新釈輿地図説 全楽堂校本 【付箋】 渡辺華山自筆 新釈輿地図説  第一篇総説 地志に三等あり其一を(ウィス・キユンヂヘ)《割書:星土学|家》地志と云 其二を(ナチュール・キユンヂヘ)《割書:元理|学家》地志と云其三を(スタ ート・キユンヂヘ)《割書:風土|学家》地志と云 ウィス・キユンヂヘ)地 志は渾球上に於て南北極赤道規を点画して度 分道里を分界し是を恒星に配合する也(ナチュールキュンヂヘ) 地志は坤身に係る所の気質の自然に就て其元理を説也 (スタート・キュンヂヘ)志地は国界広狭州郡教政 【上・朱書】 登按「ウイス」 ノ義「キユンチヘ」 学者学家ノ 謂也即分地配 天ノ学也唐山 ノ天宮災祥 一隅管見ノ 学ト異也「ナチュ ール」ハ天理自 然ノ義其自 然ト名ルノ意ハ 理気教中ノ元理 ニシテ万物皆 此渾化ヨリ出ル モノヲ指ス也天 地皆コレ有リ此 学ハ唯其地ニ 与フルモノヲ云唐 山未曽有ノ学 【下・朱書】 赤道 子午 ヲ規 ト名ケ 線ト名 ケ一定 ナラス 線ト云 規ト云 皆人 為ノ 球儀 ニ出 風土産物等ヲ詳ニするなり  第二(ウィス・キュンチヘ)地志 地球の形大約球円なれ共所に随て高低同からす其 周面皆人物居ル所トなす其吾と足底相対するの国人 是を(アンチポテン)《割書:羅甸|語》(テーゲンフーテル)《割書:和蘭|語》と名く 【朱書にて「〇此一〇不詳」】 地球の運転に道あり其第一道ハ一日二十四時《割書:本邦の|十二時》の間 自己の軸に従ひて旋転をなす是即昼夜なり第二道は 三百六十五日五時《割書:本邦の|二時半》四十八分《割書:一分は本邦の|百二十分時》四十五秒 《割書:一秒は一分時を|十ニするの一也》の間に大陽の周囲を運行す是一年なり 蓋其年圏【?】運行は大陰を誘ひて共に運行す第 一運動と第二運動と相協和する事(ターツトル 《割書:独楽|の類》其軸と其に旋りつゝ亦自己の運動あり軸の 周りを転回するに譬ふへし 地球大陽を去る事凡二億(ユーレン)《割書:「ユーレン」は里数ノ名|六天間にて一里十四分》 余 地球の日転をなす所【右横に朱書にて「纒ヲ受る所」】の軸は即中線なり是をなさしむとの地 軸と名く第二円PPの如し此軸の両端を南北 二極《割書:「アスヒユント」又|「ポーレン」》と次PerPのことし 地軸の長独逸国道法【独逸国道法に傍線を引き「誤」と朱書き】千七百十六里地厚独逸 国道法凡千七百二十二里是は地の中真を串き 【上・朱書】 也「スタード」ハ欧 法ノ義唐山 ニ所謂外記ノ学 也然レトモ其外ト 云モノハ我ヲ以テ 中トシテ彼ヲ以 外トスルヨリ起リ 井蛙ヲ見ニ出テ 通論ニアラス故 コノ名ヲ以テ釈シ カタシ然トモ其 実ハ風土欧教 ヲ然ルノ学所謂 地志ニ同シト 領地志ハ惣名 ニシテ唐山ノ教義 ト異ル所アリ 故ニコレヲ風土ノ 学ト釈ス古三 学ヲ次第スル 故ハ「ウイス」ハ天ニ 就テ配地スルノ 学「ナチュール」ハ 地ヲ主トシテ云ノ学 スタートハ人道 ヲ主トシテ云ノ学 ニシテ三才ヲ分 モノニ似此志 ハ即「スタート」ノ 学故ニ其惣 説ハ略ニシテ外 ニ学ノ如ク詳 説セサル也 【下・朱書】 中西 皆論 同ス □□□□ □□□ 迷シム ル似タ リ故 球儀ニ 就テ 赤道 子午 ヲ親 トシテ経 緯ヲ 線トナ ス其 実ハ 皆赤 道子 午ノ 仮設 スルモノ 也 横引スル所の一線すなはちabに図するものこれ也 地軸の両端北にあるを(ノールデル・アスピュント)又ノール ド・ポール)《割書:即北極直|下也》と名く地球の全面方積独逸 国道法九百二十九万二千百八十三里但独逸道法 方一里は六千四百四十八半「モルケン」《割書:「モルゲン」ハ六尺五寸|間にて千百三十坪也》 に当る 地球の全面を分つに規《割書:「シル|ケル」》を以てす其規の正中地 球の中央に亘るものは其長サ最大なり而 して地球の中央線を距るの遠きに随て其長 漸く減す諸規其長短に論なく総テ是を 三百六十に分つ是を「カラード」度と名く又「ガラード」 を分て六十となす是を「ミニュート」分と名く又 「ミニュート」を分て六十となす是を「セコンド」秒と名 く凡「ガラード」「ミニュート」「セゴン」其規の大小に随て 同しからす大規にあり一を「エーヘナール」《割書:赤道|規》と云 一を「ミッタフ・シルケルス」《割書:子午|規》と云是は州土の方位を 弁するに最要のものなり小規を「エヘンウェイデン」と 云 第一の大規「エーヘナール」又「エーヘンナクト・レイン」《割書:昼夜|平分》 《割書:の義|》は両極の中間東西に亘る線なり両極を 【下・朱書】 我□ □以 下□ □ 距る事各九十度AAのことし是地球を平分して 南北二部となす故に平分線《割書:「エーヘ|ナール」》の名あり平分 線を又三百六十度に分ち毎度各独逸道法 十五里即二十「ユール」なり独逸国一里は「レインランド」 の千九百六十七ルーデにあたる《割書:六尺間にて一里|三十一丁一間八分》 第二の大規は子午規也《割書:「ミッタフ|キルケルス」》BBBの如し中に 就くCCを以て第一子午規とす此諸規は 南北に亘る線にして其両端皆北極南極に 輻輳す此は大陽日/中(〇)に中る所を以て定む故 に所在に従て異なり又其数限るへからす 何れの地方にても太陽此線に到る時を午 時とす故に午規と名く 各地午規竭る所地平線を以て正南に定む 第一午規は各地の立る所一ならす或ハ「ヘルロ」《割書:地|名》 上に当るものを以天第一午規とす或ハ「テリツヘ」 《割書:福島》「ゲレーンウイク」「パレイス」「ウェーネン」「ペーテルスビュルグ」 「ウプサル」《割書:以上地名》上に当る者を用ふ 第一午規地球を東西に平分する事猶赤 道の南北に平分するがことし此他午規は其 【上】 レイ一間□ ノ法国□ □ 午カ 間相距る事各十度を以て是を定む是は 地図を閲するに臨て東西の度を弁し易 からしめんがために設るものなり 「エーヘ・ウェイデン」は赤道と列を同くす東西に亘 るの小規にして其間亦各十度なり是は赤 道より南北極に至る度を弁せんかために設 るものなり 以上諸規に依て諸地の方位を弁すへし 是緯度《割書:「ブレー|デ」》経度《割書:「レング|デ」》の別なり 緯度は赤道より北方と南方に距るの度 なり北緯南緯の別あり経度は第一午 規より東方に距るの度なり英吉利亜人著 す所の一地志に東経西経を分つあり   第三篇《割書:黄道回帰線《割書:即二|至規》「ポイルキルケルス」|「リユクトゲステルドヘーデン」》 年運に従て地球大陽と正対する点を集めて 線を引て一大規となる是を黄道《割書:「ブンスウエ|フ」》 と名く此線地球の中真を串きて赤道と叉 行して是と二十三度半の差をなす 第二図のeie第一図のEEEは地球黄道に正対する 点なり 黄道を十二部に分ち各記号を附す毎部三 十度に分つ     白羊宮 《割書:羅甸 アリース   |和蘭 ラム》 【上欄外】ラムハ羊の胎子     金牛宮 《割書:羅甸 タウリュス  |和蘭 スチール》     双女宮 《割書:羅甸 ゲミニー   |和蘭 テウェーリング》 【上欄外】連胎子ヲ云     巨蠏宮 《割書:羅甸 カンケル   |和蘭 ケレーフト》 【上欄外】ケレフトハサミノ【?】海老ヲ云     獅子宮 《割書:羅甸 レーヲ    |和蘭 レーウ》     室女宮 《割書:羅甸 ヒルコ    |和蘭 マーグト》  ■女     天秤宮 《割書:羅甸 リブラ    |和蘭 ウェーグシカール》  ハカリ     天蝎宮 《割書:羅甸 スコルヒウス |和蘭 スコルヒウーン》  ■虫     人馬宮 《割書:羅甸 サギタリウス |和蘭 シキュツテル》  弓射ル人     磨羯宮 《割書:羅甸 カプリコリュス|和蘭 ステーンボック》  獣名     宝瓶宮 《割書:羅甸 アクヮリウス |和蘭 ワーテルマン》  水■     双魚宮 《割書:羅甸 ピツセス   |和蘭 ヒッセル》  漁■ 黄道赤道を離るゝ事最遠き所の両点より各一 線を引く赤道を去る事二十三度なり此二規を 回帰線《割書:ケールキリンゲン即|二至規》と名く大陽此二規に躔る【(めぐる)】 時は赤道を離るゝの至極にして是より再ひ赤 道に向ひて回帰するなり第二図のef,ef第一 図のFEFEのことし其赤道以北に在るを(ノールテル キリング)又(ケレーフツ・ケールキリング)《割書:夏至|規》と名け赤 道以南に在る者を(ソイデル・ケールキリング)《割書:南回帰線|ノ義》 又(ステーンボックス ケールキリング)《割書:冬至|規》と名く 赤道の両極PP赤道を去る事各九十度黄道 の両極PP亦黄道を離るゝ事各九十度なり 黄道の両極赤道の両極と相離るゝ事二十三度 半なり是即黄道と赤道と互斜の度と相 若(シ)く赤道の極と黄道の極と相距るの間に一 規を画す是を極規《割書:ポールエルケルス|と云》と名く地球 の両極の所を繞る【(めぐる)】を以て斯名あり第二図 のpCCr及ひ第一図のGGGGのことし其北にあるを 北規とし南にあるを南規とす 地球を分て五部となし以て寒温を定む 熱帯一正帯二冷帯二なり熱帯の地は二 至規の間なり方積凡四百八十二万千百五十 九里の地是に属す正帯の地は至規と極 規との間にあり南北二帯あり各方積百 八十四百【(万の誤りか)】九千四百七里 冷帯は極規内に在て南北 二帯あり各方積三十八万六千七百零五里 熱帯の地に住む人は一年二度大陽を頂上に 見るに至規下の人は大陽を頂上に見る事 年に一度正帯及冷帯の地に住む人は常 に大陽を斜に見て頂上に見る事曽て之 なし両極下の人は半年の間大陽を 不断地平線に見て半年は全く見る事なし 各五帯の寒温を天の気候《割書:「リュクトスト|レーケン」》と日 地之気候《割書:「ランド・ス|トレーケン」》と異なり地之気候は今 暫く論せす 経度表  黄道と両極の間に各九個の経度規あり  両極に近くに随て其長漸次に減す然レトモ  皆三百六十度に分つか故に毎度の長亦必不  同なり今緯度に随て経度の長を知るへ  き小表を作て左に示す (黄道) 経度一度独逸国道法十五里 (緯度第十度)  経度一度 十四里七分七厘         令八 (緯度第二十度) 経度一度 十三里一分令一 (緯度第三十度) 経度一度 十二里九分八厘三二 (緯度第四十度) 経度一度 十一里九分六厘一四 (緯度第五十度) 経度一度 九里七分八厘令一 (緯度第六十度) 経度一度 七里半 (緯度第七十度) 経度一度 五里二分三厘令七 (緯度第八十度) 経度一度 四里八分八厘一二   第四篇(ナチュール)学家地志 地球の全面は多分水にして陸地は至て少し 精巧地理学家の説に世界を三分すれは水 二分にして陸地一分なりと云此水を(ウェーレルド・ゼー) 《割書:世界海|の義》と云陸地を(ランド)と云夫海の有用大なり 其水蒸昇して雲となり風に従て普く地上に 被らしめて是を濡し新水を輸し気中を清 浄清涼にし江河川流を生す又人海に泛【うかび】て 絶域の国土を訪ひ互に有無を通し学芸 を相伝ふ (ランド)《割書:国土|》は其大小位置と其形に随て諸般 の名を得即(ハストラント)(《割書:地続き|の国也》)(ラントエンクテ)《割書:繊|地》 エイラント)《割書:島|》(シキールエーランド)《割書:半島|》(フラッカラント)《割書:平地|》 ベルグ)《割書:山|》(ベルグ・エングテ)《割書:峡|》(ベルグケーテン)《割書:山鎖|》(ヘウ【ウに半濁点】ヘル)【Hügel】 《割書:丘|》(ドイン)《割書:土堤|》(ハレイ)又(ダル)《割書:谷|》(カープ)《割書:崎|》(キュスト) 《割書:岸|》(ストラント)《割書:汀|》等なり 西方半規に在る陸地と東方半規に在る陸 地と壌を接せす所謂(ハステラント)は一小洲と 二大洲とを以て或る即大州一は西方半規 内に在り一は小洲と共に東方半規内に在る なり此三部自余の小洲を合して五世界 に分る五世界は則所謂欧邏巴。亜細亜。 亜弗利加。亜墨利加。亜烏斯答剌礼。是な り 欧邏巴と亜細亜とは其実は区別あるに 非亜細亜と亜弗利加とはたゝに一条の繊 地を以て壌を接す南亜墨利加と北亜 墨利加も亦一繊地を以て壌を接す此繊 地を(ランド・エングテ)と名く而て亜細亜と亜弗 利加と接する所の繊地を(シュエス)の(ランドエン グテ)と名け南亜墨利加と北亜墨利加と 接する所のものを(パナマ)又(タリエン)の(ランドヱン エングデ)と名く 島(エンランド)は四方海に沿へるの地なり其最大なるは ゴロートフリッタンニヤ)(イヽルランド)(エイスランド)(スピッツ ベルゲン)(イーハセンプラ)なり又(ヘルロ)(ヲルカジ)(アツリ) (カナリ)(カープヘルジ)以上諸国の属島又(サルジ ニー)(コルシカ)(シヽリヤ)(カンヂヤ)(セイプリュス)(シント ヘレナ)(マダカスカル)(ソコトラ)(セイロン)又(マルヂヒ 国の諸島(シュンダ)国(モリュツク)国(ヒリプペイン 国(ペレウ国(新ヒリプペイン国等の属島又 盌【?】島又(ホルモーサ)又(リユエイウヲ諸島日 本諸島蝦夷(サカリー)等なり又(新グイ ネヤ)(新ブレタグネ)(新ゲヲルキヤ)(ジーメンスラント) 又(ミュルガラーフ)(サンドウィック)(アレウチ)(ホッセン) 等の属島又(新カレドニヤ)又(ベブリデス)の新 島(新セーランド)(フリンデ)の諸島(ソイテイト)の 諸島(カルラパゴス)の諸島(レホリチー)の諸島(マ ルクイ)の諸島(ヘルゲスト)の諸島(メンドサ)の諸 島(ヒュールランド)(フラッカランド)(テルネウフ)又(ベルミュ ジ)(リュカイ)(アンチルリ)等の属島なり (シキール・エイラント)《割書:半島|》は三方海を環し一方 (ハストランド)に接する地を云其最較著なる は(ユットランド)(波尓都瓦爾)【ポルトガル】と以斯把尼亜の 一国(意太里亜)(モレヤ)(キリム)(マラッカ)(朝鮮) (加謨斯加多加)【カムチャツカ】(亜棘比亜)(カリホルニヤ)(アラス カ)(クルーンランド)是なり 其凸起するもの是を山□名く山の最高 きものは雲中に接す□□山相連て絶へ す鎖の如きあり是を(ベルグケーテン)《割書:山鎖の|義》又 (ベルグ・シカーケル)《割書:山鏈の|義》又(ゲベルグテ) 《割書:山簇の|義》と云 中ン就く最高き処を山原《割書:アーンハング・テル|ベルゲン》と 名く欧邏巴の山原は(スゥツシヤ)(魯西亜)(翁 加里亜)に在り亜細亜の山原は(チベット)に 在り亜弗利加は其中地悉く山原なり南 亜墨利加の山原は(ペーリュ)に在り北亜墨 利加の山原は(カナーダ)に在り即其湖の西 にあり山間の陥地を谷《割書:ターレン|》と云其最夾き を(ベルグ・エングテ)と名ツく(ゲベルグテ)の最大なる は欧邏巴に在ては(アルペン)(ユラー)スワルト・ズワ ルド)(レウ【ウに半濁点】センゲベルグテ)(ペイレネエン)(アーペネイン) の(ゲベルグテ)(カルパチ)の(ゲベルクデ)なり亜細 亜に在ては(ウラリ)の(ゲベルクテ)是は欧 邏巴と亜細亜の界な□(□ウカシ)の(ゲベル グテ)(ミュスターグ)のゲベル□□)なり亜弗利加 に在ては(マーンケベルグテ)レウ【ウに半濁点】エン・ゲベルグテ(アトラス) アベイシニセアルペン)なり亜墨利加に在ては コルジル・レラ・ロス・アンデス)通して(アンデス)又 (コルジル・シラス)と称す(アパラージ)の(ゲベルグテ) なり 其凸起甚大ならさるものを(ヘウ【ウに半濁点】ヘルス)《割書:丘|》と云 其砂堆にして海に縁【左に「ノソム」とフリガナ?】するものを(トイネン) と名く 崎《割書:カープ|》は海中に挺出する地を云其山を 兼るを(ホール・ケベルグテ)と云 (キュスト)《割書:海浜|》は海に沿へる長夾の地を云 其較著なるは(キュイネヤ)の(キュスト)(マラバル) の(キュスト)(コロマンデル)の(キュスト)なり (ストランド)《割書:渚|》は(キュスト)と海と相接して時に 潮に湛る地なり (ワーテル)《割書:水|》は大小所在に随て名を異にす 海。湖。川(ベーキ)(ストラート)(ゴロフ)(バーイ) アルシペル)(プール)(レーラス)なり 総(ハステランド)を環る所の海を分て数部 とす第一を(アトラント海)と云欧邏巴と亜 弗利加の浜より両亜墨利加の東浜に 至る其北に在るものを(ノールテル・ヲセアン)《割書:北浜|》 と云又其相接する所の地名により或は其 曲湾の形に佑て種々の名あり第二は氷 海なり是は北極直下及ひ南極直下の海 を云第三は印度海なり亜細亜の南 浜及亜弗利加の東浜より新和蘭に 至る第四を南洋《割書:ソイドヲ|セアン》又寧海《割書:スチルレ|ゼー》と 云亜墨利加の西浜より亜細亜の東浜印 度諸島新和蘭に至り又(ベーリング・スト ラート)より南氷海に至る地中海(バルチ 海)一名東海白海黒海紅海黄海(カス ピ海)等其実は(ゴルフ)(ゼーブーセム)《割書:以上|湾類》 (メール)《割書:湖|》なれとも其水大なるが為に海の名を 得るなり (メール)《割書:湖|》は国内に在て海と潮を通せさる 一大水なり即(ラドガ湖)(ヲネガ湖)(アサフ湖) (マルモラ湖)(アラル湖)(バイカル湖)(キュラン湖)(マラヒ 湖)(ギュラダ湖)(ボルノ湖)(カナーダ)の五湖是 其最較著なるものなり 凡水源皆山より出つ山は平地よりは引力強 き故に雨雪雲霧聚り易し是に由て水 を生す又泉ありて水直ちに是より湧出す 夫山水潴積して先(ベイキ)《割書:谿間の|池水》となり夫より 下りて川となり川合して(ストローム)《割書:川の海に入ん|とする所》 となり海に入る(ベイキ)は夾くして浅し 川は稍濶し然共猶地高き所に在て跋 渉すへし平地に至れは航し渡るへし 川或は峻高の処より直に下る是を瀑布 《割書:ハーラルハル|》と云 川は右汀左汀の別あり川の口に向ふて 右を右汀と左を左汀とす川の最大なるも のは欧邏巴の(カロンネ)(ロイレ)(レイン)(エルベ)(ウェ イキレル)(ドン)(ウヲルカ)(デニーベル)(トナウ)(ポ)(ローネ) (エブロー)(ターガ)なり亜細亜の(ヲベイ)(レーナー) (アミュル)(ホアノ)(ガンヂス)(インデス)(チゲル)(エウフラー ト)なり亜弗利加の(ネイル)(セネガル)(サイレ)なり 亜墨利加の(シントロ・ウエンス)ミツシツヘ)(アマソーネ ン)(リヲ)(ラー・プラータ)なり (ストラート)は夾隈の海門にして両地に狭 まるゝ所を云其最較著なるは(カライス)の 夾口《割書:ナーウ|》(シュンド)キブラルタル)の(ストラート) (メッシナ)の(ストラート)(カッハ)の(ストラート)(コン スタンチノッポレン)の(ストラート)(ヘルスポント)(マ ラッカ)の(ストラート)(シュンダ)の(ストラート)(マーゲ ルラート)の(ストラート)(ストラートダビヅ)なり (ゴルフ)《割書:湾|》は海水地方に入込テ曲弯をな す所を云但其門口狭くして内濶きを (ハーイ)と名く其最較著なるは(ヘネチヤ) の(ゴルフ)(ターレンテ)の(ゴルフ)(ゲニュア)の(ゴ ルフ)(リヲン)の(ゴルフ)(ハレンセ)の(ゴルフ)(シント ウベス)の(バーイ)(払郎察)【フランス】の(ポクト)(ブリス トル)の(カナール)百爾西亜【ペルシア】の(ゴルフ)(ベンガレン) の(ゴルフ)(シアム)の(ゴルフ)(トンキン)の(ゴルフ)(カル ペンタリヤ)の(ゴルフ)(グイネヤ)の(ゴルフ)(ターフ ル・バーイ)(バーイ・ハルス)(メキシコ)の(ゴルフ)(ホン ヂラス)の(ゴルフ)(エスクイマウキス)の(バーイ)(ヒュ ツドソレス・バーイ)(ヤーメス・バーイ)(バッシンス・バー イ)なり (アルシペル)は島海の義にして許多の島 錯置する間の海を云 (プーレン)《割書:沼|》は国内の溜水にして川流と 波を不通静止不用の水なり其浅くして 泥土と混するものを(ムーラッセン)と名く   第五篇濛気輪 風 (ナチュール)家の地理に依て地球に属する 物を区別すれは三あり曰濛気輪曰土 曰水是なり爰に先濛気輪を説く 地球の全面一種の流動物有て是を 囲繞す其質微細にして弾力多し 活動及ひ植物に生気を給す是を気 《割書:「リュクト」|》と云気中常に濛気《割書:ダムベン|》蒸升 し雲霧浮游す総て是を濛気輪と 名く 気の力は弾力と重墜となり弾力は是 を圧せは則縮み是を放せは則却張 する勢を云重墜は気の積堆に依 て常に属する諸物に圧迫する勢を云 (テ・ラ・ヒレ)《割書:人名|》曽て之を験するに気の重 墜は地を距る事三万五千三百六十三(ト イセン)或ハ(九メーレン)半の高より起る何と なれす気の物を圧す力元より弱したとへ は気四十三升にして水は十万升なり故 に右の如き高所【?】より力を積て圧するあら されは物墜下して地に親む事なしと云 気は常に地球を纏ひて自ら動かす地球 の日転及ひ年運に連れて其に運行す然 共少く動事なきにあらす時有て彼是 に流移するなり是を名て風と云其吹来 る所の角に随て各種方風の名あり又其 勢の緩急に随て微風《割書:サクニ・ウィンド|》烈風《割書:ステルキ・|》 《割書:ウインド|》暴風《割書:ストルム・ウィンド|》大風《割書:ヲルカーン|》等の 別あり 一秒時の間に走る事十尺より十五尺までを 微風とす二十五尺より三十五尺に至るを烈風 とす四十尺より六十尺に至るを暴風とす走 る事猶甚きを大風とす日本并に亜細 亜西海浜の諸国は大風多し 凡風は平直に地上に随ひ吹くを常とす然 とも天上【?】より吹下るあり又捲螺するあり是を (ウヱルヘル・ウィンド)と名く甚き時は(ワーテル・ボーセ ン)《割書:俗に所謂龍捲|の類也》を致す正帯の地は風定らす 或は東風或は西風日々転し換るなり熱 帯の地は風多くは定期ありて日々転換 するなしすなり一方の風終歳吹き続 くを(バッサート)風と名く一歳の間時を定 て変するを(ペリヲヂクェ)風と名く 回帰線を距る事一二度の間の大洋は東 方の定風吹く而して大陽の位に随て差 違をなす即赤道より北の回帰線に在 ては稍北西に向ひ赤道より南の回帰 線に在ては稍南西に向ふ 赤道より北十度と南十度に於て一方の 風数月の間留連し暴風或ハ雷雨の 為に忽歇再ひ其と相反する一方の風に 変し数月の間留連す是を(モウ【ウに半濁点】ソン ス)と名く即(ペリヲヂクェ)風の類なり 熱帯地方の海浜に於て一種の(ペリヲヂ クェ)風吹く即毎日海風吹き毎夜陸風に 変す是を大陽の熱気海中に侵入する 事陸地に比すれは遅くして其消するも 亦おそし故に日中海上熱度未甚し からさるに陸地はすてに熱極に到るを以 て陸上の気海に向ひて傾き散するなり 又海上昼間漸く熱し夜に至て速に 消せす此時陸地熱気すてに消す是を 以て陸上の気海に向ひて傾き散する 也 風の質の其吹き来る所の地に随て各異 なり即北風は北極直下四時沍寒の地 より起り雪山及氷山を越来るが故に寒 烈なり東風は広莫の地を通り来るが故 に乾燥なり西風は大洋を渡て来るが 故に湿潤なり 同方の風地に随て其性大に異なる事 あり東南風の如き和蘭地方に於ては 人身に利益をなす事少からす而るに (ナーペルス)に在て人身を弛弱せしむる害 あり又意太里亜国に在て此風吹き続く 時は人自ら其精神沈衰するを覚ふ 蓋此風此等の地方に在ては耳目の触知 しすへからさる所の一種の弛弱にする性能 ありと□【覚?】ゆ (ヘーテ・フルスクルーイエンデ《割書:熱焦の|義》風は大漠広 地より来るなり阨入多【エジプト】国に於ては此風南 方又南西方より吹来る是を(カミシン)と名 く(メッカ)に於ては東方より吹来る(シュラッテ) に於ては北方より吹来る(パスラ)に於ては北 西方より吹来る(バグダツト)に於ては西方より 吹来る(セイリヤ)に於ては南東より吹来 る中に就く亜棘比亜に於て(サミュム)と 称し都児格に於て(サムゲル)と称するもの 最恐るへし又(クイネヤ)の(ハルマタン)は【or「も」?】 此風の類なり   第六篇 陸地并山 凡陸地の面は極て不平なり其凸起する ものは山となり丘となり陥汙するものは谷と なり平延【?】するものは平地となる(ハステ・ランド)の 中最卑【?】き処を海浜とし最高き 処を内地とす陸地の凸起の所山となり 山相連りて山鎖《割書:ベルクケーテン|》をなし山鎖 相続て四方遠邇に広蔓す其海裡 に入て突起するものを碓島とす是則 山頂の所なり (ナチュール)家地理学専ら山脈を知るに在 今其略を左に挙く 欧邏巴中最高処は(スウィッシヤ)の(ア ルピセ山なり就中其西南最高し其 峰を(モントブランカ)と名く其高凡一万四 千尺あり此山南の方意太里亜の境に在 るものを(アルペン)と名け西の方払郎察 に境するものを(スクワルト・スワルド)と名け東 端に在るものを(アールベルグ)と名く以私把泥 亜【イスパニア】と払郎察とを界するものを(ペイレンネエン) と名く是は即(イユナ)の属山なり此山尚 尚以私把泥亜国に亘り(キブラルテル)の(ス トラート)《割書:海門|》を越て亜弗利加洲の山に連 り都尓格国中を亘り亜細亜の(タウリユ ス)及(カウカシュス)と合す 欧邏巴洲中第二の高所の魯西亜の 中央緯度五十三四度経度の五十二 度の間にあり此山東は亜細亜の山に接 し北は雪際亜【スウェーデン】国を環らして此国を(ヒ ンランド)及(ノールウェゲン)に界す 欧邏巴第三高山は(ボヘーメン)に在り即 緯度四十八度三十分 ― より五十一度に 至り経度二十五度三十分 ― より三十四 度三十分に至る 各三大山鎖は欧邏巴洲中の山幹なり 小山簇是より枝別旁出して全洲に邇 蔓す 亜細亜洲の最高所(チベット)に在り長 三百メーレンにして濶百五十メーレンなり亜細 亜全洲の山鎖是より枝別して南は東 印度の半島の端に至り西は百尓西亜及 都児格を経て欧邏巴の山に接し小亜 細亜及亜刺比亜を過(スキ)て(スウェス)の(ランド・ エングテ)に至り亜弗利加の山に接す 亜細亜の北方并に東北亦一大山脈《割書:ベルグ|》 《割書:シカーケルス|》有て(ストラートベーリグ)に至り亜墨 利加洲の山に接す 【右頁上欄外】 邇ハ濔カ 又滋カ 亜弗利加洲の内地は委く山にして許多 の山鎖《割書:ベルグケーテン|》相接す山鎖相接する間に 谷《割書:ハルレエイン|》ありと雖【?】大低不毛の砂地なり北 内地未た人跡通せす故に其詳なる事 得て記すへからす其大略を左に挙く (シュエス)の(ランドエングテ)より山鎖起り阨入 多(ニュビー)(アビシニー)を過き東方諸山に 接す又高山陸続して西方(タグレイン) 崎に至る爰【?】に於て亜墨利加洲の山鎖 海中を伝りて此と相接す又北方の 山鎖は(バルバリ)を経て(カナリ)又(アソリ) 諸島に由て(テルレ・ネ・ウフ)の(バンカ)に接す 南方は(リュバタ)と名くる山鎖連綿して 喜望峰に至る 亜墨利加洲中最高は南極緯度二 度経度二百六十六度にあり此に世界并 第一の高山(シムブラソ)と云高さ海水を距 る事凡二万一千尺なり此高山と他の山と の間谷《割書:ハレイエン|》あり其高さ猶海水を去る事 八千尺なり(コルヂルレラ・デ・ロス・アンデス)と名る所 山鎖(シンブラソ)より起り南は(ホトルン)崎北は パナマ)の(ランドエングテ)に至る是より山脈《割書:ベルグシ|》 《割書:カーケル|》相連りて(メキシコ)の高山に接す 又(コルヂルレラ・デ・ロス・アンデス)の山鎖枝別東 方に連綿す而て南極緯度第十度より 二十度迠の間高山なり又此枝別南は(ペ ーリュ)及(ブラシリ)より(タグレイン)崎に至 る 又(カナーダ)の山鎖あり其枝別(フルエーニフ デ・スターテン)を経南方(フロリタ)を過き リユカイ)及(アンチルリ)の諸島を越(テルラヘル ラ)の(コルヂルレラ)《割書:山名|》の枝山に接す北は(ラ ブラドル)を経(エスクイマウ)海の諸島に由 て北極下の国に至る又其西海浜より氷 海に至るまて大なる山鎖あり 山の種を分て三となす曰ヲールスプロングレイ ケ・ベルグ)《割書:原山の|義》曰(ニーウエレ・ベルク)《割書:新山の|義》曰コルカー ニセ・ベルグ)《割書:火山|》是なりフールスプロングレイケ・ベルグ) は(カラニート)と云一質にして開闢と斉しく 生す故是を掘ると雖曽化石及動活 体の遺跡を見る事なし(ニーウェル・ヘルグ) は其土中灰炭石灰砂(マルメル)及諸種 の化石を見る是已【?】後世に至て新に生する 正徴なり(ヒュカーネン・ヘルグ)は即火山《割書:ヒュールスポ|》 《割書:エンデベルク|》なり是は時々焼石灰化石焼鎔せ る礦類火炎を其坑より咄出するなり火山 古は今より多しと見ゆ諸地焼山の跡を見 る事少からす是其徴なり火山欧邏 巴に七所あり亜細亜に二十三所あり亜弗 利加に八所亜墨利加に三十七所ある なり 凡高地は気稀薄にして冷なり雲多に 秀る山は熱帯の地に在と雖其嶺常に 雪氷を頂く此雪の度に随て雪線《割書:スネー|》 《割書:ウレイン|》を立り此線は熱帯の地に在ては甚 高く正帯の地に在ては漸く低く冷帯の地 に在ては益低く南北両極下に在ては其線 地平に均し曽て之を測るに熱帯の正中 に於て雪線海水を事一万五千尺其両 界に在ては一万二千尺正帯の正中に於ては 八九千尺なり    第七篇 海 夫水の世界に於る三の二を領す而して其大なる 者を海とす海は別に一世界とす故に爰に■ する所の動植并に鉱類総て地上に生する者 と異なり 海水は塩気有て苦し是其混淆する所の 物質によるなり蓋此塩気は大に功用を致す 第一是より製する所の食塩は口味を催起 し腐敗を防き消食の様を助る功あり又 塩水は凍る事速ならす故に海上の氷を防く なり又死壊汚物を速に疎解消散す又海水 は塩気を含むかために重し故に重荷ヲ載する所 の船を負ふ事淡水に勝る 海の運動は其功用少からす其運動時有て甚く 時有て微なり但其最甚き時と雖海底十五 尺より深きに及ふ事なし 海の運動を起すものは風(ストローメン)《割書:海流なり|》月 なり(ストローメン)は二至規の間は東より西に赴く二 至規以外は南北極より赤道に赴く潮汐は大 陰の運動位置に従ふなり大陰其所に対 する事其極に至るとき潮其極に至る事 一時半の間なり其後一二(ミニュート)《割書:「ミニュート」は一時|百二十分の一なり》 にして西に退く三時にして汐の極に至り一二(ミニュ ート)にして再ひ潮東より来る事も亦三時 を以てするなり但毎日潮の時刻は四十九ミニュー ート)ツヽ後る是大陰子午規に中する事(四 十九ミニュート)つゝ後るゝか故なり又州土【?】の位 置海底の浅深海岸の形勢に随て潮 汐の常度を失する事あり(ヲースト・ゼー) 《割書:東洋|》地中海(カスピセ海)に於て潮汐の進 退分明ならす 海の色(サクト・グルーン)《割書:微緑色|》なるは人の眼に宜 しきなり最深き海は(ドンケル・ブラーウ)《割書:暗黒色|》 なり(ホルステル)《割書:人名|》曰海の緑色は天の青色 反映するなり水深き度に随て反映は【?】益甚 しくして■【暗+灬】青色をなす故に海の色に 因て其浅深と(パンケン)《割書:海中の浅き所|》と雖弁【辨】 すへし 海水夜光を発する事あり是三種あり一は 海波静ナル時数千の星のことき光を見いす一は 波浪の間激浪物に触るゝ時光を発す一は 急走の船に傍て光を発するなり世人の考 に舟に傍ふて発する光は(エレキテリーキ)なり と云星のことく現るゝは(ホスホル)様の腐敗より発 すと云波浪の起る間に現るゝは無数ノ虫魚 なりと云    第八篇 此編是略書なれはナチュール)家地理説も唯 只十中の一を挙るのみ今又爰に海の事に 就て一二較著なるものを挙て左に 示す 氷海中に生する物数多あり中就く大なる (ワルヒス)《割書:鯨の惣名|》尤奇とす是氷野の下に 生住し又氷野時として甚広大なるあ り (ホルステル)《割書:人名|》長四千尺濶さ四百尺高 二百尺の氷を見たりと云又形恰も寺 塔のこときあれ或ハ(ヒラミーデ)(ヲベリスケン) (リユイネン)破巌のこときありと云蓋し(ホ ルステル)船中に坐して見る所の氷塊を 計へしに百五十個あり然るに檣上より 見たる人は百六十八を得たり且其中 長(半メール)《割書:半里|》のものありと云 南極下の氷海は北極下に比すれは殊に 広大にして南極を離るゝ事頗る遠 きに及ふ氷海の底間温泉あり(エイス ランド)《割書:氷国|》西浜のことき是なり アトランド)海に於て其浅深に随て温 度の差等を測る質験あり左の如し 深五百尺の処にて験温管を留る事 五ミユーテン)《割書:「ミニュート」|》なり 深千二百尺の処にては七度五(ミニユーテン)を 得但し海上にては(二十四度三ミニユーテン なり 深千百四十四尺の処にて験温管を留る 事一時十五(ミニユーテン)にして五度を得 但海上にては二十四度八ミニユーテン)なり アトラント海は其色他の海と異なるものあ り喜峰望近所の(バンカ)は深緑色なり 亜弗利加の西浜北極出地第二十度 より第三十四度に至り并ニ(フロリタ)の 近所ハ其色草野の如し(フルアクリュクサ) の辺々海色すへて白し(リヲ・デ・ラープ ラタ)《割書:河名|》の口ハ海色紅なり 他の大洋并ニ(アトラント)海北極出地第六十 三度の所ハ絶て潮の進退なし 地中海は水四方より注聚すれとも曽 て海面高を加る事なし(キブラルテル) の(ストラート)に於て是を測るに爰ニ 注き来る水一年の間積む時全地 中海の高さ二十二尺を増すへしと云 蓋此海ハ(ゼーエングテ)の底に別に水 を瀉除する道あり一二尺の深さ迄は 水注入すれともそれより底ハ水常々注 出するなり 地中海水の味は淡水 百六銭食塩二銭石炭四十八ゲレイン)を 調和せるものに全く同し其海底ハ瀝 青(ヨーデンレイム)塩等の盤あり(マリセイル) の海底ハ美好の(マルメル石)の盤なり(ヘネチ ヤ)の湾底は(マルメル石)砂泥土なり地 中海又許多の水獣并ニ介鱗ノ虫類 あり地中水地下より注瀉する事甚しくて 猶河水の海に注くがことき処あり(ミヲ・ ウ)の(ゼーハーヘン)のことき是なり (ヲーストゼー)《割書:東洋|》三(ストラーテン)有て北 海《割書:ノールドゼー|》と相通す此(ストラーテン)より巨大 の水注入すれ共亦其高を増さゝる事地中 海に同し深五(ハーデメン)《割書:尋の名|》の所に於て是 を徴するに果して瀉出の道あり深き所に 在ては水瀉出の勢最大なり 印度海は其色一ならす(マルヂヒ)諸島の辺 は海色黒し(コリーンテ崎)の辺に在ては紅 色なり猶紅海のことし(バンダ)の海ハ色白曜 す(ペルシヤ)海中(バララ)の辺に淡水の湧泉 ある所の如し又此海常々激浪起る事喜 望峰及ひ日本海のことし(カスピスゼー)は地 中に夾れて水を受る事最多しと雖亦 其高を増さゝるものは海底に瀉出の道 ある事黒海に同し緯度第六十三度より 冬至規に至るまては州土の東岸皆巌 石崩るゝ跡を残す是上代大洪水東 より来るとき国土大半を呑滅し其後 残る所の圻崖度々の海哨に遇て噛悉 され最堅固の部今に存在するのみ    第九篇(スタートキュンヂヘ地理家 地球の全面を分て五部となす即欧邏波 亜細亜亜弗利加亜墨利加亜烏斯答 刺利なり右五世界又各数国に分ち毎国 其人民あり各自の政令を建てゝ是を治む是 を(スタート)《割書:国政|》と云(スタート)を裁判指揮 する是を(レーゲリング)《割書:治|》と云(レーゲリング)を 施すの法是を(レーゲリングス・ホルム)《割書:治体|》と云)) (レーゲリンクスホルム)《割書:治体|》三種あり(ヲンベパールデ・ モナルカール)《割書:他国の命を受けす独立して|国民を治るをいふ》 (ベパールテ・モナルカール)《割書:他国の命を|承るを云》(レピュブリケインス)又 (ケメーネベストゲシンド)《割書:国の豪傑相議し|て治るを云》是なり (ヲンベパールデ・モナルキーン)の最大なるものは其主を (ケイズル)《割書:帝|》(コーニング)《割書:王|》(シュルタン)《割書:太上帝|》等と称 す小なるものは(ケウル・ステン)《割書:按に|》    (アー ルツヘルトーゲン)《割書:上公の義|》(ゴロート・ヘルトーゲン)《割書:大公|》(ゴ ロートホルステン)《割書:大君|》(ヘルトーケン)《割書:公|》(マルクカラーヘン)《割書:按|》 《割書:に|》    (ランドカラーヘン)《割書:国侯》(ビュルグ・ガラ ーヘン《割書:按スルニ|》    (ガラーヘン)《割書:侯》(パットシカー)(エ ミル)等の号あり (ベパールデ・モナルキーン)は其主の号前に同し但 其政令ハ承る所有て自ら制する事を得す)) (レピュブリーキ)又ゲメーネ・ベスト)は二種あり其 一ハ国中年長の人を建て会主となし以て命 を受る所とす是を(アリスト・カラチス)と名く其 一は材智兼徳の人を撰て会主とす是を (テモクラチス)と名く 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 地球の転運に道あり一は一日二十四時《割書:本邦の|十二時》の間に 自己の軸に従ひ転旋して昼夜をなす是を第 一道とす一は三百六十五日五時《割書:本邦の|二時半》四十八分《割書:一分ハ本|邦の百》 《割書:二十分|時》四十五秒《割書:一秒は一分時を|六十にするの一なり》の間に大陽の周囲を 運行して一年をなす是を第二道とす蓋第二道ハ 大陰を負て運行しつゝ其第一道の転旋と協 和する事譬ハ「タートル」《割書:独楽の類》の其軸を共に旋転し て亦自己の運行あるか如し 【白紙】 【裏表紙】