桃太郎元服姿 桃太郎元服姿 通笑他 巻一 むかし〳〵より御子様方御ぞんしの 桃太郎おにがしま よりたからをとりて かへりしよりそのさきは もゝ太郎がどうしたやら ぢゞいばゞあが どうしたやら いちがさかへて しまいしを やう〳〵と きゝいだし むかしはなしの 第二ばんめうそと いふてはすこしも なくだいせいもんを 二冊となし 御なくさみに 御らん入れし        もの也 【印あり】 「帝国図書館」朱丸印 「□□・明治三七・五・三〇・」丸朱印 もゝ太郎おにがしま よりかづのたからを もちかへりければぢゞい ばゞあとはもとの 事ふたおやながら よろこび三人の ものにだん〳〵と れいをいゝいろ〳〵と ちそうしてとめおき いつそこつちにござれと いへどもみな〳〵さいしも あるものゆへかへらんと いゝあまたの たからもほし からず てふるいちくるい【鳥類畜類?】と いふものはぜにかねにかけては             よつほと              らくな               もの                なり 【挿絵内右ページ・猿?セリフ】 わたくしはたべると かほがまつしろに なります 【挿絵内右ページ・雉セリフ】 明日 あたりは たちませう わしはとんでまいる    からよいが    ふたりの    しうが     ごたいぎ      じや      やけ【焼け】       のゝぎゞすよるの【野の雉子、夜の】       つるへつして【鶴、別して】        子をおもふ        ゆへいそぐ 【挿絵内右ページ・ぢぢいセリフ】  ひとつ   まいれ 【左ページ上・本文】 たんごひとつにて おにがしままで ともをしてかへりし ゆへしたゝかきみ だんこをこしらへ ふるまいしゆへ このうへもなき ちそうなり 【挿絵内左ページ・ばばあ?セリフ】   おまへ   かたはさり   とはいぬと   さるにしては   なかのよい事   じやどうして   きじさまとは     おこゝろ     やすいかわつた      おつきせい【おつきやい?】         じや 桃太郎申はけんふく【元服】して よきおとことなり おにがしまよりかずの たからにうちでの こづちでかねは ぢよふなれば 江戸へ出て あきないを  はじめんと おもひふた おやをつれて いでける 【挿絵内右下・ぢぢい?セリフ】    よふ    にやい    ました    ほんたと    やらには    よしやれよ 【挿絵内左中・男セリフ】  ほれやれよい男に  なられた 【挿絵内左下】    ばゞあ     よろこぶ 【挿絵内左下・男セリフ】     ふたりのしう□      もふらくじや    おにが     しま     にて   たからを とられおうこん きうになり【大困窮になり?】 みな〳〵 ざん ねんに おもひ なにとぞ とりかへさんと大ぜいよりあい いろ〳〵とはかり事をめくらせ どもしやんにおちずとう〳〵 むかしよりいろ事でなくては とりいられづ へいけの ほろびし  もとき わが いろかに まよい なるかみの ぎやうほうの   さまたげその   ほかかずをしらず   こいでなけれは   はかり事なし   おにがしまでは   あかおにがむすめ   としは二八のほつ   とりものみな   こゝろをかけぬ  ものはなしこれをもゝ  太郎がかたへいりこませて  こいにてゆたんさせとり  かへさんとはかるおにも  十六とはこの事     なるへし 【挿絵内右下・鬼セリフ】   あれで   いかぬ   ことは   あるまい   したが   おしい   ものじや 【挿絵内右下】 おにむかしは つのかくしとて みなほうしを かぶりしがいまは ひんさしにて おんなのつのは    しれぬなり 【挿絵内左下・女セリフ】   わたしらも   につほんとやらへいつて   見たいも□□□□【もゝ太郎と?】   やらはよいわるしゆ【悪衆、もしくは若衆:わかしゆ?】        じやけな     あかおにかむすめ おきよをにつほんへ たからをとりにやりし つもりにそうだん きわまりみな〳〵 なごりをおしみ なきけるおにのめに なみだとてつねのもの よりかなしみけり 女ぼうはなみだいつてきこほ さずきじやうなりおにの 女ほうにきじんどてこゝろの つよきおんなをいふはこのたとへと              見へたり 【右ページ下・母親セリフ】 くよ〳〵と□□□ しやくおこらして たもんな大ぜいの ためくにのため そなたのき□□□の【きりやうの=器量の?】 よくうまれたが いんぐわじや 【左ページ上】 ふたおやのこゝろを さつしかごのもの まてかなしむは きじんに     おふどふ      なしなり【鬼神に横道なしなり】 【左ページ下・駕籠かきセリフ】 ずいふんおまめで ござんせひいらげで【ござんせ、柊で】 めでもつかぬやうに してくださんせ 【軒先看板】男女 御奉公人口入所 しんしうや清六? 【右ページ本文】 おきよすがたをやつしやうすを うかがふうちほうこうにいでんと せわやきの所へたのみに来り いなかからはじめてまいり やしたといふてはたらき ほうこうに いづる おにが しまとは いへとも 山にすむ ゆへやま だしなり 【右ページ挿絵内】 てもじやう ぶそうな 女中だ         おまんまをたくはす□□         きがなかばしうははた         らきはこざりやせ□         せけんにいく         らも         ある         とふりよつ         ほとてまへ         てはうつ         くしい         ものと         おもは         もおかし 【左ページ本文】 ゑんといふにもいろ〳〵ありおきよおもわすも もゝ太郎か所へほうこうにすみいろにてとり いらんといふかおにかしまのはかり事なりしか もゝ太郎かおとこふりにはかり事よりま事に ほれけるがもゝ太郎はうつくしき女ほう【女房】を もちいるゆへおかしくおもひけるは【57行目へ】 【左ページ挿絵内】          おむめも          ことしはよい女を          おきしゆへ          いろ事の          あんじは          なしと          おもひけるが          ゆだんの          ならぬ          よのなか          なり すこし なくさみ こゝろにもて なせはま事とおもふ もゝ太郎申【?】がふたおや ながらいまはなにくら からぬしんたいにて あんらくにくらし したい〳〵にとしつもり【次第次第に歳積り】 むかしのごとくになり ければ又ももゝを ひろいたらわかく ならんはひつじやう なりもはやそれ【もはや以下爺婆の台詞か】 にはおよばぬ事なり まつたいいち江戸 にはくさかりにゆく 山もなしせんたく するくらして なしよめのお梅 こふ〳〵にて あんらくせかいに くらしける ゆへうらやまぬ ものはなかり      けり ぢゞいもばゞあもいなかそだ ちゆへほかにたのしみも なしにはをいちるをたの しみにしてもゝ太郎がもゝより おこりし事ゆへかやは町【茅場町?】かやけん  ほり【薬研堀?】でかいしかこれはしれずもゝの           木をかい           是をてう           あいする    えゝ木ぶりが    よくなり      ます    おにかしまよりたん〳〵と ひかづもかゝるゆへ やふす【様子?】いかゞとうかかいに     来りおきよを     よひだしたからは     とうたなぜ     てのびにするか     いへはおまへかたの     てにさへおわぬ もゝ太郎さんわたしがおなご の身てどふそのやふになる   ものかといへばさすが   おにも見てとり   さてはおのれは         もゝ         太郎         めに     くされついた     なその      くさつた      こんじやう         でわ      こゝろもと      ないしま      にてみな      〳〵そふ      だんして      もゝ      太郎を     とりころ       さん        と     とめても     とまらす     ふりはなし       ゆく 【右ページ中挿絵内・おきよセリフ】 あんまり たんりよな まあ またんせ 【左ページ上・桃太郎セリフ】 さてはおにか しまよりの まわしもの いまひとたひ しまへわたり かたつはし からなて きりにして くれん 【左ページ下挿絵内】 よいのくちから だいたんな    おきよは    たからをとり    かへしにきたり    しがもゝ太郎に    ほれはかり事も    むになりしゆへおにが    しまにてはもゝ太郎を    とりころさんといふそれも    かなしともゝ太郎は    又おにがしまへゆかんと    いふさとおやのなんぎ    もかなしとよしない    ことをおもひそめ こひのかなふたではなけれども おむめさまへいゝわけなしわれと わがてにかくこしてなにとぞ おやのいのちをおたすけと かきをきしてじがいしてしに けりみな〳〵ふひんにおもわぬ ものはなしかほはおにでもしをら しきものいまどきかほはうつく しくてもこゝろはおにのある なかにしをらしき事なり        桃太郎ふびんに         おもふ 【右ページ中段・おきよセリフ】 おきゝとゞけあり かたやもはや心に のこることなし なむあみ  だぶつ    〳〵 【右ページ下・男セリフ】 やれ〳〵きとくなものじや とふそ【どうぞ?】まよわぬよふに しやうぶつをさせたいまよ          われ          ては          きが          ない 【右ページ下・書置】 なに〳〵かきをきの事 わたくし事申あくるも はづかしながらおにの むすめにてござ候へ どもなにとそたからを とりかへしまいりしやふに 申こし候へ共たんな様を 見そめまいらせ候お□□ さまへは申わけござなく なにとぞおやどもの命 おたすけ下され候やふ ねがいまいらせ申上たき      事山〳〵      候へ共心      せくまゝ       かきの        こ        し       まいらせ候       めで       たく       かしく 【左ページ挿絵内】 お梅も このていを 見てしを らしいおやに    かふ    〳〵な    しなずと    しやうも    あろふのに     〽さて〳〵      おにのてには      よいてじやと      かんしんする 【挿絵内・お梅セリフ】 まだかぎが  ござりやす 【右ページ本文】 あかおにむすめをおどしてかへりしが もしやおんなの事こゝろもとなく おれがおにぶてどふいふきに なるまいものではないと やふす見にたちかへりける 日本のはりこみの事を あつちではおにぶといふなり おきよがしに候とかないのそうどう さすが子ゆへのやみうちあかしけれは もゝ太郎もふびんにおもひおやの いのちをたすけしにむすめがほだい【菩提】      とむらわんと      ほつしんするこそ      しゆしやうなり      いまにおふつの【今に大津の】      ゑにのこり【絵に残り】      おにの      ねんぶつ      申ゑわ      此あかおにの      いんゑんなり      かないのもの      みな〳〵      のぞき        見る 【ページ下本文】     もゝ太郎も    うちでのこづ    ちはいりやう   なるゆへかくれ   がさかくれみの   をばやらんといへば  身をしのぶに  こそほしけれと くにへかへるにそれには およばずとり そろへてたからに なされとおいて    ゆきける かゝあがもふ かへるか〳〵と むすめが ものをせん たくしてまつていま しやうといゝしより おにのるすにせん   たくとはこの      事      なり もゝ太郎はふうふなかよくみばゑ【実生?】のもゝ太郎を もふけだいじやうぶのいたつらものまくわうりが すきにてまいにちくいお梅はおきよがしに しよりなににてもはつうをそなへしが うりひときれはつうをとればおにかと こがいゝし【子が言いし】よりうりにかぎりておにといゝつたへ しなりもゝがながれてきてわかくなりたん じやうせしがさんのふのさる【山王権現の神使の猿?】がながせしか 又はとふぼうさく【東方朔?】のもゝかぼんぶ【凡夫?】なれは それはしれずせいおうぼう【西王母?】でもおとしたか           して今           にわかく           ふうきに           くらしいける              なり 【挿絵内・掛軸】 山王大権現 【挿絵内・子供セリフ】 ばんに おぢいさんや おばあさんや  おとつさんの  はなしを   しなよ    かゝさん 【挿絵内左下】 通笑作  清長画 【墨で、持ち主の名前か】 亀太【?】郎