《題:四十二國人物圖説 全》 肆 拾 貳 國 《割書:崎港西川先生著》 人 物 圖 説 【書入れ】Vente Emile Javal. 9■ November 1933 154.Divers. Shiju Nikoku Jimbutsu Jisetsu. Images des personnages de quarante-deux nations. Préface signée :Riusenso et datée année du cheval de Shotoku(1714). Auteur:Nishigawa à Nagasaki. La post-face dit que I' ouvrage a été fait d'aprés les dessins des peintres de Nagasaki. Fin datée 5 de Kyoho (1720). Editeur Embaiten à Yédo. I vol. contenant 54 pages de gravures en noir. 【見返し】 題四十二国人物図之首 凡 ̄ソ聞_二 ̄ク殊-国之名_一 ̄ヲ者 ̄ハ必 ̄ス当_三【「当」の左に「シ」】 ̄ニ詳 ̄ニ問_二 ̄フ其_俗之所_レ ̄ロ好 ̄ム如何_一 ̄ントイフヲ【本文訓点「ント云フヲ」】苟 ̄モ 其_善 ̄ナルヤ耶記_レ ̄シテ之 ̄ヲ以 ̄テ為(ス)_二吾身之法_一 ̄ト苟 ̄モ其不-善 ̄ナルヤ邪亦記_レ ̄シテ之 ̄ヲ 以為_二 ̄リ吾身之戒_一 ̄ト豈宣_下【「宣」の左に「ンヤ」】 ̄ク漫 ̄リニ問_二 ̄テ其国 ̄ノ人-物 ̄ハ如_何 ̄ン土産品 類 ̄ハ如_何 ̄ン地 ̄ノ之方-位寒暖広狭大小 ̄ハ如_何_一 ̄ント而 ̄シテ止_上 ̄ム邪此 ̄ノ 図 ̄ハ原出_二於紅-毛-蛮 ̄ノ所_一レ ̄ニ伝 ̄ル蓋其/躬(ミ)自 ̄ラ交-易 ̄シ或 ̄ハ被_二 ̄ン風 ̄ニ飄- 至_一 ̄セ或 ̄ハ耳 ̄ニ所_二 ̄ノ確-聞_一 ̄スル者 ̄ナリ也起_二 ̄テ震旦_一 ̄ヨリ迄_二 ̄マテ長人_一 ̄ニ計 ̄ルニ四十一国 ̄ナリ 矣而 ̄ルニ今 ̄マ謂_二 ̄ル之 ̄ヲ四十二国 ̄ノ図_一 ̄ト者 ̄ハ何 ̄ソヤ也吾-邦 ̄ノ之人後 ̄ニ於_二 ̄テ 震-旦 ̄ノ一国_一 ̄ニ並_二 ̄ヒ_出 ̄ス大-明大-清両-朝 ̄ノ人-物_一 ̄ヲ故 ̄ニ更 ̄メテ以_二 ̄テ四十 二国_一 ̄ヲ名_レ ̄クル之 ̄ニ耳(ノミ)大清 ̄ノ得_二 ̄ルコト天下_一 ̄ヲ未_レ ̄タ及_二百年_一 ̄ニ吾国 ̄ノ耆-老猶 ̄ヲ 穫_レ覩_二 ̄ルコト故-明 ̄ノ之人-物_一 ̄ヲ昔大-明 ̄ノ之於_二 ̄ル震旦_一 ̄ニ其在_二 ̄テ祖宗_一 ̄ニ夙 興 ̄キ夜 ̄ニ寝 ̄テ兢-兢業-業 ̄トシテ君臣相_勉 ̄ム此 ̄レ一-時 ̄ノ之所_レ ̄ナリ好 ̄ム也逮_二 ̄テ 其子孫_一 ̄ニ所_レ好相_反 ̄シ燕-晏偷-惰上-下廃_レ ̄シ業 ̄ヲ変起_レ ̄テ不_レ ̄ルヨリ図 ̄ヲ 社-稷失_レ ̄ヒ守 ̄リヲ遂 ̄ニ致_二 ̄シテ大清_一 ̄ヲ不_レ労_二 ̄セ兵-力_一 ̄ヲ坐 ̄カラ有_二 ̄ツ四百 ̄ノ江山_一 ̄ヲ方 ̄ニ 今朝-政若_何 ̄ンソヤ直言無_レ ̄ク隠 ̄スコト如_二 ̄キ張-鵬-翮_一 ̄カ者寵-遇益〻隆 ̄ニ廉- 吏孤-立 ̄スル如_二 ̄キ施-歪_一 ̄カ者官-階愈〻_貴 ̄シ戦-功卓-絶 ̄タル如_二 ̄ク藍-理_一 ̄カ積 ̄テ 有 ̄ヰハ虐_レ ̄スルノ民 ̄ヲ事_一則/褫(ウバフ)_レ ̄テ職(─) ̄ヲ為(ス)_二庶人_一 ̄ト屢〻巡_二-狩 ̄シ於江南_一 ̄ニ亦避_二 ̄ク 暑 ̄ヲ於関外_一 ̄ニ其取-捨好-悪 ̄ノ状出_二 ̄ル於賈-客之談_一 ̄ニ者 ̄ハ大- 略類_レ ̄ス此 ̄ニ夫 ̄レ所謂学-問 ̄ハ非_下 ̄ス独 ̄り目 ̄ニ観_二 ̄ルコトヲ経伝子史_一 ̄ヲ為_レ ̄ル然 ̄ト 而 ̄ノミ已_上 ̄ニ其所_二見-聞_一 ̄スル苟 ̄クモ有_レ益_二於吾身_一 ̄ニ者 ̄ハ皆可_三 ̄シ以 ̄テ為_二 ̄シツ学問_一 ̄ト 也是_以 ̄テ禹 ̄ハ拝_二 ̄シ昌言_一 ̄ヲ大舜 ̄ハ好 ̄テ察 ̄ス邇-言_一 ̄ヲ孔子 ̄ノ曰 ̄ク三人行 ̄トキハ【本文訓点「寸ハ」】 必 ̄ス有_二 ̄リ吾師_一焉展_二-巻 ̄シテ此図_一 ̄ヲ閲_二 ̄シ其人物_一 ̄ヲ読_二 ̄モ其図説_一 ̄ヲ由_二 ̄テ図- 説_一 ̄ニ而 ̄シテ考_二 ̄ヘ其風俗_一 ̄ヲ由 ̄テ風俗_一 ̄ニ而論_二 ̄スルトキハ其所_一レ ̄ヲ好 ̄ム則四十二図 善-悪邪-正無_レ ̄シ不_二 ̄トイフコト【本文訓点「ト云コト」】歴歴 ̄トシテ可_一レ ̄ラ見善 ̄ナル者 ̄ハ記_レ ̄シテ之 ̄ヲ以/為(シ)_二吾身之 法_一 ̄ト悪 ̄ナル者 ̄ハ記_レ ̄シテ之以/為(ス)_二吾身 ̄ノ之戒_一 ̄ト孰 ̄カ非_二 ̄ンヤ吾師_一 ̄ニ哉或 ̄ノ曰 ̄ク子 ̄カ 討_二-論 ̄スル諸国_一 ̄ヲ理固 ̄ニ然 ̄リ矣若_二 ̄キハ所_謂善 ̄キ者 ̄ハ記_レ ̄シテ之 ̄ヲ為_レ法 ̄ト不_レ ̄ル善 者 ̄ハ記_レ ̄シテ之 ̄ヲ為_一レ ̄カ戒 ̄ト是 ̄ノ_言 ̄トヤ也未_レ ̄タ【「未」の左に訓点「ス」】能_レ ̄ハ無_レ ̄キコト疑 ̄ヒ夫 ̄レ善 ̄ノ之足_二 ̄リ以 ̄テ可_一レ ̄キニ法 ̄トス 悪 ̄ノ之足_二 ̄レル以 ̄テ可_一レ ̄ニ戒 ̄メトス者 ̄ハ其孰 ̄カ明_二 ̄ナランヤ於典籍_一 ̄ヨリ乎哉今 ̄マ子不_レ ̄シテ考_二 ̄ヘ 之 ̄ヲ典-籍_一 ̄ニ而惟 ̄タ図 ̄ノミ是 ̄レ考 ̄ルハ豈図 ̄ノ之所_レ ̄ロハ載 ̄ル勝_二 ̄ランヤ於典籍_一 ̄ニ邪予 ̄カ 曰 ̄ク非_二 ̄ス是 ̄レ之 ̄ノ謂_一 ̄ニ也唐虞三代之時既 ̄ニ有_二 ̄テ典籍_一行_レ ̄ルヽコト世 ̄ニ尚 ̄シ 矣然 ̄トモ当時 ̄ノ聖猶 ̄ヲ謂 ̄ラク牖(─)戸(─)座(─)席(─)几(─)杖(─)盤(─)孟(─)皆可_三 ̄シト以 ̄テ 為_二 ̄シツ警戒_一 ̄ト勒_レ ̄シテ銘 ̄ヲ而備_レ ̄フ観 ̄ニ焉是 ̄ノ図 ̄ノ所_レ ̄ロ載 ̄ル殊-国 ̄ノ風-俗其為_二 ̄ル 警戒_一 ̄ト者 ̄ノ顧 ̄フニ不_レ ̄ン逮_二 ̄ハ於/牖(─)戸(─)座(─)席(─)_一 ̄ニ邪(ヤ) 正徳甲午秋八月           劉善聰聡書   総目録 大明      大清      韃靼 朝鮮      兀良哈     琉球 東京      答加沙谷    呂宋 刺答蘭     呱哇      蘇門答刺 暹羅      羅烏      莫臥爾 百児斉亞    亞爾黙尼亞   亞媽港 度爾格     馬加撒爾    槃朶 亞費利加    加拂里     為匿亞 比里太尼亞   莫斯哥米亞   工答里亞 太泥亞     翁加里亞    波羅尼亞 意太里亞    齋爾瑪尼亞   拂郎察 阿蘭陀     諳厄利亞    撒兒木 阿勒戀     加拿林     亞瓦的革 伯刺西爾    小人      長人               総計四十二国 四十二国人物図説                崎陽 西川淵梅軒求林志   渾地五大洲  亞細亞(ヤスイヤ)洲      唐土天竺韃靼等属_二 ̄ス大洲_一 ̄ニ  利未亞(リミヤ)洲      自_二天竺 ̄ノ西方_一至_二 ̄ル南方之界_一 ̄ニ  歐羅巴(ヱフロツパ)洲      在_二 ̄ルノ於天竺 ̄ノ之西北_一 ̄ニ一界  亞墨利加(ヤメリキヤ)《割書:南洲|北洲》    在_二 ̄ルノ於日本 ̄ノ東南_一 ̄ニ之大-界《割書:或分_二南北_一 ̄ヲ|而為_二 ̄ス両洲_一 ̄ト》  墨瓦臘尼加(メガラニキヤ)     自_二赤道_一至_二 ̄ルノ南極下_一 ̄ニ之一大界     已上 大明 【挿絵】 【挿絵】 大明は唐土なり世々国号を改る故に定りたる 号なし国人(くにたみ)みつから称(しやう)して中華(ちうくは)といふ十五/省(せい)を 定めて二/京(けい)十三道を立るは大明の太祖帝なり 日本より唐土と号する事は大唐の世日本に親(しん) 睦(ぼく)繁かりし故なり又/伽羅(から)と号するは古(いにしへ)日本へ 異国より来れる始は三/韓(かん)の内/大伽羅国(おほからこく)の人 なりし故に異国を指て伽羅(から)と号す此故に 漢唐韓(かんたうかん)の字皆伽羅と訓す又/支那(ちいな)といふは 天竺方より称せし名にて梵語なりとそ震旦も 支那の転音(てんをん)なりといへり故に紅毛等の外国 も唐土をもつて智以那(ちいな)と号せり即(すなはち)支那(ちいな)【左ルビ「しな」】也 北極地を出る事四十二度より十九度に至て 南北相/距(こゆ)る事二十三度なり 大清 【挿絵】 【挿絵】 大清は即(すなはち)今の唐土の号なり天子の本国/韃靼(たつたん)なる故に 大明の世の風俗を改む此故に二国の図を分て古 今の風俗をしらしむ二京十三道文字/経史(けいし)学法 前代に随て変改め(へんかい)せす 韃靼(タツタン) 【挿絵】 【挿絵】 韃靼(たつたん)は本名/韃而靼(だつじたん)といふ今は而(じ)の字を略す其国 東西黒白の二種有て属類(ぞくるい)甚多く国界四十八道 に相分れて大国也古の胡国(ここく)といひ或は蒙古(もうこ)と云 も皆此国の別号なり南界(なんかい)は唐土に交接(かうせつ)【左ルビ「まじはり」】し北方は 氷海(ひようかい)に近く大寒地にて四季/昼夜(ちうや)の長短(ちやうたん)大に他方と 同しからさるの所々多し最(もつとも)富饒(ふねう)の国也といふ国/人(たみ)弓 馬を好み勇強の風俗なり 北極地を出る事四十三 度より六十四度に至て南北に長し 朝鮮(チヤウセン) 【挿絵】 【挿絵】 【挿絵】 朝鮮(ちやうせん)は古の三/韓(かん)にて馬(ば)韓/辰(しん)韓/弁(べん)韓の地也中古 新羅(しんら)百済高麗(はくさいこうらい)と分ち末代合て朝鮮と号す国 八道あり寒国なり京畿道(けいきだう)は北極地を出る事三十 八度/釜山浦(ふさんほ)は三十六度なり 兀良哈(ヲランカイ) 【挿絵】 兀良哈(をらんかい)は朝鮮の北東にある寒国也良の字を艮と するは誤(あやまり)り此国/甚(はなはた)朝鮮に近しといへり或曰/女直国(ぢよちよくこく) の属(ぞく)也と 北極地を出る事/凡(およそ)四十二度 琉球(リウキウ) 【挿絵】 【挿絵】 琉球(りうきう)は南海中の島国なり古は竜宮(りうきう)といふ中古流 求といひ末代に琉球とす煖地(だんち)なり 北極地を出る 事二十五六度 東京(トンキン) 【挿絵】 【挿絵】 東京(とんきん)は古より唐土に属する国にて中華の文字を 用ゆ詞(ことは)は尤別なり古唐土より交趾(かうち)といひしは此国 なり末代に至て両国にわかれ東辺を東京(とんきん)といひ 南辺を廣南(たいなん)といへり今は廣南のみを交趾と号す 風俗相同しき故に別に交趾を図せすいつれも 煖国也 北極地を出る事凡十五六度 答加沙谷(タカサゴ) 【挿絵】 答加沙谷(たかさご)は唐土東南海中の島国也むかし阿蘭陀(おらんた) 人住居せし時/臺灣(たいわん)と号し国姓爺(こくせんや)居住已後/東寧(とうねい)と 改む煖国なり地民の風俗は甚賎く常に麋鹿(びろく)を 猟(れふ)するを産業(さんげふ)とす農民は甘蔗(かんしや)【左ルビ「さたうきび」】西瓜(すいくは)を種る事を 産とす米麦一歳に二たひ収む 北極地を出る 事二十二三度 呂宋(ロソン)【「宋」の左ルビ「スン」】 【挿絵】 呂宋(ろそん)は臺灣より南方海中にある島国也熱国にて 湿毒深(しつどくふか)き地也といふ末代/邪法(じやはう)の属類(ぞくるい)と成てかの 国の者多く住す地民は風俗はなはた賎と也 刺答蘭(ラタラン) 【挿絵】 刺答蘭(らたらん)は日本の東南大海の中にある島国にて 熱国也昔/蛮船(ばんせん)諸国往来の節船を寄(よせ)て見たり といふ末代紅毛/等(ら)到る事ありや詳(つまびらか)ならす 呱哇(ジヤワ) 【挿絵】 呱哇(じやわ)は唐土西南方に当て遠き国なり大熱国 にて四時寒暑の次序(しじよ)唐土日本/等(とう)の国と相/反(はん)し て甚別なり今日本に来る阿蘭陀人居住の咬(か)【「咬」の左ルビ「じや」】 𠺕(ら)巴(ばあ)【「𠺕巴」の左ルビ「がたら」】も此国の北端(ほくたん)【「端」の左ルビ「はし」】なり故に別に人物を図せず 北極は見えす南極地を出る事六度或は七度 蘇門答刺(スマンダラ)【「蘇門」の左ルビ「ソモン」】 蘇門答刺(すまんだら)【「蘇門」の左ルビ「そもん」】は或(あるひ)はさまだらともいふ呱哇国(しやわこく)の北にある 島国也是も大熱国にて人物風俗賎く国主なく面々 に地を領(りやう)して争(あらそ)はず此国金銀を産(さん)すといへとも民 多く取ことをせす偶(たま〳〵)金塊(きんくわい)を得(う)ることあれは旅人に 交易(かうゑき)すといふ 南北の両極星を見る又此国の東に 浡泥国(ぶるねるこく)あり人物風俗相同く常熱の国也故に別に 載(の)せす呱哇蘇門答刺浡泥等は墨瓦臘泥加(めがらにか)に近し 暹羅(シヤムラウ) 【挿絵】 【挿絵】 【挿絵】 暹羅(しやむらう)は南天竺(なんてんぢく)摩羯陀国(まかだこく)の内也唐土より西南に 当れる熱国にて東埔寨(かぼうちや)【「東埔寨」の左ルビ「とんぼちや」】も同類の国也/最(もつとも)仏法を尊(そん) 敬(きやう)す東埔寨は暹羅より暑熱強く人物甚賎し 北極地を出る事暹羅は十四度東埔寨は十二度 羅烏(ラウ) 【挿絵】 羅烏(らう)は暹羅に近き類国にて摩羯陀(まかた)国の内也/尤(もつとも)熱 国にて人物暹羅に異ある故に別にこれを図す此国 多く斑文竹(はんもんちく)を生す 莫臥爾(モウル) 【挿絵】 【挿絵】 莫臥爾(もうる)は面々(かい〳〵)を以て莫臥爾(もうる)とするは誤なり是も 南天竺の内にて第一の大国也十四道有て宝貨富(ほうくはぶ) 饒(ねう)の国也といへり暖(だん)国なれとも気候(きかう)はおよそ唐土の 廣東(かんとう)に等(ひと)しと也 北極地を出る事二十二度 百兒齊亞(ハルシア) 【挿絵】 百兒齊亞(はるしあ)は亞細亞(やすいや)の内天竺の西辺なる大国なり 獣類(じうるい)土産(とさん)多く四季有て豊(ゆたか)なる国也といふ百兒(はる)の字 又は百爾(はる)とす 亞爾黙尼亞 【挿絵】 亞爾黙尼亞(あるめにや)は西天竺の西に在て四季ある国なり 但し寒国也凡此辺の国上国多し古は西天竺に 属せりといふ 亞媽港(アマカウ)【「港」の左ルビ「カン」】 【挿絵】 亞媽港(あまかう)【「港」の左ルビ「かん」】臥亞(ごあ)波爾杜瓦爾(ぽるとかる)已上三国は皆邪法国 の属(ぞく)にて人物風俗相同しといへり亞媽港(あまかは)は唐土南 海の中にあり卧亞(ごわ)は天竺の南辺に在て暖国(だんこく)なり といふ波爾杜瓦爾(ぽるとがる)は遥(はるか)に西方/歐羅巴(ゑふろは)の内にて四 季ある国なりと也 度爾格 【挿絵】 度爾格(とるこ)は天竺より西北にあたれる国にて四季あり人倫(じんりん) 勇強(ゆうきやう)にして武を好(この)める国なり隣国(りんごく)是がために併(あは) せらるゝ多しといふ 馬加撒爾(マカザル) 【挿絵】 馬加撒爾(まかざる)は呂宋(ろそん)の南にあたる島国にて大熱国人 物/賎(いや)し南北の両極星を見る事/蘇門答刺国(すもんだらこく)に 同し 【挿絵】 槃朶(はんだ)は蘇門答刺に近き島国也熱国にて風俗紅 毛に似て又別也尤勇悍を好むといふ 亞費利加(アヒリカ) 【挿絵】 亞費利加(あびりか)は利未亞(りみや)の内にある大国也四季ありといへ とも暖国(だんこく)にて一年の間寒気少く米麦/肥饒(ひによう)なる 国なり 可払里(カフリ) 【挿絵】 【挿絵】 可払里(かふり)は利未亞の内にて大熱国の大国也風俗/賎(いやし)く下民(かみん)は面色 甚黒く剛強(かうきやう)にして死(し)を恐(おそ)るゝ事を知す愚直(くちよく)にして他人の奴僕(ぬぼく)【左ルビ「つかはれ」】と成ては 能(よく)主人に忠(ちう)をなせり此故に欧羅巴(ゑふろは)の諸国此国の人を買取て 奴僕とす此国の本国を莫訥木太波亞(ものもたつはあ)といふ 為匿亞(ギネイヤ) 【挿絵】 為匿亞(ぎねいや)利未亞 ̄ノ内大国の熱国也武勇を専とし風俗は賎し海上甚遠き国也 比里太尼亞(ヒリタニヤ) 【挿絵】 比里太尼亞(ひりたにや)は利未亞の内にて欧羅巴よりは南方地中海を隔(へたて) たる国也/最(もつとも)大国にて四季正しき国なりといふ 莫斯哥米亞(ムスコフビイヤ) 莫斯哥米亞(むすこふびいや)は欧羅巴の内阿蘭陀国の東にあり 大国にて大寒国也/異類(いるい)の獣畜(じうちく)多き水土也 石火矢(いしびや)は 此国を根本とす故に多くこれありといへり 此 辺の諸国総て北極地を出る事五十度或は六十度の間也 工答里亞(ゴンタウリヤ) 工答里亞(ごんたうりや)は莫斯哥米亞(もすこふひいや)に並たる国にて風俗又別也 尤大国にて寒国也/石火矢(いしびや)は此国と莫斯哥米亞(むすこふびいや)とより 始れりといふ此国の馬は皆/驢駝(ろた)なり 大泥亞(タニア) 大泥亞(たにあ)は欧羅巴(ゑふろは)の内にて波羅尼亞(ほろにや)の東にあり大寒国 なり最(もつとも)大国にて南北に長く南は地中海に近く北は極 辺に近くして夏の節(せつ)夜はなはた短(みしか)く昼はなはた永し 冬の節は夜甚永く昼甚短し海魚多く山林/獣類(じうるい) 諸国にすぐれ五穀/宝貨豊饒(ほうくはぶねう)にして天文/暦象(れきしやう)の測(そく) 器(き)此国を最(さい)一とするよし聞伝ふ 翁加里亞(ヲンカリヤ) 【挿絵】 翁加里亞(おんかりや)はうんかりともいふか此国欧羅巴の内に在て産 物はなはた豊饒(ふねう)にて牛羊(ぎうやう)殊に繁殖(はんしよく)すといふ最(もつとも)寒国なり 波羅尼亞(ボロニア) 波羅尼亞(ぼろにや)は欧羅巴の内にて阿蘭陀国(おらんだこく)の東大寒国 なり此国の人礼義仁和の風俗にて国中/絶(たえ)て盗賊(とうぞく) なし平生盗賊ある事をしらす国王と大臣と古来 の国法を守て少も変(へん)する事なしといふ又此国の東南 天竺の西の境(さかい)に当て如徳亞(じゆでや)といふ国あり六千年以 前聖人在て国法を立たり其/記録(きろく)今に至て失ふ 事なくして国王大臣其記録を守(まもつ)て国政(こくせい)を執(とつ)て 過(あやまつ)事なしといふ最/此等(これら)の国豊饒の土地なりとそ 意太里亞(イタリア) 意太里亞(いたりや) 以西把尼亞(いすぱにや)此二国/欧羅巴(ゑふろパ)の内にて大国也 四季ありといふ意太里亞の都を羅媽(ろうま)といへり一国なり いつれも邪法国(じやほふこく)也と聞伝ふ 齊爾瑪尼亞(ゼルマニヤ) 【挿絵】 斉爾瑪尼亞(ぜるまにや)【ドイツヵ】は阿蘭陀国(おらんだこく)に並(ならび)たる国にて寒国の大国 なり人物風俗阿蘭陀に相類す 拂郎察(フランス) 【挿絵】 拂郎察(ふらんす)は阿蘭陀国に近し武勇軍法(ぶゆうぐんほう)に長(ちやう)して近国 是に併(あはせ)られ属国(そくこく)となるもの多し欧羅巴に於ての 大国にて豊饒(ふねう)の国也/最(もつとも)寒国也 此辺の国北極地 を出る事五十余度 阿蘭陀(ヲランダ) 【挿絵】 【挿絵】 阿蘭陀(おらんだ)は欧羅巴北海の地にあり斉爾瑪尼亞(せるまにや)の西(にし) 隣(となり)拂郎察(ふらんす)の北に相/界(さか)ふ国なり尤寒国にて南北 相/距(こゆ)る事三度の小国なり日本唐土の西北に当て 日本より海上一万二三千里あり 北極地を出る事 五十四五度或五十六度 諳厄利亞(インギリヤ)【左ルビ「ヱンゲレス」】 諳厄利亞(いんぎりや)【左ルビ「ゑんげれす」】【イギリス】は阿蘭陀国の西海中の島国也尤寒国 にて風俗阿蘭陀人に似(に)て其/種(しゆ)又/異(い)あり欧(ゑふ)羅(ろつ)【左ルビ「らつ」】巴(ぱ)に 属(ぞく)す 撒兒木(ザルモ)【ウズベキスタンの古都、サマルカンドヵ】 【挿絵】 撒兒木(ざるも)は略してざもともいふ此国も西天竺の北方に在て 最(もつとも)寒国也国人武勇にして獣類(じうるい)はなはた多き水土なり 阿勒戀(アロレン) 【挿絵】 阿勒戀(あろれん)は南/亞墨利加(あめりか)の内の大国にて其人/武勇(ぶゆう)を 好めり此国に世界(せかい)第一の大河有てひろさ日本の 数(す)十里に相あたるといへり熱国にて日本よりは東南 にあたれり阿(あ)の字を略して勒戀(ろれん)ともいふ 加拿林(カナリン)【カナダヵ】 【挿絵】 加拿林(かなりん)は亞墨利加の内にある大国也四季有といへ共 暖気(だんき)の国にて賎しき風俗なり或は加納連(かなれん)とも書す 亞瓦的革(アガレカ) 【挿絵】 亞瓦的革(あがれか)馬瓦的革(まがれか)ともいふ南亞墨利加の内にあり四季在て 暖国なり人物勇/強(きやう)なりといへり淡婆姑草(たばこさう)、此国より始といへり 伯刺西爾(ハラジイル)【ブラジル】 伯刺西爾(はらじいる)は南亞墨利加の東辺に在て熱国なり 人倫(ぢんりん)の作法にあらす奸(かん)勇にして人を殺(ころ)し炙(あぶ)り食(くら)ふと いふ今代は諸国の人往来し交易(かうゑき)する事多き故に 少く人倫の作法を知り人を食する事なしといへり 小人(セウジン) 【挿絵】 小人(せうじん)は波智亞(ぼちや)といふ国也欧羅巴東北の隅辺(ぐうへん)北の方/冰海(ひようかい)に至 れる地也大寒匡にて半年/昼(ひる)のみ続(つゞ)き半年は夜のみ続くと云 人の長(たけ)一尺二三寸と云伝ふ然れ共/実(じつ)は二尺有余也といへり唐土に短人(たんじん)《割書:と云|是也》 長人(チヤウジン) 【挿絵】 【挿絵】 長人(ちやうじん)は智加(ちいか)といふ国也南/亞墨利加(あめりか)の内にあり此国に相/並(なら) ひて巴太温(はだうん)といふ国も人間長大なりといふ凡其/長(たけ)此方の一丈 二尺といへりいつれも日本の巽(たつみ)の方にあたれり四季あり風俗尤 勇強(ゆうきやう)にして弓矢を好むといへり其矢長さ六七尺といふ 右四十二国人物画図ハ当時(ソノカミ)蛮人紅毛等交易往来ノ 諸国人物ヲ以テ彼国ノ画工ノ図セシヲ写シテ長崎画師ノ 図-画セシヨリ世ニ弘マル事ト成ヌ此人物ノ外猶又奇異 ノ国多シト云トモ蛮人紅毛ノ往来無 ̄フ シテ未タ其伝不_二 ̄ル分明_一 者 ̄ハ素 ̄リ除_レ ̄ク之其始四十国トス後人増加ヱテ四十二トス故 ̄ニ以_二 四十 二_一 ̄ヲ名_レ之者也図考ハ長崎古老ノ談説ヲ以テ撰述 ̄ス焉 享保五年庚子孟春穀旦                      東武江都                       渕梅軒蔵板 【裏表紙】 【背】 【小口】 【前小口】 【小口】