常 盤 松 著 大 通 其 面 影          全 むかし〳〵 さいこく の 百しやうに 山もと かん助と いふものあり ねんぐに つまり せん かた なく むすめ おかつを 七十両 に 江戸の よしはらへ うりにける むすめや どうも □□かたが ない 【この先大きな破れあり】 つと□…… ぼう□…… か□…… いつて□…… くれ□…… 【右丁】 そ れ より ぜげんに そうだんして うりけるゆへ かごにてむかい にきたりむすめ おかつを つれて ゆく 【左丁】 かご のもの むかへに きたり おかつをのせて つれゆく 【画像】 むすめ さらば じや ぞや ずいぶんまめでつとめてくりやれ おふたり ながら おまめで おいでなされ ませよ アヽたし なみの【窘みの】 ふり そで だの 【右丁】 それゟおかつは よしはらへうられ しやうとくう つくしきうまれ にてじきに ちう三に なり □□はな をかつ山 とあら ためてくる わ内 一の 【左丁】 きゃくとり也 此かつ山かみ をよくゆいて 人のふうとはちがい めづらしきかみを ゆひしに人今かつ 山といふかみ この ときからぞ【?】 はじまりける 又そのころのつう人にならのくに うまれに茂平といふものあり 今はよしはらの大つうにてなら茂 ともてはし【はやし?】ける此なら茂かつ山が すがたにほれいろ 〳〵 こんたん しける 又同じつう人に きのくにの人に 文平といふものあり これもき文〳〵といふ たいこ もち きやうおう といふいしや ありなら茂 にかつ山を あわせんと くふうする 【この先破れあり】 き文も □□山に【かつ山に】 ほれ うけ【?】 □□ん □□ し□□ん □□ 【右丁下、遊女の台詞。かすれている】 □ □ □ □ さんはまだ みへなんせん かへ 【右丁】 こゝに あづまの もりのへんに 伊左衛門といふ くちきゝあり きぶん此 伊左衛門をたのみ かつ山をうけ たさんと たのみに きたる この伊左衛門がことを あづまのもりのひかし といふく をとり とう伊〳〵 とよぶ 【右丁下段。破れあり】 □□□かつ山はなら茂□□□ さけだ□□□ いふがあれ□□ といふまぶが あるか□□□□ おれが□□も いかぬて とう伊さんとうぞ たのむから今から くるわへいつてそう だんしてみてくんなさい 【左丁】 奈良茂此ことを 立ぎゝにせ かね金をまき 介六【助六?】を一ばんかぶ らせてやろふ うまい〳〵 介六さん ならも【なら茂】とやらと きぶんと やらが身 うけ しやうといふが おまへかねの さいくはでき できまい とうそとうぞ して三百両手に 入ねばならぬはいな こよひわたしが一ねんにて むけんのかねになぞらへてうずばち【手水鉢(ちょうずばち)】をついて みやせう【この先かすれ多し】 かならす まつてご ざんせ よのあけ【?】 ぬうち【?】 つい□ うやせふ 【左丁 中央】 かつ山がざしきはすけ六とちん〳〵かも のいりとりなり いまときのむけんは かねのてるあんじ はないぞへ そんならまつて いるからついて みやれ それよりかつ山おきて らうかへゆき てうずばちをやみくもにうてば ふしぎや にかい より かねばか〳〵 と ふりくだる こゝちよくこそ みへにける たとへひるに せめられても だんない 〳〵 だいじない かつ山が むけん のかね にて つきし を ひろい あつめ 三百 両 こし らへていしゆ にわたし かつ山を うけだ さんと かねを わたし ける 介六さんあすの ばんにむかいを よこしなさい てい しゆ かつ山を うちへ つれて ゆきて うちの女ほう だぞよ そのかね にせがね にてちや屋の ていしゆ まちぶせして 介六を□□□【さん〳〵?】 ふち ちやう ちやく する これ 介六これから くるはへ きて みろ いのちは ないぞ 大 どろ ぼう め 此にせがね つかいめ ぶち ころして くりやうか まつたく にせ がねを つかつた おぼへは ないぞ そゝう しやる な それより なら茂 介六の こぬ事 を しり かつ山をうけださんと ていしゆにだんかうする 東伊このことをきゝ ならも【なら茂】にうけたされては き文にたのまれしゆへ たゝぬと東伊 しあん しける なんでも ていしゆ かつ山を 身うけ するぞや ハイ〳〵 かつ山にも はなし まして 御そう だん 申ま□□【せふ?】 東伊きやうおうがかたへ きたりなら茂かつ山を うけださんといふ さすればきぶんに たのまれし かほがたゝぬま□【た?】 きぶんにうけだ□【さ?】 せてはなら茂 きこうもた□□い これはりやう□□【にん?】の かほの たゝぬ ことじや なんとよい しあんは あるまいか 京おう せんせいどう だの そのころとういが うちのゐ候をとういがて下 ゆへとういもの〳〵といひしを いまはととりものといふ この時よりぞはしまりける 【右ページ下、三行ほど一部に破れ。勝山を手にかける話をしている】 なるほどそふいふ□□…… いつそかつ山を□□…… しまふでは□□…… ぬか そんなら京おう せんせいばんじ あとはおれか のみこみだ たのみ ます ぞへ 【左ページ上】 すぐに京おうは くるはへゆき かつ山をよび出し さあらぬかほにて たばかりうらへつれ行 かなしやかつ山は 此よの なごり なり 【勝山の台詞】 □□うらまいで おく べきか 京おうさんなに ゆへわしを ころすのだ 【京扇(きやうおう)の台詞】 きつい きぬ川の たに蔵と いふみだ 【絹川谷蔵は芝居の登場人物】 ころさにや ならぬぎりに せめられいのちをもらつた なむあみだぶつ 〳〵 〳〵 それより京おうはかつ山をてにかけ あたまをそり 日本 くわいこくに【回国に】 出けり もふ日が くれるそう だ やどをはやく かりたい ものだ そのゝちならも【奈良茂】 きぶんとう伊ひを むつまじくなしかつ山が しを とけしも みなわれ〳〵 よりおこりし ことこれから 女郎をやめて 中の町から ずいのみの ずいかへり中やら【?】 東伊せん せいは きついはくゑん【白猿または柏莚】とつし【訥子?】びいき だのゑび蔵【蝦蔵または海老蔵】しばらくのせりふに とうい なんばん といふ はこれなり 【「とういなんばん」は『暫』という歌舞伎の台詞。市川団十郎で有名。】 【「柏莚」「海老蔵」ならば四代目市川団十郎のこと。】 【「白猿」「蝦蔵」は五代目市川団十郎のこと(四代目の息子)。この本の時代に活躍していたのは五代目だろうか。】 【「とつし」は訥子で澤村訥子(役者)の事かもしれない。】 【 草双紙『間似合嘘言曽我』で「栢莚納子」と並び称されているのでゑび蔵(はくえん)は四代目のほうかもしれない。】 【まとめると、「はくえん」「とつし」「えび蔵」は歌舞伎役者の名前。】 なるほどしばゐ つらにも なろふ わへ それが ほんの つらの あそび だ ちつと さかい 丁へ い かふ じや ござ らぬ か 【さかい丁(堺町)は江戸の地名でこの本が書かれた安永年間には中村座(劇場)があった】 それより京おうは日もくれければ やどをかりんと百せうやへ たのみければふうふ よろこびぶつじ のあるゆへ きやうおう たづねければ だん〳〵もの がたりをはじめけり それよりぶつ だんに むかい かいみやうを みるに山もと氏おかつと【「と」は衍字?】 とあり京おう大きにおどろき さめらぬていにてよのあくるをまち そう〳〵江戸へかへりいんぐわはめぐる くるまのわなりあらおそろしやと いよ〳〵 ぶつくわを【仏果を】 なしけり 京扇おもふよう はきよねん かつ山を てにかけしも 月日もけふ にあたりける はてふしぎ なことだ 【左ページ左上、かすれている】 ふうふはそれと しらず六ぶを とめいろ〳〵 ちそうし ゑ かうを たのむ 京扇(  おう)は 江戸へ かへり みな〳〵【汚れあり】 にかくの【汚れあり】 はなしを しかつ山 がぼたい【ここよりかすれ】 のため □めぐり【三めぐり?】 □せん【へせき?】 ひ□【ひを?】 たて これ よりそう【かすれここまで】 せう【僧正?】になり すみだ川の へんへいほり をむすび 通楽庵(つうらくあん)【次コマに「つうらくあん京おう」とある】【ふりがなは「つうとくあん」】 京扇といふ やどふだを いだし あんらくに くらし けり 三めぐりへせきひを たてませうとぞんずる なるほどぼだいの ためせきひも よい おもひ つきでござる 【右ページ下】 京おう江戸へかへり なら茂 きぶん 東伊 より合かくの ものがたりして いよ〳〵 大つうの さとりを ひらき けり はて おそ ろしい いん ゑん で ござる 清長画 三めぐりの しやないへ せき ひ こんりうし なをも 大つうの ゆさん じよに【遊山所に?】 もてはやし つうらくあん京おうと なのりしばのおりとの はるのゆめさめて おりしきむだがきを わらんべのもてあそひに なさんとふつうの ゆめは さめにけり 常盤松戯作 【石碑の文字】 其角【左の俳句の作者、きかく】 夕立や 田を 三めくりの 神ならば