《割書:道楽|世界》早出来 天明二寅年 《割書:道楽|世界》早出来 《割書:豊里舟作|鳥居清長画》全三冊 【上段】 むかし〳〵かち〳〵 山田□□しぶん の事なりしか神田の 八丁ほりかはにぜう ほん大かふといふひと有り 女房をおあやといゝ やした【?】きりやうも【器量も】 ちうさしたかぶにん そう【不人相】だからせけんで あやふにん【あや夫人】とあだな を付た ぜうばん二人りが中に 子なき事をかな しみ日本中の □仏【神仏?】をいぢり【?】 しがあるとき 二人りがゆめに かるたのしやか 十をのむと見【釈迦十はトランプのクラブの10】 て一人の男子 をもふけ名を しやか十郎と よびこの子五 六才より外の 子供とちかひ かうまんにて長い きものにぎんきせる かみもとこで ゆわせたし いきなことばかり このみける 【下段】 此子とした事か【が】 見るほどの物を ほしがる かゝさん 九角からとんふりかできて き■【た?】から■【と?】つておきな 【右上段】 こゝにや【?】草 そうしほと【草双紙ほど】年 月のはやくたつ ものはなししや か十郎もとう らくざかりとなり くろしたはき【下履き】細 身のおたちさん まいうら【三枚裏=三枚芯 カ】の高ひ そうりは人を下た【草履は人を下】 に見をろすふみ【に見下ろす踏み】 たいと見へ【台と見へ】 てんにも【天にも】 ちにも【地にも】 我し一人りと【我し一人と】 いろおとこ【色男】 の身にて【このあたり「天上天下唯我独尊」のパロディ】 あるとき となりの むすこを さそひ よしわらへ きたり むしやう やたらに しやれ の□す【のめす?】 モウ ■■はきそうな      □□ 【左上段】 しよくわい【初会?】 の女郎衆 と見た やほに【野暮に】せ すと なんぞ たわつ【?】 せいな くらで おもひ 出した とう〳〵 大横丁【?】が たてくわひ を倉つた むすこ なんその【?】 あんまり つふに なろふと おもわねへ がよい 旦那〳〵と いわれる たび残が 入てならねい 【右下段】 ぬしのきやく【ぬしの客】 しゆは【衆は】 よく おしやれ なんすの いつそ すきん せんよ 【しゃか十郎が駄洒落ばかり言うので嫌いだと言ってる】 【右上段】 しやかはあまり かうまんをいゝ すきけれはあい かたの女郎も にくみあるべき とふりの仕内 にてとこへは いつてより付か す壱人り床の うへて【上で】しやれ 本【洒落本】にある しんこざと【新五左(田舎武士)と】 いふ身ている あまりまち かねとろ〳〵と いねむりしか ふしぎや赤と あいにて【藍にて】 ゑがきし ころもきて たるほうし 壱人まほろ のことくし【最後の「し」は前行の「まほろ」の続きを彫り間違えた?】 あらはれ けり 【左上段】 わちやア皆様 御そんじの ひかる十て こざり ますかね あんまり をれぼう     □ おさみし からうし又 御礼【?】し 申事か有て 参り申した いけんちやア ねいかおめへ あんまり■とか すきるからまつ とふせいのつふといふは【当世の通と言ふは】 人の道を元とし いやがる事をせづおふよう にある【り?】たきものさ まだしゆ行かたりや【まだ修業がたりや】 せんなんぎやうくきやう【せん。難行苦行】 こけのぎやうをしの【虚仮の行をしの】 いて大通ふとなり あまねくせかいをどうらくじやうとへ道引たまへぬしと わつちや一つなへてくふから【一つ鍋で食ふから?】 こんな事を申やすといふと思はは【思ハは(思はば)】 うせにけり しやかは へんな夢 をみて我か ふつふ【不通】成る 事をはじ めてしり 是より 心をあらため しゆ ぎやうを しのいて大つふ世尊 ともなりせかいを 皆通ふにせんと 思いたつおりふし 友達ち来りし ゆへにはかに【俄に】にした から【下から】おてさきの いふ通りにまを 合【間を合わせ=その場を適当に処理し】めつた むせう と喰物を とり よせて めい〳〵に 【左上段】 くいものをしゝいる しやか十が ふたんの 仕内と ちかい めつた にち そう するゆへ みな〳〵 きもを つぶす 【右下段】 けふはこゝのてい【今日はこゝの亭】 しゆはなんたかつがも【主はつがも】 なくのませるか【なく飲ませるが】 何かめでたへ【何か目出度へ】 すしでも【筋でも】 あるか さひしくは【さびしくば】しんミちの もじ■よでも【文字〇=三味線弾きの芸名】 よびやせう なんでも わつちに ゑんりよ はねへよ 【左下段】 モウ こめん〳〵 モウ ひとつ〳〵 さんやあたりの地廻りに 大間(だいま)の八といふわるもの なにかけんくわ【喧嘩】の出入 にてあいてをぶたんと 二三人にて土手に いたりし所 しやかは なにの気も ■か■あさかへり のとふりかけ【の通りがけ】 人ちがひにて さん〳〵ぶた るゝなれ共 しやかは つふの心【通の心】 かけあれば 少しも かまはず いたいの こらへて いる 【左上段】 もしおまへ方は さだめし人か ぶちたか らう いくら でもぶち なさへ したが お手が いたみ ませう もしおや【もし、親】 かたこう【方、こう】 せうち【承知】 じやア ぶちに はり やいが ない 【右下段】 おれも大間の八様と いつちやアよつほどけむつ てい 男だ 【右上段】 しやかは人ちかひ にて大きにふたれ そふこうするうち よもあけけれは かほを見て あいてもきの どくかりいた みはしませぬか といへはなにさ これしき な事はかまはん のさといたいの をこらへ〳〵よふ〳〵 さんやの まちを きて見 れはさい わいかみ ゆひどこ こひ つは イヽと あがる 朝なれは我〳〵もとかみをゆひに来りみなはやくゆひたき をしやかはみてとり何さ わつちはおそくても いゝとたん〳〵後と【後と(あと)】 からくる人にゆは せまつ内其日【せ、待つうち、その日】 もくれにけり 【左上段】 大間の八はしやか つふなる【通なる】 心にはぢ【心に恥】 こゝに来り でしとなる【弟子となる】 【ここからしゃか十郎の台詞】 つふにならう と思ふにやア とかく気生 をよく持給まへ あんまり大つら【大面?】 八【は?】そんだよ そして八をよして 大間としな 日より下太は【日より下駄は】 ごめんだ ある時 しやか 一人ゆきの ちよんの間に あそばんと梅ばし【柳ばし?】 にて舟にのり折しも 大ゆきふりけれはおれかさ むいも人のはじ事【恥事 カ】とむりやり せんとうをねかし其身は じゆばん一つにてふるへ〳〵 舟をかくこれかほんのこけの ぎやうなり 【左上段】 せんどうはうれしさの あまり 〽しやか様は此ちよき ぶねのろを おしてゆきもろともに いくしほの これもあなたの せはかけやおれは なにもひますきて はやよしわらへ つきにけり アヽ高砂のうたひときこへるか しらんなるほどこうして いた所は千金だわたしが ねた【て?】いておめいかおこき【お漕ぎ】 なさるしといふは ほんの しやか さま とだ 【右上段】 しやかは中 の町へ来り まつ一はい のまんと 茶やへ上り しかいや〳〵 こゝでの 人ては 【左上段】 あるべき 通り【?】 向ふても大せいの きやくたからさそ【客だからさぞ】 せはたらうとめつ【世話だらうと滅】 たむしやうに【多無性に】じき【辞儀?】 をしてま□り【まはり?】何に【何に(なに)】も おさ【き?】せすてまどら づ【?】ゟよからうと めつたむしやうに じきをするのこり おゝいくらゐもた のしみなもの しやかでも そつちの よさ そうな ところに したが いゝ 【右上段】 初会のさかづき もずつと すみ床へ きた所か あいさつも なくあい方 はなにか 物思ひ とみへ顔【皃、貌】 付わる【付ワる】 けれは しやか はつら〳〵 思ふよふ こいつは なんても よひてい 男かあつて こよいまち がつたのた とそれから すこしほね をおりつゝ【?】 やつと其事 をきゝいたし ■かこゝ【?】 【左上段】 見の【けんの=初見=いきずり?】 所と 心をつく し なになく其男を よんであはせける まぶに女郎を あはせてめいは びやうふの 外で手しやくて ひつかけながら おれと した こと事か【事は衍字?】 金をたして こふ気を とふす事も なへ いかい たわけ 【右下段】 ぬしもさむいに そうして いなすつちやア どうも わるふこせんす 【左下段】 茶ても のみたか ねへか 【右上段】 しやかはひやうふの 外にいてもあいら かさしあいたら【?】 うとうそう〳〵【?】 と下たへ来て見 れはないせう にてはいびき のこへたい 所て はつち〳〵 といふゆへ なんてあ らうと さしの そけ は【さし覗けば】悪者 三四人 ゑて ものを して いるこい つわいゝ と中へ入 めくり【?】 けるゆへ れいの 通り【?】 をこり 皆に 【左上段】 勝た せたく おれが 此七【カードの7】 を す てる と と なり に仲 蔵【役の名前】か できる 又両人 赤か させ たいの うれし やとう【?】 つき ぬき をくら つた のと おも いの まゝに 鼻 紙 ふくろ【財布のこと】を から に し けり 【右ページ下】 けしから ねへ きやく だの 【左ページ下】 私共の中へおいてなさるゝと いふはあなたも とんだ ものすきた またしやかが■てしに五百(いを)蔵といふあり はいめうをらかんといゝしゆへ五百らかんと よびけるしやか がゆへはかりを【?】 うりにくる しやかはぜう せき【定石】かねが いるだ らふと 羽織 のそでへ 二三両 ちよつ とひねつ ていれて やる 【右ページ下】 今日はちつと かも入れに【?】 ■けやすから りうもんの■ はかりと いふ所を かしておくれ 【左ページ】 それよりしやかはこけの ぎやうを しのきどうらう 上土の ほつ ほうを とらんとかんばんを 出しける 【看板】 来る十五日とりの時雨とも【?】 吉原上土(どうらくぜうど) 北法(ほつほう)               しやか 【極楽浄土と道楽上土の洒落】 【説法と北方(吉原のこと)の洒落】 しやかは北方をとく 是より北の 方にあつて 吉原上土と 国かごせいやす こういつちやア どうやら かれいとのなんを【?】 いゝなさらふか せかいのやぼ【世界の野暮】 そふたちを【僧たちを】 つふしやに【通者(つうしゃ)に】 しろとの こせいかん【御請願】 とかくどう らくへゆきて おとけになつ【戯けと仏の洒落】 たかあみだ によらい の事を おきゝなさへ是から またかんにたへかした【?】 ありかたい事か ごせへやすから皆様方 ゆる〳〵とこちよう もんなさへ 【左ページ】 しやかがほつほうをきゝいて ありがてへ〳〵と いゝし ゆへ今 のよに つふ こん と なり に けり なるほと おしやか さまは おどけの けしん だぞ 又当せいちこくか【また当世地獄が】 とんたはやりしやか【とんだ流行り、しゃか】 もしようさいどの【も(衆)生済度の】 ためこのしこくへ【ため、この地獄へ】 来りしめまへくら【来りし、目前暗】 やみで大きな【闇で大きな】 こへもならず【声もならず】 そのうへ よく〳〵 きけば人の によう ほう【女房】なり ぬし有る 身にて こう いふ しやう ばいを するは 女郎ゟは  ひやく ばいと【?】 おもひ かねを【金を】 たして【出して】 すくひ【救ひ】 とる【取る(見受けしたという意味)】 【左頁】 このかね てなんそ 外の事 をしろへ とかく 地こくの さたも【地獄の沙汰】 金だ 【左頁下 女郎の台詞】 アヽありがたふござりやす ほんにうかみ上ります 金をもらいしゆへ おうごんのはだへと【黄金の肌(はだへ)と】 なり 地こくの くがいを【地獄の苦界】 のがれけり 北方【吉原のこと】にてはしやか のつうなることを きゝつたへきよう このさとのねん ばん【年番】につきたまふ とかづのぼさつ かむろをひき つれやり て【遣手「やりて」: 遊女屋全体の遊女、かむろ、新造を管理・教育し、客や当主、遊女との間の仲介役】も つの【角】を かくし てどう らくの 大門 まで むかい くる 【左頁】 そふたい【総体カ】 この上土へは【浄土】 おうごんの はだへなくては【黄金の肌(はだへ)なくては】 来る事あた わずみちのりも とふきよふなれと【遠きよふなれど】 くぜい【弘誓?】のちよきにのる時は ちよんの間のうちに ときつく事うたかひなし 【右頁】 あら有かたやしやか女来ねはん【釈迦如来涅槃】の とこにのりたまへは家内の ぼさつ【菩薩】 あたりをかこひ二かいさしき【二階座敷】 にて二上りの【三味線の調弦法の一。本調子を基準にして第2弦を1全音「長2度」高くしたもの。はでで陽気な気分や田舎風を表す】 おんかく【音楽】 きこへ かみ はなこけらと ふり来る 折ふし 此ことをきゝ 伝へとらに 馬吉丑太夫【?】 おつるおかめに やりてのお熊【?】を 初めとしてあま たの町るい ちくは共 おり〳〵に あつまり 有りかた かりし里【?】の とロ〳〵 にぞ となへ 【左頁】 けり 大ぜいの よろこび こへにはかの はやしこれ にはいかで まさるべきや ときこへけり このやうな おはなもない もんたそりや まく〳〵ぞと おつしやれ ば いゝ 【右ページ下】 アヽ 有りがたい〳〵 【右頁上】 それよりしやかは大通 世尊【世尊は釈迦のこと】ともてはやされ 上土【浄土】のあそびもしつく して是からちつと 気をかへて辰巳しん じゆく南部の方へ 心ざしけるがあまり 長事こたいくつ【ご退屈】と右 三ヶ所をはごへん【後編】に ゆづりしばらく あそびを とゞまり ける 【右下端】 清長画 豊 里舟作 【左頁 左上端】 図書標 208  【左頁裏見開き 左上端に図書標および「特別」印】 208 特別 244