《割書:北陸三県|大つなみ》ホーカイぶし  明治廿九年七月三十日印刷             同 年 八月三日発行            画工印刷兼発行者             日本橋区新葭丁二番地                   楠山橘次郎 【上段】 〽北陸(ほくりく)の。大(おほ)つなみ水害(すいがい)さはぎの有(あり)さまは    眼(め)もあてられぬ憐(あは)れさよ ホーカイ 〽怖(おそ)ろしき。いきほひ激(はげ)しき大(おほ)つなみ    のがれるひまも五分間(ごふんかん) ホーカイ 〽あわれさの。限(かぎ)りは今度(こんど)の大(おほ)つなみ     末代(まつだい)までもはなしだね ホーカイ 〽見(み)るうちに。家(いへ)は崩(くづ)れて流(なが)れゆく     箸(はし)も持(もた)ない立(たち)のまゝ ホーカイ 〽おどろきし。万代未聞(ばんだいみもん)の水害(すいがい)は    青森(あおもり)岩手(いわて)に宮城県(みやぎけん) ホーカイ 〽船(ふね)に居(ゐ)て。助(たす)かる漁夫(りやうし)のうん強(つよ)く    さすかる誠(まこと)の天命(てんめい)か ホーカイ 〽時節(じせつ)とは。あきらめながらも遂(つい)愚痴(ぐち)を    こぼす凡夫(ぼんぶ)の浅(あさ)ましさ ホーカイ 〽地震(ぢしん)より。亦(また)もこはいは大(おほ)つなみ    のがれる道(みち)さへ水(みづ)の原(はら)ホーカイ 〽両親(ふたをや)に。離(はな)れて叫(さけ)ぶ子供(こども)あれば     妻(つま)や夫(をつと)とに生(いき)わかれ ホーカイ 【下段】 〽無惨(むざん)なれ。   六万 有余(ゆうよ)の    死傷(ししやう)しやに  のこる妻子(つまこ)は    憐(あわ)れなり        ホーカイ  〽お恵(めぐ)みは。政府(おかみ)の    慈悲(じひ)の救助(すくひ)に   万民(ばんみん)なみだを     ながす米        ホーカイ 〽四海(しかい)みな。兄弟(けいてい)       なりやこそ     捨(すて)てゝは       おかず   倶共(とも〳〵)暮集(ぼしう)の     義捐金(きえんきん)        ホーカイ