【ラベル】 japonais 146 【文字なし】 【文字なし】 【表紙】 安達原 【文字無し】 Japonais No 146 【下に括り】 Jacobins ?t Honoze【eにアクサン・テギュ 【蔵書印赤】 Celieuse Contient 13 Doublets ouf【以下不明】 【次第】 旅の衣は篠懸の〳〵露けき 袖やしほるらむ【ワキサシ】是は那智の 東光坊の阿闍梨裕慶とは我事 なり【ワキツレ】それ捨身抖?の行躰は 山伏修行の便りなり【ワキ】熊野の 順礼廻国は皆釈門の習ひなり しかるに裕慶此間心に立る願 あつて廻国行脚に赴かんと 【上哥】我本山を立出て〳〵分引末は 紀の路方塩崎の浦をさし過て 錦の濱の折々は猶しほれゆく 旅衣日もかさなれはほともなく 名にのみ聞し陸奥の安達原に 着きにけり〳〵【ワキ詞】急候ほとに 是ははや陸奥の安達原に着きて候 あらせうしや日のくれて候この あたりには人さともなく候あれに 火の光の見え候立寄やとを からはやと存候【シテサシ】実わひ人の ならひほとかなしきものはよも あらしかゝる浮世に秋の来て 朝けの風は身にしめとも胸を やすむる事もなくきのふも むなしく暮ぬれはまとろむ 夜半そ命なる荒定めなの 生涯やな【ワキ詞】いかに此屋の内へ 案内申候【ワキ詞】そもいかなる人そ 【ワキ上カヽル】いかにや主聞給へ我等はしめて 陸奥の安達原に行暮て宿を かるへき便りもなしねかはくは 我等をあはれみて一夜の宿を かし給へ【シテ上?ル】人里遠き此のへの 松風はけしく吹あれて月かけ たまらぬ閨のうちにはいかてか とゝめ申へき【ワキ】よしや旅ねの 草枕今宵はかりのかりねせん 唯々宿をかし給へ【シテ】我たにも うき此庵に【ワキ】たゝとまらむと 柴の戸を【シテ】さすかおもへは 痛はしさに【上?】さらはとゝまり 給へとて扉をひらき立出る ことくさもましるかやむしろ うたてやこよひしきなまししい ても宿をかり衣かたしく袖の 露ふかき草の庵のせはしなき 旅ねの床そ物うき〳〵 【ワキ詞】今宵の御宿返々も有難う こそ候へ又あれなる物は見馴 申さぬものにて候是は何と申候そ 【シテ詞】さん候是はわくかせわとていやしき 賊の女のいとなむわさにて候 【ワキ】あら面白やさらは夜もすから いとなふて御見せ候へ【シテ上カル】けに 恥かしや旅人の見るめもはちす いつとなき賤かわさこそ物うけれ こよひとゝまるこのやとのあるしの 情ふかき夜の【シテ】月もさし入 【ワキ】閨のうちに【次第詞】麻草の糸をくり 返し〳〵昔を今になさはや 【シテ一セイ】しつかうみそのよるまても 【上地】世渡るわさこそ物うけれ 【シテ上】あさましや人界に生を受けなから かゝる浮世に明暮し身をくるし むる悲しさよ【ワキサシ】はかなの人の ことの葉や先生身をたすけて こそ仏身をねかふたよりもあれ かかる浮世になからへてあけくれ ひまなき身【下】なりともこゝろたに まことの道【下】に叶ひなは祈らす とても終になと仏果の縁と ならさらん【下クセ】唯是地水火風の かりにしはらくもまとはれて 生死に輪廻し五道六道に めくる事唯一のまよひなり をよそ人間のあたなる事を 案するに人更に若き事なし 終には老と成物をか程はかなき 夢の世をなとやいとはさる我なから あたなる心こそ恨みてもかひなかり けり【上ロンキ地】扨そも五条あたりにて 夕顔の宿を尋ねしは【シテ上】日影の 糸のかふりきしそれは名たかき 人やらん【上地】賀茂の見あれに かさりしは【シテ下】いとけのくるまと こそきけ【上地】糸?色もさかりに さく頃は【シテ上】くる人多き春の暮 【上地】穂に出る秋のいと薄【シテ下】月に よるをや待ちぬらん【上地】今はた賤か くるいとの【シテ下】長き命のつれなさ を【上?】なかきいのちのつれなさを 思ひ明石の浦千鳥音をのみ独 なきあかす〳〵【ワキ詞】承候【シテ】あまりに 夜寒に候程にうへの山にあかり 木をとりて焼火をしてあて 申さうするにて候暫御待候へ 【ワキ】御こゝろさし有難う候さらは 待申さうするにて候頓而御 【シテ】さらはやかて帰候へしやいかに 申候わらはかかへらん迄此閨のうち はし御覧し候な【ワキ】心得申候 見申事は有ましく候御心安く 思召れ候へ【シテ】あらうれしき候 かまへて御覧し候な此方の 客僧も御覧候な【ワキツレ】心得申候 【ワキ上カヽル】ふしきやあるしの閨のうちを 物のひまよりよくみれは膿血 たちまち融滌し臭穢は満て 胞脹し膚膩悉爛壊せり人の 死骸は数しれす軒とひとしく つみおきたりいかさま是は音に 聞安達原の黒塚にこもれる おにのすみかなり【ワキツレ】おそろしや かゝるうきめを陸奥の安達原 の黒塚に鬼こもれりと詠しけん 哥の心もかくやらんと【上哥】こゝろも まとひ肝をけし〳〵行へき かたはしらねとも足に任せて にけてゆく〳〵【後シテ】いかにあれ なる客僧とまれとこそさしも かくしゝねやのうちあさまに なされまいらせし恨み申に来り たり胸をこかすほのほ咸陽宮 の烟?々たり【上地】野風山風吹 落て【シテ上】なるかみいなつま天地 にみちて【上地】空かきくもる雨の 夜の【シテ上】鬼一口にくはんとて 【上地】歩みよる足音【シテ下】振揚る銕杖 のいきほひあたりを払ておそろ しや【ワキ上】東方に降三世明王 【ワキツレ】南方郡咜利夜叉明王【ワキ】西方に 大威徳明王【k】北方に金剛夜叉 明王【ワキ】中央に大日大聖不動明 王唵呼唵呼唵旋荼利摩登枳 唵阿毘羅吽欠娑婆呵吽多羅 咜干?【上?キリ】見我身者發菩提心 見我身者發菩提心聞我名者 断悪修善聴我説者得大智恵 知我身者即身成佛即身成佛 と明王の?縛にかけて責懸〳〵 祈りふせにけりさてこりよ 【シテ下】いまゝてはさしもけに〳〵怒を なしつる鬼女なるかたちまちに よはり果て天地に身をつゝめ 眼暗みて足もとはよろ〳〵と たゝよひめくる安達原の黒 塚に隠れ住しも浅間に成ぬ 浅ましや恥ずかしの我すかたやと いふ聲は猶物冷しくいふ聲は 猶冷しき夜風の音に立まきれ 失せにけり夜嵐の音にうせに けり 【左小字】あたち十三