【表紙】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全四.巻中ノ二 【扉】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全 四 【見返し】 【左丁頭書】 【赤角印 帝国図書館藏】 ○冬南風ふけば二三日の間に かならず雪(ゆき)ふる風西南より転(てん)じ て西北風になれば弥(いよ〳〵)大なり ○大風ふかんとては衆鳥(しゆてう)空(そら)に 鳴てひるがへり飛(とび)て群魚(ぐんぎよ)水面(すいめん) にをどり星うこき月日に暈(かさ) 有て雲きれ〴〵にしてとぶ其 色白く黄(き)にしてあつまり散(ち)る ことさだまらず雲日をめぐり 雲のあし黄(き)にしてゆく事はやし ○正二月に北風ふけばかならず 雨そふものなり ○七月十五日の前後はかならず 北風久しく吹くこれを俗(そく)に盆(ほん) 北といふ ○夏秋のころ東風(こち)久しくふく 是をひかたごちといふ数(す)十日吹く 【左丁本文】 【赤角印 白井光】 【赤丸印 帝国・昭和十五・一一・二八・購入】  ○瘧疾(おこり)の截(きり)薬 一家伝 斬鬼(ざんき)丹方   黄(わう)丹《割書:よくすりて三|度水飛する》  独頭(どくとう)大 蒜(ひる)【左に「ク」と傍記・注】《割書:すりて泥(とろ)|のごとくす》 右 等分(とうぶん)の内黄丹を少しまし加(くは)へ五月五日の午刻 に調合し幾人(いくたり)もかゝり丸じおこり日の五 更(かう)【左に「ヨルナゝツ」と傍記】に流水(りうすい)【左に「カハミヅ」と傍記】 を汲(くみ)て東向に座(ざ)してのむべし  ○右の代(かはり)に用る方 一大蒜三ツ 一 胡桝(こしやう)《割書:七粒|》 一 百草霜(なべすみ)《割書:三分|》 右 搗(つき)合せ一丸とし男は左女は右の手の曲沢穴(きよくたくのけつ) に付て縛(しば)りおくべし  曲沢図 【腕の絵】曲沢  《割書:尺沢(しやくたく)と少海(せうかい)との真(まん)中|大 筋(すじ)の間 脈(みやく)のうつ処也》 又方 おこり日の朝(あさ)東に向ひ百 会穴(ゑのけつ)《割書:頭上(つしやう)鼻(はな)のすちにて|髪際(はえぎは)より入こと五寸》に 【注 左ルビは「ニヽク」ヵ】 【右丁頭書】 事あり ○西風久しければ火 災(さい)あり 物をかわかすゆゑなり西北風 もつとも火災の憂(うれへ)あり ○五 更(かう)に雨ふれば明る日必ず晴 五更とは夜(よる)の七ッ時なり暮(くれ)の雨 ははれがたし ○久雨(きうう)の後くれがたに雨 止(や)みて 明らかに晴(はる)るはかならず又雨なり 雨と雪とまじるは晴がたし ○雨水に泡(あわ)あるははれやすからず ○久雨くもりてはれず午時前(ひるまへ) にいたりて少しやむは午時の後 大雨午の正時(せいじ)に少やむはよし ○久雨くらきはよし天(そら)忽(たちまち)明ら かになるは必ずまた雨ふる 雨中に日てるは天気よからず 【左丁頭書】 又雨やみて後 軒(のき)のあまだり 未やまずして日 照(て)るは又雨と なるなり ○雪ふりて消(きえ)ざるを名づけ て友を俟(まつ)といふかならず再(ふたゝ)び 雪ふるべし ○雪ふりて久しくきえず雪 の後雨なきは来年 霖(なが)雨ふる ○冬雪 多(おほ)くふるは豊(ほう)年の しるしなり冬しば〳〵雪 降(ふり)て 寒気烈しければ来年虫少し 冬雪なければ来年五 穀(こく)み のらずして民(たみ)に災(わざはひ)多しと云 但(たゞ)しこれは国所によりてちがひ あるべしあながちに拘(かゝは)るべからず 又春の雪はその用なし ○冬雪なきは麦(むぎ)実(みの)らず 【右丁本文】 【挿絵】 朱にて上天下都城隍在と七字を畳(たゝ)みかく べしおつる事 甚(はなはだ)妙(めう)なり《割書:城隍は産土神(うぢかみ)のことなり|信心してかくへし》  ○魘死(えんし)【左に「オソハレシニ」と傍記】の治(ぢ)方 一 急(きふ)に半 夏(げ)皂(さう)角の粉を鼻(はな)へ吹入れ痰(たん)を出し 次に蘇香(そかう)丸をあたふべし但(たゞ)し身 静(しづか)に眼(め)陥(おちい)り たる者又 面色(かほいろ)青黒(あをくろ)き者は治せず 【左丁本文】 又方 皂(さう)角一 味(み)を末(まつ)し豆の大さほどにして鼻(はな)の 中へ吹(ふき)入れ嚔(はなひ)れば気 通(つう)ずる也又 雄黄(をわう)を粉(こ)に して管(くだ)にて鼻へ吹入るもよし  ○驚(おどろ)きて物 云(いは)ざるを治する方 一 兵乱(ひやうらん)火難(くわなん)盗賊(とうぞく)或(あるひ)は猛獣(まうじう)などに逢(あひ)て大に 驚(おどろ)きものいふこと能(あたは)ざるものあり密陀僧(みつだそう)を 細(さい)末にし一 度(ど)に五分ほど好(よき)茶にて与(あた)ふべし 久からずして必 言語(ものいふ)べし  ○労咳(らうがい)の薬 一 黒胡麻(くろごま)《割書:壱合|》 一 蒜(にゝく)の実(み)《割書:壱合|》 一花 鰹(がつを)《割書:壱合|》 一 味噌《割書:壱合|》 右火にてとろ〳〵と次第に ねりつめ常(つね)に菜(さい)味噌にして喰(くら)ふべし治する こと妙なり 【右丁頭書】 ○雲東へゆけば晴(はる)西へゆけば雨 東南へゆけばはる是西北風なる 故なり京都にては雲清水の かたへゆけば必晴るなり ○乾(いぬゐ)の方雲赤くしてやう〳〵 きゆるは晴あかくして又色 変(へん) ずるときは風雨なり ○魚の鱗(うろこ)のごとくなる雲あるは 雨又は風又ところ〳〵に虎ふの ごとくこまかに横(よこ)にすぢある 雲たつはこれを水まさといひ て見(あらは)るゝ時はかならず一両日に雨 ふるなりまた潟(かた)雲といふ有 汐(しほ)のひかたのごとく満(まん)天に大 なる横すぢありこれもやがて 雨ふる也 ○雲気みだれとぶは大風ふかん 【左丁頭書】 とするなり雲の来る方より 烈風(れつふう)吹来(ふききた)るべし其方の防(ふせぎ)を 心がくべし ○日の上下(かみしも)に雲気(うんき)ありて竜(りやう)の ごとく見ゆるはかならず風雨有 久しく日てりて赤雲(あかきくも)天を過(すぎ) て山谷(さんこく)をかゝやかすは明る日雨 ○秋(あき)の空(そら)には雲ありても風 なければ雨なし又 東(ひがし)のかたに 雲を生(しやう)ずる時は雨あり ○雨やみ雲はるゝとも山頭(さんとう)【「ミネ」左ルビ】を 雲(くも)おほひかくす時は又雨ふる ○朝日の上に黒雲(くろくも)有て霧(きり)の 如く日を覆(おほ)ひ日の光(ひかり)かたはら に射(い)てうすく黄白 色(いろ)なるは その日風雨あり暮(くれ)つかた日 入るときにかくのごとくなれば 【右丁本文】  ○蒲萄疔(ぶどうてう)の薬 一蒲萄疔とて蒲萄のごとき物一夜の内にも 出来るを療(れう)治の方を知らざれば一日がほどに 死(し)するものなり灸(きう)をすゑ生(なま)の大豆を食 しめて試(こゝろ)むべし灸もあつからず大豆もなま くさからずしていかにも香(かうば)しくおぼゆるは蒲萄 疔(てう)なりこれを治するには蒜を黒 焼(やき)にして付 べし速(すみやか)に癒(いえ)て命を助(たす)かるべし糊(のり)におしまぜ 付るがよし此薬の外はいかなる名 医(い)の方にて も治せざるなり  ○やみ眼(め)の薬 一 胡 粉(ふん) 一白 礬(ばん)《割書:焼て》二味 等(とう)分一 竜脳(りうのう)《割書:少シ》 右を貝(かひ)に一はいほど絹にてこし一日に五六度もさ 【左丁本文】 すべし奇妙(きめう)によし  ○眼(め)に物の入たるを治(ぢ)する方 一 目(め)に何(なに)にても入たるにははこべの実(み)を少(すこ)し紙索(こより) のさきにつけて目の中へ入ればくる〳〵とまはり 少(すこ)しも痛(いたみ)なく少しの間(あひだ)に出るなり眼(め)をあきてゐ れども少しも痛(いた)まず甚(はなはだ)奇妙(きめう)なり目の白膜(はくまく) 虚血(きよけつ)怒肉(どにく)にても右の実(み)に付て出るをぬぐひて とれば跡(あと)にてあきらかになるなり  ○目を廻(まは)したる時の方 一目をまはしたる人其名を呼(よび)ても気付(きつき)かぬる時 其家(そのいへ)の屋根(やね)の上へあがり瓦(かはら)をまくり其人の 名(な)を呼(よぶ)べし早速(さつそく)気(き)つく事妙なり  ○耳(みゝ)の中(なか)へ物入たるを治する法 【折目、虫損の箇所は「国立公文書館デジタルアーカイブ」の資料を参照】 【右丁頭書】 【挿絵】 その夜(よ)風雨あり ○朝(あさ)東南(とうなん)に雲ありても西北(さいぼく)【注】に 雲なければ雨なし暮(くれ)にも又西 北を見て雲なければ雨なし 上(うへ)に風(かぜ)吹(ふき)て雲ひらくとも下に 風雲あらば又雨 ○朝夕(あさゆふ)ともに雲ありても段々(きれ〴〵) になりて分明(ふんみやう)なるは晴 【注:「国立公文書館デジタルアーカイブ」の資料(https://www.digital.archives.go.jp/img/4368660/5)で校合】 【左丁頭書】 ○朝(あさ)西(にし)にむらさきの雲たつは やがて晴るなり ○梅雨(つゆ)の後(のち)白雲たかくして 峰(みね)のごとく綿(わた)の如くにわき出 るは雨 止(やみ)たるしるしなり ○西より東へ高(たか)くゆく雲の 白くして綿(わた)のごとくなるをす がいといふ四時(しじ)共に晴天(せいてん)に有 此雲(このくも)は天気(てんき)の考(かんがへ)にはくはへ ざるがよし秋(あき)西風(にしかぜ)にては雨ふ るといへども此雲にはかゝはらず ○日入て後 赤(あか)き雲(くも)四方(しはう)に ありて天をてらすは旱(ひでり)なり ○天色(てんのいろ)黄(き)なるは風白くうすき は風雨 天気(てんき)卑(ひき)く下りてくら きは三日の内に雨ふる ○西北 赤(あか)くして気(き)清(きよ)きは明日 【右丁本文】 一 耳(みゝ)の中(なか)へものゝ入たる時は唐弓(たうゆみ)の弦(つる)をきり 小口(こぐち)へ膠(にかは)を付てさしいれて出すべし若(もし)弓弦(ゆづる) なきときは観世(くわんぜ)よりにても切口(きりくち)へ膠(にかは)をつけて いだすなり又 竹(たけ)の管(くだ)にて強(つよ)く吹てもよし  ○耳(みゝ)より膿(うみ)出(いづ)る薬 一 枯凡(こはん)《割書:壱匁|》 一 黄丹(わうたん)《割書:五分|》末(まつ)にして耳の中へふき 入るべし腫(はれ)痛(いた)むにもよし血(ち)の出るには竜骨(りうこつ)を 粉として吹入るべし  ○湯火傷(やけど)の薬 一 柏真(びやくしん)を生(なま)にてすりつぶして其 汁(しる)を付べし 妙なり又 南天蜀(なんてんしよく)の葉(は)をすり菱(ひし)の汁にて つけてよし又方 白砂糖(しろざたう)を水にてとき火傷(やけど)の上へ一面(いちめん)につけ置(おき)て 【左丁本文】 布(ぬの)ぎれか紙(かみ)にてよく包(つゝ)みおけば一夜のうちに なほるなり又方 生渋(きしぶ)を墨(すみ)にすりて付べし忽(たちま)ちぴりづきを やめ瘢(あと)つかず癒(いゆ)るなり又 蓼(たで)の葉(は)を黒焼(くろやき)に して墨(すみ)にてもしぶにてもとき付て妙なり 又 熱湯(にえゆ)或(あるひ)は油(あぶら)などにて灼(やき)傷(やぶ)り痛(いたみ)甚しきには 石膏(せきかう)を末(まつ)して酢(す)にねりて付べし汁(しる)出るには そのまゝふりかけてよし 又 火傷(やけど)瘡(かさ)のごとくなりて汁出るには柳(やなぎ)の皮(かは)を焼(やき) 灰(はひ)にして付てよし竹(たけ)の中の虫(むし)くそもよし又 大豆(まめ)の煮汁(にしる)を飲(のむ)べしはやくいえて瘢(あと)つかず  ○痢病(りびやう)の薬 一 煮(に)たる鶏卵(たまご)の黄(き)なる所をとり生姜(しやうが)三分入 【右丁頭書】 大晴 朝(あさ)白気(はくき)あるひは黒気(こくき)雲 のごとくしてうるほひあるは雨也 天 高(たか)く気(き)白(しろ)きは風雨すくなし 天 低(ひき)く気(き)くらきは三日雨なり ○霜(しも)はやく消(きゆ)るはかならず雨 ふるおそくきゆるは晴 大霜(おほしも)はか ならず雨 ○京畿内(きやうきない)は霜(しも)あればかならず 天気よし坂東(ばんとう)も同し西国は 霜おそく消(きえ)ても明日(あす)は雨ふる ○雨ふらずして雷(かみなり)なるは雨なし 雷の声(こゑ)はげしく雨しきりに ふる時ははやく晴雷の音(おと)幽(かすか)に ひゞくは晴がたし ○雷(らい)の中に雷(らい)なるは雨久しく ふりてやみがたし ○雷(らい)夜(よる)おこるは三日雨つゞく 【左丁頭書】 卯(う)の時より前(まへ)の雷は天気あし ○秋(あき)晴天(せいてん)に電(いなづま)あるはよし陰(くも)り て電あるは其方よりかならず 風(かぜ)来(きた)り雨ふる事ありこれを 俗(ぞく)に火(ひ)をうつといふ ○夏秋のあひだ夜(よる)はれて遠(とほ)く いなづま南に見ゆるは久しく 晴る兆(きざし)なり北にひかるはやがて 雨ふる ○電西南に見ゆるは明日晴る 西北に見ゆるはやがて雨 ○夏の風は電の下より来り 秋の風はいなつまに向(むか)ひておこる ○霞(あかね)は朝夕(あさゆふ)日のほとりの赤(あか)き をいふ俗にあさやけ夕やけと いへりかすみとは別なり毎日(まいにち) 朝(あした)には東 夕(ゆふべ)には西あかきは旱(ひでり) 【右丁本文】 素湯(さゆ)にて飲(のむ)べし又方 葱(ねぎ)の白根(しらね)をきざみ米(こめ)にかきまぜ粥(かゆ)に煮(に)て毎日 食(しよく)すべし又 艾葉(もぐさ)を酢(す)にて煮(に)てのむもよし或は 生姜(しやうが)をいれ同じくせんじ用ゆ腹(はら)のいたみ強(つよ)き には尤(もつとも)よし又方 一 黄連(わうれん)《割書:十匁|》 一 木香(もくかう)《割書:一匁|》 一 呉茱萸(ごしゆゆ)《割書:五匁|》 右三味同じく炒(いり)粉(こ)にしてかけめ一二匁づゝ酒(さけ)また 飯(めし)のとり湯(ゆ)にて用ゆべし 血痢(けつり)とて血(ち)を下(くだ)すには楮木皮(かうぞのかは)と荊芥(けいがい)と等分(とうぶん) にあはせ粉にして一匁醋にて用ゆ又 山梔子(くちなし)を 焙(あぶ)り粉(こ)にして壱匁 汲(くみ)だての水にて用ゆ鮮血(せんけつ) を下すには此方(このはう)よろし又 蓮葉(はすのは)の蔕(ほぞ)を水にせん じて用ゆべし 【左丁本文】  ○痢病(りびやう)を除(よけ)る方 一 蛇薦(へびいちご)をとり端午(たんご)の日 朝露(あさつゆ)にあて水にて ひとつ呑(のむ)べしその年はいかほど痢病はやりても うつらぬこと妙なり 又 柘榴(じやくろ)を黒焼(くろやき)にして五月五日 早天(さうてん)に人の汲(くま)ざる 水にて呑べし一生(いつしやう)痢病をやまざるなり 【挿絵】 【右丁頭書】 なり夕やけ火焔(くわえん)のごときは 大日でりなり ○夕やけはやく変(へん)じて紫(むらさき)と なり黒(くろ)くなるは雨ふるしるし也 或(あるひ)は風ふく事もあり後(のち)まで 同じ色(いろ)にてやう〳〵うすくなる は晴天(せいてん)になると知るべし ○毎月(まいげつ)季節(きせつ)のかはる日 早朝(さうてう) 東(ひがし)の方あかきは其(その)節(せつ)の内 風(ふう) 雨(う)順(じゆん)なり ○朝東の方あかきは晴 茶(ちや)色 なるは雨也 ○虹(にじ)の下雨ふるは晴るなり ○霧(きり)はれがたきは雨となる但(たゞ)し 山谷(さんこく)の霧(きり)は朝(あさ)久(ひさ)しくはれねば 天気よし ○霧(きり)の内は風なしきりはるゝ時 【左丁頭書】 風ふく ○雲(くも)北斗(ほくと)をおほふは大雨 黒雲(くろくも) さへぎりて北斗見えざるは三日 のうちに雨黒雲あつく北斗 をおほふはその夜雨 黄(き)なる雲 北斗をおほふは明る日雨ふる 白気(はくき)北斗をおほふは三日の 内に雨 青(せい)気北斗をおほふは 五日のうちに雨ふる ○天に雲なくして北斗の上下 に雲あるは五日の中に大雨有 日入て後 白光(はくくわう)ありて地中(ちちう) より北斗につきのぼり其間 の星(ほし)にひかりなきは其夜 必(かなら)ず 大風ふく北斗の魁星(くわいせい)【左に「サキノホシ」と傍記】の間 黒気(こくき)うるほひ有て其ほとり に雲あればその夜(よ)雨ふる 【右丁本文】  ○寸白(すんはく)の薬 一 疝気(せんき)陰嚢(いんのう)【左に「キンタマ」と傍記】へさし込(こみ)大くなりたるは諸薬(しよやく)験(しるし) なきものなり辛(からし)菜を酢(す)にてとき陰嚢にぬる べし二時(ふたとき)ばかりつよくしむをたへ忍(しの)ぶべし 一代(いちだい)根(ね)をきるなり《割書:しむをこらへたるは少しも|害(がい)にはならぬなり》  ○疝気(せんき)の薬 一 接骨木(にはとこ)【左に「カンボク」と傍記】 一 甘草(かんざう)《割書:少|》 右二味つねのごとく煎(せん)じ用れば何ほどつよき 疝気にてもいたみ早速(さつそく)なほるなり又方 一 ゆづり葉(は)《割書:十匁|》 一 さはら木《割書:五匁|》 一 木香(もくかう)《割書:五匁|》 一 檳榔子(びんらうじ)《割書:五匁|》 一 甘草《割書:二匁|》 右五味 常(つね)のごとくせんじ服(ふく)してよし効能(かうのう)は疝 気 腹(はら)のいたみ虫症(むししやう)に用ゐて甚(はなはだ)よし又 【左丁本文】 一 干蓼(ほしたで)《割書:大|》 一 甘草(かんざう)《割書:少|》 此二味 細末(さいまつ)にして 白湯(さゆ)にてふり出しあとを常(つね)のごとくせんじ のみてよし又方 一 胡椒(こしやう)《割書:一両半|》 一 塩(しほ)《割書:一合五勺|》 此二味をぬる湯 にしてたらひに入れ腰(こし)湯してよし但(たゞ)しゆかた にてもたらひの上へかぶせ陰嚢(いんのう)【左に「キンタマ」と傍記】陰茎(いんきよう)【左に「ヘノコ」と傍記】ともよく 木綿(もめん)にても絹(きぬ)にても包(つゝ)みおきて腰(こし)を湯にて あたゝめてよしゆかたは胡桝(こしやう)にむせぬ為(ため)なり  ○疝気(せんき)の呪法(まじなひ) 一 七月十五日の朝 天井水(てんせゐすい)《割書:未(いまだ)人のくまざる|さきの水を云》をくみて 温飩(うどん)の粉(こ)むくろうじほどに丸じて呑べし  ○臁瘡(はゞきがさ)の薬 一 山梔子(くちなし)を水にて摺(すり)臁瘡をよくあらひて付べし 【右丁頭書】 ○北斗(ほくと)の前(まへ)に黄気(くわうき)あるは明日 風ふくもしうるほひおほふたる 気あるは夜中(よなか)か明日か大雨 ○夜(よる)は北斗を見て明日(あす)の天(てん) 気(き)をしるべし北斗の上下 五(ご) 色(しき)の雲気(うんき)あるはその一日の内に 雨ふる一日にてはやみがたし 雲気北斗をおほひて黄白(きしろ) 色(いろ)なるは風ふく赤色(あかいろ)は旱(ひでり)青き は大雨 黒(くろ)きは風 ○北斗の間あかき雲気おほふ は明る日 大熱(だいねつ)白気(はくき)有て北斗の 杓の間をさへぎりおほふは三日の うちに大風 悪雨(あくう)あり ○北斗(ほくと)の上下黄気ありてうる ほひ魚龍(ぎよりよう)のかたちの如く或(あるひ)は うろこのごとくあるは其日(そのひ)かその 【左丁頭書】 夜(よ)か大雨 ○春(はる)あたゝかなるべきに寒(さふ)きは 雨おほし夏(なつ)さむきは水出 夏(なつ)俄(にはか) にあつきは雨ふる冬(ふゆ)俄(にはか)に暖(あたゝか)に なるは必(かなら)【注】ず雪(ゆき)ふる秋はやく寒(さふ) ければ冬かならずあたゝかなり 春おほく雨ふれば夏(なつ)かなら ず日でりす 【挿絵】 【注:振り仮名は「国立公文書館デジタルアーカイブ」の資料(https://www.digital.archives.go.jp/img/4368660/8)にて確認】 【右丁本文】 つよくしむべししかれども一付にて治すること 妙なり又方 一 阿仙薬(あせんやく)《割書:一匁|》 一 軽粉(けいふん)《割書:三分|》 右 細末(さいまつ)にし胡麻油(ごまのあぶら)にてぬり付べし大に験(しるし)あり  ○疝気(せんき)偏墜(へんつゐ)根(ね)を断(た)つ薬 一 蒼朮(さうじゆつ)《割書:一斤|》壱分は童便(どうべん)にひたし一分は上酒(じやうさけ)に 浸(ひた)し一分は塩水(しほみづ)にひたし一分は乳汁(ちゝしる)にひたし 各(おの〳〵)浸すこと三日にしていり乾(かわ)かし橘核(きつがい)【左に「タチハナノサネ」と傍記】同じく 末となし酒(さけ)のりにて梧桐子(きりのみ)の大きさに丸(ぐわん)じ 百 粒(りう)づゝ空腹(すきはら)に酒にてふくす  ○衝目(つきめ)の薬 一 目をつきて星(ほし)など俄(にはか)に生(しやう)ずるにも蝿(はひ)の頭(かしら)を 和らかなる飯粒(めしつぶ)と女の乳汁とにてねり合せ 【左丁本文】 とろりとして目(め)にさすべし速効(そくこう)あり  ○底(そこ)まめを治する薬 一 鯨(くじら)のひげを粉にしてそくひに押(おし)まぜて付 紙(かみ)をふたにして置べし癒(いゆ)るなり  ○胡臭(わきが)の薬 一 白緑青(びやくろくしやう) 一味(いちみ)粉(こ)にして付べし奇妙(きめう)に根(ね)を きるなり疑(うたが)ふべからず又方 一 青木香(しやうもくかう)を厚(あつ)く片(へ)ぎ好(よき)醋(す)に一夜(いちや)浸(ひた)し腋(わき)の 下に夾(はさ)むべし度々(たび〳〵)かくのごとくして愈(い)ゆ又 蜜陀僧(みつだそう)を末(まつ)し生姜(しやうが)皮(かは)ともにおろしてとき 合(あは)せ頻(しきり)に掖下(わきのした)にぬるべし又方 一 軽粉(けいふん)《割書:一匁|》 一 胆礬(たんはん)《割書:一匁|》 一 肥松(こえまつ)の燃燼(ともしがら)《割書:一匁|》 一 守宮(いもり)《割書:黒焼|一匁》 【右丁頭書】 ○朔日(ついたち)に晴(はる)ればその月のうち は晴(はれ)おほし朔日雨ふれば月の うちくもりがちに雨ふる朔日の 前より雨つゞきたるはかろし 毎月 初(はじめの)三日 晴(はる)れば久しく はるゝ十五日晴ればひさしく 雨ふらず三日月の下に黒雲(くろくも) ありて横(よこ)にきるればあくる日 雨ふる晦日(つごもり)に雨なければ来 月のはじめかならず風雨有 ○八専(はつせん)に入たる明日は多くは 雨ふる俗(ぞく)に八専(はつせん)の丑ふりといふ 十方ぐれのうちはかならず天(てん) 気(き)くもりてわろし ○海上(かいしやう)おきの方(かた)鳴(な)るはかならず 北風ふくおき鳴て天気(てんき)よく なる事あり雨ふりて後(のち)なるは 【左丁頭書】 晴る晴(はれ)て後なるは雨 ○知風草(ちふうさう)といふ草(くさ)あり和名(わみやう) をちから草(ぐさ)とも風ぐさとも云 かやに似(に)たり其ふしの有無(あるなし)を 見てそのとし大風の有無を 知る節(ふし)一ッあれば其年(そのとし)一度 大風ふく二ッあれば二度ふく 三ッあれば三度(みたび)ふく本(もと)にあれば 春(はる)ふく中にあれば夏秋ふく 末(すゑ)にある時は冬(ふゆ)大風あり ○鶏(にはとり)おそくとまるは雨 狗(いぬ)地(ち)をかき て灰(はひ)の上にねふるは雨 狗(いぬ)青草(あをくさ)を かむは晴 猫(ねこ)青草(あをくさ)をくらふは 雨 蜻蛉(とんぼう)忽(たちま)ちみたれとぶは雨 鸛(こう)の鳥めぐりとべは風雨 蛇(へび)木(き) にのぼれば洪水(こうずい)出(い)づ万(よろづ)の物みな 其(その)兆(きざし)ある事なれど繁(しげ)けれは略_レ之 【右丁本文】 右 細末(さいまつ)し下をよく洗(あら)ひ又 湯(ゆ)に白粉(おしろい)を入て よくすりあらひて後付べし  ○煙(けふり)にむせびて死したる人を甦(よみがへ)らす方 一 人 煙(けふり)にむせびて死したるには蘿蔔(だいこん)の汁を口 に入るべし蘇生(そせい)するなり  ○乳(ちゝ)の出(いづ)る薬 一 蜂房(はちのす)を黒焼(くろやき)にして醴(あまざけ)に和(くわ)し食後(しよくご)に用ゆ 又 伊予牛旁(いよごばう)の種子(たね)一合 白砂糖(しろざたう)二合あは せて香色(かういろ)に炒(いり)細末(さいまつ)にして素湯(さゆ)にて食後 に用ゆべし  ○癰疔(ようてう)《割書:幷(ならびに)|》万(よろづ)の腫物(しゆもつ)を治する薬 一 生(なま)の午膝(ごしつ)の葉 一 柊(ひいらぎ)の葉 右二味 等分(とうぶん)雷盆(すりばち)にてよくすり酢(す)にてとき 【左丁本文】 付べし実(まこと)に奇妙(きめう)なり案(あんずる)に此方(このはう)諸(もろ〳〵)の膏薬(かうやく)に まさる事 万々(まん〳〵)なり得易(えやす)き薬なるをもて 疎略(そりやく)におもふべからず  ○切疵(きりきず)ふすべ薬 一 白胡麻(しろごま) 壱味 雷盆(すりばち)にてよくすり雷丸(らいぐわん)の 油(あぶら)を以て煉(ね)るなりこれを絹(きぬ)に包(つゝ)み火(ひ)の上に おき此上へ紙袋(かみぶくろ)に穴(あな)のあきたる物をきせ此 穴より出る煙(けふり)に疵(きず)の所をさしあて薫(ふす)ぶる なり痛(いた)み立処(たちどころ)にやみて速(すみやか)に愈(い)ゆ極秘(ごくひ)の 奇方(きはう)なり  ○切疵(きりきず)の薬 一 五月五日に韮(にら)をとりその絞汁(しぼりしる)にふるき 石灰(いしばひ)を粉(こ)にしてこね合せ餅(もち)のごとくにして 【右丁頭書】 万(よろづ)禁圧呪術(まじなひ)の法(ほう) ○鼻血(はなち)をとむるまじなひ 紙(かみ)を八 枚(まい)にをり汲(くみ)たての水に ひたし頭(かしら)のいたゞきにおきて 早速(さつそく)血(ち)とまるなり ○蝿(はひ)をよけるまじなひ 端午(たんご)の日の午(むま)の刻(こく)に白(はく)の字(し)を かき家(いへ)の四方の柱(はしら)にさかしまに はり付てよし端午(たんご)は五月五日也 ○蜂(はち)のさゝぬまじなひ 呼無所住二所五(をんむしよぢうにしよご)シム呼(をん)シヨと【注①】 数遍(すへん)となふれば蜂のさゝぬこと 妙なり ○蛇(へび)のさゝぬまじなひ 常(つね)に枇杷(びは)のたねを懐中(くわいちう)すれ ばさゝぬ事 奇妙(きめう)なり 【左丁頭書】 ○疱瘡(はうさう)のまじなひ 枇杷(びは)の葉(は)曲尺(かねざし)一寸 四方(しはう)にきり 一 枚(まい)大豆(だいつ)一 粒(りう)にても二粒にても 其子の年(とし)の数(かず)ほど入(いれ)常(つね)のごとく せんじ用ゆるなり但し世間(せけん)に 疱瘡(はうさう)はゆる節はいつにても右の 年数(としのかず)ほど大豆(だいづ)を入れ葉(は)一寸 四方にてせんじ小児にのますれば かるきこと妙なり ○小児(せうに)夜啼(よなき)をとむる方 天南星(てんなんしやう)一味小児の掌(て)のうらへ 薄(うす)のりにてはりつけおくべし ○同まじなひ 小児(せうに)の臍(へそ)の上へ■【注②】かくのごとく 朱(しゆ)にてかきおけば夜(よ)なきとま ること妙なり又丙寅の二字(にじ)を 紙(かみ)に朱(しゆ)にてかき小児の枕(まくら)もとに 【右丁本文】 【挿絵】 風(かぜ)のすく所へ久(ひさ)しく置て細末(さいまつ)とし一切(いつさい)の金(きり) 瘡(きず)に付(つく)ればよく血(ち)をとめはやく愈(い)ゆ年(とし)を 経(へ)たるほどよし又 【左丁本文】 一 黒さゝげ 一 藜(あかざ) 右二味 等分(とうぶん)黒焼(くろやき)にしてねりつけてよし  ○同 即座(そくざ)の血留(ちとめ)薬 一 茶(ちや)の葉(は)をかみて付れば妙なりまた桐(きり)の 葉を陰干(かげぼし)にしたくはへ置て粉(こ)となしふり かくるもよし奇効(きかう)あり大なる疵(きず)は暖酒(あたゝめざけ)に て洗(あら)ふべし焼酎(しやうちう)もよし  ○河豚(ふぐ)の毒(どく)にあたりたる薬 一 生脳(しやうのう)を粉(こ)にして白湯(さゆ)にて飲(のむ)べしまた藍(あゐ) の汁(しる)を呑(のむ)もよし急(きふ)なる時は糞汁(ふんじう)をのみて 吐(はき)出(いだ)すもよし何(いづ)れも奇験(きげん)ある事也  ○水(みづ)に溺(おぼ)れ死(し)したるを活(いか)す方 一 水におぼれ死(し)したるには急(きふ)に死人(しにん)の衣帯(いたい) 【注① 「金剛経」の一節「応無所住而生其心(おうむしょじゅうにしょうごしん)の転ヵ】 【注② 「畾」の字のように、四角の中に十を記した印が三角の形に並べられている】 【右丁頭書】 【挿絵】 【左丁頭書】 おけば啼(なき)やむるなり ○銭瘡(せにがさ)のまじなひ ぜに瘡(がさ)の上へ其大さほどに墨(すみ) にて南(みなみ)といふ字を六ッかき上 を墨(すみ)にて真黒(まつくろ)にぬり其上へ 南の字を一字かくべしなほる こと妙なり又なほりたる上へ 北(きた)といふ字(じ)をかけばもとの如く なるなり奇妙(きめう)なり ○不時(ふじ)の難(なん)をのがるゝ呪(まじな)ひ わが寝(ね)る処の天井(てんじやう)にねる前(まへ)に ✡かくのごとく指(ゆび)にてかくまね をして中へ戌(いぬ)といふ字をかき此 字の点(てん)を打ずして左(さ)の歌を 三べんとなふべし  誰(たれ)かきて我(われ)に知(しら)せぬものあらば  ひきやちぎれや内の神々(かみ〴〵) 【右丁本文】 を解(とき)さり臍(へそ)の中へ灸(きう)をすべし又 山雀(やまがら)の黒 焼を水(みづ)にて口(くち)へ流(なが)し入べし一時より内ならば かならず甦(よみがへ)るなり又 一 溺(おぼ)れたる人を水中より倒(さかしま)に引あげ平地(へいち)に おき背後(うしろ)より抱(いだ)き留(と)め前(まへ)にて藁(わら)をたき 火気を腹へあて烟(けふり)を面(かほ)にあたるやうにす べし水を吐出(はきいだ)すものなり若(もし)水(みづ)出ざる時は 抱(いだ)きたる人其手にて臍(へそ)のあたりを上(うへ)の方へ おしあぐべし水出るものなり 一 水(みづ)を吐(はき)つくして老薑(ふるしやうが)を擦(すり)て牙歯(げし)にぬり白(みやう) 礬(ばん)を末(まつ)にして管(くだ)を以て鼻孔(はなのあな)に吹入(ふきいる)べき也 白礬(みやうばん)なきときは醋(す)を多(おほ)く鼻孔に濯(そゝ)ぎ入 てよし甦(よみがへり)て後に臍中(へそのうち)に灸(きう)すべし 【左丁本文】 一 又方 水死(すいし)人を両足(りやうそく)を高(たか)く臥(ふさ)さしめ塩(しほ)を 臍(へそ)の中にぬれば水(みづ)自然(しぜん)にいでゝ甦(よみがへ)る也もし 倒(さかしま)に引(ひつ)さげなどして水を振出(ふりいだ)すはわろし  ○縊(くび)【左に「クビクヽリ」と傍記】れたる人を救(すく)ふ法 一 縊(くび)れたる人を救(すく)はんとて縄(なは)を截断(きりたつ)べからず 妄(みだり)にきればかならず死す背後(うしろ)へまはり両(りやう)の手 臂(ひぢ)のうへよりしかと抱(だき)とめて縊人(くびれにん)の身を 少し高くする心持(こゝろもち)にて別(べつ)の人何にても持来 り足(あし)の下へ踏留(ふみとめ)になるやうにして抱(いだ)きたる 人も共にその台(だい)の上にのぼるへし如此(かくのごとく)して 後(のち)縄(なは)を截断(きりた)ち抱(いだ)きたる人 縊(くびれ)人の臍(へそ)のあたり をかゝへて縄(なは)をたつ時もろともにウンと声(こゑ) かけながら腹(はら)を引しめ按(おし)あぐへしかやうにして 【右丁頭書】 さて起(おき)たる時右の点(てん)をうつべし 旅中(りよちう)には出立(しゆつたつ)の時うつべし これは印文(いんもん)をとく意なり  ○呃逆(しやくり)のまじなひ 其人(そのひと)のしらぬやうに半紙(はんし)一枚 男ならば始(はじめ)より左のかたへ段々(だん〳〵) とをりかさねて左の膝(ひざ)の下へ しきしかと踏(ふま)へて居(を)るべし 女ならば右のかたへ折(をり)て右の膝(ひざ) にしく也其人に向(むか)ひ合せて おこなふべし わがしやくりを止(とむ)るには冷水(ひやみづ)の 中へ寺(てら)といふ字を三べんかき て其水を三口に飲(のむ)べし直(なほ)る こと妙なり ○大小便(だいせうべん)をこらへるまじなひ 大便(たいべん)に立がたき所にては殊(こと)の外 【左丁頭書】 めいわくなるものなり此時に 大便(だいへん)ならば男(をとこ)は左 女(をんな)は右の手の 中に指(ゆび)にて大の字をかき舌(した)に て三度なめてよし又 小便(せうべん)なら ば右のごとくに小の字を書て なむべし奇妙にこらへらるゝ也 ○寝小便(ねせうべん)をなほす方 半紙(はんし)一折ねござの下の小便の したる所にしきて寝(ね)させこれを 黒やきにして甘草(かんざう)五分入のむ べし其夜より止(とま)る事妙 ○旅中(りよちう)まめの出ぬまじなひ 節分(せつふん)の時 炒(いり)たる豆(まめ)をとり置 道中へ出る時 年(とし)の数(かず)など食(くひ)て ゆくべしまめいでず無難也 ○ともし火に虫(むし)の入ぬ方 卯(う)月八日に薺(なづな)の穂(ほ)をとりて 【右丁本文】 取(とり)おろし両足(りやうそく)を踏(ふみ)伸(のば)させてよし 一 縄(なは)をときおろして後 死人(しにん)の両耳(りやうみゝ)をきびしく 塞(ふさ)ぎ竹筒(たけのつゝ)を口中(こうちう)へ入れ幾人(いくたり)もかはり〴〵強(つよ)く 吹(ふく)べし尤(もつとも)口(くち)のかたはらをもふさぎ少しも気(き)の もれざるやうにすべし半日(はんじつ)ばかりにて死人 噫(あくび)出たる時ふくことを止べし 一 正気(しやうき)付たる時 肉桂(にくけい)を濃(こ)く煎(せん)じ含(ふく)み与(あた)へ 見はからひて粥(かゆ)のうは湯(ゆ)を与(あた)へ喉(のど)をうるほし てよし又方 一 鶏(にはとり)の冠(とさか)の血(ち)を口中(こうちう)へ灌(そゝ)ぎ入るもよし又 喉(のど)のあ たりに塗(ぬり)付るもよし又 鶏屎(にはとりのふん)の乾(かわ)きたるを棗(なつめ) の大きさほど酒にかきまぜ口(くち)鼻孔(はなのあな)へそゝぎ 入るもよし 【左丁本文】  ○達者(たつしや)の薬 一 旅(たび)にゆくには必(かならず)半夏(はんげ)をたしなみ持(もつ)べし 草鞋(わらじ)くひ鼻緒(はなを)ずれまめなど出来て傷(やぶ)れ いたむに半夏(はんげ)の生(しやう)の丸粒(まるつぶ)を削(けづ)り其(その)粉(こ)を 付れば奇妙になほるなり  ○白髪(しらが)を黒くする薬 一 黒大豆(くろまめ)を酢(す)にてせんじ常(つね)に鬢水(びんみづ)に つかふべし又 柘榴(じやくろ)の皮(かは)を煎(せん)じたるもよし  ○髪(かみ)の抜(ぬけ)る時ぬけざる薬 一 榧(かや) 一 胡桃(くるみ) 一 側柏葉(そくはくやう) 右三味水にひたし鬢水(びんみづ)につかふべし  ○髪(かみ)の薄(うす)き所又 禿(はげ)たるに付る薬 一 初生髪(うぶかみ) 軽粉(けいふん) 松脂(まつやに) 鼠糞(ねずみのふん) 臍帯(へそのを) 【右丁頭書】 行灯(あんどう)の内に釣(つり)ておくべし妙に 虫(むし)きたらず《割書:なづなの穂は俗に三味|せん草といふ》 ○飛蟻(はあり)の出るをとむる法 今日四ッ時大風 かくのごとく 紙(かみ)にかきて出る所に張(は)るべし ○道のあるきやうにて狐(きつね)狸(たぬき)の類  を近(ちか)よせざる方 両(りやう)の手(て)を握(にぎ)り爪(つめ)をかくしさて 足(あし)もかくのごとく何にてなりとも 爪(つめ)を包(つゝ)みて歩行(ほかう)すべしいかなる 所にても難(なん)をさくること妙也 ○桐(きり)の下駄(げた)のかけぬはきやう 桐(きり)は不浄(ふじよう)をいむもの故に雪隠(せつちん) などへははくべからずそのまゝ歯(は) のかくるもの也 ○迷(まよ)ひ子(ご)をもとむるまじなひ 男(をとこ)ならば左 女(をんな)ならば右の帯(おび)に 【左丁頭書】 尋ねにいづる人くぢらざしを指(さし) てゆくべし不思議(ふしぎ)に手がゝり出 来るなり ○産(さん)をのぶるまじなひ ひらめなる石をよく塩(しほ)にてあら ひさて      かくのごとく書付(かきつけ) ■【注】其(その)婦人(ふじん)の居間(ゐま)の      下の東方(とうばう)の地に      うつむきに埋(うづ)むべし 其後(そのゝち)産(さん)をさせんとおもふ時に この石(いし)をほり出し血(ち)といふ字 をぬぐひとるべし其儘(そのまゝ)安産(あんざん)す る事 疑(うたが)ひなし秘事(ひじ)なり ○木を植(うゑ)て枯(かれ)ざるまじなひ 卯月八日 かくのごとく紙(かみ)に かき短冊(たんさく)にしてつけ植(うゝ)へし 【右丁本文】 【挿絵】 右 粉(こ)にして胡麻油(ごまのあぶら)にてつくる也  ○髪かれて沢(うるほ)ひなきを治(ぢ)する薬 一 桑白皮(さうはくひ) 側柏葉(そくはくえう) 右二味せんじて沐(かみあら)ふべしぬけやみて潤(うるほ)ひ出る也 【左丁本文】  ○手負(ておひ)の生死(しやうし)を知(し)る法 一 白馬(はくば)【左に「アシゲムマ」と傍記】糞(ふん) 一 蓮肉(れんにく) 右二味等分 香色(かういろ)に炙(あぶ)りよくかきまぜ粉(こ)にして 茶(ちや)一ふくほどなまぬるの湯(ゆ)にて用ひ試(こゝろ)むべし 快気(くわいき)する人はうけ本服(ほんぶく)せざる人は吐逆(とぎやく)する也  ○痘瘡(はうさう)をやすくする法 一 南天(なんてん)の木 同 葉(は) 同 実(み)此三色をせんじ 浴(あび)さすべし数百(すひやく)人に用ひて何れも安(やす)し 又方 一 十二月八日に鶏卵(にはとりのたまご)をとり其(その)卵(たまこ)の中へ蚯蚓(みゝず) を一ッよく洗(あら)ひて入れ其 卵(たまご)を米(こめ)の中へ入て 飯(めし)に炊(たき)玉子を取出し皮(かは)をむき蚯蚓(みゝず)を捨(すて) て其 飯(めし)を少し卵(たまご)を少し合せ添(そへ)ていまだ 【注 ○の真ん中に「血」、その上下左右に「賦」の字】 【右丁頭書】 はえつかずといふ事なし ○芝(しば)つなぎの事 《割書:芝つなぎとは|馬を縄なく》  《割書:してつなぐ事にて|馬術の秘事也》 繋(つな)ぎたき時は此 歌(うた)をとなふべし  西東北や南にませぬきて  なかに立たる駒ぞとゞまる はなたんと思ふ時は  西東北や南のませぬきて  なかにたちたる駒ぞはなるゝ かくの如くとなふべし奇妙也 ○勝負事(しようぶごと)にまけぬ呪(まじな)ひ 枕飯(まくらめし)の箸(はし)を人のしらぬやうに とりて四角(しかく)にけづりて   トンロクモンフハ かくの如く書(かき)しるし常(つね)に懐中(くわいちう) すべし諸(もろ〳〵)のしようぶにかつこと 妙なり 【左丁頭書】 ○詞のなまりを直す方 ほとゝきすの黒やき一味さゆ にて用ゆべし ○もろ〳〵の邪祟(たゝり)を除(のぞ)く方 桃(もゝ)の木の枝(えだ)東南へさしたるを きりて釘(くぎ)に作(つく)り家(いへ)の四方の 地にうつべし又 桃(もゝ)の枝にても 板(いた)にても門口(かどぐち)にかけおくべし 一切の鬼怪(きくわい)をのがるゝなり又 桃(もゝ)の実(み)の十一月まで落(おち)ず して木にのこりたるを取て 家の内にかけおくもよし ○祟(たゝり)をはらひ妖術(ようじゆつ)をくじく  まじなひ 犬(いぬ)の白(しろ)きを血(ち)をとりて四方(しはう) の入口につくれば妖物(ようぶつ)をはらふ なり又 妖術(ようじゆつ)ある者にそゝげば 【右丁本文】 疱瘡(はうさう)せざる人に喰(くは)しむべし大にやすし  ○同く痕(あと)つかぬ方 一 疱瘡(はうさう)の山こと〴〵く上をはりて後 家鴨(あひる) の卵(たまご)の白みをとり顔(かほ)にのこらずぬり置べし 乾(かわ)くにしたがひほろ〳〵と落(おち)て痕(あと)少しも つかず日を経て顔(かんば)せ玉のごとし  ○同く草気(くさけ)まじり出かぬるを出す法 一 松茸(まつたけ)の石づき壱ッ刻(きざ)み焙(ほいろ)に少しかけて 粉(こ)にし是を湯(ゆ)にふり出し用ゆべしその儘(まゝ)【侭】 出ること奇妙なり  ○痘痕(みつちや)を愈(いや)す方 一 土白粉(おしろい)《割書:十匁|》 一 蛇骨(じやこつ)《割書:三匁|》 一はらや《割書:二匁|》 一 葛粉(くずのこ)【「粉」の左に「一分」と傍記】 右 細末(さいまつ)にして大根(たいこん)のしぼり汁にてとき夏毛(なつげ) 【左丁本文】 の筆(ふで)にて窪(くぼ)き所に付べし癒(いゆ)る事妙也  ○面皰(にきび)を治する薬 一 密陀僧(みつだそう)を粉(こ)にし女の乳汁(ちしる)にてとき 寝(ね)さま〳〵に面(かほ)にぬり明る日 洗(あら)ひ落(おと)す べし三四五度すれば必ずいゆる也  ○人の身(み)の朽(くち)入たるを治す薬 一 螽(いなご)《割書:黒やき|》軽粉(けいふん)《割書:少|》おし合せ穴(あな)のふかさほどに 丸(ぐわん)じて朽(くち)たる所へ入れ紙(かみ)にて張(は)り其上に 灸(きう)を三ッ四ッするなり  ○鮫肌(さめはだ)をなほす方 一 行水(ぎやうずい)の湯(ゆ)の中へ酒一升入れ廿一日 続(つゞ)け て洗(あら)ふべし肌目(きめ)よくなり鮫肌(さめはだ)悉(こと〴〵)く愈(いゆ)  ○酒(さけ)の酔(ゑひ)を醒(さま)す薬 【右丁頭書】 その法をおこなふ事あたはず ○夜おそはるゝまじなひ 赤(あか)き毛氈(もうせん)一尺をまくらにし て寝(いぬ)べし又 犀角(さいかく)を枕(まくら)にする もよし ○夫婦(ふうふ)中よくする方 五月五日に鳴鳩(めいきう)【左に「ハト」と傍記】の脚脞骨(あしぼね)を とりて紅(べに)の袋(ふくろ)にいれ男は左 【挿絵】 【左丁頭書】 女は右の手にかけおくべし つねに袂(たもと)に入るもよし忽(たちま)ち中 よくなる也 ○嫉妬(りんき)をやむるまじなひ 黄鳥(うぐひす)を煮(に)て食(くは)しむべし 其女ねたみを忘(わする)る也 又 赤黍(あかきび)と薏苡仁(ぐすだま)と等分の 丸薬(ぐわんやく)とし常に女に呑(のま)しむべし 悋気(りんき)やむ事妙なり ○女の外心(ほかごゝろ)あるを知る方 東のかたへゆく馬(むま)の蹄(ひづめ)の下(した) の土をとりて女の衣服(きもの)にかく し入おくべしその情詞(じやうことば)に あらはるゝもの也 ○雷(かみなり)よけのまじなひ 梓(あづさ)の木を庭(には)へうゑおくべし 雷(かみなり)おつることなし又此木を家(いへ)の 【右丁本文】 一 水梨子(みづなし)の大なるを皮(かは)をむき山葵擦(わさびおろし)に ておろし汁(しる)をしぼり出し其 糟(かす)をよく干(ほ)し 干(ひ)あがりて後又汁に浸(ひた)し又 取上(とりあけ)ては干(ほ)し 毎々 如此(かくのごとく)にして汁の皆(みな)尽(つき)たるを猶よく 日に干し粉(こ)にして置酒に酔(ゑひ)たる時 茶(ちや)一服(いつふく) ほどづゝたてゝ呑(のむ)べしさむる事 神(しん)のごとし 尤(もつとも)井花水(くみだてのみづ)よろし又方 一 桜(さくら)の皮(かは)を黒焼(くろやき)にして糊(のり)を以て丸(ぐわん)じ 酔て堪(たへ)がたき時三 粒(りう)ほど飲(のむ)べし妙なり  ○船(ふね)に酔(えは)ざる法 一 半夏(はんげ)を湯煮(ゆに)して臍(へそ)へいれ紙(かみ)にて上を はりておくべし船(ふね)に酔ふ事なしまた 梅干(むめぼし)を喰(くら)ふもよし 【左丁本文】  ○中風(ちうぶ)の薬 一 桑(くは)の木の南(みなみ)の方へ出たる根(ね)をとりよく あらひ日に干(ほ)し刻(きさ)みせんじさんしや《割書:一味|》細(さい) 末(まつ)して散薬(さんやく)となし右の桑(くは)の根(ね)をせんじ 汁として度々(たび〳〵)用ゆる時は中風(ちうぶ)一切(いつさい)の煩(わづら)ひに 妙なり尤(もつとも)調合(てうがふ)の節(せつ)不浄(ふぢよう)をいむ  ○乳(ちゝ)の腫物(しゆもつ)を治する薬 一 韮(にら)を以て熨(の)すべし李(すもゝ)の汁を付るもよし 又 牛膝(ごしつ)を用ひて水に入せんじて膏薬(かうやく)の ごとくにして布(ぬの)ぎれを以てのべてつくれば 忽(たちまち)に効(かう)あり  ○淋病(りんびやう)の薬 一 甘草(かんざう)《割書:一分|》 一 木通(もくつう)《割書:一分|》 一 紅花(こうくわ)《割書:一分|》 【右丁頭書】 材木(ざいもく)に用れば雷おちず俗(ぞく)に かはらひさ木といふ木なり 又方 五月五日午の刻(こく)に艾葉(よもぎ)と 浮萍(うきくさ)とをとり陰乾(かげほし)にして 雷のなる時たくべし ○人を富貴(ふうき)ならしむる方 十二月 豬(ぶた)の耳(みゝ)をとりて梁(うつばり)の上 に懸(か)けおくべしその家かなら ず富貴(ふうき)になるなり ○物わすれせぬまじなひ 五月五日に鼈(すつほん)の爪(つめ)を衣類(きもの) の領(えり)の中に入おくべしおぼえ よくなるなり ○よく眠(ねむ)る人をねふらせぬ方 馬(むま)のかしらの骨(ほね)を焼(やき)て灰(はひ)と なし一匕(ひとさじ)つゝ日に三度のむ時は 【左丁頭書】 ねむる事なし夜も一度吞 てよし又馬の頭骨(かしらぼね)を枕(まくら)と すればねすぎる事なし ○夜(よる)寝(ね)られる人をねさし むる方 阿蘭陀(おらんだ)より来るムスカアテ の油といふものを酒(さけ)にいれて 寝(ね)しなに飲(のむ)べし快(こゝろよ)くねふら るゝなり ○時疫(じえき)瘟病(うんびやう)をはらふ方 正月朔日又は十五日に赤小豆(あづき) 二十 粒(つぶ)麻子(あさのみ)七粒を井(ゐ)の中に 投(なげ)いれおくべし此水(このみづ)をのむ 人ははやり病をわづらふこと なし又方 銅(あかゞね)を懐(ふところ)にして身につけをれば はやり病うつらず又 酢(す)を沸(わか) 【右丁本文】 右三味つねの如くせんじ用ゆ又方 一 螻(けら)を生(なま)にて吞酒を以て送(おく)り下(くだ)すまた 螻(けら)をすり爛(たゞ)らし臍(へそ)へいれおくも妙なり  ○筋気(すぢけ)の薬 一 山椒(さんしやう)の黒(くろ)き実(み)を細末(さいまつ)にしていたむ所へ つけてよし旅中(りよちう)などに甚(はなはだ)重宝(てうほう)なりまた 白湯(さゆ)にてのむもよし  ○膈(かく)の薬 紺屋(こんや)の染藍(そめあゐ)を陰干(かげほし)にし粉にして用ゆ又 鳳仙花(ほうせんくわ)の実(み)三合をとりて黄(き)になるまで いりて粉となし三匁づゝ能酒(よきさけ)にて飲べし 食(しよく)のすゝむ事妙也又方 一 山生魚(さんしやううを)の陰干(かげぼし)を末(まつ)とし味噌汁(みそしる)に入て 【左丁本文】 食(しよく)する時は飯(めし)もおのづから通(とほ)る也  ○雷(かみなり)に驚(おどろ)き死したるを活(いか)す方 一 蚯蚓(みゝず)を多く集(あつ)めてすりつぶし足のうらへ すりつけおけばよく甦(よみがへ)るなりまた 一 鮒(ふな)を生(なま)にてすりつぶし火気(くわき)のあたり たる処(ところ)へぬり付るもよし奇薬(きやく)也 【挿絵】 【右丁頭書】 して身にそゝぎ病人(びやうにん)にもそゝ ぎおけば近(ちか)よりてもうつらぬ 事妙なり又 赤(あか)き袋(ふくろ)に馬(むま)のほねをいれて 男(をとこ)は左女は右の手にもつべし はやり病の気(き)にあたらず ○痢病(りびやう)をはらふまじなひ 七月 立秋(りつしう)の日 西(にし)にむかひて くみだての水をもつて赤小豆(あづき) 七粒をのむべし又 七月十三日に厠舎(せついん)をあらひて 清(きよ)むれば痢(り)を煩ふ事なし 又 木槿(むくげ)の花をみそ汁にして 食(くら)ふべしこれは少しかけたる をもはらひ除(のぞ)くべし又 無花果(いちじく)【左に「タウガキ」と傍記】の枝を出口(でくち)〳〵に釣(つり) おくべし妙なり 【左丁頭書】 ○疱瘡(はうさう)目にいらぬまじなひ 緑豆(りよくづ)七ッをその児(こ)にもたせて 井(ゐ)の中へ投入(なげいら)しむべしその後 この井戸(ゐど)を七へん祈(いのら)しめて かへるべしいかやうなる疱瘡(はうさう)に ても目に入ることなし ○小児(せうに)夜なきのまじなひ一方 犬(いぬ)の毛(け)をあかき袋(ふくろ)にいれて 背(せ)の上にかけておくべし又 牛(うし)の糞(くそ)一塊(ひとかたまり)をとりて席(むしろ)の 下へ入おくべし母にも乳母(うば)にも 共に知せぬやうにする也また 猪(ゐのしゝ)のふしどの中に生(はえ)たる草(くさ)を ひそかにしくもよし ○小児 夜(よる)寝(ね)かぬるまじなひ うぐろもちの頭(かしら)の骨(ほね)を枕(まくら) のほ[と]りにおくべしよくねいる也 【右丁本文】  ○木舌(もくぜつ)の薬 一 舌(した)こはり腫(はれ)て木(き)のごとくなり口中にみち たるには芍薬(しやくやく)甘草(かんざう)つねのごとくせんじ 含(ふく)みてよし又 砂糖(さたう)に醋(す)をまぜふくみても よし  ○金(かね)を吞(のみ)たるを治する方 一 誤(あやまつ)て金銀(きん〴〵)銅錫(どうしやく)の類(るい)を吞たるをそのまゝに すておけば竟(つひ)に病となるもの也そのときは 生鴨(なまがも)の血(ち)を盃(さかづき)に一はいのみてよし 一 小児(せうに)の銭(ぜに)を吞たるには生(なま)の薺(なづな)をおほく 食すべし忽(たちま)ち化(くわ)して下り出る也  ○腫(しゆ)【左に「ハレ」と傍記】気(き)の薬 一 林檎(りんご)一味 黒焼(くろやき)にして用ゆ甚だ効(しるし)あり又 【左丁本文】 冬瓜(かもうり)の皮(かは)の所の中の白みを干物(かんぶつ)にして用ひ てよし又 一 商陸(しやうりく)《割書:大|》 一 芒根(ばうこん)《割書:中|》 一 菟糸子(としゝ )《割書:中|》 右三味 常(つね)のごとくせんじ用ゆ甚妙なり  ○上戸(じやうご)を下戸(げこ)にする方 一 酒(さけ)を飲(のむ)ごとに酔狂(すいきやう)し踊(をど)り狂(くる)ひて喧嘩(けんくわ)口(こう) 論(ろん)などする人あり醒(さめ)てはみづからも悔(くや)めども 又しては起(おこ)るものなりこれを治するには 酒の飲(のめ)ぬやうにせんより外にすべなし其方 五月五日の朝(あさ)笹(さゝ)の葉(は)の露(つゆ)を取(とり)盃(さかづき)にいれ 酒にまぜて其人のしらぬやうにして飲(のま)す べし治(ぢ)すること妙なり又 白狗(しろいぬ)の乳(ちゝ)鵜(う)の 糞(ふん)などいづれも験(しるし)あり先祖(せんぞ)の石塔(せきたふ)に手向(たむけ) 【右丁頭書】 又 焼尸場(やきば)の土(つち)をまくらもとに おくもよし ○女人(をんな)の邪祟(たゝり)ありて物に見  いれられたる時の方 一 真(しん)の雄黄(をわう)《割書:壱両細末|》松脂(まつやに)《割書:四両|》 右 松脂(まつやに)を鍋(なべ)にいれてせんじ とらかして雄黄(をわう)をいれて虎(とら) の爪(つめ)にてかきまぜ鉄炮玉(てつはうたま)ほどに 丸じ夜(よる)籠(かご)の中にてこれを たき女人(をんな)をその上に坐(ざ)せしめ 衾(ふすま)をもつて上をおそひ頭(かしら) ばかりを外へ出さしおくべし かくの如くする事 三剤(さんざい)に過(すぎ) ずしておのづから邪気(じやき)絶(たゆ)る也 その後  雄黄(をわう) 人参(にんじん) 防風(ばうふう)  五味子(ごみし) 《割書:おの〳〵等分|》 【左丁頭書】 右四味 細末(さいまつ)にし井水(ゐのみづ)にて服(ふく) する事 壱匕(ひとさぢ)にして全(まつた)くいゆ るなり ○山中(やまなか)野原(のばら)にて道に迷(まよ)はず  狐(きつね)狸(たぬき)に迷(まよ)はされぬ方 山亀(やまがめ)の足(あし)の骨(ほね)をとりて男は 左女は右の手に佩(おぶ)べしまよふ ことなし ○剣難(けんなん)よけのまじなひ 朱鼈(しゆべつ)とて大さ銭(ぜに)ほどあり て腹(はら)赤(あか)きこと血(ち)のことき鼈(すつほん) ありこれをおぶれば刃物(はもの)身 を傷(そこな)ふことなく女人は愛敬(あいきやう)あ りて人にすかるゝなり ○願(ねが)ふ事 成就(じやうじゆ)する方 雄鶏(をにはとり)の毛(け)をやきて酒の中に ひたして飲(のむ)べし又五月五日 【右丁本文】 たる水を酒に和(ませ)て用ゆるもよし  ○霜(しも)やけの薬 一 茄子(なすび)のへた《割書:干物|》 一 葱(ねぎ)の白根(しらね)《割書:十本|》 右二味水 一盃半(いつはいはん)を八分目(はちぶんめ)にせんじ洗(あら)ふべし 又 油(あぶら)の土器(かはらけ)を黒焼にして付るもよし  ○前陰(まへ)に蝨(しらみ)【虱】わきたるを治する方 一 あくけつよき煙草(たばこ)を湯(ゆ)にぬらし摺付(すりつけ)る ときは蝨(しらみ)赤(あか)くなりて死するなり  ○小児(せうに)の睪丸(きんだま)【「睪」は「睾」の誤字ヵ】腫(はれ)たる薬 一 天瓜粉(てんくわふん)《割書:一匁|》 一 甘草(かんざう)《割書:一匁五分|》 右二味よく〳〵煎(せん)じのみてよし  ○毛(け)はえ薬 一 半夏(はんげ)一味 細末(さいまつ)にして付れば速(すみやか)にはゆる也 【左丁本文】 又方 枳穀(きこく)を丸(まる)ながら黒焼(くろやき)にし真菰(まこも)の灰(はひ)と 等分(とうぶん)に合せ髪(かみ)の油にてときてぬるべしまた さんだい草(さう)といふくさを黒焼(くろやき)にして油にて ねりて付るもよし又方  秦椒(さんしやう) 白芷(びやくし) 蔓荊子(まんけいし) 零陵香(りやう〳〵かう)  附子(ぶし) 川芎(せんきう)《割書:各十匁|》 右六味 生(しやう)にて細(こまか)にきざみ絹(きぬ)に包(つゝ)み白(しら)しぼ りの油に廿一日 浸(ひた)しおき一日に三度づゝ禿(はげ) たる処に付べし  ○髪(かみ)の赤(あか)きをなほし光沢(つや)を出す方 一 桐木(きりのき)をせんじ髪(かみ)をあらへば赤(あか)き色も 黒(くろ)くなること妙なりまた麻(あさ)の葉(は)桑(くは)の葉を 等分(とうふん)にして煎(せん)じあらふもよしつねに灯(とも)す 【右丁頭書】 戊辰の日 猪頭(ゐのしゝのかしら)を以て竈(かまど)に祀(まつ) るべし求(もとむ)る所心のまゝなり ○狐(きつね)を穴(あな)へかへさゝる方 犀角(さいかく)をきつねの穴に入おく べしその穴(あな)へ二度かへることなし 又 害(がい)をなす事もなし ○猪(ゐ)のしゝ田畠(たはた)を荒(あら)さゞる 【挿絵】 【左丁頭書】  まじなひ 夜々(よる〳〵)女の機(はた)おる道具(だうぐ)を猪(しゝ) の来る処におくべし ○狐(きつね)狸(たぬき)猫鬼(ねこまた)など人につきて  何物ともしれぬを知る方 鹿角屑(しかのつのゝこ)を搗(つき)て末(まつ)とし水に てひとさぢ吞(のま)しむべしつき たる物かならず実(じつ)をいふべし ○五穀(ごこく)を食(くは)ずして餓(うゑ)ざる法 白茅根(はくばうこん)をとりて洗(あら)ひて咀嚼(かみくら) ふべし又は石の上にてさらし 乾(かわか)し搗(つき)て末となし一匕(ひとさぢ)づゝ のむべし餓(うゆ)ることなし ○悪瘡(あくさう)凍瘡(あかぎれ)をふせぐ方 五月五日に独蒜(にんにく)をとりて搗(つき) たゞらかし手足(てあし)身(み)にも面(かほ)にも ひたとぬるべし一年中(いちねんぢう)諸種(しよしゆ) 【右丁本文】 菜種(なたね)の油(あぶら)を髪(かみ)につくれば髪(かみ)長(なが)くなりて 光沢(つや)出るなり  ○黄疸(わうたん)の薬 一 鶏卵(たまご)一ッ殻(から)ともに黒焼(くろやき)にし酢(す)一合にて あたゝめ服(ふく)すべし鼻(はな)より虫(むし)出て愈(い)ゆまた 甜瓜(まくは)の蔕(ほぞ)四十九を六月にとり丁子(ちやうじ)四十九 と合せ鍋(なべ)にて煙(けふり)の立やむまで焼(やき)て末(まつ)とし 大人に壱匙(ひとさぢ)小児(せうに)に半匙(はんさぢ)づゝ鼻(はな)の内にたび 〳〵吹(ふき)入るべし忽(たちまち)にいゆる也  ○ねぶとの薬 一 青木(あをき)の葉を火にあふれば音(おと)ありては ねる也其時とりて二まゐにへぎねぶとの上に 張付(はりつく)ればよく膿(うみ)を吸(すひ)てはやくいゆるなり 【左丁本文】 また石蕗(つはぶき)の葉を右のごとくしてねぶとの 上につくべしねぶとのみならず諸(もろ〳〵)の腫物(しゆもつ)に つけていづれもよし  ○諸(もろ〳〵)腫物(はれもの)の妙薬 一 何の腫物(はれもの)にてもうみて痛(いたみ)甚(はなはだ)しきに唐大黄(たうだいわう) の粉(こ)を大楓子(だいふうし)の油(あぶら)にときてはれたる上に ぬり付おけば一夜(いちや)のうちに口あきて膿(うみ)血(ち)多(おほ) く出てたちまちに愈(いゆ)べし  ○痰(たん)の薬 一 竹葉(たけのは)《割書:大|》黒豆(くろまめ)《割書:中|》甘草(かんざう)《割書:小|》 三味水にせんじ 用ふべし即効(そくかう)あり又方 飴(あめ)を豆腐(とうふ)の湯(ゆ)にてせんじ頻(しきり)にのむべし また藕(はすね)の汁(しる)梨子(なし)の汁 等分(とうぶん)に合せ用ゆべし 【右丁頭書】 物 悪瘡(あくさう)生(しやう)ずることなし冬 あかぎれ切るゝことなし妙也 ○子をまうくる方 二月 丁亥(ひのとゐ)の日 杏花(きやうくわ)と桃花(とうくわ)と をとりて陰干(かげぼし)にし末(こ)にして 戊子(つちのえね)の日 井美水(くみたてのみづ)にて一匕 ふくすべし日に三度のむ也 かならず孕(はら)むこと妙 ○男子(なんし)をまうくる方 虎(とら)の鼻(はな)を以て居間(ゐま)の戸(と)の うへに懸(かけ)おくべし生るゝ子 かならず男子也 ○難産(なんざん)を生(うま)するまじなひ 蓮花(れんげ)一ひらに人といふ字を かきて吞すべし安(やす)く産(さん)す ること妙也又 桃仁(とうにん)壱 粒(りう)を二ッにさきて一片(いつへん) 【左丁頭書】 には可(か)の字(じ)をかき一片(いつへん)には出(しゆつ) の字をかき又あはせてこれを 吞べし即時(そくじ)に出生(しゆつしやう)す又 牛屎(うしぐそ)の中にまりじて出たる 大豆(まめ)一粒をとりてわりて 両片(りやうへん)とし一方(いつはう)に父(ちゝ)といふ字 をかき一方に子(こ)といふ字をかき 又合せて紙(かみ)につゝみて水にて 母にのますべし忽(たちま)ちに産(さん)する也 又 大豆(まめ)一粒をわりて一方には 伊(い)の字をかき一方には勢(せ)の字 をかき合せつゝみて水にて吞(のま)す べし男子(なんし)は左女子は右の手に この大豆(まめ)を持(もち)て生(うま)るゝなり 疑(うたが)ふべからず ○樹(き)に毛虫(けむし)を生ぜぬ方 木の根(ね)に蚕蛾(さんが)をうづむべし 【右丁本文】 またせき入て気(き)を失(うしな)ふほどなるには竹瀝(ちくれき) 《割書:竹をあぶりて|とりたる汁也》を用ゆべし白(しら)しめの油にてもよし たちまちに治(ぢ)する也また大根(だいこん)の実(み)をせんじ 用ゆるもよく菜(な)の根(ね)をせんじてもよし いづれも皆(みな)奇効(きかう)あり  ○脱肛(だつこう)を治する薬 一 肛門(しりのあな)ふくれて長くいづるを脱肛(だつこう)といふ 鮒(ふな)のかしらを黒焼(くろやき)にして酒(さけ)にて飲(のむ)べし また油(あぶら)にまぜてぬり付るもよし又方 黄連(わうれん)一味水にてときぬりつけてよし  ○癩風(かつたい)の妙薬 一 松脂(まつやに)をねり水に入れ煉(ね)る事二十度して 蜜(みつ)にて胡桝(こせう)【椒】ほどに丸(ぐわん)し二十 粒(りう)づゝ空腹(すきはら)に 【左丁本文】 白湯(さゆ)にて用ゆべし久しくして効(しるし)あり一切(いつさい) 塩気(しほけ)の物をいむべし又方 石灰(いしばひ)二升五合 水(みづ)にかきまぜすまして其水に て蓮葉(はすのは)三十 枚(まい)をせんじ五六日に一度づゝ半(はん) 【挿絵】 【右丁頭書】 また魚(うを)のあらひ汁をそゝぐ もよろし ○炭火(すみひ)のはねぬまじなひ 塩(しほ)を少しばかり火の中へ つまみ入(いる)ればその火はぬること なし ○蓮池(はすいけ)の用心(ようじん) 蓮池に桐油(とうゆ)を入るゝ時は荷(はす) こと〴〵く枯(かる)るなり ○漆(うるし)にまけぬ用心 川椒(せんしやう)【左に「さんしやう」と傍記】をかみて鼻(はな)の上にぬれ ばうるしにかぶれず ○疣(いぼ)をぬくまじなひ 七月七日 大豆(たいつ)を以て疣(いぼ)の上 を拭(ぬぐ)ふこと三度此 豆(まめ)をその 人に南むきの屋(いへ)の東(ひがし)より 第二番目(だいにばんめ)の溜(みぞ)の中に種(うゑ)おかす 【左丁頭書】 べしその豆(まめ)葉(は)を生(しやう)ずるとき 熱湯(にえゆ)を沃(そゝ)ぎてからすなり疣(いほ) たちまちおつる ○かん強(つよ)き馬を驚(おどろか)さぬ方 狼(おほかみ)の尾(を)を馬のむねの前に かくべし物におとろかずして且(かつ) 邪気(じやき)をもさくる也 ○虱(しらみ)わかぬ方 木瓜(もくくわ)を切へぎて席(むしろ)の下にし くべし虱(しらみ)わく事なし妙 ○人の臥(ふし)たるを起(おこ)さぬまじ  なひ 東(ひがし)へゆく馬(むま)のひづめの下の土を とりて三家(さんか)の井の内の泥(どろ)に 合せねたる人の臍(へそ)のしたに おく時はその人 臥(ふ)して起(おき)る ことなし 【右丁本文】 日ばかり浴(よく)すべし又方 荊芥(けいがい)薄荷(はくか)二味水に てせんじ馬鞭草(ばべんさう)の粉(こ)をその汁にて用ゆべし 又方 大黄(だいわう)をあつ灰(ばひ)にうづみ焼(やき)にして十匁 皀(さい) 莢刺(かちのとげ)十匁同じく粉にして一匁ツヽすき腹(はら)に温(あたゝめ) 酒(ざけ)にて用ゆ大便(たいべん)より悪物(あくぶつ)下りていゆべし 又 白癩(しろかつたい)には苦参(くらゝ)をきざみてかけめ八百目を 上酒(じやうざけ)八升にひたし絶(たえ)ず飲てよし幷(ならび)に苦参(くらゝ)の 根(ね)と皮(かは)とを粉(こ)にし右の酒にてのみてよし  ○疿子(あせも)の薬 一  胡瓜(きうり)をきりてその切口(きりくち)にてあせもを すりてよしまた升麻(しやうま)を水にてせんじて たび〳〵あらひてよし  ○脚気(かつけ)の薬 【左丁本文】 一 商陸(やまごばう)の生(なま)の根(ね)をせんじ其汁(そのしる)にて赤小(あづ) 豆(き)を煮(に)て食(くら)ふべし尤(もつとも)塩気(しほけ)を止(やめ)飯(めし)を減(げん)じ 一切(いつさい)あぶらづよき魚類(うをるい)を禁(きん)ずべし又方 冬瓜(かもうり)の小口(こぐち)を切(きり)中の実(み)を出して其あとへ 赤豆(あづき)をつめ黒焼(くろやき)にして寒中(かんちう)三十日がほど 白湯(さゆ)にてのむべし其 翌年(よくねん)よりかつけ 起(おこ)ることなし奇妙(きめう)なり又方 脚気(かつけ)心(むね)を衝(つき)てくるしむに白礬(はくばん)二十匁水四 升ほどに入れ煎(せん)じ三五度 沸(わか)したてゝ脚(あし)を いれて浸(ひた)してよしまた西瓜(すいくわ)を多く喰(くら)へば 小便(せうへん)おほく出て心(むね)ゆるむなり西瓜(すいくわ)のたねを せんじ用るもよし皮(かは)もよし  ○そげの立(たち)たるぬき薬 【右丁頭書】 【挿絵】 ○いかほど寝(ね)ても〳〵ねむたき  をなほす方 鼠(ねずみ)の目(め)を一ッとりて焼(やき)て魚(うを)の あぶらにて丸薬(ぐわんやく)としその人の 目眥(まじり)にいれおくべし又 絳嚢(あかきふくろ) に二ッ入ておぶべし ○小児(せうに)の寐小便(ねせうべん)せぬまじなひ 紅紙(あかがみ)にて馬のかたちを四疋(しひき) 【左丁頭書】 剪(きり)造(つく)りて小児(せうに)のねる床(ゆか)の 下にしくべし尤(もつとも)七夜(なゝよ)つゞけて 如斯(かくのごとく)してなほる事妙なり ○息(いき)の臭(くさ)きを治(ぢ)するまじなひ 毎月 朔日(ついたち)日(ひ)の出(いで)ざる前(まへ)に口 中に水をふくみ東(ひがし)の方より あるくこと七足(なゝあし)にしてうしろへ 向(む)き東(ひがし)の方の壁(かべ)にむかひ 立ながら含(ふく)みたる水を七度 はくべし口(くち)のくさみさる事 妙(めう)なり ○雀目(とりめ)を治(ぢ)するまじなひ とり目(め)の人を暮(くれ)がたに雀(すゞめ)の やどる所へつれ行 雀(すゞめ)を見せ さて雀(すゞめ)を竹竿(たけざを)にて打おどろ かし雀(すゞめ)のとぶ時 此文(このもん)をとなふ べし 【右丁本文】 一 竹木(ちくぼく)のそげたちたるに甘草(かんざう)をかみて つけておけば抜出(ぬけいづ)るなり深(ふか)く入たるには 度々つけてよしまた蟷螂(かまきり)をとり陰(かげ) 干(ぼし)にしておき麦飯(むぎめし)のそくひにおしまぜて つくべし抜出(ぬけいづ)ること奇妙(きめう)なり  ○そら手を直(なほ)す方 一そら手《割書:何といふことなく手いたみて物をとる時など大に|ひゞくを俗にそら手といふ又小うでのさがり》 《割書:たるなど|もいふ》には古綿(ふるわた)を火にくべその煙(けふり)にて薫(ふすむ) ればすなはちやむくぢきたがひたるにもよし  ○血(ち)とめの一方 一五月五日に韮(にら)のしぼり汁をとり石灰(いしばひ)の 粉(こ)にこね合せ餅(もち)のごとくして風のすく処に つりおくべし細末(さいまつ)にして一切(いつさい)の斬瘡(きりきす)に付(つく)るに 【左丁本文】 血(ち)をとめてはやく愈(いゆ)ること妙々なり年(とし)を 経(へ)て久(ひさ)しきほど其功(そのこう)ありたくはへおくべし  ○魚骨(うをのほね)喉(のど)にたちたる薬 一 魚骨(うをのほね)喉(のど)にたちてぬけがたきに鳳仙花(ほうせんくわ)の 実(み)を舌(した)のさきにおけばそのまゝぬける事 妙なり或(あるひ)は粉(こ)にして吞(のみ)てもよし又 橄欖(かんらん) 子(し)の末(まつ)を飲(のむ)もよしまた鵜(う)の吭(のど)をとり干(ほし) おきてその中より水をのみてよし速(すみや)かに ぬけるなり《割書:鵜(う)の吭(のど)とてきり〳〵と巻(まき)たるごとき物をいふは|のどにはあらずよく〳〵たづねて貯(たくは)へおくべし》  ○霍乱(くわくらん)の急方(きふはう) 炎暑(えんしよ)の時気(じき)に中られて腹痛(ふくつう)吐瀉(としや)甚(はなはだ)しく 悶(もだ)へ苦(くる)しむを霍乱(くわくらん)といふ急(きふ)に救(すくは)ざれば死(し)に 至る諸薬(しよやく)の内 尤(もつとも)簡便(かんべん)【左に「ヤスキ」と傍記】なるをこゝに記(しる)す 【右丁頭書】 紫公紫公(しこう  〳〵 )我還汝(がげんぢよ)盲汝還明(もうぢよげんみやう) 我(が)と毎日(まいにち)かくのごとくすればなほ ること妙なり ○魚(うを)のほね喉(のど)に立(たち)たるまじなひ 骨(ほね)を喉(のど)に立たる人の頭(かしら)より 投網(たうあみ)をかけおほふべし忽(たちま)ちに ぬけること奇妙(きめう)なり又 砂糖(さたう) 水をのむもよし 又方 新(あたら)しき茶碗(ちやわん)に汲立(くみたて)の 水をいれ此文をとなふべし 謹上(きんじやう)太上(だじやう)東流(とうりう)順水(じゆんすい)如(によ)南方(なんばう) 火帝(くわてい)律令(りつりやう)勅(ちよく) この文を一息(ひといき)に七へんとなへ 右茶わんの中へ唱(とな)へたる気(き)を吹(ふき) 入ること七へんしてその水を呑(のむ) べし骨(ほね)のぬける事 奇々妙(きゝめう) 妙(〳〵)なり 【左丁頭書】 【挿絵】 【右丁本文】 惣(そう)じて蒜(にゝく)の根(ね)をつきたゞらして水(みづ)にたてゝ用 るをよしとす吐(はき)て止(やま)ざるに糯米(もちごめ)を水にいれすりて 其 汁(しる)を飲(のむ)べし咽(のど)渇(かわ)くに芦(あし)の葉(は)をせんじて用 ゆべし又 米泔水(しろみづ)もよし泄瀉(くだり)やまざるに艾葉(もぐさ)を 水にて濃(こ)くせんじて用ゆべし又 芥子(からし)を水にて ねり臍(へそ)につくるもよし又 蓼葉(たでのは)をすりて其汁 をのむも妙(めう)なり此外(このほか)蓮藕(はすのね)梅干(むめぼし)桃葉(もゝのは)乾姜(かんきやう) 塩(しほ)などいづれも奇効(きかう)あり又 毎日(まいにち)蒜(にゝく)一ッか或(あるひ)は 胡椒(こしやう)一粒かを服(ふく)する時は霍乱(くわくらん)の憂(うれへ)さらに なし疑(うたが)ふべからず 【左丁本文】 経験灸治類第三【項目を▢で囲む】 人(ひと)の生(せい)を保(たも)つは気血(きけつ)の二ッあるを以(もつ)てなり 然(しか)れば常(つね)の養生(やうじやう)には陽気(やうき)を助(たす)け気血(きけつ)を 順にめぐらすを以て第一(だいゝち)とすべし気(き)塞(ふさ)がり 血(ち)滞(とゞこほ)れば陽気(やうき)不足(ふそく)し血(ち)もしたがつて生(しやう) ぜず竟(つひ)に疾病(やまひ)となるなり是(これ)をめぐらする には灸治(きうぢ)にまされることなしされば疾病(やまひ)な き人なりともをり〳〵灸治(きうぢ)して怠(おこた)らず気(き) 血(けつ)を順(じゆん)にする時は食物(しよくもつ)消化(せうくわ)して血液(けつえき)滞(とゞこほ)ら ず故(ゆゑ)に疾病(やまひ)なくして気(き)常(つね)に満足(まんぞく)すべし これ第一の養生法(やうじやうほう)なれば必(かならず)灸治(きうぢ)をすべき 【右丁頭書】 暦(こよみ)中段(ちうだん)下段(げだん)の略解(りやくげ) ○中段(ちうだん)十二 客(かく)の事 建除満平定取破危( たつ のぞく みつ たひら さだん とる やぶる あやふ) 成収開閉( なる をさん ひらく とづ )これを十二 客(かく)と いふおの〳〵吉凶(きつきよう)のことわり有 あらまし下にいふが如(ごと)し客(かく)とは 其日(そのひ)にあたりて外(ほか)より来(きた)りて やどる心なり ○建(たつ)は天(てん)のなりはじまる日也 種(たね)をまき神(かみ)を祭(まつ)り柱(はしら)をた て家(いへ)を造(つく)り婚礼(こんれい)をなし 旅(たび)に出たつなど物事(ものごと)を始(はじむ)るに 大吉(だいきち)なり但(たゞ)し土(つち)を動(うごか)さず ○除(のぞく)は土(つち)の成(なり)はじまる日なり 井(ゐ)をほり道(みち)をゆくによし 寺(てら)をたて土をうごかし夫妻(ふさい)に 【左丁頭書】 逢(あひ)はじむればかならず死(し)する也 ○満(みつ)は人のなりはしまる日也 神(かみ)をまつり家(いへ)を造(つく)り移住(わたまし)又 夫妻(ふさい)に逢初(あひそむ)るによし土を動(うご)かし 種(たね)をまくにもよし ○平(たひら)は四天王(してんわう)の成初(なりはしま)る日なり 神(かみ)を祭(まつ)るにはよし仏事(ぶつじ)には 悪(あし)し種(たね)まき旅行(りよかう)婚礼(こんれい)等には よし ○定(さだん)とは五穀のなりはじまる日也 神(かみ)を祭(まつ)り家(いへ)を造(つく)るにはわろし 種(たね)をまき婚礼(こんれい)旅行(りよかう)土(つち)をうご かし井(ゐ)を掘(ほる)には大吉日なり ○取(とる)とは天福(てんふく)の成(なり)はじまる日也 神を祭(まつ)りたねをまき婚礼(こんれい)に 用ひて福徳(ふくとく)来り百三十年 保(たも) ち安全(あんせん)なり家造(いへづくり)井掘(ゐほり)大によし 【右丁本文】 なり仍(よつ)て其(その)灸穴(きうけつ)の験(しるし)あるものゝ素人(しろうと)にて も点(おろ)しやすきを左に挙(あげ)て民家(みんか)救患(ぐくわん)の一助(いちじよ) とす  ○四花(しくわ)の灸(きう)おろしやう この灸(きう)気(き)をひらき痰(たん)を治(をさ)め虚(きよ)を補(をぎな)ひ腎(じん)を 益(ま)す故(ゆゑ)に伝尸(でんし)労咳(らうがい)気鬱(きうつ)虚症(きよしやう)に神効(しんかう)あり おろしやうは藁(わら)しべにても紙索(こより)にてもつぎて 大椎(たいずゐ)の骨(ほね)《割書:脊(せ)すぢ第一の大ほね|にて頸(くび)のつけねなり》の上より引かけて前(まへ) へおろし鳩尾(きうひ)【左に「ミヅオチ」と傍記】《割書:むねの下のくぼ|まりたる処也》にて両端(りやうはし)をきり さて其しべの正中(まんなか)を結喉(けつこう)《割書:のどの下の二ッある|骨(ほね)のまん中なり》へあて 後(うしろ)へまはししべの尽(つく)る所の背(せな)の正中(まんなか)に仮(かり)に 墨(すみ)をつけ別(べつ)に又 口(くち)の広(ひろ)さの寸(すん)を唇(くちびる)のなりに とりて其(その)正中(まんなか)を前(まへ)の仮点(かりてん)の処へ横(よこ)に当(あて) 【左丁本文】 【挿絵】 【右丁頭書】 ○破(やぶる)とは星(ほし)の成初る日なり 神(かみ)をまつり旅(たび)だちしてはかなら ず死(し)す土をうごかし婚礼(こんれい)等(とう)大 にわろし ○危(あやふ)とは風(かぜ)のなり初る日なり 酒(さけ)を造(つく)るに大によし種(たね)をまき 神を祭(まつ)り家をつくるなと一切(いつさい) よろしからず ○成(なる)は人の成(なり)はじまる日なり 神(かみ)を祀(まつ)り土を動(うご)かし木(き)を植(うゑ) 家をつくり夫妻(ふさい)あひはじめ種(たね) をまくなと大によろしその外 万(よろづ)もちひて成就(じやうじゆ)する也 ○収(をさん)とは水(みづ)のなり初る日なり 神をまつり婚礼(こんれい)等(とう)は死(し)す酒(さけ)を 造(つく)れば三人 死(し)す家造(やつくり)旅行(りよかう) 土をうごかして大によし 【左丁頭書】 ○開(ひらく)は地福(ちふく)のなり初る日なり 寺(てら)をたて竈(かまど)をぬり土を動かし 門(かど)をたて井(ゐ)をほり旅(たび)だち種(たね) まき神(かみ)をまつり婚礼(こんれい)等に用ひ て三日の内に宝(たから)をまうくると いへり 【挿絵】 【右丁本文】 両(りやう)の端(はし)に点(てん)し又そのしべを竪(たて)にして正中(まんなか)を仮(かり) 点(てん)にあて上下の端(はし)に点(おろ)すべし是(これ)四花(しくわ)の灸(きう) 穴(けつ)なり仮点(かりてん)は後(のち)に拭(ぬぐ)ひとるべし  ○患門(くわんもん)の灸(きう)おろしやう この灸(きう)四花(しくわ)と共(とも)にすうべし虚労(きよらう)手足(てあし)の うら熱(ねつ)し盗汗(ねあせ)出て精神(せいしん)倦(う)みくるしみ 骨(ほね)節(ふし)いたみ寒(ひ)え肌(はだへ)痩(やせ)面(おもて)黄(き)ばみ食(しよく)少(すくな)く力(ちから) 乏(とも)しきを治(ぢ)すおろしやう男(をとこ)は左(ひだり)女(をんな)は右(みぎ)の 足(あし)の大指(おほゆび)の爪頭(つまがしら)より足(あし)のうらを跟(きびす)の下に引(ひき) それより膕(ひつかゞみ)のうしろの横文(よこすぢ)まての寸(すん)をとり 其しべを鼻(はな)のさきより頭(かしら)に引(ひき)のぼせ項(くびすぢ)の後(うしろ) にくだししべの尽(つく)る処に正中(まんなか)に仮(かり)に点(てん)を付(つけ) 又 鼻(はな)の下より両(りやう)の吻(くちわき)までの寸をとりて 【左丁本文】 其しべの正中(まんなか)を仮点(かりてん)にあて両(りやう)の端(はし)におろす 是 患門(くわんもん)の穴(けつ)なり仮点(かりてん)はぬぐひおとすべし 但し膕(ひゆかゝみ)【注】の筋(すぢ)立(たて)ばあまた見えて正(たゝ)しからず 初(はじめ)まづ坐(ざ)して横文(よこすぢ)のかしらにかりに墨(すみ)を付 それを見て文(すぢ)の正中(まんなか)までの寸をとるべし 灸数(きうかず)は病人(ひやうにん)の歳(とし)の数(かず)に一壮(いつさう)ましてすうべし また患門(くわんもん)の二穴(にけつ)と四花(しくわ)の横(よこ)の二穴とを一時(いちじ)に すゑ一穴に廿一 壮(さう)づゝ灸(きう)して毎日(まいにち)すうるに一穴に 百五十二百にいたる時 四花(しくわ)の竪(たて)に灸すべし一穴 に七 壮(さう)つゝ毎日すゑて一穴に五十百にいたる後(のち) 三里(さんり)に灸して気(き)を下(くた)すべしすべて上部(じやうぶ)の 灸をすゑたる後(あと)にては三里(さんり)に灸して気(き)を下す こといづれもよろしきなり心得(こゝろえ)おくへし 【注 「ひゆかゝみ」は「ひつかゝみ」の誤ヵ】 【右丁頭書】 ○閉(とづ)とは病(やまひ)の成初る日なり 墓(はか)をたつるによし家(いへ)を造(つく)り 穀(こく)をまくなど大にわろし  ○天一天上の事 天一神(てんいちじん)の天(てん)へ上(のぼ)り給ふ日を天一 天上といふ天一 神(じん)は帝釈天(たいしやくでん)の有(いう) 司(し)として三界(さんがい)をめぐり人間(にんげん)の 善悪(よしあし)を記(しる)して帝釈(たいしやく)に申す神 なり又 天一神(てんいちじん)の有司(いうし)に日遊神(にちゆうじん) あり天一神天上し給ふ時は日遊(にちゆう) 神 下界(げかい)にくだりて人の家(いへ)をわが 家(いへ)とする神なりこの神 不浄(ふじよう)を 嫌(きら)ふゆゑに天一天一十六日の内 万事(ばんじ)清浄(しやう〴〵)にすべし不浄(ふじよう)なれ ば日遊神(にちゆうじん)祟(たゝり)をなす也わけて 心をいさぎよくもつべし又 家(いへ)を くづし造作(ざうさく)することをいむべし 【左丁頭書】 癸巳(みづのとみ)の日より天一神天上し 十六日をへて下界(けかい)に帰(かへ)り日遊(にちゆう) 神(じん)天上するなり此十六日の内 鹿猟(しゝがり)鷹狩(たかかり)川狩(かはかり)などをいむべし 癸巳(みつのとみ)の日より天にのぼり戊申(つちのへさる)の 日下り給ふなり此十六日の間(あひだ)を 天一天上とはいふなり  ○犯土(つち)の事 庚午(かのへむま)の日より七日が間大づち也 中の一日 丁丑(ひのとうし)を間日(まび)とす戊寅(つちのへとら) の日より七日が間小づちなり以 上十五日なり此事(このこと)中段(ちうだん)には見え ざれども人の知(し)る所なればこゝに 出すなり  ○彼岸(ひがん)の事 ひがんの語(ご)仏説(ふつせつ)より出たり邪摩(やま) 天(てん)と都卒(とそつ)天との間に中陽院(ちうやうゐん)と 【右丁本文】  ○亥眼(ゐのめ) 人を立(たゝ)しめて腰(こし)を見れは両旁(りやうはう)にすこし陥(くぼ)み ありて両眼(りやうがん)のごとしこれを腰眼(ようかん)の穴(けつ)といふうつむ きに臥(ふし)て七 壮(さう)十四壮などすうべし労瘵(らうさい)腰痛(こしいた)み 大便(だいべん)不通(ふつう)などすべて下部(げぶ)の諸症(しよしやう)によし癸亥(みつのとゐ)の 日の亥時(ゐのとき)に灸(きう)すればよくきく也 故(ゆゑ)に俗(ぞく)亥眼(ゐのめ)と云  ○風市(ふじ) 股(もゝ)の外(そと)の正中(まんなか)膝(ひざ)の上七寸 両筋(りやうすぢ)の間(あひ)也 立(たち)て身(み)を 正(たゞし)くし両手をおろして中指(なかゆび)のかしらの尽(つく)る処 に点(おろ)すべし腰(こし)股(もゝ)しびれ疼(いた)み脚気(かつけ)中風(ちうぶ)によし  ○騎竹馬(きちくば) 男(をとこ)は左(ひだり)女は右の手(て)の肘(ひぢ)のうちの横紋(よこすぢ)の中より 中指(なかゆび)のはづれまでの寸(すん)をとり病人(びやうにん)を丸竹(まるだけ)の 【左丁本文】 上にまたがらせ二人して其竹(そのたけ)をもちあげ病人(びやうにん)の 足(あし)畳(たゝみ)よりはなるゝ時 背(せな)を直(すぐ)にして右のしべを 亀尾(かめのを)《割書:尻(しり)の穴(あな)の上に|ほねある処也》の所にあて背(せ)すぢを上(かみ)へのぼせ しべの尽(つく)る処に仮点(かりてん)しそれより左右(さいう)へ一寸づゝ の処 灸穴(きうけつ)なり十四 壮(さう)廿一壮づゝすうべし一切(いつさい)の悪(あく) 瘡(さう)中風(ちうふ)痛風(つうふう)癰疽(ようそ)に妙(めう)なり 【挿絵】 【右丁頭書】 いふ処(ところ)にて二月八月おの〳〵七日 の間 摩醯首羅(まけいしゆら)上首(じやうしゆ)として冥官(みやうくわん) みやうじゆ聚(あつま)り一切(いつさい)の善悪(ぜんあく)を記(しる)す といへり又 無数(むすう)万億(まんをく)の仏(ぶつ)菩薩(ぼさつ)此 七日が間 法(ほう)をときて衆生(しゆじやう)に楽(たの) しみをつげ煩悩(ぼんのう)をはらひて彼岸(かのきし) にいたらしめ給ふとなりこれらの 事より此名(このな)出たる也 春(はる)は二月の 節(せつ)より十一日め秋(あき)は八月の節 より十五日めなり時候(じこう)金気(きんき)の 中正(ちうせい)和暖(わだん)の時節(じせつ)なれば時正(じしやう)と 名(なづ)けて善(ぜん)を修(しゆ)するの時とし 俗中(ぞくちう)陰徳(いんとく)を行(おこな)ふを第一とす また此ころ諸菜(しよさい)の種(たね)をまき てよき時候(じこう)とするなり  ○八専(はつせん)の事 八専(はつせん)とは十二日 比和(ひわ)する日八日 【左丁頭書】 【挿絵】 ありて八(はち)を専(もつは)らにする心にて 八専(はつせん)とはいふなり比和(ひわ)するとは 壬(みづのへ)の水(みづ)と子(ね)の水と比和(ひわ)する類に て干支(かんし)の五行(こぎやう)の比(なら)び和(わ)する意(い)也 その中に比和(ひわ)せぬもの四日あり これを間日(まび)というたとへば癸(みづのと)《割書:水|》丑(うし)《割書:土|》 これ土剋水(どこくすゐ)にて和(わ)せず十二日に 比和(ひわ)するもの八日あり陰陽(いんやう)交泰(かうたい) 【右丁本文】  ○斜差(すぢかひ) 背(せ)の九(く)の椎(ずゐ)《割書:椎(ずゐ)とは脊骨(せぼね)の節(ふし)をいふ|第一より九ばんめのふし也》の下 左(ひだり)へ一寸五分 十一の椎(ずゐ)の下右へ一寸五分にすぢかひに点(てん)する也 これは小児(せうに)飲食(いんしよく)に傷(やぶ)られざる為(ため)に肝(かん)と脾(ひ)と の兪(ゆ)に灸(きう)するを気力(きりよく)をはかりて左右一穴づゝ 略(りやく)したるもの也  ○鬼哭(きこく) 鬼祟(ものつき)狐魅(きつねつき)をおとし驚風(きやうふう)てんかんを治(ぢ)す凡(すべ)て 狂疾(きやうしつ)に効(しるし)ありおろしやう両手(りやうて)を合せ大指(おほゆび) を紙索(こより)にて縛(しば)り合(あわ)せならべて両(りやう)の爪(つめ)と肉(にく)と の角(かど)四処(よところ)へかけて一壮(いつさう)にて灸(きう)するなり灸の 大さは艾(もぐさ)を四分(しぶ)ばかりにして四処へよくかゝる ほどにすべし数(かず)は七 壮(さう)または十四壮にてよし 【左丁本文】  ○章門(しやうもん) 臍(へそ)の上二寸 両方(りやうはう)へ九寸づゝ横(よこ)に臥(ふし)て上の足(あし)を 屈(かゞ)め下の足を伸(のべ)て肘(ひぢ)の尖(とがり)のあたる所(ところ)の肋(あばら)の 端(はし)なりさて肋骨(あばらぼね)の末(すゑ)の小肋骨(ちひさきほね)の端(はし)に仮点(かりてん) し此点(このてん)より前(まへ)の方へ一寸五分を章門(しやうもん)の穴と す腹(はら)鳴(なり)食(しよく)化(くわ)せず煩熱(はんねつ)ありて口(くち)乾(かわ)き喘息(ぜんそく)心痛(しんつう) 食傷(しよくしやう)嘔吐(ゑづき)腰(こし)膝(ひざ)ひえいたみ白濁(びやくだく)疝気(せんき)《振り仮名:𤹠聚|しやくじゆ》【注】腹(はら) はれ脊(せ)こはり肩(かた)肘(ひぢ)あがらず四支(てあし)だるく身(み)黄(き)にして 痩衰(やせおとろ)ふるなどの症(しやう)によし  ○三里(さんり) 膝(ひざ)のうしろ膕(ひつかゞみ)の横文(よこすぢ)のとまりより外踝(そとくるぶし)の尖(とがり)の 真上(まうへ)まで寸をとりこれを十六にをり一尺六寸 と定(さだ)めさて膝頭(ひざかしら)の外(そと)の側(わき)にくぼみたる処あり 【注 「𤹠」(音セキ、ジャク)の漢字としての意味は「やせる」で「瘠」の譌字とされていますが、我が国では「シャク」と読み「胸部が急に痛んで痙攣を起こす病。さしこみ。癪」の意。『大漢和辞典』より】 【右丁頭書】 するゆゑに多(おほ)くは雨天(うてん)がち也 一年(いちねん)に六 度(ど)七十二日あり諺(ことわざ)に 照入八専(てりいるはつせん)降(ふる)八専などいふ事あり て八専に入る日 雨(あめ)あれば八専(はつせん) 中 多分(たぶん)日和(ひより)よし八専に入る日 天気(てんき)よければ八専中(はつせんちう)雨(あめ)ふる なり又八専は二日めに雨(あめ)ふれ ば極(きは)めて霖雨(ながあめ)となるなり  ○土用(どよう) 土用(とよう)は四季(しき)にあり三月六月 九月十二月の節(せつ)より十三日め 土用(どよう)の入にて十八日にて終(をは)る也 一年に都合(つがふ)七十二日也 土用(どよう)の 翌日(よくじつ)四季(しき)の立(たち)はじまる日なり 間日(まび)あり春(はる)は巳午酉 夏(なつ)は卯 辰申 秋(あき)は未酉亥 冬(ふゆ)は寅卯巳 これ也土を動(うご)かす事をいむへし 【左丁頭書】 但(たゞし)間日(まび)はくるしからす   ○十方暮(しつはうぐれ) 十方ぐれは十 干(かん)と十二 支(し)と相(あひ) 剋(こく)するにて八専(はつせん)のうら也たとへば 甲申(きのへさる)に入るは甲(きのへ)は木(き)申(さる)は金(かね)にて 金剋木(きんこくもく)なり余(よ)は准(じゆん)して知べし 十日が間 曇(くも)る事をつかさどる   ○三伏(さんふく) 五月 中(ちう)の後(のち)第三の庚(かのへ)の日を初(しよ) 伏(ふく)といふ第四の庚(かのへ)を中伏(ちうふく)といひ 立秋(りつしう)のはじめの庚(かのへ)を末伏(まつふく)と云 大暑(たいしよ)の火(ひ)より庚(かのへ)の金(かね)を火剋(くわこく) 金(きん)と剋(こく)する故に伏(ふく)といふ此日 旅(たび)にたつ事大にわろし万事(ばんじ) この日を用ゆべからず   ○八十八 夜(や) 立春(りつしゆん)より八十八日め也 大体(たいてい)此(この) 【右丁本文】 《割書:これを膝|眼(がん)といふ》此処の正中(まんなか)に仮(かり)に点(てん)しそれより下へ 右の寸をあて三寸の所へおろすべし是 三里(さんり)の 穴なり此灸(このきう)の功(こう)よく人の知る処なりすべて 上衝(じやうしよう)の病(やまひ)足脚(あし)の病 万病(まんびやう)によし  《割書:俗説に三里の灸は膝頭(ひさかしら)に手の大指のまたをかけて下中指の|あたる所なりといひ或は膝をたてゝ向脛(むかずね)の骨(ほね)をきせるなど|にて上へこきあぐるにそのとまる所の骨の外すなはち三里|の穴なりといふこれ遠からぬ説なりしかれどもかやうにては|はなはだ大やうなる事にてたしかに知れがたければかならず|右の法を以ておろすべし折角すゑたる灸の穴ちがひては|労して功なき事也さて足の指をそらして見れば足くび|にくぼむ所ありそこに脈のうつ所あり三里をきびしくおさへ|て試るに此処に脈うたぬは三里の正穴なりとしるべし》  ○絶骨(ぜつこつ) 右のごとく膝(ひざ)の膕(ひつかゞみ)の紋(すぢ)より外踝(そとくるぶし)のとがりまで の寸をとり踝(くるぶし)をのぞき踝の上際(うへぎは)より上の方へ 三寸 骨(ほね)のわれめある其前(そのまへ)におろすべし心腹(むねはら)張(はり) 【左丁本文】 【挿絵】 みち胃熱(ゐねつ)不食(ふしよく)し脚気(かつけ)筋骨(きんこつ)つりいたみ虚労(きよらう)𠲪(しや)【注】 逆(くり)うなじこはり痔(ぢ)下血(げけつ)大小 便(べん)しぶり中風(ちうぶ)手足(てあし) なへてかなはざる等によし  ○中脘(ちうくわん) 鳩尾(みつおち)の中間(なか)に𠆢かくの如(ごと)き骨(ほね)あり岐骨(ぎこつ)と云 それより臍中(へそのなか)までの寸をとりこれを八ッに 【注 「𠲪」は「呝」と同じ意。「呝逆」で音が「アクギャク」で義は「しゃっくり」と『大漢和辞典』に記載有り。】 【右丁頭書】 前後(ぜんご)暖気(だんき)になりて霜(しも)止(や)む故 に俗(ぞく)に八十八夜の名残(なごり)の霜(しも)と いふ種(たね)をまく候(ころ)とする也   ○二百十日 立春(りつしゆん)より二百十日め也この頃は 秋(あき)の暴風(ぼうふう)ふく時分(じぶん)なる故に稲(いね)を 損(そこな)はれん事を恐(おそ)れて防(ふせ)ぎの 目的(めあて)とする事也二百廿日といふ 事をもいへりされど此日(このひ)に限(かぎ)りて 風(かぜ)ふくといふにはあらず前後(ぜんご)大 やう同じ事也   ○半夏生(はんけしやう) 此日(このひ)房事(ばうじ)をたち韮(にら)薤(らつけう)の類を 食(くら)はず獣肉(じうにく)をくらはず何にても 汚(けがら)はしき事を忌(いむ)といへり畿内(きない)に ては農民(のうみん)餅(もち)をつきて賀儀(かぎ)をな す稲苗(なへ)を植(うゑ)たるいはひ也とぞ五 【左丁頭書】 月中より十一日めなり此ごろ半(はん) 夏(け)生(しやう)ずる故にかくいふとぞ   ○社日(しやにち) 社日(しやにち)は二月中の前(まへ)の戊(つちのへ)の日八月中 のまへの戊(つちのへ)の日なり一年に二日也 田(た)の神(かみ)と五穀(ごこく)をまきそめし神を 唐土(もろこし)にて祀(まつ)りいはふ也 社稷(しやしよく)の神 を祭(まつ)る意(い)にて社日(しやにち)といふ也 吾国(わがくに) にては社日講(しやにちかう)春休(はるやすみ)秋休などいひ てうぶすなの神(かみ)を祭(まつ)り土(つち)を動(うご) かさずして民(たみ)おの〳〵いはふ事也 ○下段(げたん)日並(ひなみ)吉凶(よしあし)の事 正月三日のうちの下段に歯固(はがた)め 倉開(くらびら)き云々(しか〴〵)といふ事あり歯固(はがため)とは 雑煮(ざふに)をくひていはふ事也御 歯固(はがため)と いふ事 古書(こしよ)にあり歯(は)をかたむると いふ義にてくひ初(ぞめ)の事也但し歯字(はのじ) 【右丁本文】 折(をり)て八寸と定めたる正中(まんなか)の処に点(てん)すべし膈(かく) 噎(いつ)翻胃(ほんゐ)不食(ふしよく)積聚(しやくじゆ)すべて心下(しんげ)の疾(やまひ)によろし霍(くわく) 乱(らん)などの急症(きふしやう)にすゑて妙なり  ○水分(すゐぶん) 右の寸(すん)にて臍(へそ)の上一寸の所なり水腫(すゐしゆ)脹満(ちやうまん)小 便 不通(ふつう)筋(すぢ)をひき不食(ふしよく)し腰脊(こしかた)こはるによし 脚気(かつけ)の心(むね)にせまるなどによし  ○天枢(てんすう) 両乳(りやうちゝ)の間(あひ)の寸(すん)をとり八ッに折(をり)て八寸とさだめ この寸を臍(へそ)にあて左右(さいう)へ二寸づゝの処を天枢(てんすう) といふ也 痢病(りびやう)水腫(すゐしゆ)気逆(きぎやく)腹痛(ふくつう)女の血塊(けつくわい)漏下(ろうげ) 帯下(こしけ)月水(くわつすゐ)とゝのはぬによし 右 乳(ちゝ)の間 婦人(ふじん)は乳房(ちぶさ)大く垂(たれ)て準則(しゆんそく)なし仍(よつ)て 【左丁本文】 腰(こし)の囲(かこみ)にてとるなり其法(そのほう)前(まへ)は臍(へそ)側(わき)は監骨(さふらひぼね) のうへ背(せなか)は十四 椎(すゐ)より十六椎までの間にてよく 平直(へいちよく)なる処を見て縄(なは)をぐるりと廻してきり この縄(なは)を四尺二寸と定(さだ)めてその一寸を一寸と さたむべし男子(なんし)に用(もち)ひてもよろし若(もし)又(また)腰(こし)の かこみ見かたくば手(て)の中指(なかゆび)のさきより腕(うで)の約文(よこすぢ) までを一尺として用ゆべし  ○承筋(しようきん) 承山(しようざん) この二穴(にけつ)足(あし)の腨腸(こぶら)の真中(まんなか)と其下(そのしも)とにあり とりやうは足(あし)の膕(ひつかゞみ)の中に約文(よこすぢ)ある最中(まんなか)より 内踝(うちくるぶし)外踝(そとくるぶし)との尖(とがり)の上より横(よこ)になる処の足(あし)の 後(うしろ)へ点(てん)じそこまでの寸(すん)をとりその藁(わら)しべを 十六にをり壱尺六寸とさだめ踝(くるぶし)の下際(したぎは)へあて 【右丁頭書】 【挿絵】 よはひともよめば歯(よはひ)をかたむるの 義をとれりといふ説(せつ)もよしある歟(か) きそはじめは衣服(きもの)を着初(きそむ)る事也 衣(ころも)をそといふは古言(こげん)也ひめはじめは 《振り仮名:糄𥻨|ひめ》とて米(こめ)の粥(かゆ)をくひそむる事 なり《振り仮名:糄𥻨|ひめ》は米(こめ)の名(な)にて今もひめ糊(のり) といふ詞ありこれにて知(し)るべしこれ 【左丁頭書】 を姫(ひめ)はじめと書たる故に女(をんな)を犯(おか)す ことゝ心得(こゝろえ)たるは笑(わら)ふべしさやうの 事を暦(こよみ)にかくべき事かは此外は いつれも聞(きこ)えたればこゝに注(ちう)せず   ○きしく 鬼宿(きしゆく)とかく廿八 宿(しゆく)の鬼星(きせい)にあ たる日にて大吉日也 毎月(まいげつ)あり 正《割書:十一日|》二《割書:九日|》三《割書:七日|》四《割書:五日|》五《割書:三日|》 六《割書:朔日|》七《割書:廿五日|》八《割書:廿二日|》九《割書:廿日|》十 《割書:十八日|》十一《割書:十五日|》十二《割書:十三日|》   ○天おん 天恩(てんおん)とかく七箇吉日(しちかのきちにち)の一なり 甲子(きのへね)より五日が間(あひだ)己卯(つちのとう)より五日 が間 己酉(つちのととり)より五日か間つゞく也 婚礼(こんれい)祝言(しうげん)官(くわん)に昇(のほ)り家督(かとく)を 譲(ゆづ)り元服(けんふく)し其外 諸祝儀(しよしうぎ)事 にきはめて大吉(だいきち)日とす 【右丁本文】 七寸上に当(あた)る処 承山(しようざん)なり踝(くるぶし)の上際(うへぎは)より七寸 上にあたる処は承筋(しようきん)なりこの処 下(しも)の方より撫(なで) あぐれば掌(てのひら)おのつから停(とゞま)る也そこに縦(たて)に筋(すぢ)あり その筋(すぢ)の上におろすなり第一 霍乱(くわくらん)転筋(てんきん)不食(ふしよく) 痙痺(はぎしびれ)腨(こぶら)いたみ傷寒(しやうかん)の結滞(けつたい)を治(ぢ)す  ○犢鼻(とくび) 膝頭(ひざかしら)の外側(そとがは)膝蓋骨(ひざさらぼね)の下際(したきは)の通(とほり)の外側(そとかは)なり 指(ゆび)のさきにて押(おし)てみれば両旁(りやうはう)骨(ほね)にてわれたる やうなる形(かたち)■【注】かくのごとき処(ところ)の真中(まんなか)に点(おろ)す也 脚気(かつけ)一切(いつさい)膝(ひざ)腫(はれ)たるによし  ○膝眼(しつがん) 膝(ひざ)の蓋骨(さらぼね)の下(した)両旁(りようはう)にくぼみたる処あり其中 に点(おろ)すべし俗(ぞく)に鼻(はな)ぐりと云 脚気(かつけ)一切に妙なり 【注 「八」の字の一画目・二画目の真ん中を凹ませて左右右対称としたような絵が記されている】 【左丁本文】  ○上廉(じやうれん) 下廉(げれん) 膝眼(しつがん)の穴より其人(そのひと)の手(て)の指(ゆび)四本(しほん)節(ふし)をそろへ てのべふせたる下のはづれ三里(さんり)の穴なり三里より 又四本ふせたるはづれ上廉(じやうれん)の穴なり上廉より又 ふせたるはづれ下廉(げれん)なりいづれも骨(ほね)の外側(そとがは)へ点(おろ) すべし脚気(かつけ)一切(いつさい)によし上逆(のぼせ)をもしづむる也  ○聴会(ちやうゑ) 耳(みゝ)の前(まへ)に高(たか)く起(おこ)りたる肉(にく)あり俗(ぞく)に小耳(こみゝ)と いふ此(この)小耳(こみゝ)の少(すこ)し前の下に口(くち)を開(ひら)けば 穴ある処 聴会(ちやうゑ)の穴なり此(この)灸(きう)中風(ちうふ)など 暴(にはか)に倒(たふ)れたる類(たくひ)におろしてすうべし  ○合谷(がふこく) 手(て)の大指(おほゆび)と人差指(ひとさしゆび)との間(あひだ)またに成たる 【右丁頭書】  ○月とく 月徳(ぐはつとく)とかくこれも七ヶ吉日(きちにち)の内 なり万(よろづ)よし 正《割書:きのへひのへ|つちのへかのと》二《割書:同| 》三《割書:きのとひのと|かのへみつのと》 四《割書:みつのへひのと|かのへきのへ》五《割書:きのへつちのと|ひのへかのと》六《割書:ひのへ|かのと》 《割書:きのへ|つちのへ》七《割書:かのへきのと|みつのへひのと》八《割書:みつのへひのと|かのへきのへ》 九《割書:きのへつちのへ|ひのへかのと》十《割書:ひのへかのと|きのへつちのへ》十一 《割書:かのへきのと|みつのへひのと》十二《割書:みつのへひのと|かのへきのへ》 右の干(えと)にあたる日なり  ○母倉(ほさう) 天(てん)より万の物を恵(めぐ)み給ふ事 母(はゝ)の子(こ)をいつくしむことき日なれば とて母倉(ほさう)とはいふなり別(べつ)しての 大吉日なり万事(ばんじ)妨(さまたげ)なし 春は《割書:亥子|》 夏は《割書:寅卯|》 秋は《割書:辰丑|戌》 冬は《割書:申酉|巳午》 右の日どもなり 【左丁頭書】  ○神よし 神吉(かみよし)上吉(かみよし)などかけり神事(しんじ)祭礼(さいれい) 遷宮(せんぐう)祈祷(きとう)立願(りうぐわん)寺社造営(じしやざうえい)なと に別(べつ)してよし其外 万事(ばんじ)よし但(たゝし) 不浄(ふしよう)をいむべし  ○てんしや 天赦(てんしや)とかく万(よろづ)よしと記(しる)したる日に て大上吉日なり天(てん)より万の物(もの)を 養ひて其罪(そのつみ)を赦(ゆる)す日なりとぞ 故に他(た)の悪日(あくにち)にめぐりあふとも皆(みな) 吉日となる事なり  春 巳【戊の誤】寅の日 夏 甲午  秋 戊申   冬 甲子  ○五む日 五墓(ごむ)とかく此日は十二 運(うん)のうちの 墓(む)の運(うん)にあたる日也万事 慎(つゝし)むべし 戊辰 壬辰 丙戌 辛丑 乙未 【右丁本文】 【挿絵】 骨(ほね)のまん中にあり両指(りやうゆび)のまたより腕(うでくび)の横(よこ) 紋(すぢ)の処までをわらしべにて寸(すん)をとりこの しべを二ッに折(をり)たるまん中におろすべし是(これ)合谷(がふこく) の穴なりこれも中風(ちうぶ)にて倒(たふ)れたるにすゑ てよし其外 手(て)肩(かた)の疾(やまひ)によろし  ○隠白(いんはく) 【左丁本文】 足(あし)の大指(おほゆび)の爪(つめ)のはえ際(ぎは)内(うち)の方のかどより 曲尺(かね)の一分ばかり放(はな)しておろすべしこれ隠(いん) 谷(こく)の穴(けつ)なりこれも中風(ちうぶ)麻痺(しびれ)の類によし  ○百会(ひやくゑ) 大椎(たいずゐ)の骨(ほね)《割書:背骨(せほね)と頂(うなぢ)との間|の大なる骨(ほね)の事也》より眉毛(まゆげ)の正中(まんなか) までの寸(すん)をとりこれを十八に折(をり)て壱尺 八寸と定(さだ)め眉(まゆ)の中(なか)より三寸を前(まへ)の髪際(はえぎは) として仮点(かりてん)をつけ此(この)仮点(かりてん)より五寸五分の 処(ところ)百会(ひやくゑ)の穴なり頭(かしら)を正直(まつすぐ)にして寸(すん)を取 べし中風(ちうぶ)にて言語(ものいひ)わからず或は風癇(ふうかん)心(むね)もだへ なと急症(きふしやう)によし又 健忘(ものわすれ)脱肛(だつかう)頭痛(づつう)等(とう)によし 五 壮(さう)七壮にてよろし  ○大陵(たいりやう) 間使(かんし) 【右丁頭書】   ○ふく日 復(ふく)日は跡(あと)もどりのする意(い)也故に吉(きち) 事(じ)には大によく悪事(あくし)には大にわろし よき事にても縁談(えんだん)などにはわろし 葬礼(そうれい)は殊(こと)にいむべし   ○ちう日 重(ぢう)日とかくかさなる意(い)なれば是も よめ取 葬礼(そうれ[い])など大にいむべし 【挿絵】 【左丁頭書】   ○きこ 帰己(きこ)は天亡星(てんばうせい)地(ち)に降(くだ)りて人の門(もん) 戸(こ)をふさぐ日なれば旅(たび)より帰(かへ)り或(あるひ) はよめ取 国入(くにいり)など皆(みな)わろし   ○ちいみ 血忌(ちいみ)は殺忌(さつき)の日なり血(ち)を出す事に いむ事人の知(し)るがごとし   ○くゑ日 凶会(くゑ)日とかく万(よろづ)わろき日なり 何事にも用(もち)ゆべからず   ○天火(てんくわ)地火(ちくわ) 天火は高(たか)き所の事に用るをいむ 地火は地(ち)の事を動(うご)かすをいむ共(とも) に悪(あく)日なり慎(つゝし)みて用ゆべからず   ○十し 十死(じつし)とかく也 大殺(たいさつ)日とて大悪(だいあく)日 なり何事をも忌(いみ)さけてよし 【右丁本文】 俱(とも)に掌(てのひら)の下(した)にあり掌後(てくひ)と腕(うで)との間 横紋(よこすち)の 正中(まんなか)に縦(たて)に二筋(ふたすぢ)の筋(すぢ)ある其間に点(おろ)すべし これ大陵(たいりやう)の穴(けつ)なり間使(かんし)は大陵(たいりやう)の下三寸に 点すべし此寸(このすん)をとるは先(まづ)大陵(たいりやう)の処(ところ)より肘(ひぢ) の横文(よこすぢ)までを寸を量(はか)り十二 半(はん)に折(をり)壱尺 二寸五分と定(さだ)めたるその三寸の処 縦筋(たてすぢ)の中 におろすなり霍乱(くわくらん)熱病(ねつひやう)汗(あせ)出(いで)ず乾嘔(からゑつき)止(やま)ずして 心(むね)悶(もだ)へ肘(ひち)攣(ひきつ)り目(め)赤(あか)く口(くち)乾(かわ)き胸腋(むねわき)腫痛(はれいた)みな どの症(しやう)によろし   ○鬲兪(かくゆ) 肝兪(かんゆ) 脾兪(ひゆ) 俗(ぞく)にいふ七九十一の灸(きう)なり大椎(たいずゐ)の骨(ほね)よりかぞ へて第(だい)七にあたる骨(ほね)の下 両旁(りやうはう)へひらくこと一 寸五分《割書:この寸は其人(そのひと)の中指(なかゆび)の中のふしの間を外(そと)のかた|にてとりて一寸と定むる也中指と大指とさきを合(あは)》 【左丁本文】 《割書:せてと|るべし》の処を鬲兪(かくのゆ)とす心痛(しんつう)周痺(しびれ)吐食(としよく)鬲胃(むね) ひえ痰(たん)いで脇腹(わきはら)みち手足(てあし)たるき等によし同(おなじく) 九椎(くのずゐ)の下 両旁(りやうはう)へ一寸五分の処を肝兪(かんのゆ)とす怒(ど) 気(き)多(おほ)く目(め)くらく涙(なみだ)いで気(き)短(みじか)く欬逆(しやくり)いで口(くち)乾(かわ) き疝気(せんき)積聚(しやくじゆ)等(とう)によし同十一 椎(ずゐ)の下両旁へ一 寸五分の処を脾兪(ひのゆ)とす身(み)痩(やせ)脇腹(わきはら)はり痰(たん) 瘧(をこり)寒熱(かんねつ)水腫(すゐしゆ)気脹(きちやう)黄疸(わうだん)不食(ふしよく)等によろし 【挿絵】   ○黒日(くろび) 暦(こよみ)に●かくのごとく記(しる)したるをもて 俗(ぞく)に黒日(くろひ)と言 受死(じゆし)日とて大悪(だいあく)日 なり人命(にんめい)の事 病(やまひ)などに別(べつし)てわろし   ○わうもう 往亡(わうもう)日とかく旅行(りよかう)わたまし祝言(しうげん)等(とう) 大にわろし   ○さいげじき 歳下食(さいげじき)は俵物(ひやうもつ)を開(ひら)き初(そ)め種(たね)まき草木(さうもく)を植(うゑ)などにいむ少しの悪日なり時(とき)の下食(けじき)といふ事あり 正《割書:未の日|亥の時》二《割書:戌の日|子の時》三《割書:辰|丑》四《割書:寅|同》五《割書:午|卯》六《割書:子|辰》七《割書:申|巳》八《割書:酉|午》九《割書:巳|未》十《割書:亥|申》十一《割書:丑|酉》十二《割書:卯|戌》右の日時 一時(いつとき)をいむべし   ○めつ日もつ日 滅(めつ)日 没(もつ)日とかく此 両(りやう)日は天(てん)と日(ひ)と月(つき)とのめくりによりて出たる悪(あく)日なり万事いみさくべし此両日 のつもり竟(つひ)に閏月となるともいへり   ○めつもん大くわらうしやく 滅門(めつもん)大過(たいくわ)狼藉(らうしやく)これ三ヶの大悪日なり貧窮(ひんきう)飢渇(きかつ)障碍(しやうげ)の三 悪神(あくじん)にて禍(わざはひ)の根本(こんほん)とすよろづに わろし用ふべからず   ○ちし日 地子(ちし)とかく事によりてよき事もありわろき事もある日なり先(まづ)はつゝしむべし 【見返し】 【裏表紙】