【表紙】文字無 【見開き】文字無 琉球竒譚 【朱印】寶玲文庫 【黒印】芲輪里菴    序  琉球國(りうきうこく)は。 吾(わが) 日域薩州(ひのもとさつしう)より 南(ミなミ)にあり。 清朝(もろこし)  福建泉州(ふくけんせんしう)の 東(ひがし)に 在(あり)。 其国(そのくに)名玉(めいぎよく)  異寶(いはう)を 出(いだ)す。 男女(なんによ)の 風俗(ふうぞく)又異(またことなり)や。  去歳(きよさい)秌(あき)八月。 渡海(とかい)の 商人(あきびと)に 臨(りん)貞二(ていじ)といへるもの。 何(なに)くれと 彼国(かしこ) の 手(て)ぶりなど。 親(した)しく 語(かた)りたるを。 米山子(べいざんし)と 等(とも)に 兵庫(ひやうご)に 逰暦(ゆうれき)せし 折(をり)から。 聞(きゝ)たるまゝにかいしるして 置(おき)たりしを。 此(こ)たび 梓(あづさ)に ちりばめて。 同志(どうし)のひとたちに         《割書:りうきう序2》 見(ミ)をまゐらせむとするものハ 黒川(くろかは)の 里人(さとびと)      浅嶺庵作良 印 時は天保ミつのとし    冬時雨月      壷輪楼高木書 印 富■漁翁  壽   琉球国越来三明堂樂水一百十一歳書               りうきう序の二 琉球譚傳真記(りうきうものがたりでんしんき)     薩州白岩       米山子著述 抑(そも〳〵)琉球国(りうきうこく)ハ。 薩州(さつまのくに)の 南(ミなミ)方にあたりて。 舟路(ふなぢ)およそ八百四十 里《割書: 海上(かいしやう)六丁をもつて一 里(り)とす 地方(ぢかた)の三十六丁を一里とするときハ。|百四十里なり。 和漢三才圖会(わかんさんさいづゑ)に 海(かい)上三百八十里と 紀(しる)せしハ 誤(あやまり)也》 其国南北(そのくになんぼく) 長(なが)さ五十九 里餘(りよ)東西(とうざい)ハ 僅(わづか)十里に 足(た)らず《割書:地方(ぢかた)三十六丁を|もつて一 里(り)とす》 その地(ち)北極(ほくきよく)の 地(ち)を 出(いづ)ること二十六 度(ど)二 分(ぶ)三 厘(りん)。されば 暖氣(だんき)なる 叓(こと)他国(たこく)に 勝(まさ)れり。《割書:正月に 桃(もゝ)さくらのはなひらき 冬(ふゆ)になりても|衣(い)るいにわたを入れるといふ事なく 蚊(か)なをうせ》 《割書:ずうちハを|手にはなさず》〇 始(はじ)め 隋(ずひ)の時流虬(ときりうきう)と 号(なづ)く。 其(そ)ハ 地(くに)の 形(かた)ち 虬(きう) 竜(りよう)の 水中(すひちう)に 浮(うか)ぶか 如(ごと)くなるを 以(も)てなり。 又(また)宋史(さうし)及(およ)び 隋書(ずいしよ)に 流求(りうきう)と 書(か)く。 元史(げんし)にハ 瑠求(りうきう)と 書(か)く。その 後今(のちいま)の 琉球(りうきう)の 字(もじ)にハ 改(あらため)たり《割書: 中山傳信録(ちうざんでんしんろく)にハ 明(ミん)の 洪武(こうぶ)年中今の 字(じ)に| 改(あらたむ)ると 紀(しる)せしハ 誤(あやまり)にて夫より前の事なり》〇 往昔(いにしへ)我国(わがくに) より 琉球(りうきう)を 呼(よ)びて 宇留麻廼久煮尒(うるまのくに)といへり。 大貳(だいに)の 三位(さんゐ)の 狭衣(さごろも)に。 右琉間(うるま)の 島(しま)とありて。 下紐(したひも)に。うるまの 島(しま)ハ 琉(りう) 球(きう)なりと 有(ある)にて 明(あき)らけし。また 千載集(せんざいしふ)の 哥(うた)に〽おぼつかな うるまの 島(しま)の人なれや 我言(わがこと)の 葉(は)をしらず 顔(がほ)なる。 又古(またふる)くは 於幾廼志摩(おきのしま)とも 呼(よ)びたり。 彼国人(かのくにうど)。 自(ミづか)らその 国(くに)を 屋其惹(おきの)ともいふ也。〽さつまがたおきの 小島(こじま)に 我(われ)あり と 親(おや)にハ 告(つげ)よ 八重(やえ)のしほ 風(かぜ)」この 哥(うた)ハ 平判官康頼入道(へいはんぐわんやすよりにふどう)。 鬼界(きかい)が 島(しま)に 滴(なが)されて 彼所(かしこ)にて 詠(よめ)るにて。すなハち源平 盛衰記(せいすいき)巻の七に 載(のす)るところなり〇 世俗(せぞく)に 龍宮(りうぐう)といふ ものハ 海龍神(わだつミのかミ)の 都(ミやこ)する 処(ところ)にて。 洋中波底(ようちうはてい)。 別(べち)に都あり と思へるハ 誤(あやまり)也《割書:此事すでに 謝在杭(しやざいこう)が| 五雜俎(ござつそ)にも 論破(ろんは)せり》 則(すなハ)ち 琉球(りうきう)と龍宮(りうぐう)と 同音(どうおん) なるが 故(ゆへ)にかくハ 成(なり)もて 来(きた)るもの也。 又(また)琉球 国(こく)の 王宮(わうぐう)に。 龍宮城(りうぐうぜう)といへる 額(がく)をかけたり。 又都(またミやこ)にハ 天竜地竜(てんりうちりう)の 社(やしろ) あり。 是(これ)を 天妃(てんはい)といふ。 今異国人(いまいこくびと)の 菩薩(ぼさ)と 唱(となふ)るものハ 是(これ)也 《割書:此方に 舟玉(ふなたま)明神とて舟の| 守護神(しゆごじん)とするも此神なり》されバ 神代(かミよ)にいへる 海宮(わだつミのみや)も。 浦島(うらしま)が 子(こ)の 龍宮城(りうぐうぜう)も。 俵秀郷(たはらひでさと)の 行(ゆき)たりといふ 竜宮(りうぐう)も 今俗(いまぞく)にいふ 龍宮もミな 琉球(りうきう)といへるものなり〇琉球 国(こく)に三 省(せう)あり。 中山(ちうざん)ハ 中頭省(なかがミせう)。 山南(さんなん)ハ 島崫省(しましりせう)。 山北(さんほく)ハ 国頭省(くにがミせう)。此三 省(せう)の 属府(ぞくふ) 都(すべ)て三十六。これを 間切(まぎり)といふ〇 都(ミやこ)を 首里(すり)と 号(なづ)く。 他(ほか)ハミな 間切(まきり)といふ《割書:間ぎりハ此方の 城下(じやうか)のごとく|また 郡縣(あがた)をさしていふ》 其(その)間切(まきり)の 領主(りやうしゆ)を 各(おの〳〵)按司(あんぞ)といふ〇三十六の 属島(えだしま)あり。 奇界(きかい)《割書:また 鬼(き)|界(かい)が島(しま)》 《割書:と|いふ》八十二の 島(しま)なり則ち五島七島といふ 其(その)三十六の小 島といふハ東(ひがし)の 方(かた)に 四箇(よつ)の 島(しま)あり【以上十文字を四角で囲う】△ 久高(くだか)又 姑達佳(こだか)共(とも) 中山の 東(ひがし)十四里半《割書:かの国の 道法(ミちのり)六十丁をもつて一里とす此方の三|十六丁をもつて一里とするときハ二十四里余》 産物(さんぶつ)数品(すひん)あり。 赤秔米(あかこゞめ)。黄小米(きこゞめ)。五色魚(ごしきうを)。佳蘓魚(かそぎよ)。なほ 多(おほ)し△ 津堅(つけん)《割書:中山の東三里半此方の| 道法(ミちのり)にしてハ五里半十二丁也》△ 濱島(はましま)《割書:南北二島あり中山ゟ|道のりまへにおなじ》 △ 伊計島(いけしま)西(にし)の 方(かた)に 三箇(ミつ)の 島(しま)あり【以上十文字を四角で囲う】△ 東馬歯山(ひがしばしざん)《割書:大小五ツの| 島(しま)あり 産(さん)》 《割書: 物牛(もつうし)。 馬(むま)。 粟(あハ)。| 布(ぬの )。 螺(にし)。 怪石(かせき)。》△ 西馬歯山(にしばしざん)《割書:大小四ツの 島(しま)あり此島の人| 極(きハ)めていろ 黒(くろ)しよく 漁(すなとり)す》〇此 島(しま)には 𫝶間(ざま)美渡(ミと)嘉敷(かふ)【以上六文字、二文字ずつ四角で囲う】 等(とう)の 間切(まぎり)あり〇 漁猟(すなどり)をよくして 水中(すゐちう)に 五六日 居(ゐ)て 魚(うを)を 得(え)るまた 山下(さんか)の 海底(かいてい)に 海松(ミる)あり 是をとりて 生計(なりはひ)とする 人多(ものおほ)し△ 姑米山(くめやま)《割書:中山より西の方四|十八里但し六十丁を》 《割書:もて一里とす此方の 道法(ミちのり)三十六|丁をもて一里とするときハ八十里也》〇此 島(しま)にハ 安河(やすがハ)【以上二文字を四角で囲う】 具志川(ぐしがハ)【以上三文字を四角で囲う】とて二ツ の 間切(まきり)あり〇 高山(かうざん)あり 五穀(ごこく)ハさら也。 土綿(わた)。 繭紬(つむぎいと)。紙蠟燭(かミらうそく)。螺(ら) 魚(ぎよ)。 雞(にハとり)。 豚(いのこ)。 牛(うし)。 馬(うま)。 墨魚(すミうを)。なほ 産物多(さんぶつおほ)し。 【図題】 首里王城之圖(スリワカゼウノヅ) 造作日本漢土両国ノ風 アリ王城廻リ二里半 ナリ 【舜天宮説明】 舜天宮ハ 八郎為朝を マツル ナ リ 【漏刻門上の説明】 しねりきゆ あすミきゆ の宮 【中山牌坊下の説明】 池ニ大魚 アリ其色 赤シ 月夜ニ カナラズ 浮ブ 長サ 一丈 アマリ 名ヲ ハリ ラン バア ト云 乾(いぬい)の 方( かた)に 五箇(いつつ)の 島(しま)あり【以上十文字を四角で囲む】△ 度那竒(となき)山(やま)《割書:山に 牛馬(ぎうば)多(おほ)し 寺(てら)あり 五宝(ごほう)| 菴(あん)といふ 盆(ぼん)おどりといふ事あり》 △ 粟国島(あぐにじま)《割書:山に 牛(うし)| 豕(ぶた)多し》〇 名産(めいさん)。 鐵樹(たがやさん)。 仏礼木(へくりげ)。 供花樹(こたらめ)△ 伊江島(いゑしま) 《割書:石山なり四方|こと〴〵く 黄砂(きすな)也》〇 粟国島(あぐにしま)に 并(なら)ぶ。 潮(しほ)の 漲(ミつ)るときハ三四丁を 隔(つだ)ち。 水(ミつ)の 退(しりぞ)くときハ 徒渉(うちわたり)して 行(ゆく)べし〇山に田あり。 黍(きび)。 稷(ひえ) 豆(まめ)。 麥多(むぎおほ)し△ 葉壁山(ゑへやま)。又 伊平屋島(いへやしま)とも〇中山の 戌亥 の方三十里にあり此 方(ほう)の 道法(ミちのり)にて五十里なり〇此 島(しま)の 米(こめ) 尤(もつとも)よし 産物(さんもつ)ハ 五穀(ごこく)。 海膽(うに)。 毛魚(もうぎよ)。 蕉絲(ばせをふのいと)〇 島(しま)の 中(なか)に 一𫝶(ひとつ)の 高山(かうざん)あり。 宛轉(ゑんてん)として 龍(たつ)の 如(ごと)し。その 山中(さんちう)にこくんろ【以上四文字を四角で囲む】といふ 鬼神(かミ)あり。 常(つね)に 美女(びぢよ)の 形容(すがた)を 現(げん)ず。 女人(をんな)をして 祷祈祭(いのりまつ)ら すれハ 幸福(さいはひ)あり△ 硫黄山(いわうさん)又 黒島(くろしま)とも〇山に 鳥多(とりおほ)し。 因(より)て 鳥(とり)島ともいふ〇中山の 戌亥の方三十五里にあり。但し前に いふごとく六十丁を一里とす。此方の 道法(ミちのり)三十六丁を一里と するときハ五十八里余也〇 採硫戸(いわうとり)の 家(いへ)百二十 軒(けん)ばかり 有〇人の眼子羊の如くにして明かならずこれ硫黄の氣 に 蒸(むさ)るゝ 故(ゆゑ)なりとぞ〇島に山あり 灰推山(くわいすいさん)といふ 艮(うしとら)の 方(かた)に 八箇(やつ)の 島(しま)あり【以上十文字を四角で囲む】△ 由論(よろ)《割書:中山の丑寅の方五十里此方の|道のりにして八十三里余なり》 〇 芭蕉(ばせを)の 樫木多(やまゝきおほ)し△ 永良部(えらふ)《割書:あるひハよこなまりて|伊蘭埠(いらふ)といふ》△ 德(とく) 島《割書:中山の艮の方六十里|此方の道のり百里》△ 由呂(ゆろ)《割書: 度姑島(とくしま)の艮の方|四里にあり》△ 烏竒(うけん)奴《割書:中山|より》 《割書:艮七十七里|六丁にあり》△ 佳竒呂麻(かけろま)《割書:中山の艮七十|七里にあり》△ 大(おほ)島《割書:一名》 小琉球(せうりうきう)〇 度(と) 姑(く)島の艮にあり中山を 去(さ)ること八十里 但(たゞ)し 前(まへ)にいふごとく 六十丁を一里とすこれも此方の道法三十六丁を一里とする ときハ百三十里 余(よ)〇琉球より此島まで 舟行(ふなぢ)三日にして 至(いた)るべし〇 島長(しまなが)さ十三里七 箇所(かしよ)の 間切(まきり)あり 西間切(にしまきり) 東間切(ひがしまきり)【以上六文字を三字ずつ四角で囲む】 笠利(かさり) 名瀬(なんせ) 屋喜(やんき) 住用(すむよ) 古見(こいミ)【以上十文字を二字ずつ四角で囲む】〇 島中都(しまのうちすべ)て二百 三十一 村(そん)あり〇 産物(さんぶつ)ハ 蕃薯(さつまいも)おほし。また 米(こめ)。 粟(あハ)。 豆(まめ)。 木綿(もめん)。 竹(たけ)。 牛(うし)。 馬(むま)。 兎(うさぎ)。 猪(ぶた)。 山猪(ゐのしゝ)。 海瓜(うミうり)。 焼酒(しやうちう)。 紅㯶(あかじゆろ)。 黒㯶櫨(くろしゆろ)《割書:あぶら| 木なり》 〇 島(しま)のうち 三箇(ミつ)の 高山(かうざん)あり しミづやま【以上五文字を四角で囲む】《割書:清水|山》 きくやま【以上四文字を四角で囲む】《割書:菊花|山》 ゑうめうざん【以上六文字を四角で囲む】《割書:永明|山》 《割書:此さんざんにハこんなんじといふ|あやしきけものあり人を食ふ》【「こんなんじ」を四角で囲む】〇 島(しま)の 北(きた)一 里(り)ばかりにして 大きやうなる 石(いし)あり 形(かた)ち 圓(まろ)くして 柱(はしら)の 如(ごと)し。 高(たか)さ 百尺(じうぢやう)ばかり。 石面(おもて)に 竜王(りうわう)の 形(かた)ちを刻(きざ)めり。 又数行(またすうかう)の 字(もじ)を 勒(ろく)すと いへども。こと〴〵く 異體(いてい)にして 読(よ)む 事(こと)あたはず。 土人(くにひと)傳(つた)へ云 往古(いにしへ)国王(こくわう)の 鼻祖(とほつおや)天孫氏(てんそんし)の 建(たつ)るところなりと△ 鬼界(きかい) 《割書:中山を去ることりうきう道のり|九十里此方道法にてハ百五十里》〇 琉球(りうきう)艮(うしとら)の 最遠(さいゑん)の 堺(さかひ)なり 俊寛(しゆんくわん) 僧都(そうづ)の 流(なが)されしハすなハちこれなり〇これに 属(つき)て。 土噶唎(とかり)。 七島といふあり〇 此島(このしま)にへいろつばあ【以上六文字を四角で囲む】といふけものありかたち 圖(ず)の 如(ごと)しよく 言語又人(ものいふまたひと)を見てわらふあへて 害(がい)をせず 【図題】 琉球国三十六嶋圖(りうきうこくさんじうろくたうのづ) 南(ミなミ)の方に 七箇(なゝつ)の 島(しま)あり【以上十文字を四角で囲う】△ 大平山(たいへいざん)《割書:又 迷古(めこ)ともいふ今ハ|訛(よこなま)りてまこ山といふ》〇中山の 南二百里にあり《割書:六十丁|一里也》此方の 道法(ミちのり)《割書:三十六|丁一里》にして三百里なり 〇 産物(さんぶつ)草(たゝミ)薦(おもて)《割書:りうきう|おもて也》〇 筑山(ちくざん)といふ大山あり△ 伊竒麻(いけま)《割書:太平|山の》 《割書:南に|あり》△ 伊良保(いらぶ)《割書:大平山の|坤にあり》△ 達喇麻(とらま)《割書:大平山の 正西(まにし)にありあやしきけ|もの多し犬のかたちにて 人靣(にんめん)なる》 《割書:もの|あり》△ 靣那(ミつな)《割書:大平山の坤にあり大蛇(たいじや)|ありて 常(つね)に人の家にあそぶ》△ 烏噶弥(うかみ)《割書:大平山の乾にあり|おおきなるへび多し常に》 《割書:人の家に|あそぶ》△ 姑李麻(くれま)《割書:大平山の|西にあり》〇右の七 島(しま)を 土人(くにびと)ハなべて大平山と 称(とな)ふ 西南(ひつじさる)に九箇(こゝのつ)の島(しま)あり【以上九文字を四角で囲う】△ 八重山(やえやま)《割書:一名 北木山(いしかきやま)太平山の|未申の方四里にあり》〇中 山を去る 㕝(こと)琉球(りうきう)道(ミち)二百四十里《割書:六十丁|一里也》此方の 道法(ミちのり)《割書:三十六|丁一里》四百 里なり〇 産物(さんぶつ)。 海芝(かいし)。 瑇琩(たいまい)。 海参(なまこ)。螺石(といし)。草(たゝミ)薦(おもて)なほ多し 【左頁「へいろつばあ」の説明】 へいろつ ばあ【以上七文字を四角で囲う】 頭(かしら)人(ひと)の 如(こと)く  體(かたち)ハ 虎(とら)の   ごとし 水上(ミづのうへ)を  走(はし)る事  はやし つねに虵魚をとりて食ふ  人を見て大いに笑ふ更に害をせず 【図の鬼界左の注記】 此けもの きかいが しまの うミに おほし とぞ △ 烏巴麻(うはま)《割書:八重山の|未申に有》△ 波渡間(はどま)《割書:うはまに|ならぶ》△ 由那姑呢(よなくに)《割書:はどまに||ならぶ》 △ 姑弥(くミ)《割書:やえ山の|西に有》△ 夛計富(たけとミ)《割書:くミの東にならべり此しまにびたん|といふ魚ありかたち圖のごとし》 土人傳(どぢんつた)へいふ。天孫氏の仕女。 びんたらといふもの。海に入て 魚となる。これなりと。又いふ 頭痛(づつう)をわづらふもの。此 魚のかたちをゑがき。家の うちにはりけりおけば。忽ちにいえて 後うれひなしとぞ。およそ此島にすむ人。 頭痛(づつう) やまひといふことなし  〇 山海經(せんがいきやう)《割書:巻の一》 曰(いはく)。 柢山(ていざんに) 有_レ魚(うをあり) 其状(そのかたち)如(うしの)_レ牛(ごとし)又(また)有(つばさ)_レ翼(あり)。 其名(そのなを)曰鯥(りくといふ)冬(ふゆに)死而(しして)夏生(なつうまる)食之(これをくへハ)無(しや)_二腫疾(しつなし)_一。とあるものと 似(に) たれども。 是(これ)ハ 冬(ふゆ)も 死(し)するものにあらず。 △ 久里嶋(くろしま)《割書:八重山の|いぬいに在り》△ 波照間(はてるま)《割書:たけとミに|ならべり》△ 新城(あらくすく)《割書:ゆなくにと|くミの間に》 ありて二島也〇 以上(いぜう)八箇(やつ)の 島(しま)を 土人(くにびと)ハなべて 八重山(やえやま)といふ △ 姑巴汛麻(こはじま)《割書:是ハ前の三十六嶋の外|なり中山の正西にあたる》〇 高山夛(かうざんおほ)し。名産數品(めいさんすひん) あり。   本朝第一(ほんてうだいいち)の 現留石(げんりうせき)と いふ 硯石(すゞりいし)ハ 此島(このしま)にありとぞ。  〇 右琉球国属島(ミぎりうきうこくえだじま)を 加(くは)へて。およそ 高(たか)十二万七千石 餘ありと云。 【四角囲いの文字は[ ]で示すこととする】    〇琉球国王代畧譜(りうきうこくわうだいりやくふ) 天地開闢(てんちかいびやく)のとき 一男一女(いちなんいちによ)化生(けせう)す。《割書:化生とハ父母|なく生るゝ也》その 陽神(をとこ) 姓(せい) ハ[はあんそう]《割書:歓斯|氏》 名(な)ハ[かうらとつ]《割書:渇刺|兠》 土人(くにうど) 可老年君(からうねんくん)と 称(せう)ず。その 陰神(をんな)を[とばと]《割書:多拔|㭟》といふ。 《割書:又一書にその夫を[しねりきゆ]といひ|その婦を[あまミきゆ]といふ》その 渇刺兠(かうらとつ)。と 多拔(とば) 㭟(と)と 夫婦(ふうふ)となる。然(しか)るに 其島(そのしま)さゝやかにして。 浪(なミ)に 漂(たゞよ)へり。よりて[たしか]といふ 木(き)の 生(お)ひ 出(いで)しを 植(う)えて やうやくに山の形とし。[しきゆ]といふ 草(くさ)をうえ。 また[あたん]といふ 樹(き)を 植(うえ)て国の 形(かた)ちとしたり こゝに 火(ひ)といふものなかりけれバ。海底(かいてい)なる 龍王(りうわう) の 火(ひ)を 乞(こ)ひ 得(え)て。 五行(ごぎやう)すでに 成就(ぜうじゆ)したり。 這(この) 陰陽神(ふたはしらのかみ)を 土人(くにびと)ハ 後(のち)に[あまみく]と 称(とな)ふ。 遂(つい)に 二神(ふたがミ)交合(まじはり)て。 三男二女(さんなんにじよ)を 生(う)めり。  第一男[天孫氏]《割書:てんそん|し》即ち 国王(こくわう)の 始なり   第二[うるかん]《割書:雲流|咸》男也〇 按司(あんず)の 始(はじめ)となる   第三[めるかん]《割書:靣流|咸》男也〇 庻民(しよミん)の 始(はじめ)となる     第四[くん〳〵]《割書:君君》女也〇 天津神(あまつかミ)となる     第五[しゆく〳〵]《割書:祝祝》女也〇 滄海神(わだつミのかミ)となる [舜天王]《割書:父ハ日本国鎮西八郎為朝也母ハ大里の按司の妹也|逆臣利勇を討て王位につく是迄二十五世天孫氏の》 《割書:時より神の代人の代を|合せて一万七千八百年余》[舜馬順煕王]《割書:在位|十一年》[義本王]《割書:在位|十一年》 〇以上三代七十三年 [英祖王]《割書:天孫氏の裔にして恵祖の嫡孫也始伊曽の按司たりしが|義本王の譲りを受て王位につく在位四十年》 [大成王]《割書:在位|九年》[英慈王]《割書:在位|五年》[玉城王]《割書:在位|廿三年》    〇 此時国(このときくに)大(おほい)に 乱(ミだ)れ[山南王]《割書:とよミ|くすく》[山北王]《割書:ハまきた|のくすく》 此両王(このふたり) おこりて 鼎足(ていそく)のあらそひと 成(な)る[西威王]《割書:玉城王の長子|在位十四年》 〇以上五代九十九年 [察度王]《割書:浦そひ間切 謝那村(ヤンナンムラ)の 奥間(オクマ)大親(オホオヤ)といふものゝ子にして|賢者なり世人しひて王位につかしむ在位四十六年》 [武寧王]《割書:在位|十年》察度王の子なり 〇以上二代五十六年 [思紹王]《割書:山南王の佐敷按司なたりしが子の尚巴志といふもの悪王を|討て位につかしむ在位十六年世大いにおさまる》 尚巴志王《割書:在位|十八年》[尚思達王]《割書:在位|五年》[尚金福王]《割書:在位|四年》 [尚泰久王]《割書:在位|七年》[尚徳王]《割書:在位|九年》〇 此時(このとき)王悪政(わうあくせい)苛㳒(かほふ)なる 故(ゆゑ)に 鬼界(きかい) 叛(そむ)きて軍おこる。 世子(せいし)幼少(いとけな)かりしを 国人(こくじん)弑(しい)して。 浦副(うらぞえ)の 間切(まぎり)のうち間里の主。 尚圓(せうえん)といふ人(もの)をあげて 王位(わうゐ)に つかしむ 〇以上七代六十四年 [尚圓王]《割書:字ハ思徳金伊平の人先祖ハ舜天王の孫義本王なりむかし|義本王位を英祖にゆつりて北山にかくれたるその後裔也》 《割書:父ハ尚稷といふ|在位七年》[尚宜威王]《割書:尚圓王の弟也世子いまた弱冠|なれバ佐をつく在位二年》[尚真王] 《割書:尚国王の子|在位五十年》[尚清王]《割書:在位|二十九年》[尚元王]《割書:在位|十七年》[尚永王]《割書:在位|十六年》 [尚寧王]尚《割書:真王の孫にて尚懿の子也|在位三十二年》 三司官(さんしくわん)耶那(やな)といふもの。 明朝(ミんてう)にこびて 日本(につほん)へ 貢(ミつぎ)せざるより。 薩州候(さつしうこう)誅伐(ちうばつ)を 乞(こ)ひ。 敉千(すせん)の 人馬(にんば)をむけられ。つひに 尚寧王(せうねいわう)を 虜(とりこ)にして 薩州(さつしう) につなぎ。 人 質(じち)とする事三年。 先非(あやまち)を 悔(く)ひて。 以来(いらい)永世(ゑいせい) 属民(ぞくみん)たらんことを 誓(ちか)ふ。 然(さ)るによりて 許(ゆる)し 帰(かへ)せり。 時(とき) に 後水尾院(ごミをのゐん)慶長(けいちやう)十七年。 大明(たいミん)の 万歴(ばんれき)四十年なり [尚豊王]《割書:在位|二十年》[尚賢王] 《割書:在位|七年》[尚質王] 《割書:在位|二十一年》[尚貞王] 《割書:在位|四十一年》 [尚益王] 《割書:在位|三年》[尚敬王] 《割書:在位|三十九年》[尚穆王] 【左頁上の注記】 大明万暦 三十七年 日本慶 長十四年     〇風俗 〇すべて 此国(このくに)は 夷狄(えびす)にて。 礼儀(れいぎ)も 道(ミち)も 調(とゝの)はざる国なりしが 二條院(にでうのいん)永満(えいまん)元年。 鎮西(ちんぜい)八郎源 為朝(ためとも)。 豆州(ずしう)の島に 流(なが)され。大島より琉球に渡り。 乱賊(らんぞく)を 討(うつ)て 民(たミ)を 安(やす)んじ。 五常(ごぜう)の 道(ミち)を 教(をし)ヘ。 文武(ぶんぶ)の 法(ほふ)を 喩(さと)せしより 日本(につほん)の 風俗(ふうぞく)と 成(な)る。 又(また)一時(いちじ)明朝(ミんてう)に 媚(こび)て。 冠裳(くわんせう)。 被服(ひふく)。 屋宅(をくたく)。 器物(きぶつ)。 悉(こと〴〵)く 中華(もろこし)の風俗をうつす。 元来(ぐわんらい)其国(そのくに) 遍小(へんせう)なれバ。 自立(じりつ)する事 能(あた)はず。 中国(もろこし)の 冊封(さくほう)を受(うけ)て。 また     日域(につほん)に 臣服(しんふく)す。 然(さ)れバ今ハ 夷風(いふう)を 変(へん) じて 両国(りやうこく)の《割書:日本|唐土》 風俗(ふうぞく)相半(あいなかバ)す。 故(ゆへ)に 物(もの)に 号(なづく)るにも 常(つね)の 言語(げんぎよ)にも 音(おん)と 訓(くん)と 混雑(こんざつ)し。 其中(そのうち)に 唐音(たういん)を        《割書:コエ  ヨミ》 用(もち)ゆるものあり。また 琉球(りうきう)古代(こだい)の 詞(ことば)あり。 然(さ)れ共 多(おほ)くハ。 衣冠(いくわん)は 清朝(もろこし)にならひ。 言語(げんぎよ)は 日本に 真似(まねぶ)としるべし。〇 女人(をんな)ハ 墨(すミ)をもて。 首(くび)に 竜蛇(りうじや)の 形(かた)ちを 刺點(いれずミ)せしが。今ハ 形(かた)ばかり 僅(わつか)に 遺(のこ)りて。 筋(すぢ)一つを 彫入(ほりいれ)るとぞ○生平(つね)に国王(こくわう)より庻人(くにたミ) に至るまで。君万(きんまん)物等(もんとう)の 鬼神(かミ)を 信(しん)ずるゆゑに。 無病(むびやう)にして 且(かつ)長寿(いのちなが)しとぞ。〇すべて 風俗等(ふうぞくとう)の 事(こと)ハ。 琉球傳(りうきうでん)。 琉球事畧(りうきうじりやく)。 中山傳信録(ちうざんでんしんろく)。などに 悉(くは)しくせり。 〇 寺院(てら)ハ 臨済(りんざい)。 真言(しんごん)《割書:古|儀》の二 宗(しう)のミして。 都計(すべて) 三十七ケ寺なりしが。 久米(くめ)の 普門寺(ふもんじ)。 西福寺(さいふくじ)。 廃(はい)して 今ハ三十五ケ寺となる〇 首里(しり)の三大寺といへるハ。 天王寺。天界寺。圓覚寺をいふ。 王廟(わうびやう)ハ真咊志(まわし) 安里村(あんざとむら)にあり。今ハ 新(あらた)に 堂社(だうしや)を 建(たつ)るを 禁(きん)ず。 〇 国中(くにちう)たはれたる風俗にて。 女人(をんな)の 嫁(か)せざる 前(まへ)ハ 生平(つね)に 男子(をとこ)と 交(まじハ)り 遊(あそ)び。 市町(いちまち)など手をとりて 遊行(たはれある)く。 更(さら)にこれを 耻(はづか)しとせず。 両親(ふたおや)もまた 咎(とが)めず。 これ 一竒(ひとつ)の 国俗(ならハし)也。 然(さ)れども 嫁(よめ)りて 後(のち)ハ 節(せつ)を 守(まも) りて。 他(た)の 男(をとこ)と 同座(どうざ)だにせず。 其禁(そのいまし)めもその 貞(てい)も。 あだし 国(くに)の 及(およ)ぶべきならず。《割書:もし国法を犯すものハきんまん|もんのたゝりにてたちまちに》 《割書:神ばつをうくるはやくさんげ|してつミを訴へ出れバたゝりを消るとぞ》〇 国中(くにちう)に娼妓(あそびめ)はなはだ おほし。 歌女(うたひめ)もあり《割書:此方にいふ|けいしやん》 蛇皮線(じやびせん)をひきて 国(くに)の 歌(うた) を 唄(うた)ふ。 格子(こうし)はなはだ 面白(おもしろ)しとぞ。    〇 娼家(しようか)の 流行(はやり)うた 〽ちごのもんにたつたれバ。ばびうのやうなつの 虫(むし)が。  どたまのぢよけんをちよいとはねて。《割書:ホンダエ〳〵》   〇ばびうハ 牛(ウシ)の 子(コ)也〇つのむしハ 蜂(ハチ)也〇どたまハあたま也   〇ぢよけんハまげゆひ也〇ちどのもんハわが思ふ男の門をいふ  〽ふづくのべくにものとへバ。びうがのそとにふん   でんた。さりもよいぎやァめつたにおさおさごまく    〇ふづくのべくとハ神のやしろのあたり也〇びうがのそととハ     人にしのんでといふ也〇ふんでんたとハしのびあふこと    〇おさごハ前米にて神前に米をまく也  〽しろばりがさりぐのに。あかきんぼうにへろ   まつた。ういがねばこでひろまれや《割書:ホンダエ〳〵》    〇しろばりハ 雪(ユキ)の事〇さわぐハふる也〇あかきんぼうハ紅酒にて     あかき酒の事大平山にてつくるさけ也〇へろまるハゑふたといふこと    〇ういがねばことハわしがねどころといふこと也とぞ 右(ミぎ)ハいづれも彼国(かのくに)の 俗語(ぞくご)にて。 正(たゞ)しき 詞(ことば)にハあらざる也 又(また)流行唄(はやりうた)の 文句(もんく)ハたび〳〵かはれども 節(ふし)ハおほくハ 似(に)よりたるもの也。しかれどもその 土地(とち)によりてかはる こと《割書:すこしつゝの合の手|又ハひやうしのちがふ也》ありといふ。いづれもほんだへ〳〵と はやすこと也〇 又(また)此方の謡曲(うたひ)のやうなるものあり これはなほさら節のもやうもかはりたるもの也。 〇 女郎(うかれめ)の 上品(じやうひん)なるを[うにらん]といふ《割書:此方のおいらんと|いふハやすこと是によるか》 女の風俗ハひろき袖にてすそながくおびといふものなし こはぜにてあちこちとめたるもの也もやうハ うつくしきそめ色あり又うすものに 五しきのいときんじなどにて さま〴〵のくさばななどぬひたるも あり女はこしへたまのかぎりを ながくさげること有又冬といへども 此方のなつのごとくさむさをしらぬ くにゆゑきぬにわたを入れると いふことなし男の いふくハおほよそ もろこしにひとし こゝにかけるハあんず などいふくらゐの人也れいき たゞしきくにぶりにして うかれめになじミてあそびに ゆくにもくわんをたゞして おもむくこと也あげやをバ ふるべやといふ也 おどりすることをバ めんことぐりといふ   〽糸柳こゝろ    くにあら     しやばのよて    はろものしるかんな     風にてりよか   〇此うたハむかしよりうたふところ    柳風の曲といふとぞ      徂来翁が聘使記にも載たり その 次(つぎ)を[びくらばう]その次(つぎ)を[ばるさめ] 又(また)下品(げひん)なる ものを[ぶくべる]といふ《割書:此方によたか|などいふもの也》 〇 酒(さけ)ハ[きんぼ] 《割書:俗語|なり》といふ。 琉球国(りうきうこく)の 属嶋(えだじま)大平山(だひんざん)より 出(いづ)るを[だひんしう] 《割書:太平|酒》といふ。 紅酒(こうしゆ)あり。《割書:いろ朱のごとくあか|くして清し神に》 《割書:たてまつる|に用也》 八重山(やえやま)より 出(いづ)るものを[ミりんしう] 《割書:密林|酒》といふ。 上噶刺(かんむら)より 出(いづ)るを[あわきぼ] 《割書:粟|酒》といふ。 薩州(さつしう)にて 砂糖(さとう)あわもりといふもの 是(これ)なり。 右(ミぎ)いつれも 焼酎(せうちう) にして。此方のごとき酒ハかつてなし。 〇 金銀(きん〴〵)のたぐひ 少(すくな)し。 通用(つうよう)ハ此方より 渡(わた)る 豆銀(まめぎん) を 専(もは)ら用ゆ。 銭(ぜに)ハ 寛永通宝(くわんえいつうはう)なり。 豆銭(まめぜに)といふ ものハ。 彼国(かのくに)にて 鋳(ゐ)るところにて。 文字(もじ)も 模様(もやう)も なし。 輪(わ)もなし。 又花(またはな)の 形(かた)ある 物(もの)も 有(あり)。 〇 彼国(かのくに)の[ぎんとくり]といふ 器(うつわ)あり。 銭(ぜに)を 入(い)るゝ 物(もの) なり 形(かた)ち 圖(づ)のごとし 【図の説明】 予が友 壷輪樓高木所蔵   長一尺五寸 かわにて作りたるもの也 もやうハ上のハきん万もん也 中のハもちのそなへ也 下のハ浪のかたち也とぞ 金色にてうつくしし 【図題】 琉球國全圖【横書き】 【右上説明】 〇西南福建泉州  梅花所により舩路順風  七日にして至 【右中説明】 首里より三マミの はて迠五里 【左上説明】 〇西北薩州より  舩路百四十里   但三十六丁    為一里 【左中説明】 首里より北のはて まで三十八里 【左下説明】 〇此他四方  三十六の  属島  あり    〇琉球国語(りうきうのことば) およそハ此方の詞にかはる事なし。又ものによりて 琉球のことばかはりたる物あれども。てにをはハ すべて此地のごとし。 〇日を [おでこ]  〇月を [おつきかなし]  〇水を [へい] 〇木を [しぶり]  〇土を [なぐり]     〇人を [ふばるん] 〇火を [おまつ]  〇神を [かめかなし]   〇佛を [ほつとかなし] 〇男を [おけが]  〇女を [おいなご]    〇親を [おいやも] 〇父を [せうまい] 〇母を [あんまあ]    〇兄を[すいぎ] 〇弟を [おんとう] 〇伯父を[てんちい]    〇伯母を[てんまあ] 〇叔父を [おぢい] 〇叔母を[おばあ]     〇姪を[ミい] 〇甥を [ういちい] 〇夫を [こんとう]    〇妻を[はんべち] 〇男の子 [べいず] 〇女の子 [べする]    〇人といふを[びん] 〇衣を [いぶく]  〇刀剱(たちつるぎ)を [ほうてう]  〇帯を[うびい]  〇宝を [とうがら] 〇字(もじ)を [おじり]    〇琴を[こんぐ] 〇天を  [うてい]   〇地を [つんぢ]  〇雨を[をミ] 〇雷を  [おどる]   〇風を [ふきご]  〇吹(ふ)くを[はる] 〇僧を  [まるどたま] 〇美女を [とろこぼう] 〇美男を [とろこせい] 〇手紙を [つんミり] 〇重宝を [うびなや]  〇 雷盆(スリバチ)を [づるばん] 〇 雷木(スリコギ)を [ずりんぎ] 〇 巫女(ミこ)を [たへぢよ] 〇 祈(いの)るといふを [きめてすり] 〇 頼(たの)むを [どんだく] 〇よいことを [うい]  〇 悪(あし)き事を [ごぶり] 〇大を[でい] 〇小を  [ちんつ]    〇 嬉(うれ)しきを [うい〳〵]  〇なほ多く。琉球にて[ほつとろちい]といふ   俗語あり。此方にて 恐(おそろ)しいといふやうに 聞(きこ)ゆ   るゆゑ 然(さ)る 事(こと)と思ひたるに。 甚(はなはだ)よろこぶ   事なりとぞ。かくの如くの 違(たが)ひ 多(おほ)かるべし   こゝに 載(のす)るものハ。 聞(きゝ)たるまゝにかいつけて   好事(こうず)の 覧(らん)に 備(そな)ふるのミ。 〇 彼国人(かのくにうど)酒宴(さかもり)の 席(せき)などにて。 拳(けん)をうつ  といふ事あり。手を出すさまハ此方の風に  おなしけれども詞はいたく 違(たが)へり  一うんぺい 二すんぺい 三しんこ 四よろう 五うんこ  六りんこ  七しんべい 八だんき 九きんこ 十とうらい   〇 琉球国(りうきうこく)に 祭(まつ)るところの 神(かミ) [おうちきう]水伯《割書:ふうなきうともいふ|水の神なり》  其神形(そのかたち)身長(ミのたけ)一丈ばかり 白髪(はくはつ)にして 毛(け)をミだせり 眼(め)  大きく光り 電光(いなづま)のごとし身に 黄色(きいろ)なる 衣(きぬ)を 着(き)  足(あし)に 沓(くつ)を 穿(うが)つ 睾丸(きんたま)至つて大きやう也 犢鼻褌(ふんどし)  をもてつゝみ 結(むす)びて 首(くび)にかくる 常(つね)に 水面(すいめん)に出  あそぶ 見(ミ)る 人幸福(ものさいはひ)を 得(う)るとぞ 神影(しんゑい)ハ 国中(こくちう)の  寺院(てら)などに 或(あるひ)ハ 刻(きざ)ミあるひハ 画像(ゑがき)て 尊敬(そんけう)せり   〇 水難(すいなん)をまぬかるゝの 秘符(ひふう)あり                是ハふうなきうの 説(と)きおしゆる                ところなりとぞとよくすくの                万明法師夢想にして授也                霊驗いちじるし則ち神影也と [やんがミこ]山鬼《割書:山の神也二童子を使う|二郞子五郎子といふ》 [きんまんもん]君万物 《割書:開闢以来(かいひやくいらい)国の 守護神(しゆごじん)也》  〇 君万物(キンマンモン)に 陰陽(インヤウ)あり 天(テン)より 降(クダ)れるを  [きらいかないのきんまんもん]といひまた  海(ウミ)より 上(アガ)れるを  [おほつうけらくのきんまんもん]といふ也  〇 此神(コノカミ)に 仕(ツカ)ふる 巫女(フジヨ)三十三人ありいづれも王の家すぢ也   中婦君(キサキ)も又その一人なり此方にても内親王を 斎宮(イツキ)   に奉らしたまふと 同(ヲナ)じ。 [舜天太神宮] 首里(シユリ)にあり鎮西八郎 為朝(タメトモ)をまつる  〇 此他(コノホカ)玉城(タマクスク)の拝林(オガミハヤシ)。 豊見城(トヨミクスク)の 拝林(オカミハヤシ)〇 北谷(キタダニ)の拝林   高峯(タカミネ)の拝林あり。をがミばやしといふハ神の 森(モリ)   の事にて村々にある鎮守も同しく呼ぶ。又天満宮   の 社(ヤシロ)おほし。 天神(テンジン)といふゆゑに。多くハ孫天氏と   おもひたがへて。 菅神(カンジン)なるよしを弁へぬ人おほし。   是ハ為朝ならびに舜天王の信じたる故に社多き   なりとぞ 〇 君万物(キンマンモン)もし 怒(イカ)ることあるときハ。 国人精進(クニタミセウジン)して。うでをり。  つまおり。といふ事をして 拝(ヲガ)ミなぐさむる也。  [きミてすり]七年に一回出現の神也  [よみかめり]十二年に一回出現の神也 此二神出現のときハ諸人おそれうやまひ家々にまつり又 玉城より五色の傘(カサ)を持たる官人百人ばかり出て神を 城内にむかひ入れ種々の美酒珎菓をそなへ立花燈明 をさゝげて国王ミづからまつり民の安おんをいのる七日の 間傘をさしかけおくそのかささま〴〵に色どりうつく しくかざりたるにて長さ四五丈凡【丸?】二十ひろにもあまりぬ べしミじかき物にても二丈ぐらゐ敉百本ばかりおの〳〵 ひろにわに立おく諸人門前まで行遥拝す      〇 位階(ゐかい)の 次第(しだい) [ 中山王(ちうさんわう)]国王をいふ  [ 中城(なかくすく)] 春宮(とうぐう)をいふ《割書:なかくすくハ 城(しろ)の名也|世子殿といふありて》 《割書:王子即位のとき|大礼あり》 [ 中婦(ちうふ)] 王后(きさき)をいふ《割書:君万物に仕ふ。中婦君の名ハ|神に仕ふる巫女三十三人ある其》 《割書:中に居ると|いふ義也》 [ 王子(わんず)] 王子(わうじ)也 [ 王女(わんによ)]王の 女(ヒメ)也  △ 官位(くわんゐ)の 品級(しな)ハ 正従(セウシユウ)すべて 九等(クトウ)あり [ 国相(こくさう)]〇 親方(おやかた)《割書:国の大臣也すべて|政事をつかさどる》[ 元候(げんこう)ハ 正一品(セウイチヰ)][ 㳒司(ほふず)ハ正二品][ 紫巾官(しきんくわん)ハ従二位] 《割書:是(コレ)を 三司官(サンシクハン)と 称(セウ)じ|また 何々(ソレ〳〵)の地の 親方(オヤカタ)》      《割書:とよびものハ即ち|この 重官(ちようくわん)なり》 [ 耳目令(ぢもくれい)]《割書:又 御鎖側(ギヨサソク)と|いふ正三品也》[ 褐者(ゑつしや)]《割書:又 申口者(まうしつぎ)|従三品也》[ 賛議官(さんぎくわん)]《割書:正四品也》 [ 那覇官(なばくわん)]《割書:なばハ地名也|従四位なり》 [ 察侍記官(さじきくわん)]《割書:さじきハ地名|従四位也》 [ 當㘴官(あたりくわん)]《割書:正五位》 [ 勢頭官(せかミくわん)]《割書:正六品》[ 親雲上(はいきん)]《割書:正七位》[ 掟牌金(ていはいきん)]《割書:従七位》 [ 里之子(さとのし)]《割書:正八品》 [ 里之子佐(さとのしのすけ)]《割書:従八位》 [ 筑登之(ちくとうし)]《割書:正九品》 [ 筑登之佐(ちくとうしのすけ)]《割書:従九品》[ 輪九之(りんくし)] [万平之(まんへいし)][ 仁屋(にや)] [ 紫金大夫(しきんたいふ)] [ 正議大夫(せいきたいふ)][ 長吏(ちやうり)][ 都通㕝(とつうじ)][ 度支官(としより)] [ 王㳒宮(わうほふきう)][ 九引官(きういんくわん)] [ 内宮(だいくう)][ 近習(きんじう)][内㕑(ぜんぶ)] [ 国書院(こくしよいん)] [ 良醫寮(くすしどころ)][ 茶道(さどう)][ 祝長(はふり)][ 魚瀬人(むせし)][ 武卒(ふんぞう)] 〇 里(さと)の 子(し)ハ此方にいふ 小姓(こせう)也 美少年(びせうねん)をゑらぶ 事(こと)也。 年(とし)  をとりて 髭(ひげ)生(お)ふれバ 親雲上(はいきん)と 成(な)る。 国風(こくふう)にて 刺刀(かミそり)  を 用(もち)ひずひげハ 生(お)ふるまゝにのばし 置(お)く也。又いつたい  色黒(いろくろ)けれバ 年方(とし)よりハ 古氣(ふけ)て 見(ミ)ゆる也。 親雲上(はいきん)ハ  官名(くわんめひ)なれども 彼国(かしこ)の 俗風(ならハし)にて。 武士(ぶし)をバすべて  [おはいきん]などいふ也   〇来聘年曆 應永十未年   寶徳三未年   天正十一未年 同十八寅年   慶長十五戌年  寛永十一戌年 正保元申年   同二酉年    慶安二丑年 同三寅年    𣴎応元辰年   同二巳年 同三午年    寛文十戌年   同十二子年 天和元酉年   同二戌年    宝永七寅年 正徳四午年   享保三戌年   寛延元辰年 宝暦二申年   明和元申年   寛政二戌年 同八辰年    文化三寅年   天保三辰年 琉球傳眞記 尾 文字無し 【整理番号ー横書き四段】 Ryu 090 Bei c.2