十六戸 半潰(はんつぶれ)四十九 戸(こ)土(ど) 蔵全潰(ざうせんつぶれ)二十六|半潰(はんつぶれ)三十六 官衙(くはんが)学校(かつこう)同|付属建物(ふそくたてもの)破 損(そん)十ヶ所圧死(あつし)一人|負傷(けが) 二十二人|其他(そのた)足羽(あしは)吉田二郡の福井に近(ちか)き所 被害(ひがい)多く 若狭地方(わかさちほう)一時|電信不通(でんしんふつう) なり時々の震動あり滋賀県長浜にて倒家十七半倒家二十一即死三人負傷 三十一人 近(きん) 郡(こおり)の破害(はがい)少からず名古屋市にて潰(つぶれ)家 数(かす)知(し)れず圧死(あつし)者千人以上に 及(およ)び 負傷者(けがにん)も夥(おほ)し桑名(くはな)にても潰家(つぶれや)多(おゝ)く大坂は各工場(かくかうじやう)非常(ひせう)の損害(そんがい)を蒙(かふむ)り煙(ゑん) 筒(たう)は大抵(たいてい)倒れたり又福井は地面の破裂(はれつ)したる部分(ぶゝん)多く但馬(たしま)の豊岡(とよおか)は六寸程の横(をう) 動揺(どうよふ)を為(な)し家屋(いへや)の破損(はそん)少(すく)なからず各(かく)地とも煉瓦(れんくは)家屋 損害(そんがい)を蒙(かふむ)りし其惨状(そのさんせう)見(み)る にしのびず猶(なほ)画様(ゑよう)に譲(ゆづ)りて筆(ふで)をさしをく  明治廿四年十一月一日印刷  同年同月二日出版