冨多高慢話噺       豊里舟作              鳥居清長画 冨多(とんだ)高慢(かうまん)噺(はなし)上 こゝろいきも つつをとをり丁 へんにとんだかうまんといふ いしやあり いかい【=多くの】むだのかみさまおかゝへ にてにしのくにで百まんごく とりければうきよを下めに 見ることひのみばんのごとく されどもおんなにはスコ【少しの略】あやまり ぎみにてしよ〳〵【諸処】へみをよせ                 ける 〽大つう【だい通=遊里の事情や遊興の道によく通じていること。またその人】もうつ とうしいといつて いまさらやぼ【野暮】に なるもおしいもんだ こういふところ をほかで きいたら なをいふ よふだかとんだ かうまんだろう 【右丁 上部】 か【別本により確認】う まん は や ぼ【野暮】と つう【通】との ニどう【ニ道】に こゝろをつくし しよ〳〵【諸処】のゆう りをめぐり 人のあそひを みるにまづきん〳〵したての むすこかふが けいしやまじり の大さわぎ みかけはいきな よふなれどつう といふものは こうしたもん さとはなの さきにあら【「お」に見える字はこの作者の書き癖では「あ」なので「あ」と読んでおきます】 われみへほう【見栄坊】 といふやまい あればこれも できたことて なしぐんない しま【郡内縞=山梨県郡内地方特産の郡内織の縞物】に 【左丁 上部】 もへき うら【萌黄色の裏地】 いなかふとりの はをりをけふ のはれきと して人の さわぎを たちぎゝ するたのしみ のところは おなじこゝろ いきはてん ちのそういどちら にもせんお あればいつれを とらんと さすがの かうまんも まゆを八 のじに する 【右丁 下部】 あのおりは下 やのやしき へいくと   いつて てめへのい やみも久しい   もんだ せんどめくろの時は おすみさんを つれて わつ ち【「わっち」=私の意】をば よくながしな すつた たんと おれいをもふしや       せう 【左丁 中段】 あのむす こもおれ に にて    なか〳〵      かうまんだ 【左丁 下部左端】 おゑどは はん くは【繁華】な 所たモシ これから あ さくさのくはん のんさアエま いります   べい 【右丁 上部】 かうまんは よく〳〵しあん するに人の たからとする きんぎんを いしころの よふにせねば しよせんつうとは いわれず せけんでやぼ だのこけ【虚仮=ばか】だのと いわるゝ人は みなしわん ぼう【「吝ん坊」=ケチな人をののしって言う語】からおこる かねをつかつて つうといわるゝ もたのしみ しわへ【出し惜しみ、けちって】して かねのたまる もたのしみ おなしことなら かねのてきる がよさそふな ものだと けんやくのこゝろおこり やきみそを 【左丁】 にじう しちさい より ありがた がり かみ だなの とうめう【燈明】も とうしん【燈心】 一すじて しまふ くらいに   する だんなさまは にわかにしわい【けちな】こと ばつかりおつしやる 【右丁 下部】 かまのした もいゝかげん にひをひけ しはい【芝居】を ねだるとも しよせん らちはあく    まい 【右丁 上部】 こ【「か」とあるところ】うまん はとかく かねが たいせつ になり つきあい をしては むだが おほひ と一人 あるき 大しろ らくわん おんの おくやま がいにしへ のなかの 丁より おもし ろいと それより むかうじま へわたり あきは【秋場=秋の頃、または向島「秋葉大権現社」ヵ】の やまそこ 【左丁 上部】 こゝとぶらつく おりしもいづれ よりかしらべあら そふことのね【音】に われしらずおく やまのかたへたどり ゆくに一人のろうじん なり かうまんもさすが大へい【横柄】にも でられずおまへさまはどなたさまと とへばわれはこのやまにすむとをりてんと いふものなりなかまうちのくめぼうは はきのしろきみてつうをうしのふ 【歌舞伎・浄瑠璃「久米仙人吉野桜」の逸話参照】 さすれはせんにんでさへつうといふことは あることなり まして人げんのみとして つうをきらいやぼつたくかねを ためるはさりとは りやうけん【了見】ちがい わがつうりき【理義=道理であり正義であること】をもつてつうと ふつうのしよわけ【諸分】をさくみだ がこんたん【魂胆=いろいろと工夫をすること】にとりくみ そのほうがまよいを はらさんと     ものがたる 【右丁 中央部】 おれをたちばな丁【橘町=東京日本橋三丁目付近の旧地名、江戸時代この界隈にいわゆる転び芸者が多く住んでいたという】 だとおもつてこゝまで きたかてめへも おんなにはよつほど こう〳〵 【孝行、または「病膏肓に入る」=病的に好きの意ヵ】    だそ 【右丁 下部から左丁 下部】 あのつま おとではよつほど ひなもの【鄙者=田舎もの 】と 思ひのほか とんだ てんちがい【合点違い=思い違い、了見違い】     だ とをりてんはもつたることを ちすい【池水】に うかむ【浮かぶ】れば 一ツのぶたいとへんじ やまはすな はちざしききり おとし【芝居の見物席の一つ。平土間の最前列で安くて下級な席】きりまく【花道の出入り口の垂れ幕】の くゝりを あらはしまつ ふくかぜはぶたい やろふのこへを はつしその ほかなかくりの ゆきこふ ありさまかうまんも ひさしぶりの たゆうさじき【大夫桟敷=二階桟敷の左右の舞台ぎわの席。最高級の座席】 こふいふことを しつたら うちの おりせをつれて くればよかつた とはちつとあつが かましい 【左丁 上部】 かうまん 〽はしらの こつちに よりかゝつて いるはまつが ねやの こゝの人じやア   ないか とをりてん 〽むかふの 五けんつゞきは ごしゆでん【御主殿・御守殿】と    みへる 【右丁 下部】 おとし まつかぜ   〳〵 ヨ はまむら    や きつい いりだ 【左丁 中央部】 こんどのは よくかきやした あとはいつから   てますの 【右丁 】 たこうはござりますれど これよりもふし あけます にしむらざごひゐきとござり まして一はながけてごらん下されます だん せいもん【誓文=神に誓って】ありがたきしやわせ なに がな【「何」に願望の副助詞「がな」がついたもの】御こさまがた 御なくさみと そんじ くろじたて【黒ずくめの装い】つうのみなかみ ともうすしんきやうけん【新狂言】 しんまい さく しやの あをびやうし ぼん【青表紙本】に つまらぬこと ながら たゞ よい〳〵との ごけんぶつまづは 一ばんめはつ まくはじまり 【左丁 上段】 なにゝ つけても しよわけ山 せうち太郎【諸分山承知太郎】 があるうちは てこつるの つう じん てん わうの【通人天王の】 わうじ【王子】こけたかしんわうは おとゝみや【弟宮】いき人しんわうと みくらゐをあらそひたまいしが ついにいき人のみよとなりければ むせうと【無性に、の意ヵ】ごしん【心の意ヵ】をもやし給ふ 〽ふつうなかま【不通仲間】やぼた大ぜんにたやま はんくわんしゆ〴〵てをもきしゆこうをかんかふる 【左丁 下部右側】 とう らくの せちへ【節会】 のおり なくてかなはぬ くろしたての ぎよいあれを こつちへしてやる くめんか    かんじん     〳〵 【左丁 中央部 左端】 それがしか そうりとり ぶざへい めに申  つけ   ませう 【こけたかしんのうの語源は文徳天皇の皇子、惟喬親王(これたかしんのう)[844~897]の模様。文徳天皇の第一皇子で母は紀静子、「悲運の皇子」として有名。父帝に愛されたが、母が藤原氏でないため天皇になれず、弟宮・惟仁親王(これひとしんのう)即位の後隠棲したという。】 【右丁 上段】 こしもとてくだ【腰元の手管】は かるくちむだのすけ に人のきまりにて ゑてもの【得意わざ】ゝ てくた【手管】にて    くどく 【右丁中段 右端】 これこのふくさにもおまへの しゆせき【手跡】 よふじさしにも もしほくさ【藻塩草=手紙】なとゝ としむつまじき でんのせりふにて いちやつく 【右丁 上段中ほど】 〽また人を うれしから せるのかそんなこと をまにうけて はならん 【左丁】 やつと ぶざへい はむた の  す    け    か    あつ かりの くろじたて のきよい【御衣】 をぬすみ 大くわん せうじゆ【大願成就】と はんぶんいわ ぬうちおなじ でたち【出立】のとう ぞくそのきよい をうはひ いつくともなく【何処ともなく】おちうせる【「落ち失せる」=逃亡し姿を消す】これもよくあるやつさ 【右丁 下段左端】 アゝ あてみをくつた しかしぬきみよわ【「よりは」の意か】ました 【右丁 上部】 なかの丁 さくらかり【桜狩り】の おりから つうな ごん みつ かみ けう のそく じよ もて ます ひ めは かねて いき人 きみと おん いゝ な つ け あり けれ は よき 【左丁 上部】 おり からと つもる うらみ を の た まふ 【右丁から左丁の中段】 そなたのしんせつわすれは おかぬさりなからとうろうの せちへ【節会】すむまては まゝならぬいき 人かみのうえ【身の上】 かなら ず うらんで 下さるな おなににやわぬ【似合わぬ】いき 人さまサリて【さりとて、の意ヵ】あん まりとうよく【胴欲】でござんすわいな 【左丁の中段】 おひめさまをいき人 さまのおもてなし とはなるほと つうなこんさま ほどあつて いゝおほし めし た イヨ あやかりもの【果報者。冷やかしの掛け声】 【左丁 下部】 こしもと【文字は消えているが「と」と思われる】 てくた【手管】は いろ〳〵 こんたん【魂胆=工夫すること】 してとり もつ 【右丁 上段】 にたやまはんぐはんはむたのすけてくだ【手管】が ゑんじょ【艶書=恋文】をひろい ふき【不義】はおいへの こはつとなりといらぬせわをやく ふきいたづらをすいなかし【「ずいながし」。「ずい」はすぐにの意の接頭語。すばやく流して気にしないこと】 と て おく 所が つうな ごんかいへ【家】の をきて【掟】このうへ ともいろごとに こゝろをくだき【力を尽くし】かなら ずつうき【通気と忠義の掛詞】の二じをわするゝな 【右丁 中段】 つう【通】と いふものはなるほど したら く【自堕落】に よく こしらへた もんだ わつち【「私」の変化した語】 ともも ちつとこし【ちょっとは】 はもうけ まし  やう 【右丁 下段】 あり かたい こしゆ じんさま のおふせ【仰せ】 ついふん【随分】 つうきを はげみ ませふ 【左丁】 むだの すけは大 せつなるくろしたて【黒仕立=黒ずくめの装い。遊里に行くときに好まれる】 のきよい【御衣】をぬすまれ いゝわけなくせつふく せんとせし所につう なこんのなさけ にてこのはを たす かり 二しなのたからを せんき【詮議】にいつる【いづる=出る】 きよい【御衣】一いろではたつぬるに むつかしかろふ いつそや ふんじつ【紛失…古くは「ふんじつ」とも言った】 せしひけなてまるの一チよう【一丁。髭撫丸は太刀の名】 二しなのうち一いろせんきしたら かんとう ゆるす しかしやなきはら【「やなぎわら」…江戸、神田川の南岸、夜鷹が多くいた。】 あたりを    たつねるは  ざら【押しなべてあるさま】 【左丁 下段】 ふつう【不通=不粋であること。野暮】のせつしやをきよい かりもなく御なさけのにあつかり   ます 【右丁上部から左丁上部】 てくだはくわんおん のぢない【地内=境内のこと】にちや みせをたして人を ちやにし【茶を飲ませ休憩させる意と、馬鹿にする・利用する意の掛詞】むだの すけは人だち とほきところ なればちまわり【地廻】とすかた をやつし けんくはを しかけ ひけ なてまるの せんきを なすおり からにた やまはん くはんに であい いろ〳〵 あつ かふ【「悪行」=「あくぎょう」に同じ】 し けれ とも かた なに て も か け ざれ ば さて わと こゝろ づく たれ やらが くに 人は ぶり なせ けい せい【傾城?】は きゝ【?】ふ やうとは【このあたり意味不明】 よく いゝやしたその 二ほんぼうは 人をきるの しやアなしかへ はなのしたへつけるのか 【右丁 下部】 てくたはちゞに こゝろをいた      める 【左丁 中段】 ちよきぶね【猪牙舟】なん どやかた ぶねのおごりを しらんこういつては どうやらいきかとまち かへ   そうだ   【左丁 下部】 この二さい やろう【「二歳野郎」=年若い、未熟な男性を軽蔑していう語】め ぶれいが あるとては みせぬぞ【<抜く>手は見せぬ=一太刀で切り捨てるぞ】 【右丁】 よくおさむら いさまを どろぼうに しおつた ひげなてとやらかみなでとやらが あるか いめへ【「ゑ」とあるところ】ましい【「いめえましい」=「いまいましい」の変化した語】むたな   や  らう   だ むだの すけは とうざの りに つまり さん〴〵 てうちやく【打擲】に あふ 【右丁 下段】 する こと なす こと むだ のす けと なつ たか とと【「まことに」の意】 ざん ねん  だ 【左丁 上部】 ゆふにこゝろ もみたれ がみ くしの あて【櫛の当て】 なとも なま なかに【上の空に】 あふわ なみだか みづ がみを むすび あげ たる しまだ わけふたりがなかの こまくら【「小枕」=婦人の結髪用具。かもじの根につけて自髪と結合する道具】や なをして みたきもとゆいも たゞ一トすじにかみ かけて【神かけて<髪との掛詞>】こゝろの たけをいのる みやしろ 【左丁 中段】 こちの人かなら ずはやまつて くださんすな 【左丁 下段】 たしかに それと思ひの ほか やつこぶざ へいめがこゝろ   にくい    【右丁】 こちのひとおてからて      ごさんす ごかんき【ご勘気=勘当】ごしや めん【ご赦免】のたねとなるべき この一しな大ぐわんじやうじゆ【大願成就】 ありがたやナアと大山まいりの よふにおたちをいたゝく 【当時、木製の大太刀を担いで大山詣をする風習があった】 【左丁 上段】 むだのすけは ぶだ【「ざ」とあるところ】へいかあと をちたい【地台か】どて にておいつき くんづころん づ【組み合い転び合い】あらそひ しがなんなく ひげなでの みたちを とりかへす 【左丁 中段】 こう なげられ たところは    さそぶざまだ       ろう 【右丁 右端】 しよわけやまほとあつておつに しよわけをつけるもんだ 【諸分とは、遊里のもめごとのとりなしの意】 【右丁 下段中央】 しよわけ やませうち さへもん【諸分山承知左衛門】が はからいにて やつとぶざへい をごう もんに かけ わる【悪】 じやれ ともの あくじを はくしやう  させる 【右丁 中段】 いき人を つみにおとし ばんじやうの くらゐ【万乗の位=天子の位】とたくみし もみつのあわか  たんねんな【「堪念な」=得心がゆく、或は「丹念な」=念の入ったことだな、か】 【左丁 上段】 むだのすけでかした 一つのこう【功】たちたる うへはもとのごとく三せの    気ゑん【三世の奇縁:三世までもつながる縁の意。主従の深いつながり。】 あさましい あにきみの 御こゝろ  じや   ナア 【左丁 下段】 せうち左エ門か まなこのくろい内は いき人きみのみよははんだい ふゑきた【万代不易だ】 こう あらわれし うへはしよ せんのがれ ぬこけたか しんわう アゝ 申 ま す 〳〵 ふつう さんす【?】 ごしゆつけ【御出家】    あられ      ませう  しんせうに【尋常に】はく じやう【白状】ひかげ【日陰者の略】 【右丁 中段から下段】 ひけなての一チよふを【一丁を】くろしたてのきよい【御衣】をよす ればすがかき【和琴の奏法の一つ】 のねいろ をはつす【発す】ときゝ さてはやほた大せんが くはゐちう【懐中】にみたから【御宝】あ りとおほへたり【覚えたり】しつたこけ たかしんわうにむ ほん【親王に謀反】 せう 心【「ふ」ヵ】を にくめじ もなん しか たくみ【汝がたくみ<たくらみ>】 ふつう とも【不通ども=野暮天ども】の ねをたつ てはを ちらす【根を断って葉を散らす】 る つうも ねへ しよせんかなはぬ大せん ちんしやうにもふせん かふれ 【枕上に毛氈かぶれ:(歌舞伎で、死人になった役者を毛氈で隠して舞台を去らせるところから)失敗する。しくじる。勘当を受ける意】 【右丁 上部から左丁 上部】 こけだか しんわうを おた【「さ」ヵ】きに つかひくろしたて のきよゐをも こつちへしてやり 六十余州【六十余りの国=日本全国の意】 をふつう になさんと はかり し こと も せう ちたろう【承知太郎】 にみあら わ され しか ざんねん や 【右丁 上段】 こけたかしんわう のこむほん あらわれ しかは やけの かん八【「やけの勘八」。「やけのやん八」に同じ。思い通りにならないため、自暴自棄な行動をとること】 となつ て 大 くん【大軍か】をもよ ほしいき人 きみ を と りまく 所にさゝ ゐとう【「さざえどう=栄螺堂」に同じ。内部の階段が螺旋梯子に似た構造になっている堂。】 のかた より せりだ しにて て【手】の たんと【たくさん】 【左丁 上段】 あるく わんぜおん あらわれ給ひこの ばの いざ【いざこざの略】 を くい ながし【ぐい流し=すっかり流すこと】に し た まふ 【右丁 中段】 いき人 くるひたつ てとれヱイ さんねん ながらこのばは 一まづたちわか れん 【左丁 中段】 おれがくち【口】からいゝ にくひ【言いにくい】がて【手】さへあれば しよじまるくゆくもんだはつ はるそう〳〵いざ こざもさへめい【「冴えない」の意…気が滅入ってすっきりしない】から ずつとこのばをすみ丁【すみちょう…帳消しという意の「済帳」と江戸吉原の町名の一つ「角町」を掛けている】 にしてまつこんにちは これきりがよか ろう ありが たやナア 【左丁 下段】 ひご ろ しん ずる さゞゐ どうの おやだま ちからを そへて たび給へ【賜び給え】 わるへさわぐと やぼ てん【野暮天】 ども にしのうみへ さらいこむ【「さらえこむ=浚込」に同じ。…かき集めて放り込む】ぞ こ【「か」とあるところ】うまんはさき 〴〵ひやうばん のこへにつれ ねづみきど【「鼠木戸」=江戸時代、劇場などの興行場の木戸口に作られた観客がはいるくぐり戸。無銭入場者を防ぐため、きわめて狭く作られていた。】を でるとおもへは わがやのくち ゆめかと おもへば ねたおぼえは なし ばか されたおぼえは もとよりなし ありしことども かんがふるに あんまりやぼつたいも とうせい【「当世」=今の世の中】のき【「気」=傾向】にあわずとかく 大づめ【「大詰」=最終幕】のくわんおんさんのおゝせのごとく て【手】さへあればすきんにん【頭巾人=頭巾をかぶっている人、或は風流人の意ヵ】のきにかなふと これよりかうまんもしわし【ケチ】もやめて人のいふなかに てうし【調子】をあわせ大つう【だいつう=遊里の事情や遊興の道によく通じていること。またその人】ほどにはいたらねと いゝかげんなつう【程よい通人】といわれける                     豊里舟作 【 裏見返し 】 【左ページ左上に「208」「特別」「245」のラベル貼付】 【 裏表紙 】