中野了随著 《題:《割書:《題:新》|《題:撰》》《割書:《題:暑中養生法》|  附コレラ予防歌》》     鶴鳴堂發行 《割書:新|撰》暑中養生法(しよちうやうじやうはふ)    目次(もくろく)   第一 総論(そうろん)   第二 居宅(すまゐ)の事(こと)   第三 空気(くうき)の事(こと)   第四 衣服(きもの)の事(こと)   第五 入浴(ゆあみ)の事(こと)   第六 運動(うんどう)の事(こと)   第七 睡眠(ねぶり)の事(こと)   第八 房時(ばうじ)の事(こと) 【右】   第九 飲食(のみくひ)の事(こと)   第十 注意(きつけ)の事(こと)     附(つけたり)       コレラ豫防歌(よばうのうた)     目次畢(もくろくをはり) 【左】 《割書:新|撰》暑中養生法(しよちうやうじやうはふ)   中 野 了 随 著   第一 総論(そうろん) 養生(やうじやう)は春夏秋冬(はるなつあきふゆ)の四季(しき)その寒、冷、温、熱(あつささむさ)に随(したが)ひ怠(おこ)たるべから ざることは今更(いまさら)申(はを)すまでもなきことながら殊(わ)けて注意(ちうい)せ ざるべからざるは夏季炎暑(なつあつさ)の候(こき)なりとすは人々(ひと〴〵)温熱(あつさ)に 堪(こら)えかぬるより或(あるひ)は納涼(すゞみ)に耽(ふけ)りて感冒(かぜひき)し或(あるひ)は裸体(はだか)にて寝(ね) 冷(びえ)をなし又(ま)た或(あるひ)は腐敗(くさ)りし食物(くひもの)を勿体(もつたい)なしとて食(しよく)して下(げ) 利(り)となり或(あるひ)は職業等(しよくぶんなど)によりて炎天(えんてん)に頭背(あたま)を暴露(さる)せるより 中暑(ちうしよ)、霍亂(くわくらん)となる等(など)種々(さま〳〵)枚擧(かぞふる)に遑(いとま)あらず實(じつ)に人間(にんげん)の病気時(やまひとき) なり加之近比(これのみならずちかころ)は年々(とし〴〵)夏分(なつ)に至(ゐ)ると虎列刺等(これらとう)の流行病多(はやりやまひおは)く 【右】 あればゆめ〳〵養生(やうじやう)に油断(ゆだん)すべからず因(よ)りて左(さ)に掲載(の)す る暑中養生(しよちうやうじやう)の大要(かなめ)を辨知(しようち)すべし   第二 居宅(すまゐ)の事(こと) 今新(いまあら)たんい居宅(すまゐ)を建築(ふしん)せんとするには先(ま)づ土地(ぢめん)の高燥(たかだい)にし て周囲(まはり)に池(いけ)、沼(ぬま)、溝(みぞ)、渠(どぶ)及(およ)び塵芥場等(ごみためとう)なき清潔(きれい)の所(ところ)を撰(えら)み床(ゆか)を 高(たか)くしその下(した)を十分(じふぶん)空気(くうき)の流通(とほ)るやうにし座鋪等(ざしきなど)は所々(しよ〳〵) に窓戸(まど)を穿(あ)けこれ又(ま)た十分空気(じふぶんかぜ)の流通(とほ)るやうにせらるべ しと雖(いへど)も都市(みやこ)の人家稠密(いへごみ)なる場所(ばしよ)にては迚(とて)も行(おこな)はれざる ことなれど成(な)るべく湿気(しつけ)を避(よ)けるやうに注意(ちうい)すべし 下水(げすゐ)は度々(たび〳〵)浚(さら)ひて遠(とほ)くへ流(なが)れ去(さ)る様(やう)にすべし 【左】 塵芥場(ごみため)は成(な)るべく家(いへ)より遠(とほ)く離(はな)し時々(とき〴〵)取(と)り捨(す)てゝ清潔(きれい)に すべし 庖厨(だいどころ)の残棄物(すたりもの)則(すなは)ち饞餘(くひあまり)の食物(しよくもつ)及(およ)び魚肉(さかな)、菜菰等(やさいなど)の切屑(きりくづ)煮滓(にがら) 等(など)は積(つ)み置(お)きて腐敗(くさ)らすべからず必(かな)らず度々(たび〳〵)取捨(とりす)つべし」 総(すべ)て腐敗(くさ)りしものは何品(なにしな)にても家(いへ)の内外(うちそと)に置(お)くべからず」 大小両便所(だいせうりやうべんじよ)は時々(とき〴〵)汲(く)み取(と)りその跡(あと)へは緑礬(ろうは)或(また)は石炭酸(せきたんさん)を 水(みづ)にて溶解(とか)して撒布(まきちら)すべし   第三 空気(くうき)の事(こと) 空気(くうき)則(すなは)ち風(かぜ)は人間生活上(にんげんせいくわつじやう)におゐて最(もつと)も貴重(たいせつ)にして要用(いりよう)な ることは魚類(さかな)の水(みづ)に於(おけ)ると一般(をな)じく秒時(すこし)もこれなきとき 【右】 は生息(いき)ること能(あた)はざえるものなり然(さ)れどその新鮮(しんせん)の空気(くうき)と 不潔(ふけつ)の空気(くうき)とは天地霄壌(てんち)の差(ちがひ)ありて新鮮(しんせん)の空気(くうき)を呼吸(こきふ)す るものは建康(たつしや)にして無病安泰(むびやうあんたい)なれど不潔(ふけつ)の空気(くうき)を呼吸(こきふ)す るにおゐては大(おほい)なる害毒(がい)を醸(かも)すものなりとす今何(いまなに)をか不(ふ) 潔(けつ)の空気(くうき)なりとするかは前章(まへ)に陳述(しる)せし下水(げすゐ)、塵芥場(ごみため)、庖(だい) 厨(どころ)の残棄及(すたりものおよ)び大小両便所等(だいせうりやうべんじようとう)の不潔(ふけつ)なるものより蒸発(じようはつ)せ る悪臭(あしきか)の混和(こんわ)せる空気(くうき)なり此等(これら)の空気(くうき)を呼吸(こきふ)するときは 忽(たちま)ち病気(びやうき)を発(はつ)し或(あるひ)は流行病等(はやりやまいなど)に罹(かゝ)ることなど往々(まゝ)ありと す然(さ)れば前章(まへ)の如(ごと)き不潔(ふけつ)なる物(もの)を取(と)り捨(す)て新鮮(しんせん)の空気(くうき)を 流通(かよ)はしむべし 【左】 角觝場(すまふば)、劇場(しばゐ)、寄席等(よせなど)の衆人雑遝(ひとごみ)なる場所(ばしよ)の空気(くうき)は甚(はなは)だ惡(あ)し きものゆゑ時々(とき〴〵)外(ほか)に出(い)でゝ新鮮(しんせん)の空気(くうき)を呼吸(こきふ)すべし 日出前日没後(ひのでまへひのいりご)は池沼其他湿地(いけぬまそのたしつち)の近所(きんじよ)を通行(つうかう)すべからず惡(あ) しき空気(くうき)の蒸発(じようはつ)し居(を)るものなり 旅行(たび)にては未明(みめい)に出立(しゆつたつ)すべからず 空腹(すきはら)にて夜路(よみち)を為(な)すべからず多(おほ)くはこれより流行病(はやりやまひ)を引(ひき) 受(う)くることあり 室内(ざしき)を閉切(しめき)りて籠(こも)り居(を)るべからず時々(とき〴〵)開放(あけはな)して空気(くうき)を交(とり) 換(か)ふべし 病間抔(びようまなど)は殊(こと)に注意(ちうい)すべし否(しかゐ)らざれば罐病人抔(かんびやうにんなど)に傳染(でんせん)する 【右】 の恐(おそ)れあり   第四 衣服(きもの)の事(こと) 衣服(きもの)は時候(じこう)の温熱(かげん)に随(したが)ひその便利(べんり)なるものを用(もち)ふるは無(む) 論(ろん)なりと雖(いへど)も夏分(なつぶん)は成(な)るべく蝙蝠傘(かはほりがさ)、帽子(しやつぽ)、衣服(きもの)は勿論(もちろん)手袋(てぶくろ) 沓等(くつとう)の類(るゐ)に至(いた)るまで皆(みな)白色(しろいろ)のものを用(もち)ふべし総(すべ)て白色(しろいろ)の ものは太陽(たいやう)の光(ひかり)と熱(ねつ)とを反射(てりかへ)すものなればなり殊(こと)に白色(しろいろ) のものは汚(よご)れ目(め)も能(よ)く目立(めだ)つ故(ゆゑ)度々(たび〳〵)洗濯(せんだく)するに至(いたれ)ればな り汚(よご)れたる衣服(きもの)を着(き)るは徤康(からだ)を害(がい)して甚(はなは)だ宜(よろ)しからずそ は何故(なぜ)なれば体中(からだ)より一旦蒸発(いつたんはつ)せし無用物(むようぶつ)則(すなは)ち垢汗(あかあせ)の類(るゐ) の衣服(きもの)に付(つ)きたるを再(ふた)たび呼入(きふにふ)すればなり 【左】 襦袢(じゆばん)は夏(なつ)のみに限(かぎ)らず四季(しき)共(とも)に晒木綿(さらしもめん)を用(もち)ひ時々(とき〴〵)着換(きか)ふ べし犢鼻褌(ふんどし)も同断(どうだん)なり 藍染(あゐそめ)のものは第一(だいいち)徤康(からだ)の毒(どく)となれば決(けつ)して襯衣抔(はだぎなど)にすべ からず 常(つね)にフランネル或(なに)は紋派(もんぱ)にて幅(はゞ)八/寸位(すんぐらゐ)の腹帯(はらまき)を製(せい)し晝夜共(よるひるとも) に巻(ま)き居(を)るべし 何程(なにほど)暑熱(あつさ)に堪(た)え難(がた)きとても裸体袒裼(はだかはだぬぎ)になるべからず是(こ)れ たゞ巡査(じゆんさ)に拘引(こういん)されて罰金(ばつきん)を取(と)らるゝとのみ思(おも)ふは大(おほい)な る了簡違(れうけんちが)ひなり餘(あま)り熱(あつ)きときは却(かへ)りて羅紗(らしや)フランネル等(など)の 冬服(ふゆふく)を襲(き)るべし凌(しの)ぎ能(よ)くなるものなり 【右】 夜分寝(よるね)るときは袷(あはせ)の袖(そで)なしへ紐(ひも)をつけたるを寝衣(ねまき)に用(もち) ふべし    第五 入浴(ゆあみ)の事(こと) 入浴(にふよく)は湯浴水浴(ゆあみみづあみ)の差別(さべつ)なく皆(みな)皮膚(はだへ)を清潔(きれい)にし筋骨(すぢほね)を和(やわ)ら げ毛孔(けあな)を開(ひら)き垢(あか)を去(さ)り血液(ち)の循環(めぐり)を壮(さか)んにし体質(からだ)を健全(たつしや) にする最良法(いちちよきはふ)なれば四季(しき)共(とも)に入浴(ゆあみ)は怠(おこ)たるべからざるも のなり殊(こと)に夏分(なつぶん)は別(べつ)して怠(おこ)たるべからず暑熱(あつさ)の候(とき)は自然(しぜん) 熱發気抔(あせなど)も多(おほ)く出(い)づれば日々入浴(ひゝゆあみ)して身体(からだ)を清潔(きれい)になさ ずんばあるべからず 湯浴(ゆ)は餘(あま)り熱(あつ)きに過(す)ぐべからず餘(あま)り熱湯(あつきゆ)に浴(よく)するときは 【左】 却(かへ)りて害(がい)あり 浴後(よくご)は上(あが)り湯(ゆ)にて身体(からだ)を清(きよ)むべし殊(こと)に入込(いれご)みの風呂抔(ふろなど)は 別(べつ)しての事(こと)なり又(ま)た浴後(よくご)直(すぐ)に風(かぜ)に當(あた)り或(また)は団扇(うちは)にて扇(あふ)ぐ ことなかれ 浴後(よくご)の納涼(すゞみ)は注意(ちうい)して度(ほど)を過(すご)すべからず 浴後(よくご)直(すぐ)に水(みづ)を浴(あび)るものありとは大(おほい)なる徤康(からだ)の害(がい)なりとす 何故(なぜ)なれば浴湯(ゆあみ)におゐて一旦毛孔(いつたんけあな)開(ひら)き蒸発氣(じようはつき)の立(た)つ所(ところ)へ 水(みづ)を浴(あび)るときは立刻(たちどころ)にその蒸發氣(じようはつき)を止(と)むればなり   第六 運動(うんどう)の事(こと) 運動(うんどう)の養生(やうじやう)に最(もつと)も緊要(たいせつ)なることは左(さ)の一首(いつしゆ)の古歌(こか)を以(もつ)て 【右】 證(しやう)すべし  養生(やうじやう)はたゞ働(はた)らくに如(しく)はなし       流(なが)るゝ水(みづ)の腐(くさ)らぬを見(み)よ 人(ひと)も亦(ま)た此(かく)の如(ごと)く適宜(てきぎ)の運動(うんどう)をなすときは決(けつ)して病(やまひ)の生(しやう) ずることなきは恰(あたか)も流水(りうすゐ)の腐敗(ふはい)せざると同(おな)じく運動(うんどう)あし き人(ひと)は顔色蒼白(かほいろあをしろ)く暑(しよ)に中(あた)り易(やす)く病(やまひ)を生(しやう)じ易(やす)し殊(こと)に夜間安(よるあん) 眠(みん)すること能(あた)はざるより翌日(よくじつ)は身体疲労(からだつか)れて業務(かがふ)を執(す)す こと能(あた)はざるに至(いた)るものなり 逸居安楽(いつきよあんらく)の人(ひと)或(また)は坐業(ゐじよく)の人(ひと)は食後(しよくご)二十/分時(ぶんじ)を経(へ)て徐々(しづか)に 運動(うんどう)すべし 【左】   第七 睡眠(ねぶり)の事(こと) 睡眠(ねぶり)は終日業務(しうじつかげふ)におゐて消費(つひや)せる労働(ほねおり)を恢復(とりかへ)し併(あは)せて思(ふん) 慮(べつ)をも養(やしな)ふ自然(しぜん)の最良法(よきはふ)なり然(さ)れば朝夜(あさよる)の起臥(おきふし)は時間(じかん)を 一定(いつてい)し通常(ふだん)は夜(よ)は十/時(じ)に寝(い)ね朝(あさ)は六/時(じ)に起(お)き出(い)づべし又(ま) た寝(ね)るときは心(こゝろ)を静(しづ)かに丹田(たんでん)に納(おさ)め少(すこ)しも世事(せじ)に関係(くわんけい)せ ず縦令夜(たとひよ)は少々(せう〳〵)早(はや)く寝(ね)るも朝(あさ)は成(な)るべく早(はや)く起(お)き出(い)づべ し然(しか)るを便々(べん〴〵)として夜(よ)を更(ふか)し朝(あさ)遅(おそ)く起(お)きるは建康(からだ)に大(おほい)な る害(がい)あり 午睡(ひるね)はたゞ職業(しよくげふ)の妨害(さまたげ)のみならず建康(からだ)に大(おほい)なる害(がい)を為(な)す ものなり 【右】 若(も)し職業等(しよくげふとう)により夜分眠(やぶんねぶ)らざるものは晝間(ひるま)寝(ね)るに必(かな)らず 假寝(うたゝね)すべからず夜分寝(やぶんね)るが如(ごと)くすべし 夜寝(よるね)るときは裸体又(はだかま)た雨戸(あまど)を開(あ)放(はな)ちて眠(ねぶ)るべからず   第八 房時(ばうじ)の事(こと) 房時(ばうじ)は無病健全(むびやうけんぜん)なる人(ひと)におゐては其体力(そのからだ)に応(おう)じ適宜(てきぎ)に行(おこな) ふときは養生(やうじやう)とも成(な)るべけれども兎角(とかく)その適度(ほど)を誤(あやま)らざ るを得(え)ざるものなれば書中抔(しよちうなど)は我慢(がまん)して節制(ひかへめ)にすべし殊(こと) に老人或(としよりまた)は虚弱(ひよわ)なる人(ひと)は別(べつ)して慎(つゝ)しむべし又(ま)た手淫(しゆいん)の害(がい) は甚(はなは)だ恐(およ)るべきものなれば男女共(をとこをんなとも)に緊(かた)く戒(いまし)ぶべきものな り 【左】 炎暑(あつき)の節(せつ)は一切交合(いつさいまじはり)を為(な)すべからず 劇(はげ)しき労働(ほねをり)をなせし時(とき)及(およ)び心(こゝろ)に苦悩(くらう)ある時抔(ときなど)も同(おな)じく交(まじ) 合(はり)すべからず 房時後運動(ばうじごうんどう)せずして直(すぐ)んい眠(ねぶり)に就(つ)くべからず   第九 飲食(いんしよく)の事(こと) 口(くち)は禍(わざはひ)の門(かど)と古語(こご)に云(い)へるはたゞ喧嘩争闘(けんくわあらそひ)の端緒(はし)を開(ひら)く のみにあらず病症(やまひ)も十に九は大抵口(たいていくち)より生(しやう)ずるものなれ ば又(ま)た口(くち)は病(やまひ)の門(かど)と云(い)ふも誣言(はひごと)にはあらざるべし然(さ)れば 飲食(いんしよく)はよく〳〵注意(ちうい)せざるべからず何品(なにしな)にても成(な)るべく 消化(こなれ)よき滋養品(やしなひもの)を撰(えら)んで飲食(いんしよく)すべしその不消化物(こなれあしきもの)を飲食(いんしよく) 【右】 する時(とき)は忽(たちま)ち下利(げり)、中暑(ちうしよ)、霍乱等(くわくらんとう)諸病及(しよびやうおよ)び流行病(りうかうびやう)に感染(うつ)る こと往々(ゝ)あり故(ゆへ)に日用(にち〳〵)の飲食品(いんしよくぶつ)はその性質(すじやう)の善悪(よしあし)を吟味(ぎんみ) せざるときは恰(あたか)も鴆毒(どくやく)の如(ごと)く一口(ひとくち)の飲食(のみくひ)より病(やまひ)を生(しやう)じ終(つひ) に死(し)に至(いた)るものは年々夏季(ねん〳〵なつ)におゐて少(すく)なからずとす豈(あ)に 警戒(いましめ)を加(くは)へざるべからざるものなり 肉類(にくるゐ)は牛(うし)、羊(ひつじ)、豕(ふた)其他(そのた)の野獣(やじう)の肉類(にくるゐ)は総(すべ)て無病(むびやう)にてその肉(にく)の 新鮮(しんせん)なるものにあらざれば決(けつ)して食(くら)ふべからずその肉(にく)の 病肉(びやうにく)なるか腐敗(ふはい)せし肉(にく)なるかは指(ゆび)にてこれを押(お)すにその 押(お)したる跡直(あとす)ぐ元(もと)の如(ごと)くなるは良肉(りやうにく)なり然(しか)るに指(ゆび)にて押(お) したる跡急(あときふ)に元(もと)に復(はく)さゞるもの及(およ)びその色紫黒色或(いろくらさきいろまた)は蒼(あを) 【左】 白色(しろいろ)にして悪臭(あしきか)あるものは食(くら)ふべからず 魚類(ぎよるゐ)は死魚(しにうを)の腐敗(ふはい)して悪臭(あしきか)あるもの病魚(やまいうを)の肉輭(にくやわら)かにして 弾力(ねばりけ)なきものは食(くら)ふべからず又(ま)た藏鮞(こもち)の魚(うを)も成(な)るべく食(しよく) せざるを良(よろ)しとす 干魚鹽魚(ほしうをしほうを)は成(な)るべく食(くら)ふべからず殊(こと)に干魚(ほしうを)の悪臭(あしきか)あるも の黴(かび)の生(しやう)じたるもの腐敗(ふはい)せしもの虫(むし)の生(しやう)じたるもの鹽魚(しほうを) は腐敗(ふはい)して豆腐(とうふ)の如(ごと)く輭(やわら)かなるもの一種鼻(いつしゆはな)を撲(う)つ如(ごと)き臭(に) 氣(はひ)あるもの等(など)は決(けつ)して食(くら)ふべからず但(たゝ)し鹽漬物(しほづげもの)は魚類菜(うをるゐや) 蔬(さい)の別(べつ)なく何(いづ)れも消化悪(こなれあ)しき物(もの)なれば香物抔(かうのものなど)は相成(な)るべ くは用(もち)ひざるを良(よろ)しとす若(も)し止(や)む事(こと)を得(え)ざるときは少々(すこし) 【右】 用(みち)ふべし去(さ)り乍(なが)ら茄子(なす)の生漬等(なまづけなど)は決(けつ)して食(くら)ふべからず 鰕(えび)、蟹(かに)、シヤコ、牡蠣(かき)総(すべ)ての貝類等(かいるゐなど)は縦令新鮮(たとひしんせん)のものなりとも 先(ま)づは食(しよく)すべからず 未熟及(みじゆくおよ)び腐敗(ふはい)せし果實(くだもの)は一切食(いつさいくろ)ふべからず 黴(かび)を生(しやう)じ或(また)は腐敗(ふはい)せし蔬菜(やさい)っも食(くら)ふべからず 米飯(めし)の餳(すえ)ゝりたるは人々気遣(ひと〴〵きづか)ひなしと云(い)へど然(さ)にあ らざれば決(けつ)して食(くら)ふべからず又(ま)た未熟(しん)のあるものも食(くら)ふ べからず 腐敗(ふはい)せし酒(さけ)、酢及(すおよ)び醤油等(しやうゆなど)は必(かな)らず用(もち)ふべからず総(すべ)て食物(しよくもつ) は十分(じふぶん)に注意(ちうい)して清潔(せいけつ)にすべしその黴(かび)を生(しやう)じ悪臭(あしきか)を發(はつ)せ 【左】 しもの抔(など)は何品(なにしな)によらず決(けつ)して食(しよく)すべからず 飲水(のみみづ)は最(もつと)も大切(たいせつ)のものにしてその清潔(せいけつ)なるものと不潔(ふけつ)な るものとは月鼈氷炭(つきとすつぽん)の差(ちがひ)あること空気(くうき)の清潔(せいけつ)と不潔(ふけつ)との 利害(りがい)に少(すこ)しも異(こと)ならざるものなり故(ゆへ)に河水井水(かはみづゐみづ)の別(べつ)なく 一回沙濾(いちどすなごし)にするか左なくば煮沸(にたゝ)せたる後(のち)にあらざれば決(けつ) して飲(の)むべからず但(たゞ)し井水(ゐみづ)を用(もち)ふるものはその近傍(そば)に溝(ほ) 渠(り)、下水(げすゐ)、便所(べんじよ)、塵芥場等(ごみためとう)の不潔(ふけつ)なるっものある時(とき)はその腐(くさ)れ汁(しる) 土中(つちのなか)に惨入(しみこ)みて井水(ゐど)に竄入(い)るものなればかへす〴〵も注(ちう) 意(い)せざるべからず 井戸(ゐど)は時々汲(とき〴〵く)み干(ほ)して十/分(ぶん)に浚(され)ひ清(きよ)むべし又(ま)た井欄(ゐどがは)、釣瓶(つるべ) 【右】 縄等(なはとう)の腐(くさ)りたるときは速(すみや)かに修繕(つくろひ)なすべし 総(すべ)て飲水(のみみづ)は黄色(きいろ)なるもの灰白色(はひいろ)なるもの少(すこ)しにても臭気(にほい) あるもの鹹味(からみ)を帯(を)びたるもの水中(みづのなか)に小蟲及(こむしおよ)び黄色(きいろ)なる游(うき) 埃等(ごみとう)ある水(みづ)は一切飲料(いつさいのみもの)に供(な)すべからず 飽食暴飲(たいしよくたいしゆ)すべからず 欲(この)まざるときは強(しひ)て飲食(いんしよく)すべからず 食後劇動(しよくごあらばたらき)すべからず 食後運動(しよくごうんどう)せずして眠(ねぶり)に就(つ)くべからず 夜寝(よるね)る前(まへ)に飲食(のみくひ)すべからず 総(すべ)て飲食(のみくひ)は節制(ひかへめ)にすべし 【左】 性質(すじやう)の疑(うたが)はしきものは決(けつ)して飲食(のみくひ)すべからず   第十 注意(きつげ)の事(こと) 先(ま)づ少(すこ)しにても病気(びやうき)の徴候(しるし)あるときはこれを等閑(なほざり)になさ ずして速(すみや)かに醫師(いしや)の診察(しんさつ)を乞(こ)ふべし 炎天(えんてん)に涼傘(ひがさ)を持(も)たずして頭脳(かしら)を直(ぢき)に暴露(さらす)ことなから又(ま) 跣足(はだし)にて往来(わうらい)を為(な)すべからず 夏分(なつぶん)は各家共(いへ〳〵とも)に石炭酸等(せきたんさんとう)を貯(たくは)へ置(お)き時々家(とき〴〵いへ)の内外(うちそと)、便所等(べんじよとう) へ撒布(まきちら)すべし 他人(たにん)の来(きた)りて便所(べんじよ)へ入(い)るときはその跡(あと)へ石炭酸(せきたんさん)を撒布(まきちら)す べし又(ま)た家内(かない)の者(もの)に吐瀉(はらくだし)あるとき抔(など)は無論(むろん)の事(こと)なり 【右】 家(いへ)の内外(うちそと)の掃除(さうぢ)に注意(ちうい)し断(た)えず清潔(せいけつ)になすべし殊(こと)に不潔(ふけつ) の場所則(ばしよすなは)ち庖厨(だいどころ)、便所(べんじよ)、塵芥場等(ごみあめとう)は尚(は)ほ一層注意(いちだんちうい)して清潔(せいけつ)に すべし 衆人(しうじん)の群聚(くんじゆ)する場所(ばしよ)へは立入(たちい)るべからず 流行病者(りうかうびやうにん)ある家(いへ)にはうかと入(い)るべからず 若(も)し止(や)むを得(え)ざる事(こと)ありて其家(そのいへ)に到(いた)るときは充分消毒法(じふぶんせうどくはふ) を行(おこな)ひ帰(かへ)りたるとみも直様消毒法(すぐさませうどくはふ)を行(おこな)ふべし 若(も)し家内(かない)に流行病者(りうかうびやうにん)ありて自宅(うち)にて療養行届(れうぢゆきどゝ)かざると思(おも) ふときは速(すみや)かに避病院入(ひびやうゐんいり)を願(ねが)ひ出(い)づべし 暑中(しよちう)は他(た)に出(い)でゝ飲食(のみくひ)は無論厠等(むろんかはやとう)へも決(けつ)して往(ゆ)くべから 【左】 ず 常(つね)に為(な)す職業(かげふ)なりとも度外(あまり)に勉強(べんきやう)なすべからず 《割書:新|撰》暑中養生法(しよちうやうじやうはふ) 畢 【右】   《題:〇鶴鳴堂新版發兌廣告》 《題:〇《割書:諸大家|新発明》學術博覧會《割書:毎月一冊づゝ出版初編二編既刻三編以下陸讀出版|一部定價金十銭十部前金金八十銭府外は郵税二銭宛》》 右は専ら先人未發の高論卓説を纂輯の主意なれば出典確実にして鮮明なるものゝみを 精選陳列して真に學術博覧會の題号に背からざんとすれば看客諸君愛讀を垂れよ又た 大方の諸君子博学の諸大家は其研究発明の論説を秘することなく此会場に出品して以 て共に文化を賛け玉へ 初編出品目次〇武烈天皇御紀の誤謬〇延喜帝の御失徳〇作者の不敬〇伯夷叔齊は謚号 と云る説《割書:附|》孝子、孫、子と稱する辨〇平将門叛反の原因並将門祟を為す辨《割書:附|》平貞盛の大 悪無道〇源義経安宅関危難の虚説《割書:附|》義経の寛仁大度〇史類を読む心得〇日本歴代帝号 の読例〇東照公の英人へ與へたる通商免許の信牌《割書:附|》鎮國攘夷発令の原因〇一丁字〇西 人虞書信偽の論 二編出品目次〇平假名字体の誤謬〇情死の起源《割書:附|》聖徳太子妃と共に斃じ給ふの辨〇源 実朝は公暁の讐に非ず《割書:附|》頼朝の血統を絶つ者は公暁なり〇清和天皇惟喬親王御位争ひ の虚談《割書:附|》紀名虎伴善雄の角觝〇一筆啓上の説〇樊膾排闥の辨〇ゐもりを惚藥とする大 誤謬〇悴の字義〇稽古の濫用〇山海の珍味〇跋提河の考〇倭は日本の総稱に非ず〇世 界の六書体〇浄瑠璃の濫觴《割書:附|》小野於通浄瑠璃十二段の序〇カメの説 【左】   附録(ふろく) コレラ豫防歌(よばうのうた)はしがき 嗚呼惡(あゝにく)むべきは虎列刺病嗚呼畏(これらあゝおそ)るべきは虎列刺病(これら)と千人(せんにん) が千人万人(せんにんまんにん)が万人皆之(まんにんみなこ)れを悪(にく)み之(こ)れを畏(おそ)るゝば既(すで)に遠(とほ)く は安政戌午(あんせいうまどし)の流行近(りうかうちか)くは明治巳卯(めいぢうどし)の蔓延(まんえん)の実況(じつち)を目撃(もくげき)せ し人々(ひと〴〵)なることは言(い)はずして知(し)ることを得(う)れども中(なか)には 頑愚固陋(ぐわんこ)の徒(やから)ありてその身(み)は無論往々一家(むろんまゝいつか)の者(もの)より近隣(きんじよ) の者(もの)へまで迷惑(めいわく)をかけるものあるより畢竟此(ひつけふかく)の如(ごと)き惨状(ありさま) を現出(あらは)すに至(いた)れるものなり故(ゆゑ)に今(いま)これらの為(た)めにその性(す) 質及(じやうおよ)び豫防養生(よばうやうじやう)の要領(かなめ)を何人(だれ)みの解(げ)し易(やす)く覚(おぼ)え易(やす)きやう 【右】 にとていろは四十七字(じ)を頭(かしら)に冠(かぶ)らせたる狂歌(きやうか)となしたれ は能(よ)く〳〵之(こ)れを遵守(まも)りさへすれば流行病(はやりやまひ)を豫防(よぼう)すること 毫(すこし)も疑(うたが)ひなしとその證文(しやうもん)を書(か)くの如(こと)し          編 者 記 【左】   コレラ豫防歌(よはうのうた)          中 野 了 随 著 《題:い》 いはずとも此等(これら)の事(こと)と等閑(なほざり)に      思(おも)ふ徒(やから)がころり死(し)ぬなり 《題:ろ》 ろんよりの證據(しやうこ)は慥(たし)か先年中(せんねんぢう)      これらで死(し)にし人(ひと)の數々(かず〳〵) 《題:は》 はじまらぬ中(うち)が肝腎要(かんじんかな)めぞと      豫防養(よばうやう)じやう第一(だいいち)にせよ 《題:に》 にもつより手紙手道具何唐(てがみてだうぐなにから)も      直(すぐ)に傳染(うつ)るぞこれら病毒(びやうどく) 【右】 《題:ほ》 ほんもとは印度國(てんじくこく)と云(いへ)はこそ     これらは皆(みん)な佛(ほとけ)にぞなる 《題:へ》 へど下(くだ)りあらば少(すこし)も油断(ゆだん)すな     これらの始(はじ)め同(おな)じもの故(ゆゑ) 《題:と》 とほく唐渡(からわたり)て來(き)ても虎列刺病(これらびやう)      草臥(くたびれ)もせず毒(どく)のはげしき 《題:ち》 ちら〳〵と今年(ことし)も最早始(もはやはじめ)れば      虎列刺退治(これらたいぢ)の手筈為(てはづなす)べし 《題:り》 りきみ立(だて)しても病(やまひ)に勝(かた)れねば      ころりと負(まけ)て養生(やうじやう)をせよ 【左】 《題:ぬ》 ぬかにくぎ不開化人(ふかいくわじん)の不養生(ふやうじやう)      自分(じぶん)はかりの迷惑(めいわく)でなし 《題:る》 るゐじでも矢張傳染(やはりうつる)ぞ流行病(こらびやう)      些細(ささい)な事(こと)と隠(かく)しだてすな 《題:を》 をとりとも成(なる)は食物氣(しよくもつき)を付(つけ)て      消化(こなれ)の惡(あし)き物(もの)は食(く)ふなよ 《題:わ》 わかきにも老(おひ)にも依(よら)ぬ流行病(はやりもの)      傳染(うつ)れば最後命(さいごいのち)とらるゝ 《題:か》 かぜ引(ひき)が皆始(みなはじま)りとなるなれば      裸体肌(はだかはだ)ぬき寝冷(ねびえ)するなよ 【右】 《題:よ》 よばうには大酒大食不潔(たいしゆたいしよくよごれ)もの      房時(ばうじ)は殊(こと)に深(ふか)くつゝしめ 《題:た》 たいせつな己(おの)が命(いのち)の事(こと)なれば      餘所(よそ)に思(おも)ふて後悔(こうくわい)をすな 《題:れ》 れうぢ中(ちう)ほんに手厚(てあつ)な避病院(びびやうゐん)      家内(うち)で何程(なにほど)するも及(およ)ばじ 《題:そ》 そうしんが冷(ひえ)て氷(こほり)の様(やう)なるは      大抵死(たいていし)をば免(のが)れざるなり 《題:つ》 つめ切(きり)で避病院(ひびやうゐん)には醫者(いしや)が有(あり)      りんき応変術(おうへんじゆつ)をつくすぞ 【左】 《題:ね》 ねびえから出(でる)が重(おも)ぞと心得(こゝろえ)て      木綿紋派(もめんもんば)を腹巻(はらま)きにせよ 《題:な》 なをざりに思(おも)ふ心(こゝろ)がその始(はじ)め      虎列刺(これら)ば腹(はら)の盗人(ぬすひと)と知(し)れ 《題:ら》 らい客(きやく)が有(あり)て雪隠(こうか)に入(い)る時(とき)は      跡(あと)へ藥(くすり)を兎(と)もかくも撒(ま)け 《題:む》 むし眼鏡(めがね)にても見兼小虫(みかねるこむし)でも      鼻(はな)より入(い)れば大物(おほもの)となる 《題:う》 うち皮(かは)のたゞれ破(やぶ)れて臓腑(はらわた)の      屑(くづ)と血液(ちしる)が下痢(げり)と成(なる)なり 【右】 《題:ゐ》 ゐの猪(しゝ)の武者振付(むしやぶりつい)て助(たす)かつた      前年(まへに)ころりの命(いのち)わするな 《題:の》 のぞくべき此病毒(このびやうどく)は油断(ゆだん)なく      奇麗(きれい)にはらへ家(いへ)も身体(からだ)も 《題:お》 おほかいや虎(とら)より怖(こは)く畏(おそれ)るは      二日(ふつか)も待(また)ぬ虎列刺病(これらびやう)なり 《題:く》 くだり物嘔吐(ものへど)その他(ほか)も塵溜(こみため)や      下水(げすゐ)の中(なか)へ捨(すつ)るのは惡(あ)し 《題:や》 やう体(だい)は一層(いつそう)つよき眞虎列刺(しんこれら)      肌膚(はだ)に紫色(むらさき)しはを生(しやう)ずる 【左】 《題:ま》 まんえんは下(くだ)りの中(なか)に毒有(どくあり)て      それを嗅(かぐ)より皆傳染(みなうつる)なり 《題:け》 げ水(すゐ)をば通(つう)ずる様(やう)に浚(さら)ふべし      滞(とゞこ)ほるのは身体(からだ)にもどく 《題:ふ》 ふく痛(つう)の無(なく)て始(はじ)まる者(もの)もあり      薄黄色(うすきいろ)なるくだり澤(たく)さん 《題:こ》 ごみための塵(ごみ)は度々取(たび〳〵とり)のけて      あとへ豫防(よばう)の藥(くすり)まくべし 《題:え》 えび蟹(かに)や未熟果實(みじゆくゝだもの)もちに蕎麥(そば)      天麩羅等(てんぷらなど)は食(くら)ふべからず 【右】 《題:て》 で先(さき)にて成丈(なるた)け食事(しよくじ)す可(べか)らず      飲食(のみくひ)がみな媒(なか)だちとなる 《題:あ》 あうと下利有(げりあら)ば少(すこし)も油断(ゆだん)すな      是(これ)ぞ虎列刺(これら)の始(はじめ)なりけり 《題:さ》 ざう腑(ふ)をば荒(あらし)て起(おこ)る症(しやう)なれば      腹(はら)の痛(いたみ)もなみ〳〵でなし 《題:き》 きう死(し)にも一生(いつしやう)を得(う)る事(こと)も有(あり)      之(これ)は手當(てあて)の遅速(ちそく)にぞよる 《題:ゆ》 ゆ断(だん)より大敵(たいてき)これら來(く)る時(とき)は      防(ふせ)ぐ名醫(めいゝ)も持(も)て餘(あま)すなり 【左】 《題:め》 めの前(まへ)にあたら命(いのち)を落(おと)せども      避病院入(びやうゐんい)りを嫌(きら)ふ馬鹿者(ばかもの) 《題:み》 み舞(まひ)にも餘儀(よぎ)なく行(ゆか)ば炭酸(たんさん)を      衣類身体(きものからだ)へ吹(ふけ)よみつしり 《題:し》 しやう買(ばい)に響(ひゞ)く病(やまひ)を恐(おそ)れなば      豫防養生(よばうやうじやう)おろそかにすな 《題:ゑ》 ゑふも亦豫防(またよばう)だ抔(など)と名(な)を付(つけ)て      兎(と)かくにすごす酒(さけ)は大毒(だいどく) 《題:ひ》 ひきつりや手足(てあし)の冷(ひえ)に口咽(くちのど)の      渇(かは)きが止(やめ)ば止(なほ)るのもあり 【右】 《題:も》 もしもこの病(やまひ)に罹(かゝ)る事(こと)あらば      直様醫者(すぐさまいしや)の指揮受(さしづう)くべし 《題:せ》 せう毒(どく)の藥(くすり)をつねに用意(ようい)して      衣服身体(きものからだ)へ日々(ひゞ)に吹(ふく)べし 《題:す》 すこしでも豫防養生怠(よばうやうじやうおこ)なるな      大敵虎列刺(たいてきこれら)の退治(たいぢ)する迄(まで) コレラ豫防歌畢(よばうやうのうたをはり) 【左】 明治十七年五月廿日出版御届 明治十七年六月四日出版發兌   定價金十銭    編輯人   群馬縣士族           中 野 了 随          群馬縣上野國南甘樂郡          原坂村百十四番地    出版人   東京府平民           高 橋 種 日本橋區大傅馬町二丁目六番地 發兌元   東京日本橋區大傅馬町二丁目六番地              鶴 鳴 堂【印】鶴鳴堂   大賣捌    同 京橋區南鍋町一丁目七番地           兎 屋 誠   同      同 日本橋區馬喰町二丁目一番地           森 屋 治 兵 衛   同      同 日本橋區本石町一丁目九番地           椀 屋 喜 兵 衛   同      同 日本橋區通旅篭町二番地           袋 屋 亀 次 郎   同      同 京橋區加賀町十二番地           由 巳 社    鶴鳴堂出版發兌書目 〇《割書:萬國|無比》日本勅諭國會論 全一冊 定價金六銭 郵税二銭 〇演説文章冒頭語類 全一冊 同十銭 同 二銭 〇《割書:見光|主義》自 由 燈 全一冊 同 八銭 同二銭    一名卑屈の目ざまし 〇《割書:開巻|喫驚》明治珍談奇聞 全一冊 同 十五銭 同 四銭 〇《割書:時事|剴切》近世名士尺版牘 全一冊 同 十銭 同 二銭 〇《割書:古今無類|厭制惨状》印度の虐政 全一冊 同 二十銭 同 四銭 〇通俗徴兵安心論 全一冊 同 十三銭 同 二銭 〇《割書:改|正》徴兵心配なし 全一冊 同 七銭 同 二銭 〇《割書:鹿島|飛報》二代目西郷出現禄 全一冊 同 三銭 同 二銭 〇神経闇開化怪談 初編 全一冊 同 二十銭 同 四銭 〇神経闇開化怪談 二編 全一冊 同 廿五銭 同 四銭 〇神経闇開化怪談 三編大尾 全一冊 近刻 〇《割書:諸大家|新發明》 學 術 博 覧 會 《割書:毎月一冊宛出版定價十銭郵税二銭|十部前金八十銭外に郵税二十銭》 【記述なし】 【記述なし】 【右】 060594―000―6 特49―449 新撰暑中養生法 附、コレラ予防歌 中野 了随 著   M17  CBM―0449 【左】  《割書:新|撰》暑中養生法   中野 了随  国立国会図書館