化物和本草 【ばけものやまとほんぞう】 【刷りの違うものがこちらにあります→https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01961_0070/index.html】 寛政十 京伝作 北斎可侯画【葛飾北斎】 上中下之上     三冊 やまと本草 獅子身中蟲(しゝしんぢうのむし) 《割書:加古川本草(かこがわほんざう)|/綱目(かうもく)に曰(いはく)》 しゝしんぢうのむしといふはかしらはつりどうろうのことく はねはくものすのごとくしりおはふみのごとし つねにゑんの下にすまいをなしたこざかなを ゑじきとなしそのこゑ ゆらどの〳〵となくあるひと かんざしをしゆりけんにうつて このむしをころしかも川【加茂川=鴨川】へ ながしたるとなりもつとも あかいわし【赤鰯=錆びた刀】をきらふむしなり いつたいこのむしは そのいゑにしやうじ そのいゑのろくを はんでそのいゑを ほろぼさんと はかるいたつて ふぎふぜんを このむなり にくむべく おそるべきむしなり 忠臣蔵 七段目に つまびらかなり いまここに りやくす【略す】 【右ページ下】 〽ゆふべのゆめみが わるかつた にげろ 〳〵 【右ページ中ほど】 〽あのやつこ【奴】はしやうぶかはの きものをきているから てらおか平右ゑ門【注】かと おもつてひつくりした 【左ページ】 のふこはや おそろしや 【注: 文中に見える「仮名手本忠臣蔵/七段目」に由来。赤穂藩に仕えていた足軽で、一力茶屋の遊女・お軽(おかる)の兄。獅子身中の虫は斧九太夫 (おの くだゆう)を指す】 平気蟹(へいきがに) 《割書:大(だい)の平記物語(へいきものがたり)に|      曰(いはく)》 へいきがにといふはそのむかし 寿永(じゆゑい)のみだれに平家(へいけ)の いちもん西海(さいかい)のなみにしづみ 男子(なんし)の一ねんはへいけがにとなり 女子(によし)の一ねんはへいきがにとなる かうらはおんなのかほのごとく はさみはひらもとい【平元結い】ににてあしは べつかうのかんざしのごとしめは わげゆわひ【髷結わい?】ににたりやまのくづるゝ■■【出る?】やうな ことありてもへいきなるゆへかくは            なづくるなり とかくひとに さからふかにゝて ものごとよこに ばかりあゆむなり うたがいふかく むねのうちに つるぎをかくし りんきしつと【悋気・嫉妬】 のこゝろおゝく ややもすれば 男蟹(おがに)をしりに しきたがるかに なりそのゆへに りやうしもおそれ【綴じ目に隠れている。別本にておぎなう】 【左ページ】 てちか□□□【て、近ずかず】 といふおそれ つゝしむ べきかになり 【左端】 〽またひるめし まへじやからはらが【腹が】 へこついて【ぺこついて】 にげにくいぞ 【左ページ下】 わしが いのちは とふぞ なかく して くだ され かかさま はやくにけ【早く逃げ】 さつしやれ 歌舞伎(かぶき)三階(さんかい)図会(づゑ)に曰(いわく) にんめんのなまづは【人面の鯰は】いちやう【一陽】 らいふく【来復】のときやうき【陽気】はしめて【初めて】はつするのころ しばゐへあらはれ【芝居へ現れ】くけあらに【公家荒(悪役)に】くみして【与して】さま〴〵 ふぜん【不善】をなしじつ事し【実事師=善人役】のためには はなはだとくき【毒気】になり もしこのうを【魚】のどくきに あたりたるときは團十郎もぐさを したゝかにすへべし たちどころにとくをけすなり またこのうをのほねを たてたるときしばらく〳〵と 三べんとなへてのどを なでべしきみやうに ぬけるなり いやはや とほうもなき    どくぎよ       なり ぢしんのなまずは まんざいらく〳〵と いへともこのなまづは しばらく〳〵と いへばたちまち      にけるなり 【挿し絵中の枠内】 人面(にんめん)の鯰(なまづ) 【左ページ】 〽とらまへたら       よい みせもので    あろふ これを   しつたら ひやうたん【注】を もつて   くれば  よかつた 【注 鯰を捕えるための瓢箪。古来知られた禅の画題「瓢鮎図」を踏まえた洒落】 どぶから蛇(じや) このじやはまいねん六月 朔日ふじまつりのこち しよ〳〵のどふ【どぶ=溝】のなか よりあらはれしじやなり まなこはしんちうの びやうのごとく したとしりをのけん【舌と尻尾の剣】 とはむめづけ【梅漬け】のことく あかしそうみは むぎわらのやうに こがねいろにひかる あしはなけれど        も よくなにゝても まきつくなり 大きなるもあり ちいさなるも      あり こわくも なんとも なき 蛇(じや)なり 【左ページへ】 じやが【蛇が】   曰【いわく】 お女中 いつ  しよ    に ゆかふ また  しやれ【待たしゃれ】 わし  蛇(じや)   〳〵 【右ページ下、女の台詞】 のふこわや   たすけて      たべ 小ぞうが曰く みちがぬかつて ねからしや     から【蛇から】    にげ    られね 【刷りの違う同内容の本→ https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01961_0070/index.html 】 爪(つめ)の火(ひ) つめのひといふはとんよく おゝき【多き】ものゝおんねん也 これいつしやう【一生】てんとうに【天道に】 そむきたるり【利】をむさぼり ふじやうのみしてみをくるしめおゝくの かねをたくはゑてしゝたるひとこくあん ぢごく【黒闇地獄】におちてとんよくのくらやみ にまよひかくのごとくつめにひを ともしてしやばに       のこしおきたるかねを       さがしもとめんと              するなり           あさましき              ことならずや おそろしい しうねんじや 【左ページ】 温飩(うどん)げの花(はな) 温飩(うどん)げのはなは三千ねんに ひとたびはなひらくといふ かの優曇華(うどんげ)のごとく せかいにまれなるもの にはあらねどあぢわひ びなるはすくなしこの はなもとひもかわの【ひもかわうどん】 ほとりに せうじはは【葉は】 きりむぎの ごとくはながつ をのごときはな さきこしやうに ににたるみをむすぶといふ うどんげの はなまちゑたると そがきやうだいが【曽我兄弟が】 せりふは このはなの ことなり 【注】 めづらしいはなでござるこの はちうゑをもつてもよりよきところへ けんどんみせ【うどんの屋台】がだしたい 【注 仇に巡り合うことの難しさを表した曽我物語の仇討ち口上「盲亀の浮木、優曇華の、花待ちえたる本日ただ今。艱難辛苦の甲斐あって、仇見る今日の嬉しさよ」に由来】 四四しんちうの鼡(ねつみ) 《割書:一名ねづみや|     ばり》 でんそはけしてうづらとなり【注壱】 このしんちうのねづみけして あめとなるときはおいをやしなひ またつりがねとへんじかなぶつ【金仏】と けするときはぼだいのたね【菩提の種】とも なるつねにたばこのはをゑじきとし くちよりけぶりをはく ひとりゐのつれ〴〵をなぐさめ たびぢのうさをはらし きやくのもてなしともなる のうあつて はなはだしき どくはなき ねづみなり しんちう 〳〵と なくこゑ 四ゝ十六づゝ【づつ】 なくゆへ 四ゝしんちうの ねづみと なづく 【左ページ】 もしこのねづみのやにの どくにあたりゑいたる【酔いたる】 ときはさとうゆを のむへしたちまち ぢす【治す】またへびに さゝれたるとき このねづみのやにを つくれはその どくをさる まむしにさゝれ たるにもよしこれは きつとした しよもつにいてゝ【きっとした書物に出て】 たしかなること なれば ひとのために こゝに しるす 〽てつそ【注弐】といふは きいたが しんちうのねづみとは はてめづらしい はて かはつた ねづみじや 【右ページ下】 てつでは ござらぬ しんちう 〳〵〳〵 〳〵 【注壱 田鼠化して鶉と為る: 七十二候のひとつ・春の季語。田鼠はもぐら、またはクマネズミの仲間とされる】 【注弐 鉄鼠: 延暦寺の経典を食い荒らしたといわれる悪僧の怨念の化身】 金(かね)のなる木(き) かねのなるきはよのなかに たへてなきものゝやうにおもへども さにあらずみなにん〳〵の【人人の?】 いへ〳〵にありてそのたねをしよぢ【所持】 すれどもかぎやう【家業】におこたりつとむる ことおろそかなるがゆへにしんだい のぢめんあれちとなり もとでのはたけこやし すけなくたねをまきても はなさきみのることなし おゝいなるふうきは てんにあれとも 小なるふうきはつとむるに ありそれ〳〵のすぎはひに おこたらざるときは あにかねのなるきならんや かねのなるきはいかなる ものぞといふにまづ あきびとのいゑの かねのなるきは はなはしんのぞうの かたちのごとくはは【葉は】 ふてうがみ【符丁紙】のごとくみは そろばんのたまのごとし 【左ページ】 しよくにんのかねのなるきは はなはかんなくずのごとく ははこてににたり のみのごときみをむすぶ ひやくせうのかねのなるきは はなはさをとめのかさのごとく ははすきくわにして【葉は鋤・鍬にして】 ごゝくのみのりあり さむらいのかねの なるきははなはまとの【的の】 ごとくははぼくとうの ごとくやのごとしてつぽう だまのやうなるみをむすぶ 士農工商(しのうこうせう)みな それ〳〵にかぎやうの【家業の】 田畠(たはた)をたがやして かねのなるきをたくわへ たまへかてんか〳〵【合点か、合点か】 これほどの どうりは三つごも【三つ子も】 しることなれども いわれてみねば おこたりあり   わがかうしやくを【講釈を】    わらうひとあらば      わらひ給へ 【左ページ下】 ごども【ママ】しづかに してごかう しゃくを きけ【ご講釈を聞け】 なるほど ごもつとも なごかうしやく【ごもっともなご講釈】 かねのなる きはわれ 〳〵が【われわれが】 いゑに ござる 【金の成る木の鉢】 在_レ ̄リ務 ̄ニ 利欲(りよく)の鳥(とり) りよくのとりはふぎの とみをねがいつねに うかべるくものうへに まひあそび かしらふたつあつて ふたごゝろあり いつわりのみおゝく ひとをまどわすとりなり このとりは このしやば【娑婆】にあつて じひぜんごんの こゝろいさゝかも なくわがみに とくのつくこと あればひとの なんぎにおよふ ことをわきまへず 不義(ふぎ)不仁(ふしん)【ふじん】の きん〴〵を【きんぎんを】 むさぼりため いつしやうを うざいがき【有財餓鬼=守銭奴】のくはたくに【火宅に】 くるしみ たる事をしらぬ がうよくのひと しゝてのちそのこんぱく【魂魄】 【左ページ】 高利(かうり)のぢごくへおち このとりとけして【化して】 ちうう【宙宇 or 中有】に まよひくるしむ なりひとたる ものおそれ つゝしむべし このとりに ならぬやうに こゝろがけ たまへ 【右ページ中ほど】 〽はてめつらしい とりがとふ ぞへ【鳥が飛ぶぞえ】 【左ページ下】 〽はてめつらしいとりじや つかまへてみせものに だしたら十二文の ちゃだいはおさへた ものじや    というが    これが    すなはち    りよくの    とりなり 奴(やつこ)のひぼし ひとはとかくことなる ものをたつとみにち用の ものをいやしむみやこの ひとむきめし【麦飯】をたつとみ こめのめしをめづらしがらぬ たぐいなりさればなかむかし【中昔】 ゐこくのちんぶつ【異国の珍物】を このむひとあつて おら■【し?】んだじんのしりを【和蘭陀とおら死んだの洒落?】 あらふつぼへはなをいけて たのしみしをながさきの ひとみてわらひしと いふはなしもあり こゝにもろこしをさる事 万八りひかしの かいちうに 春風(しゆんふう)紙鳶国(しゑんこく)と【紙鳶は凧の古名】 いふくにありむかし このくにへやつこたこの【奴凧の】 いときれてとび かぜにしたがつてこのくにへ おちたればこのくにのひと やつこのひぼしなりとて めづらしがりつゐに 【左ページ】 大わう【大王】へけん上 したるよしゐこくの ちんぶつにせんきんを ついやすひと またかやうの まちがいあるべし にち用の しなこそ とふと けれ【尊けれ】 【右ページ 下段】 〽びろうながらわたくしのたくの せつゐんのわき【雪隠の脇=便所の横】むめ【梅】のきの ゑだにかゝつておりました 〽あまりめづらしき ものゆへ だいわうへ けん上つかまつります 【左ページ カーテンの下】 むまれてから はしめて みました【生まれてから初めて見ました】 疳積(かんしゃく)の虫(むし) かんしやくのむしはひたいにすじおゝく しやきばりたる【硬直した】むしなりたふんは 大さけをこのみすりばち すりこきさらさはちをうちわつて くらふそのかみきまゝの【気ままの】 くに【国】きずいむら【気随村】にこのむし おゝくしやうす【多く生ず】 やう〳〵じの【ゆう〳〵じ(悠々寺)の?】くわん〳〵おしやう【かんかん和尚】 ゆるりくわんす【緩寛+鑵子の洒落】のぬるまゆを【ぬるま湯を】 かけてきをながしかち【加持】 したまいこのむしを さいどしたまふ【済度したまう】 ひとたるものこの むしにつかれるときは ついにみをほろほすなり きまゝ【気まま】  きすいを【気随を】     つゝしみ   このむしを      ちかづけ       べからす しゆらどうの くるしみを たすかれ 〳〵 【左ページ】 六足(ろくそく)の駕(かこ) 俗にさんまいといふ 古戦場(こせんじやう)鐘懸松(かねかけまつ)に【古戦場鐘懸松:竹田出雲】 博物志(はくぶつし)を引(ひい)て曰 三 ̄ン そくのかわづよく【三足の蛙、よく】 あたをぶくし【仇を復し?】 三 ̄ン ぞくのごとく【三足の五徳】 よくやくわん【薬缶】を のすとつまびらかに のせたれど 六足(ろくそく)のかごは いまたみざる ところなり いたつてあしの はやきものにて あたかもちうを とぶがごとく ひるはいでず よるになると くらやみに かくれゐて  ハイかご〳〵と  なく つねに さかて【酒手、チップ】をゑじきとす 【さんまいは三人で担ぐ駕籠で、急ぎの時か、派手さをアピールする時に使うとのこと。三枚肩の略。】 【鐘懸松:一の谷の合戦の時、源義経が陣鉦を掛けたと伝承される松の木】 【三足の蛙:本能寺の変の前夜、織田信長に異変を知らせたという言い伝えがある】 ひとのせがれ ふしよぞんにて ゆうきやうにふけり すじつ【数日】いゑにかへらす 父母なげきに せまりこんゐの ひとをたのみ ごくろうにては 候へどもきさま【貴様: 尊称】 けうくん【教訓≒意見】なされて なにとぞとせがれを いゑにつれかへりくださる べしとたのまれすなわち ゆうきやうのちにゆきて かのせかれにあいつれ かへらんときやうくんを もちゆるときかの せがれのいへるは ずいぶんきこうさま【貴公様】の 御ゐけんにしたがい すみやかにかへり申べし さりながらまづ御 酒(しゆ) いつさんめしあがつて くだされとすゝめられ したぢ【下地≒本来】はすきなり 一はいのみ二はいのみ ついにはその 【左ページ】 せがれとゝもに ふぎやうせきを なしりやうにん ともにいゑにかへるを わする【忘る】これをなつけて みいらとりの みいらになる とは申なり これはな はだひとの こたるもの にはどく やくなり このみいらは ずいぶんおりを みやわせ【機会を見計らって】 たび〳〵 いけんでおろし さいまつして もちひずは【用いずば】 くすり には なるまい うその皮(かわ) うそといふけだものはかたちむさゝびの ごとくめからはなへぬけ出る つうりきをゑてひとをまどはす ものなりつらのかわいたつて あつくしたは二まいあつて したつぱらにはけのなきけだものにて そのかみめつぽう弥八     まんざらの万八といふ【万のうち真のことは八つしかない】     両人のかりうどからでつぽうを【空鉄砲】 はなしてうちとめたりといふ 又一名を すつぱ【素破】の かわともいふ さいふに つくりたるを すつぱの    かわの かわざゐふと    いふなり 【右下】 しめこのうさぎを ついにがしたから このけだものを せしめ ころしに【殺しに】 して こま そふ 【左ページ】 ものまへに【物前に、盆と正月の前に】 なると このしつぽを いだして 人に みらるゝ なり 【左ページ下】 〽さて〳〵 おそろしい けだものじや はやく にげ ませう 両頭(りやうとう)の筆(ふで) りやうとうのふでは つねに詩人(しじん)うたよみ はいかいしのふところに かくれすみ はなのとき つきのころは おゝくあらわれ いでしきし たんざくを【色紙・短冊を】 とり くらふ また ひとの あふぎ【扇】 などを みると みだりに とり くらふ なり ひうどろ 〳〵〳〵〳〵 【右下右】 これは ふしぎな こと 【右下中】 あれ〳〵 りやう とうのふでが すずりのうみから てんじやう します【天上します、昇天します】 【左ページ】 手の長(なか)き猿(さる) ゑんかうざるは水の月をとらんとし このてながざるはさゐふの かねをとらんとすなくこへぶつぽうそうと いふとりににてこのかいどうはぶつそう〳〵【この街道は物騒】となく みやこやまざきの 山中にすむそのかみはやの かん平といふかりうど【お軽勘平の早野勘平】      てつぽうにて        しとめたり 【左下】 さて〳〵てなかい【手長い】さるじや【猿じゃ】 てながいのやすたり 三十八もんと きている 【挿し絵内囲み】山(やま)の神(かみ)の角(つの) ○やまのかみのつのといふは 人のにようぼうにはへる つのなりぼんぶのまなこには みへねどもおそろしき つのなりこれみなこゝろの おにのしよゐにてりんき         しつとの はなはだ    しきがつのつて    かやうのつのを          はやす      おそるべし        つゝしむべし 【挿し絵内の囲み】三足(さんぞく)の猫足(ねこあし) ○さんぞくの ねこあしはつねは しばゐにすみ つきみ【月見】とし わすれ【年忘れ】などの  ざしきへ    おり〳〵      いづる        なり なくこゑ いたつて おもし   ろく しのぶ  いらしやん    せんかいにやあ         〳〵と 【左ページへ】         なく 【挿し絵内囲み】頭(あたま)の黒(くろい)鼠(ねづみ) ○あたまの くろいねづみは あしかといふ けものにてひるは いねむりばかり        なし    よるになると   目をさらのごとく           に           して            あ            ら           わるゝ しつぽこ【卓袱(しっぼく)料理、またはそのテーブル】などを かきさがしかれいの ほねなぞを    しやぶり   いろ〳〵しよくもつを           あらす またよふけに    しやみせんをかぢるなり 【右ページ下段、台詞】 さて  〳〵  めづら    しい     ものじや 【左ページ下段、台詞】 いちどごろふし【ご覧じ】 ますれば   まつだいの おはなしの    たねに      なり        ま        す つれ〴〵なるまゝにひぐらしふづくへ【文机。徒然草原文では机】にむかひ。すりこぎに はねのはへたる【注】。鳥羽僧正(とばさうじやう)のえまきもの。みこしにうとう【見越し入道】の しまのぬのこ【縞の布子】きたるあかぼんのたはれゑなどそこはかと なくくりひろげみれば。こゝろにうつりゆくものみな ばけものにあらざることなし。やくはん【やくわん=やかん】はてんぐにて。 かべのしぶきはゆうれいとうたがふ。しかはあれど。 あやしきをみて あやしまざれば あやしき事なし。 といへる古語(こご)を思へば みるわかこゝろの まよひなり。たゞ 人のこゝろの ようぐはい【ようぐわい=妖怪】ほど おそろしきは なし。みなの こどもしゆとかく こゝろのばけものを    たいぢすべし      がてんか         〳〵 千秋  万   歳 〽京伝見世おの〳〵様御ひゐきあつく 日にましはんぜう仕りありがたく奉存候 きれぢかみたばこの御はながみぶくろゑ 御きせるとうねんはわけてめづらしき しんがた出来申候御もとめ可被下候 大道にて京伝作と申うり候よみうりの るい一切わたくしさくにては無御座候 【囲み】京伝戯作 【囲み】画工 可侯 【山東京伝、山東京傳】 【可候、可侯、葛飾北斎】 【注 江戸期に流行した鳥羽絵の画題の一つ。あり得ない、馬鹿馬鹿しいことのたとえ。鳥羽絵の名は、国宝「鳥獣戯画」の作者と伝わる鳥羽僧正にちなむが、戯画という以外に直接の関係はない】