熊野本宮湯峰薬王山東光寺の
霊場(れいじやう)に扶桑(ひのした)第一の温泉(ゆ)あり薬師
如来の仏体ハ湯のはなにて自然と
出現なりいにしへハ御 胸(むね)の中より温泉(をんせん)
湧出(わきだ)しなり御 胸(むね)にその痕(あと)あり脇立
日光月光十二神将ハ弘法大師の御作
なり此温泉ハ往古(むかし)小栗判官といふ人
毒(どく)酒に傷(やぶ)られこの温泉に浴(いる)事一ト臘(まハり)にて
篤病(たいびやう)散癒(さつそくいゆ)病後ミづから力を試(ため)さんとて
玉のことき小石を以大石へ心安く圧(おし)入れぬ
それよりこの石を小栗のちから石と
称(いふ)又小栗温泉 浴(いる)の間 藁蘂(わらしべ)にて
髪(かミ)を束(ゆひ)其しべを棄(すて)てし所今に至る
まで毎年自然と稲(いね)を生す是を不播(まかず)
の稲(いね)と号(なづ)く湯のみミねより北の方三丁
ばかり道のほとりにありい今まかず
の稲とちから石を図(ず)して諸人に
示(しめ)すものなり

[上段絵の説明]
 右 まかすのいね   左 小栗ちから石

下段枠
 紀州熊野本宮
 湯峯温泉之図
 ●(赤)ハ湯
 ●(青)ハ水