《割書:見たき|もの》化物楽屋異牒 山東鶏告 【ばけものがくやいてう、ばけものがくやいちょう】 【さんとうけいこう】 《題:《割書:新|版》《割書:見|た|き|も|の》化物楽屋異牒(ばけものがくやいてう)《割書:上》《割書:西|【屋号紋㊉】|宮》》 【枠内】⛩【鳥居のマーク】小便無用    叙         京伝誌 見たきものと題(だい)せるは清女(せいしよ)のことの 葉にもあらずはた日奇(ひよせ)【日寄?】の題にもあらず 唯(たゞ)怪物(はけもの)の楽屋(がくや)をのそきてこわき物 程(ほど) 見たきは【目てたきは?】あらじと見るにや予それがさうしを 校合(きやうこう)せしにちふみこらのひやうしに かいつくる事左のごとし          此ぬし            にしの宮 此本何方へまいり候とも 御覧の上早々御求可被下候 むかし〳〵とは まん八【?】きよねん しのたぞめの 大たてもの くすのはが 弟きつね こんくはいと いふものあり もゝくり三 ねんかき八 ねんして いきとし いける もの いつれか くがい【苦界】なら ざるはなし きつねもち とせやこん〳〵 といふて□【七?】【千では?】 年を□ち□【まちて】 【左ページへ】 大つう人となる それ大つうは きつねとかはり きつねはたい つうとかはる りくつなり こんくはいもねん あけかまちとふ しくねんかあ いてのたのしみ はやかて ひやつこのなを ついてはかす【化かす】をつね の此まゆけ【眉毛】いとより ほそく ソレよしか あり かてへの【よしかありかっての】 もの いゝならい【物言い、習い】 きものも とふさん【唐桟、縞の種類】が よかろふか くろ はち【黒八、黒八丈のこと】 かよかろふ かとふ かこふかき ちかいのやう になつて   いる 【狐の名前は「こんくハい」とも「こんくワい」とも読め、どちらにするか悩んだのですがここでは「こんくはい」で統一しました。どちらの場合でも発音は「こんかい」です。漢字で「吼噦」と書いて狐の鳴き声を意味するそうです。ここではコン吉とかコン太郎くらいの意味だと思われます。】 こんくはいしきりに大つうに なりたくなり千手【千住】とは ちとうつゆへ【くさくさするので】とふ り 丁【通町、目抜き通り】の京伝か出みせて 大つうを一ふくろ かつてかへりしみの わかなすきいも うりおやちか またとなりへ あんしつ【庵室】を たてけんくはん【玄関】には はま丁りうにて くろとろに する けふし【?】こんくはいとみせ つけ鳥なきさ との つうかうしやく【通講釈】をはじめ けるにきんねん はは けもの もつうになり たかるべく もつてゆき たれば大き にをちがき てあふらあけ【油揚】や あつきめし【小豆飯】のあ けてあるもん せんいちを なしける【門前市をなしける】 【入り口の貼り紙】 するけふし【?】 こんくるい 【イノシシらしき人の台詞】 これか こんくはいとやら かうちたそう たふつさうな いへたさとう かね【座頭金】てもかり ていると みへる 【左ページ上の台詞】 ちつと□□□ ござらぬこの くらいのとこ ろはおちやのこさ 【本文】 こんくはいは ちよ〳〵ら をもつて かけのめし やぼなは けものとも にありがた がらせけれ ばそののちや ること■ ちなし さんのうら かた【占形?】のごとく 大しさん【王子さん】の おみくじの ごとし日にはいゝ たりといふかづも しらずそのひやう ばんゆやの二かいかみ ゆいとこはいうも さらなり 【三つ目の化物の右、台詞】 なるほどおもし ろいことさ まなんでよる〳〵 つうけんこう しやくをま けだ 【天狗の下、台詞】 さよふさへんせ さわやかにかう ちうすゝしく どふかこれでは はみかきの のうがきの よふだ たぬきどのは まだきやせぬ      ね 大かたはらつゞみでもうつていやろう 大よせ小よせ のばけもの なかまはこんくは いかかうしやく にて大 つうになり 人をおと かすのば かすのといふ やうな やぼせかいはなし たぬき なんともはらつゞみをうつてまでは ゑど ぶしでもうなりめりやすでもけい こするといふくらいのことなれは ばけものゝかくや【楽屋】もそろ〳〵す いびしてゆうれいののつてでる どうぐやうすどろのたい こゆき女か ふらす三角 のゆきねこ またのあか まへたれも 太夫ではないか くものすだらけ       なり ねこ又と ゆき女は女げいしやに なり いつれ名所はかうかわる川〳〵おもしやぐらいは【???】 あじを  やりしかゝみならぬし のきの  よこくしについたほ上ヶ のひか【?】 もらいわたしやあとう さんを  きてみたいそしてね 【左ページへ】 し■ちや とんのおひが ほしいあ したはたれ さんとまつ さきへゆく【明日は誰さんとまつさきへ行く】 はつさあ【はづさ、あ】 さつては【さっては】 まつち【待乳】 山のふさ じきへ【?】 ゆくやく そくをし やしたお めへもゑゝ【?】 ひなはん【?】 ねへ【?】かとひと りならす ふたりまで おちやつひいや【おちゃっぴい、売れ残りの遊女】 ちんころ【狆ころ、小型犬】ころ ばぬよふじん しなさへ ばけものゝかく やはつにあらは すとふりやつはり 三かいのよくにてしよ じしば いのとふりなりたぬきかいる ほうをはやし丁といゝきつねの いるほうをいなり丁という 【左ページ下段】 おめへのいしやう づけは伝 さんのは らといふ ところだ    よ ねこまた ほうが みゝを ばんに もちい ■も いゝ   〳〵   つうになるやいなや またさむいしふん むかふしまへやねふで でかけるばけものゝ事 ゆへうしみつごろより でかけしゆへふなやと てはきもをつふし とふもよるよなか いくらでもふねはた されませぬといふゆへ よふ〳〵てのこつほう【手の甲っぽう】 すつて金十両にて やねふねをうかぶる〳〵 ふるへなからこのくさめの でるところがいのち だとうれしがる それから中田やで おころうといふとこ なれどせけんはよな か【夜中】しらかはよふね【白川夜船】 あらいごいはさでをき 【左ページへ】 くさつたさかも       なし  こふみわたし  たところは  まつくらてな  にもみへねへ  とこがめう【妙】  にいゝね 【下段】 みとせな じみしね このつまは さしだな くさも木も ねるにばけ ものほとゝ きすも いゝ〳〵 【このコマは、前コマと次コマの裏側です】 むかふじまからぐつと ながしのほりへつけ させまつばやの そふじまいといふ ばなれと竹丁 の九つはよしはらの 七つおやしきの かへるしぶん どこても一けん もないもことはり五丁中をぶらつ■し ているうちこいとりがはいるじぶんに なればなむさんぼうといへどにんげん ならかへるところなれどそこらはばけ ものだけ ひるはひまな みのうへなればひるあそび といふところなれどもあん まりはやすきる ゆへ半日ほどを ひどいくめんでくらし ひるみせまへから しかけしやねはもの かはつらいはくれ六 つのかねよ のふとさわぎ けりかつは しんをかいねたがるものを むりむたいにくすぐりお こしていやがられる 【下段、男の台詞】 よくね たがる あしかの よふだ 【中段、女郎の台詞】 あしかとはほう そうのよふな もんのにて    おすか 【あしか、海の哺乳類のアシカ。良く寝る生き物としてしられていた。女郎はアシカを麻疹(はしか)をかけて、疱瘡のようなものかと聞いている。】 みこし にうだうは くびのかくし よふにこまり しがぐつと あんじをつけ せむしだい じんにこじ つけ奉る 御ほうぜん と しや れておゝ つよに おいらん をあ げ その うへいけどしつかに つつ てやきもちぶかくお いらん がいろおとこのところへ ゆくを りんきずくめのねや のと からくびばかりそつと つけて ゆく此よふなときや けし のすけを かはか す■【に?】はり かたが よいといふこと           なり かぶろはたば このひを い【つ?】けにきかゝりおやぬしおくびがあらつしやらねへよと 大さわぎにさわきだしける すゝはきに てんす【?】とつてうつ ちやつてをくとまた おいらんにしから れすよ 【右下隅】 くびをながく してまつ とは此とき よりはじ         まりける かつはが【河童?】 あいかたは あんまり こそぐ【こそぐる=くすぐる】 られせ つながつ てらうかへ【切ながって廊下へ】 にげだ しみこし【逃げ出し見越し】 入道 のくび をみて どふしいしよう【どうしましょう】かたばみ がでん してをつす【出んしておっす、出ました】とふれまは しけれ ばてんびんぼうやら六尺 ぼう やらてうねいに【?】人はねいか【り?】みづよ〳〵と さわき しはき ついまちがいなり 【下段、台詞】 ヲヽこわくもなんともおつせん ばからしいぞよへ やれたすけ ぶね〳〵 【左ページ】 てんぐは大もて にもてしほ やになり【塩屋になり=自惚れて】つうに なるやいなや かうほれら れてはすへ〴〵【末々=この先】どの よふな事 になるめへものでもねへこつちからみを ひくがいゝととんだりやうけんちがい からだん〴〵はながたかくなれは 女郎は大き にきもを つぶしわつちらが きやくじんはとびんと やらでおすからかえして おくんなんしといつて しりがわれる ぬしやあたしかうそておうす【ぬしやぁ確か嘘でおうす?】 ぬしのはなはたかふおすね わい〳〵てん わう様 のよふだ     ね 【わいわい天王様=牛頭天王の祭で「天王様は囃すがお好き、わいわい囃せ」といゝながら牛頭天王のお札を撒いて家々をまわり銭を乞う人がいたとか。】 【下段】 ソレ よしかの【良しかの=いいねえ】 ぐつとせう     ちさ【承知さ】 わしをふるよは【女に振られた夜は】 ひとしほながし ばければくびか なをながしみ こしにうどう はかげのあまり けいせいをつけ てこのあきわ やのびやうぶの そとからよその 恋よとうら山し【よその恋よと…は忠臣蔵の台詞】 くくびをみつ かつたもしらず       いる 【左ページ】  ふさ〳〵しい【大げさだ、ふてぶてしい】 ちくるいのうん たまごのふわ〳〵だ 【畜類の産んだ孫→たまごのふわふわ(江戸時代の人気料理)…と続ける洒落】 いろおとこだ らふ今じぶんに なつてくることはねへ よによろしいで けものはあしをあ らつてねるじぶんだ 【よろしいの反対で悪し(あし)、悪しに足をかけて、足を洗って寝る時分につなげる洒落】 ばからし いいゝおと こじやァ おつせん せむし でおら すはな たぬきはゑて かたのそらね いり【空寝入り、寝たふり】をして つらやまくらが ふたつあると 女郎がくるか と 〳〵かとおもつ ていたりしが よいからは八じやう【八畳=狸のきんたま】 をだしかけて いたりし□□ さけや□ たばこ のふきがらやら とんだなんじう ひどいくめんで こらへていたりける よふ〳〵女郎かき たりしゆへちつと いやみをしよふと おもふてまくらもとで 七だんめのふみより ながい参らせ候【合字】ではかどらず【忠臣蔵の台詞】 あげくのはていろ男がこぬとの かんしやくかんざしぬいてたゝみざんじれつ【斬じ→じれつてい】 ていぞよにたぬき大なんきおもはずしつ ほをだしける 【左ページ】 ばからしい此たゝみは いつそふく〳〵する【にくにくする?】 そしてけかはへ たそふだぶく〳〵ちや がまにけがはへたした【毛が生え出した】 【音の洒落なら31行目は「ふくふくする」でなければ33行目の「ぶくぶく茶釜」に繋がらないが、癇癪を起こして簪を畳みに刺したあとの台詞なので「にくにくする」かもしれない。にくにくと書いてもふくふくと書いても字形的には大差ないのでひょっとすると文字の形も洒落なのかも知れない】 かかるところへ九郎介いなりあらは れ給ひぜんざい〳〵これはこれしろ さけうりがまもりほぞん九郎 すけいなり大明神なりこん くはいがつうをまちかねてこのは つう一ふくろにて大つうをきは めしよりばけものども大まち かいになりたり今こそわがつう りきにて大つうの みちに引いるゝなり ナントあんまりむり じやああるめへ【無理じゃあるめぇ】おし あわるかあんめへ【?】と おもふと手ではな をちびとやられしは 今にはじめぬ大 つうのみなかみ       なり 【上へ】 これよりしてすぐ         に ばけもの共の せうばいを あておこなふべ しまづ第一ばんにこん くはいは玉やこん三郎とな のり女郎やを出すべし 三つ目入道と一つ目小ぞ うをもやいにして【結びつけて、セットにして】 四つめや入ぞうとあら ためこれも女郎 やとなるべしたぬきははらつゞみを うてば二てふつゞみをうつ てたいこもちと なりとせいとすべし【渡世とすべし】てんぐもかう まん【高慢】を長くはなるゝと いふ心をもちて長 く万里といふたい こもちになりみこし 入道をしやれて みこくとよぶから しやみこりば【63行目の三味子踊りとの関連】ととなのる べしかつは【河童】は内 川や太郎介と でもつけてやろうから【膝の下へ続く】女郎やをしたが ヱヽねこまたはこま【膝の下へ続く】〳〵とよはれる ものだからこまた のこのじを とつてこまじと【膝の下へ続く】いふ女げい 【左ページへ】 しやごいさぎは 京丁へ女郎やをだし さきや五介と名をかへ 雪女をかゝへゆふぢよにして ゆきますとでもつけたいが それではどふかまくらぞうしの かき入のよふだから 雪あしとでもつくが いゝとこみつ【こみづ、細かいこと】なとこ ろまでおせわあ りしはありかたき とも中〳〵なり よしわらいんこく なれはばけものゝ すむにはめう【妙】      なり みこしにう どうはも □へ【まへ?】にゑ ちごおと りが上 手ゆへざしきへ でもおり〳〵おどり ける今のしや味子おど 【文が続くはずだが、続きがみつからない。31行目と内容がかぶる。三味子踊りは天明期に流行ったものでシャム国の踊りが元とされている。】 【左ページ右下】 みな〳〵一ごんも       なし ばけもの共は みな〳〵よしはらの ものになりげい しやびろめつき だしもみこみ のふるまいをし むけんのかねの【無間の鐘の】 ちやばんをこじ つけみな〳〵 おつくるめて すへはん ぜうにさ かへける【末繁盛に栄へける】 ねこはめり やすを ひく 〽おもいには どふしたひやう りの  ひやう【どうした表裏の瓢箪=どういうはずみか】 たんか ねこの こねこの こねこのこ【子子の子子子の子子子の子】 いかにつと めじや ねつみじやとても 【下へ】 〽きつねは二かいより れいのこのはを ふらせる 〽かつははてうづ はちのやくをつと むる 〽はうら〳〵はおもて〳〵 おちばかなときて        ゐる ゆき女ははむらやにて【浜村屋=女形役者瀬川菊之丞のこと】 こじつける 山東けいこう作回【図?】