【上部中央に横書】【水虎十二品之図】 《題:水虎十弐品之圖》 按するに川太郎は一種の水怪にして不可思議のもの也其類数種あり 関東にもありと雖ども甚た稀にして人に害をなす事も亦稀也豊後 地方に産するもの甚た多く人其害を蒙るもの少からす是亦別様 のもの也漢土の書籍にも其事を載る事をきかす水虎の名 本草【本草綱目】溪鬼蟲の付録に載す然れとも共に其説審ならず 唐山に木容及 山𤢖(ヤマオトコ)【操の偏を犭にした文字】等の名あり即此ものの属か    幽冥録 【上段を右へ】 河童 豊筑に産する もの全く人形 又 猴に似て毛細長 し能人云をなして 好て相撲をなす も亦人と同し妄 に人目に触るゝ事 なし形をかくすの 術を得る事化物の 及ぶ所にあらす 説文云蛧蜽山 川之精物也淮 南子説蛧状云 如三歳小児赤 黒色赤目長耳 美髪【淮南子に髪とあり】正字通蛧 巫紡切音■【罔?】徐 絃曰俗作魍魎 非是 享和元年辛酉六月 朔日水戸東浜 にて網に かゝりたる 河童(かつぱ)高 ̄サ 三尺五寸余 重 ̄サ拾二貫【別本より判読】 なり状ち   図の如し      此二図は       表裏なり 【左頁 続】      菅原大明神什物      水虎の害を避くるに菅丞相和歌あり      いにしへの 舶来せしを忘るなよ川立男氏は友原 俗伝 ̄ニ云【友は菅か?】 【右下の図】 水虎陰乾図長 ̄サ二尺余 【左下の奥書】 紀州 浩雪坂本先生 鑒定      純澤先生 縮圖 東都書肆 林奎文房潤暉發兌 【坂本浩雪は紀伊藩医、坂本純澤はその実弟で摂津国高槻藩医】 【左下の欄外】 彫工師 大隅豊次郎 【下段右から】 其類属のうちにも年を歴たるものは力量つよく能 人家に入りて婦人となり男子となりて魅(み)せ られて犯さるゝものありといふ 【中段】 此水虎の図は越後国新潟に産するものと云 寛政甲寅■【之ヵ】秋奥の旅中に写すもの也 【その下】 脚図 の如し 長 ̄サ七寸手足の指五 ̄ツ面はさるのことく 惣身に細毛あり 寛永年間豊後國【注①】 肥田と云処にて獲る処の 水虎写真也人是に 触るときは手の鮮腥(ナマグサキ) なる事譬るものなし 頭上の凹処蛤貝の如く 深 ̄サ二寸許髪はうち かふりて此凹處見分 難し牙は前上下四枚 魚歯左右二枚ありと云 【注① 不鮮明箇所は以下より校合】 【石田 英一郎「河童駒引考」の英訳】 【「The kappa legend : a comparative ethnological study on the Japanese water-spirit kappa and its habit of trying to lure horses into the water」】 【国立国会デジタルコレクション】 【https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10208282】 【のpp.159-160 に同じ図あり】 【注 この水虎十弐品之圖は、文政3年(1820)「水虎考略 (地)」多少の増補を加えた資料から12図を転写したもの】 【水虎考略は、書陵部所蔵資料目録・画像公開システムにあり】 【水虎考略 (地)】【https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Toshoryo/Viewer/1000064310002/934633fbf47647eb9ec1e49092e5dff0】 明和年中本庄御竹蔵【注】近辺【122行目に同じ文字あり】にて怪き物を傭夫等■■【搦獲?】て□に【既に(すんでに)?】 打殺さんとせしに其内の長たるものとゝめて助け大洲大田氏に其 名を問はんとて其状を具に告けれは澄元速に来て是をみれは水虎 と云ものにて俗に河伯と云もの也とてやかて懐中より此図を出し 合せみるに少しも違はす其図と同物也大田澄元【注】生活のものを見る 事■度【再度?】 なりと いふ 【注 本庄御竹蔵は、 本所御竹蔵(おたけぐら)で、現在の墨田区横網一丁目近辺】 【注 太田 澄元(おおた ちょうげん)(1721年-1795年)は江戸時代中期の本草学者・医師、号は大洲】 此水虎は  表裏の形 肥前国兵揃【ひょうすべ】村このもの多く産す又人を害す土人 河を渉るもの必す前の歌を竹の葉に書して川 に投すゆへに其害を避くるといふ ○宋の李之彦が東谷所見に云宋の趙小子或る時水辺を通り掛り賈人【こじん、商人】の水を手にてすくひしを見る忽ち水中より 溪鬼手を伸し其人の髻【もとどり】を引かんとする事三度に及へり其時趙小子聲をかけて呼びけるに其人對て曰譬へ溪鬼 水怪の難ありとも我豫め少しの雄黄をもとゝりに入置故此禍に係ること無しといふ是を以て見れは溪鬼も かつぱの類いなるべし  雄黄《割書:一名》鶏冠石とて。毒蟲。山怪。水怪を避く常に大人小児とも小塊を帯べし ○肥前の五島にては水神とあがめ凶歉或は旱りの時土人祈る時は其験ありと云目に 触るといへども其形同じからず常に人家に来り友を呼び出し角力を好みとる又河太郎 悪計をなす時は住居を許さす他へ行て人に憑(ツキ)て旧悪を語るすべて此地方には狐と猿少しも無 水神の嫌ふ故なりと云全餘国の狐憑の如し其時水神に祈る時は忽ち離るゝと云往来の人魚を 携へ行に其魚の目はかり竊に取り食ふ其人帰りて見れは数魚一目もなしといふ 【図書ラベル】 特1 3158 紀藩医坂本浩雪著。水虎の圖