【黄表紙、書下題箋】 怪物つれ〳〵草 【検索用:ばけものつれづれぐさ、怪物徒然草、化物徒然草】 【内表紙】 寛政四壬子春 怪物つれ〳〵草 余(よ)廼(この)間(ころ)這(しや)筒の稗史(はいし)を著(あら)はす。趣意(しゆい)は水虎(かつぱ)の屁玉(へたま) の如(ごとく)く。亦(また)野猫(たぬき)の鼾睡(いびき)に似(に)たり。帖(これを)_レ之(たゝめ)バ二 巻(くわん)。開(これを) 之(ひらけ)は十 枚(まい)。お菊(きく)が皿(さら)の闕(かけ)たるあれば。見越(みこし)の首(くび)の餘(あま) れるあり。則(すなはち)蛍(ほたる)合戦(かつせん)の明(あかり)をかりて。六出女(ゆきおんな)の燈(ともしひ)を かゝげ。剪禿(きりかふろ)の筆(ふで)を執(とつ)つて。徒(いたつら)に一ツ 盞(さん)の油(あふら)を減(けん) じ。狐色(きつねいろ)の表紙(ひやうし)をかけて。而(しか)も緘(とぢる)に三ツ目の 錐(きり)を用(もち)ゆ言(いふこと)は化物(ばけもの)屋鋪(やしき)の日記(につき)の如(こと)く。画(ゑ)は珍(ちん) 物(ぶつ)茶屋(ちやや)の簡版(かんはん)に等(ひと)し。生臭(なまくさ)き風(かぜ)の朝(あさ)微々(そぼ〳〵) 雨(あめ)の夕(ゆうべ)。寂寞(せきばく)たる子供衆(こともしゆ)。此(この)書籍(しよじやく)を御覧(ごらう)して御茶(おちや) をあがれといふ 鶉(うつら)に化(け)する子(ねづみ)のとし川太郎(かはたろう)月  山東京伝題     山男(やまおとこ)笑(わら)ふ頃(ころ) それない【?】といふやぼがたうとく みぬといふはけものはたうとし 子どものおとなとなりよめ のしうとめにばけるなど さりとはふしぎなる事なれと きいておどろく 人もなし あしたのとう ふやはゆうべの あぶらやと へんじて ついに ばけ もんの あぶらげ〳〵と うりあるく 人げんの ばけるを 人間が みては へちまのかはとも おもはねどばけものゝ ほうから見ては これほどおそろしひ ものなし こゝにばけものゝ おかしら三つ目入道は ちかごろはこねのさきに 【左ページへ】 ゐんきよして よをらくに くらしけるが ある日てんき のどかにはれ はるかせ そぼ〳〵とふきて もの さびし きまゝともたちを あつめ人げんの 百ものかたりを はじめる ばけものゝ ほうの百もの かた りは まつひるま あんとうを ともし さも子とも しゆの きうを すへるが ごとくなり 〽はけもの手合は 思ひの外にみな げこにてまめいり にはなにて はなす 【右ページ、見越しの首の下】 〽かつはか【河童が】 はなしは【話は】 とうも へのやうで つか まへ 所が ない 【その左】 たぬき 〽こいつァ おもしろ おれ た 【鳥の右】 〽五位さ    き【ゴイサギ=鳥の名前】 【見越しの下】 〽みこし入道 ゑにかいた ゆめと いふ かたちに くびを のはす 〽かつぱ 【頭が凹んだ化物=河童の左】 〽これは どびん てはない ぐひんだ 【左ページ、手の生えたあんどんの下】 〽とんだ 手のある あんどう【行灯】だ すみにやァ おかれ   ねへ 【その左上】 ねこ また 【その上、女の化物の頭の上】 〽てつほうは おいらが きんもつだ ほんとうの 事をはな さつし 【女の右、墨で落書き】 うふめとり ものこのみなる きつねたぬき つはものやしきへ 行てためし 見んとともだち のばけものを かたらひ行て みればやう きくわう 〳〵と して 日かげ はずへをもりて きみわるく いかなるものや いづるとため らう内はや 午のこく とおほしく さけくさ きかぜ ふきよこ くものまく を引あくれ ばさるほどに 大にうだう 一ツまなこはと 大さつま のせり 【左ページへ】 出し にて 両人のゐぎやうの ものあら はるれば ばけもの ども きも を べんとうのやきめしと ともにつぶしさらに ばけごゝちはなく 中にもたぬきなどは きんたまのはんじやうを 八人まへとられながら 一トまくもみずににげかへる 此じだいちがひも第一の ふしぎ〳〵 〽すなはち此 一ツまなことかたりしは かまくらのごん五郎 かげまさ大入道と かたりしは むさしぼう へんけいなり 【左ページ 中央】 せりふ 〽酒も 一升 ごん 五郎 〽のんで さすまた むさしほう 〽どうした ひやうりの ひやうたんとは 〽やぼじや ござらぬ すいものゝ 〽はぜめづらしひ 〽であいじやなァ 【右ページ 下】 イヨ〳〵 きつねもの〳〵 〽これは なんの きやうげんだか わからねへ あなぐらから かぶとにんぎやう 【左ページ 下】 を出すやうだ うす月よの夕くれうぶめ 鳥はぶら〳〵とそここゝ をうろつきれいの通り 人にあつ たら石の 子をだかせ やうとたく あんのに【口?】を あけるといふ みにて 石をだかへ て立ていれ ばざいもくの かげでごそ〳〵と はゞたきの おとかする ゆへいかなる 鳥のねぐらならん と月かげに すかしてみれば 玉手はこをあ けたうらしまを みるやうな わかいやうに としのよつた うつくしひ やうな ふきりやうな やつめがざいもく のそははい よるをみて 【左ページへ】 みのけも そつと おそろしく ほう〳〵のがれ いてんと すれば ざいもくのかたかげに いろあをさめた おとこ口はみゝの あたりまてさけて ふた めと みら れず うぶめ とりは ぎうの ねも いでず うぶめを みぬ うちと にげ さる 【左ページ 上】  〽これが ほんの すいくわ みを くふのさ【粋が身を食ふ】 〽此子は にげるには おもたくて りかたの わるひ 子だ せつぶんのばんのどさくさまぎれ まめまきをわすれたうちも あるかとおにはおしのやくはらひを みるやうにぶら〳〵と 門口をのぞきこめばふうふ けんくわとみへて すりはちでたゝくと すり こぎの われる おとうへを 下へと かへせば 此さはぎ では まめ まきは まだしまひ と ぞろ〳〵 はいつ て みれば こは いか に 女ぼうは しつとの つのが はへて のゝ 【左ページへ】 しれは てい しゆ は へい きて すさ ましき へびをつかつて いれば おには おそ ろ し く 思へども 出るにも でられす 三世相(さんぜそう)の くわうじんさま をみるやうに 両人がまん中に たちすくみに       なる 〽此おには すこし心あるおに にて一しゆよむ 〽ふくは内とまめは まけどもおろ かさは心の おにのにけ ゆきもせず 【右ページ 中央】 おに曰 〽アヽちやわんも すりはちもみぢんに なつたこれはまた せとものやきつぎの仕合せと 【左ページ 中央】 見へる おに曰 〽そめものゝ ぢ口をいわずと どちらぞひとりだまればいゝ ほんにはりものに さわるやうだ 【左ページ 下】 おまへのへびを つかひな さる は こ ん や には かぎ らぬ 人の いふ 事は むぢ【無地=全く】 きか ず なん ぞの し ま には 内に いず わけを いふも 小もん どうだ 【蛇をつかう=のらくらする】 としへたるごいさき大千せかい をみんと四かい【四海 or 四界】にはをうつて 出けるがびゆう〳〵として のそむに目のかぎりなく としのなみおだやかなりければ かたはらのいわにこしをかけ はねをやすめんとすれば たちまち下にこゑ ありておれがかうらに こしをかけるはなに ものぞとよばわるゆへ ごゐさきおどろき これをみればかたち 梅ほしを つくね たる ごとき【捏ねたような】 おやぢの としの かうなり ければ きもを つぶして にげかへる 【ページ中央】 〽とんだ めに あはぬ うち はやく この ばを とし の かう 〳〵 【ページ 下】 さぎとはふてき ものだまだ ごいさぎませと あやまれば りやうけんも するが とんだ あを さぎ の かんがへの なひ やつだ 【白紙】 みこし入道は久しく人を見こさぬゆへ ちと見こしてみたけれどもとかく にんげんがおそろしくずいぶん人通りの ない所と出かけてあるけどもはんくわの 地なればいたつてさひしき所は すけなく【空白】おく山と いふ所あるときゝおく山ならば さだめてしんさんゆうこくの ものすごき所ならんと たづねきたりけるがふと うしろをふりむけばせいの たかさ壱丈ばかりの 人げんなりみこし入道 はしめて人にみこされ たる事なれば きやァと いふて めを まはす 【ページ中央】 〽これ〳〵まだ ざるもまはさぬに にげる事はない にげると しりへ かまを ぶつつけるぞ 〽さゝのはを どぢやうにばけ させるはこつちの ゑてものだ 【ページ下】 〽やれこわや ばけぢそうさま たすけたまへ 〳〵 きつね たぬきつれ〳〵 なるまゝ日くれころより まちなかへ出てぶら〳〵 あるきしがとある よしすのかげにうま きにほひするゆへもしや ねづみのあぶらあげ ではないかとさしのぞ けばこはいかにいぬしゝ しかのにうりなり ければたぬきは たぬきしるにされぬ うちにげんとあはて きつねはきつねいろに やかれぬうちはし らんとおそれる 〽玉〳〵こゝへきたら こんなめにあふ こゝらへはもう こん〳〵 ふたり あはせて 狐狸(こり)〳〵 した 【左ページ 下】 かつはも をかへあがり 子ともでも いらば引 ずり こ ま ん と あるく うち とある みづ ちや やに な か まの かつは の ひぼしを□せる【見せる?】 かんばん ありければ きもをおのれが へとともに つぶして にげる ねこのばけるはもをかぶる よりはなはだ手おもく 手ぬぐひはなをさら すくなしたま〳〵へにやの みせにつるしてあれども なか〳〵ねこくらゐの 手にはおよばづまだ たのみに思ふはだくわし やのふきんなれ どもふつてい【払底=売り切れ?】なれば ばける事手おもく けつく人間のために ばかさるゝ事おほく そゝかしき下女ちやわんや ふたものをこはしてはこま めがねつみをとるとてたな からおとしたなどゝむしつの つみをえれどいゝわけも ならずたま〳〵ひるねを すればいたづらものヽあく 太郎にうなさるゆへちよつかいを かんでむねへてをのせてはねず ねこのうなされるときはいぬのこ くともいわれぬゆへねづみ なきをするはよき あんじなり 〽ねこのゆめにも いろ〳〵のうらかた【占方】 【左ページへ】 あつておんぎよく ごとのゆめをきらふ なりかはにはら るゝといふいみ事 なるべし はつゆめなど には一ふしと いふて かつほぶしを 第一とし 一ふし 二ひなた 三ねづみ これらは ゆめの 上ゝ 吉なり 【左ページ 上 中央】 〽フウ 〳〵 【左ページ 中央】 〽■ しき  〳〵 〽■■【御用】 そつち から いしを ぶつ つけろ むねのひろい 人はものを のんでかゝり むねほどは しりのあなも ひろければ むねにつかへると いふ事なくきど あいらくともに へちまのかはとも おもはず川に千年 山に千年うみに千年 しやうてんのきを ゑればばけものは とをりものがすると いふておそれうはばみ などはくれないのしたを まいてこわがりうはばみだんぶつ 〳〵と十念を となへてゐる またはかごみゝ【籠耳】と いふてみゝのあなは じやうごのごとく そのそばに 川あつて きいた事は きゝながし〳〵 【左ページへ】 かぜのふくときは馬の みゝとへんじる はけものゝほうては これらをいたつて おそろしき ものにしておく 〽ちつと ふるひが うはばみは おれが もんに つけているは 〽ばけものでも 人間でも のんでかる事に こわひ 事はねへ やろうは 小つぶでも 三分出すと 両にも なる男だ へびくらゐを なんと おもふ ものか 【右ページ 右下】 おそろしや〳〵さても あたまの ながいおぢい だ 【右ページ 左下】 うはばみ曰 〽また りやうにも ならぬうち てんじやうを みた 【左ページ 右下】 ゆき女にげる にへゆでもかけられぬ うちおさらば〳〵 【左ページ 左下】 〽愚按(ぐあん)ずるにゆき女はにげるより きへるほうが手まはしが よさそうなものだ それこしから下のないものは ゆうれいのほかににんぎやう つかいの上下 むかうしまのとりゐ にづらゑのあんどん なりばけものゝほうでは こしから下のないものは かゝしほどをそろしき ものなしこわひと 思ふきにかさきせて 心のゆみは目もくれ竹の 簔毛(みのけ)もよだつ おそろしさ何となるこの きつなにまよひ引かるゝ までのぼんのうくぼより ぞくつくとはかうしたまちがい よりあつたらきもを つぶす事あり されば古歌にも  山田もるかゝしに わさはなけれども ありと思へば しかも かよはす 【右ページ 下】 〽これをみては おいらは かうして にげる 〽アノ やきもち ふかい うちの かゝし より こわひ 〳〵 【左ページ 下】 〽いせもの かたりに かゝし男 ありけりと あれば 山田もるに ゑんも あれど な 何に しろ ぶきびな なり ひら だ 【左ページ 中央】 〽ほんにかゝしの やうな事だ あんやにきをだんずへからず白日に人の うはさをすへからすくわいりよくらん しんをかたるべからずとはくんしの おしへろんごよりせうこ みこしにうだうを はじめみな〳〵きやうに いり日もはやかたふき 百すじのとうしん たゞ一すじになりしを うちけせば引まど からぐわら〳〵 かつたりとおち たるをおにか人かと よくみれば すじくまのあさ いなたこゆへみな〳〵 きもとともにあんどうを ふみつぶし一文だこのいときれし ごとくはけものどもふはり〳〵と きへうせける まことやあやしき をみてあやしま されはあやしき 事なしあくま げどうといといふは ふちうふこうの 人より外なし これにつけても お子さまがた わるひまねを なさるなや なんとかてんか 〳〵