【表紙】 【題箋】 《題:麁食教草  全》 【右丁】 かまどの賑(にぎはひ) 全一冊 同 壱枚摺  此書はかゆならびにめしのたきかた種々  あつめ候ものにて御徳用御心得方の書也 徳用食鏡(とくようしよくかゞみ)  此書は麁食教艸ならびにかまどの賑等に  漏(もれ)たる分をあつめたるもの也 【左丁】 【赤刻印 白井光】 【赤刻印 福田文庫】 【赤刻印 望月家蔵】  【赤刻印 帝国図書館蔵】 【赤刻印 帝図 昭和十五・一一・二八・購入】 経済をしへ草叙 孟子(まうし)のいわく。人をやしなふ者(もの)は人にをさめられ。人ををさむる者(もの)は人に やしなはるといへり。衣食住(いしよくぢう)の三ッは世(よ)に立(たつ)要用(えうよう)なれとも。三ッの第(だい)一は食(しよく)也。 金銀(きん〴〵)は世(よ)の宝(たから)なれども飢(うゑ)て食(くらふ)べからす。珠玉(しゆきよく)貴(たうと)けれとも凍(こゞへ)て着(き)べからず。 明君(めいくん)良相(りやうしやう)上(かみ)に在(まし〳〵)して。万民(ばんみん)を子(こ)のごとくをさめ給へ共。年(とし)に豊凶(ほうきよう)あり 親(おや)の心(こゝろ)子(こ)しらずといふ諺(ことはざ)のことく万民(ばんみん)は豊年(ほうねん)に遇(あふ)て分外(ぶんぐわい)の奢(おごり)をなし。 凶年(きようねん)に俄(にわか)に愕然(おどろい)て手足(しゆそく)を措(おく)処をしらす。三年(みとせ)に一年(ひとゝせ)の食(しよく)を貽(のこ)し。 九年(こゝのとせ)に三年(みとせ)の貯(たくはへ)を延(のば)して凶作(きようさく)の難(なん)を避(さく)る所為(すべ)を知(し)らす。其度毎(そのたびこと)に 都下(とか)の億兆民(をくてうみん)莫太(ばくたい)の御慈恵(ごじけい)を蒙(かうむ)ること有難(ありがたき)ことならずや夫(それ)に つけても。われも人もおのれより覚悟(かくご)【注】して。物ごと減少(けんせう)の工夫(くふう)をつくし。 【注 「ご」の右上に「。」あり。衍字ヵ】 【右丁】 倹約(けんやく)第一(たいいち)を思(おも)ふべき也。日(ひ)に三 度(ど)づゝ米食(べいしよく)する内(うち)。一 度(ど)は粥(かゆ)をくらふべし。 商売(しやうばい)の品(しな)によりて五人七人其 余(よ)大 勢(せい)奉公人(ほうこうにん)を召仕(めしつか)ふ家(いへ)には。成(なる)たけ 人 少(すく)なにして間(ま)を合(あは)すべし質素(しつそ)倹約(けんやく)は人の為(ため)ならず。畢竟(ひつきやう)其身(そのみ)の 為(ため)也。農家(のうか)には麦(むぎ)を常食(じやうしよく)とし。其(その)土地(とち)に因(より)て。雑穀(さうこく)及(およ)び種々(しゆ〴〵)の糧(かて)を 交(まじ)へ用る内(うち)に人しらずして用(もち)ひざるものあり草木(さうもく)の食料(しよくれう)になるべき ものを。さま〴〵の書(しよ)より抜翠(ばつすゐ)して。凶年(きようねん)の用に充(みて)しめんとて。書肆(しよし)経済(けいざい) をしへ草の一 書(しよ)を寿梓(じゆし)せんとす。其 剏(はじめ)に一 筆(ふで)題(だい)せよと乞(こは)れて其ゆへ よしを述(のふ)。   天保四年癸巳季秋         東武南郊隠士  高井蘭山叟誌 【左丁】 【赤刻印 帝国図書館蔵】 経済(けいさい)をしへ草(ぐさ)      食之部 榛(はしはみ) 支那(から)にては飢(うゑ)を助(たすく)ること栗(くり)と同(おな)じきものといへり 椎実(しゐのみ) 山菓(さんくわ)の中(なか)にて其 味(あち)五穀(ごこく)に近(ちか)きこと栗(くり)に次(つげ)りされども  性(しやう)は栗(くり)に劣(おと)れり病人(ひやうにん)は食(くら)ふべからず腗胃(ひゐ)の気(き)を傷(やぶる)老人(らうじん)小児(せうに)多(おほ)く  食(くら)ふことなかれ 葛粉(くずのこ) 冬月(とうげつ)根(ね)を掘(ほり)搗(つき)くだき汁(しる)を取(とり)水飛(すゐひ)す十 余(よ)へんて餈糕(もち)  とし飢(うゑ)を助(たすく)ること五穀(ごこく)につげり其(その)葉(は)も嫰(わかき)ときは煠(ゆひき)熟(じゆく)し  食(しよく)とする也 老(おい)たるは干(ほし)して多(おほ)く収(をさ)め置(おき)馬(うま)に飼(か)ふべし又 野葛(のくず)は  毒(どく)あり食(くら)へは狂気(きやうき)す是(これ)は和名(わみやう)うるしつた形状(けいじやう)異(こと)なれども葛(くす)と 【右丁】  同字(とうじ)種類(しゆるゐ)なれば誤(あやまり)て食(しよく)せんことを恐(おそ)る能(よく)撰(えら)ひ用(もち)ゆべし 蕨粉(わらびのこ) 米(こめ)の粉(こ)か麦(むぎ)の粉(こ)を交(まじ)へ食(くら)へば害(がい)なし雑物(まぜもの)宜(よろし)からざれば  甚(はなはだ)害(がい)あり又 蕨粉(わらびのこ)ばかりを久(ひさ)しく食(くら)へば目(め)暗(くらく)髪(かみ)落(おつ)る小児(せうに)久(ひさ)し  く食(くら)へば脚(あし)弱(よわ)く行(ゆく)こと叶(かなは)ずもし毒(どく)にあたらば白米(はくまい)を挽(ひき)わり粥(かゆ)  に煮て湯(ゆ)のごとくし塩(しほ)か焼(やき)みそを雑(まじ)へ度々(たび〳〵)吮(すは)せよ 瓜楼根(からすうりのね) 一 名(みやう)天花粉(てんくわふん)根(ね)を採(とり)て皮(かは)を削(けづり)至極(しごく)白(しろ)き所(ところ)を寸々(すん〳〵)に切(きり)水(みづ)に  浸(ひた)すこと一日に一 度(ど)ツヽ水(みづ)を換(かへ)て浸(ひた)し四五日 経(へ)て取出(とりだ)し搗(つき)たゞらかし  絹(きぬ)か布(ぬの)の袋(ふくろ)に盛(もり)て澄(すま)し濾(こし)極(きは)めて細(こまか)にし粉(こ)のごとくし或(あるひ)は根(ね)を採(とり)  晒(さら)し搗(つき)麺(めん)となし水(みづ)に浸(ひた)しすましこすこと十 余(よ)へんおしろいのごとく  ならしむべしかく水飛(すゐひ)せざれば害(がい)あり或(あるひ)は焼餅(やまもち)【ママ】とし或(あるひ)は煎餅(せんべい)に作(つく)り 【左丁】  切(きり)細(こまか)にし麺(めん)にす皆(みな)食(しよく)すべし蕨(わらび)の粉(こ)と雑(まじへ)食(くらふ)べからずもし毒(どく)にあた  らは前(まへ)に記(しる)せることくして解(げ)すべし 橡実(とちのみ) 倭俗(わぞく)とちのみとす米粉(こめのこ)に和(くわ)し糕(むしもち)となし食(くら)ふ小児(せうに)に尤(もつとも)よし  水(みづ)を換(かへ)煑(にる)こと十五 次(たび)毒(どく)を淘去(ゆりさり)蒸(むし)熟(じゆく)して食ふ流(ながれ)水につけて  一宿(ひとよ)置(おけ)ば一 度(ど)に煑(に)てもよしといへり能(よく)煑(に)て流(ながれ)水につけなは猶(なを)以(もつて)よかるべし 橡子樹(いちゐのみ) 本草(ほんざう)の橡実(しやうじつ)は檪木子(いちゐのきのみ)也 製法(せいはふ)前(まへ)のごとくして食(くら)ふべし  とちのみと字(じ)同(おな)しく和漢(わかん)のたがひにて其(その)品(しな)ことなり 檞実(どんぐり) 虚(きよ)人 老(ろう)人 小児(せうに)は食(くら)ふことなかれ水(みづ)を換(かへ)浸(ひた)し煑(にる)こと十四五 度(たひ)渋味(しぶみ)  を淘去(ゆりさり)蒸(むし)熟(じゆく)し米粉(こめのこ)に和(まじへ)糕(もち)として食(くら)ふ流(ながれ)水有所にては能(よく)煑(に)  笊籠(ざる)へ入れ流(ながれ)水へ二三 宿(しゆく)も浸(ひた)し置(おけ)ば渋味(しぶみ)も毒(どく)も能(よく)去(さ)るといへり 【赤四角 特1 2555】 【右丁】  解毒(げどく)の法(はふ)前(まへ)にも出るごとし 榧子(かやのみ) 人々 常(つね)に食(くら)ふものゆゑ製法(こしらへかた)を載(のす)るに及(およ)はず香煎(かうせん)にして食(くら)ふ  法(はふ)ありそれへ麦(むき)の炒粉(いりこ)を合(あは)せ食(しよく)す本草(ほんざう)には榧子(かやのみ)の皮(かは)菉豆(やへなり)に  反(はん)す能(よく)人(ひと)を殺(ころ)すとあれば良医(りやうい)に問(とふ)もよし 芰実(ひし) 嫰(わかき)は其 色(いろ)青(あを)く老(おい)ては黒(くろ)しわかきは剥(むい)て食す甘美(かんび)也 老(おい)ては蒸(む)し  食(しよく)す野人(やじん)は暴(さら)し乾(かわか)し皮(かは)を去(さり)粉(こ)にして餌(だんご)餻(むしもち)に作(つく)り又は粥(かゆ)となす  皆(みな)糧(かて)に代(かふ)べし其 茎(くき)も嫰(わかき)を採(とり)曝(さら)し収(をさめ)て米(こめ)麦(むぎ)に雑(まじ)へ飯(めし)に炊(かし)き  食すべし性(しやう)蓮実(はすのみ)黄実(おにばす)に及(およば)ざれ共 凶年(きようねん)貧民(ひんみん)の飢(うゑ)を救(すく)ふに足(た)れり  古人(こじん)これを用(もつ)て飢荒(きくはう)を救(すく)ひしこと多(おほ)し 蓮藕(はすのね) 煑(にる)に鉄器(てつなべ)を忌(いむ)銅器(あかゞねなべ)を用(もちふ)べし醋(す)を少(すこ)し加(くわ)へ煑(に)れば黒色(くろいろ)に変(へん) 【左丁】  ぜす又 生藉(なまね)を搗(つき)くだき汁(しる)を取(とり)水飛(すゐひ)し陰乾(かげぼし)にし餌(だんご)餻(むしもち)とす葉(は)は  煠(ゆびき)熟(じゆく)し粮(かて)とすべし又 生藕(なまね)を煑(にる)にわら灰(あく)汁にて煑(にる)をよしとす  又けし炭(すみ)を入て煑(に)たるもよしといへり 藕蔤(はすのはへ) 五六月に取(とる)嫰根(わかね)なり陳根(ふるね)より細(ほそ)く幾筋(いくすぢ)も出るもの也 前(まへ)の  ごとくして食(しよく)す性(しやう)味(み)同(おな)じ 蓮実(はすのみ) 蒸(むし)食(くら)ふて甚(はなはた)よし搗(つき)砕(くだき)て米(こめ)に和(くわ)し粥(かゆ)又は飯(めし)に雑(まじへ)食(しよく)すれば  飢(うゑ)を助(たす)く又 米(こめ)の粉(こ)を和(まぜ)餻(もち)餌(だんご)として食(しよく)するもよし 黄実(みつふきのみ)  民間(みんかん)におにばすのみ葉(は)は三月 生(しやう)ず茎(くき)葉(は)みな剃(とげ)【刺ヵ】有 嫰(わかき)を取(とり)  茎(くき)は皮(かは)を剥(むき)て食(しよく)すべし五六月に紫(むらさき)の花(はな)開(ひら)きて日(ひ)にむかふ莟(つぼみ)  をむすぶ外(ほか)に青刺(せいし)栗毬(くりのいが)のごとし剥(むき)ひらけば内(うち)に班(まだら)【斑】なる軟肉(やはらかにく)あり 【右丁】  みをつゝみ累(つらね)て珠のごとし殻(から)の内(うち)の白米(つぶ)は魚目(うをのめ)のごとし七八月 収(をさめ)とりて  凶年(きようねん)の食(しよく)に備(そな)ふべし其 根(ね)は煑(に)て食(くら)ふふべし芋(いも)のごとし実(み)を粉(こ)に  して蓮実(はすのみ)米粉(こめのこ)に和(まじへ)て餌(だんご)に作(つく)り食(しよく)すれば中(うち)を補(おきな)ひ甚(はなはた)益(えき)あり  茎(くき)葉(は)は三四月 食(くら)ふべし其 後(のち)は刺(とき)こわくして食(しよく)しがたし刺(とき)やはらか なる時(とき)灰湯(あくゆ)にてよく煠(ゆびき)熟(じゆくし)食(しよく)すべし毒(どく)なく性(しやう)もよし凶年(きようねん)  飢(うゑ)を助(たす)く池塘(いけつゝみ)ある処には多(おほ)く植(うゑ)おくべし 琉球芋(りうきういも) さつまいも是(これ)也此もの琉球(りうきう)より薩州(さつしう)にわたり今(いま)は諸州(しよしう)に  多(おほ)く作(つく)りて夫食(ふじき)の助(たすけ)となること甚(はなはた)大なりしかも作(つく)るにむづかし  からず今は甚暑(じんしよ)の比(ころ)くされ多(おほ)きも能(よく)かこひて盆(ぼん)の比は又あらたなるを  出し絶(たゆ)る間(ま)はわつか也 【左丁】 苦菜(くさい) にがなけしあざみ道(みち)ばたにも多(おほ)きもの也 茎葉(くきは)少しく引  ちきれば白汁(はくじふ)を出し人家(じんか)の屋根(やね)にまで生(しやう)ず夏(なつ)秀(ひいで)て黄花(くはうくわ)をひらく  風(かぜ)に吹飛(ふきとび)で絮(わた)のことし湯(ゆ)より出し水に浸(ひた)し苦(にが)みを去(さり)てひたし物(もの)にして  青菜(あをな)のことし是(これ)も近来(きんらい)食料(しよくれう)にするものあり 鼓子花(ひるがほ) 民間(みんかん)にあめふりはな又からまりばな三才図会(さんさいづゑ)に根(ねを)蒸(むし)  煑(にて)堪(たへたり)_レ噉(くらふに)甚(はなはだ)甘美(かんび)也(なり)とあり花は牽牛花(あさがほ)に似(に)て淡紅色(うすあかいろ)又 白色(しろいろ)あ  り昼(ひる)しほまずゆゑにひるがほと云 救荒本草(きうくはうほんざう)に根(ね)を採(とり)蒸(むし)てこれ  を食(くら)ふ或(あるひ)は晒(さらし)乾(ほし)杵(つき)砕(くだ)き飯(めし)に炊(かし)き食(くら)ふも亦(また)よし或(あるひ)は磨(すり)て麺(めん)につ  くり焼餅(やきもち)に作(つくり)蒸(むし)て食(くら)ふ凶年(きようねん)には貧民(ひんみん)根(ね)を掘(ほり)塩(しほ)を和(まじ)へ煑(に)て食(くら)ふべし  飢(うゑ)を助(たけ)く皮(かわ)を去(さり)剉(きさみ)能(よく)煑(に)てさわし麦(むき)に和(まじ)へ粥(かゆ)に煑(に)食(くら)ふもよし葉(は)            四 【右丁】        四  亦 煠(ゆびき)熟(じゆく)し糧(かて)とすべし久しく食(しよく)すれば頭暈(めまひ)し腹(はら)にあたる間(まゝ)食(くら)ふ時は  宜(よろ)しといへり 萆薢(ところ) 山野(さんや)近(ちか)き所の貧民(ひんみん)に益(えき)あり飢饉(ききん)を救(すく)ふには萆薢(ところゝ)を横(よこ)に 剉(きざみ)よく煑(に)て流(ながれ)水に一夜(ひとよ)浸(ひた)せは苦味(にかみ)よく去(さり)又 灰湯(あく)にて能(よく)煑熟(にじゆく)し  水(みづ)を換(かへ)二 宿(しゆく)ほど浸(ひた)しさわして後(のち)麦米(むきくめ)の類へ合(あは)せ飯(めし)に炊(かし)き食(しよく)すれば  飢(うゑ)をたすく然(しか)れとも性(しやう)冷利(れいり)なる物(もの)なれば病人(ひやうにん)虚(きよ)人は食(くら)ふべからずもし  久しく食(しよく)して大便(たいべん)秘結(ひけつ)せば白米(はくまい)を挽(ひき)わり稀粥(おもゆ)に煑(に)て度々(たび〳〵)飲(のめ)は泄(はら)  瀉(くだり)て其(その)毒(どく)解(げ)す愚 若軰(じやくはい)の時(とき)天明中 萆薢(ところ)の粉(こ)を製(せい)し江戸 浅艸(あさくさ)  心月院(しんげつゐん)門前(もんぜん)の町(まち)にて鬻(ひさぐ)ものあり 公(おほやけ)に願(ねが)ひ奉り売場(うりば)御 府内(ふない)  壱人に仰(あふせ)付(つけ)られたり黄粉(きなこ)に似(に)て甚(はなはた)淡黄色(うすきいろ)のもの也 紙袋(かみふくろ)に盛(もり)て 【左丁】  売(うり)しを愚しかとみたれ共年 数(すう)たちては見かけず愚 老年(らうねん)に及(およ)び  たれば五十年も以前の事也 百合(ゆり) 山丹(ひめゆり) 根(ね)を採(とり)煑熟(にじゆく)し塩(しほ)を加(くわ)へ食(しよく)すべし葉(は)も煠(ゆびき)熟(じゆく)し食(くら)ふ  べし巻丹(おにゆり)は微(すこし)く苦(にがみ)あり酒(さけ)を加(くわ)へ煑(に)て食味(しよくみ)尤(もつとも)よし 慈姑(しろくわゐ) 灰湯(あくゆ)に煑(に)て熟(じゆく)し皮(かは)を去(さり)食(しよく)すれは麻渋(ゑごく)なく人の咽(のんど)を戟(さす)  ことなし嫰茎(わかきくき)も熯(あぶり)て食(しよく)すべし此 物(もの)百 毒(どく)を主(つかさ)どる産後(さんご)血悶(ちのみちもだへ)死(し)せん  とし産難(さんかたく)胞衣(えな)出(いで)ざるに搗(つき)しぼり汁(しる)を用(もちひ)てよしといへり 烏芋(くろくわゐ) 煑(に)て食(くら)ふべし 黄獨(かしゆう) 又けいも皮(かは)を去(さり)能(よく)煑(に)て苦味(にかみ)を去(さり)食(くら)ふべし 山薬(じねんしやう) 煑(に)て食(くら)ふべしやまいも自然生(しねんじやう)同(おな)じ事也 【赤丸印 帝国】          五 右丁            五 蒼朮(をけら) 根(ね)を取(とり)黒皮(くろかは)を去(さり)薄(うす)く切(きり)二三 宿(しゆく)水(みづ)に浸(ひた)し苦味(にがみ)を去(さり)煑熟(にじゆく)し食(しよく)すべし 黄精苗(わうせいのわかなへ) 嫰葉(わかは)を採(とり)煠(ゆびき)水(みづ)を換(かへ)浸(ひた)し苦味(にがみ)を去(さり)淘(ゆり)洗浄(あらひ)塩(しほ)醤油(しやうゆ)にて  調(とゝの)へ食(しよく)す根(ね)は九たび暴(さらし)極(きはめ)て熟(じゆく)せしむ熟(じゆく)せざれば人(ひと)の咽喉(のんと)を刺(さし)  て食(しよく)しがたしといへり 菖蒲(しやうぶ) 根(ね)の肥(こえ)大(ふとり)節(ふし)稀(すくなき)を採(とり)水(みづ)に浸(ひた)し邪(あしき)味(あぢ)を去(さり)煑(に)て食(しよく)す鉄(てつ)を  犯(おか)せば人をして吐逆(ときやく)せしむ鉄(てつ)の刀(ほうてう)にて切(きり)灰湯(あくゆ)にて煑熟(にじゆく)し水(みづ)  を換(かへ)二三 宿(しゆく)浸(ひた)せば害(がい)なし 蒲筍(がまつの) かばのわかめ也 根(ね)に近(ちか)き白筍(しろつの)を採(とり)棟(ひねり)【陳ヵ】剥(はき)煠(ゆひき)熟(じゆく)し醤油(しやうゆ)  味噌(みそ)にて調(とゝのへ)食(しよく)す蒸(むし)食(くら)ふもよし或(あるひは)根(ね)を採(とり)麁皴(そひ)を剥(はぎ)去(さり)晒(さらし)  干麺(ほしめん)に磨(ひき)餅(もち)に打(まろ)め食(しよく)するも皆よし 【左丁】 【挿絵】          六 【右丁】 【挿絵】 【左丁】 菰首(こもつの) がつごのめ也 菰筍(こじゆん)と云是也 菰(まこも)の根(ね)より生(しやう)ずる芽(め)也 採(より)て粮(かて) とすべし煠(ゆびき)熟(じゆく)しみそ醤油(しやうゆ)に調(とゝの)へ食(しよく)す或(あるひ)は子(み)を採(とり)舂(つき)て米(つぶ)となし  米(こめ)麦(むぎ)を合(あは)せ粥(かゆ)に煑(に)て食(しよく)す 蘆筍(あしのつの) よしのめ又よしのこ春(はる)土(つち)を掘(ほり)て取(とる)肉(にく)厚(あつ)くして柔(やわら)か也 他種(たしゆ)に  すぐれたり露(あらはれ)出水に浮(うか)ぶは食(くら)ふに堪(たえ)ず嫰筍(わかつの)を採(とり)煠(ゆびき)熟(じゆく)し味噌(みそ)  醤油(しやうゆ)にて調(とゝの)へ食(しよく)す其 根(ね)甘(あま)し生(なま)にて咂(かみ)て食(くら)ふもよし水中(すゐちう)より  初(はじ)めて生(しやう)ずるものよし 欵冬(ふき) わたぶき又山のふき葉(は)及(およ)び茎(くき)花(はな)も粮(かて)とすべし花(はな)は苦(にが)く辛(から)し  煠熟(ゆびき)て煑(に)水(みづ)に浸(ひたし)さわし置て後(のち)流(ながれ)水へ一宿(ひとよ)ひたせば苦味(にかみ)を去(さり)葉(は)  茎(くき)は煠熟(ゆびき)食(しよく)すれば苦味(にがみ)なし解毒(げどく)の法(はふ)前(まへ)のごとし              七 【右丁】 芣苢(おほばこ) かいるば車前子(しやぜんし)車輪菜(しやりんさい)同(おな)じ葉(は)及(およ)び根(ね)味(あぢ)甘(あまし)嫰葉(わかば)を取(とり)  煠熟(ゆびき)水に浸(ひたし)一宿(ひとよ)さわし涎沫(ぬめり)をよく淘浄(ゆりあらひ)去(さり)みそ醤油(しやうゆ)の類(るゐ)にて  調(とゝのへ)食(くら)ふ性(しやう)寒(かん)なるものゆゑ能(よく)煑(に)て後(のち)麦(むき)米(こめ)の類(るゐ)へ合(あは)せ炊(か)しき食(くら)ふ  べし稷(あわ)又 蕨粉(わらびのこ)などへ雑(まじへ)食(くら)ふべからず両 品(しな)共に性(しよう)寒(かん)なる物(もの)ゆゑ脾(ひ)  胃(ゐ)虚弱人(きよしやくにん)は食傷(しよくしやう)すべし流(ながれ)水ある地(ち)ならは煑(に)て流(ながれ)水へ一宿(ひとよ)浸(ひたせ)ば毒(どく)も  涎沫(ぬめり)も能(よく)去(さる)といへり久(ひさ)しく食(しよく)し惣身(そうしん)うそはれ顔色(がんしよく)青(あを)く或(あるひ)は泄瀉(はらくだり)或は  大便(たいべん)結(けつ)することあらば白米(はくまい)を稀粥(おもゆ)に煑(に)て焼塩(やきしほ)を加(くわ)へ度々(たび〳〵)吮(すは)せぬれ  ば腫(はれ)ひき大便(たいべん)常(つね)のごとくになり治(ぢ)する也 蕨萁(わらび) 其 茎(くき)わかき時(とき)取(とり)細(こまか)に剉(きざ)み灰湯(あくゆ)にて能(よく)煑(に)て後(のち)水(みづ)を換(かへ)二三 宿(しゆく)浸(ひた)し  淘浄(ゆりきよく)し涎滑(ぬめり)を去(さり)麦(むき)米(こめ)の類(るゐ)に合せ炊(かしき)て食(しよく)す又 流(ながれ)水 有(ある)地(ち)ならは二三 宿(しゆく)流(ながれ) 【左丁】  水へ浸(ひた)せば食(しよく)しやすし此物を糧(かて)とする法(はふ)山野(さんや)近(ちか)き処の貧民(ひんみん)はよく知(し)る処也 紫萁(ぜんまい) 初生(しよせい)食(くら)ふべし前(まへ)にいふ蕨粉(わらひのこ)を取(とる)法(はふ)のごとく水飛(すゐひ)して粉(こ)を取(とり)て  餅(もち)に作(つく)り粮(かて)とし食(くら)ふべし味(あぢ)蕨粉(わらびのこ)にまされりといへり 槖吾(つわ) 茎(くき)葉(は)款冬(ふき)に似(に)たり冬(ふゆ)も茎(くき)葉(は)ありて枯(かれ)す其 茎(くき)を食(しよく)するに  味(あぢはひ)ふきのことし皮(かわ)を去(さり)款冬(ふき)を食(しよく)することくすべし又 煑乾(にほし)て収(をさめ)置 食(くら)ふ  べし一 切(さい)の毒(どく)をけし功能(こうのう)すぐれたり就中(なかんづく)よく魚毒(ぎよどく)を解(げ)す河豚(ふぐ)の毒(どく)  も解(げ)す凶年(きようねん)の粮(かて)とするには款冬(ふき)のことく調(とゝの)へ食(しよく)す 接続草(すぎな) 其(その)性(しやう)生(せい)発(はつ)を主(つかさど)る羗活(きやうくわつ)に同し瘡疥(さうがい)を患(うれふ)る人 食(くら)ふことなかれ  病人(ひやうにん)には妨(さまたげ)なし煠熟(ゆびき)て淘浄(さわ)し麦(むき)米(こめ)に雑(まじ)へ炊(かし)き粮(かて)とすべし 艾葉(よもぎのは) 嫰艾餻(よもきもち)一 切(さい)悪鬼気(あくきき)を避(さく)久(ひさ)しく服(ふく)すれば冷痢(れいり)を止(やむ)灰湯(あくゆ)にて能(よく) 【右丁】  煠熟(ゆびき)麦(むぎ)の類(るゐ)に合(あは)せ炊(かし)き粮(かて)とするもよし 水芹(せり) 血脈(けちみやく)を保(たも)ち精(せい)を養(やしな)ひ血(ち)を止(とめ)気(き)をまし人を肥(こえ)健(すくやか)ならしむ赤(あか)き  芹(せり)は人を害(がい)す食(くら)ふべからずもろ〳〵の芹(せり)三月 以後(いご)蛭(ひる)の迷子(なしつけご)あるゆゑ人を  害(がい)す能(よく)〳〵浄(あらひ)て後(のち)煑(にて)食(くら)ふべし 蜀漆(こくさぎのは) 即(すなはち)常山(じやうざん)也 其葉(そのは)臭梧(しうご)に似(に)たり味辛(あぢはひから)し甄権(しんけん)いわく苦(にか)く小毒(せうどく)  あり腗胃(ひゐ)虚(きよ)の人 食(くら)ふことなかれ煑(に)て一宿(ひとよ)水(みづ)に浸(ひた)しさわし食(しよく)すべし  流(ながれ)水に浸(ひた)せば猶(なを)よし蜀漆(しよくしつ)はこくさぎ茶(ちや)の葉(は)のことし臭梧桐(しうごとう)はくさぎ  葉(は)大(おほ)ひなり二 物(ふつ)別(べつ)なり 大薊(おにあざみ) のみとりばな又やまあざみ風熱(ふうねつ)を除(のぞ)き女子の赤白沃(なかちしらち)によし  安胎(あんたい)の功(こう)あり灰湯(あくゆ)にて煑熟(にじゆく)し水(みつ)を換(かへ)さわして後(のち)食(くら)ふべし 【左丁】 小薊(こあざみ) 前(まへ)のごとし調合(てうがふ)も同断(とうだん)也 苦芺(さわあざみ) 多(おほ)く水沢(すゐたく)に生(しやう)ず調食(てうしよく)すべて前(まへ)に同し 紅藍苗(くれなゐのなえ) 性(しやう)紅花(こうくわ)に同し煠熟(ゆびき)食(くら)ふ法(はふ)艾葉(よもぎ)のことし血(ち)を破(やぶ)るもの也  妊婦(はらみをんな)産後(さんご)金瘡(きんさう)脾胃(ひゐ)虚(きよ)の人 食(くらふ)べからず 繁縷(はこべ) 菜(さい)となし人に益(えき)あり蔵器(ざうき)がいわく血(ち)を破(やふり)乳汁(にふじふ)をくだす  産婦(さんふ)によし煠熟(ゆびき)て食(くら)ふべし 蒲公英(たんほゝ) 東垣(とうえん)のいわく婦人(ふしん)乳癰(ちのめ)水腫(しゆき)に煮(に)て汁(しる)を飲(のめ)ば立(たち)ところに消(ひく)  丹渓(たんけい)のいわく食毒(しよくどく)を解(げ)し滞気(たいき)を散(ちら)し熱毒(ねつどく)を化(くわ)す煑(にて)食(くら)ふの法(はふ)前(まへ)の如(ごと)し 藜(あかざ)  向井 元升(けんしよう)庖厨倭名本草(ほうちうわみやうほんざう)に曰 補益(ほえき)調養(てうやう)の性(しやう)なし一本堂(いつほんだう)  薬選(やくせん)には芎帰勺芐四物湯(きうきしやくしゆうちしもつたう)に勝(まさ)ること逈(はるか)なりといへりいづれか是(ぜ) 【右丁】          九  なるや各(おの〳〵)試(こゝろ)みて用ゆべし煠熟(ゆびき)て飯(めし)或(あるひ)は粥(かゆ)に雑(まじへ)煑(に)て食(くら)ふべし常(つね)に乾(ほし)て  蓄置(たくわへおき)粮(かて)とすべし葉(は)大(おほひ)にして赤(あか)きを藜藿(あかあかざ)とし葉(は)小(ちさ)くして青(あを)きを灰條(あをあかざ)  と名(な)づく野人(やしん)当年(そのかみ)飽(あく)_二黎藿(れいくわくに)_一凶歳(きようさい)得(えて)_レ此(これを)為(す)_二嘉殽(かかうと)【穀ヵ】_一唐(から)にては常(つね)に蓄(たくわへ)  置(おき)貧民(ひんみん)の食(しよく)とすること見るべし救荒野譜(きうくはうやふ)に見えたり 莧菜(あをひゆ) 気(き)を補(おぎな)ひ熱(ねつ)を除(のぞく)煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし麦禾(むきあわ)に合(あは)せ飯(めし)に炊(かし)き又 粥(かゆ)  に雑(まじ)へ煑(に)ても食(くら)ふべし鼈(すつほん)と同(おなじ)く食(くら)ふべからず莧(ひゆ)の類品々有 白莧(しろひゆ)赤(あか)  莧(ひゆ)斑莧(まだらひゆ)野莧(のひゆ)なりともに食(くら)ふべし 馬歯莧(すべりひゆ) 節葉(ふしは)の間(あいだ)水銀(すゐぎん)あり香月牛山翁(かげつぎうさんおう)いわく倭俗(わぞく)謂(いふ)水銀(すゐぎん)あり  妊婦(にんふ)及(およ)ひ婦人(ふしん)小児(せうに)に禁制(きんせい)して用(もちひ)ず救荒野譜(きうくはうやふ)にいわく茎葉(くきは)を食(くら)ふ  紅白(こうはく)二 種(しゆ)あり夏(なつ)に入 採(とり)沸湯(あつゆ)を瀹過(くゞらせ)曝(さらし)乾(ほし)冬(ふゆ)用(もつて)旋(やゝ)食(くら)ふも亦(また)可(よし)楚俗(そぞく) 【左丁】  元旦(ぐわんたん)にこれを食(くら)ふ飢(うゑ)を救(すく)ふには煠熟(ゆびき)味噌(みそ)なくは塩(しほ)を加(くわ)へ食(くら)ふべし蕨(わらび)の  粉(こ)と同食(とうしよく)すべからずこれをみれば水銀(すゐぎん)有 説(せつ)は皆(みな)迠(まで)信(しん)じがたし 萕(なづな) 五 蔵(ざう)【臓】を利(り)し根(ね)は目(め)の痛(いたみ)を治(ぢ)す春月(しゆんげつ)茎葉(くきは)を取(とり)生熟(せいじゆく)皆(みな)食(くら)ふ  べし尤(もつとも)煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし菥蓂(おになづな)は萕(なづな)に似(に)て毛(け)あり葶藶(ていれき)も薺(なづな)の類(るゐ)也共に  食(くら)ふへしと貝原翁(かひはらおう)いへり江薺(いぬなづな)茎葉(くきは)を食(くら)ふ臘月(らふげつ)に生(しやう)す生熟(せいじゆく)皆(みな)用(もちゆ)へし花(はな)の  時は宜(よろし)からず但(ただし)虀(つけもの)になすべしと救荒野譜(きうくはうやふ)に見えたり煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし 独活(うど) 茎葉根(くきはね)ともに煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし 稀薟苗(めなもみのなへ) 嫰苗(わかなへ)の葉(は)を採(とり)煠熟(ゆびき)水(みづ)に浸(ひた)し苦味(にがみ)を去(さり)淘淨(きわ)【さわヵ】し塩(しほ)醤油(しやうゆ)  にて調(とゝのへ)食(しよく)す流(なかれ)水ある所ならば一宿(ひとよ)浸(ひた)せば苦味(にがみ)も毒(どく)もよく去(さる)といへり 茅芽根(つばなのね) 本草(ほんざう)に茅根(ぼうこん)と名(な)づく至極(しごく)潔白(けつはく)亦(また)甚(はなはた)甘美(うまし)茅針(つばな)嫰芽(わかめ)を 【右丁】  採(とり)うわ皮(かわ)を剥取(へぎとり)て食(くら)ふ小児(せうに)に甚(はなはだ)益(えき)あり 《振り仮名:𦾰蒿|よめがはぎ》 煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし 萱草(くわんさう) 苗(なへ)花(はな)ともに性(しやう)凉(りやう)無毒(どくなし)根(ね)も同(おな)し救荒本草(きうくはうほんさう)に俗川草(ぞくせんさう)と名(な)  づく本草(ほんざう)に一 名(みやう)鹿蔥(ろくさう)山野(さんや)に生(しやう)ずるを宜男(ぎなん)と名(な)づく風土記(ふうどき)に云 懐(くわい)  妊(にん)の婦人(ふじん)其花(そのはな)を佩(かぶ)れば男(をとこ)を生(うむ)故(ゆゑ)也《割書:一本 宣男(せんなん)に|作(つく)るは非(ひ)なり》飢(うゑ)を救(すく)ふには嫰苗(わかなへ)葉(は)を  取(とり)煠熟(ゆびき)水に浸(ひた)し淘浄(さわし)塩(しほ)醤油(しやうゆ)にて調(とゝの)へ食(しよく)す玄扈先生(けんこせんせい)いわく花(はな)葉(は)  芽(め)ともに嘉蔬(かそ)也かならず荒(きゝん)を救(すく)ふのみにあらず又 粉(こ)となすべし蕨(わらび)を  治(をさむ)る法(はふ)のごとし近歳(きんさい)しきりに飢(うゑ)山民(さんみん)多(おほ)くこれに頼(よ)れりわらびの粉(こ)を取(とる)  ごとくして餅(もち)に作(つく)り粮(かて)とし味(あぢ)よしといへり 野蜀葵(みつはぜり) 病(びやう)人にも忌(いむ)ことなし菜中(さいちう)の佳(よき)品(しな)也 葉(は)及(およ)び根(ね)も亦 煠熟(ゆびき)粮(かて)とすべし 【左丁】 【挿絵】 【右丁】 【挿絵】 【左丁】 防風(やまにんじん) 一名 屏風草(へいふうさう)又 叉頭(さとう)あるものは人をして狂(きやう)を発(はつ)せしむ叉尾(さび)のものは  痼疾(こしつ)を発(はつ)す嫰苗(わかなへ)を採(とり)葉(は)ともに菜(さい)となす煠熟(ゆびき)きわめて口(くち)にかなふ 菊(きく)  葉(は)花(はな)ともに煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし久(ひさ)しく食(くら)へは血気(けつき)を利(り)す 雞冠苗(けいとうのなへ) 時珎(じちん)がいわく痔(ぢ)及(およ)び血病(けつびやう)を治(ぢ)す煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし 後庭花(はげいとう) 一名 雁来紅(がんらいこう)苗葉(なへは)を取(とり)煠熟(ゆびき)水に浸(ひた)し淘浄(さわし)醤油(しやうゆ)に調(とゝの)へ晒(さらし)  乾(ほし)煠(ゆびき)食(くら)ふ尤(もつとも)佳(よし)すべて草類(くさるゐ)を食(しよく)とするは塩(しほ)をはなすべからず 紫蘇(しそ) 煠熟(ゆびき)食(しよく)す鯉魚(りぎよ)と同食(とうしよく)すべからず毒(どく)瘡(さう)を生(しやう)ず 鼠麹草(はゝこぐさ) 又 五行蒿(ごぎやうよもぎ)と名(な)づく茎葉(くきは)を採(とり)米粉(こめのこな)にまじへ餻(もち)として食(しよく)す  艾(よもき)を製(せい)する法(はふ)のごとし 耳菜(みゝな) 貝原翁(かいばらおう)いわく葉(は)仏耳草(ぶつにさう)のごとし茎(くき)長(なが)く蔓草(つるくさ)のごとし地(ち)につき 【右丁】         十二  延生(のびはへ)る冬(ふゆ)春(はる)繁茂(はんも)す白花(はくくわ)をひらく俚民(りみん)蔬(そ)となして食(しよく)す絮縷(はこべ)のごとし  漢名(かんみやう)をしらず煠熟(ゆびき)食(くら)ふて味(あぢ)よし飢(うゑ)をすくふべし 桔梗苗(ききやうなへ) 葉(は)を採(とり)煠熟(ゆびき)水を換(かへ)浸(ひた)し苦味(にかみ)を去(さり)淘浄(さわ)しみそ醤油(しやうゆ)にて  調(とゝの)へ食(しよく)す一説(いつせつ)に味(あぢ)辛(からく)苦(にがし)性(しやう)微温(びうん)小毒(せうとく)なり一 説(せつ)味(あぢ)苦(にがく)性(しやう)平(へい也)毒(どく)なし  毒(どく)の有無(うむ)をしらず良医(りやうい)に問(と)ふべし 夏枯草(うつぼくさ) 此 草(くさ)の苗(なへ)冬至(とうじ)に生(しやう)ず夏(なつ)諸草(しよさう)繁茂(はんも)する時かるるといふ嫰葉(わかば)  を取(とり)煠熟(ゆびき)水を換(かへ)浸(ひた)し苦味(にがみ)をさわし去(さり)又 灰湯(あくゆ)にてよく煑(に)て二宿(ふたよ)  ほど水につけ置(おき)て後(のち)食(くら)ふべし秋(あき)に至(いた)り枯葉(かれは)に成(なり)たるも粮(かて)とし食(しよく)するに  よしと山居(さんきよ)貧民(ひんみん)の傳(でん)也 試(こゝろ)み用(もち)ゆべし惣(そう)して草根(さうこん)木葉(このは)木実(このみ)の類(るゐ)  小毒(せうどく)有ものといへども灰湯(あくゆ)に煑(に)二三 宿(しゆく)水を換(かへ)浸(ひたし)さわして後(のち)食(しよく)すれば害(がい) 【左丁】  なし灰湯(あくゆ)には雑木(ざふき)の堅木(かたき)を焼(やい)たる灰(はひ)よし松(まつ)杉(すぎ)を焼(やき)たる灰(はい)は功(こう)なしといへり 枸杞苗(くこのなへ) 煩を除(のぞき)気(き)を益(ます)もの也 煠熟(ゆびき)食(しよく)す 木通嫰芽(もくつうのわかもへ) 煠熟(ゆびき)食(しよく)す 皂莢樹嫰芽(さひかちのわかもへ) 煠熟(ゆびき)水を換(かへ)浸(ひたし)洗(あらひ)淘浄(さわし)塩(しほ)味噌(みそ)にて調(とゝのへ)食(くら)ふ 忍冬葉(すゐかづらのは) 嫰葉(わかは)花(はな)を採(とり)煠熟(ゆびき)水を換(かへ)ひたして邪気(じやき)を去(さり)淘浄(さわし)前(まへ)の如(ごと)く調食(てうしよく)す 木天蓼葉(またゝびのは) 小毒(せうどく)あり煠熟(ゆびき)食(しよく)す塩(しほ)にて毒(どく)を解(げ)す也 塩(しほ)なくは食(くら)ふべからず 藤嫰芽(ふじのわかめ) 灰湯(あくゆ)にて煑(に)水を換(かへ)二三 宿(しゆく)浸(ひた)し淘浄(さわ)して後(のち)食(くら)ふべし血(ち)を  破(やぶ)るものゆゑ産婦(さんふ)には禁制(きんせい)して食(くら)ふべからず常人(じやうにん)は麦(むぎ)米(こめ)に合(あは)せ飯に  炊(かし)き食(くら)ふもよし塩(しほ)よく其毒(そのどく)を解(げ)すみそか塩(しほ)なくは食(くらふ)べからず 五加苗(うこぎなへ) 煠熟(ゆびき)食(くら)ふべし此物(このもの)皮膚(ひふ)の風湿(ふうしつ)を去(さる)性(しやう)よきもの也 飢民(きみん) 【右丁】         十三  草根(さうこん)木葉(このは)を食(くら)ひ其(その)毒(どく)にあたり惣身(そうしん)浮腫(うそはれ)たるものは根(ね)を堀(ほり)《振り仮名:水𤋎|すいせん》  して飲(のめ)ばはれ消(ひく)なり過(すぎ)し宝暦(はうりやく)六年 丙子(ひのえね)の春(はる)飢民(きみん)藤葉(ふじのは)車前草(おほばこ)  を久(ひさ)しく食(くひ)たる者(もの)惣身(そうしん)青色(あをいろ)になり水腫(すいしゆ)のごとくはれたる者(もの)に救荒(きうくはう)  解毒丹(げどくたん)を四五 貼(てふ)白湯(さゆ)にて飲(のま)しめければはれ消(ひき)て全快(ぜんくわい)せしよし也 竹筍(たけのこ) 塩(しほ)味噌(みそ)の類(るゐ)にてよく煑(に)て食(くら)ふべし熟(じゆく)せざれは化(くわ)しがたしもし  毒(どく)にあたらは姜汁(きやうじふ)を飲(のみ)て解(げ)すべし 鳳仙花(ほうせんくわ) つまくれなゐ染指甲草(ぜんしこふさう)小桃紅(せうとうこう)共云 苗(なへ)葉(は)を取(とり)煠熟(ゆびき)水に  一宿(ひとよ)ひたし菜(さい)となし醤油(しやうゆ)に調食(てうしよく)す本草(ほんざう)に小毒(せうどく)有ことしかれども能(よく)々  煑(に)水を換(かへ)一宿(ひとよ)さわせば害(がい)なし子(み)は咽(のんど)の中(うち)に魚骨(うをのほね)たちたるに研(すり)  末(こ)にし水(みづ)にて飲(のみ)竹筒(たけつゝ)に入(いれ)て吹入(ふきいる)れは即(すなはち)ぬくること妙(めう)なり 【左丁】 蘿摩(かゞいも) こがみとも云 嫰葉(わかば)を取(とり)ゆびき水を換(かへ)ひたし苦味(にかみ)邪気(じやき)を  去(さり)淘浄(ゆりさわし)醤油(しやうゆ)に調(とゝのへ)て食(くら)ふ此(この)草葉(くさは)を煑(に)て食(しよく)す味(あぢはひ)よし園籬(そのゝまかき)に植(うゑ)て  食品(しよくひん)とすべし虚(きよ)を補(おきな)ひ精気(せいき)をまし陰道(ゐんだう)を強(つよ)くす性(しやう)よし葉(は)は  種毒(しゆどく)を消(け)し綿(わた)は金瘡(きんさう)の血(ち)をとむ汁(しる)は赤腫(はれもの)につけ蛇(へび)の咬(かみ)たるに敷(つく)  民間(みんかん)には常々(つね〴〵)植置(うゑおく)べきもの也 澤蒜(のびる) 苗(なへ)と根(ね)を取(とり)煠熟(ゆびき)味噌(みそ)塩(しほ)にて調(とゝのへ)食(くらふ)べし小 毒(どく)有よしもあれ  ども上 州(しう)の方言(はうけん)にうしびるとて凶年(きようねん)飢(うゑ)を救(すく)ふに甚(はなはだ)宜(よろしき)もの也上 州(しう)に  ては凶年(きようねん)には邑長(むらおさ)支配(しはい)へふれ農夫(のうふ)に山野(さんや)に出て堀(ほり)煑(に)て食(くらは)しむ 雀麦(ちやひくぐさ) これ野麦(のむぎ)也 燕雀(えんじやく)食(くらふ)所ゆへ名(な)とす舂(つい)て皮(かは)を去(さり)搗(つい)て麺(めん)につ  くり蒸(むし)食(くら)ひ又 餅(もち)に作(つく)り食(くら)ふもよし向井 元升(げんしよう)いわく二月 比(ころ)初生(しよせい) 【右丁】  の青葉(あをは)を採(とり)汁(しる)を搗(つき)て米粉(こめのこ)に和(まじ)へ餅(もち)につくり蒸(むし)食(しよく)すれば香味(かうみ)よし  本草(ほんざう)に女人(によにん)難産(なんざん)を治(ぢ)す煑(に)て汁(しる)をの飲(のむ)べし 鴨跖草(つゆくさ) 又 月草(つきくさ)と云 竹節菜(ちくせつさい)也 嫰苗(わかなへ)を採(とり)葉共に煠熟(ゆびき)醤油(しやうゆ)に  調(とゝのへ)食(くら)ふ玄扈先生(けんこせんせい)云 南方(なんばう)には淡竹葉(たんちくえふ)と名(な)づけて賞(しやう)す本草(ほんさう)に気味(きみ)  苦(にかく)大 寒(かん)毒(どく)なし蛇犬咬(じやけんのう)を治(ぢ)すとあり茎(くき)葉(は)ともに擂(すり)て瘡口(きずくち)の四辺(しへん)敷(しき)  瘡口(きずくち)を厚朴(こうぼく)の葉(は)にて風(かぜ)入(いら)らざる様に掩(おほ)ひ置(おき)て瘡口より脂(あぶら)水ながれ  出て痛(いたみ)去(さり)腫(はれ)ひかば厚朴(こうぼく)の葉(は)を去(さり)鴨跖草(つゆくさ)ばかり敷(しき)おほひ置ば治(ぢ)する也  犬咬(けんのう)は油断(ゆだん)ならぬものにて必死(ひつし)の病(やまひ)と心得(こゝろえ)医(い)の良方(りやうはう)を乞(こふ)べし 酸醤(ほゝづき) 燈篭児(とうろうじ)又 掛金燈(くわきんとう)と云 葉(は)を取(とり)煠熟(ゆびき)水に浸(ひた)しさわし苦味(にがみ)を去(さり)  醤油(しやうゆ)に調(とゝのへ)食(くら)ふ子(み)熟(じゆく)し摘取(つみとり)同(おな)じく製(せい)し食(しよく)す 【左丁】 黄瓜菜(たびらこ) 煠熟(ゆびき)食(くら)ふへし 虎杖(いたどり) 産後(さんご)悪血(おけつ)下(くだら)ざるを治(ぢ)す妊婦(はらみおんな)は食(くらふ)べからず右 数種(すしゆ)食(くら)ふには塩(しほ)をかくべからす 地膚(はゝきゞ) 苗葉(なへは)煠熟(ゆびき)さわし食(くら)ふべし 潟栗(かたくり) 漢字(かんじ)いまた詳(つまびらか)ならず奥州(あうしう)南部(なんぶ)上品(じやうひん)を出す稲若水(いねじやくすゐ)【注】いわく旱(かん)  藕(ぐう)是(これ)なるべし其粉(そのこ)米(こめ)のごとし味(あぢ)甘(あま)く食(しよく)して人を補(おぎなひ)益(ま)すといへり製(せい)  法(はふ)天花粉(てんくわふん)のごとし解毒(げどく)の法(はふ)前(まえ)に同(おな)じ 薏茨仁(づゝたま) 殻(から)あつく圓(まろき)ものにあらず其形(そのかたち)尖(とが)て殻(から)うすきもの也其 米(つふ)【粒ヵ】白色(はくしよく)  にして糯米(もちごめ)のごとし粥(かゆ)にし飯(めし)にし又 麺(めん)にして食(しよく)すべし米(こめ)と同(おな)じく酒(さけ)に作(つく)る  べし飯(めし)にし麺(めん)にし食(しよく)すれは飢(うゑ)をしらず然(しかれ)ども煑(に)くだけがたきものなれば  粉(こ)にして餻(むしもち)餌(たんご)に作(つく)るをよしとす 【注 「稲若水」は「とうじゃくすい」、本名「稲生若水」は「いのうじゃくすい」】 【右丁】            十五 商陸(やまごばう) たうごばう共云 味(あぢ)辛(からく)酸(す)性(しやう)平(へい)にて毒(どく)あり一に苦(にがく)性(しやう)冷(れい)也 白根(しろね)を  取(とり)切(きつ)て片(へん)となし煠熟(ゆびき)水(みづ)を換(かへ)浸(ひた)し洗淨(あらひきよく)す此(この)ものを製(せい)するには薄(うす)く切(きり)  流水(ながれ)に二宿(ふたよ)ひたし取出(とりだ)し豆(まめ)の葉(は)を甑(こしき)にして段々(だん〳〵)隔(へだて)に入れて蒸(むす)こと六 時(とき)  程(ほど)にして取上(とりあげ)食(しよく)す豆(まめ)の葉(は)なくは豆を用てもよし荒政要覧(くはうせいえうらん)にみへたり  又 灰湯(あくゆ)にて能(よく)煑(に)度々(たび〳〵)水を換(’かへ)二三 宿(しゆく)浸(ひた)しさわしたるもよしといへり  葉(は)も又 灰湯(あくゆ)にて煑熟(にしゆく)し粮(かて)とすべし水種(すゐしゆ)あるも者(もの)つねに商陸(しやうりく)を用(もちゆ)る  こと人(ひと)の知(し)る所也 野胡薩蔔(のにんしん) 荒野(くはうや)の中(うち)に生(しやう)じ苗葉(なへは)家胡薩蔔(にんじん)に似たりともに細小(さいせう)其(その)  根(ね)味(あぢ)甘(あまし)生(なま)にて食(くら)ひ蒸(むし)て食(しよく)し皆(みな)宜(よろ)し洗浄(あらひきよ)にし皮(かは)を去(さり)生(なま)にて食(くら)ふも又 可(か)也 土圞児(ほど) 根(ね)をとり煑熟(にじゆく)しこれを食(くら)ふ塩(しほ)を加(くわ)へ害(かい)なし 【左丁】 羊蹄苗(しふくさのなへ) ぎし〳〵和(わ)の大黄(たいわう)支那(もろこし)の大黄(たいわう)の葉(は)に似(に)たれとも差(たが)へり  薬種(やくしゆ)としては瀉薬(しややく)なれども大に異(こと)なり救荒本草(きうくはうほんさう)に嫰苗(わかなへ)葉(は)を取(とり)  煠熟(ゆびき)水(みづ)に浸(ひた)し苦味(にかみ)を淘浄(さわ)し油塩(しやうゆ)に調(とゝのへ)て食(くら)ふ其(その)子(み)熟(じゆく)す  る時(とき)子(こ)を打搗(うちつい)て米(こめ)となし滾湯(こんたう)を以(もつ)て三五 次(たび)淘浄(さわし)鍋(なべ)に  下(くだ)し水飯(かゆ)となし食(くら)ふ微(やゝ)腹(はら)に破(さはる)とあり一 書(しよ)に今(いま)試(こゝろむ)るに葉(は)味(あぢはひ)微(やゝ)  酸(すし)根(ね)味(あち)苦(にが)し何程(なにほど)さわしても食(しよく)しかたし葉(は)はゆびきたるばかり  にてもよしといへり 棗(なつめ) 腹脹(はらはり)羸痩(るいさう)には食(くらふ)べからす又 葱(ねぎ)と同食(どうしよく)すべからず酸棗麪(さんさうめん)とて麺(めん)  にも作(つく)る春(はる)は嫰葉(わかば)を採(とり)煠熟(ゆひきじゆく)し水に浸(ひた)し黄色(きいろ)になる時(とき)淘浄(さわしきよふ)し醤(しやう)  油(ゆ)又は味噌(みそ)にて調(とゝのへ)食(くら)ふ又 飯(めし)に和(まじ)へ食(くら)ふもよし此(この)もの根(ね)はびこり地中(ちちう)より 【右丁】          十六  段々(だん〳〵)生出(はへいで)これを堀取(ほりとつ)て植(うゆ)れば忽(たちま)ちふへるもの也 地(ち)の四方(しはう)六七 間(けん)が間(あいた)は根(ね)  の行先(ゆくさき)に生(しやう)ず凶年(きようねん)には青(あを)き紅(あか)きを嫌(きらは)ず蒸煑(むしに)て食(くら)ふべし 栗(くり)  夫食(ふじき)を助(たすく)るはかち栗(くり)にして貯(たくは)ふにしかずみのりあしくは下枝(したえだ)を多(おほ)く  切(きり)すて梢(こすゑ)の枝(えだ)をとめ置(おけ)ばかならずみのると農業全書(のうげふぜんしよ)にあり 柹(かき)  種品(しゆひん)多(おほ)し民間(みんかん)凶年(きようねん)の糧(かて)には柹餅(かきもち)をよしとす糯米(もちこめ)の粉(こ)と同(おな)じく  つき蒸(むし)食(くら)ふこれは極(ごく)上の製法(せいはふ)にて貧民(ひんみん)の食(しよく)には大麦(おほむき)を炒粉(いりこ)にして  搗合(つきあはせ)たるかよし渋柹(しぶかき)を搗(つき)て粳米(うるち)大 麦(むき)の炒粉(いりこ)を入(いれ)たるも用(もちひ)らるゝ也又  串柹(くしかき)はいろ付(つき)たる時(とき)柹(かき)の皮(かわ)を削(けつり)たるを集(あつ)め煑(に)て臼(うす)へ入(いれ)能(よく)つき粳米(うるち)  大 麦(むき)の炒粉(いりこ)をつき合(あは)せたるも凶年(きようねん)の食(しよく)にはよしたゞし蟹(かに)と合(あは)せ食(しよく)  すれば腹痛(ふくつう)泄瀉(せつしや)の患(うれへ)あり 【左丁】 桑椹(くわのみ) 五 臓(ざう)関節痛(くわんせつのいたみ)血気(けつき)を利(り)し神魂(しんこん)を安(やす)んずくろきを日(ひ)に晒(さら)し  乾(かはか)し粉(こ)とし水にて三 合(がう)つゝ日々に三 度(ど)づゝ服(ふく)すれは飢(うゑ)ずと月令広義(ぐわつりやうくはうぎ)に出(いで)たり  《割書:唐の三合は日本の|壱合五勺にあたる也》能(よく)熟(じゆく)し黒(くろ)きを好(よし)とすれ共 飢(うゑ)を助(たすく)るは赤(あかき)黒(くろき)をえらまず淘(ゆり)  浄(きよくし)蒸熟(むししゆく)して飯(めし)にまじへ煑(に)て食(しよく)すべし虫付(むしつき)て有(ある)もの故(ゆゑ)度々(たび〳〵)浄(あら)ひて後(のち)蒸(むし)食(しよく)すべし 蘿蔔(だいこん)胡蘿蔔(にんじん)牛蒡(こばう)菘(な)芋(いも)の類(るゐ)常(つね)に食(しよく)するものはいふに及(およ)はざれはこと〴〵く のせず其内(そのうち)大根(たいこん)芋(いも)薩摩芋(さつまいも)は夫食(ふじき)を助(たすく)ること大(おほひ)なることなり唯々(ただ〳〵) 公(おほやけ)の御 恵(めぐ)み厚(あつ)ければ是(これ)に感(かん)じても己(おのれ)〳〵が節倹(せつけん)を竭(つく)して弥(いや)が上(うへ)の御 厄介(やつかい)なく 御膝元(おんひさもと)の商賈(しやうこ)長久(ちやうきう)の相続(さうぞく)をなさんと希(ねがふ)のみなり衣食住(いしよくぢう)三ッの内 第(だい)一に重(おも)き 食(しよく)のことを述(のべ)たれば衣 服(ふく)の用(もち)ひ方(かた)家作(かさく)の建方(たてかた)唯々(ただ〳〵)日用(にちよう)を足(たす)の外(ほか)は万事(ばんじ)質素(しつそ) 節倹(せつけん)を守(まも)るの仕方(しかた)を嗣(つぎ)あらはして経済(けいざい)の肝要(かんえう)を補(おぎな)ふべしと云 【右丁】  以上の種々(くさ〳〵)米(こめ)にまじへかてとなし食(しよく)して経済(けいざい)を助(たする)べし直(なを)又(また)世(よ)に有(あり)ふれ  たる飯(めし)の名目(みやうもく)をこゝに出(いだ)す 麦飯(むぎめし) 湯取麦飯(ゆとりむきめし) 麦引割飯(むきひきわりめし) 菜飯(なめし)《割書:いもをさいに|切入て尤よし》 干葉飯(びはめし) 大根飯(だいこんめし) 芋(いも)飯 粟(あわ)飯 稗(ひえ)飯 栗(くり)飯 蕪(かぶら)飯 茄子(なす)飯 青大角豆(あをさゝげ)飯 実(み)さゝげ飯 小豆(あづき)飯 黒豆(くろまめ)飯 縁豆(えんどう)飯 刀豆(なたまめ)飯 椎(しゐ)の実(み)飯《割書:椎のかはをさり塩を加へ|たくなり常の飯のことし》 豆腐(とうふ)飯 枸杞(くこ)飯 五加木(うこぎ)飯 皂角(さいかち)飯  已上は常々(つね〳〵)たく所の飯(めし)の名目(みやうもく)なり其外 本書(ほんしよ)の内 便利(べんり)を考(かんが)へみな〳〵  飯(めし)にたき常(つね)の食料(しよくれう)にあつべし 終              ■■■■■■■■ 【赤刻印】福田文庫 【左丁】 《題:《割書:御免|開版》太平国恩里談(たいへいこくおんりだん)《割書:加藤在止著》全十五冊合本五巻》  此書(このしよ)は太平(たいへい)の御恩沢(ごおんたく)御 代々(だい〳〵)の御 仁政(じんせい)を四民(しみん)共 朝暮(てうぼ)忘(わす)るまじきことを述(のぶ)但(たゞ)し  仏説(ぶつせつ)に天地(てんち)の恩(おん)帝王(ていわう)の恩(おん)父母(ふぼ)の恩(おん)師匠(しせう)の恩(おん)を四恩(しおん)と云て実語教(じつごきやう)にも  見えたり然(しか)るに今(いま)清平(せいへい)の御 政道(せいたう)御 仁恵(じんけい)の深(ふか)きことは誰(たれ)にも弁(わきま)へ居(ゐ)れ共  深切(しんせつ)信誠(しんせい)に肺腑(はいふ)に刻(きざ)む人(ひと)少(すくな)し然(しか)るを世間(せけん)活業(すきわひ)の雑話(ざつわ)に事託(ことよせ)或(あるひ)は問(もん)  答(だふ)を儲(もう)け或は聖賢(せいけん)の書(しよ)を引(ひき)乱世(らんせい)に万民(ばんみん)艱難(かんなん)なる躰(てい)と御 治世(ちせい)に万民(ばんみん)  快楽(けらく)し御 仁恵(じんけい)津々(つゝ)浦々(うら〳〵)至(いた)らぬ隅(くも)もなき姿(さま)とを示(しめ)し御 恩沢(おんたく)の有(あり)がたき  ことを目前(もくぜん)明白(めいはく)に知(し)らしむ抑(そも〳〵)本朝(ほんてう)応仁(をうにん)の乱(らん)ほど久(ひさ)しき乱(みだ)れはなくこれも  一 旦(たん)治(をさま)れ共又 乱(みだ)れ実(しつ)に元和(げんわ)年中 日光様の御 武徳(ぶとく)に始(はじめ)て四海(しかい)を伐治(きりをさめ)  給ひしより今(いま)に至(いたつ)て二百 余(よ)年 御代々の御 仁政(じんせい)四 海(かい)に流(なが)れ 御 恩沢(おんたく)禽獣(きんじう)  草木(さうもく)に及(およ)ぶ延喜(ゑんぎ)天暦(てんりやく)の治(ち)も支那(もろこし)二帝三王(じていさんわう)の治(ち)も今に曁(およふ)べからす此 書(しよ)に  述(のぶ)る処を能々(よく〳〵)考(かんが)へ合(あは)せ四民(しみん) 内外(うちと)の皇大神(すめおほんかみ)に続(つゞい)て 日光様の御 仁惠(じんけい)を  尊信(そんしん)渇仰(かつがう)し日(ひゞ)に夜(よゝ)に朝(あした)に夕(ゆふべ)に忘(わす)るべからず世(よ)に滑稽(こつけい)の書(しよ)は衆人(しうじん)の頤(おとかひ)を解(とく) 【右丁】  といへとも身(み)に益(えき)あること聊(いさゝか)もなし此 書(しよ)は御 仁政(しんせい)を貴(たつと)ひ身(み)の分限(ぶんけん)を顧(かへり)み  物(もの)に不足(ふそく)の心(こゝろ)を生(しやう)ぜす正直(しやうぢき)忠孝(ちうかう)の人物(じんぶつ)となるべきこと必定(ひつじやう)なれは有益(うえき)  広大(くはうだい)なるものなり 《題:広恵済急方(くはうけいさいきうはう)《割書:多紀藍渓先生著》全三冊》  此 書(しよ)は専(もつぱ)ら窮郷僻壌(かたいなか)或(あるひ)は旅中(たび)など医者(いしや)に乏(とも)しき所(ところ)にて急卒(にわか)の病(やまひ)  あるときは坐(いながら)にて斃(たを)るゝことを憂(うれ)へ作(つく)られし書(しよ)にて平仮名(ひらかな)にてこれを出し  一二 味(み)にて奇効(きこう)ある方(はう)をゑらひ尤(もつとも)手近(てぢか)なる草木虫魚(さうもくちうぎよ)の薬(くすり)を専(もつぱ)らとし  其(その)形状(かたち)を図(づ)し又(また)縊死(くびれし)溺死(おほれしする)等は其(その)手術(てだて)をゑがき又 灸点(きうてん)の方(はう)も委(くわし)く  其図(そのづ)を出(いだ)し大人(たいしん)小児(せうに)急(きふ)なる大病(たいひやう)は云(いふ)に及(およ)ばす諸(もろ〳〵)の毒(どく)にあてられ犬(いぬ)の咬(か)み  虫(むし)のさしたるなと或(あるひ)は火焼(やけど)などまでも如何やう俗人(たゞのひと)にても此 書(しよ)をみるときは  其 療治(れうぢ)かた一目(ひどめ)してしるべく誠(まこと)に医者(いしや)を待(また)ずして命(いのち)を救(すく)ひ苦(く)を免(まねか)るゝ事(こと)を  得(う)る也 故(かるかゆゑ)に人々(ひと〳〵)不時(ふじ)の用意(ようい)に一部(いちぶ)つゝ所持(しよぢ)せずんはあるべからさる書也 而(しかふ)して其方(そのはう)は勿(もち)  論(ろん)古今(ここん)の方書(はうしよ)より撰(ゑらひ)出して試験(しけん)の良法(りやうはふ)なれば医家(いか)といふ共 豈(あに)これを缺(かく)べけんや 【左丁】 【上段横書】 江戸書林 【下段】 通壱町目     須原屋茂兵衛 芝神明前     岡田屋嘉七 南伝馬町壱丁目  須原屋文助 馬喰町弐丁目   西村与八 浅草新寺町    和泉屋庄次郎 両国吉川町    山田佐助 市ヶ谷本村町   石井佐太郎 神田鍛冶町弐丁目 北島順四郎 麹町四丁目    角丸屋甚助 本石町十軒店   英大助 下谷御成道    同文蔵 同広徳寺前    同幸吉 【裏表紙】 【赤ラベル  18】