【表表紙】 《割書:新|板》扨化狐通人(さてもはけたりきつねつうじん) 【表表紙見返し】 安永九子年 【左丁】 【上段】 □□【爰?】に松川むらといふ ところにとしふる 白きつねありむす めをみさきとて ことし二八の花 さかりいなかに はおし きほど のきりやうなりし がちかきころ やなかより やうしをして きぬがさもり の丞 といへり これもこゝんの いろきつねにて ありけるいまた みさきとこん れいはせさりしが たがいにおもひおふ ことなれば中むつましく くらしける 此ごろはもりの丞めが つうじんと やらのふうになつてまいばん〳〵 であるくがろくなところへはゆくまい ちとこなたいけんをいひめされ 【下段】 手代九郎介 きのとくかり ちとわたくしが御 いけん申しませう されば わたしも そふおもひます とかくはやくこんれい させておちつき たい ものでござる 【右丁】 さてもて代九郎介はうはべは忠義にみへれども何とぞ もりの丞をおいうしない 此あとしきをおうりやうして むすめみさきを心にしたかへんといろ〳〵すゝめて とう〳〵もりの丞をとうせいのつうじん とはしこみけるなんとわかだんなごく らくとはこゝのことほかにはなかばしさ こうばけた所は何としう くわく【?】といふ身でござりませう もりの丞は九郎介がすゝめに よりいろおとことばけ てかみはいきちよんの長ばをり ちとふるけれどもひはかたなぞ とでかけいつのころよりか此 のはらといふくるわへかよひて まつ さきといふぜんせいの 太夫にふかくなじみ このごろは 少しかねに少し ゆきつまり 九郎介と いひ あはせ いろ〳〵 くふう する 此野原 といふくるわは のきつね ども人を たふら 【左丁へ】 かさんと いろよき けいせいと ばけて ちうやにぎ わしき ことほつこく にことならす 中にも まつさきは もりの丞に あこがれ ほかの きやくをば そでに なし あけくれ【?】 こゝろを かよはし ける あれ〳〵 もりさんが みへなんす あの九郎介 さんの かほのにくさ みなんしな 【右丁】 そのよ九郎介はもりの丞をくるわへつれ行 われひとりかへりるすをみこみによき おりなりとみさき出とらへて【?】くどく これさあのばかだんなは まつさき といふうつ くしい女にほれておまへの 事はねつから おもひ出しもせず 又まつさきがほう からも とんだほれやう そのはづでもあり おまへのまへでは七文のはり ぬきめんを□□【みる?】やうな かほをしていて まつさきには 大のいろおとことばけて みせることだものほれるも どうりさ あんなぶしんちうな 人をおもひきり わしになびき なさいおまへさへ かてんなら じきにとんだ いろおとおに はけやんす 【中段】 これ〳〵 九郎介 しゆじんの むすめこと□【に?】 もりの丞といふ □□【おとこ?】のあるみ いやらしいそこ はなしや とゝさんやかゝさんに そふいふぞへ 【下段】 それを いつて こまる ものか そふはらを たつた ところが また たまらぬ ちよつと 〳〵 【左丁】 【上段】 もり の丞は まつさき にうち こみ 日夜 かよひつめいまはあげ代に つまり あんじわづらひいる ところ九郎介がちへを 出して此 いへにつた わるたから のほうじゆ とかぎ【宝鍵 挿絵より】を ぬすみ出し 三百両の しちに入る わかだんな しづかに 〳〵 まんまとして やりました なんのおやの ものは子のもの しつほがで たらそのとき のことさ 【下段】 どふ ぞ その ほうよい よふに して くりや れ あとで しりが われねば よいが 【右丁】 そのゝち白ぎつねふうふはくろ介【九郎介】をちかくよびだん〳〵ともりの丞がみもちあし ければかんどうせんとそうだんするにしてやつたりと九郎介いふようなるほど御もつとも にぞんじます おわびも申はつのわたくし なれどもいまだ御そんじは あるまじく候へども 御いへの たからほうじゆかぎまで とうにしちもつに入レ御ほう ぞうはからものといひける ゆへふうふきもをつぶす せがれめにつくきやつ けいせいぐるいのあまり たからものまでうし ないせんそへいひ わけがない七しやうまで のかんとうじやでゝうせおれ むすめみさき なげく かゝさんどうぞ しやうはござん せぬか とうもぬしの あのはらたち ではわびても がてんは なされまい 【下段】 どふも きのどく なこと しかし みからで たさびと やらしかたがない もし【?】みすほらしい なりのおやごの ばちおもひ あたり まし た か 【左丁】 これ〳〵もりの丞 とうぞたからの しなをとり もどしきたらば そのせつはわしが とりなして くわんどうもゆりる【ゆりる=許される】 やうにしませう これから心を入かへてしんぼうし とかくたからをとりもどすが かんようじやぞかわいや〳〵 むこどのさらば〳〵 【下段】 みにあやまり あるゆへなん にもいわぬ 九郎介おほへていよ おふたりさま みさきも さらば 〳〵 【右丁】 それより 九郎介は又 みさきをく どけともきゝ 入ずあまつ さへ父母につげける ゆへ此いへにもいられず あるよどぞうへしのび入金す をぬすみ出しかけおちするあのめろうめゆへ大ぶんくろうをしたにあはび のかいのかたおもひにくさもにくし【ふくさもにくし?】此かねと此中しちに入たたから 物のあたへとあわせて五六百両うま□□ これからおれがすき【すゝき?】のいろさとのうらへでも 引こんでくらしませうハヽアそれよ 【左丁】 【上段】 かくてもりの 丞はちゝの ふけうをうけ たからはありか しれても とりもどす べき金子 もなくたゝ にくきは九郎介おもへとも これも ゆきかた しれす【ここより五行ほどかすれ】 □□□□かるべき □□ も なく □□して□□ねしまつ さきがかたへ又いろ 男と なつてきたり かねのさいかくを たのむ かならずくろうに しなん すなとうぞしよふがありんしよふ 此御 くろうも みな わたしゆへ かんにん して くんなんし 【下段】 此身に なりて かほをあわすも はつかしけれども つきてきました くれ〳〵たのみます 【右丁】 まつさきはもりの丞にたのまれ身にかへて さいかくしても今の世の中きつねのなか まても金はめつたに出きすふとおもひ つきおゝにはのてうすばちにてむけんの かねをつくたとへ此身は むけんちこくへおちるともだんない 〳〵大じないいとしおとこのためじや ものなむ日本のくに〳〵のかみさん 金ならたつた三百両とうぞ おさつけなされて下さんせ あんまりたゝいたらひしやくの あたまがぬけた なか〳〵 きん ねんの むけんのかねは ひさくのいたむ【柄杓の傷む】 はかりなんにも ですまつさきも ほんにとうせうねと あきれる 【左丁】 さても もりの丞は両人 のきやうだちがせわ にて金とゝのゆると いへともなか〳〵とゝのは ずその二人われはかく あそひてふたりに ほねおらせんことも きのどくにおもひて いろ〳〵あんしけるにおりしも なつのことなれば 人の大ぜいあつまるしんち へしばゐをいだしやくしやにばけて ぜにもふけせんとおもひ付三人いひ あわせかんはんをいたしわがこきやう 松川村をめうじになしもりの丞は松川 つる七となをかへ兄弟はたん蔵米松と しるしみぶりこはいろとはじめければ ものみだかい江戸のこと初日より けんぶつ大ぜいはいりおゝくの金を もうけける さあ〳〵三しばゐやくしやこはいろ はじまりじや〳〵〳〵 【中段】 すゞみのくんじゆ大きに はかされみな〳〵 けんふつする 【右丁】 【上段】 扨もつる七いでゝみぶりこはいろの口上をいふ此ところ山下 金作大谷慶次【?】中村仲蔵右三人かけ合身ぶり こわいろ御らんに入まするまづははじまり〳〵と大こに つれがくやに入三人ともおもひ〳〵にばけて出る 金作新左衛門ふうふ のものが此やう に申しますに たつた 一口すけ やすは 此すけ つねが うつ たりと おなのり なされて 下さん せ その ほう ふうふがちうぎにめんじなるほときやうだい がかたきは此左衛門すけつねとなのりて やりたいものなれどもかはづ【河津祐泰】をうつたは またの五郎がすまいのいこんてとをや【遠矢?】を もつてうつたはやい またのゝ五郎かけ久が【俣野五郎景久。河津祐泰との相撲のエピソード】 【左丁に続く】 すまいのいしゆとはいつわりまことは しよりやうのあたなりとけらいあふみ【大見(小藤太)】 八わた【八幡(三郎)】にいひつけあか沢山【赤沢山】 のかへるさに【?】うちとつたりといさ きよくなのつて下されすけつね どのいつ わり給ふは そりや御ひきようで ござるぞへ やんや〳〵 とうして あのやうに にるの やつ はり ばけ ものた 【右丁下段】 もふ ひきり み やふ【もう一区切り見よう?】 此つぎ は おや玉 だが 又 おそ ろ し い よ 【右丁】 【上段】 三人のものは この□【ほ?】とまいよ しの大入 にて金子 四五百両 できたれば もはやしやう たいをあらわし てもよしとそれ より三百両に 利ふん【利分?】をいたし たからの二しな とりもどし両人 がわびにてかん どうゆるされ みさきとしう げんしてすへながく さかへそのゝちくわん いをゑてきぬ かさ もりの丞 は かさ もり いなり女ぼう みさきは みさき 【左丁へ】 いなり大めう じんと あがめられ しよ人あゆ みを はこびける いまでは あのこも つう じん とやらのふうそくもやめ しやうたいをあらわし たればもふきづかいはござ らぬむすめよろこべ あい〳〵このやうな うれ しい ことはない わいな 【右丁中段】 此やうな よろこびは ござらぬ おゝ やすい ことな のりめされ 【右丁下段】 すぎのもりきゃうだいはしゆびよく わびもかないしろぎつねふうふの ものゝきげんよきを みてこのたびたから ものとりもどせし 御ほうびになに とぞたまと かぎ とを われらきゃうだい がいへなに申うけたくと ねがふ 【左丁中段】 ばゝも一ツすご しやれ 【左丁下段】 これはあり がたい しあわせで ござります いやもう両人のもの□け でござります此金子 はこのたひのつかいのこり 御両人へしん上申もと でになりともなさ れい 【右丁】 【上段】 扨もすぎのもり富介はいまだ あつさもさりかねたるじせつ なればふとおもひつき白ぎつ ねよりもらひし玉をのふれんに【暖簾=のふれん】 そめさせむさししもふさのあいだを みせをいたし花びをしこみそのゝちねん〳〵 はんじやうしてぶげんの みとなりて おもふやういせんもりの 丞のちぎり給ふまつ さきをたづねしに そのせつきん子とゝのは ざる を く にやみ ついにむな しくなり たると うはさゆへ 富介大金 をいだし て 【左丁へ】 まつ さき いなり 大 明 神 と あん ち なし 今も つうじん たちの さんけい おびたゝ しき ことなり 【右丁下段】 此ごろは 此みせかとんだ はんじやうだ 【左丁中段】 ばんにはむつが あるから人の おゝいのなんほ せい出しても ま に あ は ぬ 【下段】 此つぎには 十二てうちんを つけようはやく しまつてきりを みにゆきたい 富介人けんにはけ 花火しやうばい をして大かねを もうけみせ はん しやう せし なり 又おとゝか【?】き次郎は同じくはけ てそのきんしよに□□【こう(香)?】しやうばい をいたしのうれんにしろきつね よりゆつりうけしかきをそめぬき みせはんしやうせしゆへそのゝちきやう だいのものくわんゐをゑてすぎの もりいなり大明神とあがめられ まい月富のこうぎやうありて人の くんしゆは おくさまがた【おこさまがた?】御ぞんしの とをりいつれもたつときいなりさま つうりきしたいのいろのしかう【通力次第の色のしかう?】 おもひついてきつねの通人とは だいしぬ【?】いのり給へ〳〵 可笑偽作 清長画 【裏表紙】