【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>日本衛生文庫>第2輯>夜船閑話 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/935569/114】 ●模範解答付きコレクションは、国会図書館が公開する翻刻本を参照資料として、自分で答え合わせをしながら翻刻を進めることができるコレクションです。 ●参照する翻刻本では、かなを漢字にしたり、濁点や句読点を付加するなど、読みやすさのために原書と異なる表記をしている場合があります。入力にあたっては、「みんなで翻刻」ガイドラインの規則に従い、原書の表記を優先し、見たままに翻刻して下さい。 ●参照する翻刻本と原書の間で、版の違いなどにより文章や構成が相違する場合があります。この場合も原書の状況を優先して翻刻して下さい。 【帙の表紙 題箋】 《題:夜船閑話》 【帙を開い様子 背】 夜船閑話     【資料整理ラベル】 294.3  Ha 【帙表紙】 夜船閑話 【帙の内側 開いた様子 白紙】 【冊子の表紙 題箋】 《割書:白隠|禅師》夜船閑話 【右丁  手書きメモ】 読万巻之書不如 °一貫之要°修   贈岩重契      辱知漏舟居士  明治十二年九月上旬 【ラベル 横書き】 記念文庫 萩原汎愛 294.3  Ha 北海道帝国大学 附属図書館 NO 144257 【左丁】 夜船(やせん)閑話(かんなの)序(しよ)          窮乏菴(きゅうほふあん)主(しゆ)饑凍(きとう)選(せんす) 宝暦(ほうれき)丁丑(ていちう)の春(はる)長安(ちやうあん)の書肆(しよし)友松堂(ゆうせうたう)何某(なにかし)とかや 聞(きこ)へし遠(とふ)く草書(さうしよ)を裁(さい)して吾(わ)が鵠林(こうりん)近侍(きんじ)の 左右(さゆう)に寄(よ)せて云く伏(ふ)して承(うけたまは)る老師(らうし)の古紙(こし) 堆中(たいちう)夜船閑話(やせんかんな)とかや云へる草稿(さうかう)あり書中(しよちう) 多(おゝ)く気(き)を錬(ね)り精(せい)を養(やしな)ひ人の営衛(ゑいゑ)をして 充(み)たしめ専(もつは)ら長生(ちやうせい)久視(きうし)の秘訣(ひけつ)を聚(あつ)む 【右丁】 謂(いは)ゆる神仙(しんせん)錬丹(れんたん)の至要(しよう)なりと是故(このゆへ)に世(よ)の 好事(こうず)の君子(くんし)是(これ)をおもふ事 荒旱(こうかん)の雲霓(うんげい)の 如し偶(たま)〳〵雲水(うんすい)の徒侶(とりよ)竊(ひそ)かに伝写(てんしや)し来る あるも秘重(ひちう)し珍蔵(ちんざう)して人おして見せしめず 天瓢(てんひやう)むなしく櫃(ひつ)におさめて匿(かく)したるが如(こと)し 願(ねかは)くは是を梓(し)に寿(いのちな)がふして以て其 渇(かつ)を慰(い) せん聞く老師 常(つね)に人を利(り)するを以て老後(らうこ) を楽(たの)しみ給ふと若(もし)夫(それ)人に利あらば師 豈(あ) 【左丁】 に是を吝しみ給はんやと二虎(にこ)含(ふく)み来て師に呈(てい) す師 微(ひ)〱として笑ふ此において諸子 旧書(きうしょ)櫃(き) を開(ひら)けば草稿(さうこう)蠹魚(ときよ)の腹(はらの)中に葬(ほうむ)らるゝ者 中(なか)葉(ば) に過(すぎ)たり諸子即ち訂正(ていせい)伝写(でんしや)して既(すで)に五十 来(らい) 紙(し)を見る即ち封裹(ほうくは)して以て京師(けいし)に寄(よ)せん とす予が馬歯(はし)一日も諸子に長(ちやう)たるを以て其 端(たん)由(ゆ)を書(しよ)せん事を責(せ)む予も亦 辞(し)せずして 出す云く師 鵠林(こくりん)に住(ちう)すること大凡四十年 鉢(ほ) 【右丁】 嚢(のう)を掛(か)けしより以来(このかた)雲水(うんすい)参玄(さんけん)の布(ふ)衲子(のつす)纔(わづ) かに門 閫(こん)に跨(またが)れば師の毒涎(どくゑん)を甘(あま)なひ痛棒(つうほう)を 滋(うま)しとして辞(し)し去(さ)る事を忘(わす)るゝ者或は十年或は 二十年鵠林〻下の塵と成事も亦 総(そう)に顧(かへり)みざる 底あり尽(こと〳〵)く是 叢林(さうりん)の頭(つ)角(かく)四方の精(せい)英(ゑい)なり 各(をの)〳〵西東五六里が間に分(わか)れて旧(きう)舎(しや)廃(はい)宅(たく) 老院(らうゐん)破(は)廟(びやう)借(かり)て以て菴(あん)居の処として清(せい)苦(く)す 朝 艱(かん)暮 辛(しん)昼 餒(たい)夜 凍(とう)口に投(とう)する者は菜葉(さいよう) 【左丁】 麦麩(ばくふ)耳に触(ふ)るゝ者は熱喝(ねつかつ)詬罵(くめ)【垢は誤】骨に徹(てつ)する 者は嗔拳(しんけん)痛棒(つうほう)見る者 顙(ひたい)を攅(あつ)め聞者 肌(はたへ) 汗(あせ)す鬼神(きしん)もまた涙(なんだ)を浮(うか)へつべく魔外(まけ)も また掌(たなこゝろ)を合わせつべし其初め来る時は宋玉(そうきよく) 河妟(かあん)が美貌(びほう)有て肌膚(きふ)光 沢(たく)凝(こ)れる膏(あぶら)の 如くなる者も久しからずして恰(あたか)も杜甫(とほ)賈島(かとう) か形容(けいよう)枯槁(こかう)顔色(がんしよく)憔悴(せうすい)するが如く或は屈(くつ)子に 沢畔(たくはん)に逢(あ)ふか如し参玄 軀命(くみやう)を顧(かへりみ)さる底 【右丁】 の勇猛(ゆみやう)の上士にあらざるよりんば何の楽(たの)しみ 有てか片時(へんし)も湊泊(そうはく)する事を得んや是故に 往(おう)〻に参窮(さんきう)度(と)に過き清 苦(く)節(せつ)を失する族(やから) は肺(はい)金いたみかじけ水分 枯渇(こかつ)して疝 癖(へき)塊(くはい) 痛(つう)難治の重 症(しやう)を発(はつ)せんとす是を憐(あわれ)み是 を愁(うれい)て師不 予(よ)の色有る者連日乍ち忍(にん)俊(しゆん) 不 禁(きん)にして雲(うん)頭(とう)を按下(あんけ)し老婆(らうは)の臭乳(しうにう)を 絞(しぼ)つて是に授(さつく)るに内観の秘訣(ひけつ)を以(もつ)てす乃(いまし)ひ 【左丁】 云く若(もし)是参禅 弁道(へんとう)の工士心火 逆(ぎやく)上し身心 労(らう) 疲(ひ)し五内 調和(じやうくは)せざる事あらんに鍼(しん)灸(きう)薬(やく)の 三つを以て是を治せんと欲(ほつ)せば縦(たと)ひ華陀(くはだ)扁(へん) 倉(そう)と云へとも輙(たやす)く救(すく)ひ得る事 能(あた)はじ我(われ)に 仙人 還(げん)丹の秘訣(ひけつ)あり你が輩(とも)がら試(こゝろみ)に是を 修(しゆ)せよ奇功(きこう)を見る事 雲霧(うんぶ)を披(ひら)ひて皎(かう)日を 見るが如けん若し此 秘(ひ)要(よう)を修せんと欲せば 且(しば)らく工夫(くふう)を拋下し話頭を拈放(ねんほう)して先 【右丁】 須らく熟(しゆく)睡(すい)一 覚(かう)すべし其 未(いま)だ睡(ねむ)りにつ かず眼(め)を合せざる以前に向て長(な)かく両 脚(あし)を 展(の)へ強(つ)よく蹈(ふ)みそろへ一身の元気(けんき)をして臍(せい) 輪(りん)気海(きかい)丹田(たんてん)腰脚(ようきやく)足心の間に充(み)たしめ時〻 に此 観(くわん)を成すべし我此の気海(きかい)丹田 腰脚(ようきやく)足 心総に是我が本来(ほんらい)の面(めん)目〻〻何の鼻孔(ひこう)かある 我此の気海丹田総に是我が本分の家郷(かきやう) 〻〻何の消息(せうそく)かある我が此の気海(きかい)丹田総に 【左丁】 是我が唯心(ゆいしん)の浄土〻〻何の荘厳(しやうこん)かある我が此の 気海(きかい)丹田総に是我が已身の弥陀〻〻何の 法をか説(と)くと打返(か)へし〳〵常に斯(か)くの如く 妄想(もうざう)すべし妄想の功果(こうくは)つもらば一身の元気(けんき) いつしか腰脚(ようきやく)足心の間に充足(しうそく)して臍下(さいか)瓠(こ) 然(ぜん)たる事いまた篠(しの)打ちせざる鞠(まり)如けん 恁麼(いんも)に単ゝに妄想し持ち去て五日七日 乃(ない)至(し) 二三七日を経(へ)たらむに従前の五 積(しやく)六 聚(じゆ)気(き) 【右丁】 虚労(きよらう)役(ゑき)等(とう)の諸 症(しやう)底を払(はらふ)て平癒(へいゆ)せずんば 老僧(らうそう)が頭(かうべ)を切(き)り持ち去れ此において諸子 歓喜(くわんぎ) 作礼して密(みつ)〻に精修(せいしゆ)す各〳〵悉(こと〳〵)く不 思議(しぎ) の奇功(きこう)を見る功の遅速(ちそく)は進修の精麤(せいそ)に依(よ)る といへども大半皆 全快(ぜんくはい)す各〳〵内 観(くはん)の奇功を 讃嘆(さんたん)して休(や)まず師の曰(いは)く你が輩(ともがら)心病全快 を得て以て足れりとする事なかれ転ゝ治(じ) せは転ゝ参(さん)ぜよ転ゝ悟(さと)らば転ゝ進(すゝ)め老僧 【左丁】 初め参学(さんがく)の時難治の重病(ぢうびやう)を発(はつ)して其 憂(ゆう) 苦(く)諸子に十 倍(はい)せり進退(しんたい)惟(これ)谷(きは)まる尋常(よのつね)心にひ そかに思惟(しゆい)すらく生(い)きて此 憂愁(ゆうしう)に沈(しづ)まん よりは如かじ早く死(し)して此 革嚢(かくのう)を捨んには と何の幸(かう)ぞや此の内 観(くはん)の秘訣(ひけつ)をつたへて 全快(せんくはい)を得(ゑ)る事今の諸子の如し至人の云く 此は是 神仙(しんせん)長生不死の神術(しんじゆつ)なり中下は世(せい) 寿(じゆ)三百 歳(さい)なるべし其 余(よ)は計(はか)り定むべか 【右丁】 らず予則ち歓喜(くわんぎ)に堪(た)へず精修 怠(おこた)らざる者(は) 大凡三年心身次第に健康(けんかう)に気力次第に勇(ゆう) 壮(さう)なる事を覚(おほ)ふ此において重(かさ)ねて心に竊(ひそ) かに謂へらく縦(たと)ひ此真修を修(しゆ)し得て彭祖(ほうそ) が八百の歳時を保(たも)ち得るも唯(たゞ)是一箇 頑空(ぐはんくう) 無智の守(しゆ)屍(し)鬼(き)ならくのみ老狸(らうり)の旧窠(きうくは)に 睡(ねむ)るが如し終に壊滅(ゑめつ)に帰(き)せん何が故ぞ今既 に独(ひと)りも葛洪(かつこう)鉄拐(てつかい)張華(ちやうくは)費(ひ)張が輩(ともが)らを 【左丁】 見ず如かし四弘(ぐ)の大誓を憤起(ふんき)し菩薩(ほさつ)の 威儀(いぎ)を学(まな)び常に大 法施(ほつせ)を行し虚空(こくう)に先(さきだ) つて死せず虚空に後(をく)れて生せざる底の不 退(たい)堅固の真法身を打 殺(せつ)し金剛(こんがう)不 壊(くはい)の 大仏身を成就(じやうじゆ)せんにはと此において真正 参(さん) 玄(けん)の上士両三 輩(はい)を得て内観と参禅(さんぜん)と共 に合せ並(な)らべ貯(たくは)へて且(か)つ耕(たか)へし且つ戦(たゝか)ふは 蓋(けだ)し茲(こゝ)に三十年年〻一 員(いん)を添(そ)へ二 肩(けん) を増(ま)し得て今 既(すで)に二百衆に近かしその中間 方来の衲子 労屈(らうくつ)疲倦(ひけん)の族(やか)ら或は心火 逆(きやく) 上し正に発狂(はつけう)せんとする底を憐(あはれ)み密(ひそ)かに 此内観の至要(しよう)を伝授(でんじゆ)し立所に快癒(くはいゆ)せし め転ゝ悟(さと)れは転ゝ進(すゝ)ましむ馬年今歳 古希(こき) に越(こ)へたりと云へども半 点(てん)の病患(びやうゆう)なく歯(し) 牙(げ)全(まつた)く揺落(ようらく)せず眼耳(かんに)次第に分明にして 動もすれば靉靆(あいたい)を忘(わす)る毎月両度の法施(ほつせ) 【左丁】 終に怠倦(たいけん)せず請に佗(た)方に応(おう)じて三百五百の 海衆を聚会(しゆくはい)して或は五旬七旬を経(きやう)に録に 雲(うん)水の所望(しよもう)に随(したがつ)て胡説(うせつ)乱道(ろんどう)するは大凡 五六十会に及ぶと云(い)へども終(つい)に一日も罷講(はこう) 斎(さい)を鎖(とさ)さず身心 健康(けんかう)気力(きりよく)は次第に二三 十歳の時には遥(はる)かに勝(ま)されり是皆 彼(か)の内 観(くはん)の奇功に依(よ)る事を覚(おぼ)ふ住菴(ちうあん)の諸子 各(をの) 〳〵悲泣(ひきう)作礼して云(いは)く吾(わ)が師(し)大 慈(じ)大 悲(ひ)願(ねがは) 【右丁】 くは内観の大 略(りやく)を書(しよ)せよ書して留(と)めて後(こう) 来(らい)禅(ぜん)病 疲倦(ひけん)各が輩(ともがら)の如き者を救(すく)へ師即ち 頷(がん)す立処に草稿(さうかう)成る稿中何の説(と)く処ぞ 曰く大凡生を養(やしな)ひ長寿を保(たも)つの要(ようは)形(かたち)を 錬(ね)るにしかず形を錬るの要神気をして 丹田(たんでん)気海(きかい)の間に凝(こ)らさしむるにあり神 凝(こ)る 則(とき)は気 聚(あつま)る〻〻る則は即ち真(しん)丹成る丹 成(な)る 則は形(かたち)固(かた)し形固き則は神(しん)全(まつた)し神全き則(とき)は 【左丁】 寿(いのちな)がし是仙人九 転還丹(てんげんたん)の秘訣(ひけつ)に契(かな)へり須 らく知るべし丹は果(はた)して外物(けふつ)に非(あら)ざる事 を千万 唯(たゞ)心火を降下(かうか)し気海(きかい)丹田の間に 充(み)たしむるに有(あ)るらくのみ住菴(ぢうあん)の諸子(しよし)此 心要を勤(つと)めてはげみ進(すゝ)んで怠(をこた)らずんは禅(ぜん) 病(ひやう)を治し労疲(らうひ)を救(すく)ふのみにあらず禅門向 上の事に到(いたつ)て年来 疑団(きたん)あらむ人〻は大ひに 手を拍(はく)して大笑する底の大 歓喜(くはんき)有らむ 【右丁】 何が故ぞ月高して城影尽く  惟時宝暦丁丑孟正廿五蓂    窮乏菴主飢凍炷香稽首題 【左丁】 夜船閑話 山野 初(はじ)め参学(さんがく)の日 誓(ちか)つて勇猛(ゆみやう)の信心(しん〳〵)を 憤発(ふんはつ)し不 退(たい)の道情(どうじやう)を激起(げきき)し精錬(せいれん)刻苦(こくく) する者 既(すで)に両三霜 乍(たちま)ち一夜 忽然(こつぜん)として 落節(らくせつ)す従前多少の疑惑(ぎわく)根(ね)に和(くは)して氷(ひやう) 融(ゆう)し曠劫(くわうごう)生死(せうじ)の業(わざ)根底(こんそこ)に徹(てつ)して漚滅(おうめつ)す 自ら謂(おもへ)らく道ち人を去(さ)る事 寔(まこと)に遠(とふ)からず 古人二三十年是何の捏怪(ねつくはい)ぞと怡悦(いゑつ)蹈舞(とうぶ)を 【右丁】 忘(わす)るゝ者 数月(すげつ)向後(こうご)日用を廻顧(くはいこ)するに動静(どうぜう)の 二 境(きやう)全(まつた)く調和(しやうくは)せず去就(きよじゆ)の両 辺(へん)総に脱洒(だつしや) ならず自(みづか)ら謂(おもへ)らく猛(たけ)く精彩(せいさい)を着(つ)け重(かさね)て 一回 捨命(しやめい)し去んと越(こゝにお)ひて牙関(げくはん)を咬定(こうぢやう)し 雙眼(さうがん)睛(せい)を瞪開(とうかい)し寝食(しんしよく)ともに癈(はい)せんとす 既(すで)にして未(いま)だ期月(きげつ)に亘(わた)【亙は本字】らざるに心火(しんくは)逆上(ぎやくしやう)し 肺金(はいこん)焦枯(しやうこ)して雙脚(さうきやく)氷雪(ひせつ)の底(そこ)に浸(ひた)すが如 く両耳(りやうに)渓声(けいせい)の間を行くが如し肝胆(かんたん)常(つね)に 【頭部欄外の朱書き】 大凡豪気盛ナル 人処世ノ際大抵此 ノ病アリ此病ヨリ 然ル後真ノ豪傑 ト云フベシ也然ラハ則チ 病ハ天与ノ幸ナリ 【左丁】 怯弱(こにやく)にして挙措(こそ)恐怖(けうく)多く心神 困倦(こんけん)し寐(み) 寤(ご)《振り仮名:種〻|しゆ〳〵》の境界(きやうがい)を見る両 腋(ゑき)常に汗(あせ)を生じ 両 眼(がん)常に涙(なみだ)を帯(を)ぶ此(こゝ)において遍(あまね)く明師(めいし)に 投(とう)し広(ひろ)く名医(めいい)を探(さぐ)ると云(い)へども百 薬(やく)寸(すん) 功(こう)なし或(ある)人曰く城の白河の山 裏(うら)に巌居(かんきよ) せる者あり世人是を名(なづ)けて白幽(はくゆう)先生と 云ふ霊寿(れいじゆ)三四 甲子(かつし)を閲(け)みし人居三四里 程(ほど)を隔(へだ)つ人を見る事を好(この)まず行(ゆ)く則(とき)は 【右丁】 必(かなら)ず走(はしり)て避(さ)く人其 賢愚(けんぐ)を弁(べん)ずる事なし 里(さと)人 専(もつは)ら称(しやう)して仙人とす聞く故の丈山氏(ぢやうさんし) の師範(しはん)にして精(くはし)く天文(てんもん)に通(つう)じ深(ふか)く医道(いどう) に達(たつ)す人あり礼(れい)を尽(つく)して咨叩(しこふ)する則(とき)は稀(ま) れに微言(びげん)を吐(は)く退(しりぞ)ひて是を考(かんがふ)るに大ひに 人に利ありと此(こゝ)におゐて宝永(ほうゑい)第七庚寅 孟(もう)正中 浣(くはん)竊(ひそ)かに行纏(あんてん)を着(つ)け濃東(ぢやうとう)を発(はつ)し 黒谷を越(こ)へ直(たゞ)ちに白川の邑(ゆう)に到(いた)り包(ほう)を茶(さ) 【左丁】 店(てん)におろして幽か巌栖(かんせい)の処を尋(たづ)ぬ里人 遥(はる)か に一枝の渓(けい)水を指(ゆびさ)す即(すなは)ち彼の水声に随(したがつ)て 遥かに山渓に入(い)る正に行(ゆ)く事里ばかりに乍(たちま) ち流(りう)水(すい)を蹈断(とうたん)す樵径(しやうけい)もまたなし時に一 老夫(らうふ)あり遥かに雲煙(うんゑん)の間を指す黄白(くわうはく)にし て方寸 余(よ)なる者あり山気に随て或は顕(あら)はれ 或は隠(かく)る是幽か洞口(とうこう)に垂下(すいか)する所の蘆簾(ろれん) なりと予即ち裳(もすそ)を褰(かゝ)げて上(のぼ)る巉巌(ざんがん)を蹈(ふ) 【右丁】 み蒙葺(もうじやう)【注①】を披(ひら)けば氷雪 草鞋(さうあい)を咬(か)み雲露(うんろ)衲(のう) 衣(ゑ)を圧(を)す辛汗(しんかん)を滴(したし)て苦膏(くかふ)を流(なが)して漸(やうや)く 彼の蘆簾(ろれん)の処に到(いた)れは風致(ふうち)清絶(せいぜつ)実に物 表に丁(てい)々たる事を覚(おぼ)ふ心魂(しんこん)震(ふる)ひ恐(おそ)れ肌(き) 膚(ふ)戦栗(せんりつ)【注②】す且(しば)らく巌根(いはね)に倚(より)て数息(しやそく)する 者数百 少焉(しばらく)あつて衣を振(ふる)ひ襟(ゑり)を正(たゞ)して 畏つ〳〵鞠躬(きつきう)して簾子(れんし)の中を望めは朦朧(もうろう) として幽か目を収(をさ)めて端坐(たんざ)するを見る蒼髪(さうはつ) 【左丁】 垂(たれ)て膝(ひざ)に到(いた)り朱顔(しゆがん)麗(うるはし)ふして棗(なつめ)の如し大布 の袍(ほう)を掛(か)け輭(なん)草の席(せき)に坐せり窟(くつ)中 纔(わず)かに 方五六 笏(こつ)【注③】にして全(まつた)く資生(しせう)の具(ぐ)無(な)し机(きやく)上 只 中庸(  よう)と老子と金剛般若(こんがうはんにや)とを置(を)く予 則ち礼(れい)を尽(つく)して苦(ねんご)ろの病因(びやういん)を告(つ)げ且ッ救(すく) ひを請(こ)ふ少焉(しばらく)幽眼(ゆうがん)を開(ひら)ひて熟々(つら〳〵)視(み)て徐(じよ)々 として告(つ)げて曰く我は是山中半死の陳(ちん)人 樝栗(さりつ)を拾(ひろふ)て食(くら)ひ糜鹿(びろく)【注④】に伴(ともな)つて睡(ねむ)る此 【注① 「蒙葺」は「蒙茸」ヵ】 【注② 「戦栗」は「戦慄」とも】 【注③ 「笏」は「尺」の意。読みは「しやく」ヵ】 【注④ 「糜鹿」は「麋鹿」ヵ】 【右丁】 外 更(さら)に何をか知(し)らんや自ら愧(は)ず遠(とふ)く上人の 来望(らいぼう)を労(ろう)する事を予則ち転ゝ【注①】咨叩(しこう)して 休(や)まず時に幽 恬如(てんじよ)として予が手を捉(と)らへて精(くは) しく五内(ごだい)を窺(うかゞ)ひ九 候(こう)を察(さつ)す爪甲(さうこう)長きる【注②】半 寸 惨乎(さんこ)として顙(ひたい)を攅(あつ)めてつげて云(いは)く已哉(やんぬるかな)観理(くはんり) 度(と)に過(す)き進修節を失して終(つい)に此(こ)の重症(ぢうしやう)を 発(はつ)す実に医治(いじ)し難(がた)き者は公の禅病(ぜんびやう)なり 若(も)し鍼灸薬(しんきうやく)の三ッの物を恃(たの)んで而(しかう)して後(のち) 【左丁】 に是を救(すく)わんと欲(ほつ)せは扁倉(へんそう)力をつくし華陀(くはだ) 顙(ひたい)を攅(あつ)むるも奇功(きこう)を見る事 能(あた)はじ公今 既(すで) に観理(くはんり)の為に破(やぶ)らる勤めて内観の功を積(つ)ま ずんば終(つい)に起(た)つ事(こと)能はじ是彼の起 倒(とう)は必(かな) らず地に依るの謂(いゝ)なり予が曰く願(ねがは)くは内 観の要秘を聞かん学(まな)びがてらに是を修(しゆ)せん 幽 粛(しゆく)々如として容(かたち)をあらため従容(しやうよう)として 告て曰く嗚呼(あゝ)公の如きは問(と)ふ事を好(この)むの士(し) 【注① 「転ゝ」の読みは「うたゝ」】 【注② 「る」は「事」ヵ。明治19年の後印は「長(なかき)こと」と有り】 【右丁】 なり我(わ)が昔(むか)し聞(き)ける処を以て微(すこ)しく公に 告んか是 養生(ようじやう)の秘訣(ひけつ)にして人の知(し)る事 稀(ま) れあり怠(をこた)らずんば必ず奇功(きこう)を見(みん)久 視(し)も又 期(ご)しつべし夫大 道(とう)分(わか)れて両儀あり陰陽(ゐんやう) 交和(かうくは)して人物 生類(なる)先天の元気中間に黙運(もくうん) して五臓(こぞう)列(つらな)り経脈(けいみやく)行わる衛気(ゑいき)営血(ゑいけつ)互(たがひ)に昇(しやう) 降(がう)循環(しゆんくはん)する者 昼夜(ちうや)に大凡五十度 肺(はい)金は牝(ひん) 蔵(ぞう)にして膈(かく)上に浮(うか)び肝木(かんぼく)は牡蔵にして膈 【左丁】 下に沈(し)づむ心火は大 陽(やう)にして上部に位(くら)ひし 腎(じん)水は大 陰(いん)にして下部を占(し)む五 臓(ぞう)に七神あり 脾(ひ)腎(しん)各(をの)〳〵二神を蔵(か)くす呼(こ)は心 肺(はい)より出て 吸(きう)は腎肝に入る一呼に脈(みやく)の行(ゆ)く事三寸一吸に 脈の行く事三寸 昼夜(ちうや)に一万三千五百の気(き) 息(そく)あり脈一身を巡行(しゆんきやう)する事五十次火は軽(けい) 浮(う)【注】にしてつねに騰昇(とうせう)を好み水は沈重(ちんぢう)にして 常に下流を務(つと)む若(もし)人 察(さつ)せず観照(くはんせう)或は節 【注 「浮」の振り仮名「う」は「ふ」ヵ。明治19年の後印は「ふ」と有り】 【右丁】 を失(しつ)し志念或は度(ど)に過(すぐ)る則【注①】は心火 熾衝(しせう)し て肺(はい)金 焦薄(しやうはく)す金母 苦(く)るしむ則は水子 衰減(すいげん) す母子 互(たがい)に疲傷(ひしやう)して五位 困倦(こんけん)し六属 凌奪(りやうたつ) す四大 増損(そうそん)して各(をの)〳〵百一の病を生す百 薬(やく) 功を立する事 能(あた)はず衆医(しゆい)総に手を束(つ)かね て終に告(つぐ)る処なきに到(いた)る蓋(けだ)し生を養(やしな)ふ事は 国(くに)を守(まも)るが如し明君(めいくん)聖主(せいしゆ)は常に心を下に専(もつはら) にし暗君(あんくん)庸主(ようしゆ)は常に心を上に恣(ほしいまゝ)にす上に 【頭部欄外の朱書き】 之ヲ医書ニ徴シ之 ヲ自身ニ記ヌ【又ヵ】入房 ノ明日此ノ境界多 シ呵々 【左丁】 恣(のしいまゝ)にする則は九卿権に絝(ほ[こ])【注②】り百 僚(りやう)寵(ちやう)を恃(たの)んて曽(かつ) て民間(みんかん)の窮困(きうこん)を顧(かへりみ)る事無し野に菜(さい)色多く 国 餓莩(がひやう)多し賢良(けんりよう)濽(ひそ)【注③】み竄(かく)れ臣民(しんみん)瞋(いか)り恨(うら)む 諸侯(しよこう)離(はな)れ叛(そむ)き衆夷(しゆい)競(きそ)ひ起(をこ)つて終に民 庶(しよ)を 塗炭(とたん)にし国脈(こくみやく)永く断絶(たんぜつ)するに到(いた)る心を 下に専(もつは)らにする則は九 卿(けい)倹(けん)を守(まも)り百僚 約(やく)を 勤(つと)めて常に民間の労疲(ろうひ)を忘るゝ事無し農(のう) に余(あ)まんの粟(あは)あり婦(ふ)に余まんの布有て群(くん) 【注① 「則」の読みは「とき」。他同】 【注② 「絝」は「誇」の誤ヵ。読みは「ほこ」で「こ」脱ヵ】 【注③ 「濽」は「潜」の誤ヵ】 【右丁】 賢(けん)来り属(ぞく)し諸侯(しよこう)恐(おそ)れ服して民(たみ)肥(こ)へ国(くに)強(つよ)く 令に違(い)するの烝(ぢやう)民なく境(さか)ひを侵(をか)すの敵国(てきこく) なし国 刁斗(ちやうと)の声を聞く事なく民 戈戟(くはげき)の 名を知らず人身もまた然(しか)り【注①】至人は常に 心気をして下に充(み)たしむ心気(しんき)下に充つる 則は七凶内に動(うご)く事なく四 邪(じや)また外より 窺(うかゞ)ふ事 能(あた)はず営衛(ゑいゑ)充ち心神 健(すこや)かなり口ち 終に薬餌(やくじ)の甘酸(かんさん)を知らず身終に鍼灸(しんきう)の 【左丁】 痛痒(つうよう)を受(う)けず【注②】庸流(ようりう)は常に心気(しんき)おして上に 恣(ほしいまゝ)にす上に恣にする則(とき)は左寸の火右寸の金を 剋(こく)して五 官(くはん)縮(ちゝ)まり疲(つか)れ六親苦るしみ恨(うら)む 是故に漆園(しつゑん)曰く【注③】真人の息(いき)は是を息するに 踵(くびす)を以てし衆(しゆ)人の息は是を息するに喉(のんと)を 以てす【注④】許俊(きよしゆん)が云く蓋(けた)し気 下焦(かしやう)に在る則は 其息 遠(とふ)く気上焦に有る則は其息 促(しゝ)まる 上 陽子(やうし)が曰く人に真(しん)一の気有り丹田(たんてん)の中 【注①から注②の間の各文字の右傍に朱の「◦」有り】 【注③から注④の間の各文字の右傍に朱の「ヽ」有り】 【頭部欄外の朱書き】 豪傑戦地ニ居ル 平生ノ如キ之ナリ 以下真修ノ境ニ 入ル尋常ノ書ヲ 視ルト異ナリ楼ニ 登リ静坐シテ読 ムベシ 【右丁】 に降下する則は一陽また復(ふく)す若(もし)人 始陽(しやう)初復 の侯(こう)【注】を知(し)らむと欲(ほつ)せは暖気(たんき)を以て是が信(しん)と すべし大凡(をゝよそ)生を養(やしな)ふの道上部は常に 清涼(せいりやう)ならん事を要(よう)し下部は常に温煖(をんたん)な らん事を要せよ夫(それ)経脈の十二は支(し)の十二に 配(はい)し月の十二に応(おう)じ時の十二に合す六 爻(かう)変(へん) 化(くは)再周(さいしう)して一歳を全(まつと)ふするが如し五 陰(いん)上 に居し一陽下を占(し)む是を地 雷復(らいふく)と云(い)ふ 【左丁】 冬至(とうし)の侯(こう)【注】なり真人の息は是を息するに踵(くびす) を以(もつ)てするの謂(いゝ)か三 陽(やう)下に位(くら)ひし三陰上に居す 是を地天泰(ちてんたい)と云ふ孟(もう)正の侯【注】なり万物発生(ばんもつはつしやう) の気(き)を含(ふく)んて百 卉(き)春化の沢(たく)を受(う)く至人元 気おして下に充(み)たしむるの象(しやう)人是を得(う)る 則は営衛(ゑいゑい)充実し気力 勇壮(ゆうさう)なり五陰下に 居し一陽上に止(とゞ)まる是を山地(さんち)剥といふ九月 の侯【注】なり天是を得る則は林苑(りんゑん)色(いろ)を失(しつ)し百 【注 「侯」は「候」の誤ヵ】 【右丁】 卉 荒落(あれをち)ず是 衆(しゆ)人の息は是を息するに喉(こう)を 以(もつ)てするの象(しやう)人是を得(う)る則は形容(けいよう)枯槁(こかふ)し 歯牙(しげ)揺(よ)う落(らく)す所以(このゆへ)に延寿(ゑんじゆ)書に云く六陽 共の尽く則是 全陰(ぜんいん)の人 死(し)し易(や)すし須らく 知(し)るべし元気をして常(つね)に下に充(みた)しむ是生 を養(やしな)ふ枢要(すふよう)なる事を昔(むか)し呉契初(こかいしよ)【注①】石台 先生に見(まみ)ゆ斎戒(さいかい)して錬丹(れんたん)の術(じゆつ)を問(と)ふ先(せん) 生(せい)の云く我に元玄真丹の神秘(しんひ)あり上々の 【左丁】 器(き)にあらさるよりんは得て伝(つた)ふべからず古(いに)しへ 黄来(こふせい)子【注②】是を以て黄帝(こうてい)に伝ふ帝(みかど)三七 斎戒(さいかい)して 是を受く夫(それ)大道の外に真丹(しんたん)なく真丹の外 に大道なし蓋(けだ)し五 無漏(むろ)の【注③】法あり你ぢの六 欲(よく)を 去(さ)け五官各〳〵其 職(しよく)を忘(わす)るゝ則は混然(こんぜん)たる本源(ほんけん) の真気(しんき)彷彿(ほうふつ)として目前(もくぜん)に充(み)つ是 彼(か)の大白 道人の謂(いは)ゆる我が天を以て事(つかふ)る所の天に合 する者なり孟軻氏(もうかし)の謂(いは)ゆる浩然(こうせん)の気(き)是を )【注① 「契」の振仮名「かい」は「けい」の誤ヵ】 【注② 「黄来子」は「広成子」の誤ヵ。「広(廣)→黄」「成→来」の誤記ヵ。広成子と黄帝の故事が有り】 【注③ 「五無漏の」の各文字の右傍に朱の「◦」有り】 【頭部欄外の朱書き】 ◦ 昔梁武帝此ノ 義ヲ誤リ会シテ 后妃ノ■ヲ受妻 アルモノ誤ル可ラ ス 【■は「女+病」 「嫉」ヵ】 【右丁】 ひきいて臍輪(せいりん)気海(きかい)丹田(たんてん)の間に蔵(をさ)めて歳月(さいげつ)を 重(かさ)ねて是を守て守一(しゆいち)にし去(さ)り是を養(やしなふ)て無 適(てき)にし去て一 朝(てう)乍ち丹竈(たんそう)を掀翻(けんほん)する則は 内外中間八 紘(かう)四 維(ゆい)総是一 枚(まい)の大還丹此時に 当て初て自己(じこ)即ち是天地に先(さきた)ッて生ぜず 虚空(こくう)に後れて死(し)せざる底の真箇(しんか)長生(ちやうせい)久(く) 視(し)の大 神仙(しんせん)なる事を覚得(かくとく)せん是を真正 丹(たん) 竈(そう)功成る底(そこ)の時節(じせつ)とす豈(あ)に風に御(きよ)し霞(かすみ) 【左丁】 に跨(また)がり地(ち)を縮(ちゞ)め水を蹈(ふ)む等の鎖末(さまつ)【注①】たる幻事(けんじ) を以て懐(くはい)とする者(もの)ならんや大 洋(よう)を攪(か)ひて酥(そ) 酪(かく)【注②】とし厚土を変(へん)じて黄金とす前 賢(けん)曰く丹 は丹田なり液(ゑき)は肺(はい)液なり肺液を以て丹田に 還(か)へず是故に金液還丹といふ予か曰く謹(つゝし)ん で命(めい)を聞いつ且(しは)らく禅観(ぜんくはん)を拋(なげ)下し努(つと)め力めて治するを以て期(こ)とせん恐るゝ処は李士才(りしさい)が 謂(いは)ゆる清降(せいがう)に偏(へん)なる者にあらずや心を一 【注① 「鎖末」は「瑣末」とも】 【注② 「酪」の振仮名「かく」は「らく」の誤ヵ】 【右丁】 処に制(せい)せは気血(きけつ)或ひは滞碍(たいけ)する事なからむか 幽 微(び)々として笑(わらつ)て云く然(しか)らす李氏(りし)いはずや 火の性は炎(ゑん)上なり宜(よろ)しく是を下らしむ べし水の性(しやう)は下れるに就(つ)く宜しくこれを して上(のぼ)らしむべし水上り火下る是を名(なづ)けて 交(かう)と云ふ交る則は既済(きせい)とす交(まじは)らざる則は 未済(ひせい)とす交は生の象(しやう)不交は死の象なり 李家(りか)が謂(いは)ゆる清降(せいがう)に偏(へん)なりとは丹渓(たんけい)を 【頭部欄外の朱書き】 既済未済ハ元 麿呂之証ス 【左丁】 学(まな)ぶ者の弊(へい)を救(すく)わんとなり古人 云(いは)く相火上り 易(やす)きは身中の苦(く)るしむ所水を補(をきな)ふは火を制(せい) する所以(ゆゑん)なり蓋(けだ)し火に君相(くんさう)の二 義(ぎ)あり君 火は上に居して静(せい)を主(つか)さどり相火に下に処 して動(どう)をつかさどる君火は是一心の主なり 相火は宰輔たり蓋(けだ)し相火に両般あり謂(いは) ゆる腎(じん)と肝(かん)となり肝(かん)は雷(らい)に比(ひ)し腎(じん)は竜(りやう)に 比(ひ)す是故に云ふ竜(りやう)をして海底(かいてい)に帰(き)せしめは 【右丁】 必(かなら)ず迅発(しんはつ)の雷(らい)なけん但し雷(らい)をして沢中(たくちう)に 蔵(かく)れしめば必ず飛騰(ひとう)の竜(りやう)なけん海(うみ)か沢(たく)か水に あらずと云ふ事なし是相火上り易(やす)きを制(せい) するの語(ご)にあらずや又曰く心(しん)労煩(ろうはん)する則は 虚(きよ)して心(しん)熱(ねつ)す心 虚(きよ)する則は是を補(ほ)するに 心を下して以て腎(じん)に交(まじ)ゆ是を補と云ふ既(き) 済(せい)の道なり公 先(さき)に心火 逆(ぎやく)上して此 重痾(ぢうあ)を 発(はつ)す若(も)し心を降(かう)下せずんば縦(たと)ひ三 界(がい)の 【左丁】 秘密(ひみつ)を行(ぎやう)し尽(つく)したり共 起(た)つ事 得(ゑ)じ且(か)つ又(また) 我(わ)が形(ぎやう)し摸(も)道家 者(しや)流に類(るい)するを以(もつ)て大ひに 釈(しやく)に異なる者とするか是 禅(ぜん)なり他日打発せ は大ひに笑(わら)つべきの事 有(あ)らむ夫(それ)観(くはん)は無観を 以て正観とす多観の者を邪(じや)観とす向きに 公多観を以て此 重症(ぢうしやう)を見る今(いま)是を救(すく)ふに 無観を以てすまた可(か)ならずや公 若(も)し心炎(しんゑん) 意火(いくは)を収(をさ)めて丹田及ひ足心の間におかば胸(けう) 【右丁】 膈(かく)自然(しぜん)に清涼(せいれう)にして一 点(てん)の計較思想(け[い]きやうしさう)なく一 滴(てき)の識浪情波(しきろうぜうは)なけん是 真観(しんくはん)清浄観(しやう〳〵くはん)なり 云ふ事なかれしばらく禅(ぜん)観を扰下(ほうげ)【注】せんと 仏の言(い)はく心を足心におさめて能(よ)く百一の 病(やまひ)を治(じ)すと阿含(あこん)に酥(そ)を用(もちゆ)るの法あり心の 労疲(ろうひ)を救(すく)ふ事尤 玅(みやう)なり天台(てんだい)の摩訶止觀(まかしくはん) に病因(びやういん)を論(ろん)ずる事 甚(はなは)だ尽(つく)せり治法を説(と)く 事も亦(また)甚だ精密(せいみつ)なり十二種の息(そく)ありよく 【左丁】 衆病を治す臍輪(せいりん)を縁して豆(とう)子を見るの法 あり其大意心火を降(かう)下して丹田(たんでん)及び足心に 収(をさむ)るを以て至要(しよう)とす但病を治(ぢ)するのみにあら ず大ひに禅観(ぜんくはん)を助(た)すく蓋(けだ)し繋縁(けいゑん)諦真(たいしん)の 二 止(し)あり諦真(たいしん)は実相(じつさう)の円(ゑん)観 繋縁(け[い]ゑん)は心気(しんき)を 臍輪(せいりん)気海(きかい)丹田の間に収(をさ)め守(まも)るを以て第一 とす行者(ぎやうじや)是を用(もちゆ)るに大ひに利(り)あり古(いに)しへ 永平(ゑいへい)の開祖師(かいそし)大 宋(そう)に入て如浄を天童(てんどう)に 【注 「扰下」は「抛下」「放下」ヵ】 【右丁】 拝(はい)す師一日 密室(みつしつ)に入て益(ゑき)を請(こ)ふ浄曰く元 子 坐禅(ざぜん)の時き心を左の掌(たなこゝろ)の上におくべしと 是 即(すなは)ち顗師(かいし)の謂(いは)ゆる繋縁(けゑん)止の大 略(りやく)なり 顗師 初(はじ)め此の繋縁内観の秘訣(ひけつ)を教(をし)へて其 家兄(かけい)鎮慎(ちんしん)が重痾(ぢうあ)を万死(ばんし)の中に助(たす)け救(すく)ひた まふ事は精(くは)しくは小止観の中に説(と)けりまた 白雲(はくうん)和尚曰く我つねに心をして腔(かう)子の中に 充(み)たしむ徒(と)を匡(たゞ)し衆(しゆ)を領(りやう)し賓(ひん)を接(せつ)し 【左丁】 機(き)に応(おう)じ及び小 参普説(さんふせつ)七 縦(じう)八 横(おう)の間において 是を用(もち)ひてつくる事なし老来 殊(こと)に利益(りやく)多(おゝ)き 事を覚(おぼ)ふと寔(まこと)に貴(たつと)ぶべし是 蓋(けだ)し素問(そもん)に みゆる【注①】恬澹虚無(てんたんきよ)無なれば真気(しんき)是にしたがふ 精神(せいしん)内に守(まも)らば病(やまひ)何(いづ)れより来らむ【注②】といふ語(こ) に本(もと)づき給ふ者ならむか且(か)つ夫(それ)内に守(まも)るの 要(よう)元気をして一身の中に充塞(じうそく)せしめ三百 六十の骨節(こつせつ)八 万(まん)四千の毛窮(もうきやう)一 毫髪(がうはつ)ばかりも 【注①から注②の間の各文字の右傍に墨の「◦」有り】 【頭部欄外の墨書き】 恬澹虚無 【右丁】 欠缺(かんけつ)【注】の処なからしめん事を要(よう)すこれ生を養(やしな)ふ至要(しよう)なる事を知(し)るべし彭祖(ほうそ)が曰く和神(くはしん) 導気(とうき)の法 當(ま)さに深(ふか)く密室(みつしつ)を鎖(と)ざし牀(ゆか)を 案(あん)じ席(せき)を煖(あたゝ)め枕の高(た)かさ二寸半正身 偃臥(ゑんくは) し瞑目(めいもく)して心気を胸膈(けうかく)の中に閉(と)ざし鴻毛(かうもう)を 以て鼻(ひ)上につけて動(うご)かざる事三百息を経(へ)て 耳(みゝ)聞(きく)処なく目見る処なく斯(かく)の如くなる 則は寒暑(かんしよ)も侵(を)かす事 能(あた)はず《振り仮名:蜂■|ほうたい》も毒(どく)する 【注 「欠」と「缺」は新字旧字の同字であるが、ママとする】 【■は「蠆」ヵ】 【頭部欄外の朱書き】 每日午睡ノ前ニ 試テ自然ニ佳 眠アラン 【左丁】 事能はず寿(ことぶ)き三百六十歳是 真(しん)人に近(ち)かしと 又 蘇内翰(そたいかん)が曰く已(すで)に飢(う)へて方に食(しよく)し未(いま)だ飽(あか)ず して先止む散歩逍遙(さんほせうよう)して務(つと)めて腹をして空(むなし) からしめ腹(はら)の空(くう)なる時に当(あたつ)て即ち静室(じやうしつ)に入(い) り端坐黙然(たんざもくせん)して出入の息(いき)を数(かぞ)へよ一息より かぞへて十に到(いた)り十より数(かぞ)へて百に至り百ゟ 数へ放ち去て千に至りて此身 兀然(ごつぜん)として 此心 寂(じやく)然たる事 虚空(こくう)と等(ひと)し斯(かく)のごとく 【頭部欄外の朱書き】 息ヲ数フルノ法ハ 呼カ吸カノ一ヲ数 フベシ呼吸共ニ数レ ハ益ナシ還テ労 多シ 真修ノ法ハ坐臥 行住ノ別ナシ然 ルニ始メハ密室静 坐ヲ由トス 【右丁】 なる事 久(ひさし)ふして一息おのづから止(とゞ)まる出でず 入らざる時此息八 万(まん)四千の毛窮(もうきやう)の中より雲(くも) 蒸(む)し霧(きり)起(をこ)るが如く無 始(し)劫来(こうらい)の諸病(しよびやう)自(をのづか)ら 除(のぞ)き諸障(しよしやう)自然(しぜん)に除滅(じよめつ)する事を明悟(めいご)せん 譬(たと)へば盲人(もうじん)の忽然(こつぜん)として眼(め)を開(ひら)くが如けん 此時人に尋(たづ)ねて路頭(ろとう)を指(さ)す事を用(もち)ひず只 要す尋常言語を省略して爾(なん)ぢの元気を 長養(ちようやう)せん事を是故に云(い)ふ目力を養(やしな)ふ者 【左丁】 は常に瞑(みやう)し耳根(にこん)を養(やしな)ふ者は常に飽(あ)き心気 を養ふ者は常に黙(もく)すと予が曰く酥(そ)を用るの 法得て聞ひつべしや幽が曰く行者(ぎやうじや)定(てい)中四大 調和(てうくは)せず身心(しん〳〵)ともに労疲(ろうひ)する事を覚せば 心を起(をこ)して応(ま)さに此 想(さう)を成(な)すべし譬(たと)へば 色香(いろか)清浄(せうじやう)の輭蘇(なんそ)鴨卵(わうらん)の大ひさの如くなる 者 頂(てう)上に頓在せんに其 気味(きみ)微妙(みみやう)にして 遍(あまね)く頭顱(づろ)の間をうるをし浸々として潤(じゆん) 【右丁】 下(か)し来て両 肩(けん)及び双臂(さうひ)両 乳(にう)胸膈(けうかく)の間 肺肝(はいかん)腸胃(ちやうい)脊梁(せきりやう)臀骨(とんこつ)次第に沾(せん)注し将ち 去る此時に当て胸(けう)中の五 積(しやく)六聚 疝癖(せんへき)塊痛(くはいつう) 心に随(したがつ)て降(かう)下する事水の下につくがごとく 歴(れき)々として声(こへ)あり遍身(へんしん)を周流し双脚(さうきやく)を 温潤(おんじゆん)し足心に至て即ち止(とゞ)む行者 再(ふたゝび)応(ま) さに此観を成(な)すべし彼の浸々として潤下 する所の余(よ)流 積(つ)もり湛(たゝ)へて暖(あたゝ)め蘸(ひた)す事 【左丁】 恰(あたか)も世の良医(りやうい)の種(しゆ)々 玅(みやう)香の薬物を集(あつ)め是 を煎湯(せんたう)して浴盤(よくばん)の中に盛(も)り湛(たゝ)へて我が臍(せい) 輪(りん)已下を漬(つ)け 蘸(ひた)すが如し此観をなすとき 唯心(ゆいしん)所現(しよけん)の故に鼻根(びこん)乍ち希有(けう)の香気を 聞(き)き身根(しんこん)俄(には)かに玅好の輭触(なんそく)を受(う)く身心 調(てう) 適(てき)なる事二三十歳の時には遥(はる)かに勝(まさ)れり此 時に当て積聚(しやくしゆ)を消融(せうゆう)し腸胃(ちやうい)を調和し覚 へず肌膚(きふ)光沢(こうたく)を生ず若(もし)其 勤(つと)めて怠(をこた)らずん 【右丁】 は何(いづ)れの病(やまひ)か治せざらむ何れの徳(とく)かつまさらん 何れの仙か成せざる何れの道(みち)か成ぜざる其 功(こう) 験(げん)の遅速(ちそく)は行人の進修の精麁(せいそ)に依(よ)るらく のみ走始め丱(くはん)歳の時多病にして公の患(うれ)ひに 十 倍(ばい)しき衆医(しゆい)総に顧(かへり)みざるに到(いた)る百端を 窮むといへども救(すく)ふべきの術(じゆつ)なし此(こゝ)において 上下の神祇(しんぎ)に祈(いのり)て天仙の冥助(めうぢよ)を請(こ)ひ願(ねが)ふ 何の幸(さいは)ひぞや計(はか)らず此の輭酥の玅術を 【左丁】 伝受(でんじゆ)する事を歓喜(くはんき)に堪(た)へず綿(めん)々として精 修す未だ期月(きげつ)ならざるに衆病大半 銷除(しやうぢよ)す 爾来(しかしよりこのかた)身心 軽安(けいあん)なる事を覚(おぼ)ゆるのみ痴々(ちゝ)兀(こつ) 々月の大小を記せず年の潤余(じゆんよ)を知らず世念 次第に軽微(けいひ)にして人 欲(よく)の旧習(きうしう)もいつしか忘れ さるが如し馬年今歳何十歳なる事もまた 知(し)らず中頃端由有て若丹【注①】の山中に濽遁(せんとん)【注②】す る者大凡三十歳世人 都(すべ)て知る事なし其中 【注① 「若丹」は、別本では「若州」とあり。「丹」は「州」の誤記、又は「若狭丹後」の意ヵ】 【注 「濽」は「潜」の誤ヵ】 【右丁】 間を顧(かへりみ)るに恰(あたか)も黄粱半 熟(じゆく)の一 夢(む)の如し今 此山中無人の処に向て此 枯槁(ここう)の一 具(ぐ)骨を放 て太布の単衣(たんゑ)纔(わず)かに二三片を掛(か)け厳冬(げんとう)の寒 威綿を折(くじ)くの夜といへども枯腸(こちやう)を凍損(とうそん)する にいたらず山粒すでに断(た)へて穀(こく)気を受(う)けざ る事動もすれば数(す)月に及ぶといへども終に 凍 餒(たい)の覚へもなき事は皆此観の力らならずや 我今既に公に告(つぐ)るに一生用ひ尽(つく)さゞる底(てい)の 【左丁】 秘訣(ひけつ)を以(もつ)てす此外更に何をか云(いは)んやと云て目を 収(をさ)めて黙坐(もくざ)す予も亦(ま)た涙(なみだ)を含(ふく)んで礼辞(れいし)す 徐々として洞口(とうこう)を下れば木末(こずへ)纔(わず)かに残陽(さんやう)を 掛(か)く時に屐声(げきせい)の丁々として山谷に答(こた)ふる あり且(か)つ驚(おどろ)き且つ怪(あやし)んで畏(をそれ)つゝ【注】回顧(くはいこ)すれば 遥(はる)かに幽が巌窟(がんくつ)を離(はな)れて自(みづか)ら送り来(きた)るを 見る即ち曰く人 跡(せき)不到の山 路(ろ)西東分ち難(がた) し恐(をそら)くは帰客(きかく)を悩(なやま)せん老夫(らうふ)しばらく帰程(きてい) 【注 「ゝ」は「〳〵」ヵ。明治19年の後印は「畏づ〳〵(振り仮名無し)」と有り。別本は「畏(お)づ畏(お)づ」と有り】 【右丁】 を導(みちびか)んと云て大 馰屐(くけき)【注①】を着け痩鳩(そうきう)杖をひき 巉巌を𨂻(ふ)み嶮岨(けんそ)を陟(のぼ)る事 飄( ひやう)々として坦途(たんと) を行くが如く談笑(たんせう)して先 駆(く)す山路 遥(はる)かに 里 許(ばかり)を下て彼 渓(たに)水の《振り仮名:所 ̄に|ところに》到て即ち曰く此の流水 に随(したが)ひ下らば必ず白川の邑(ゆう)に到(いた)らむと云て 惨然(さんぜん)として別(わか)る且(しば)らく柴立(さいりつ)して幽か回歩(くはいほ) を目送するに其 老歩(らうほ)の勇壮(ゆうさう)なる事 飄然(ひやうぜん) として世を遁(のが)れて羽 化(け)して登仙(とうせん)する人 【左丁】 の如し且つ羨(うらや)み且(かつ)敬(けい)す自 恨(うら)む世を終るまで 此等の人に随逐(ずいちく)する事 能(あた)はざる事を添々【注②】と して帰(かへ)り来て時々に彼の内観を濽修(せんしゆ)【注③】する に纔(わす)かに三年に充(み)たざるに従前の衆病 薬餌(やくし) を用ひず鍼灸(しんきう)を仮(か)らず任運に除遣(しよけん)す特(ひと)り 病を治するのみにあらず従前 手脚(しゆきやく)を挟(はさ)む 事得ず歯牙(しげ)を下す事得ざる底の難信(なんしん) 難透難解難入底の一着子根に透り底 【注① 「馰」は「駒」の誤ヵ】 【注② 明治19年の後印は「除々」とあり。別本は「徐々」とあり】 【注③ 「濽」は「潜」の誤ヵ】 【右丁】 に徹(てつ)して透得過して大 歓喜(くはんき)を得る者大凡 六七回其余の小 悟(ご)怡悦(いゑつ)《振り仮名:𨂻舞|とうふ》を忘るゝ者 数(かず)を しらず玅喜の謂(いは)ゆる大悟十八度小悟数を 知(し)らずと初て知る寔(まこと)に我を欺(あざむ)かざる事を古(いに) しへ二三緉の襪(べつ)を着くといへども足心常に 氷雪(ひやうせつ)の底に浸(ひた)すが如くなる者今既に三冬 厳寒(げんかん)の日と云へども襪せず炉(ろ)せず馬歯(ばし)既に 古稀(こき)を越(こ)へたりといへども指すべき半 点(てん)の小 【左丁】 病もまたなき事は彼(か)の神術(しんじゆつ)の余勲(よくん)ならんか 云(い)ふ事なかれ鵠林(こうりん)半死の残 喘(ぜん)多少無義 荒唐の妄談(もうたん)を記取して以て佗(た)の上流を誑惑(わうわく)【注①】 すと是 宿(つ)とに霊骨(れいこつ)有て一槌に既に成する 底の俊(しゆん)流の為めに設(もふ)くるにあらず《振り仮名:■鈍|ぐどん》【注②】予が 如く労病(ろうひやう)予に類ひする底看読して子細に 観察(くはんさつ)せば必ず少しき補(をぎな)ひならんか只恐る別 人の手を拍(はう)して大笑せん事を何か故ぞ馬 枯(こ) 【注① 「誑惑」の読みは「きょうわく」。振り仮名は「枉惑(おうわく)」との混同ヵ】 【注② 「■」は「癡」ヵ。振り仮名は「愚鈍(ぐどん)」との混同ヵ。明治19年の後印は「■鈍(ちどん)」とあり。別本は「癡鈍(ちどん)」とあり】 【右丁】 萁(き)を咬(か)んで午枕(こしん)に喧(かま)びすし  惟時  宝暦《振り仮名:《割書:丁》丑|七》孟正二十五蓂    京都寺町通六角下 ̄ル町     友松堂小川源兵衛刊行 【見返し】 【以下朱記】 史ヲ読ムノ法ハ一事ヲ記スル数事ヲ記スル二如カス一世之興敗ヲ観ル百世ノ 成衰ヲ洞観スルニ如カス経ハ則之ニ異ナリ数経ヲ解スル一経ヲ知ルニ如カス一経 ヲ知ル一句ヲ得ルニ如カス故ニ孔門一貫ヲ唱ヘ釈教文字ヲ立ズ然ラハ則経史ハ 別カ曰。否。一即一切、々々即一、得否如何ト顧而已此書本無瑕ナリ敢テ朱 豪ヲ吸テ盲評瞎論ス蓋シ大兄ノ速得ヲ欲スルナリ朱書若シ《見せ消ち:■■|》盲評 ナリト知レバ朱書ヲ去ルベシ此経若シ■【道ヵ】ニ中ラザレバ経ヲ捨ツベシ其狼籍【藉】ノ罪 ハ大兄ノ赦ス所ナリト信ス     漏舟再識 【右丁】 【前コマと同じ】 【見返し】 【左下隅の折り返しに墨書あり】 【裏表紙】