【表紙題箋】 煙草記 【資料整理ラベル】 特1 3404 煙草記   目次          【 蔵書印朱印】白井氏蔵書  題辞   異号   和語   号評  煙管   時代   製作   名処  奇説   禁免   費利   気味  功能   毒害   得失   解毒  調法   証書   長歌   狂歌  狂詩   伝賛   徒然   起請  薫功   歌仙   増加   跋語   目次竟 【 蔵書印朱印】 帝国 図書 館蔵 【右丁】 題辞 煙-草行_レ世一-物多-名有_レ能有_レ毒有_レ得有_レ失当-世之-人 代_レ茶易_レ酒日-用無_レ闕以為_二敬-愛_一大-清倪-朱-謨本-草彙- 言曰北-人日-用為_レ常客-至即然_レ煙奉_レ之以申_二其-敬_一愛【爰ヵ】- -知和-漢土-異人-情是-同近-世説_二煙-草_一者不_レ可_二勝-言予- 曽随_二見-聞_一而抄-出及_二数-十紙_一今過-半革_二国-字_一以与_二児- -女之戯-翫_一名曰_二煙-草-記_一耳 宝暦六丙子年仲春 【左丁】 煙草記   異号 煙   芬   切芬  煙草  蔫草 煙児  煙火  煙花  煙葉  烟酒 煙草火 返魂烟 返䰟草 金糸烟 金糸草 相思草 担不帰 淡婆姑 淡把姑 淡芭菰 南蛮煙 南蛮草 南霊草 南草  慶長草 貧報草 貧乏草 愛敬草 敬愛草 思案草 分別草 長命草 延命草 延寿草 慶喜草 常楽草 永楽草 常盤草 養気草 長嗜草 長嗜烟 延嗜草 愛烟草 閑友草 大平草 丹波粉 多葉粉 多波古 太羽古 太婆古 【右丁】 打破魂  痰発粉  た    莨菪   䕞𦿆 莨𦿆   蒗蕩   䕞殤   𦵧薚   𦺫𦿆      和語(わご) 羅山(らさん)のいはく佗波古(たはこ)希施婁(きせる)はみな番語(はんご)なりと貝原(かいばら)のいはく 多波古(たはこ)は異国(いこく)の方言(はうげん)なりと或(あるい)はいはく日本([に]つほん)に初(はじ)めて来(きた)りし時(とき) 丹波(たんば)の国(くに)よりその粉(こ)を割出(きさみだ)すゆへ丹波粉といふこの説(せつ)は妄語(まうご) なりと又いはく烟草(えんそう)北京(ほくきん)にても韃(たつ)子にてもたはこといふ 和語(わご)にあらずと按(あん)するにたばこ日本に始(はじ)めて渡(はた)【「わた)の誤記ヵ】りしときの 故実(こじつ)明(あきらか)に知がたし幸(さいわい)に明(みん)清(しん)の医書(いしよ)に淡婆姑(たんはこ)淡芭菰(たんはこ)淡(たん) 把(は)姑の三体(さんてい)あり今(いま)これをもて字音(じおん)を弁(べん)せんこの三体 共(とも)に 同音(とうおん)なりこれけだし華人(くはじん)蛮語(ばんご)に的中(てちう)【ママ】する音字(おんじ)を附(ふ)する 所(ところ)なるべしこの音字(おんじ)をは和人(わしん)の口(くち)に字面(しめん)のまヽに音(おん)に読時(よむとき)は 【左丁】 たんはこなり然(しか)るをんを略(りやく)してたばことはを濁(にご)りて呼(よぶ)も のかこのゆへに和人(わじん)侘波古(たばこ)多波古(たばこ)太葉粉(たばこ)とかくものなり然(しか)りと いへども和人の口(くち)にてたばことよぶ所(ところ)華人(くはしん)蛮人(ばんじん)の耳(みゝ)には 通(つう)じがたし通(つう)ぜざる時(とき)ははた孰国(いづく)の語(ご)とせんや爰(こゝ)にしんぬ たばこは蛮語(ばんご)の変易(へんゑき)にしてやはり和語といゝつべし譬(たとへ)は 形(かたち)と影(かげ)とのことしたヾし華人(くはじん)はたヾ烟(ゑん)と呼(よぶ)と聞(きこ)へたり      号評(かうへう) 烟火(ゑんくわ)◦煙花(ゑんくわ)◦煙葉(ゑんゑふ)◦烟草火(ゑんさうくわ)◦烟(ゑん)◦芬(ふん)◦切芬(せつふん)◦の七体(しちてい)はみな当然(たうぜん) の名(な)にして義(ぎ)も見へねど明(みん)清(しん)の医書(いしよ)にのするゆへ これをいだすたヾし異国(いこく)にても近比(ちかごろ)は号称(かうしやう)をかんこに たヾ烟(ゑん)とよび芬(ふん)とよぶときこへたり 金糸烟(きんしゑん) 金糸草(きんしさう)は 割烟草(きざみたばこ)の形(かたち)はいまだ金襴(きんらん)にをらざる刻(きざ)める 【版心書名】    煙草記 【右丁】 金薄紙(きんはくし)ににたるの意(こゝろ)にて名(なづく)るかこれ尤(もとも)美称(びしやう)なりたゞし 本綱(ほんかう)に金糸草(きんしさう)といふあり三字(さんじ)全同(まつたくおなじふ)して其物(そのもの)ことなり 返魂烟(はんごんゑん)返䰟草(はんごんさう)は 人(ひと)の血気(けつき)鬱々(うつ〳〵)【欝は俗字】として事(こと)にうみ睡眠(すいみん)を 催(もよふ)するの時(とき)たばこ一ふくのめは忽(たちま)ち正気(しやうき)になるの意(こゝろ)にて なづくるかこれたばこの功能(こうのう)の名(な)なり 相思草(さうしさう)は 烟草(たばこ)を嗜(すく)人は日夜(にちや)つねにこれを相([あ]い)おもふて 暫時(しばらく)も忘(わするゝ)る【衍】ことなくまがなすきがなこれを呑(のむ)これは好(すき)の はなはだしきとおもひの切(せつ)なるとの名(な)なり 烟酒(ゑんしゆ)は 気味(きみ)つよきたばこをおほくのめば嘔噦(おうえつ)【左ルビ:ゑづき】悪心(あくしん)【左ルビ:むね[わるし]】頭目(づもく) 昏暈(こんうん)【左ルビ:くるめく】をいたし酒(さけ)にゑふたるごとく苦(くるしむ)ことはなはだし これゑふといふこと有(ある)の名(な)なり 但不帰(たんふき)は たばこうりたばこをになひ諸方(しよはう)に売廻(うりまは)るに 【左丁】 よく捌(さば)けるゆへ売(うり)残(のこ)るといふことなく売(うり)たらざる日(ひ)多(おゝ)きの 意(こゝろ)にて名(なづく)るかこれはやるの名(な)なり 淡婆姑(たんばこ) 淡把姑(たんばこ) 淡芭菰(たんばこ)は 烟草(たばこ)につきて人の名(な)なり 事(こと)奇説(きせつ)の中(なか)に見えたり 南蛮烟(なんばんゑん) 南蛮草(なんばんさう)は たばこはもと南蛮国(なんばんこく)より渡(わた)りし 物(もの)といふ意(こゝろ)にてなづくるかまた南霊草(なんれいさう)南草(なんさう)の二(ふたつ)も 同意(だうい)なるへし 慶長草(けいちやうさう)は 烟草(たばこ)は慶長年中(けいちやうねんちう)に渡(わた)りし物(もの)といふ説(せつ)に よりてなづくるか 貧報草(びんぼうさう) 貧乏草(びんぼうさう)は 名義(めうぎ)費利(ひり)の評(へう)に見へたり 愛敬草(あいけうさう) 敬愛草(けいあいさう)は たばこ世(よ)にさかんに行(おこな)はるゝゆゑ 上(かみ)中(なか)下(しも)おの〳〵交(まじはり)に互(たがひ)に愛敬(あいけう)あるの意(こゝろ)にてなづくるか 【右丁】 思案草(しあんぐさ) 分別草(ふんへつさう)は 事(こと)にふれ思案(しあん)分別(ふんべつ)するの間(あいだ)に たばこをまじへのめばその内にはよろしき思(し)あんも いでくるのこゝろにてなづくるか 長命(ちやうめい) 延命(ゑんめい) 延寿(ゑんじゆ) 慶喜(けいき) 常楽(じやうらく) 永楽(ゑいらく) 常盤(ときは) 養気(やうき) 長嗜(ちやうぎ) 愛烟(あいゑん) 閑友(かんゆう) これらはみなたばこを好(すき) 楽(たのしむ)人のしひての美名(びめい)なるべし 莨菪(らうたう)は 本草綱目(ほんざうかうもく)第(だい)十七 巻(くわん)毒草(どくさう)の部(ぶ)にのせて註釈(ちうしやく) 広(ひろ)し又 他(た)の医書(いしよ)にもこれを弁(へん)ず又(また)和漢三才図絵(わかんさんさいづゑ)に 按評(あんへう)詳(つまひらか)なり孰(いづれ)も烟草(ゑんさう)と物(もの)ことなり莨菪(らうたう)はをゝみる 草(くさ)となづくる毒草(どくさう)なり誰人(たれひと)あやまりてたばこの真字(まな)とするや 今 字引(じびき)の類(るい)にまで是(これ)をあやまる正字通(しやうじつう)字典(じてん)等(たう)にも たばこの訓義(くんぎ)なし博達(ばくたち)の人 証拠(せうこ)あらばきかまほし 【左丁】 太平草(たいへいさう)は 按(あん)ずるに煙草(ゑんさう)は諸説(しよせつ)おほくは慶長年中(けいちやうねんぢう)に 到来(たうらい)といふすでに慶長 年間(ねんかん)よりはやり年々(ねん〳〵)に呑(のむ)人 多(おほ)くなり当今(たうこん)殊(こと)にさかんに四方(よもに)はやりぬ謹(つゝしん)て考(かんがふ)るに慶長と 改元(かいげん)の砌(みぎり)は天下(てんか)一 統(とう)に安穏(あんをん)に治(おさま)り且(かつ) 御当代(ごたうだい)に移(うつり)て已来(このかた)今日(こんにち)に至(いた)り天下太平(てんかたいへい)なりといふ 義(ぎ)に依(より)て祝(いわひ)奉りての祝名(しゆくめい)なるか然(しかれ)ば殊(こと)に目出度 号(がう)なり     吸管(きせる) 尋(たつぬ)るにたばこの初(はじめ)て渡(わた)りし時節(じせつ)にはきせるといふ物(もの)なく たゞ紙にて烟草(たばこ)をまき筆(ふで)篥(しちりき)のことくになしてのみその 紙(かみ)にまくとき紙(かみ)半分(はんぶん)はたばこをふとくまき半分は紙ばかり 細(ほそ)くまき火を移(うつ)し細(ほそ)き方(かた)よりすいしとなり或(あるひ)はよし細(ほそ)き竹(たけ) をそぎてそげたる方(かた)にたばこをもりてのみけるとかや其後(そのゝち) 【右丁】 【版心書名】   煙草記 蛮客(はんかく)ども吸管(きせる)をもちしにより長崎人(ながさきびと)是(これ)を手本(てほん)にして 銅(あかゞね)をもてきせるつくり呑(のむ)或(あるひ)は頭尾(とうび)【左ルビ:がんくひ】ばかり作(つく)りてあひだは 細(ほそ)き竹(▢け)を続合(つぎあわせ)てもちゆこれより人の意楽(いげふ)にまかせて 烟管(きせる)烟袋(たばこいれ)管嚢(きせるづゝ)烟盆(たはこほん)火器(ひいれ)唾脱(はいふき)に至(いたる)迄(まで)金(きん)銀(ぎん)銅(とう)鍮(ちう)鉄(てつ)鉛(なまり) 金襴(きんらん)織物(おりもの)奇才(きざい)珍木(ちんほく)異竹(いちく)奇石(きせき)等(たう)をもて種々(しゆ〳〵)の異形(いぎやう)を つくりもてあそぶことにはなりぬもしも已前(いぜん)には客来(きやくらい)の 馳走(ちさう)に烟草(たばこ)を吸管(きせる)にもりて請取(うけとり)渡(わた)し礼(れい)ありと今は すたりたゞ火いれに火を納(いれ)て烟盆(たばこぼん)差出(さしいたす)の通礼(つうれい)なり     時代(じだい) 或書(あるしよ)にいはく天正(てんしやう)年中に南蛮(なんばん)の商舶(しやうはく)【左ルビ:あきふとぶね】始(はしめ)てたばこの種(たね)を貢(こう)す もて長崎(ながさき)の東土山(とうどさん)にうゆと或(あるひ)はいはく慶長 年間(ねんかん)に南蛮(なんばん)の 人 肇(はじ)めて本 邦(はう)につたふと或(あるひ)はいはく慶長(けいちやう)年中(ねんぢう)に朝鮮(てうせん) 【左丁】 より初(はじめ)て我朝(わがてう)に送(おく)ると或人(あるひと)の説(せつ)【注】に秀吉公(ひでよしこう)朝鮮陣(てうせんぢん)の砌(みきり)士卒(しそつ) 呑(のみ)覚(おぼへ)かつ其 種(たね)も到来(たうらい)すとある草紙(さうし)に慶長十年に異国(いこく)より 日本へたばこ始(はしめ)てわたると諸書(しよしよ)の説(せつ)多(おほ)くは慶長年中と いへり然(しかれ)は今宝暦五年に至(いた)り凡(およそ)百六七十年になりぬ     製作(せいさく)       名処(めいしよ) 製作(せいさく)の法(はふ)は農業全書(のうけふぜんしよ)にくはし 名処(めいしよ)は烟草(ゑんさう)名所記(めいしよき)に詳(つまびらか)なり     奇説(きせつ) 或書(あるしよ)に相 伝(つたふ)海外(かいぐわい)に鬼国(きこく)ありかの俗人(ぞくじん)病(やむ)て将(まさ)に死(し)せんとする時は 即(すなはち)かひて深山(しんさん)におくむかし国王(こくわう)の女(ひめ)病(やまひ)革(あらた)なるありこれを すてさるそのゝち人ありてその女(ひめ)をすてしあたりを過(すぐ)るに 芬馥(かくはしき)の気(き)をきく尋(たつね)探(さぐ)り見れは草(くさ)あり即(すなはち)よつて是(これ)をかぐ たちまち遍体(へんたい)清涼(しやうりやう)なることを覚(おぼ)ふ霍然(くわくせん)として起(たつ)て奔(はしり)て 【注 「言」扁には「イ」に見える崩し字あり。】 【右丁】 【版心書名】     煙草記 宮中(きうちう)にいる人もて異(い)とすよつて是(これ)を得(えた)りと 或書(あるしよ)に伝(つたう)らく 南蛮国(なんばんこく)の女人(によにん)淡婆姑(たんばこ)といふものあり痰疾(たんしつ)をうれふ年(とし)を つんでこの草(くさ)をふくして瘳(いゆ)ることを得(ゑ)たりかるがゆへに 淡婆姑(たんはこ)となづくと 或(ある)書に日本の東方(たうばう)にあびりかといふ 国(くに)ありこの国に一人の美女(ひちよ)あり名を淡婆姑(たんはこ)と云(いふ)国中(こくちう)の男子(なんし) 此女(このおんな)を恋(こひ)したふもの甚(はなはだ)多(おほ)かり死(し)せし後(のち)まで世(よ)になつかしむ人 多(おほ)くある時一人の男子(おのこ)この墓(つか)に詣(もふ)でしに秋(あき)の日 早(はや)く暮(くれ)にけれは 其(その)まゝにて通夜(つや)せしに夜(よ)ふけて甚(はなはだ)飢(うへ)たりよつて其あたりを 探(さぐ)り見れば草(くさ)のかうばしきあり一葉(ひとは)をとりて喰(くらふ)ふ【衍】にうへ 忽(たちまち)にやみ身(み)も温(あたゝ)かに冷風(りやうふう)肌(はだへ)を犯(おか)すことなくして嶂(しやう)【或は「𢕔」ヵ 注】気を 防ぐこと酒(さけ)を飲(のむ)がごとし此(この)ゆへに南霊草(なんれいさう)と号(かう)すと     禁免(きんめん) 【左丁】 物理小識(ふつりせうしき)にいはく崇禎(そうてい)の時(とき)にきびしく烟草を禁(きん)ずれとも 止(やま)ずと 或書にいはく大 明(みん)崇禎(そうてい)十一年の令(れい)にいはく私(ひそか)に販烟酒(たばこや) 外夷(かいゐ)に売通(うりかよ)ふものあらば多寡(たくは)に拘(かゝ)はらす梟斬(こくもん)せんと 博(はく) 学彙書(がくいしよ)【「〳〵」は誤記】にいはく崇禎(そうてい)に先帝(せんてい)これを禁(きん)ず売烟者(たはこや)を殺(ころ)してもて これを儆(いまし)むるに至(いた)る晩年(▢んねん)帝(みかど)旨(むね)あつて始(はしめ)て内外(たいぐはい)に諭(さと)し その禁(いましめ)をゆるしたまひて海内(かいだい)の児童(じどう)婦女(ふによ)みなもつはら これをもちゆと 或書にいはく日本元和寛永のころ天下に 令(れい)【左ルビ:ふれ】してたばこをうゆることを禁(きん)ぜしむ然(しかれ)とも止(やむ)ことをゑず つゐに茶酒(ちやしゆ)の上(かみ)にたつ好(すか)ざる者(もの)は百中に二三人のみ小毒(せうとく) ありといへども多く嗜(すく)ものはまた害(かい)なし阿蘭陀(おらんだ)朝鮮(てうせん)琉球人(りうきうじん) またみなこれすくと按(あん)するに天竺 諸蛮(しよばん)いづれのところかこれ なからん始(はし)め近(ちかふ)して疾(はやく)弘(ひろ)まるものなり 【扁が石にも見えるが𥕞は『大漢和辞典』に見当たらず。】 【右丁】     費利(ひり) 或書にいはく往古(むかし)煙草(たばこ)なくしてたらざることなしおほく これを吸(すふ)てもまた一 匊(きく)【左ルビ:ひとにきり】の糧(かて)にもみたず田圃(たばこ)を費(つゐや)し穀類(こくるい)を 減(げん)ずかるがゆへに貧報草(ひんばうくさ)といふとしかりといへども今(いま)時(とき)山間(さんかん) 野外(やくわい)猛獣(まうしう)の田圃(たはこ)を荒(あら)すの地(ち)には烟草をうへ作損(さくそん)の患(うれへ) なく年貢(ねんぐ)上納(じやうのふ)のためには却(かへつ)て利(り)ありと思へば中華(から)にも亦(また) この理(り)あらむか理(り)は一 概(がい)に究(きは)むべからす凡(およそ)烟草 世(よ)にさかんに はやるをもて烟筩(きせる)烟袋(たはこいれ)烟盆(たはこぼん)割店(きさみや)中買(なかがい)問屋(といや)作者(つくりて)に至(いたる)まで これに依(より)て渡世(とせい)するものいく万人ならむやいにしへなくして 近世(きんせい)出興(しゆつこう)す器(き)財(ざい)食(しよく)服(ふく)多(おほ)き中(なか)にひとりこの草(くさ)のみ世に 盛(さかん)なるはあらし実(けに)も食物(しよくもつ)の珍奇(ちんき)なるものなり     気味(きみ) 【左丁】 味(あしわい)苦(にか)く辛(から)く気温(きうん)熱(ねつ)にして小毒(せうどく)あり医書(ゐしよ)の諸説([し]よせつ)多(おゝく)はかくのことし     功能(こうのう) 医書(ゐしよ)にいはく烟草は寒湿(かんしつ)痺(ひ)を治(じ)し胸中(けうちう)の痞膈(ひかく)痰塞(たん▢く)を消(せう)し 経絡(けいらく)の結滞(けつたい)を開(ひらき)人の腸胃(ちやうい)筋脈(きんみやく)たゞ通暢(つうちやう)することと【或は「を」ヵ】喜(よろこ)ぶ烟気(ゑんき) 口(くち)にいれは直(たゝち)に胃脈(いみやく)を循(めぐ)りて行(めくり)て内(うち)より外(ほか)に達(たつし)四(し)肢 百骸(ひやくがい)所(ところ)と して到(いた)らずといふことなく其 功(こう)四(よつ)あり一にはいはく醒(さめ)たるはよく 醉(ゑは)しむけだし火気(くはき)表裏(へうり)に薫蒸(くんせう)しみな 徹(てつ)して酒を飲(のむ)がご とくしかり二には醉(ゑふ)たるはよく醒(さま)しむけたし酒後(しゆこ)これを啜(すゝ)れは気(き)を 寛(ゆるく)し痰(たん)をくだし余醒(よせい)頓(とん)に解(げ)す三には飢(うへ)は能 飽(あか)しむ四には飽(あき)たるは よく饑(うへ)しむけだし空腹(すきはら)にこれをくらべ【濁点は衍ヵ】ば充然(しうぜん)として気(き)盛(さかん)に して飽(あく)がごとし飽後(ばうご)に是(これ)を食(くら)へば飲食(いんしい)快然(くわいぜん)として消(せう)し易(やす)し 或はいはく頭目(つもく)を利し風邪(ふうじや)を解(げ)し悪気(あくき)を逐(お)ひ山嵐(さんらん)瘴霧(しやうむ)を さり膿窠(のうさう)【「のうか」の誤読】疥虫(かいちう)を洗(あら)ふ或はいはく霜霧(さうむ)風雨(ふうう)の寒(かん)をふせぎ山虫(さんちう)鬼(き) 邪(じや)の気(き)を去(さる)小児(せうに)これをくらへはよく疳積(かんしやく)を殺(ころ)す婦(ふ)人これをくらへは能(よく) 癥痞(ちやうひ)を消(せう)す或はいはく手足(しゆそく)一十 三徑(さんけい)を通行(つうかう)し九竅(きうけう)を通利(つうり)す或は 鬱気(うつき)を散(さん)し眠(ねふり)を除(のぞ)くと     毒害(どくがい) 医書(いしよ)に曰(いはく)人の宗気(そうき)一呼(いつこ)に脈(みやく)行(めぐ)ること三寸一 吸(きう)に脈行ること三寸 昼夜(ちうや)に 一万三千五百 息(そく)身(み)を五十 周(しう)し脈行ること八百一十丈これ自 然(ぜん)の 節度(せつど)なり臓腑(さうふ)経絡(けいらく)みな気(き)を胃(い)にうくけふり胃中(いちう)にいれは頃刻(しはらく) にして身(み)をめぐり常度(しやうど)にかゝはらずして駛疾(ししつ)の勢(いきほひ)あり是(こゝ)をもて 気道(きたう)頓(とん)に開(ひら)く通体(つうたい)ともに快然(くはいせん)たり火(ひ)と元気(けんき)と両(ふたつ)ながら立(たゝ)ずして 一たび勝(かつ)ときは一たびまく人の元気あにこの邪火(しやくは)を終日(ひねもす)薫灼(くんしやく) するにたへむやいきほひ必(かならす)真気(しんき)は日(ひゝ)に衰(おとろ)へ陰血(いんけつ)は日(ひゞ)に涸(かれ)て暗(あん)に 【左丁【】 天然を損(そん)ずれども人覚ざるのみ陰虚して火有ものは呑(のむ)へからず 或は曰 久(ひさしく)服(ふく)すれは肺(はい)焦(たゞ)れ隔(かく)を患(うれふ)るにあらすんは即紅を吐(と)し或は 黄 水(すい)を吐(と)して殤す或は唾(つは)を多く吐(はく)ものは呑べからず或は曰(いはく) 房事(はうじ)の後に忌べし陰([い]ん)を損(そこな)ひ火をさかんにすと     得益(とくゑき)   第一に 鬱気(うつき)を開(ひら)き気(き)力をます なにとなく気のはれやらむ物うきにたはこくゆらせ力(ちから)つくもの   第二に 客(きやく)来(らい)馳走(ちさう)の始(はしめ)によろし 客(きやく)あれは御 茶(ちや)より先(さき)に烟盆(たはこほん)からもやまとも【唐も大和も】同しことなり   第三に つれなきときの友たり 夜はふくる人はしつまる茶はひゆるたばこふすぶる目こそ覚(さめ)ける   第四に 諸職(しよしよく)仕(し)ごとの息(いき)つぎ よじのぼる峠(とうげ)に息(いき)をつくたばこ四(よ)方を見渡(みわた)す楽(たのし)草なり   第五に 思案(しあん)工夫(くふう)の問屋(といや) 悪きこと聞(きく)やいかりにもゆる火をたはこに移し吹けふり見よ     過失(くはしつ)   第一に きせるをもつて人の頭を打事 いかにまたはらのたつともきせるにて人のかしらをたゝくへからす   第二に きせるを火箸(ひばし)の代(かはり)に用る事 たつねてもきうに見へすはきせるにて火をはさみてに【或は「よ」ヵ】常(つね)はたしなめ   第三に きせるをくはへなから食物の上を往来(わうらい)する事 なにほとに呑(のみ)たくおもふ時にてもかねてたしなめくひものゝうへ   第四に 吸(すい)がらをあけすてけさゞる事 吸からをあけてけさゞるたはこのみおとし紙にていらぬものなり 【左丁】   第五に 吸がらにてたゝみ衣(い)るいをこがす事 火をつけてきをつけさるたはこのみたはこたらけに灰たらけ吹(ふく)   第六に 唾(つば)を火鉢(ひばち)こたつかまどのはいに吐事 はいふきのなき所てはこゝろへてつは吐ものはすこしにてやめ   第七に 唾(つば)をたゝみのしき合(あひ)の間(あいた)にはく事 茶屋宿屋いかにかまはぬ所とてたゝみの間につははかぬもの   第八に きせるをきびしくたゝく事 さよふけてきせるの音(おと)の高(たか)けれはきゝぬるぬす【ママ】やうたてかるらん   第九に はいふきをこすまてすて□【「さ」ヵ】る事 はいふきに虫迄わかす不性(ふしやう)ものよくもたはこをつひて呑かな   第十に はいふきを鼻紙(はなかみ)のかはりにする事 そんてなし水はなかみしあとほせはおとし紙にもなるとこそしれ     解毒(げとく) 凡(およそ)烟草に醉(ゑふ)たるには砂糖湯(さたうゆ)にて解(げ)す或は甘草(かんざう)或は味噌汁(みそしる) 或は塩湯(しほゆ)或は冷水(ひやみつ)にても解(げ)す或方(あるはう)に   麦門冬(ばくもんとう) 紫蘇(しそ)子 瓜蔞仁(くはろうにん)【爪は誤記】 枇杷葉(びはゑふ) 甘草(かんざう)【「う」の下部が欠如】   已上五味 等分(とうぶん)にして常(つね)のごとくせんじからを去(さり)て砂糖   一両をいれて服(ふく)す尤妙なり予(よ)是(これ)を試(こゝろみ)るに呑(のみ)にくし 或書にいはく烟筒(きせる)の中(な▢[か])の脂(やに)衣裳(いしやう)に付たるを洗(あら)ふに落(おち)されは たゞ西瓜(すいくは)の仁を加えてもめばすなはち淨(きよ)く落(おつ)となり     調法(ちやうはふ) 良安(りやうあん)の曰(いはく)南蛮流(なんばんりう)の外科(げくは)青膏薬(あおかうやく)の中(なか)に烟草(たはこ)の嫩 葉(は)の汁(しる)を いれもてよく痛(いたみ)をやめ膿(うみ)をひらき血(ち)をとめ虫(むし)を殺(ころ)す凡(おゝよ)そ 藍(あひ)及ひ諸草(しよさう)の葉(は)にむしを生(しやう)ずるもの烟草の茎(くき)の汁(しる)をそゝげば 【左丁】 よろしと 茎(くき)を束(つかね)て軒(のき)の押込(おしこみ)はらにすれば鼠(ねすみ)の往来(わうらい)をふせぐ  茎(くき)を寸々(すん〳〵)に刻(きさみ)てかはやのふんのうへにまけば虫(むし)生(しやう)ぜず  書物(しよもつ)の間(あひだ)にたばこをはさみをけばしみさりぬ 茎(くき)を 煎(せん)じてその汁(しる)にて紙(かみ)をそむればきはだの代して尤よろし  内障(そこひ)の眼(め)または青盲(あきじり)におり〳〵脂(やに)を芥子(けし)ばかりいれて よろし たゞ何(なに)となく眼(め)の内(うち)かすみやになて出るにたばこの やにをけし計(ばかり)させばたちまちあきらかなり     証書(せうしよ) 大清(たいしん)西湖(せいこ)沈雲将(ちんうんしやう)が食物本草会纂(しよくふつほんさうくわいざん)に曰 烟草火(たばこ)は東辺(とうへん)塞外(そくくはい) 海島(かいとう)の諸山(しよさん)よりいづいま中国(ちうごく)偏地(へんち)にこれあり閩(みん)に産(さん) するもの佳(よし)燕(ゑん)に産(さん)するものは次(つぎ)なり浙江(せつこう)石門(せきもん)に産(さん)するも のを下(げ)とす春時(しゆんじ)にうへて夏時(かじ)に花(はな)ひらく土人(どじん)一二 本(ほん)を 除(のぞ)ひてその花をひらくにまかせて種(たね)をとるその余(よ)はみな 頂穂(てうほ)を摘去(つみさり)て花を開(ひら)かしめずならひに葉間(ゑふかん)の旁枝(はうし)を さる人をして力を葉(は)に聚(あつ)めしむれば葉(は)厚(あつ)く味(あし[は]ひ)美(び)なり 烟草 一本(いつほん)ごとにその頂上(てうじやう)の数葉(すゑふ)を名(なづ)けて蓋露(とちば)といふ味(あぢはひ)尤 美(び)なりこの後(のち)【左ルビ:あと】の葉(は)逓(たがい)に下(くだ)り味(あちは)ひ逓(たがい)に減(げん)す秋(あき)の日(ひ)葉(は)を とり竹簾(たけすだれ)をもてはさみしばり晒(さらし)乾(かはか)して葉上(ゑふしやう)の粗筋(そきん)【左ルビ:ふときすじ】を さり火酒(くはしゆ)【左ルビ:あたゝめさけ】をもてふきかけ葉(は)を切(きつ)て形(かたち)細(こま)かなること髪(かみ)のことくし 十六両ごとに一封(ひとたま)として天下に買易(ばいゑき)すその名(な)いつならず真建(しんけん) 仮建の分(わか)ち蓋(かい)【左ルビ:と】露(ろ)頭黄(とうわう)二黄(にわう)の別(べつ)あり近日(ちかころ)北方(ほつはう)の煙(たばこ)を製(せい)する こと切(きつ)て糸(いと)となさず原晒(けんさい)煙片(ゑんへん)をもて揉(もみ)て一塊となして 普児茶(ふじちや)磚(はく)茶(ちや)のごとく一般(いつはん)なり用(もち)ゆる時(とき)揉(もみ)砕(くだき)て末(こ)となして 烟袋(たはこいれ)の中(なか)にいる烟(たばこ)を吸(すふ)の管(きせる)一ならず金(きん)銀(ぎん)銅(どう)鉄(てつ)の四種(ししゆ) 【左丁】 あり長(なか)さ約(おゝ)むね七八寸 竹(らう)管 短(みじか)きものは一二尺 長物(なかきもの)は丈(ちやう)余 事(し)を好(この)むもの吸管(きせる)長遠(ちやうゑん)なるをもてする時はけふり来(きた)ること 舒徐(おもむろ)なるを美(び)とす普(ふ)天の下(した)の人 煙(たばこ)をのむことを好(すく)もの貴賎(きせん)を 分(わか)たず男婦(なんぶ)を分(わか)たずもて茗(ちや)にかへ酒(さけ)にかふしばらくも少(かく) ことあたはず身(み)を終(おく)るまで厭(いと)はずかるがゆへにひとつには 相思草(さうしさう)と名く味ひ辛(から)く温(うん)にして毒(どく)あり風寒(ふうかん)湿痺(しつひ) 滞(たい)気 停痰(てうたん)を治し頭(つ)目を利(り)し百病をさり山嵐(さんらん)の瘴気(しやうき)を 解(げ)す塞(そく)外 辺瘴(へんしやう)の地(ち)これを食(くらふ)て尤(もつとも)宜(よろ)し凡(およそ)煙(たばこ)を食(くらふ)もの 煙(たはこ)をもて煙管(きせる)の大頭(かんくび)の内にいれ火を点(てん)じ焼(やき)吸(すふ)て口に みちて烟(けふり)を呑 頃刻(しはらく)にして一身(いつしん)を廻(めぐ)り人をして通身(つうしん)共(とも)に 快(こゝろよ)からしむ仍てこれを嘘(ふき)出(いだ)すれは醒(せい)はよく醉(すい)せしめ醉(ゑふ)は能(よく)醒(さま)しめ 飢(うへ)なく飽(あか)しめ飽(あき)はよく飢(うへ)しむ食物のもつとも奇(き)なるものなり     長歌(なかうた) たばことは まなにはなにと かくやらん さだかにしれる もじもなく 世(よ)にいろ〳〵に かきはくる こゝろをとへば みなひとの おもひつきとは しられたり ふみにいはれを きくときは このくにむかし このくさは なかりし物を ちかき世の よろこび長(なが)き ころとかや 南(みなみ)ゑびすの くによりも 渡(わた)す日の本  のみおぼへ 桜(さくら)ばゞをば はしめとし こゝやかしこに たねをうへ そだてはやして もろびとの このみ〳〵や  ひろまりて みやまはまべに いたるまで つくらぬところ なきのみか のまぬ人とて なかりけり げにめづらしや このくさに 身(み)すぎする人 おほきなる もとで少(すくな)き  ひとはたゞ 刻(きざみ)たばこに 【左丁】 とりかゝり 千里(ちさと)のたばこ とりあつめ 身はこになれと きざみぬる 色香(いろか)すぐれて なだかきは 服部(はつとり)しん田 たんばかや 小松はき原(はら)  たかさきや 国分(こくぶ)吉野(よしの)と かきたつる とかく世の中 このくさを もてはやしつゝ 客(きやく)あれば 御茶(おちや)より先(さき)に たばこぼん 愛敬草(あいけうさう)に さしいたす はなしのたへま つぎぎせる 口上ひねり ふくけふり 雲(くも)とのぼるや たつとなり 行衛(ゆくゑ)もしれぬ 相思(おもひ)ぐさ  何(なに)としやうかや 思案草(しあんぐさ) だんかふするに 分別草(ふんべつさう)  せりふにつまる きせるをは とうしてみるや 金糸煙(きんしゑん)  何(なに)につけても  中人(なかうど)くさ うか〳〵呑(のめ)ば あほうぐさ つひへな物(もの)と いふひとの 貧乏草(びんぼふくさ)と なづけたり 酒(さけ)にくらべて みるときは さのみつゐへと おもはれず よくこゝろへて のむときは 気(き)をやしなふて よきゆへに 長命草と    なづけつゝ 延寿草(ゑんじゆさう)とも かきわくる ねふりを止(やむ)る とくありて 返䰟草(はんごんさう)と いふとかや ふみにのせたる のうどくは あまたあるなり ゆひて見よ きうな血止(ちとめ)に きめうなり 茎(くき)はかふすへ ひるころし 鳥(てう)るい畜(ちく)るい 魚(うを)のるい 虫(むし)のたぐひも みなきらふ ひとり猿(さる)こそ すきくらふ たてくふ虫も きらへども たばこすく虫  あることは あやしかりける ことぞかし 仏のいます  世(よ)なりせは 五辛(ぎしん)といはず 六しんと  とかむといひし 詩(し)のこゝろ 仏につかふ ともがらは いむへき物と いましめか  神とほとけの みもとには 忌(いむか)【ママ】べき物(もの)に つく〴〵と おもひまはせは 【左丁】 このくさの ひろまることは たゞならす 君のめくみの ふかきゆへ 治(おさま)る御代(みよ)に ゆたかなる 民(たみ)のこゝろも しづかにて 月見花見や  舟(ふな)あそび  雪(ゆか)【ママ】のふるにも おもしろく 来(く)る春(はる)待(まつ)や もろひとの 目出度 御世(みよ)と よろこぶも なをあまり有(あり) とにかくに 刻(きざみ)たばこは 今の世の  たのしみ物と なりぬれは かしこき御世に いつまでも 高(たか)きいやしき へだてなく 男(おとこ)おんなや わらはまで すきこのみては けふりたちなん     ねふたさにきせるをくはへたはことを      くちにまかせてふきいだすなり     狂歌(きやうか) 近き世におこる多葉粉の中 絶(たへ)て今(いま)そ盛(さかり)に唐(から)も和(やまと)も 思ひしれ治(おさま)る御世(みよ)の目出度はうへ人だにも烟草(たはこ)呑(のむ)なり 煙草(けふりくさ)渡しもとの一しなも四方(よも)にうゑては色香(いろか)ことなり 国(くに)ことにいづるたばこの色香(いろか)名(な)も処(ところ)によりてかはりこそすれ 春うへて秋かきとるやけふりくさ雪(ゆき)すきぬれは気味(きみ)も和(やはら)く しも〳〵に呑(のみ)はやらせる烟草(けふりぐさ)雲(くも)のうへまでのぼるとぞきく 蜑(あま)のたく浦(うら)ならねとも烟草人のなみゐのしほとこそなる 誰(たれ)とてもみな呑(のむ)人にせん烟草(たばこ)をは我も昔(むかし)はきらひなれとも たばこをはすきこのみてはやめられす唐(から)も和(やまと)も同(おな)しくせなり 酒(さけ)もすきめしもおほぐひもちもすき烟草(たはこ)もすき茶(ぢや)まだすきも有(あり) かゝはでる人はたづぬる茶(ちや)はさめるきせるはつまるあるじはこまる 【左丁】 よくきけよ蛍ほとなるたばこの火こゝろゆるせばはやがねのこゑ 香(か)のよきも神と仏の御所(みもと)には忌(いみ)はゞかれよねぎとすみぞめ 世の人の夜(よる)昼(ひる)わかぬ鼻(はな)の下めしくひ茶(ちや)呑 酒(さけ)たばこのむ 花とみむかすみとたつや烟草(けふりぐさ)色香(いろか)に人のこゝろとむれは うへ人のしのびて呑(のむ)を見るにつけおもひつきこそ面白きやは たばこやはわづかけふりのわざなれと民(たみ)の家(や)ことにたゝぬ日もなし 夜(よ)もすから物思ふ比(ころ)はこのたばこねやのひまにもつれとなりけり さひしさにきせるくはへて出て見ればいづれも同したばこ呑(のむ)かな 武士のおはうちからすいとなみにこまをひかへて切(きる)とおもへは 吹(ふく)けふり雲(くも)とのほるや竜(たつ)となり行衛(ゆくゑ)もしらむうはのそらかな 雨はふるたばこはしめる火はきゆるおなかはひだるいりあひはなる いつまてもきせるはなさぬたばこのみあいつふさきつ魚(うを)もあきれる 【右丁】     狂詩 興(ヲコリ)  中花万-暦 ̄ニ東(ハシマル)日-本 ̄ニハ慶-長 ̄ニ通(ワタル)崇-禎元和 ̄ニ止 ̄レトモ漸-容 ̄テ合-     国隆 ̄ナリ 能(ノウ)  散(ハラス)_レ悶(▢ハキ) ̄ヲ【注①】元-来奪 ̄フ_二酒 ̄ノ権(チカラ) ̄ヲ_一為(ナスコト)_レ歓(▢▢▢ア▢▢)【注②】当下(タウセン)【注③】勝 ̄ル_二茶 ̄ノ賢(カフ) ̄ニ_一嘉賓(ヲキヤク)纔(イタル)至(トハヤ)     君 先(マツ)進(ヰテ)談(カタリテ) ̄ハ喫(ノミ)々(ノムテ) ̄ハ談(カタリ)《振り仮名:然-後|ソノノチ》 ̄ハ涎 ̄レ 行(ハヤル)  金-絲煙-草 掛(イタ) ̄シ_二招牌(カンハン) ̄ヲ_一店(ミセ) ̄ハ満 ̄ツ_二城-中 十字(タテヨコ) ̄ノ街(チマタ) ̄ニ_一 六-十余-州     名(ナアル)品 種(クサ)包 ̄ミ-来 ̄テ都 ̄テ-入 ̄ル万-人 ̄ノ懐 ̄ロ 刻(キサミヤ)  掃 ̄キ_レ砂 ̄ヲ吹 ̄キ_レ酒 ̄ヲ去(サ) ̄リ_二筋(スジノ)麤(フトキ) ̄ヲ_一広-狭交-重 ̄テ巻(マキ)_二畳模(ハマキイタ) ̄ニ_一頻 ̄リニ錯 ̄テ_二煙 ̄ノ刀 ̄ヲ_一     剉 ̄ニ作 ̄シ_レ線 ̄ト団-々撮-々応 ̄テ_レ需 ̄ニ酤 ̄ル 店(トヒヤ)  六-十余-州烟-草-産 ̄ス土-風葉-色味‐香殊黄-佳赤-次     黒-青 下(イヤシ)都 ̄テ集 ̄テ_二 三-津 ̄ニ_一散 ̄ス_二百途 ̄ニ_一 誡(イマシメ)  一-管莨-烟喫 ̄テ復 ̄タ吐 ̄ク恰 ̄カ[モ]似 ̄リ_二焔-口鬼-中 ̄ノ身 ̄ニ_一当所鹿-苑 ̄ニ 【左丁】     生 ̄セハ_二斯-艸 ̄ヲ_一不_レ説_二 五辛 ̄ト【一点脱】説 ̄ン_二 六-辛 ̄ト_一 皃(カタチ)  観 ̄レハ【レ点脱】皃 ̄ヲ恰 ̄カ[モ]如 ̄シ_二金-薄-糸 ̄ノ_一聞 ̄ケハ【レ点不詳】香 ̄ヲ相-_二似 ̄リ伽-羅-皮 ̄ニ_一管-頭 ̄ニ点 ̄ク【注④】火 ̄リ【或は「ヲ」ヵ】     呑 ̄テ還 ̄タ吐 ̄ク忽 ̄チ作 ̄ス_二烟-龍鉄-枴 ̄カ嬉 ̄ヲ_一     淡婆姑(タンバコノ)伝(テン) 淡-婆-姑名 ̄ハ煙《割書:一-本|作芬》字 ̄ハ烟-酒-姓 ̄ハ島海-外 ̄ノ草也初遊 ̄ンテ_二海-浜 ̄ニ【一点脱】 漁-夫 ̄ニ説 ̄ク_レ利 ̄ヲ疾 ̄ク聞_一 中-国 ̄ニ_一両京召 ̄ス_レ之 ̄ヲ葉-色日-美薫-香四-散 南-朝号 ̄テ曰_二金-糸 ̄ト_一北-方称 ̄テ云_二返 ̄ト魂 ̄ト_一通-俗呼 ̄テ言_二相-思 ̄ト_一売烟(タハコヤ) 称 ̄ス_二担-不-帰 ̄ト_一並 ̄ニ依 ̄テ_二功-能 ̄ニ_一得 ̄タリ_二此 ̄ノ異-称 ̄ヲ_一是-故 ̄ニ香-風益-盛 ̄ニシテ西伝 ̄ヘ_二 阿-蘭 ̄ニ_一東 ̄ハ漸 ̄ル_二蝦-夷 ̄ニ_一万-国一-斉 ̄ニ愛 ̄ス_二此烟草 ̄ヲ_一奇哉時-哉 太平万年毎月毎日   権_二-輿 ̄ス於東-土-山桜-馬-場 ̄ニ_一慶-長年-間愛-敬細 ̄ニ-刻 ̄ム 【注①  国立国会図書館デジタルコレクションの『煙草記』(活字本)(以下別本とす。)では「ウキ」。】 【注② 別本は「カン」】 【注③ 別本に「タウカニ」。】 【注④ 別本は「シ」。】 【右丁】      つれ〳〵けふりぐさ つれ〴〵なるまゝに火はあらじ火うちにむかひて火口(ほくち)にうつりゆく よしのたはことを何となくすいつくればあやしうかほりこそするもの なれいでや今(いま)の世(よ)にむまれてはたばここそねがはしかるべかめれ たはこの御(おん)くらゐものはいともかうはし竹のすゑ端に人間の楽(たのしみ)ならぬ やむことなく呑(のむ)人の御有様(おんありさま)はさら也ある人のとゞめんなどいはるゝ 口はゆゝしとみゆれと其後(そののち)まではとまるにゝたれど猶(なほ)の如かし夫より後(のち) つかたは時々(とき〴〵)におもひ”出しがほなるもみづからはいみじと思(おもふ)らめど いと口おし法師(はふし)ばかりはのむべからぬものなれと旦那(たんな)には木(こ)のはしの やうに思はるまいよと追笑(ついせう)戯言(けけん)にのめるも実(げに)さることぞかし いきほひまうにのゝしりたるに付てにくしと思ひどうかいゝひし がんことを堪忍(かんにん)くるしく共(とも)仏(ほとけ)の御(おん)をしへにたかふらんとぞ一ふくのんで 【左丁】 ひかゆる方(かた)こそよけれなほふでにまかせてたはことかきつゝ けんもいとまおしぞおもふ      たばこ一枚起請(いちまいぎしやう) 唐土(もろこし)我朝(わかてう)に諸(もろ〳〵)の医者達(いしやたち)の沙汰(さた)し申さるゝ煙草(たばこ)の能毒(のうとく)一二 三にあらずまた学問(がくもん)して年代(ねんだい)のことをさつはりと申にもあらす平生(へいぜい) 娯楽(こらく)のためにはたばこと申せばうたがひなく養生(やうしやう)になる そと思(おも)ひとりてのむ外(ほか)に別(へち)の子細(しさい)は候はずたゞし三文四文と 申 粉(こ)の候は皆(みな)決定(けつじやう)して刻(きざみ)屋の店(みせ)にて何文(なんもん)のをと申 内(うち)にくれる也 もしこの外(ほか)に往古(ゆきふる)ことをぞんぜは神農(しんのう)のあまなひにはつれ 本草(ほんざう)に漏(もれ)候 也(なり)莨菪(らうたう)の二文をたばこの真字(まな)と信(しん)ぜん人はたとひ 一 代(だい)学(がく)すとも一文不 知(ち)の身(み)になして本道(ほんだう)無知(むち)の輩(ともがら)に同して 医者(いしや)のふるまひをせずしてたゞ一向(いつかう)にきざみやをすべし     淡芭菰(たんはこ)諸国(しよこく)に発興(はつこう)《割書:并》薫功(くんこう)の事 爰(こゝ)に淡婆姑(たんはこ)といふ名葉(めいゑふ)奇異(きい)のふすべ物(もの)あり其(その)出生(しゆつしやう)を尋(たづぬ)るに 元(もと)海外(かいぐわい)の辺島(へんたう)に産(うまる)といへども天性(てんせい)青(しやう)黄(わう)赤(しやく)黒(こく)の四色(ししよく)を備(そな)へ智(ち)仁(じん)勇(ゆう)の 三 徳(とく)を具(ぐ)す諸道(しよだう)多能(たのふ)の名薫(め[い]くん)なり青(しやう)黄(わう)赤(しやく)黒(こく)は土地(とち)に依(より)てその 異(い)を顕(あらは)す大事(だいじ)小事(しやうじ)相談(さうだん)究明(きうめい)の座席(ざせき)には思慮(しりよ)分別(ふんべつ)工夫(くふう)を助(たすく) るの智謀(ちぼう)あり薫草(くんさう)の身(み)なれ共 還寡(くわんぐは)孤独(ことく)閑居(かんきよ)の友(とも)となり或(あるひ)は 遊客(ゆうかく)娯楽(ごらく)の座興(ざけう)を補(おきな)ひ或は奴婢(ねび)非人(ひにん)の艱難(かんなん)の苦(く)を助(たすく)るの仁慈(じんじ) あり非道(ひたう)非義(ひぎ)の理屈(りくつ)より憤発(ふんはつ)する瞋火(しんくは)の剛敵(かうてき)を一服(いつふく)呑吐(とんと)の 内(うち)には忽(たちま)ち退治(たいじ)する勇力(ゆうりき)あり士官(しくわん)には進退(しんたい)の気息(きそく)をたすけ農民(のうみん)に は耕作(かうさく)の一助(いちじよ)となりかつ年貢(ねんぐ)上納(しやうのう)の仕 送(をくり)をなす大工(だいく)細工(さいく)には 思慮(しりよ)工夫(くふう)の決定(けつじやう)をとらしむもろ〳〵の職(しよく)人には仕事(しこと)の息継(いきつぎ)を たすけ商人(しやうにん)【左ルビ:あきうど】には売買(はい〳〵)のばん増(さう)をなさしむ元手(もとで)の少(すくな)き渡世(とせい)には 【左丁】 刻(きさみ)をうらしむ本道(ほんたう)外科(けくは)には病(やまひ)により疵(きづ)によりて功能(こうのう)奇方(きはう)まち 〳〵にあたふ儒学(しゆがく)仏徒(ふつと)には鬱気(うつき)を開(ひし)き睡眠(すいめん)【「めん」は眠の呉音】を去(さり)学業(かくけう)成就(しやうしう)せしむ 爰(こゝ)にしんぬ薫草(くんさう)の多能(たのふ)なる常(つね)に物(もの)いはされども人おのつから愛敬(あいけう) あり無官(むくわん)なれとも尊貴(そんき)に請(しやう)ぜらるすべて人民(にんみん)をたすけたのしましむ ことまことに神仙(しんせん)のごとしされば中国(ちうこく)南北(なんぼく)両京(りやうきん)に賞翫(しやうくわん)せられしゆへ高麗(かうらい) 琉球(りうきう)また彼(かれ)か薫香(くんかう)をたふとむかつ彼(かれ)か莨菪(らうだう)各(をの〳〵)五天竺(ごてんぢく)にいたり遂(つゐ) に阿蘭陀(おらんだ)西極(さいきよく)の地(ち)まても称美(せうび)せらるゝこそ奇特(きどく)なれ近頃(ちかころ)彼(かれ)が 種類(しゆるい) 我朝(わがてう)に到来(たうらい)し長崎(ながさき)の東土山(とうどさん)に居住(きよしう)しあるひは桜馬(さくらは) 場(ば)をかまへ先(まつ)長崎(ながさき)の一島(いつたう)をはやらしめ其(そ[の])のち九州(きうしう)四国(しこく)難波(なには) 花洛(みやこ)にのぼり次第(しだい)に東(ひんかし)にはやり〳〵て松前(まつまへ)蝦夷(ゑそ)にいたる六十余州 山陰(さんいん)海辺(かいへん)みなこれを愛(あい)せざるところなきこそまことに奇妙(きみやう) 不思議(ふしぎ)の名薫(ふすへもの)なり     歌仙(かせん) 東風(こち)吹(ふく)や赤柿色(あかかきいろ)の長暖簾(ながのふれん)   拍子(ひやうし)を揃(そろ)へきさむ七(なゝ)くさ 乗物(のりもの)の窓(まと)から霞(かすみ)つらぬいて   三字(さんじ)を一字(いちじ)見たて看板(かんはん) 巻舌(まきじた)に月(つき)の輪(わ)をふく夕涼(ゆふすゝ)み  味噌(みそ)をねふつたゑひざめに枇杷(びわ) 《割書:ウ》 山出しの艶(つや)を源氏(げんじ)と仮言(かこと)して  うたゝ寐(ね)香(かう)も店(みせ)の友人(ともだち) 石割(いしわり)も研(と)にはかいなく浮痩(うきやつ)れ  灸(やひと)の点(てん)を兀(はが)さざりけり 逆様(さかさま)に釣(つら)ら【衍】れて軒(のき)に秋の色  鼻(はな)から出る霧(きり)は二(ふた)すじ くはへたるむかふに移(うつ)る月の影(かげ)  大ふさまがひ犬(いぬ)の首玉(くびたま) さつはりと丹波太郎(たんばたろう)が口(くち)を利 ̄キ  起請(きしやう)の血(ち)とめ程(ほど)は妙薬(めうやく) 薄色(うすいろ)の花の香(か)高(たか)し分(わ)ヶの里(さと)  茶(ちや)は跡(あと)て呑(のめ)君(きみ)かはる風([か]せ)     下略 切火縄(きりひなわ)猟師(れふし)の外(ほか)は山(やま)ざくら 【左丁】     増加詩歌 旦 ̄ニハ号 ̄シテ_二金-糸 ̄ト_一在_二金-嚢 ̄ニ_一夕 ̄ニハ成 ̄テ_二灰-坋 ̄ト_一納 ̄ル_二涎-搶 ̄ニ_一北-郊不 ̄ス_レ遠 ̄ニ烟-筒 ̄ノ 首更 ̄ニ閣 ̄ヒテ_二無-常 ̄ヲ_一 一-服芳 ̄シ 南-夷 ̄ノ煙-草昔 ̄シ誰 ̄カ裁 ̄ス縷 ̄ノ如切 ̄テ盤-中小作 ̄ス_レ堆 ̄ヲ不_三是 ̄レ碧-筩通 ̄スルニ_二酒- 気 ̄ヲ_一応-須_三玉-管動 ̄ス_二葭灰 ̄ヲ_一山-中 ̄ノ怡-悦持 ̄シメ_レ雲 ̄ヲ贈 ̄リ席-上 ̄ノ飛-談捲 ̄ニ_レ 霧 ̄ニ来 ̄ル莫_レ問 ̄コト紫-陽仙-子 ̄ノ術餐 ̄シ_レ霞 ̄ヲ吸 ̄テ_レ景到 ̄ル_二蓬-莱 ̄ニ_一 裁 ̄テ満 ̄テ_二良-田 ̄ニ_一圧 ̄ス_二稲-麻 ̄ヲ_一収 ̄メ成 ̄テ品-伍 ̄ス酒 ̄ト兼_レ茶鑾-刀細 ̄ニ切 ̄テ金-糸 乱彫管軽 ̄ク薫 ̄シテ碧-縷斜 ̄ナリ賓-席助 ̄テ_レ談 ̄ヲ拋 ̄ツ_二玉-塵 ̄ヲ_一書-帷駆 ̄テ_レ睡 ̄ヲ落 ̄ス_二 灯-花 ̄ヲ_一歓 ̄ヒ含 ̄ミ悲 ̄ミ咽 ̄テ人将 ̄ニ_レ老 ̄ト最 ̄モ閔 ̄ム朝-雲暮-雨 ̄ノ家 珍-草同 ̄シテ_レ茶 ̄ニ遍 ̄シ_二万-郷 ̄ニ_一雲-霞分 ̄テ_レ色 ̄ヲ特 ̄リ伝 ̄フ_レ香 ̄ヲ賞 ̄スル_レ華 ̄ヲ遊-席 ̄ニハ横 ̄ヘ_二銀 管 ̄ヲ_一迎 ̄フ_レ月 ̄ニ高-楼 ̄ニ佩 ̄フ_二錦-嚢 ̄ヲ_一怨-女銜 ̄ヒ【注】来 ̄テ安 ̄ス_二薄-命 ̄ヲ_一騒-人拈 ̄ル-処練 ̄ル_二 吟-腸 ̄ヲ_一山-村 ̄ノ積-雨最 ̄モ堪 ̄リ_レ味 ̄ニ更 ̄ニ破 ̄テ_二寂-寥 ̄ヲ_一 八-興長 ̄シ 【注 衘は銜の俗字】 円-通滅-後千-年 ̄ノ後奇-草生-来漸 ̄ク費 ̄ス_レ田 ̄ヲ田-舎 ̄ハ趨 ̄テ_レ時 ̄ニ貪_レ-利 孔 ̄シ世-間 ̄ハ随 ̄テ_レ俗 ̄ニ愛 ̄コト_レ斯 ̄ヲ専 ̄ナリ細 ̄ニ割 ̄テ成 ̄モ_レ線 ̄ト未 ̄タ【左ルビ:ス】紝_レ錦 ̄ニ約 ̄ニ飣 ̄テ吸 ̄フ_レ煙 ̄ヲ非 ̄ス覓 ̄ニ_レ痊 ̄ヲ事-物 ̄ノ廃-興時及処聖-人 ̄ノ遠-慮為_レ無 ̄ト_レ愆 ちりにまじる両部(りやうぶ)のしんでんたばこかも影(かけ)やはらかで呑(のめ)【注】のよいのは 雁首(がんくび)の火宅(くわたく)を出(いで)てけふり草(くさ)三(み)つの車(くるま)の輪(わ)を吹(ふく)かさて たをやめをくどくか色(いろ)のよいたばこ見て灰吹(はいふき)の口(くち)たゝくのは あしたには色(いろ)もかほりも有(ある)たばこくれはけふりてつい灰(はい)となる のむからにもや〳〵くゆる思(おも)ひをばけふりとなして吹(ふく)たばこかな いそがしききざみといへば一しほもかをりたばこの色(いろ)まさりけり 御法度のくわへきせるをおそれずはどこぞのほどでがんくびもくう? 丹波後野信濃路伯耆長門出羽和泉■【和=衍字】出雲加賀駿河隠岐 【注 飲め・呑め=口あたり】 【左丁】 摂都書林三谷文藉堂蔵版目録 《割書:北堀江鉄橋通宮川町》                土佐屋喜兵衛 【縦線】 【以後、上下を分ける横線と各項目を分ける縦線あり】 尚書正文《割書:冢先生訓点》全二冊   王羲之十七帖《割書:釈文付》 一帖 【縦線】 四書集注《割書:道春点| 再刻》 全十冊   小雲棲稿 《割書:大典禅師|詩文尺牘》 全三冊 【縦線】 同  《割書:山本復斎先生訓点》     略解千字文《割書:諸書(しよ〳〵)を引(ひき)千字文》         全十冊       《割書:の源(みなもと)字音(じおん)等(とう)を正(たゞ)し|字毎(じごと)に注釈(ちうしやく)を加ふ》全 【縦線】 小学《割書:内篇|外篇》《割書:出所付》  全四冊   古方類聚《割書:金匱傷寒論薬法|ヲ詳ニ合集ス》 全 【縦線】 黙祷録《割書:一名近思録講義》      中風治法指南《割書:岡本一抱子著》         全二冊           全四冊       《割書: |伏田井先生著    古人の医書(いしよ)にもれたる秘伝(ひでん)をあつめ腹中(ふくちう)の虫(むし)をさり諸(もろ〳〵)の》 秘伝衛生論   全二冊  《割書:病根を断(たつ)法(ほふ)及び疱瘡(はうさう)のまじなひ小児を育(そだつ)るよりして大人に》              《割書:|至るまでの養生(やうじやう)及び妙薬(めうやく)配剤(はいざい)の加減(かげん)をこと〴〵くしるし|諸人の助(たすけ)とす医(ゐ)に乏(とぼ)しき辺鄙(へんひ)には殊更(ことさら)必用(ひつよう)の書なり》 【縦線】 宮河歌合  《割書:西行法師の哥|定家卿の判》   《割書:万のさまの優美(ゆうび)なる判(はん)のことばの絶妙(ぜつめう)》 御裳濯河歌合《割書:同|俊成卿の判》全二冊 《割書:なる世にたぐふべくもあらず哥よまん人は|机上(きじやう)に置て常に尊(たうと)むべきの書なり》 【縦線】 以雲和歌百首   全 《割書:以雲法師和哥の骨肉(こつにく)とすべき教(をしへ)をやすらかによみて|人々にをしへられし百首の哥也小沢 盧菴(ろあん)が八首のをしへ|哥をもくはへたれば哥人常によみ得ば其正しきに至らん》 【縦線】       《割書: |藤井高尚大人著》 弾ものゝさだめ   全 《割書:諸書によりてひきものゝ源(みなもと)を正(たゞ)し古言(こげん)をもて|其法をつまびらかにしるしたる書なり》 【縦線】       《割書: |貝原篤信先生著   先生諸書を引てかんなの誤(あやまり)を正(たゞ)しその是(ぜ)》 増補和字解   《割書:小本》全  《割書:たるをつまびらかにあらはして世にまどひなから|しむ是(これ)にこしたるかなづかひはあらじかし》 【縦線】 貝原先生家訓  《割書:小本》全 《割書:此書は小児ををしへるよりして士農工商(しのうこうしやう)|その業(わざ)によりておの〳〵道(みち)を明(あき)らめ身を|治(をさ)むるをくはしく解(とき)たるなり》 【左丁】      《割書: |田中友水先生著  此書は銭神(ぜにのかみ)貧人(ひんにん)教訓(けうくん)のために世間(せけん)を廻(まは)りし》 教訓生業宝  全四冊 《割書:事(こと)のはなしを人のをしへになるやうに書つゞり絵(ゑ)を|まじへて読(よむ)に倦(うま)ざらしむ至(いたつ)て面白(おもしろ)きよみ本なり》 【縦線】 二十四孝小解《割書:熊沢先生著》全 《割書:了海(れうかい)先生もろこし廿四 孝(かう)の列伝(れつでん)を|詳(つまびらか)にあげ絵(ゑ)をまじへてよむに倦(うま)|ざらしむ実(じつ)に善(ぜん)を導(みちびく)の要書(ようしよ)なり》 【縦線】      《割書: |速水春暁斎画》 金毘羅神霊記  全十冊   【下部黒塗りして消滅】 【縦線】       《割書: |》 《割書:         御家御門人    商家(しやうか)平生(へいぜい)要(えう)とすべき文章(ぶんしやう)を記(しる)し時候(じこう)の替文(かへぶん)》 商家日用文章 《割書:森田氏筆》全 《割書:|様々あらはし証文(しやうもん)注文(ちうもん)色紙(しきし)短冊(たんさく)の書法(かきやう)様(さま)殿(どの)等(とう)の|上中下の分(わか)ち月の異名(ゐみやう)十 干(かん)十二 支(し)其外かなの書やう|をしるす尚(なを)御家流の書を学(まな)ぶべきの手本とす》 【縦線】 庭訓往来《割書:改正無点大字》全   女訓身持鑑  全 【縦線】 日用秘密蔵《割書:醍醐散人著|   小本》全 《割書:此書はもろ〳〵の妙薬(めうやく)まじなひ料理の秘伝(ひでん)|妙術(めうじゆつ)をくはしくあらはし婦幼(ふよう)といへども見安く|たちまち其 伝(でん)を得(う)る最(もつとも)広益(くわうえき)の書なり》 一休水かゞみ  全 《割書:人のうへのくさ〴〵をしるし見るにおもし|ろく文中(ぶんちう)おのづから無常(むじやう)を示(しめ)し心を|清(きよ)きにいたらしむるの書なり》 【縦線】 目なし草    全 《割書:此書は前の水かゞみの注解(ちうかい)にして一休|和尚(おしやう)の法語(ほふご)および道哥(だうか)をこと〴〵く注(ちう)|したるおもしろき書なり》 【縦線】 一休骸骨    全 《割書:此書や人間の皮中(ひちう)をつまびらかにあらはし|道哥(だうか)をもつて其をしへを示(しめ)すこの書を|みれは六欲(ろくよく)おのづから去(さ)るなり》 【縦線】 真宗安心歓草《割書:粟津義圭師著 一向宗の有がたきを示(しめ)し和哥をもてをしへを》          全 《割書:さとす此書をみれば疑惑(ぎわく)不 信(しん)の境(さかひ)をはなれ》            《割書:て信心(しん〴〵)堅固(けんご)の正(たゞ)しきに至らん》 【縦線】 明応物語 《割書:同著》全二冊 《割書:世に名たゝる一向宗の御文(おふみ)をくはしく|注解(ちうかい)して御法(みのり)の尊(たうと)きをさとすの書なり》 【縦線】 東海夢物語   全 《割書:源氏物(げんじもの)がたりより一回(いつくわい)の小説(せうせつ)をあらはし|人をして無常(むじやう)を感(かん)ぜしむ僅(わづか)の紙上(しじやう)に|其 妙(めう)を尽(つく)せしも亦(また)作者(さくしや)の功(いさほし)なり》 【左丁】 眠の策 《割書:洛西乞士著》全 《割書:此書や悟道(ごだう)微妙(びめう)のおもむきをとき古人|の名哥(めいか)をまじへてその善(ぜん)に導(みちび)く実(じつ)に|世俗(せぞく)の眠(ねふり)をさますの書なり》 【縦線】 雨中問答《割書:西村遠里先生著》 《割書:此書は世(よ)の諺(ことはざ)【ママ】の誤(あやまり)を解(とき)奇説(ぎせつ)妙話(めうわ)を面(おも)》        全五冊《割書:白(しろ)くあらはし身(み)ををさむるの要(えう)をしる》           《割書:したるおもしろき書なり》 【縦線】 狂歌友の文庫《割書:六樹園大人選   六樹園大人 橘菴大人 隺迺家大人 三日坊大人》         全三冊 《割書:六々園大人 柏樹園大人 蝙蝠軒大人 桃李園大人》             《割書:遊花亭大人 聴風軒大人|右十大家の撰を得たる三都の集也常に坐右に置て益あり》 【縦線】 志津ヶ嶽軍記《割書:雄山著》         全四冊 《割書:雄山(ゆうざん)が伝(でん)および此書の実記(じつき)たる事|序(じよ)につまびらかなり》 【縦線】 画図絶玅    全 《割書:越鳥斎の筆にしてもろ〳〵の画図(ぐわづ)をしるし其 筆(ひつ)》 同 二篇《割書:近刻》  全 《割書:意(い)の妙(めう)をあらはして世(よ)に画を学(まな)ぶ人の階梯(かいてい)とす|画家 常(つね)に坐右(さいう)に置て益(えき)ある書なり》 【縦線】 画話耳鳥斎 全二冊 《割書:画(ゑ)をもて噺(はなし)の種(たね)とし其 妙(めう)を尽(つく)す至て|おもしろき書なり》 【右丁】 噺万歳《割書:桂 文来作|三木探月斎画》    《割書:当世のおもしろきはなしをかす〴〵あらはし|見る人をして腹(はら)をかゝへさしむ夜伽(よとぎ)などの友(とも)》        全五冊  《割書:にしてこれに過(すぎ)たるはあらじかし》 【縦線】 滑稽漫画 《割書:暁鐘成作》   《割書:当世あるとあらゆる品(しな)ものを中形小紋の類染》       全一冊  《割書:もやうにおもしろく見立こしらへ狂哥 雑俳(ざつはい)などくわへ|たれば其 滑稽(こつけい)のおもしろき事 譬(たと)ふるかものなし》 【縦線】      《割書:柳園種春著   此書は忠孝(ちうかう)の道(みち)を専(もつはら)とし佞人(ねいじん)【注①】賢者(けんしや)のわかち|        をとき己(おのれ)を慎(つつしみ)》 教訓童草   全二冊 《割書:剛欲(がうよく)をいましめ尚(なを)身持(みもち)放蕩(はうたう)をいましめ近(ちか)き世にありし|因果(ゐんぐわ)のくさ〴〵をあらはし画(ゑ)をまじへ和歌(わか)狂哥(きやうか)俳諧(はいかい)をくわへ一時(いちじ)に》       《割書:彩色入モアリ 童蒙(どうもう)の眠(ねふり)をさますおもしろき本也御子様方の御進物などにもよろし》 【縦線】 同【注②】後編《割書:同著|近刻》全二冊 《割書:これ前編(ぜんへん)にもらしゝをしへのくさ〴〵をつまびらかにあらはし|おなじく画(ゑ)をまじへて婦女(ふぢよ)をみちびくの一助(いちじよ)とす前編(ぜんへん)|についでもとめ給ふべしひろくえきある書なり》 【注① 侫は譌字】 【注② 仝は同の古字】 【左丁】 跋語 烟草記既成猶有未決者雲菴弁害論 良安図絵按両医太且吾見人宜取捨 【左頭部欄外 資料整理ラベル】 特1 3404 【裏表紙】